( ^ω^ )デュエルリンクスやってて思いついた一発ネタや。
( ^ω^ )どやお前らッ、お前らはこういうのは嫌いか?
( ^ω^ )こういうの好きちゃうかッ? これ――ッ、これアカンか!?
なんつってね。
注意としては――
・遊戯王原作ですが、カードゲームはしていません。
・カードキャラクター(モンスター)との恋愛描写があります
・オリジナル要素が強いです
これらの要素が苦手な方はバックしてください。
あと一応ほんの少しですが、他のアニメ作品の設定を出しているので、クロスオーバータグをつけてます。
本編にはほとんど関係ないので、気にしないでください。
結構設定は盛ってますが短編です。前後編の二話で終わります。
かつて、デュエルモンスターズと言うカードゲームが一時代を築いた事がある。
ルールは絵柄に書かれたモンスターで戦い、相手のライフポイントをゼロにすると言うものだ。
それまでカードと言えばウノかトランプくらいしか知らなかった子供達は一瞬で心を掴まれてしまった。
少ないお小遣いでパックを買ったり、交換したり、対戦したりと言うのは珍しい話じゃなかった。
人気はどんどん加速していき、漫画化や、アニメ化、様々な効果をもったモンスターの登場。
融合や儀式だけではなくシンクロやエクシーズの登場と、10年経った今でも熱は冷める様子をみせない。
とは言え――、いろいろな意見もある。
たとえばモンスターによって性能が違いすぎる事のクレーム。
要するにお金を出して買わなければならないので、欲しいものが出るまで買い続けなければならないのだ。
さらに希少性へのクレーム。レアカードにも種類があり、ウルトラシークレットなんてものは滅多にお目に掛かれない。
このように何はともあれ、お金がいるのだ。
ネットやリアルでもよく聞く意見だ。
子供達をメインターゲットにしていると言うのに、ネットじゃパックが入っている箱を丸ごと買う行為(大人買い)が勧められる始末だ。
「箱買いするヤツ等は全員クズだ。金があればなんでもいいと思ってやがる。デュエルモンスターズってのはそう言うゲームじゃねぇんだよ。もっと夢とロマンに溢れた魂のゲームなんだよ。なんだよ箱買いってマジでくだらねぇ。俺絶対そんな汚い大人にはならないからな。お前もな。約束な」
友人は怒っていた。
後日、宝くじが五万円分当たったらしく、彼はそのお金で店のカードを全部買っていた。
そういうものである。
とにかく、貧乏な子供は強いデッキを作れないと言う文句は多かった。
そうなってくると友達のカードを盗んだりと言う話も出てくる。
ましてや可愛い女性をモンスターにしているという性差別の話しだったり、宗教間の話しだったり、複雑な問題も多かった。
そしてついに環境保護団体が、資源の無駄だと言うクレームをぶつけてきたのだ。
おまかに言えば、いずれ捨てる玩具なのだから大切な資源を無駄にしてると内容である。。
丁度世間が環境保護に力を入れている時期だと言うこともあってか。
兼ねてよりのクレームも考え、デュエルモンスターズを製造しているゲーム会社、『オリジンダイス』はカード商法の中止を発表した。
こうしてカードゲーム、デュエルモンスターズは終了したが、その継続を望む声は当然多かった。
だからこそオリジンダイスは、コンセプトをそのままにバーチャル世界でのプレイを可能にしたのだ。
それが、デュエルワールドオンライン。通称『DWO』である。
同じ時期に機動戦士ガンダムの玩具である、ガンプラ(プラモデル)をオンライン上で動かして戦う『ガンプラバトル・ネクサスオンライン(GBN)』が発表されたが、そちらと同じく仮想世界で自由にデュエルやカードの世界観を体感できる技術に皆は感動し、多くのユーザーが登録を行った。
「………!」
たった今、ライフポイントをゼロにされた少年、
少し離れたところでは屈強なマッチョマンがホーリーシットでオーマイガーである。
要は、凄く喜んでいるのだ。仮想世界とは言え現実にいる状態と感覚は変わりない。
もちろん痛みなどは無いが、デュエルをする時は目の前に相手がいる状態である。
アバターはいろいろ種類があるが、相手によっては怖いと感じるものも多く。
気が弱くてシャイな翔榛はどうしても怯んでしまうのだ。
中には漫画さながらに煽ってくる者も少なくは無いし。
「あ、ありがとうございました」
「ありがとう。キミもなかなか強かったよ」
握手を交わす翔榛たち。
相手のプレイヤーは、ユーザー情報から海外在住である事が分かる。
DWOでは翻訳機能が発達しているため、リアルタイムで相手の言葉が性格に設定された言語に変わるのだ。
「ハァ」
「なんだよ、また負けたのか」
休憩所で翔榛は大きくうな垂れた。それを呆れた目で、
「フリーマッチなんだから良いじゃねぇか。オレなんざランクマで三連敗よ。次負けそうになったら絶対切断するわ」
「ダメでしょ。ペナルティつくよ」
「いや、それは分かってるけど、もう嫌なんだよバトルフェーダーと平和の使者は。なあ、信じられるか? 今の時代で終焉のカウントダウンだぞ。カウントダウンって! 二世代前だろもはや。化石みたいなデッキ使いやがって。かぁー、嫌だね時代に取り残された懐古ってのは」
新渡戸はしきりにブツブツ文句を言っていた。
DWOには二種類の戦闘スタイルがある。頂点をかけて戦うランクマッチと、負けても何もペナルティが無いフリーマッチだ。
翔榛は一度もランクマッチに参加した事がないし、参加しようとも思わなかった。
とは言え新渡戸はそれが不満なのか、しきりに誘ってくるのだが……。
「お前も来いよ翔榛。フリーマッチなんてルールまともに分かってねぇヤツばっかだろ。禁止だらけにカステラの箱立てたみたいな分厚さのデッキ枚数。もっと本当のデュエルモンスターズを体感しようぜ? なあ」
「ぼ、ボクはいいよ。このままで。ははは」
「だいたいお前はログイン時間も短いんだよ。別にデュエルしなくなっていろんな町巡ったり、スポット巡ったり、歩くだけでも楽しいぜ。お前アレ乗ったか? ファンドラだっけ? あの船、あれはいいぞ。マジで気持ちいい」
「うん、それは分かってるんだけど……」
「もっとDWOを感じようぜ。信じられるか? アニメで見てたみたいなデュエルができるんだ。最高じゃねぇか」
「………」
「おまけにモンスターを立体で観察できるんだぞ。オレ達が昔、抜きに抜きまくった水の踊り子さんやブラックマジシャンガールを舐め回すように見られるなんて思い出しただけでも課金したいわ。いや課金させて欲しい。感謝の上納金だな」
「な、なんだよ! ボクはそんな事してないよ!」
「はい出た。なんかデュエルモンスターズやってる人ってそういう嘘つくよな。お世話になった事の無いヤツなんて――、ははあ分かった。やっぱりお前は通だな。ディアンケトで抜い――」
切った。ログオフ。さようなら。
翔榛は自室のDWOにダイブするためのヘッドギアを外すと、乱暴にベッドの上へ放り投げた。
新渡戸のいけないクセだ、すぐに頭の悪い会話を始める。
すると携帯がブルブル震えた。メッセージだ。
『なあ悪かったって。他人を性癖を茶化すのは良くないな。いいじゃないかディアンケトでも。オフショルダーってのは凄くセクシーだ。世の中にはいろんなヤツがいる、お前だって胸を張ってディアンケトで抜いたっていいんだ。お前、知ってるか? 隣のクラスに坂崎っているよな。この前DWOでちょっと話したんだけど、あいつカバトークンで抜いた事あるらしいぞ』
「どう言うフォローだよ!」
翔榛は携帯を投げて横になった。
気分が悪い、いろんな意味で。心がザワザワする。
こう言うのは嫌いだ。せっかくの休日なんだから嫌な思いはしたくない。
「……ッ、ん!」
……どうやら眠っていたようだ。
体を起こすと、時計は15時丁度である。
しかし気のせいだろうか? なんだか衝撃のようなものを感じた気がする。
テレビをつけてみるが、地震が起きたと言うニュースはない。勘違いだったのだろうか? 首をかしげていると、携帯が震えた。
「もしもし、どうしたの電話なんて」
『おいちょッ、翔榛! お前今ッ、DWOにログインできるか?』
「ん? 何かあるの?」
『いや、何か入れなくなったんだよ。サーバーがおかしくなったのかと思ったんだけど、公式サイトが消えてるんだよな』
「えぇ!?」
すると、窓の外からやけに煩い怒鳴り声が聞こえた。
思わず肩が震える。直後、爆発音。
「!?」
『おいどうした? 何か音しなかったか?』
「ごめんッ、ちょっと切るね!」
なんなんだろうか? 翔榛は窓から顔を出し、辺りを見回す。
するとすぐ傍の道路から煙が上がっているのが見えた。一台の車が炎上しているのだ。
「………」
思わず目を擦りたくなる。まだ夢の中にいるのだと思った。
煙が上がる車はもちろん炎上している。すぐ傍にはロケットランチャーを背負ったクモが見えた。
「!?!??!」
翔榛は顔を引っ込めて頭を抑える。
頭がおかしくなった。本気でそう思った。
きっとDWOをプレイするために頭につけるヘッドギアが原因だと思う。なぜならば先程チラりと見えたクモには見覚えがあった。
翔榛はもう一度窓の外から顔を出した。するとまだクモはいた。
なんだったらクモの他にもう一体、化け物がいた。
大きな機械だ。翔榛は、それにも見覚えがあった。
まずクモの方は、『TM-1ランチャースパイダー』。そして機械の方は『振り子刃の拷問機械』。
どちらもデュエルモンスターズに出てくるモンスターである。
「そんな――、バカな」
意味が分からない。笑えるくらい理解できない。
ヘッドギアが故障して良からぬ影響が出たのだと思う。だとしたらとんでもない事だ。
待てよ? さては、だから公式サイトが消えたのか?
そんな事を考えていると、また大きな声が聞こえた。
それが怒鳴り声ではなく、悲鳴だと言うことに気づく。
翔榛が窓から身を乗り出すと、振り子刃が一人の男性を掴んでいるのが見えた。
きっと炎上した車に乗っていた人なのだろう。しかし、まさか――
「や、やめてッッ!!」
思わず、叫んだ。
が、しかし、遅かった。振り子刃はその身についている大きな刃を振るったのだ。
「―――」
男性の体が縦に真っ二つになる。臓器も骨も綺麗に両断された。
翔榛は言葉を失う。一方でまた悲鳴が聞こえた。車から少し離れたところでは女の子を抱いている女性が見えた。
おそらくは男性の妻ではないだろうか。そしてその悲痛な叫びと表情が、翔榛にこれが現実だと言うことを教えてくれる。
『○○○』
ランチャースパイダーはよく分からない鳴き声のようなものをあげた。
そしてへたり込む親子に向かって背負っているミサイルポッドを向ける。
「嘘だろ……ッ!」
真っ二つになった男性の死体が何故か粒子になって消えていく。
いや、いやッ、そんな事はどうでもいい。問題はあの親子が今、狙われていると言うことだ。
「たッ、たたたすけないと!!」
震える足を殴りつけ、翔榛は部屋を飛び出した。
階段を転げ落ち、けれども靴はしっかりと履く。
外に出るとランチャースパイダーが丁度ミサイルを発射しているところだった。
「間に合わない――ッッ!!」
手を伸ばす。まるで、求めるように。
すると爆発が起こった。もうダメだ、あれじゃあ親子は助からない。
一瞬そう思ったが、不思議なことが起こる。虹色の光が親子を包み込み、爆発を遮断したのだ。
「!」
見えた。親子の前に一人の女の子が立っていた。
赤い帽子を被った、淡いオレンジ色の髪の女の子だった。
翔榛にはその女の子にも覚えがあった。ドリアードと言うモンスターだ。
イラストと違って何故かずっと目を閉じているが、ちゃんと周りは確認できているらしい。
「やめてくださいッ!」
ドリアードは叫んだ。しかしランチャースパイダーはむしろミサイルを連射していく。
爆発がシールドを揺らし、ドリアードは苦悶の表情を浮かべる。
なぜモンスターがここにいるのか。なぜドリアードが親子を守っているのか。
そんな事はもうどうでも良かった。翔榛は青ざめながらも、足を前に進めたのだ。
「やめろォオ!!」
上ずった間抜けな声だったが、二体の機械はちゃんと反応してくれた。
爆撃が止み、翔榛は煙の中を突っ切った。気づけばドリアードの前に立っている。
「え? あ、貴方は……!」
「い、いいから! ボクは良いですから! その人たちを連れて逃げてください!!」
噛まずに言うのが精一杯だった。
とは言えちゃんと伝わったようだ。ドリアードは首を横に振る。
「できません! 貴方は人間でしょう!?」
「そ、そうですけど! 時間稼ぎにはなるかも!」
「死んでしまいますよ!!」
その時、ランチャースパイダーがまたミサイルを発射してきた。
ドリアードは翔榛の前に出ると両手を前にかざす。すると光が巻き起こり、円形のシールドになって爆撃を防いでくれた。
後ろにいる親子は恐怖と衝撃で気絶してしまったようだ。
いくら翔榛が男だとは言え、成人女性と小学生くらいの女の子を抱えて逃げることは難しい。
ましてや筋力に自信は無かった。ミサイルから逃げつつ、振り子刃から逃げるなんてのは無理な話だ。
「あなたはモンスターでしょう! ボクより力があるんじゃないですか!」
これは良くない状況である。
このままだと何もできずに足を引っ張りにきただけと言う可能性がある。
それはいけない。よろしくない。だから何かしないといけないのだ。
いや、それは言い訳か。靴を履いた時、僅かな時間で覚悟は決まった筈だ。
翔榛はずっとこの時を待っていた。そうだ、これは悪くないシチュエーションじゃないのか?。
「死にたいと――、思ってました!」
「!?」
「デュエルモンスターズで死ねたなら、それはボクにとって――ッッ」
首を振る。
言えなかったが、ウソではない。
「死ねば、変われる気がするんです!!」
「何を? 死んだら終わりですよ!」
「でもボクは――、それでも……ッ!」
翔榛は縋るようにドリアードの肩を掴んだ。
「ボクはそれでも、変わりたい!!」
「………」
「だから逃げてください! 後ろの人たちを助けてあげてください!!」
そろそろシールドも限界のようだ。
亀裂が見える。誰もが分かっていた。
だからランチャースパイダーは連射を続けるし、ドリアードは表情を歪める。
「――か?」
「え?」
「デュエルモンスターズをやった事はありますかと聞きました!!」
「えッ! あッ、はい!」
「ではDWOは! すぐに答えて!!」
「ありましゅ!」
「結構ですッ! では手を出してください!」
「て、手ですか?」
「早くお願いしますッッ!!」
「あッ、はい! すいません!」
女性に怒鳴られるのは心に来る。思わず謝罪して、両手を前に出す。
するとドリアードは懐から何か、金色の欠片を取り出した。
発光するそれを、翔榛の掌に押し付ける。
「私は、貴方を信じます!」
「え、えぇ!?」
シールドのは限界だった。亀裂が広がる。もう砕ける。
一方で欠片のようなものが翔榛の掌に沈んでいくような感覚があった。異物が体に入っていく感覚が気持ちが悪い。
「!?」
とは言え一瞬だった。翔榛の左腕に
いや、これにも見覚えがあった。何から何まで同じだった。
「叫んで!」
「!」
言葉を指定される。
もうどうにでもなってくれ、翔榛は言われたとおり、力強く叫ぶ。
「ドローッッ!!」
光が巻き起こった。
「………」
虹色の破片が舞い落ちている。綺麗だ。思わず手に取ってしまう。
そこで気づいた。手が、黒い。
いやこれは違う。黒いというか、覆われている。
翔榛は思わず自分の顔を触った。硬かった。
「え? えぇ?」
体を確認する。それは人間ではなかった。
「えええええええええええええ!?」
鉄に覆われた騎士だ。ギア・フリード。これも知っている。
しかし気になるのは、現在、ドリアードに抱えられて気絶している翔榛がいると言うことだ。
つまり今、
「じゃあボクは誰!?」
「まさか……、もうデュエルリンクスを!?」
「な、なんですかソレ!」
「あ! 前ッ! 前を見てください!」
前。そこには再びミサイルを用意しているランチャースパイダーが。
「来ます! ミサイルに合わせて武器を振ってください!」
「は、はい!」
ミサイルが飛んできた。
だからもうヤケクソだ。
ギアフリードは右手に装備されていた"何だかよく分からない剣"を振ってミサイルを弾き飛ばす。
「やった!!」
斜め上に飛んでいったミサイルはそのまま駐車場に落ちると、誰かの車を吹き飛ばした。
「………」
「む、無人の車に当たっただけなので! その、良かったですね!」
申し訳がない。
そうしていると激しい抵抗感を感じる。
顔を上げると、振り子刃がギアフリードをガッチリと掴んでいた。
ドリアードが声をあげた時にはもう遅い。刃は振るわれ、ギアフリードのど真ん中に叩き込まれる。
「!!」
しかしバラバラになったのは振り子刃のギロチンの方だった。
刃がギアフリードの鎧に負けたのである。硬い――、とは思えど、ここで翔榛は思い出す。
ギアフリードの攻撃力は1800。対して振り子刃はたしか1750。
いや、この場合は守備力なのか? よく分からないが、とにかく普通に考えればギアフリードの方が強いのだ。
それは勝てると言う意味である。そうだ、勝ってしまうのだ。
「とにかくッ、その人たちを連れて逃げてください」
「は、はい!」
ドリアードが祈るようなポーズをとると、どこからともなく巨大なシャボン玉が出てくる。
もちろんただの泡じゃない。魔法のバブルだ。ドリアードは大きなバブルの中に親子を入れると、そのままフワフワと安全な場所に飛ばしてみせる。
一方で振り子刃に変化が起こった。
使い物にならなくなったギロチンをパージすると、その場で一回転。
すると新しい刃がセットされたではないか。円形の回転する刃、チェーンソーだ。
そのまま再びギアフリードを掴むと回転する刃を押し当ててくる。
「グゥウウウ!!」
火花がまるでシャワーのように飛ぶ。先程の攻撃とは明らかに火力が違う。
どうなっているんだ。そもそもこの状況はなんなんだ。
望んでいた物とは――、違う。火花が散る。抵抗はしない。
死ぬのかこのまま。しかし抵抗はしない。それもまた一つの答えかもしれないと思ったからだ。
だからギアフリードは目を閉じた。
「見つけた」
「!」
世界が光ったかと思えば、轟音。
ドリアードとギアフリードは思わず声をあげてへたり込んでしまった。
天が割れたかと思うと、青白い落雷が振り子刃に直撃したのだ。
「ホラ見ろ、見つけたぞメイプルちゃん!」
「見れば分かります。アホですか?」
「うッ!」
声が聞こえた。
ドリアードがそちらの方を確認すると、車椅子に座っている少年と、それを押しているメイドさんが見えた。
少年は足を組みながら頬杖をついている。メイドさんは髪がオレンジ色だ。青い目で眉毛が八の字に下がっていた。
「!」
解放されたギアフリードも二人を確認する。
現れた少年――、
そう、これは『デュエルディスク』。DWOにおいてデュエルを行うためのアイテムだ。
「さあ! ゲームの時間だ!」
両手を広げて帝人が笑った。
そしてその背後に立っているモンスターは雷帝ザボルグ。
雷様のようなモンスターが、肩を回しながら前に出る。
「ザボルグ。力の違いを教えてやれ」
ザボルグが腕を一度回すごとに、その拳に電撃が宿っていく。
二度回せば電力はそれだけ強くなる。しかし振り子刃も再び動き出した。ギアフリードを抜けると猛スピードでザボルグの方へ向かっていく。
「サンダークラック!」
帝人が叫ぶと、ザボルグが発光する腕を地面に叩きつけた。
すると空から拳の形をした落雷が発生し、向かってきた振り子刃の脳天に直撃して叩きつける。
見たとおりただの落雷ではない、物理攻撃と同じだ。殴られた振り子刃は粉々になると、直後爆発して消え去った。
さらに拳が地面に叩きつけられた際、地面に亀裂が走る。
それはランチャースパイダーの真下にまで届いており、そこから発生する電撃を受けて動きが止まる。
「どうだメイプルちゃん。まずは一体。かっこいいだろ?」
「そうでも無いです」
「……あ、そう」
帝人はデュエルディスク、丁度左手の甲にある赤い宝石を叩いた。
すると四枚のカードが目の前に展開される。間違いない、あれはデュエルモンスターズのカードである。
帝人はその中の一つに手をかざした。すると触れていないのに、腕の動きに合わせてカードが動く。
帝人は腕をあげてカードを浮かび上がらせると、腕を伸ばしてカードを発射した。
「出でよ! 地帝家臣ランドローブ!!」
カードからヒラヒラした胸飾・ジャボをつけた貴族のようなモンスターが飛び出してきた。
しかしその腕は太く、ランドローブは一気に落下するとその拳をランチャースパイダーに叩きつける。
するとランチャスパイダーの体が石化していくではないか。ミサイルを放とうとするが、既にミサイルポッドが石に変わっている以上、それは叶わない。
『READY』
その時、ガチャンと音がしてデュエルディスクから電子音が聞こえた。
帝人は手を伸ばし、デッキからカードを一枚抜き取る。
「おお、良い引きだな。そう思うだろメイプルちゃん」
「普通だと思います」
「……そっか」
帝人は一度天を仰ぐと、抜き取ったカードを投げた。
「気高き大地の脈動が貴様には聞こえるか?」
ランドローブが腕をクロスさせた。するとカードがその身を通過する。
消え去るランドローブ、しかしそのエネルギーを纏ったカードに描かれているモンスターが。ランチャースパイダーの前に"アドバンス召喚"される。
「吼えよ地の顎! 唸れよ巨岩! 現れ出でよ!」
巨大なシルエットが形成され、具現する。
「地帝! グランマーグ!!」
大地の帝王は、豪腕を振り上げ、既に石化しているモンスターを狙う。
「ハハハ! 叩きつけろ! グランッ! ブレイカーッッ!!」
巨大な両腕が叩きつけられ、石化したランチャースパイダーが粉々に砕けた。
「フム。これでモンスターはいなくなったが……」
帝人は辺りを見回す。
一瞬だけ、立ち尽くすギアフリードと目が合った。
「グランマーグ、あそこだ」
帝人が指差したのは、遠くの路肩に止めてある一台の車だった。
すると同じくしてその車から一人の男が飛び出した。
とは言え、グランマーグが足踏みすると地震が発生。男は倒れてしまって動けない。
そうしているとグランマーグが追いついた。男を掴み上げると帝人のところへ連れて行く。
「ま、待って! 待ってくれ!!」
「おいおい、たった二体倒しただけでもう終わりなのか」
「そうだ! もう終わりだ! だからもう許してくれ!」
「………」
帝人は辺りを見回し、目を細める。
そこでギアフリードも気づいた。グランマーグが摘んでいる男の腕に、デュエルディスクがあった。
自分達と同じだ。そして帝人は帝王モンスターを操っている。
ではつまり、あの男性が先ほどの機械モンスターを?
「正直に答えたまえ。何人ほど殺した?」
そうしていると、帝人が男を睨みつける。
「え? あッ、いや! まだ三人ほどだ! 少し仕事のトラブルで……!」
「なるほど。まあ貴様が手にしたのは武器だ。武器は人を傷つけるためのもの。間違ってはない」
が、しかし。
傷つけると言う選択には責任が生じる。
「自衛のために人は人を傷つけない。だがお前はそれを破った!」
傷つけないから傷つけない。
そうだ、だから戦う者はやられる覚悟もしておかなければ。
「お前が奪った存在の重さを、お前自身が確かめろ!」
「!!」
「罰ゲームッッ!!」
帝人はニヤリと笑い、男を強く指差した。
すると男は悲鳴をあげて地面を転がりまわる。
「な、何を!」
そこでやっとギアフリードの思考が追いついた。
帝人は小さくため息をつくと、泡を吹いている男を一瞥する。
「幻を見ている。今まで攻撃した者達によって地の底へ引きずられていく幻覚をな」
すると泡を吹いた男から、黄金に光る小さな欠片が出てきた。
メイプルと呼ばれたメイドがそれを拾い上げ、野球のピッチャーのように帝人に向かってブン投げる。
「いや渡し方が雑ッ! ま、まあいい」
帝人は受け取った欠片をジャケットの裏にしまった。
「あ、あの、それは……?」
「何だ? まだ何も知らないのかキミは」
帝人は複雑そうにへたり込んでいるドリアードを見る。
「成る程。契約したてか」
「ッ?」
「しかしデュエルリンクスが使える以上、素質はあるな」
「あの……、何を言ってるんですか?」
丁度、そこでまた電子音が聞こえた。
ロックが外れてドローが許される。帝人はカードを抜くと絵柄を確認した。
「エイドス」
冥帝従騎エイドスが召喚される。黒騎士は日本刀の様な剣を生み出し、黒い刃を鞘から抜いた。
「デュエルリンクス」
車椅子に座っていた帝人の首が、ダランと垂れた。
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ない。心配しないでくれ」
何故か、エイドスから帝人の声が聞こえてくる。
「早めに潰しておきたい」
「はぁ」
なんだか嫌な予感がした。
するとエイドスが振るった刃が、ギアフリードに刻み付けられる。
「うぁ!!」
後退していく中で翔榛は思う。やっぱり。そうなるのね。
なんとなくそんな気はしていましたよ。
「あの、どういう事か説明してもらってもいいですか?」
「構わない。キミは何も知らずに終わればいい」
倒れたギアフリードが見るのは、迫ってくるエイドスと、その両脇に追従する雷帝と地帝だ。
(何か知らないけど、終わったかも)
「さあ、痛い思いをしたくなければ、千年パズルのピースを渡してもらおうか?」
「……パズル? 千年パズルって、あの?」
「ああ」
そこでギアフリードは気づく。
そう言えば、ドリアードから金色の欠片を受け取った。
まさか、あれが? すると痛みが走る。見ればまた切られてるじゃないか。
酷い話しだ。
「あ、あの! 渡して良いものなんですか!?」
ドリアードを見ると、彼女は複雑そうに俯いた。
どうやら迷っているらしい。考える時間を与えなければ。
ギアフリードはとにかく迫る刃を受け止めてみせる。いきなり切りかかってくる時点でそうとう危ない人だろうが、取りあえず話し合いを――
「いい反応だ!」
「グゥ!!」
訂正。話し合いは不可能。声がでないから。
ギアフリード腹部にエイドスの掌底が飛んできた。
掌が打ち込まれた際、闇のエネルギーが纏わりつき、動きが鈍る。
そこへ抜き胴。倒れるギアフリードと、刀を鞘に納めるエイドス。
それにしても痛い。受け止めた刃だって重かった。
「どうして……、攻撃力は圧倒的に僕のほうが上なのに――ッ!」
「あぁ、これだから素人は困る」
エイドスが刀を抜いた。
すると刃に闇が纏わり付いており、それが斬撃となって発射される。
三日月状のエネルギーはギアフリードに命中すると火花を散らした。
「う゛ァアア!!」
「もはやこのゲームに攻撃力や守備力などと言うスペックは存在しない」
「!?」
「あくまでも指標ではあるが、一番大切なのは使うものの魂だ。それにより2000前後の数値ならば容易に補える」
つまり本来であるなら、エイドスの攻撃力は800だが、2800になっている可能性もあるのだ。
いや、と言うより先程の通りもはやそんな数値は存在しないも同じ。
「かつての時代、古代エジプトではディアハと呼ばれる決闘が行われていた」
エイドスが手を挙げると、ザボルグが落雷を落とす。
電撃を受けたギアフリードは衝撃で言葉を失った。
「彼らはカーと呼ばれる魔物を使い、互いの魂を賭けて戦っていたのだ」
何を言っているのかサッパリ分からなかった。
エジプト? ディアハ? 魂? そりゃ無いぜと言いたかった。
「我々はそれを行っている。フム、それよりもグランマーグ、スキルの方はどうか?」
グランマーグは頷くと、地面に手を当てて体から大量の光る石を噴射しはじめた。
「結構! 帝王の開岩だ! 美しいなメイプルちゃん!」
「私は素直にダイヤとかの方がいいです」
「……そ、そう」
グランマーグが噴射した石は一箇所に収束していき、やがては大きな塊となる。
同じくしてエイドスの体が光ると、その岩の塊に吸い込まれていくではないか。
すると岩が弾け、中から姿を見せたのは――!
「邪帝・ガイウス!!」
マントを翻し、現れた帝王。
先程まではエイドスから帝人の声がしていたのに、今度はガイウスから帝人の声が聞こえる。
どうやらデュエルリンクスとやらの力らしいが、詳細は不明である。
「もうそろそろ終わりにしよう」
「待って下さい!」
そこでドリアードが立ち上がり、震える声で呟いた。
「分かりました。ピースはお渡しします。ですので、これ以上は……」
「そうしてもらえると助かる。俺としても他者を傷つける事は本意ではない」
「い、いいんですか?」
なんだかよく分からないが、あまり穏やか話しではない事くらいは分かる。
ギアフリードが問い掛けると、ドリアードはそのまま帝人を睨んだ。
「安心してくれ。俺は世界の崩壊を望んではいない。パズルの力は正しく使って見せる」
「分かりました」
ドリアードは傍で倒れている翔榛に手をかざす。
すると体内から『金色の欠片』が排出された。
どうやらこれが帝人の欲している千年パズルのピースらしい。欠片は浮遊し、ガイウスのもとへやってくる。
「結構」
ガイウスはそれを受け取る。
が、しかし、そこで沈黙が。
「うん?」
おかしな空気だった。
ドリアードも口をポカンと開いたまま固まっている。
「あの――、何か?」
沈黙に耐えられなくなってギアフリードが口を開いた。
しかしどうやら、それが答えだったようだ。パズルのピースはチケットである。
いわばそれは参加権。それを無くせば退場と言うのはルールである。
だがその絶対の掟が、なぜか狂っている。パズルのピースを抜かれたのにギアフリードは存在しているのだから。
つまりデュエルがまだ続いているのだから。
「何故だ……?」
帝人の額に汗が浮かぶ。
そういう例があるのは知っている。だからこそ、うろたえる。
「ま、まさか!!」
ドリアードも知っていたようだ。思わず目をカッと見開く。
その時、激しい光が巻き起こった。
「え? なに?」
眩しいんですけど。目を覆うメイプルちゃん。
一方で帝人とドリアードは共に目を細め、驚愕の表情を浮かべている。
「やはりこの光は――ッ!!」
その時、ドリアードの傍で倒れていた翔榛から、金色の十字架が浮かび上がる。
いや、十字架と言うよりは『鍵』だ。
「千年錠ッ!? ではやはりお前は!!」
「ッ!?」
「千年アイテムの所有者か!!」
知っている言葉だ。千年アイテム。漫画で見た、アニメでも出てきた。
主人公の遊戯が千年パズルを完成させたことでお話が始まったのだ。
確かにそう言われると、翔榛の前に出てきた鍵も見覚えがあった。確かシャーディと言うキャラクターが使っていたような……。
「これは面白い! まさかこんな所で出会えるとは!!」
ガイウスは歓喜に震え、すぐにそれを奪おうと手を伸ばす。
しかし、止まった。翔榛を守るようにドリアードが腕を広げていたからだ。
「何を?」
「千年アイテムに選ばれたということは、彼は特別な人間です!」
「……そうは見えない。なんだか弱そうな男だ。今だって情けなくやられてただけだろ」
酷い。酷すぎる。訴えたい。
しかし事実でもある。ギアフリードは複雑な想いを胸に固まった。
そんな無気力さとは裏腹に、ドリアードは熱心にガイウスへ説得を行っていた。
「私はまだ彼に何も説明をしていません。全て知った上で、彼には決める権利があります」
「残念だが俺は待つのが嫌いでね。ココで奪い取ることにしよう!」
ガイウスは闇のエネルギーを拳の前に収束させていく。
それでもドリアードは退かなかった。ああ、なんだか、それは良くない。
翔榛は守るために走った。なのに今、可憐な少女に守られている。
それはなんだか、とても情けないことだ。
だから『翔榛』は立ち上がると、ドリアードの前に立った。
「ほう……!」
倒れているのはギアフリードであって、翔榛ではない。
なんだかよく分からないが、翔榛は今、確かに人間の姿で立っている。
であればやる事は一つだ。両手を広げてドリアードの前に立つ。
「どうすればいいんですかドリアードさん!」
「それは――」
「残念だがもう遅いッ! キミはここでゲームオーバーだ!」
ガイウスは闇の塊を発射するつもりだった。しかしそこで右目に強烈な痛みが走る。
「うぐッ!?」
さらに衝撃。思わず頭が仰け反った。
「な、なんだ!?」
ザボルグやグランマーグも周囲を警戒する。
そんな中、双眼鏡を構えたメイプルちゃんが声をあげた。
「北西の方向! マンションの屋上に誰かいます」
「誰かって――ッ、誰だ!!」
「思い出した。魔弾の射手・ドクトルです」
「魔弾だと!? ドクトル……、スナイパーか!」
すると、ダンッ! と音が聞こえた。
車のボンネットを蹴る音だ。飛び上がったのは、西部劇に出てくるガンマンのような少年である。
「魔弾!!」
「!」
「クロス! ドミネーターッッ!!」
銃声が聞こえたかと思うと、らせん状のエネルギーが飛んでくる。
すぐにザボルグが身を挺してガイウスを守るが、命中を許してしまった。
するとザボルグは力なくへたり込む。
「この勝負、ここまでだ!!」
弾丸を撃ったのは、『魔弾の射手キッド』だった。
さらに銃を構え、銃口にエネルギーを集中させていく。
「魔弾! デスペラード!!」
引き金を引くと巨大な光弾が発射され、グランマーグに直撃する。
すると巨体が揺らめき地面に倒れた。
「チィイ!!」
ガイウスはすぐに攻撃を行おうとするが、そこで激しい光が巻き起こる。
閃光弾だ。真っ白になる視界に怯んでしまい、動きが止まる。
そして次に視界が戻ったときには既に誰もいなくなっていた。
「逃げられましたね」
いつのまにかサングラスをかけていたメイプルちゃんが呟く。
「クソ! なんだと言うのだ!」
「いいじゃないですか、パズルのピースは手に入ったんですから」
「だがもっと大きな物を逃がした。千年アイテムは諦めたくない」
「……二兎追うものは?」
「やだ! そこは応援してよメイプルちゃん!!」
ギャーギャー喚き散らす帝人を無視して、メイプルちゃんは車椅子を押して帰っていった。
気づけばザボルグ達の姿は無く、炎上していた筈の車もなくなっていた。
「新渡戸!!」
「よう! 大変だったな!」
逃げた翔榛たちが連れてこられたのは友人である新渡戸の自宅だった。
新渡戸は缶ジュースをキッドに渡すと、労いの言葉をかける。
「おつかれさん」
「余裕だぜ。おれの敵じゃない」
「言うねぇキッドくん!」
「ど、どういう事なの?」
「お前と一緒だ。オレはキッドからパズルのピースを受け取った」
新渡戸はそう言って輝く欠片を見せる。
なるほど、確かにドリアードから受け取ったものと形は違っているが、その輝きは同じだった。
どうやらこれがパズルのピース。なにやら重要なアイテムらしい。
「ところでアンタ何でさっきから目閉じてんの」
「お気になさらず」
そうだ。翔榛はドリアードを見る。
すると彼女は頷き、ゆっくりと言葉を続けた。説明が必要だと理解したらしい。
何が起こっているのか。これから何が起ころうとしているのか。
まずドリアードは背景を語り出す。ここに至るまでの裏側を。
「かつて、世界は二つ存在していました」
――あなた方、人間が住む"青の世界"。
そして我々デュエルモンスターズと呼ばれている者が住む"赤の世界"。
二つの世界はお互いに干渉することは無かったのですが、ある時、引力にひかれてぶつかり合ってしまったのです。
世界のエネルギーは凄まじく、お互いの世界は崩壊の危機に直面しました。
回避する方法はただ一つ、どちらかの世界を滅ぼす事です。
移住ができればよかったのですが、互いの世界の環境に適応できないものや、それぞれの世界の住人を信じることができない者など、いろいろな問題が重なってしまいました。
結果として、戦争が起きてしまいます。
世界が繋がった場所は、青の世界で言うところのエジプトです。そこで我々は互いの星を滅ぼそうと武器を振るいました。
はじめは赤の星が優勢でした。ですが貴方たちは『魔術』を使い、対抗してきました。
この時に生み出されたアイテムこそが7つの千年アイテムです。
赤の星にも魔法はありましたが、青の星の魔法を理解することはできませんでした。
ですが青の星の民は、赤の星の魔法や技術を理解できました。
武器を奪い、独自に発展させ、さらには赤の星の戦士が青の星に味方をすることもあり、結果としては我々が敗北したのです。
ですが青の星は我々を哀れみ、赤の星を救う方法を探してくれました。
そして彼らは、赤の星を取り込む吸収装置をつくったのです。
あまりにも大きな力だったので、いくつものパーツに分け、それを合わせる方法をとりました。
「これが最後の千年アイテム。千年パズルです」
「……!」
つまり赤の星はパズルの中に封じられたのです。そこに住む我々も同じく。
「それから人々はカーを生み出す力を手に入れました。それを戦わせるディアハも同じくして」
最終的にパズルを含めた8つの千年アイテムは、地中深くに封印されました。
「ですが丁度20年ほど前でしょうか。千年アイテムが掘り起こされました」
考古学を研究していたチームで、リーダーはオリジンダイスの社長です。
「あれ? オリジンダイスって……」
「そうですね。我々の歴史をカードゲームにした方ですわ」
つまりオリジンダイスは0からデュエルモンスターズを作ったのではなく、千年アイテムを解析して読み取った歴史から、カードを作ったのだ。
「な? 汚ねぇだろマジで。それであんだけ金稼いでんだ。オレが先に見つけてたらオレが億万長者だわ」
新渡戸の言葉は無視された。
ドリアードは説明を続ける。
「我らは千年パズルの中にある赤い星で生きてきました。ただ……」
「ただ?」
「10年前。パズルが何者かによって破壊されました」
「!」
我々の世界は粉々になってしまいました
もちろん各々のピースはまだ存在しているので、崩壊と言う事ではないのですが。
それでも完成された封印が壊れたわけですから、影響が無いなんて事はありません。
今、青の世界に赤の世界が重なる形で落ち着いています
「重なる、ですか」
「マトリョーシカのようなものだと思ってくだされば。青の世界の中に赤の世界が重なっています」
ですがいくら落ち着いている状況とは言え、安心はできません。
いつまた二つの世界が反発するとも限らないからです。そうすればまたどちらかの世界を滅ぼさなくてはなりません。
ですので、人間の皆さんは必死になんとかする方法を探しました。
そうなるとやはり、再びパズルを完成させるのが一番安定したやり方でしょうね。
まずは散らばったピースの回収です。
千年パズルは100個のピースで構成されているので、回収にはそれなりの時間をかけたようですが、無事に全てが集まったと聞きます。
ですが、ここから問題でした。誰もそのピースを組み立てる事ができなかったのです。
「とても頭の良い人が何人も挑んだようですが、たった一つの連結すら不可能でした。全てのパターンを試してもダメでした」
こんな調子では完成は夢のまた夢。
困り果てたオリジンダイスの社長はエジプトに赴き、情報を集めました。
それだけではなく、ピースの中に入っている我々とも会話をする技術を開発し、とにかくパズルの謎を追いました。
「そして分かったのです。千年パズルは手動では絶対に組み立てることができません。ある儀式を通してではないと不可能であることが」
「儀式ですか」
「はい。"マジックウィザーズ"と言うものです」
エジプトにある石版にも記されていました。分かりやすく言えば――
カーを使うものよ、ディアハを行い魂をぶつけ合え。その摩擦が生み出す魂の炎が世界の欠片を融解させ、繋ぎ合わせるだろう。
つまり太古の時代、カーを使って戦っていたのも、このマジックウィザーズを行うためなのです。
金属を熱で変形させて打つ刀鍛治のようなものです。魂の炎でピースを接着させなければ、パズルは永遠に完成しません。
「儀式はもう始まっています」
「つまりこういう事だろ?」
新渡戸はどこか楽しそうに手を挙げる。
「ピースを渡された100人が召喚バトルで潰しあって、パズルを完成させる」
「そうです。次々と勝負を挑みピースを回収するのか。それとも99個が繋がったのを見て横取りを狙うのか、それは自由です」
いずれにせよ、最後の一人になったものがパズルを完成させる。
千年パズルの所有者になる。
「その優勝者こそが星をも動かす力を手に入れる唯一無二の王――!」
ドリアードは翔榛を見た。新渡戸を見た。
「
「遊戯王……!」
「はい。貴方たちの世界は今、二代目の遊戯王の誕生を望んでいます」
世界の在り方を決める存在になる。
王と言うよりは最早神と言っても差し支えない。
「遊戯王になった者は、千年パズルの中にある赤い星の力をいつでも使えます。あなた達ならばご存知でしょうが……」
死者蘇生を使えば亡くなった人を蘇らせる事ができる。
かとも思えば、終焉のカウントダウンを使用すれば世界は終わる。
「つまり遊戯王になった人のさじ加減で世界の運命が決まる」
「その通りです。ですので、良識のある人間が王になる事が望ましいのですが……」
ピースを持つ人間が全員善人とは限らない。
ましてやドリアードやキッドのような『ナビゲーター』の中には、あえて悪人にピースを渡す者もいる。
青の星を滅ぼし、再び赤の星を完全なるものにするために。
「ナビゲーター?」
「パズルのピースから出ることができた赤の星の住人と思ってください。マジックウィザーズの参加者を決定し、ゲームの運営をお手伝いしています」
またの名をパートナー。
パズルを解析したオリジンダイスが、一部のパズルからモンスターを引き上げた。それがドリーアードたちである。
そこで翔榛は思い出す。襲われていた人たちのことだ。真っ二つになった男性を思い出し、思わず口を押さえた。
「あの人たちはなぜ……、どうなったんですか?」
「プレイヤーの発言から察するに、日頃の恨みと言うものでしょう。襲われた方は残念ながら遊戯王が決まるまで目覚めることはありません」
「え? と言うことは生きてはいるって事ですか」
「そうですね。ですが精神のほうを攻撃されてしまったので……」
「いやッ、でも体が……」
「あれはそう見えているだけです。分かり辛いかもしれませんが、モンスターを呼び出す際にはあなた達は青の世界でも赤の世界でもない、その中間、言わば紫の世界を広げることになります」
分かりやすく言えば、戦うのは現実世界に似せた仮想空間です。
襲われた方は無意識にそこへ引きずり込まれたことになります。
「DWOは覚えていますよね」
「もちろん」
「あのゲームはオリジンダイスが紫の世界を作るための言わば練習場のようなものです」
かつての時代は実際にモンスターを出現させて戦っていましたが、現代でそれをやると周囲に凄まじい被害が出てしまいます。
それこそ遊戯王を決める前に青の世界が滅んでしまうので、オリジンダイスの社長、つまり主催者の方はゲームエリアを広げて戦う形式に儀式をアップロードしたんです。
「つまり紫の世界はDWOと同じようなものって事か」
「はいデュエルディスクを展開した時点で現実空間は仮想空間へ移行します。参加者以外の方はモンスターに攻撃されても痛みは感じません。ただし肉体は崩壊しますし、致死量のダメージを受ければ廃人になってしまいます」
ただしこれはゲームのルールの一つ。
失った魂は主催者側で保管してありますので、ゲーム終了時に返還されます。
「今してやれよ。可哀想じゃないの」
「残念ですがそれはできません。あくまでもルールを守らなければ儀式は破綻し、パズルが完成しないのです」
新渡戸は成る程と頷いた。
どうやら千年パズルを完成させる儀式には、いつくものルールがあるらしく、それを守らなければならないのだ。
逆にそれ以外は自由に設定することができるたえ、DWOなんていう仮想現実を応用したバトルスタイルを組み込んだと言うことなのか。
「でも一ついいですかドリアードさん」
「はい、なんでしょう?」
「あの戦いはボクの知ってるデュエルモンスターズじゃありませんでした」
「そうですね。あれはカードゲームではなく、ディアハによるものです」
魔物を生み出し戦いあう。
そこにはターン制の概念はなく、スペックも生み出すものの魂に準じるというものだ。
帝人も2000前後ならば埋めることは可能と言っていた。
そしてライフポイントも無い。
あるにはあるが、それは魂の数値である。
魂を攻撃されれば肉体的疲労も高まり、精神的な疲労も高まる。
体は動かなくなり、マイナス思考になっていき、ゼロになれば実質戦闘不能となるのだ。
「プレイヤーの皆さんは念じるだけでデュエルディスクを出現させることができます」
翔榛と新渡戸は、ためしにデュエルディスクを出してみる。
するとなにやら円状のエネルギーが広がっていくのを確認する。
「これが紫の世界に移行するオーラです。今、この場は仮想空間になっています」
ドリアードが手をかざすと、握りこぶしほどの岩が生み出される。
「えい!」
ドリアードはそれを投げて、新渡戸家のリビングにある薄型テレビ85,000円の画面を粉砕する。
「え? 嘘でしょ……?」
何してんのこの女。新渡戸は真っ白になっているが、何度も言っているとおりここは仮想空間。
二人がデュエルディスクを消滅させると、テレビには傷一つついていなかった。
「これが被害を出さないシステムです」
「なるほど……」「焦ったーッッ!!」
「デッキは皆さんの記憶から形成されます。ですので、DWOをプレイしているかを聞きました」
DWOはヘッドギアを使用して脳に情報を与える。
パズルのピースも同じだ。脳にある情報からデッキを構築する。
「逆にDWOをプレイしていない人には信号を送れないんです」
「それも準備段階だったってわけか」
「はい、全てはゲームを始めるためです」
ルールはモンスターを使役して戦うバトルですが、マジックやトラップカードの概念もあります。
とは言え、それらもいろいろとカテゴリ化されており、元のデッキと同じとはいきません。
たとえば先程、地帝グランマーグが帝王の開岩を発動しましたが、あれはグランマーグが元々持っている能力になります。
言わばマジックカードではなく、スキルと言う扱いになります。
さらにモンスターカードも同じことが言えます。たとえば暗黒騎士ガイアと、疾風の暗黒騎士ガイアは同一モンスターとして認識されます。
派生モンスターもフォームチェンジやパワーアップとして判断してください。
「この辺りは複雑なので後々にでもお勉強しましょう」
そこで翔榛にはもう一つの疑問が。
「そう言えばボク、ピース取られました……」
「あなたは千年アイテムを持っているから大丈夫!」
ゲームのルールの一つです。
100人の参加者の内、7人にはピースとは別に千年アイテムが贈られます。
ピースと同等の効果があるだけでなく、ゲームを有利に進めるための特殊能力も使えるんですよ。
「でも、そんなの手に入れた記憶は……」
「千年アイテムは概念を超越せし道具です。きっとどこかで貴方が選ばれたのでしょう」
「そう、ですか……」
そこで話し合いは終わった。
いろいろあって疲れた。一度、翔榛は家に帰ることに。
「………」
「………」
自宅に戻ってリビングの椅子に座る。
向かいには微笑んでいるドリアードが。
「あの」
「はい」
「もしかして――、住むんですか?」
「はい!」
「………」
「はい?」
まさかこんなドラえもんみたいな展開になるとは。
なんでもピースを渡したモンスターは基本的にサポーターになってくれるらしい。
彼女達は幻でもなんでもなく、そこに実在しているので、いろいろ不思議な力を借りることは便利と言えば便利か……。
戦闘にも参加してもいいらしいので、近くにいてもらったほうが気は楽である。
(しかし両親になんて説明すればいいんだ。幸い帰りは遅いほうだがもしも見られたりしたら……)
なんとか誤魔化すしかないだろう。
「どうしたのですか?」
「いやッ、別に。お気になさらず!」
「いいんですよ、どうぞお構いなく。ただ三食のご飯とおやつとお風呂を用意してくれれば私はもう何もいりません」
滅茶苦茶ガッツリ要求されている気がするが、ここはスルーしておく。
余計な事を言って気を悪くされては申し訳ない。翔榛は大人なのだ。できる子なのだ。
「ところで何で目を瞑っているんですか?」
「ええ。私、目が大きいのが悩みで。よく埃が入るんですよ。だから魔法で周りを把握してます」
「はぁ、わざわざ大変ですね」
「痛いの嫌ですから。嫌でしょう? 痛いの。それともお好きですか?」
「どういう質問ですかッ。嫌いですよ痛いの!」
しかし考えてみれば痛いのが嫌いなのに、あの親子を守りるためにシールドを張った勇気には頭が下がるというものだ。
ドリアードも参加者である事には変わりない。痛みは感じるだろうに。
「そうだ。メガネをしては?」
「視力は良いですから。なんだか逆に異物感があって……。ですが考えても見ればお部屋の中だと風もないですからね」
そう言ってドリアードは目を開けた。
見つめられる。なんだろうか、このザワザワした気分は。
「そう言えば自己紹介がまだでした!」
「ああ、えっと、青堂翔榛です」
「まあ、良い名前ですね。私はドリアードです。ですが――」
「?」
なんでも、いろいろ複雑らしい。
と言うのも、ドリアードと言うのはあくまでも称号のようなものだと言う。
そう言えばブラックマジシャンなんかでも、同じ名前なのに絵柄が明らかに違うものがあったか。
確かにあれが同一人物とは思えない。職業や、照合、二つ名など、さまざまな背景があるらしい。
「ですから、私の名前を貴方に決めてもらいたいのです」
「え! い、いいんですか!?」
「はい。私は貴方をお手伝いするサポーターですから」
「でも、本当の名前はあるんでしょう?」
「ええ。ですが、いいんです。一つの絆の証と思ってください」
「じゃあ、ドリアさんで……」
後悔。
二秒くらいで決めた何の捻りもない名前である。安直にも程がある。
だが当のドリアはニッコリと微笑んで頷いてくれた。
「はい、じゃあ私は今日からドリアです!」
「よ、よろしくお願いします」
「ところで翔榛くん。いつも夕食は何時くらいに?」
「だいたい七時くらいに食べます。それより――、嫌じゃなかったんですか? ナビゲーターに選ばれたこと」
「私は世界がよりよくなればと思っていますから。それに私、元の世界では先生をやってるんです。怯えていては生徒に示しがつきません」
立派だなぁと思う。まだ若そうなのに。
「ところで翔榛くん、夕食の時間が早くなった事はありますか?」
「……え?」
「たとえば、17時とか」
時計を見ると、17時であった。
「あ、あー……、今日はお昼も抜いたしッ、もう食べようかな!」
ドリアは無言でニヤリと笑っていた。
使われている感は否めないが、まあ良しとしようじゃないか。
しかし困った事が一つ。今日は丁度両親が二人きりで食事をして来るとの事だったので、夕飯の用意がない。
冷蔵庫を開けると納豆しか入ってない。流石に客人に出すのは気が引ける。
チラリとドリアを見ると、既にナイフとフォークを構えて首にはナプキンまでしている。
「あの――、すいません。冷凍食品でいいですか?」
「なんですかそれは」
「凍ってるヤツをレンジで解凍するって言うか……。あの、ちゃんと美味しいですから!」
「はい! じゃあそれでお願いします」
「ちょっと量が少ないんですけど……」
「あ、気にしないでください。私少食なので。一皿でお腹いっぱいかもしれません」
六分後、ドリアの前にホカホカの食事が置かれる。
「まあ! これは!?」
「ドリアです」
「え? 私の同じ名前ですか!」
「はい。あの、熱いので気をつけて食べてください」
「大丈夫です。炎の魔法使えるので、熱いのには慣れてるんです」
確かにドリアさんはスプーンでドリアを掬うと、そのままヒョイヒョイ口の中に入れていく。
一瞬ギョッとしたが、全く熱がる様子は無いので大丈夫なのだろう。
「なるほど……、グラタンの中に――、もぐもぐ。ご飯を入れるなんてッ、むぐむぐ! やっぱり人間の発想は――パクパク。素晴らしいですね。モグモグ。こうきましたか」
なんか滅茶苦茶パクパクモグモグやってるが、愉快そうに食べてるので安心した。
(じゃあボクも食べようかな)
スプーンを持った翔榛。
そんな彼の視界に、茶色いトレーがスッとフェードイン。
「ッ、とゥ……ッ」
自分でもよく分からない声が出た。
綺麗なトレーだった。洗ったのかと思ったくらい綺麗な綺麗なドリアのトレーだった。
顔を上げるとドリアさんがモグモグしながら微笑んでいる。
さっさと片付けろと言う無言の圧力なのだろうか?
手が震えてくる。彼女は何を期待しているのか。
しばらく顔色を伺っていると、ゴクンと喉を鳴らす音が聞こえた。
「申し訳ありませんが、おかわりをお願いします」
包み隠さず、もうオブラートなんてアホぬかせと言うくらいのストレートだった。
いや、だがそう言ってくれたほうが助かるものだ。
翔榛は無言で何度も頷くと、すぐにレンジに走った。
それにしても母親がストック癖のある人で助かった。
しかし便利な時代である。電子レンジの前で少し立っていれば美味しいドリアができるんだもの。
「どうぞ、熱いうちに食べてください」
「おほほ、どうもありがとうございます。ングング! なるほどなるほど」
一掬い。二掬い。三掬い。おいしいドリアが消えた。
ドリアさんは咀嚼を続けながらトレーを持つと、顔を近づけてなにやらモゾモゾやっていた。
見てはいけない気がして俯いていると、何の汚れもないピカピカのトレーがフェードインしてくる。
「それでは、おかわりをお願いします」
「………」
翔榛は電子レンジの前で、少し前の会話を思い出していた。
『あ、気にしないでください。私少食なので。一皿でお腹いっぱいかもしれません』
幻聴――、だったのだろうか?
やはりヘッドギアの影響はあったのかもしれない。
『あ、気にしないでください。私少食なので。一皿でお腹いっぱいかもしれません』
お茶目なジョークの可能性。
いや、と言うより別に二皿くらいは誰でもペロリだ。そんなおかしな話じゃ……。
『一皿でお腹いっぱいかもしれません』
翔榛は考えるのを止めた。
ただ美味しくて熱々のドリアをドリアさんに出す機械になった。
そしてドリアさんは冷凍庫にあったドリアを全て平らげた。
試しにチャーハンを追加で差し出してみるとバクバク食っていた。
アイスを出してみると嬉しそうに食べていた。
「よく食べますね」
無意識に呟いた言葉だった。
するとドリアさんは顔を真っ赤にして頬を押さえた。
「あッ、ご、ごめんなさい。つい! 魔法を使うとお腹が空くもので……」
恥ずかしそうに笑うドリアを見て、なんだか心がザワザワした。
『は? 心がザワザワする!? おい嘘だろ、止めてくれよ! 今時大食い属性なんて腐るほどいるんだぞ! やめてよオレ見たくないよそんな安易な釣り針に引っかかる翔榛くんなんて! 今ドリアードは何してるんだよ? は!? 風呂に入ってる!? 嘘だろ! おいふざけんなよ! なんでオレは
電話を切った。丁度そこでドリアがお風呂から戻ってきた。
入れ替わりでお風呂に入って戻ってくると、ドリアさんがベッドの下に頭を突っ込んでモゾモゾとしていらっしゃる。
「あの、何を……ッ!」
「ああ、これは翔榛くん。いえちょっとお掃除を」
その人の私物を見れば人となりが分かるとか何とか。
「でも翔榛くんのお部屋は綺麗ですので、あまりする事がありませんでしたね。ほほほ!」
「は、はあ。それはどうも」
「ですが――、その、こんなものを見つけてしまって」
ドリアの複雑そうな表情を見てギョッとする。
おかしい。見られてやましいものは無いはずだ。
いやいや、そんな話をしているのではなく! 翔榛は恐る恐るドリアが差し出したものを見た。
「あ……」
それはベッド下、奥深くに押し込んだお菓子の缶だった。
その中に何が入っているのかは、分かっている。翔榛は缶を受け取ると蓋をあけて中身を見た。
「それは?」
「デュエルモンスターズのデッキですよ。まだカードゲーム時代のね」
デッキケースの中にはカードスリーブにも入ってないボロボロのカードが重なっていた。
「子供の時に使ってました」
中身を確認する。
なつかしい。デッキと言うよりはただ強いカードをぶち込んだだけのお粗末なものだ。
好きだった。だから一応DWOでも同じコンセプトのデッキを使っている。
とは言え勝てない。いや、勝たないのか。
「なぜ、貴方はあんな事を?」
ドリアはベッドに腰掛けると、翔榛を見上げる。
「デュエルモンスターズで死ねたなら。なんて、おかしな言葉です」
「それは……、そうですね」
「リビングにあった物と関係が?」
何も言えなかった。
流石に教師をしていればそれくらいの察しはつくのだろう。
「私もこの世界に具現してそれなりに経ちます。いろいろ、常識について調べました」
「………」
「よければ話してくれませんか? そして貴方の選択を知りたいのです」
魂を懸けて戦うディアハは、当然相手によっては戦闘不能後も攻撃を続行されるケースがあり、そうなると振り子刃に殺された人間と同じく仮死状態になる。
遊戯王がその魂を再び肉体へ戻してくれれば蘇生はされるが、それを行わなければ永遠に終わりだ。
「あなたには戦う理由がありますか? 無いのなら千年アイテムを渡して終わりにしましょう」
「………」
「これはゲームであって、ゲームではないのですよ」
返事はできない。
分からないからだ。純粋に。
「ドリアさん。人間と言う生き物は結構複雑なんです」
「あら、それは私達だって同じですよ」
「弟がいました」
ドリアは無言で頷いた。
リビングにあったのは小さな仏壇であると知っているからだ。
「子供っていうのは馬鹿なんです。まだ何も知らないし、自分の事ばかり考えてる。もちろん皆がそうじゃないとは思うけど、少なくとも昔のボクはそうでした」
無邪気だと言えば聞こえはいいか。
弟とたくさん遊んで、喧嘩もした。
「ボクらは、デュエルモンスターズが大好きだった。だから夢中で集めたし、愛着もあった」
翔榛はデッキから一枚のカードを抜き取り、ドリアに見せる。
「綺麗ですね。キラキラしてる」
「とても貴重なカードなんです。今だったら400円もあれば同じ種類のカードは買えるけど、昔はそうじゃない」
翔榛はパックを買って、それを引き当てた。あの時は本当に嬉しかったし、弟に自慢をした。
「弟は本当に羨ましがってくれました。それこそ欲しいって泣かれて……」
だからそのカードが無くなった時は本気で弟を疑ったし、違うと言われても弟を責めた。
「あの頃はまだ幼くて、カードを輪ゴムで束ねて公園で遊んでたりもしてました」
当時からやっぱりお金の無駄だと思う親も多かったのだろう。
中には雑魚カードが川に捨ててあった事もあった。
「お、弟は――ッ、ボクが怒ったから。カードを探しに行ってくれました。そして川に落ちているカードを、無くしたカードだと思って……ッッ!!」
翔榛は頭を抱える。
あの頃は本気でそう思ってた。他意はなかった。
だから普通に部屋の中で見つけた時は、謝ればいいと本気で思った。
「弟は帰ってきませんでした。川が、思ったよりも深くて……」
吐きそうだ。翔榛は思わず床にへたり込む。
「悪気があった訳ではないのでしょう? 弟さんの事は残念ですが、貴方のせいでは……」
「皆そう言ってくれました。父も、母も。でもやっぱり、どう考えてもボクの責任です」
気を遣って引越しをしてくれても、仏壇を見る度に思い出す。
成長した今でも、仕方なかったと逃げるところはあっても、自分のせいだとは思っている。
もっとちゃんと探しておけば、もっと弟を信じてやれば。
しかしどれだけ悲劇的な事があったとしても時間は進む。
始めは悲しんでいた両親も今は普通にテレビを見て笑っているし、毎日会社に行っている。
それは翔榛も同じだ。学校には通っているし、なんだかんだとそれなりに上手くはやってる。
ただ、やっぱり定期的に。それはまるで発作のように頭を過ぎってしまうのだ。
「デュエルモンスターズだって本当は止めるべきだった。売るなり捨てるなり、そうやって離れて、少しでも思い出さないようにすれば良かった」
にも関わらず何だこの現状は。
画期的なシステムが生まれれば、興味の方が勝ってしまう。
新しいモンスターが出ればカードの効果を確認してしまう。
いくつものパターンのデッキレシピを考えてしまう。
「ボクはDWOで一度も勝ってません。デュエルも基本的に申し込まれるまで行いません」
勝てそうになると、わざと負ける。
もしくは適当な理由をつけてサレンダーだ。
そうする事で赦される気がした。楽しんではいけない。優越感を感じてはいけない。その世界に浸ってはいけない。
「分かってます。それはおかしい事だ。異常な事だ。普通じゃない」
ましてやそんな事をしても赦されるわけじゃない。
ただ単に言い訳みたいなものだ。でも、言い訳はしたい。
「闇がもう一人の自分を作ってしまう。それはッ、とても苦しいことです」
「ログインを止めては……?」
「まさにその通り。ボクだって何度もそうしようとしました。けれど……」
アニメみたいにデュエルができるDWOは、それだけ魅力的だった。
「……夢だったんだ。あんな風に遊べるのが」
愚かな話だった。惨めで情けない話だった。
「………」
ドリアはしゃがみこみ、翔榛と目線を合わせると、腕を伸ばして頭を撫で始めた。
「あの、何を?」
「励ましているのです」
「ボク、17ですけど」
「教え子のみんなは喜びますよ? 全員女の子ですけど」
まあ確かに落ち着くのは事実だった。
しかしやっぱり恥ずかしいので、それとなく離れていく。
「いろいろあります。誰もみんな」
ドリアードは世界の歴史を『我々』と言う単語を使って説明したが、その実、それは聞いたり学んだ話だ。実体験ではない。
しかしドリアードの世界には人間の世界よりももっと色々な種族があり、戦いがある。
「私も先代ドリアードの皆様に話を聞きましたが、本当にいろいろあります。私だっていろんな人を傷つけて――、しまったかもしれません」
取り返しの付かないこともしているだろう。
自覚しているものも、いくつかはあると言う。
「ですが――、私は貴方に名前をつけてもらいました。ドリアと言う名前を」
ありがたい事に気に入っている様だ。
ドリアは美味しいから――、らしい。
「ドリアードは沢山いますが、ドリアは私ひとりです。そしてそれは貴方も同じです。"少年"や、"学生"とカテゴライズされている方は沢山いますが、青堂翔榛と言う人間はあなただけ」
翔榛は頷いた。
「悩むのは苦しんでいるからです。ですが、たとえ罪悪感の正体が貴方のせいでも、貴方のせいじゃなくても、今あなたは生きてる」
時間は進む。歴史は続く。
「残念ですが、失ってしまった者はそこで終わりです。ですが貴方はまだ続いている。どうあったってね」
なるべくなら、苦しくない方がいい。
「その意味を、貴方は見つけたほうがいいと思います」
「………」
「この星では罪を犯せば牢屋に入れられますが、正しくは人が作ったルールを破ったものだけです。罪を犯した者だけで言えば沢山います」
「そう、ですね」
人が作ったルールは翔榛を裁けない。裁けない。けれども罪がそこにあるのなら……。
「罪を赦してくれる人は、もはや貴方だけです」
ドリアードは翔榛の手を握った。
正確には翔榛が持っているデッキに触れた。けれどもドリアードの手からは確かな体温を感じる。
「焦る事はありません。あるがままでいいのです」
「でも、どうすれば……。それが分からないんです」
「では千年アイテムを使ってみては? 貴方が持っているのは千年錠。どうか念じてみてください。その意味が分かるでしょう」
翔榛が想うと、その手に十字架型の鍵が生まれる。
驚くが――、千年アイテムは概念を超越した道具。そうか、今自分が生きているのはそういう世界なのか。
改めて感じる。改めて向き合う。
そうだ、夢などではない。
ドリアードはここにいて、彼女はドリアで、そしてディアハがあって、カーがいる。
ワケの分からない単語ばかりだ。でもそれは『何も知らない』人間から見ればの話し。
翔榛は全てを知っている。
全てを忘れなかった。
「……気持ちの悪い事を言ってもいいですか?」
「どうぞ」
「怖いので、手を繋いでもらっても?」
「ええ、構いませんよ」
ドリアは翔榛の手をギュッと握った。そしてニッコリと笑う。
「私はあなたのパートナですから」
翔榛は鍵を持った。
そして自分の心に突き入れた。
「!」
一瞬だった。気づけば翔榛は全く知らない部屋にいた。
いや、違う。本当は知っている。ここは引っ越す前の自分の――、自分達の部屋だ。
虚しいから捨てた二段ベッドがまだあった。
「ここは」
「心の部屋です」
「!」
手を繋いだ感覚があった。
隣にはドリアが立っていた。
「千年錠の力です。人の心の部屋に入ることができる」
「心の部屋……」
「正確には魂の部屋です。我々には皆、魂と言うかつてない力の源があります」
ドリアは部屋を見回す。
いろいろな玩具が散らかっている。カレンダーには赤い丸がついており、時計もなぜか止まっている。
なるほどと思う。弟が死んだ日、死んだ時間なのだろう。
「どうやら貴方の時間は、止まったままのようですね」
「………」
翔榛は見る。
テーブルにはデュエルシートがあった。そこにカードが散らばっていた。
そうだ、デュエルの途中だった。
「DWOはどうやって知ったんですか?」
「新渡戸に誘われたんです。アイツは幼馴染で、ボクがデュエルモンスターズが好きなのを知ってたから、気を遣ってくれたんだと思います」
そこで気づいた。
二段ベッドの下、弟の
「やっぱり、本当の所持者は遊太郎だったんだ……」
「亡くなった際に貴方に所有権が移った、と」
「火葬場で骨を拾ったんです。その時にきっと」
思い出してみれば、たしかにあの時不思議な感覚があった。
何かが流れ込んでくるような感覚が。
「……あぁ」
翔榛は座り込み、唇を震わせた。
別に叫ぶわけじゃない、声をあげるわけじゃない。
だが目からはポロポロと涙が零れてきた。なかなかどうして、上手くいかないものだ。
「貴方の心には、常にデュエルモンスターズのカードがあった」
ドリアは一枚のカードを持ち、それを翔榛に差し出す。
いろいろな意味で無くしていたレアカードだった。
黒い竜は、何も変わっちゃいない。
「見えるけど見えないもの」
「!」
「その意味は、分かりますね?」
「……はい」
「貴方がどんな選択をしても私はそれを否定しません。ですが、貴方が好きだったものを否定するのだけは、どうか止めてください」
顔を上げるとドリアードがニッコリと微笑んでいた。
翔榛は涙を拭いカードを受け取った。
どんな理由であれ、散らかった部屋はいつか片付けなければならない。
「!」
我に返ると元の部屋に戻っていた。
両親も帰って来た。死ぬ気で嘘をついた。
とりあえずドリアはホームステイがアレでソレがああなったが、悪い人に騙されて住む所もお金も夢も希望も全て失った後に、いろいろ覚悟を決めたが、結局なんやかんやで翔榛の家にやって来たと適当に喋った。
だが男・青堂翔榛。熱意だけは込めたつもりである。
両親が怪訝そうな顔をすると、すぐに叫ぶ。
酷いなぁ! 酷いなぁ! 見捨てるのはひどいなぁ!
もはや月9の俳優陣など敵ではなかった。魂の演技を見たのならばきっとハリウッドの監督ですら涙していただろう。
そんなこんなで、なんとか両親はドリアが住むことを許してくれた。
許したというよりは先延ばしにしておいた。今までの生活態度が良かったからか、なんとか信用してくれたみたいだ。
何事も日頃の行いや、言い方である。これが「ウェーイ、今日から同棲シマース!! オラィオラィ!!」なんて態度だったら殴られて勘当だったろう。
まあ、ともかくだ。
疲れきった翔榛が部屋に戻ると、ドリアがベッドに入っていた。
サンタさんが被るようなナイトキャップまでしてる。
帽子を被っていないと落ち着かないらしい。
「あの……」
「眠りましょう。今日は疲れました」
「じゃあ、ボクは下のリビングのソファで……」
「おや、ベッドで一緒に寝ればいいじゃないですか」
「えぇ、でも流石にそれは……!」
「おやおや照れているのですか。あらあら、まあまあ! お可愛いこと!」
ドリアはニヤリと笑うと、掛け布団をめくってスペースをあける。そしてパンパンとマットを叩いた。
来い。くるしゅうない、ちこう寄れと言う意味らしい。
「私は気にしませんよ。それとも貴方は気になりますか? うふふふ!!」
煽られているような気がしたので、隣に寝転んでみた。
「それでいいんですよ。じゃあ電気を消しますね」
暗くなった。
もういい、寝てしまおう。翔榛は目を閉じる。
しかし、なんだろうか。セクハラかもしれないが凄くいい匂いがする。
同じシャンプーを使っている筈なのになんでここまで……。
それにしても気のせいだろうか?
何か耳を凝らすとドクドク聞こえてくる気がする。
ドクンドクンドクン、ドッドッドッドッ! なんだろうかこの小さな音と言うか振動と言うか。
電気がついた。明るくなった。そろそろ暗闇に慣れてきた頃なのでやたら眩しく感じる。
「うぐッ! ど、どうしたんですか?」
ゆっくりと目を開くと、隣には真っ赤になっているドリアが見えた。
「あの――……、やっぱり恥ずかしいので離れて眠りませんか? 私が床でいいので」
翔榛が床で寝ることにした。
考える。思う。ドリアさんは適当な事を言う悪い癖がある。
それにちょっとあざとい所もある。ただまあ、いろいろ強い部分とか、賢い部分はやっぱりあるとは思った。
少なくともボクよりは何倍、何十倍も立派な人だ。
不思議な人だった。我ながら、単純だとは思う。
ボクはドリアさんを好きになってしまった。
「あの、ドリアさん」
「はい?」
「戦い方を、ルールを、もう一度詳しく教えてください」
「……はい!!」
ずっと押し込めてきた感情がくじけそうな胸を突き刺した。
反射で立ち上がったボクは、もう元の位置には戻りたくない。
かつてない感情が、想いが、魂から溢れ出すのを感じた。