「ここは通行禁止だ!! 民間人は迂回しろ!!」
「他へ回れ!! 向こうへ行け!!」
《G-3》の搬送途中だったキャリアカーが脱線し、避難中だった民間人の行く手を塞いでいた。そんな中でも、なんとか《G-3》を《ホワイトベース》まで搬送するために作業員が奮闘していた。
輸送車両に脱線したキャリアカーを連結させたのはいいが、避難民が邪魔で動けない。
作業員が他をあたるように呼びかけるが、避難民は断固としてそこから動かない。ここの道を越えれば、シェルターはもう目の前だからだ。
まさかここが戦場になるなんて彼らは思いもしなかったことだろう。自分の身を守るために必死に行動するのも当たり前だ。
生きようと必死になる民間人。《G-3》の搬送を急ぐ作業員をリィナは《イナクト》のモニターでその光景を見ていた。
急がなくてはいけない。既に足止めとして向かった《フラッグ》の小隊は全滅してしまった。
レーダーで確認したところ、こちらに向かってくる《ザク》は三機。こちらは《イナクト》一機と装甲車両が五台。この戦力だと、おそらく追いつかれたら持ちこたえることはできないだろう。
もしかしたら自分はここで死ぬのかもしれない。そんな考えがリィナを恐怖させた。敵を討ちたいという思いよりも、『死』に対する恐怖がリィナの心を包み込もうとしたその時、回線越しに男性の声が響いた。
『聞こえるか~《イナクト》のパイロット』
「へ? あ、はい!!」
突然繋がった回線から聞こえた声に、リィナは慌てて応答した。
モニターに先ほどまではなかった装甲車がある。おそらく回線の主は装甲車のすぐ横に立っている男性士官だと直ぐに分かった。その男性士官は《G-3》を指差しながら言った。
『こんな状況じゃもう搬送するのは無理だ。港までは俺が操縦していく。お前はレーダーで《ザク》を警戒していてくれ』
「りょ、了解しました!」
その後直ぐに回線は切れ、男性士官は《G-3》の方へ走って行った。
コクピットハッチを開ける作業をする男性士官の直ぐ横では、大勢の避難民に作業員が指示を出している。
《ザク》が到達する前に避難民にはここから退去してもらわなければ。でなければ彼らは戦闘に巻き込まれてしまうかもしれない。リィナはモニター越しから避難民に向けて、早く逃げてと強く念じた。
するとその時、《G-3》に乗り込んだ男性士官からの回線が繋がった。
『起動完了! 起き上がるから気をつけろ!』
◆
「なんとか間に合ったか」
《G-3》を立ち上がらせ、アキラは安堵のため息をつく。モニターにはようやく作業員の指示に従って動き出した避難民の姿が映し出された。
このまま事がうまく進めばいいとアキラが考えた刹那、
『《ザク》三機、接近!』
回線の向こうから聞こえた叫び声に反応して、アキラはレーダーを見た。
近い。レーダーが反応している方向に機体を動かすと、既に目視ではっきり確認できるほどまでの距離に奴等は来ていた。
「来ちまったか!」
そうハヤトが言った直後、こちらに向かって来た《ザク》の狙撃で近くに停車していた装甲車両が一台やられ、爆散する。他の装甲車両と《イナクト》は直ぐに応戦を始めるが、三機の《ザク》の攻撃で装甲車両が瞬く間にやられていった。
《G-3》が所持している武器は、頭部に搭載されているバルカン砲とバックパックのビームサーベル。
背後には避難中の民間人もいる。被害を最小限に抑えるためにも、ここはビームサーベルでコクピットをやるしかない。
ここが踏ん張りどころ。突如としてやってきた本番に震える心を必死に抑え込みながら、アキラは声を張り上げた。
「援護を頼むぞ《イナクト》!」
『了解!」
三機の《ザク》に向かってアキラの《G-3》は走り出した。
こちらが動くと同時に、先頭にいた一機がマシンガンで応戦してきた。だが、《G-3》はそれを物ともせずに直進していく。《G-3》の装甲は直撃した弾丸を物ともせず弾き返し、それに驚いた先頭の《ザク》は一歩後ろへ引き差がった。
そして、ビームサーベルを引き抜いた《G-3》はさらに《ザク》へと接近する。
「――うまくいってくれ!!」
そして、《G-3》のビームサーベルが《ザク》のコクピット部分を貫いた。
まずは一機。実験や訓練ではなく、初めての実戦だったがうまく下腹部の反応炉を傷つけずにやれた。一瞬の間ではあるが、アキラはほっと胸をなでおろす。
その矢先、もう一機の《ザク》がヒートホークを横から振り下ろそうとしていた。
この距離では回避は間に合わない。とアキラが思った次の瞬間、《イナクト》が《ザク》の横腹に激しい蹴りを叩き込んだ。
《ザク》がよろけているところに、《イナクト》はリニアライフルで追撃をかけ、頭部のメインカメラを破壊する。アキラはその隙を見逃さず、《ザク》に接近していった。
再び《ザク》がヒートホークを振り下ろすよりも早く《G-3》は《ザク》のコクピットを貫く。パイロットを失った《ザク》は、ビームサーベルの発振を止めて後退した《G-3》の目の前で地面に崩れ落ちた。
残っている《ザク》は後一機。その一機の方へと機体を向けようとしたその時、
『きゃあ!?』
回線から聞こえた《イナクト》のパイロットの悲鳴が聞こえてきた。
アキラが呼びかけようとしたが、それは背後からの衝撃に阻まれてしまう。
「な、何だ!?」
レーダーを確認しようとしたが、それよりも早く《G-3》の目の前に攻撃を仕掛けてきた存在が現れた。
「《イナクト》!?」
それは、先ほどまで実験場のところでアムロが乗る《ガンダム》と交戦していた青い《イナクト》だった。
◆
「こっちもひでぇなぁ。って、おぉっと」
《G-3》が振り下ろしてきたビームサーベルを避け、青い《イナクト》は《G-3》の胸部に強烈な蹴りをいれた。その衝撃に耐えられず、《G-3》は勢いよく倒れる。その隙を見逃さず、《ザク》との回線を繋いだ。
「聞こえてるかい? そこの《ザク》のパイロットさん」
『お前はもしや傭兵の……?』
「ああ。サーシェスって呼んでくれや」
その回線の最中、《G-3》が起き上がろうとしたが、再び蹴りを入れて地面へ叩きつける。機体の性能はいいが、中に乗ってる奴そうでもない。とサーシェスは心の中で呟いた。
「んじゃ、さっさと撤退しますか」
現状ではこのMSを破壊することは不可能。パイロットはそうでもないがこの《ガンダム》とかいうMSの性能は予想以上。こっちも実験場で油断した部下二人がやられた。撤退するのが妥当だろう。これ以上損害が出れば、これからの商売に支障が出始める。
そう考えてサーシェスは《ザク》のパイロットに進言したのだが、簡単には聞き入れてはくれなかった。
『撤退だと!?』
「ああ」
『それは少佐からの指令か!?』
「いいや、俺が決めたんだが」
回線の向こうから聞こえてくる声はサーシェスが苦手な熱血漢タイプの声だった。
恐らくまだ自分は戦えるとか言い出すのだろう。だが、それは無理な話だ。
「少佐だかなんだかそんなのは関係ねぇよ。まだお前も死にたくねぇだろ?」
『私に生き恥を晒せというのか!』
「こっちも実験場で二機やられちまったんだが」
『ぬぅ……』
「分かったんならとっとと撤退だ。俺が援護するからよ」
『仕方がない……!』
やっと理解してくれたパイロットは侵入してきた旧実験場に向けて《ザク》を移動させ始めた。
ジオンにはああいう奴が多い。愛国者といった感じの人間。ただ戦うことに興味があるサーシェスにとって、彼らのような存在は考えられなかった。
戦うことほどシンプルで楽しいことは他には無い。傭兵であるサーシェスは戦えるなら連邦側でもジオン側でも特に関係はない。今回はジオンに雇われたからやっただけ。ただそれだけなのである。
サーシェスは起き上がった《G-3》に回線を繋ぎ、コクピット内部の様子も見えるようにした。
『お前は……!』
「よぉアキラ大尉。元気にしてたかい?」
《G-3》には予想通り、先ほど殺し損ねたアキラ・ユウが乗っていた。
こちらを見て動揺している表情を目にして、サーシェスは楽し気に口元を歪める。再び相対した脅威に対し、アキラは問いかけた。
『お前は……、ジオンなのか?』
「いいやぁ。俺はただ雇われただけの傭兵だ」
『傭兵か……っ!』
アキラがそう呟いた瞬間、立ち上がった《G-3》は素早い突きを繰り出した。
サーシェスはそれを避けたが、《G-3》がもう一つのビームサーベルを引き抜き、切りかかる。サーシェスが巧みな操縦で操る青い《イナクト》はそれすらも上空へ飛んで回避し、《G-3》の背後に回りこんでバックパックに蹴りを叩き込むのだった。
『くそっ……!』
一瞬揺らいだ《G-3》だが、なんとか踏ん張って倒れることは防ぐ。向かってくる勢いの良さからから、先ほど実験場で戦っていた《ガンダム》よりも楽しめそうだと心躍らせるサーシェスであったが、残念なことに残された時間はわずかしかない。昂る闘争心を落ち着かせ、サーシェスはこちらに振り向いた《G-3》の頭部に向かってリニアライフルで攻撃し、メインカメラを破壊した。
『な……!』
「んじゃ、また会おうぜ大尉殿。今度は敵か味方か分からねぇけどな!」
そう言って回線を切るり、メインカメラからサブカメラへと切り替わる瞬間を狙って再び後ろに素早く回りこみ、バックパックに蹴りつけた《イナクト》はバーニアを全開にして旧実験場へと向かっていった。
《イナクト》は装甲は薄いが、最大の売りは機動性にある。保険としてバックパックにそれなりの負荷をかけておいた。いくら新型の《G-3》といえど追いつくことはできないだろう。
どんどん距離を離していくが、背後から《G-3》が頭部に搭載されているバルカン砲で追撃をかけてくる。
バルカン砲ならばこの距離と速度を保てば直撃することはない。サーシェスは追撃を無視して旧実験場へ向かった。
やがて追撃も止み、旧実験場に近づいてきたところで興奮冷めやらぬ小さな笑いを漏らしながらサーシェスはコクピットの中で小さく呟いた。
「いいねぇ、連邦も頑張ってらぁ。楽しくなってきそうだぜ」