「………」
日曜日。両親は仕事だ。
朝ごはんを食べ終わった頃、インターホンが鳴る。
玄関には帝人がいた。
「おはよう、翔榛くん」
「どうしてボクの名前を……」
「調べた。上がってもいいか?」
頷くと、メイプルちゃんが室内用の車椅子を持ってきた。
「足が悪いんですか?」
「いや別に。普通に歩けるが」
「だったらどうして車椅子を?」
「歩くのは疲れるだろ?」
滅茶苦茶な人だと思う。
結局、翔榛と帝人はリビングで顔を合わせて座っていた。
部屋の隅ではドリアードが真顔で立っている。メイプルちゃんはつまらなさそうに眉毛を下げていた。
「単刀直入に言う。お前の千年アイテムを俺に渡してくれ」
「それを決める前に、ボクからも一ついいですか?」
「なにかな?」
「貴方が戦う理由を知りたい」
翔榛は一瞬、仏壇にある弟の写真を見た。
帝人もそれを確認すると、小さくため息をつく。
「説明するのは面倒で嫌いだ。鍵を使え」
「千年錠を?」
「ああ。さあ、どうぞ」
帝人は両手を広げて胸を張った。
「いいんですか?」
「お前が聞いたんだろ。いいからさっさと貸せ」
「あッ」
帝人は翔榛が出した千年錠を掴むと、自分の胸に突き刺した。
するとリビングにあったテレビに帝人の心がさらけ出される。
どうやら記憶や、想いを映像に出すこともできるらしい。
画面の中にいたのは帝人だ。そして彼の背後には見覚えのある企業のロゴがある。
間違いない、デュエルモンスターズのカードを作ったオリジンダイスのロゴマークだ。
「すまない、帝人。お前にまで背負わせたくは無かった」
「気にしないでください父さん。父親のミスは、息子のミスでもあります」
「しかしいいのか? ゲームに参加することは、ディアハを行うということだ。魂を傷つけられれば、最悪お前は――……」
「構いません。むしろ、そんな危険な役目を背負う人間を一人でも減らせることができるのなら、喜んで参加します」
画面が切り替わった。ボロボロの服をきたメイプルちゃんが映る。
「お前が俺のパートナーか。しかし気に入らんな」
「……何が?」
「薄幸の乙女と言う名前だ。薄幸と言う部分が本当に気にいらん。お前、本当の名前は?」
「……忘れた」
「ならお前は今日からメイプルだ。メイプルちゃんだ」
「……なぜ?」
「メイプルシロップは俺がこの世で一番好きな食い物だ」
「………」
「少しは嬉しそうな顔をしろ! ところで誰か! コイツを風呂に入れてやれ! あとは綺麗な服を着せろ!!」
画面が切り替わる。メイプルちゃんが泣いていた。
「家族に申し訳ない? お前、そんな理由で自分の幸せを捨てるのか?」
分かった。じゃあお前はメイドになれ。
働け。そして給料をやる。それを貯めろ。
そしていつか俺が遊戯王になったらお前を元の世界に戻してやる。そしたら家族にお金を渡せ。
だから泣くな。メイプルシロップは俺が一番好きな甘いものだ。俺が好きなものは悲しんではいけない。
また画面が切り替わる。
メイド服姿のメイプルちゃんが首をかしげていた。
「どうして車椅子を?」
「歩くのは疲れるだろうが」
「そんな理由で? ふざけすぎでしょ。調子乗ってないで歩けよ馬鹿息子」
「酷すぎだろお前。いいかメイプルちゃん、ディアハにおいてライフポイントは即ち魂だ」
魂を傷つけられると肉体的にはまず疲労感が出てくる。
つまり直接体力が削られるわけだ。だからもしも疲れている状態で戦闘になった場合、体力が少ないほうが先に負ける。
「俺は必ず遊戯王になる。参加者を次々に見つけ出し、倒すのだ」
親父が作った儀式は不完全な点がある。モンスターを使えば一般人を攻撃できる。
それを知った奴らはたとえ善人であろうとも力に溺れておかしくなる可能性があるんだ。
そういうヤツが少しでも出てくる前に終わらせなければならない。
「だから少しでも体力を温存しなければならんのだ」
「でも毎日そんな事してたら逆に体力が落ちるんじゃ……」
「安心しろ。戦闘が無さそうな日はジムでトーレニングをしている」
「トレーニング後に襲われたら……」
「メイプルちゃんが死ぬ気で助けてくれ。いいか、もう一度言うぞ。カードゲームの方でもそうだった。ライフポイントは例え1ポイント差だったとしても残っている方が勝つんだ」
映像が砂嵐になった。
帝人が千年錠を胸から抜いたのだ。
「もういいだろ」
「……凄い。貴方に勝てる要素がひとつもない」
「それはどうも。分かったら、その千年錠を俺に渡してくれ」
翔榛は目を閉じ、歯を食いしばる。
「それは――ッ」
「?」
環境が違う。レベルが違う。帝人が主人公だ。
でも、それでも、翔榛はグッと歯を食いしばる。
「お願いがありますッ」
翔榛は頭を下げる。深く、それは深く。
「戦ってほしい。ボクは、貴方に勝ちたい!」
ソレは紛れも無い、翔榛の本心だった。
「くだらん。時間の無駄だ!」
「かもしれない! けどッ! デュエルモンスターズは、カードゲームはッ、無駄なものだと昔から言われた!」
「!!」
それを生み出した会社の人間に言うのは気が引けたが、それでも伝えなければならない想いがあった。
「ボクは千年錠で自分の部屋を見ました。そこには今にして思えば無駄な玩具ばかりだったけどッ、あの時は間違いなく宝物だったんです!」
何も考えず。何も苦労を知らず。ただ友達と惰性で生きるキラキラした時間。
くだらないが、本当に必要なものだ。いつか失う。いつかなくしてしまう。いつか捨ててしまう。
いくつのも玩具をダンボールの中に入れた。永遠に大切にしようと思っていた玩具を売った事もある。
「何度も聞いたしッ、何度も言われた」
例えば、そう――。
『お前、まだカードなんてやってるの? 痛いよ』
『カードとかいずれゴミになるじゃん。お金かける意味が分からないんだよね』
『金の無駄だろ。しかもやってるヤツら皆気持ち悪いし』
『俺、もう卒業したよ。あれは子供がやるもんさ。もっと他の趣味見つけろって』
いろいろな意見がある。事実、分からないでもない。
「でも、それでもッ、まだ捨ててない。まだ続けている!」
なんで? そんなの一つしかない。
「ボクはッ、デュエルモンスターズが好きなんだ!」
「………」
帝人はジッと、翔榛を見ていた。
それにしてもなぜだろう、泣けてくる。
翔榛は涙を零しながら言葉を続けた。
「どうして好きなものを止めなくちゃいけないんだ。ボクはそんなの、嫌だった!」
ましてや、思い出してしまうのだ。
どれだけもう一人の自分が否定しても、足を引っ張っても。
弟が、遊太郎が目を輝かせて言ってくれた言葉があった。
『兄ちゃんは強いなぁ!』
胸を張るには、それはあまりにも幼稚で痛々しく。それでも輝いた思い出だった。
楽しかったんだ。だから弟と一緒に遊んでいた。
「ボクは――ッ、勝ちたい! ボクの想いを確かめるために! 否定しないために!!」
「負けられない理由は誰にでもある」
「それはッ!」
「もちろん俺にも。そして貴様にもな!」
帝人は頷き、真っ直ぐに翔榛を見た。
「全ては――、運命! それを引き寄せるデュエリストの魂!」
「ッ!」
「言葉はいらない筈だ青堂翔榛!」
帝人はメイプルちゃんを呼ぶと、車椅子を移動させる。
「ついて来い。場所を変えよう」
「じゃ、じゃあ!」
「外に車がある。行くぞ」
翔榛とドリアードは笑い合い、強く頷く。
とは言え、メイプルちゃんは不服そうだ。
「時間の無駄だと思います」
「馬鹿を言うなメイプルちゃん」
俺は今、決闘を申し込まれたのだぞ?
尻尾を巻いて逃げる馬鹿がどこにいる。
俺は男だ、無礼な真似はプライドが許さん。
翔榛と帝人は採石場でにらみ合っていた。
周りには誰もいない。仮想空間を展開させるわけだが、それでも存分に暴れられる余裕があった。
ドリアとメイプルちゃんは離れたところで二人を見守っている。
ドリアはたとえ目が痛くなろうが、最後まで目をしっかり開いて翔榛を見ていようと思った。
一方で睨み合う翔榛たち。
「俺も沢山聞いたよ。貴様が言った言葉はな」
車内では無言だったが、先に口を開いたのは帝人のほうだった。
いろいろな批難を見てきた。耳にした。
「まあ分からんではない。俺もカード時代に大会を見に行った事があるが、まず会場が酷い臭いだった。奴等の家には風呂がないらしい」
「………」
「おまけに皆メガネをかけてる。あとはシャツがチェックだ。クローン技術が完成したのかと思ったぞ」
なんて答えて言いか分からない。翔榛は曖昧に笑う。
最近はそれっぽくない人も多いですよ。なんてフォローを言おうとしたが――
「だが皆、目が輝いていた」
「!」
「俺はむしろ尊敬の念を抱いたぞ。奴らは皆本気だった。本気で魂を晒してぶつけ合っていた」
そこには年齢も地位も関係ない。
飢えた目でフィールドを睨み、限られた手札で戦略を考える。
気高き魂たちが、そこには星座のように輝いていた。
「嬉しかったぞ。親父が作ったゲームがヤツ等を熱狂させている。だから俺も本気で遊んだ。奴等に恥じないようにな」
翔榛は頷いた。帝人も頷いた。
「俺がお前に付き合ってやるのは、お前が奴等と同じ目をしていたからだ! 誇り高き
帝人が腕を振ると、そこへガントレットのようにデュエルディスクが装備される。
さらにパズルのピースを握り締めると、それがデッキになった。
セットすると、バトルフィールドが展開される。
「心が渇いてるんだろ! お前の魂が叫んでる! 俺はその渇いた叫びを聴いたのだ!!」
翔榛は千年錠を天にかざし、捻る。
すると空が割れ、まばゆい光が翔榛を照らす。
「俺達の渇きを潤してくれるのはただ一つ! 魂がぶつかり合う決闘に他ならない!!」
翔榛は光を掴もうと腕を伸ばした。
そこへデュエルディスクが装備され、デッキが生まれる。
「聞かせてくれ青堂翔榛! お前はなぜ戦う! 前回は俺にやられるだけだった男が! この短い時間で何を願った!」
「裏切ってしまった人がいる!」
弟を想う。
「ボクを信じてくれた人がいる!」
ドリアードを想う。
「その人たちからもう目を逸らしたくない! 少しでも! ほんの少しでもカッコいい姿を視てもらいたいんだッ!!」
それは清算であり、なによりも始まりだ。
「何よりもボクがボクを好きになれる!」
「ほう!!」
「それに、この短い時間が教えてくれた!!」
翔榛を腕を突き出し、帝人を貫く勢いで叫ぶ。
「他の誰にも出せない答えがッ! ボクの
帝人は一瞬だけ怯んだような表情を浮かべたが、すぐにニヤリと頷いた。
「つまりは死なせてしまった弟への贖罪! 惚れた女へのカッコつけ! そして己のための欲望か!!」
見事に言い当てられた。翔榛も怯むが、あえてニヤリと笑ってみせる。
「結構! デュエリストたる理由としては、それくらいが丁度いいッッ!!」
お互い、五枚カードを抜いた。そして投げると、少し大きくなって自分の周りに結界のように広がる。
そして手の甲にある宝石を叩くと、カードが身に吸い込まれて待機状態となった。
『READY』『READY』
デッキのロックが外れる。カードを抜いても良い合図だった。
「「デュエル!!」」
お互いの声が重なった。
少し恥ずかしいが、最高に心地が良い。
「ドロー!」「ドローッッ!!」
お互いにカードを抜いて絵柄を確認。
そして両者、引いたカードを投げた。二枚のカードは手裏剣のように回転して真っ直ぐに飛んでいく。
そして翔榛のカードと帝人のカードがぶつかり合い、火花を散らして弾き合う。
「ベルネリス!」
帝人のモンスターは炎帝家臣・ベルネリス。
そして翔榛のモンスターは、何か真っ黒な石のようなものだった。
「成る程! そういう事か!」
モンスターは命令がなければ己の意思で動く。ベルネリスは現れた黒い塊に炎を発射した。
するとその衝撃で亀裂が走る。ヒビはすぐに広がり、黒い破片を落とす。
そうだ、これはタマゴだ。
「それがお前の――ッ!」
タマゴが割れた。
中から現れたのは黒いボディに、真っ赤な目をしたドラゴンであった。
「グオオオオオオオオオオオ!!」
竜が鳴き、尾でベルネリスを弾き飛ばす。
そのまま翼を広げて飛行。翔榛の背後に舞い戻った。
「そうだ! これがボクの思い出の結晶!
「素晴らしい! ではベルネリス、主君を呼びたまえ!!」
ベルネリスが跪くと炎が溢れ、その姿を覆い隠す。
そして炎をマントのように翻して現れたのはベルネリスではなく、炎帝・テスタロス。
二体のモンスターは敵を確認すると、全速力で距離を詰める。そしてご挨拶だとでも言わんばかりに正面からぶつかり合った。
激突の衝撃で火の粉が散った。その中でお互いは取っ組み合い、競り合いを始める。
テスタロスはレッドアイズの細い首を掴んで封じようとするが、レッドアイズは肩に噛み付き、力を弱めようと試みた。
モンスターの体が震える。それほど力は拮抗しているのだ。
「良い! お前の魂がお前のモンスターの力を高める!!」
「ッ!!」
デッキは一度カードを引くと、ロック状態となり、カードが引けなくなる。
しかし一定時間でそれは回復する。お互いは電子音を確認すると、カードを引いてモンスターや罠を補充していくのだ。
「!」
テスタロスは強固な鎧に覆われている。噛み付いたとしてもダメージは少ない。
故に、レッドアイズは火炎放射を行った。ただの炎じゃない、巨体を押し出すほどのエネルギーがある。
距離が開いた。双方のマスターは命令を瞬時にモンスターへ。
「黒炎弾!!」
「爆炎弾!」
レッドアイズの口から黒い炎の塊が発射される。
テスタロスがかざした両手から紅蓮の火球が発射される。
双方の弾丸はぶつかり合うと、激しい爆発を巻き起こした。結果は相殺。帝人の笑い声が響き渡る。
ちなみにモンスターには固有のスキルが存在するが、それもまた一定時間で使用可能となるのだ。
カードゲームをベースにした召喚バトル。これがディアハである。
「業火の申し子よ! 帝王の溶撃の発動を許可する!」
テスタロスの体が紅く発光すると、至る所が爆発を始めた。
炎のエネルギーが溢れているのだ。まさに噴火である。マグマを撒き散らしながらテスタロスは全速力で走り出した。
「煮えたぎるお前の
一方で目を細める翔榛。スキルを使えるのはコチラも同じ。
「見極めろ――ッ! レッドアイズッ! インサイト!!」
レッドアイズの目が光り、その感覚が研ぎ澄まされる。
テスタロスの動きがスローに感じられる。眼前に迫った拳も、蹴りも、レッドアイズはヒラリと交わしてみせた。
が、しかし思い出す言葉。魂をぶつける。
いいだろう。そういうのだろう? そういうのが欲しいんだろ! ボクも、アンタも!
その想いに呼応するレッドアイズ。
「捉えろ!!」
翔榛の命令に従い、レッドアイズがテスタロスにぶつかり合った。
密着する二体のモンスター。するとレッドアイズの体が光り輝く。
「
レッドアイズを中心に衝撃波が発生。
凄まじい爆発を起こすと、自分ごとテスタロスを消し炭に変えてみせる。
「グウゥウウ!」
「見事ッ!」
モンスターが消えたことで二人の魂にダメージが刻まれる。
だが、こんなもんじゃない。まだまだ始まったばかりだ。爆煙が晴れると、そこにまた黒いタマゴがあった。
それが割れ、出てくるのは黒竜の雛だ。周りの殻をムシャムシャ食べると、あっと言う間に"レッドアイズベビードラゴン"へと成長する。
「頼む! レッドアイズ!!」
翔榛のために、小さな黒竜が飛んだ。
しかし帝人は不動である。嫌な予感がする。
すると気づいた。地面にある石がコロコロと動いているじゃないか。
「これは……!」
「感じているか! この騒がしい宿命の風をッ!!」
激しい風だ。帝人の髪が舞う。
「どうしてだろうなァ! 吹きすさぶ風の中にはいつもデュエリストがいる!!」
レッドアイズは必死に逃げようとするが、もう遅い。風のうねりに巻き込まれてしまう。
あまりの風力に肉体は崩壊し、エネルギーへと変わった。
そして風は、嵐になった。竜巻だ。トルネードが帝人の背後に現れる。
分かっている。気づいている。竜巻の中に何かがいる!
「どうかな翔榛、この帝王の烈旋は!」
「涼しくて良い風ですね。でもなぜだろうッ!」
「?」
「風はこんなにボクを
「おやおや! 最大風速の筈なのに、まだ吹き飛んでいないデュエリストがいるな! これは楽しみだ!!」
(何言ってんだアイツら……)
意味わかんねぇ。
冷めた目をしているメイプルちゃんだが、気づけば手には汗が浮かんでいた。
隣を見ればドリアが祈りを捧げている。きっと翔榛を勝利を願っているのだろう。
ここは一つ、メイプルちゃんも真似をしてみる事に。
「ライザー!」
竜巻の中から、風帝が姿を見せる。
一方でまたも黒いタマゴが翔榛の頭上に現れた。
丸いタマゴに亀裂が走ったかと思えば翼が生えた。腕が出てきた。頭が伸びた。
「メテオドラゴン! 暴風を突き破れッ!!」
隕石竜が発射される。
しかしどうした事か、迫る風がそれを受け止めたではないか。
「無駄だ! そんなもので俺のライザーの風は破れない!!」
「いやッ! できる!」
「ほう、では聞こう! 何故ッ!」
「ボクができると決めたからだ!」
「あまりも浅はかな考えだとは!?」
「思わないッ!」
なるほど、確かに翔榛は怯んでいなかった。
あの日から、時間を進めなければならない。加速させなければならない。あの日を振り切らなければならない。
なら必要なのはスピードだ。分かってくれるはずだ、メテオドラゴン。
ごめんよ遊太郎。お兄ちゃんは酷いヤツだ。とってもダメなヤツだ。
でも、もしも帝人に勝つことができたのなら、お兄ちゃんはお兄ちゃんを赦せるんだ。
お前がカッコいいと言ってくれた自分を信じることができるんだ。
その時は、本当の意味で遊太郎を見つめることができるかもしれない。
「だから――ッ! 勝つんだ!」
「!」
メテオドラゴンの様子がおかしい。完全に風に負けている筈なのに。
「魂が燃える!」
メテオドラゴンが紅く発光していく。
「信念が紅蓮に染まっていく!」
形が変わっていく。
「アンタに黒星を叩き込みたくて! 魂がウズウズしてるんだッ!!」
「アレは! 進化しているのか!!」
その時だ。少しずつ、メテオドラゴンが帝人に近づいてくる。
「ボクの
「!」
メテオドラゴンの瞳が、紅く染まった。
「真紅眼の凶星竜! メテオドラゴンッッ!!」
「グッ! ワンフォーワン!!」
手足を真っ直ぐに伸ばしたメテオドラゴンはまさに流星。
風を貫くと、そのままライザーの腹部を貫く。
貫通し、風穴を開けたライザーはそのまま倒れるが、亡骸から天帝従騎イデアが飛び出してきた。
さらにイデアの力で隣に雷帝の家臣であるミスラが並ぶ。
「焦らせる……!」
「!」
風を切り裂いて突き進むメテオドラゴン。しかし彼が帝人を捉える事はなかった。
その前に帝王の連撃が叩き込まれたからだ。イデアとミスラがそれぞれエネルギーとなり、帝王がアドバンス召喚される。
光帝クライス。闇帝ディルグ。光と闇の奔流がメテオドラゴンを消し飛ばした。
さらに二体の帝王は翔榛に向かっていく。
「むッ!?」
しかし気づいた。なにやら霧が濃い。
「これでは翔榛の姿が見えないな……!」
だがどうした事か。これは幻視か? 真昼の夢か?
濃霧の中にひときわ輝くデュエリストの魂が見えるのは!
「スパークフィールド」
火花が散る。
おお見よ! あれぞまさに閃光のアンドロメダ。
霧が光を反射して、幻想的な世界が広がっていく。
「弟が好きだった。主人公の遊戯が使っていたモンスターだから」
「ほう……!」
「ボクは、デーモンを召喚する!」
霧が広がる。
クライスとディルグは気づいているだろうか? 霧が水滴となって、気づけば帝王の体は濡れていた。
滴る水は、電気をよく通す。今まさに激しい雷が二体の帝王に直撃し、爆発を巻き起こしたところだ。
「魔霧雨! するとおいでなすったか! 迅雷の魔王! スカルデーモン!!」
スカルデーモン。悪魔族の中でもかなりのレアカードだ。
「!」
そこで翔榛は気づいた。
クライスは倒れて消滅したが、ディルグがまだ立っている。
「これは……!」
ディルグは雷を纏っていた。
これはまさに、帝王の轟毅。雷で雷のエネルギーを相殺したのだ。
ディルグの力がエネルギーになり、帝人が投げたカードに吸収される。
落雷が起こった。地面に直撃した電撃から、雷帝・ザボルグが姿を見せる。
「――ッ!」
「フフフ……!」
呼吸が荒くなる。
汗が滲む。魂が痛みを放つ。
だがどうだ、それが心地いい。
「まだやるか? 翔榛!」
「もちろん。ここで諦めるなんてデーモンを使わせてもらってる遊戯さんへ顔向けができない!」
「諦めないか。いいぞ、その答えは耳に馴染む!!」
走り出すデーモンとザボルグ。
真正面からぶつかり合うと互いに両手を掴んで組み合う。
お互い電気の力を使うモンスターだ。バチバチと激しい音が耳を貫く。
その体格が有利に働いたか。どうやらパワーはザボルグがやや上といった所。豪腕を振るうと、デーモンを投げ飛ばした。
しかし翼がある。
デーモンは空中ですぐに体勢を整えると、腕を伸ばした。
爪に電撃が纏わり付くとソレが発射されていく。
鋭利な弾丸の連射、ザボルグはそれを受けて後退していくが、すぐに踏みとどまった。
ゴロゴロと空が唸る。
ザボルグが腰を落として腕を上から下へ振り下ろした。
すると空から落雷がデーモンに向かって落ちてくる。それはもはや落雷と言うよりは雷の柱だ。
しかしデーモンもまた雄たけびをあげて腕を下から上に振り上げる。すると同じように雷が地面から昇っていき、稲妻が激突する。
スパークが巻き起こる。雷撃が四散する。
そんな中、互いのモンスターは拳を握り締めて真正面。ど真ん中ストレートで打ち付けあった。
雷光が迸り、激しい衝撃が翔榛たちの体を痺れさせる。
「嬉しいですよ! 同じ事を考えているなんて!」
「これが一番分かりやすい方法だ! 単純な方がいい!!」
競り合いはややデーモンが上と言ったところ。
いや、違う。まだザボルグは本気じゃない。
「ライトニングオンスロート!!」
落雷がザボルグに直撃し、エネルギーを膨れ上げる。
「雷神拳ッッ!!」
電撃が拳へ収束していく。押され始めるデーモン。
「どうした? デーモンの拳が震えているな!」
だが翔榛の体はもう、震えていない。
「ボクが知っている武藤遊戯は、決して最後まで諦めなかった男だ!」
「……翔榛。ではこんな台詞を覚えているか?」
遊戯の言葉だ。
過去が積み重なって今があり、そして未来へ続いていく。
どんな過去も無意味なんかじゃない。全ては今の――、そして未来の自分へと繋がっているんだ。
「!」
グッと胸を掴む。弟の笑顔が見えた。
「確かにデーモンの召喚は遊戯のモンスターだ。だがそのデーモンは翔榛、お前の
「……感謝しますッ!」
翔榛はニヤリと笑った。
だから帝人もニヤリと笑った。
電撃が迸る。スパークする世界。勝利を欲する
「魔降ッッ雷ィイッッ!!」
翔榛の叫びに呼応するかのようにデーモンが――、いや
纏わり付く紅い雷が、ザボルグを浸食し、吹き飛ばす。
「驚いた! まさか雷帝の雷を呑み込むとは!!」
倒れたザボルグ。
「チャンスだ! デーモン!!」
デーモンは翼を広げて空を翔る。
ここでザボルグを倒せればと思ったが――
「甘いな! ガルーム!!」
ザボルグのシルエットが崩れ、風に変わる。
入れ替わりで飛び出してきたのは風帝家臣だ。空を飛びまわり、デーモンを翻弄する。
デーモンは近づけさせまいと雷球を発射するものの、ガルームのスピードが直撃を許さない。
そしてある程度距離が縮まると、ガルームはエネルギーとなって消え去った。
そのエネルギーを受けて具現するのは魔帝アングマール。長い脚から繰り出される回し蹴り。
しかしデーモンは右腕を盾にしてそれを防ぎ、はじき返す。カウンターにアングマールの胴体に電撃を纏った拳を打ち込んだ。
アングマールは衝撃からその場で回転。
しかしその勢いを味方にしてさらに回し蹴りを打ち込む。右足の踵がデーモンの頭部を揺らした。
衝撃で倒れる二体のモンスター。だがすぐに立ち上がると、アングマールは光弾を。デーモンは電撃を発射して、追撃のダメージを与えていく。
「魔帝よ! お前の力を見せてやれ!!」
アングマールがスキルを発動する。
魔法を操る帝王だ。腕を振ると、デーモンの周囲に光の護封剣が出現し、動きを封じてみせる。
「さらに! エネミーコントローラー!!」
アングマールが巨大なゲームのコントローラーを生みだす。
さらに体が光ると、コントローラーに吸収されていった。それだけの力を込めたのだ。
コントローラーのコードが勝手に動き、デーモンへ突き刺さる。
「お前のモンスターを頂くぞ」
「そうはさせない! デーモンには特殊能力がある!」
「なにッ!」
するとデーモンの頭上に巨大なサイコロが出現する
「
「なるほど結末は神のみぞ知ると言うわけか!!」
「決めようじゃないか! どちらが勝者に相応しいかを!」
翔榛が腕を上に振るうと、それにあわせてサイコロが打ち上がった。
「「運命のッ、ダイスロール!!」」
サイコロが落ち、跳ね、そして転がり――
『●』
「1だ! つまり、無効化!!」
デーモンが放電を行うとエネミーコントローラが破壊される。
次の召喚は許したくない。翔榛はすぐにデーモンを帝人へと向かわせるが――
「え!?」
デーモンが、消えた。
一瞬だった。帝人の前方の空間が裂けたのだ。
デーモンはそこへ吸い込まれてしまい、空間の裂け目はすぐに閉じて何事も無かったかのように戻る。
「これは! 次元幽閉!?」
「その通りだ。トラップカードの使い方は知っているか?」
スキル以外の汎用的なトラップは、カードゲーム同じく『セット』する事により発動待機状態となる。
そして各々設定されている秒数が経過すれば、発動が可能になるのだ。
とは言え、セットされたカードは二秒で相手からは見えなくなる。
つまりリアルタイムで動く戦闘のなかで二秒の隙があれば、罠を隠せるのだ。
「ぐ――ッ!!」
「さて、お互いモンスターも減ったな」
どちらも呼吸が荒い。
精神だって蝕まれている。少しでも気を抜けば不安に飲み込まれる。
が、しかしまだ倒れない。
「膝すら付いていないか。どうやら千年アイテムがお前の魂の容量を増やしているのだろうな」
だからこそ、そろそろ本気でいかなければならない。
「デュエルリンクスを使う!」
「!!」
「来いエイドス!」
冥帝従騎を召喚した時だ、帝人の頭がガクンと落ちた。
ここはチャンスだ。翔榛は手の甲にある宝石に触れ、手札を呼び出すと、少し前に引いていた罠カードをセットする。
一秒、二秒、カードはもう帝人には見えない。
「ギアフリード!」
一方で翔榛もギアフリードを召喚すると、デュエルリンクスを使用した。
それはつまり魂の接続。使役しているモンスターになるのだ。
言い方を変えれば憑依ともいえるか。つまり今、ギアフリードは翔榛である。
自由に体を動かせるし、後ろを見れば本体が気絶している。
これによりモンスターを完全に自分の思うように動かすことができるのだ。
ただし主観となるため、戦闘に自信がないものが使うと逆に弱体化するのだが。
とは言え超人的なスペックがある。エイドスは刀を抜き、ギアフリードは右手にある武器を構える。
「………」「………」
一瞬の沈黙。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!!」
「ハァアアアアアアアアアアアア!!」
直後の咆哮。
地面を蹴り、線になる世界。
ただ相手だけが鮮明に映っていた。
「ダァアア!!」「ゼイッッ!!」
武器に向けて武器を振るった。だからぶつかり合う。
火花が散り、何もしていないのに後ろへ滑っていく。
両者踏みとどまった。睨みあい、お互いは平行に並びながら走る。
ともあれ、ギアフリードには明確な狙いがある。忍ばせたトラップは聖なるバリア・ミラーフォース。
相手の攻撃を反射する強力な結界だ。その発動可能時間が来るまで時間を稼げばいい。
おおよそ、約30秒ほどか。
「スゥウウ……!!」
エイドスは思い切り息を吐き、直後吸い込む。
刀を一度鞘に収め、腰を落とした。居合い切りの構えだ。
隙があるようで無い。しかし待ちの姿勢は時間を稼ぐには丁度いい。
「………」
だが、待っているだけはデュエリストとしてはつまらない。
ギアフリードの瞳が赤く光る。同時に、手には鎖付きブーメランが装備された。
「あの頃、ボクらの世界は狭かった!」
「ましてや、子供の時はまだルールが違っていたんだ。生贄召喚もなくてっ、レッドアイズドラゴンを持っているボクは誰にも負けなかった!」
「ああ、よく分かるッ!」
「かけっこじゃ一番になれなかったけど、お勉強でも一番にはなれなかったけど、デュエルモンスターズなら一番になれるんじゃないかって思ったんだ!」
ブーメランの刃が竜の形に変わる。
「でも成長して、いつしか上には上がいる事を思い知らされた。一番? いやいや、下から数えたほうが早かったかも」
「俺がいるからな!」
「はは、そうかも。悔しかったよ。でも……、嬉しかった」
他にもこんなにデュエルモンスターズをプレイしている人がいるんだ。
こんなにも頂点を目指している人がいたんだ。
「こんなに素晴らしい世界はない」
ギアフリードはブーメランを投げた。
刃は、エイドスに当たる前に、地中から突き出た氷柱によって破壊される。
「え……?」
冷気が、帝王の凍気がブーメランを。そして仕掛けていたミラーフォースを氷漬けにして粉砕する。
凍てつく波動を感じてギアフリードは其方を見た。するといるではないか、マントをはためかせている帝王が。
「メビウス……ッッ!!」
「そうだ! 氷帝メビウス! お前がご丁寧にトラップを仕掛けているときにエッシャーを召喚していたのだ!!」
デュエルリンクスによる気絶。アレは演技だった。
帝人は気を失ったフリをして、翔榛がトラップカードを仕掛けるのを確認していた。
そしてその間に氷帝家臣を召喚しておき、頃合を見てアドバンス召喚を行ったと言う具合である。
さらに氷帝の冷気はギアフリードの足もとまで侵食していた。
動き出そうとするが、足が凍り付いて地面から離れない。
そうしているとエイドスが帯刀したままスリ足で近づいてくる。
「フハハハ! 覚悟ッッ!!」
「う――ッッ!!」
逃げ出そうとするが、それができない。
エイドスは踏み込んでいた。懐に入り、そして刀を抜く。黒い斬撃がギアフリードの黒を塗りつぶす。
「グアァアァア!!」
ギアフリードは地面を転がり、装甲がバラバラになっていった。
おまけにメビウスが追撃の冷気を発射。砕けた装甲に染みわたる絶氷。
気づけば完全にギアフリードは氷の塊になっていた。
それをエイドスが刀を刺して砕く。ギアフリードは破壊され、デュエルリンクスが解除される。
「ガァアアア! ヅゥウァア!!」
翔榛は思わず地面に倒れた。
デュエルリンクスを行っているモンスターが死ぬと言うことは、翔榛自身が死を体験するも同じだ。
当然それだけ精神的なダメージを負い、それは魂を侵食する。
ライフポイントの著しい減少。目眩がして上手く立ち上がれない。耳鳴りがする。感覚が遠のいていく。
しかし翔榛は地面を殴りつけた。まだだ。まだ終わるわけにはいかないのだ。
大きく息を吸い込み、体を起こす。
「無駄だ、もうお前にできる事は何もない!」
「それは違うッ!」
メビウスが巨大な氷柱を発射した。
それは大きな氷の杭だ。鋭利にとがった部分が翔榛を貫こうと飛来する。
「心がッ、魂が死なない限り!」
その時、翔榛の前方の空間が揺らめく。浮かび上がる二つの紅。
「ボクの
「!」
魂の共鳴。
蘇生スキル・レッドアイズスピリッツ。
翔榛の勝利を欲する心がレッドアイズの魂に結びついた。
だからこそ引き上げる。具現する。再召喚の時だ。
蘇ったレッドアイズブラックドラゴンは、黒炎弾で目の前に迫った氷柱を融解させた。
蒸発していく氷の塊。帝人が唸る。
「ならば直接お前の零度を味合わせてやれ!!」
メビウスは優雅にマントをなびかせると、レッドアイズに向けて足を進めていく。
一方で飛翔するレッドアイズ。迫る吹雪の中を突っ込んでいく。強引に冷気を突破すると、そのまま飛び蹴りを仕掛けた。
命中。しかしメビウスは腕を盾にそれを防いでいた。腕には氷が纏わり付いており、衝撃を通さない。
レッドアイズは続けざまにサマーソルトキックのように尻尾を振るい上げた。
鞭のような尾をうけて後退していくメビウス。しかしマントを翻すと、凄まじい勢いの吹雪が発生してレッドアイズに直撃する。
「氷河期を味合わせてやる!!」
「レッドアイズスピリッツは魂の共鳴」
「ッ?」
「ボクの魂がレッドアイズには流れ込んでいる筈だ」
だから分かる。ちゃんと伝わっている筈だ。
「10年溜め込んできた。その欲望、勝利への渇望はッ、そんな氷じゃ
「これは!!」
レッドアイズの体が熱を放つ。赤い炎が身を包む。
翼の形が変わった。溢れる炎がレッドアイズの姿を変えていく。翼の上部が赤く、熱く燃え滾る!
「レッドアイズ! ブラックフレアドラゴン!!」
真紅眼の黒炎竜。
その激しい炎がメビウスの冷気をかき消していく。
「ダーク・メガ・フレア!!」
翔榛の叫びに応えるレッドアイズ。
特大の火炎弾を発射し、メビウスを焼き焦がそうと試みる。。
「!!」
しかしメビウスはマントを翻して厚い氷の壁を出現させた。
そこにぶつかる炎塊。競り合いの開始だ。炎が氷を溶かしていき、蒸気が激しく巻き上がる。
これは手助けをするべきだ。エイドスはメビウスのもとへ向かおうと走る。
そこで鎖が擦れる音が聞こえた。
そして激しい抵抗感。見れば先程破壊したはずのブーメラン、鎖付き
まさかと視線を移動させると、レッドアイズの上に先程消え去った筈のギアフリードが立っているじゃないか!
「蘇生スキル! リターンオブレッドアイズ!!」
真紅眼の鎧旋なのだ。盛り上げ役がいなくては申し訳が無い。
だからこそ共にやってきた。ギアフリードは鎖を引き上げ、エイドスを引き寄せる。
「メビウス!!」
名を叫ぶと、メビウスは言葉がなくとも意図を理解した。
目の前にある壁への冷気放出を止めて、エイドスを縛る鎖に向かって氷柱を飛ばす。
そう、つまり防御の放棄。炎塊は氷を突き破るとメビウスに直撃し、爆散させる。
「――ッ、すまない!」
しかしおかげで氷柱は鎖を破壊した。
地面に落ちたエイドスはブーメランを振り払うと、走ってきたギアフリードと武器をぶつけ合う。
「デュエルリンクスを再使用しているな! 体の負担も大きいぞ!」
「ああ! だからッ! そろそろ終わりにしましょう!」
「いいだろう! 望むところだ!!」
エイドスは思い切り体を捻りながら刀を抜き、斜めに振り下ろした。
狙うは左肩。しかしギアフリードはそれを腕の盾でガードする。普段の翔榛ならば反応できないスピードだったが、今はギアフリードなのだ。
いくら精神で生み出したモンスターとは言え、微弱な魂は宿っているのか。
しかし油断していた。
忘れてはいけない、リアルタイムバトルだと言うことを。
攻撃を防いだ事に感動していたらエイドスの足裏が腹部に直撃した。
痛みと衝撃は確かに伝わってくる。息が止まった。倒れそうになるから勝手に足がバタバタと動いて後退していく。
するとエイドスは腿に装備されていた棘を抜き、それを投げた。
どうやらクナイのようだ。しかも抜けばすぐに新しいのが生まれるため、連続で投擲して、ギアフリードの鎧を削る。
だが、やられてばかりではない。
ギアフリードは踏みとどまると前進を開始。剣でクナイをはじきながら、確実に距離を詰めていく。
さらにここでレッドアイズインサイトの発動。ギアフリードの目が赤く光り、飛んで来るクナイが止まって見えるようになった。
切り払いで前方にあるクナイを叩き落すと、身を乗り出して地面に手をついて前転を行う。
そのスピード。一気にエイドスの懐へ入った。
「もらった!!」
エイドスはマントを掴んで盾のようにするが、もう遅い。
ギアフリードが突き出した剣は、エイドスの体に届いて沈んでいく。
だが違和感。あまりにも沈むスピードが速い。剣は確かにマントを貫いているのに。
いや、いや、いやッ、違う。貫いたのはマントだけだった。いつのまにかエイドスの姿が消えている。
「あ、あれ!?」
マントを破ってみるが、何も無い。
すると背中に痛みと衝撃が。エイドスは後ろに回っていたのだ。刀を振り下ろし、縦一直線の斬撃を刻み込む。
血の様に火花が散って、ギアフリードはヨロけながら、そのまま地面に膝をついた。
「うぐッ、がは――ッッ!!」
動きが完全に止まった。どうやらもう終わりのようだ。
ライフポイントが減り、立ち上がる力がないらしい。
故に、エイドスは力を込める。
「ここまで食い下がるとは思わなかった。その首を、この一太刀によって跳ね飛ばしてやる」
エイドスは刀を構えると、思い切り真横に振るう。
「!!」
だが、手が伸びてきた。
ギアフリードはその左手で刀を掴んだのだ。
思い切り刃を握っているが、手も装甲に覆われているため耐えられる。
「フェイクですよ!!」
ギアフリードは一気に振り返りながら立ち上がった。
そして刀を左手で掴んだまま、右手にあった刃を振るい上げ、エイドスを斬り上げた。
「ぐがッッ!!」
あまりの衝撃と力により、エイドスの体が回転しながら空に打ちあがった。
バク宙を連続で行っているようなものだ。ワイヤーアクションさながらである。
もちろんこれは、またとない大チャンス。空中では身動きが取れない。
だからまず落としてはいけない。落下してきたエイドスの腹に思い切り突きを叩き込み、斜め上に吹き飛ばす。
エイドスが離れていく中、彼は見た。全速力で向かってくるギアフリードを。
「ハァアアアアア!!」
ぴったりと張り付いたギアフリード。
エイドスが再び地面に落下するその時まで、ただひたすらに、がむしゃらに、ひたむきに刃を刻み付ける。
上から、下から、斜めから、払い、突き、抉り、打ち込み、切り伏せ、赤黒い斬撃が幾重にも見えた。
斬りまくるのだ。刃は熱を帯び、いつからか炎を纏うように。
「ウガァアッ! ズゥォオ!!」
エイドスが倒れた。まだ終わらない、ギアフリードは腕を伸ばして首を掴んだ。
そして引き上げると、渾身の頭突きを撃ち当てる。
脳が揺れる。フラッシュバックしていく思い出。
「ォオオオオオオオオオオオ!!」
意味も無く叫んでみた。いや願望はあった。どこかにいる君に、この声が届くように願った。
そしてギアフリードは剣を真横に振った。炎の斬撃が発射されてエイドスの身に刻まれる。
ギアフリードは一歩前に出て、次は真上から真下に刃を振った。
「
炎の十字架がエイドスに刻まれる。
爆発が起こった。エイドスが消え去り、帝人がハッと顔を上げる。
「うがぁぁ……ッ! ぅ、ぐッ!」
胸を押さえる。まだ痛みが残っているかのような錯覚。
帝人は車椅子から転げ落ちそうにのを何とか防いだ。
呼吸を荒げて地面を見る。ボタボタと汗が落ちてきた。
敵を睨みつけると見えたのは、ギアフリードと、その隣に着地したレッドアイズ。
不利な状況だ。
しかし翔榛も地面に伏せてゼェゼェ息を荒げている。
一旦デュエルリンクスを解除したのだろう。
当然だ、あれだけ激しく動けば魂を消費する。
「……翔榛くん」
ドリアは思わず胸を、心臓があるところを掴んだ。
なんて痛そうな。なんて辛そうなんだろう。
「帝人さま」
メイプルちゃんも呟いた。
あんなに汗だくになって、あんなに痛そうに呻いて。
「………」「………」
ドリアもメイプルも、ふいに分からなくなる。
そんなに頑張ることなんだろうか? 痛い思いをして、辛い思いをして、そこまでしなければならない事なんだろうか。
この戦いに意味はあるんだろうか?
((でも))
同じ事を思った。打ち合わせなんてしてないし、言葉にもしていない。
((たのしそう))
ドリアとメイプルは本当に同じ事を思った。
(ああ、翔榛くん。なんて楽しそうなんでしょう)
(帝人さま。凄く楽しそうだな……)
それに、嬉しそうだ。二人は笑っていた。
遥か先に見える互いを確認しながら、確かに笑っていたのだ。
「ふふっ! ふふふふふ!!」
「うはッ! うはははは!」
ゲラゲラ笑う。馬鹿みたいに。
「そうか! フェイクか! なるほど、そうだな、嘘をついたりブラフを用意するのもデュエリストの基本だ!」
「そうですね! だって貴方、首を狙うって言っちゃってたし!」
「ンハハハハハ! 確かに! ここを攻撃しますと敵に伝えるアホがどこにいると言う話だな! ハハハハ!!」
二人はまた、ウヒャウヒャと笑う。
「楽しいなぁ」
「ええ、本当に――ッ!!」
ポタリと、汗に混じって涙が落ちた。
だから翔榛はそれを拭うと、帝人を真っ直ぐに睨みつける。
「でも、勝てばもっと楽しい!」
「フム、違いない!」
デュエリストなら、皆思う。
「いい目をしているな翔榛! デュエリストの眼だ!!」
「!」
「戦う価値のある男の
だからついついその奥を見てしまう。悪い癖だ、綺麗なものは、その深層まで覗いてみたくなる。
だから帝人は反射を起こすように右目を抑えた。
「いかんなこれはッ! お前の
翔榛は笑った。この全身から湧き上がる高揚感。
そうか、これが決闘者の喜びと言うものなのか!
だが、しかし。楽しい時間もいつかは終わる……。
お互いは理解していた。これで最後だ。これで終わりだ。
「待たせたなルキウス」
カードを投げた。帝人の前にゆるキャラのような家臣が出てくる。
「ヤツを呼んでくれ」
ルキウスは大きく頷くと、エネルギーとなって闇に変わる。
空間が歪む。闇の球体が現れる。そこから姿を現したのは、邪帝ガイウス。
「本気で……、いいや
帝人が指を鳴らすと、ガイウスがマントを広げた。
何か、声が聞こえる。妬み、恨み、辛み、嫉み。数多の亡霊が浮かび上がる。
「俺は今まで何人もの人間を倒してきた!」
「ッ」
「のし上がると言うことは、蹴落とすことだ! 綺麗ごとは要らない! 俺は多くの人間の夢を奪い、プライドを踏みにじり、自尊心を破壊した!」
怨念が吼える。
「だがその恨みは全て背負おう! その覚悟が俺にはある! 何故か分かるか青堂翔榛!」
「……そうまでして、目指すべき場所があった」
「見事! その通りだ!!」
怨念がガイウスを包み込む。
ガイウスはそれをエネルギーへ変えた。これが帝王の深怨である。
怨念が、闇が消えうせる。立っていたのは――
「これが俺だ! これが俺の帝王だ!! 怨邪帝ガイウス!!」
強化されたガイウスへデュエルリンクスを行う。
両手を広げ、高らかに叫んだ。
「遊戯王になるのは俺だ! この伊集院帝人の辞書に、敗北の二文字は存在しないッ!!」
凄まじい信念だ。
翔榛を目を閉じ。改めて己の魂と向き合う。
ごめんよ遊太郎。
兄ちゃんはきっと逃げてただけだ。いろいろな想いや欲望をねじ込んで、それを全部お前のためと嘘をついてた。
お兄ちゃんはデュエルモンスターズが大好きなんだ。だから止められなかったんだ。
お兄ちゃんはドリアさんが好きなんだ。あの人に振り向いてほしいんだ。
お兄ちゃんはお前が好きなんだ。だからボクのせいでお前を死なせてしまって、とっても悲しかったんだ。
でもそういう思いから、いつも目を逸らした。それが遊太郎の為になる訳ないのに。
「危ない忘れてた。ボクは生きているんだった」
全てを受け止め、そして向き合うことだ。
逃げてもいい時もあるけど、これは受け止めなきゃいけない。
そうだろ? ボク。だから向き合うんだ、今一番大きな想い。願い。魂の叫び。
「ボクは――ッ、帝人さん。貴方に勝ちたいッッ!!」
「それでいい、その尽きぬ欲望こそが遊びの極致ッ!」
いくら高尚な志があっても、手札事故で何もできずになぶり殺しにされる。
そういう面もあるゲームではないか。そういう何が起こるか分からないゲームで戦っていたではないか。
まあ、とは言え。
魂が輝けば、勝利の女神は其方を見るかもしれない。
だからアピールをしなければならない。
「運。そうだ、運命を変える魂の輝き。お前はどうする! 何で来る?」
帝人に煽られ、翔榛は頷いた。
「こんな言い伝えを知ってますか?」
「?」
「青き竜は、勝利を齎す」
「フム。ブルーアイズか」
ブルーアイズホワイトドラゴン。
レッドアイズとは対になる存在であり、そのスペックを見ればレッドアイズよりも遥かに優秀である。
「しかし――! 赤き竜が齎すものは勝利に非ず。可能性なり!!」
「……ただし?」
帝人はニヤリと笑った。
翔榛はニヤリと笑った。
同じ趣味を持っている人と
「――ただしッ、戦う勇気のある者だけに!!」
カードを掴み、翻すと、その絵柄が背後に大きく表示される。
「"融合"! これが
レッドアイズとギアフリードが光となり、螺旋を描いて交じり合う。巨大なシルエットが形成され、光が弾けた。
そこには装甲を纏ったレッドアイズの姿が。
腕を振るうと、ギアフリードの鎧が刃に変わって腕に装備される。
デュエルリンクスはもちろん発動している。レッドアイズとガイウスは――、翔榛と帝人は睨み合う。
「面白い! 常世の深淵ッ! "果ての世界"に除外してやる!!」
ガイウスは両腕から空間を捻じ曲げるエネルギー波を放出。
それはらせん状に束ねられると、レッドアイズに向かっていく。
「ディーゴードロスト!!」
吼えるガイウス。しかしレッドアイズは地面を踏み込み、そして思い切り腕を振るった。
「砕刃鋼煉剣ッッ!!」
刃が腕から離れ、ブーメランのようにガイウスのエネルギーに向かっていく。
直撃する二つのエネルギー。するとどうだ、刃がエネルギーを切り裂いていくではないか。
とは言えガイウスの力もある。怨念のエネルギーが刃を腐敗させていき、双方の攻撃はお互いを打ち消す形に終わった。
バックステップ。レッドアイズはガイウスから大きく距離を取る。
「カードの効果が、ある程度能力に関係してるなら、対象を取るガイウスの除外をスラッシュドラゴンが無効化したわけか」
翔榛たちから少し離れた場所では、新渡戸とキッドが駆けつけていた。双眼鏡で戦いを確認している。
「こうなると互いの攻撃力は共に2800。スペックは関係ないとは言え――ッ!」
ある程度は、同じ力と言うわけだ。
果たしてどちらが勝つのか。そんなものをいちいち考えるのは無粋な行為だ。
少なくとも翔榛と帝人は分かっている。もう言葉は要らなかった。
デュエリストであると言う証明だけが、あればいい。
「――ッ!」
レッドアイズの腕に炎で出来た刃が装備される。
「………」
ガイウスが腰を落とした。両手に怨念の力が纏わり付いた。
決める。お互いは目を細める。
「………」「………」
しばし、静寂。
お互いはお互いの動きを伺う。
だが、グッと、レッドアイズが踏み込んだ。
それが合図だった。互いを地面を蹴り、全速力で走り出した。
「ウォオオオオオオオオオオ!!」
「オオオオオオオオオオオオ!!」
火力が増す。怨念が膨れ上がる。
一直線に。愚直に。ただひたむきに走り、距離を詰めた。
「
「テラァアアアアアズッ!」
黒く燃え滾る刃と、怨念を纏った拳が交差する。
「
「ストリィイイイイイイイムッッ!!」
お互い、通り抜け、そこで踏みとどまる。
背中合わせとなるレッドアイズとガイウス。いや、翔榛と帝人。
静寂が訪れた。沈黙が続く。どちらも構えたままで停止する。
息が止まる感覚だった。時間も止まっているような気がした。ドリアは、メイプルは、新渡戸は、キッドは、瞬きすら忘れる。
「―――」
グラリと、体が揺れる。
倒れたのは――、レッドアイズだった。
「グッ! す……、素晴らしい!」
立っていたのは、ガイウスだ。
「まさかッ、ここまで苦戦させられるとは思ってなかったぞ!」
ガイウスは振り返ると、一歩足を前に踏み出す。
「お前と戦えた事を――……」
そこで、停止した。
「ウ――ッ」
胸を押さえる。傷があった。
「ウォ……!!」
レッドアイズが刻んだ一閃があった。
「オォォッ……ッ」
熱い。
「ォオオォォオオォ!?」
熱い! 熱がある! 傷が――ッ!
燃 え て い る!
「グアァアヅッ!! パーフェクトだッ! 合格だぞッッ、翔ば――」
傷が燃えた。あっと言う間に黒い炎が全身に回る。
轟々と燃えたガイウスは、そのまま地面に倒れ、直後大爆発を起こした。
が、しかし怨念の力は本物だった。レッドアイズも既に事切れていた。
翔榛は、燃え尽きたように仰向けに倒れ、空を見上げていた。
帝人も、真っ白になって椅子に持たれかかり、空を見上げていた。
青い空に白い雲が映えて、とても綺麗な青空である。
勝負は、引き分けだった。
「………」
ライフポイントがゼロとみなされたのか。パズルのピースが排出された。
奇しくも、帝人はまだ翔榛のピースをパズルへ埋め込んでいなかった。
ディアハに勝利したものはパズルを結合させる権利を手に入れる。だが保留もできるようだ。
ドリアとメイプルはそれぞれのパートナーに駆け寄っている。
地面に落ちた翔榛のピースと、それなりに連結が進んでいる帝人のピースを手にしたのは、新渡戸だった。
「なあ翔榛、もしもオレがここでお前らのピースを盗んで。すべて計画通りだぜ、ガハハハハとか笑い始めたらどうする?」
「……友達やめる」
「そりゃ困る」
新渡戸は翔榛のピースを翔榛へ、帝人のピースは帝人に向かって投げ渡す。
「これでいいだろ? 次期社長さん」
「……うむ」
どうやら帝人は納得しているようだ。
「ま、見届けたし。帰ろうかな。行こうぜキッド」
「ああ」
新渡戸とキッドは踵を返して帰路に着く。
途中、帝人が声をかけた。
「次はお前と戦いたい。お前からも良い熱を感じる」
「よしてくれ。これ以上ランクは落としたくない」
新渡戸は手をヒラヒラ振って帰っていった。
途中、コンビニによってコーラとジャンプを買った。
「それにしても翔榛が吹っ切れてくれてよかった。最後の勝負はどっちが勝つか分からなくてヒヤヒヤしたぜ」
「嘘つけよ」
壁にもたれ掛っていたキッドは鼻を鳴らした。
「お前、視えてただろ」
「そうだけど、分からないだろ。運命は変わるかもしれない」
ニヤリと笑った新渡戸の首には、千年タウクが輝いている。
「それにしても本当に千年アイテムは人を選ぶのか? これ一年前に酔っ払った親父がリサイクルショップで500円で買ってきたんだぞ」
「選ぶかもしれないし、偶然かもしれない。全ては運命だ」
「なんだよそれ。まあいいや」
便利だから貰っておくとしよう。
これがあれば、来週のジャンプの内容も分かるし。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
帰りの車のなかで、メイプルちゃんは訝しげな表情を浮かべる。
そして隣に座っている帝人をジットリと睨んだ。
「どうして本気を出さなかったんですか? 半分の力も出してないでしょ?」
「………」
「舐めプ。最低」
「やめてくれメイプルちゃん! 少なくとも俺は本気だった」
「でも帝王さん。まだ使ってないのいるし、進化させたのもガイウスさんだけだし……」
「確かにまだ見せていない帝王達はいる。そう、出せなくて申し訳がない。いつかまた"真帝王領域"へヤツを招待したいものだ」
「それもあるけど、一番は……」
メイプルちゃんは自分の右目を指差す。
「やっぱり。舐めプやろう」
「よしてよメイプルちゃん!!」
帝人は重い腕をなんとかあげて、右目のコンタクトレンズを外す。
特注のコンタクトレンズだった。これがあれば違和感が消える。
「
「………」
「魂は同じ温度でぶつかるからこそ熱い火花を散らすのだ! 分かってくれるなメイプルちゃん」
「別に。意味不明」
「あれま」
嫌な沈黙が流れる。するとメイプルちゃんは髪を弄りながら問い掛ける。
「いいかげん教えて欲しいです。その眼、どういう能力なんですか?」
「適当な態度で聞かないでくれ! しかしいくらメイプルちゃんでもそれだけは教えられない。これはとても重要な力だ。漫画も読むな、アニメも見るな。絶対だぞ! 命令だ! お前はメイドだ! こればかりは従えよ!!」
「はぁい……」
念を押すとメイプルちゃんは分かってくれたようだ。
帝人はメイプルちゃんをジッと見る。悪い癖だ。ついつい発動してしまう。マインドスキャン。
「時にメイプルちゃん」
「はい?」
(なんだろう……?)
「今日も美しいな」
「適当なお世辞、0点です」
(えッ! う、うう嬉しい! ど、どうしたんだろう帝人様ったら……!)
「適当ではないのに! 酷いぞメイプルちゃんは!」
「帝人様の頭のほうが酷いです」
(あぁぁあ、違うの! こんな事ッ、言いたくないのにぃぃ。き、嫌われたらどうしようッ、やだ、帝人様。私を嫌いにならないで……!!)
「ハハハハ! メイプルちゃんは面白いな!」
「私で遊ばないで」
(はぁぁ、良かった! 帝人様すごく優しいなぁ。私も素直になりたいのに、どうして酷いことばかり……、うぅ)
「よし、今日は寿司でも食いに行くか!」
「引き分けたのにですか? 普通お祝いは勝ってしますよね。頭でも打ったのかな?」
(あぁぁぁ゛、だから違うってぇえ。どうして私は素直に帝人様を褒められないのぉお!)
(あれ、でもお寿司って私の好きな食べもの。帝人様はお肉のほうが好きなのに……。もしかして帝人様、気を遣ってくれたのかな……?)
(嬉しい。帝人様。好き……!)
(好き。好きです。好き好き。大好き)
(……ちゅき)
ツンデレめ!
帝人はニヤリと笑うと、眼を閉じた。
メイプルちゃんは何も知らない。気づいてない。
「それにしても、今日は本当にお疲れ様でした。見事でしたよ」
「はぁ、それはどうも」
帰路につく翔榛とドリア。
現在、ドリアが翔榛をおんぶしていた。
「あの、どうして少し離れた場所で降ろしてもらったんですか」
「お気になさらず。こうしたかったものですから!」
「恥ずかしいんですが……!」
「必要な事ですわ」
ドリアはニコニコ笑っていた。
「少しは前に進めましたか?」
「はい、きっと。今度遊太郎のお墓に行こうと思います。いろいろ伝えたくて」
「そうですか」
そこで少し、間が空く。
しかし翔榛は、ギュッとドリアの肩を握った。
「ドリアさん、ボクを選んでくれてありがとうございます。貴女がいなければ、ボクはまだ……」
「理由はどうであれ、あなたは襲われていた人を助けようとしました。私はその善意を信じたまでです」
千年アイテムの所持者であるなんて知らなかったし、全てはたまたまだ。
「魂が貴方を導いたのかもしれませんね。私は何もしていませんよ」
「………」
新しい決意が生まれた。
「ドリアさん。ボクは、遊戯王になります」
「まあ!」
「もちろん帝人さんは信頼できる人です。けれど――、ボクは頂点を目指してみたい」
正しい王になり、世界を救う。
それにはきっと色々な壁が待っているのだろう。
まだ見ぬ世界が広がっているに違いない。だが、狭い世界に閉じこもっていたからこそ、それが見てみたくなった。
「もし、良かったら。一緒にボクと同じ景色を見てくれませんか?」
「もちろん! 喜んでお付き合いします! 私は貴方のパートナーですから」
「……!」
嬉しそうに微笑む翔榛。
そこでドリアは眼を光らせる。
「ところで帝人さんは、貴方の戦う理由の一つに、惚れた女性のためと言っていましたね」
「え゛ッ!」
「誰なんですか? 教えて欲しいものですわ。ほほほ!!」
「いやッ、それは……!」
「あら照れてしまって! 良いんですよ。秘密にしますから!」
「からかわないでくださいよ!」
「でもこの短い時間で貴方を信じた女性が二人もいたかしら? うーん分かりませんね。もしかして始めの文字は、ド、かしら?」
二人は恥ずかしそうにしながらも、笑い合って帰っていった。
翔榛は心に花が咲いたのを感じた。
この花だけは枯らさないようにしようと思った。
遊★戯★王『アドバンスチルドレン』 END
「まさか同じ学校にまだピース持ちがいたなんて」
「な? オレもビビッたぜ。しかもあのインフィオだぜ」
DWOの高ランクプレイヤーであり、対戦動画の再生数も多いプレイヤーが同じ学校とは思わなかった。
待ち合わせに指定された部室をノックする。
「失礼しまぁす」
翔榛が扉を開けると、綺麗な女生徒が座っていた。
四つん這いになった男子生徒の上に。
「………」「………」
「よく来たわね王候補の諸君! 適当な場所に座りなさい!!」
話が入ってこない。椅子にしか目がいかない。
椅子にされた男子生徒は亀甲縛りにされ、口には猿轡がはめられていた。
一方で少女の手には鞭と赤いろうそくが見える。
「……部屋、間違えました?」
「間違えてないわ。
制服を着ているし、顔の模様も無かったから全く気づかなかった。どうやらアレはメイクだったらしい。
「そしてこの豚が私のパートナー、ピースを渡した
モゴモゴムームーうるさい。
レミノが舌打ち交じり猿轡を外すと、法城は血走った眼でレミノを睨んでいた。
「諸君! 頼むッ、誤解しないでくれ! これはこの女が勝手に!!」
「黙りなさい豚! ほら! 仲間候補になる少年たちに見てもらいなさい! 貴方の痴態を!!」
ビシッバシッバチーン!!
「オふォオン! ィあぁぁん!」
「ほら! なによトロけたその声は! もう癖になってるじゃない! このだらしない豚ッ!!」
バチーン! パチーン!
「くそおおおおおおおお! M魂が疼くゥゥゥウウ!!」
「オーッホホホホ! それが王を目指すものの姿とは笑わせるわねぇ! ほらッもっと欲しいんでしょ! おねだりくらいしたらどうなのクズゥ!!」
「………」「………」
「こう言うトコあるんですよデュエルモンスターズやってる人って。いやマジで」
これ本当に。
「はいもしもし。あら新渡戸さん、こんにちは。え? はい、はい……。えぇ! そ、そうなんですか。分かりました……。いえッ、私は元の世界で教師です。やはり日々勉強なんですね。大丈夫です。翔榛くんがそういうのがお好きなら私も勉強しましょう! では早速ネットで鞭と蝋燭を買いますね。え? あら? あら翔榛くん! はい? はい、はい、はい、あ、冗談ですか。なるほど分かりました。ええ、ふふ、いえいえ……。あー……、はい、あのですね、本当に冗談ですか? 本当はお好きなんじゃないですか。いいんですよ嘘をつかなくても。おやおやどうしたんですか? 少し声が震えていますね。あらあら、動揺が出ていますよ。ええ、大丈夫、遠慮せず、ほら、ね? お姉さんに一つ任せてみ――」
ドリアはニヤニヤしながら電話を握っていた。
昔は本当に川とかにノーマルカードとかが捨ててありました。
もう今はデュエルリンクスしかやってないのでペンデュラム召喚とかどうやって出すのかも分かりません。
けれど、それでも、ワイはまだデュエリストや(´・ω・)
お前らも、せやろ?
一度でもカードを取ったなら、いやもうそれは何でもいい。
当時も、デュエマ国、デジカ国、ポケモンカード連盟。そしてガッシュカードガチ勢。
いろんな派閥がいた。
けれど、いつしか、多くの者が去っていってしまった。
それでもまだ心にはデュエリストの炎が宿ってるはずや。せやろ?
言葉はいらんねんな。ワイらに必要なのは
(´・ω・)わかるやろ?
( ^ω^ )なんつってな! 全 部 適 当 や !
ここまで見てくれてありがとうやで! ほなな!!( ^ω^ )b