機動戦士ガンダムLEGEND   作:黒光りするGさん

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第28話 新たな道

 

「……ぐっ」

ジープの荷台でガルマは目を覚ました。痛む体を朝日が優しく照らしていた。

「ガルマ様! よかった! 本当によかった!」

「イセリナ?」

その横で喜びの声を上げたのは『イセリナ・エッシェンバッハ』。すでに避難したはずの彼女がいることに驚きもしたが、安堵したためかガルマの膝の上で泣き崩れたその姿を見て自らがまだ生きていることを実感した。

「おはようガルマ。予想よりもだいぶ早いお目覚めだったな」

こちらが起きたのに気付いて、周囲を警戒していたシャアがいった。

「シャア……そうか、またお前には借りを作ってしまったか。……あの空から来たのはどうなった?」

「機体に関しては再起不能にまで追い込んだが、パイロットの男には逃げられた。すまない」

その報告を聞き、ガルマは周囲を見渡した。散々たる光景が広がっている。先日のニューヤークと同等の被害ともいえる有様に、ガルマは頭を抱えた。

父上や姉上たちに申し訳ないというだけの話ではすまされない。これほどの戦力を投入して、この大失態。一体この先どうすればいいというのだろうか。

「ガルマ。彼女にはもう伝えたのだが、君に話がある」

「……私に?」

落胆するガルマにシャアはその仮面越しからでもわかる程の真剣な様子で問いかけた。

「ジオンを捨て、新しい別の道を歩んでほしい」

「な……にぃ!!」

友の口から出たその言葉に激昂し、痛みすら忘れてガルマはその場に立ち上がった。

「ふざけるなシャア! 私はザビ家の人間だ! そんなことが許されるとでも思っているのか!」

「許されるとは思っていない。だが、これはチャンスだ、ガルマ」

「貴様は……!」

目の前の友に対しさらに食って掛かろうとしたがガルマだったが、アランの乗る≪ゲイツ≫がビームサーベルを引き抜いたことでそれは遮られた。

振り下ろされたそれはつい先ほどまでガルマが乗っていた≪ゲルググ≫を切り裂いた。熱によって赤く染まる溶断面。その中にはコクピットも含まれている。

その光景を目の当たりにして唖然とするガルマの横で、シャアは静かに仮面を脱ぎ捨てて素顔を晒した。

「ガルマ・ザビはシアトルでの戦闘の末に戦死。遺体すら残らない壮絶な戦いだった。この惨状から見れば疑われることはない」

ゆっくり、はっきりとした声でシャアはガルマへとさらに近づいていく。

「君の友人として、そしてダイクンの遺児として、私からの一生の願いだ」

「ダイクンの……遺児だと?」

「ああ。私の本当の名は『キャスバル・レム・ダイクン』だ」

その口から語られた名を聞き、ガルマは理解した。自らが謀られていたということを。最も頼りになる友は自らを敵としていることを。

怒りを超え、ショックのあまり言葉を失ったガルマはその場でうなだれた。落胆するその様子にイセリナは寄り添うことでしか慰めることはできなかった。

消沈したガルマを見たシャアはこちらに背を向け、朝日を眺めながらいった。

「ガルマ、君は『ニュータイプ』なる存在を信じているか?」

「……それがどうしたいうんだ。今関係のあることなのか?」

あのジオン・ズム・ダイクンが提唱していた存在。お互いに判り合い、理解し合い、戦争や争いから解放される新しい人類の姿。だが、そんなものは架空のものであり、本当にそんな力をもった者が現れることはないと誰もが考えていた。

何に対してもまともに接したくないガルマだったが、そんな突拍子もない質問をしたシャアを睨み付けようと顔を上げた。

「……!?」

声が出なかった。いきなり≪ガンダム≫に似たMSがシャアの目の前に現れたからだ。状況を飲み込むことができず、ガルマとイセリナはその場に凍り付いてしまった。

「……予想よりも早かったな。まあ、仕方ない」

朝日が遮られたが、突如現れたMSが排出し続ける光り輝く粒子が周囲を照らしていた。その粒子からは何故だかよくわからないが、温かいものを感じていた。

呆然としている二人に振り向いたシャアはどこか寂しげな表情をしていた。

「お別れだガルマ。君が私の願いを聞き入れてくれるのなら、もう直接会うことはないだろう」

片膝を折ったMSのコクピットハッチが開き、搭乗用のワイヤーが下がってきた。それに躊躇うことなく摑まったシャアに、ガルマが問いかけた。

「キャスバル……いや、シャア。お前は一体どこに行くというんだ」

ワイヤーが上昇し始めた。離れていくその姿にガルマは名残惜しさを感じていた。つい先ほど自らを欺いていたと知ったが、今の自分がこうしてここに立つことができたのはシャアのおかげであり、1人では無理だったことを理解したからだった。

到達したコクピットハッチに足をかけ、シャアは決意に満ちた声で言った。

「世界を1つにしに行く。私にもう迷いはない」

その後、シャアを乗せたMSは静かに立ち上がり、周囲を見渡した。よく見れば、周りにいた≪ゲイツ≫のコクピットが全て開いており、もぬけの殻となっていた。

確認が完了したMSはその場に静かに浮かび上がった。ゆっくりと上昇していくと、近くにあった倒壊した建物と同じぐらいの高さのところできらめく粒子となって消えてしまった。

終わったのか? そう考えたガルマとイセリナの近くにいた≪ゲイツ≫を数発のビームが貫いた。間髪入れずにどこからともなく次々と撃ち込まれたビームはすべての≪ゲイツ≫を再起不能となるまで破壊した。

ようやく静けさを取り戻した街を、朝日が優しく照らす。

「ガルマ様……」

イセリナが心配そうな目でガルマをみつめる。様壊滅状態になったとはいえ、少し時間がたてば捜索隊がやってくるだろう。そうなれば、引き離されるのは容易に予想できる。

その静かな訴えに、一瞬ガルマは考え、決断した。

「共に行こうイセリナ」

「ガルマ様! ……よろしいのですか?」

「ああ。あのパーティで約束を交わしたからな。だがジオンを捨てたとなれば、ここから先の道は険しいものとなるだろう。それでも、私と一緒になってくれるか?」

「もちろんです。一生、お側を離れません」

「ありがとう。イセリナ」

喜びの涙を流しながらイセリナはガルマに抱き着いた。傷が痛むが、ガルマはそんなことが気にならないぐらいのこの上ない幸せを感じていた。

どんなにつらくとも乗り越えていける気がする。もう後には戻れないし、戻らない。ザビ家の末弟としてではなく、1人の男としてこれから生きていくのだ。

笑顔で泣き続けるイセリナの体温を感じつつ、ガルマは青空を見上げた。そして、消えた友に対して小さくつぶやいた。

「……すまない。それと……ありがとう」

 

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

「狭くてすまない、赤い彗星。私はカラジャと呼んでくれ」

「ああ。これから世話になるよ、カラジャ」

副座敷のコクピットの中で後ろの席にシャアは座っていた。量子化によってシアトルから離れ、展開されたゲートを通って暗唱宙域にて待機していた≪トレミー≫へと向かっている。

「そちらの要望通り、アランを含むパイロットは全員回収した。だが、それとは別に計画に問題があってな」

「問題?」

かねてから何度かシャアは情報をやり取りしており、その都度≪CB≫からとある計画について聞かされていた。

「ここにきて出し渋り始めたんだ。デカい商売になるとはいえ、あちらにとっても社運が左右される大一番だからな。事を確実に成せる程度の力をつけてから。と条件を付けてきたんだ」

「なるほど。商売で生き残るための勘は優れているようだ」

「そのようだ。まあ、こっちにとっては迷惑極まりないが」

そういってカラジャは苦笑いした。物事は自分が思うようには動いてはくれないのはわかってはいたが、ここまで修正が必要になってくると少し気が滅入ってしまう。

苦労を感じ取り、同情しつつもシャアは問いかけた。

「予定では3年で済ませるといっていたが、修正後はどうなる?」

「あいつらに満足言わせるまで拡張して、確実に安定化させるまでには9年はかかる。幸い、奴が動き出すのには間に合いそうだ。ギリギリだがな」

「9年か……」

ここからが正念場であり、長期戦になることは予想していたがこれほどの時間を有するとはシャアは予想していなかった。しかし、やると決めた以上後戻りはできない。

ふとシャアはその取引相手がいる座標の方向を見た。取引相手が所有している物に『前』では直接関わることはなかったが、それを間接的に知ることはできた。

連邦にとって自らの存在を脅かすほどの力を持った物。あれを開示すれば世界のバランスが大きく動く。

それを使う計画の中でもシャアはかなり重要な役割を担うことが決まっている。この提案を蹴ることもできたが、シャアは快諾した。ここにこうして自分がいることの意味を、今回の計画から感じ取ったからだった。

宇宙に広がる無数の星の海を眺めながら、シャアはコクピットの中で静かにつぶやいた。

「≪ラプラスの箱≫……か」


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