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「着いた……。だいぶ長く感じたな」
アキラは脱線現場から中破した《イナクト》の補助をしながら港に到着した。《G-3》もバックパックをやられ、ブーストを利用した動きをすることができない散々な状態だった。
青い《イナクト》と《ザク》は撤退したが、その後の現場は惨憺たる有様だった。装甲車両は全滅。作業員、避難していた人々にも多くの死傷者が出た。
避難民はシェルター。残る作業員は港へと向かい始め、アキラは中破して動けない《イナクト》を補助してここまでやってきた。
港に押し寄せていた避難民の姿は無く、こちらの到着を待っていた兵士が脱線現場から来た者達を誘導している。その誘導に従い、《ホワイトベース》へと乗り込んでいく中に、アキラを脱線現場まで送ってくれたハリー・レントンの姿はなかった。
恐らく全滅した装甲車両の中に彼もいたのだろう。もう見ることはできない少し前の意気揚々とした彼の顔が頭の中に浮かぶ。悔しさを噛み締めながらも、アキラは《ホワイトベース》の格納庫へと《G-3》を進めた。
やがて格納庫に到着してハンガーに《イナクト》、《G-3》を固定した後、慌しく人が動き続けている格納庫に降りたアキラは、作業員や整備員が少ないことに気がついた。
「おう! 無事だったかアキラ!」
「『アストナージ』さん!」
アキラに《Gシリーズ》第1整備班の班長の『アストナージ・メドッソ』が声をかけてきた。
既にアストナージの作業服はオイル等に塗れて黒く汚れている。その作業服が現場の忙しさをよく表していた。
「《イナクト》は右脚の損傷が酷いな。予備を取り付け、その他の修復に最低でも2時間は掛かるか。《G-3》も背中に集中的にやられたようだな。相当な腕を持つ奴がいたのか?」
「ああ。実験場でアムロの《ガンダム》とやり合ってた奴だ」
「あいつか。まさか《赤い彗星》と《青い巨星》が同時に来たのか?」
「いや、奴は《青い巨星》じゃない。というかお前今なんていった!?」
聞きなれたジオンのエースパイロットの異名を聞いて、若干アキラは声を裏返りながら聞き返してしまった。
《青い巨星》、『ランバ・ラル』も十分に驚異的な存在だが、それよりも後者の異名にアキラは驚いていた。
この戦争の初期に両軍の宇宙艦隊がぶつかり合った《ルウム戦役》において多大な戦果を挙げ、その機体のカラーリング、通常の《ザク》より3倍は速く見えたことから、《赤い彗星》の異名を持つパイロット。『シャア・アズナブル』。
恐らく現在のMSパイロットの中では操縦技術はトップクラスだろう。優秀だとは考えていたが、今回の侵攻の指揮も彼が取っているのだろうか。
目を丸くしているアキラにアストナージは続けた。
「襲われた第3格納庫から撤退してきた奴等が騒いでたから、監視カメラを確認したら奴の《ザク》が映っていた。間違いない」
「第3……《プロトタイプ》はどうなった!?」
その問い掛けにアストナージは残念そうに首を横に振った。想定してはいたが、追撃は間に合わない。アキラは唇を噛み締めた。
落ち込んだ表情を見せるアキラのアストナージは肩を叩いて言った。
「残念な気持ちは分かる。だが、今はやれることを全力でやるしかない。いけるか、アキラ?」
「……ああ。分かってる」
過ぎたことを悔やむのはいつだって出来る。だが、それでは先に進むことは出来ない。親父のためにも、失った《弟》と《母》、《家族》のためにも「今」を全力で生き、先に進んでいかなければならない。
揺らぎそうになる決意を固めなおし、アキラはアストナージに大まかな現状を教えてもらった。
第3格納庫から《プロトタイプ》とその武装が強奪され、既にそれを強奪した3機はコロニー外部へと脱出。コロニー内部に侵入してきた《ザク》、《イナクト》も全て撤退した。
実験場にて交戦していた《ガンダム》は奇跡的にほぼ無傷で港に到着。ハンガーにて待機している。迎撃に出た《フラッグ》は全て撃墜されてしまった。
現在《ホワイトベース》には、《ガンダム》、《G-3》、中破した《イナクト》と既に搬送済みだった《ガンキャノン》と《ガンタンク》が一機ずつ。計5機のMSが搭載されている。その他は全て破壊、強奪されてしまった。
コロニー外部には《グワジン》が陣取っており、断続的に港への攻撃が行われており、その迎撃にかなりの人員が割かれ、負傷者、死傷者がかなりの数でているという。《ホワイトベース》のパオロ艦長も迎撃に参加し、負傷したものの艦橋に残り、指揮を執っていようだった。
多くの避難民を収容したことも重なり、艦内はかなり混乱しているようだった。本部であるジャブローとの回線が繋がらないのも1つの原因となっているようだ。ミノフスキー粒子が散布されたと思われるが、港を出なければ濃度の確認は難しいとのことだった。
既に大半の収容が完了したとのことで、そろそろ攻勢に移るのが予想されており、格納庫内は少ない人員を総動員してそれに備えている。
現在動けるのは《ガンダム》、《ガンキャノン》、《ガンタンク》だが、《ガンダム》以外はパイロットが死亡してしまったため、戦闘になればアムロに頼るしかない。
バックパックの換装を行えば《G-3》も動くことは出来るのだが、少々時間が掛かる。そう考えていたその時、
『総員、戦闘配備!』
メイリンの声が艦内放送から響き渡った。
◆
「冗談ではない!」
射程外からのビームの狙撃をぎりぎりでかわしながらシャアは言った。
コロニー外部に脱出できたのはいいものの、突如正体不明の敵からの攻撃を受けていた。既にスレンダー、アッシュ、カクリコンが墜とされ、現在《グワジン》に向けてジェリド、ガトー、『ブラッドファング』の傭兵と共に全速力で撤退している。
『糞! 糞が!』
相棒であるカクリコンを失い、激怒しながらもただ撤退し続けるしかないジェリドの悔しそうな声が回線越しから聞こえてくる。
我を忘れて正体不明機をジェリドが追うことがなかったのは、ガトーが止めたからだ。
『ジェリド! 回避に専念しろ!』
『分かってる!』
撤退しつつガトーは何度もジェリドに呼びかけている。それに対する返答からは自らの不甲斐なさと理不尽に過ぎる現状への苛立ちがにじみ出ていた。
『畜生が……!』
先頭を行く傭兵の乗る青い《イナクト》が回避をしながら小さくつぶやいたのが聞こえた。
攻撃が始まり、一番最初に撃墜されたのは傭兵の輸送艦にカモフラージュした母艦だった。母艦を失ったことにより、傭兵は《グワジン》への一時的退避を余儀なくされてたのである。
これほどの長距離射撃は戦艦クラスの主砲でなければ届かないのが現状だが、レーダーで確認してもそれほど大きな機影を確認することはできない。
ミノフスキー粒子を散布しているのか、レーダーには反応が消えたり現れたりを繰り返している。だが、「何か」がいるのは確かだ。
正体不明機が連邦のMSなのであれば、驚異的存在に違いはない。撤退中にスレンダー、アッシュが撃墜され、強奪した《プロトタイプ》の本体は爆散。残っているのはシャアが持ち出したビームライフルだけ。これだけでも持ち帰らなければ、示しがつかない。止まない狙撃をかわしつつ、シャアは舌打ちをした。
『少佐! 援護します! 今のうちに着艦を急いでください!』
「助かる! 皆聞こえたな!」
ドレンからの回線が繋がり、それにシャアは答えた。
《グワジン》まであと少し。その時、
『!?』
『うおぉぉ!?』
ジェリドとガトーがほぼ同時に被弾した。ジェリドは右脚に、ガトーは左脚。二人は驚きつつも直ぐに被弾した脚部を切り離し、機体が誘爆するのを防いだ。
多少バランスが崩れたものの、体勢を立て直して《グワジン》へと急ぐ。しかし、それを近くで見たシャアは違和感を感じた。確かに私達は回避を行っているが、相手は「わざと」狙撃を外しているような気がしたからだ。
彼らが相当な腕を持っているならば、私達を撃墜するのに苦労することは無いはず。ピンポイントで脚部を狙うことも出来ない。
《プロトタイプ》を奪取を防ぐのが目標ならば、ビームライフルを持っている私も撃墜するはず。それを彼らはしない。何故。だが、今考えている余裕は無い。シャアは撃墜する意思がない姿見えぬ存在の意向に甘える以外、道は残されていなかった。
《グワジン》の主砲が正体不明機がいると推測される位置へと放たれ、その援護射撃の中、シャア達は帰投した。
◆
「よっし。任務完了」
《ケルディム》のライフル型コントローラーをコクピット上部に戻してニールは言った。
久しぶりの介入。かなり長いブランクがあったが、まだ腕は鈍っていないようだ。ジオンの《グワジン》の射程外へと退避して、ニールは安堵のため息をついた。
「ニンムカンリョウ! ニンムカンリョウ!」
「おう。お疲れ、相棒」
ニールが狙撃に専念している間、操縦はハロに任せていた。頼れる相棒の変わらぬ名アシストは見事といえるものだった。
一仕事を終えて《トレミー》からの指示を待っていると、《デュナメス》に搭乗しているライルから回線が繋がった。
『よう兄さん。久しぶりの実戦はどうだった?』
「大丈夫そうだ。だが、俺はやっぱり《デュナメス》の方がいいかな」
『お? そりゃまたどうして?』
兄の言葉に疑問を持ったライルが回線越しで首をかしげる。
「んー、性能は間違いなく良いけど乗り心地がなぁ」
「ノリゴゴチ! タイセツ! タイセツ!」
ハロがニールの言ったことを反復し、それを聞いたライルは笑った。
『なるほど。それはかなり大切だな。今度は俺がそっちに乗るよ』
「ああ。よろしく頼む」
今回の介入直前にお互い乗る機体を交換してみようと持ちかけてきたのはライルだった。同タイプの機体なので任務に支障がでるとは判断されず、そのまま出撃した。たしかに性能は良い。だが、やはり《デュナメス》の方が乗り心地がいい。
ふと、ニールは思い出した。あの男。「サーシェス」との戦ったことを。
既に復讐はライルが果たしてくれた。違うとはいえ、あの男を再び見て、殺意が沸かなかったといえばそれは嘘になる。
あの時に狙撃で奴を殺すことは出来た。だが、今あいつを殺すことはできない。それが《ヴェーダ》と《カラジャ》の判断だ。奴の存在は《発展》を加速させる大事な存在の1つだそうだ。
気づけば無意識に拳を強く握り締めていた。押し殺さなければならない。この感情を。そう考えていた時、《トレミー》との回線が繋がった。
『《デュナメス》、《ケルディム》帰投してください。座標を送ります』
その回線のモニターに映ったのはフェルトだった。続いて、回収座標が送られてくる。
『了解。《デュナメス》、帰還するぜぇ』
指定された座標へとライルは移動を始め、回線が途切れた。
これで回線が繋がっているのはニールとフェルトだけだ。あいつ、気を使ったのだろう。
それに気づいたのか、フェルトの後ろの席に座っていたミレイナが興味津々に目を輝かせながらこちらを覗き込んでいる。フェルトはどうやらそれに気づいていないようだ。こちらの返答を待っているのだろう。
「《ケルディム》、帰還する。……お迎え頼むぜ、フェルト」
『……はい!』
ニールの返答に、回線越しのフェルトは嬉しそうに頷いた。その直後、
『いいですぅ! これは! これは! 良い感じですぅ!』
二人のやり取りを見て我慢できなくなったのかミレイナが後ろで黄色い声を上げた。それに気づいてフェルトは顔を真っ赤にしながら回線を切った。だが、焦っていたのか完全に切れず、音声だけが聞こえてきた。
『ミレイナ! こ、これはただ返答を待ってただけで』
『お迎え頼むぜ。フェルト』
『……!!』
『いいですぅ! 恋の香りがしますぅ!』
その後も回線の向こうで騒いでいる2人の声が延々と聞こえてきた。終わりそうにないので、こちらから回線を切ろうとした時、
『大丈夫ですよ。私が切っておきます』
「あれ? 何でお前がそこに?」
フェルトでもなければミレイナでもない女性の声。だが、ニールは直ぐに分かった。
『ちょっと用があって艦橋に。直ぐに格納庫に行きますよ』
「おう。弟が先に着くと思う。お迎え頼むぜ『アニュー』」
『はい。ではこれにて』
そう言って回線は切られ、コクピット内には《ケルディム》の駆動音が聞こえるだけになった。
今はまだ余裕はある。これからが大切であり、慎重に行動していかなくてはならない。前途多難なこれからへ覚悟を新たにしたニールは、ゆっくりと指定座標へと向かうのだった。