チリィィィィィィィィ!!!!
それは朝の始まり、セットされていた時間を知らせる時計の叫びに瞼を開ける。カーテンの隙間から部屋を少し照らす日光、部屋の内装、当然のように体と心にある怠さ、何もかもいつもと変わらない。
なのに。
はあ、額に手を当てて横目に未だサイレン鳴らす時計の時刻を確認してから一言。
「やっちゃった。いつもと同じ時間に起きちゃった」
たったひとつの出来事で何もかもが変わったいつもとは違う一日が始まってしまった。
とりあえずは体にある怠げを取り除くべく背伸びをする。
「早く登校しようと思ってたのになあ、目覚ましセットするの忘れてた……」
なんせ昨日の出来事が出来事だ。玄関に人がいてそれが驚きの叫びをあげた、そして俺に告白した相手があの佐倉花音ともなればこの噂が広まっているのは必然的、寧ろ広まってない方がおかしい。
だから今日はいつもとは登校時間をずらし早めに出ることでいろいろと回避する気でいたのだ。なのに目覚ましをセットし忘れただけでなく体内時計も機能しなかったためにいつも通りの起床時刻にいつも通り起床してしまった。
「この時間帯だと確実に被る、よな」
彼女、佐倉花音と俺の登校時刻はここ一年ほぼ一緒。毎日目の前か後ろにいるのだから覚えていないはずがない。実際昨日だって同じ時間だったのだ。あの彼女がまさか時間をずらしてくるはずがない。昨日の告白理由からもずらす理由が全くない。
ええ、本当にどうするの。すげえ逃げたいんだけど。いっそ今日は休みますか? この感情を一気に解決サヨナラホームランまでできる素晴らしい案なのだが……駄目ですねそうですね。
「起きよう。現実逃避はよくない、うん」
とりあえず未だうるさく鳴り響くこのうるさくてしょうがない時計には恨みと八つ当たりもかねて思いっきり痛い一撃で黙らせておきベッドから這い出る。カーテンを開き今着ている衣類を脱ぎ去って制服を着てバックを取った後開けたくもない扉を開き部屋を出た。廊下を出ればそれはもう何も変わらないのに更にもう一回ドアを開けばもう違う世界とか考えたくもない。もう自宅警備員になっていいなどと考えながら洗面所に入り顔を洗い少しだけ跳ねた髪を直し朝の日課をこなした後まっすぐリビングに向かう。
近づくにつれてジューと何かを焼くような音が聞こえるのだが昨日せいだろう。なにせ父親は遠くに出張しており母は朝早くから仕事である。だからこの音は気のせいだろうとずるずるとリビングに続く扉を開いた。
「どうせ誰もいないだろうけどおはようございまーす」
「いるから、ほらさっさと朝ごはん食いなさい」
「あ、あるんだ……うぇ!?」
リビングに隣接しているキッチンを見れば何かを焼く我が母織村咲綾が立っていた。
「母親に対してひどい反応ね」
「いやだって仕事はどうしたの」
「今日は休み」
「休み!? 息子がこんなにもつらい気持ちで家を出ようとしている中!?」
「なにがあった」
焼いていたものを皿にのせてテーブルに乗せた後思いっきりにやけて。
「聞かせなさいよ」
「さては息子の苦しみを笑う気だな!?」
「何の話かさっぱり」
「なんて母親だ! 味方が誰一人としていない!」
くそう、なんでこんなことになったんだろうか。母から目をそらしながらゆっくりと着席した。
「それで? なんでそんなにもいやそうな顔してんのよ」
「何? 真面目に聞いてくれんの?」
「聞いてあげる。そのうえで笑う」
「ゲスい! 我が母ながらゲスすぎる!」
ため息しか出ないぞ。昨日からため息しか出ないんだが。
「……昨日、告白された」
とりあえず母から顔を再び逸らし反撃の意を込めてちょーいと説明足らずなベストの回答を答えた。
そのあとちょろーっと目線をずらして母を見ればそれはもう驚愕表情。はあっはっは! 見たか自分の息子をあざ笑うからこうなるんだ! やばい、優越感がすごいよ。なんか勝った感じ、素晴らしい感覚だ、この先の出来事を考えなくなるぐらいの感情に心躍っているとなんか肩を掴まれた。え、なに。いつの間に母さん俺の肩掴んでんの!?
「だ、誰!?」
さっきまの表情どこ行ったのかな!? むっちゃ怖いんだけどやめてくれませんか!?
「佐倉花音って子、なんだけ……」
「うぇぇぇぇぇ!? あの!? いつも朝ジョギングしてるあの子の隣を歩いたら『頑張ってくださいね!』って一日の活力源をくれて
る!?」
「なんですでに毒されてんの!? ていうか朝ジョギングしてるの彼女!?」
それはそうと一日の活力源が佐倉さんの頑張ってくださいね! ってどういうこと!? 何を生きがいにしてるの母さん!? 貴方の息子は今とても心配なんだが!?
「経緯教えなさいよ私の息子とか絶対不釣り合いじゃない!」
「ひどいこと言うな息子泣くぞ!? 泣いていいよね!? ね!?」
「泣いてないでさっさと説明なさい!」
「心が痛すぎる! 本当に味方がいなさすぎるんだけど!」
母を強引に引きはがして元の席に座らせた後もう一度着席し、答えを聞きたくてしょうがないというのがわかる勢いでこちらを凝視する母の視線が痛い。視線が刺さるってこういうことなんだ。これが外ではさらに増えると、へえ……もういいや、諦めよ。諦めが肝心だって気づけてよかったな、うん。
「彼女、あんなんだから人気あるでしょ? だからその解決策として偽の恋人が欲しかったらしい。んで俺に白羽の矢がたった」
「偽?」
「そう。なんで俺なのかは今日聞こうと思ってるけど」
そこだけは分からないのだ。なんでよりにもよって俺だったんだろうか? 俺以外にも適任者なんて探そうと思えば何処にでもいそうなのに彼女は俺しかいないと言った。そこだけが昨日の疑問だ。
「まあそうよね、私の息子にあんないい子が恋人なんて無理あるものね」
「もう何も言わない。俺何も言わないからね期待するなよ母さん」
「それはそれでつまらないわね」
「本当に何求めてんの」
疲れた。母さんと何気ない日常話とはいえないが昨日の出来事を朝食を挟みつつ駄弁るという普通ならほほえましい光景のはずなのにいつもの朝以上に疲れてしまった。
「ま、せっかくの美少女との交際、楽しみなさいよ。嘘の関係でもね」
「無茶言うなよ母さん……」
目の前の朝ごはんを無理やり口に突っ込んであまり噛まずに飲み込んだあとバックを拾ってリビングから逃げるように退出する。
「がんばんなさいよー」
一体何を頑張れと。俺にこの先に待ち構えるであろうそれらに対し何を頑張れというのですか母さん。
母さんの最後の言葉に文句をつけつついざ家を出る。
それなりの高さのマンションから見下ろす風景の中でひときわ目立つ桜並木、あそこにたどり着けば噂を小耳にしたであろう大勢の生徒と彼女がいるはずだ。
「今なら地獄に行けって言われている人間の気持ちがわかる気がする」
現実逃避しても仕方ないのでさっさと移動を開始する。
エレベータを使いマンションの七階から一階まで下りてロビーを通過、いざマンションを抜け通学路に足を踏み入れた。少しの間特に変わりようのない風景を歩きマンションから見えた桜並木の入り口に到達する。
深呼吸一つ。ここから先は地獄、踏み入れればほぼ間違いなく罵倒や棘のある言葉が飛び交うまさに俺にとっては戦場だ。
「おい見ろよ、あいつじゃね?」
「金色の目、間違いねえあいつが佐倉さんに告白されたっていうやつか」
「全然あわない。なにがいいのかね」
はいいきなりいただきましたもう帰っていいですかね。
本当に彼女って影響力大きいんだな、もう広まってるのは当然なことにそれを嫉妬の目線向ける輩やうらやましそうにしているやつ、挙句の果てにはありを見るような目のやつまでいるよ俺が一体何をしましたかもういっそあきれて開き直れるまである。
「こんなことになるのなら断っておくべきだったか」
でもこの場合断るとさらに悪化するか? なんせ男の夢みたいな子の告白だもんな、何人もの男が玉砕した子の告白、そんなもの断ったらこれまで告白されたすべての男に殺されるのでは? だって今でもこんなですもんね。
「おはよう、織村君!」
思考をめぐらす中、昨日から聞きなれ始めた声が後方から聞こえた。
聞こえてから一瞬で覚悟を決め振り返る。視線の先、桜でできた道を走る彼女、佐倉花音はこちらに大きく手を振っていた。
「おはよ、佐倉さん」
「はい、おはようございます。どうしました? 顔色が優れていないような」
「誰のせいだと思ってんの」
「……ごめんなさい。ここまでは考えてなかったわ」
どうやら察してくれたらしく少し申し訳なさそうな表情をした彼女に連鎖するように周りのギャラリーは一瞬にして視線を集中させた後各々が口を開き始める。
「おいあいつ佐倉さん悲しませてるぞ」
「どうする? 処する?」
おい話が物騒すぎるぞなに処するっていくらなんでも怖すぎるんだが!? 悲しませてるの君たちなんだけどもれなく処刑されるの君たちだからねその原理で行くと!
「すごい、物騒な会話が」
「気のせいじゃない? 気にしない方が身のためだと思うけど」
俺の身を案じてくれるのなら気にしないでくださいいや本当に心の底から!
「でも」
「引き受けるって言った以上、これは俺と君の問題だ。君への告白とかそういうのがこれ程度で収まるっていうのならむしろ安いんじゃない?」
止まることを知らない暴言ども含め受けると言ってしまった以上はしょうがない。何はともあれそれを遂行するのみである。
それに逆に考えれば人生でそう誰もが経験できるようなものじゃないことを経験しているのだ。
「母さんが楽しめって。だから俺、この状況を楽しむことにしました。なんか周りの声もどうでもよくなっちゃったし」
君が俺にそんな表情をしてくれたことが、何かとうれしかったから、とは言わないけれど。
「そう言ってもらえるとありがたいです」
「こちらこそ。これからよろしくね? 佐倉さん」
「はい、お願いしますね、織村君!」
彼女の演技ではないその笑顔だけで、今のこの感じも悪くないと、そう思えた。
「それじゃ学校に行こうか」
「ええ、いきましょう」
彼女の登場によって止めていた足を校門に向け今度は彼女っと一緒に歩き始める。
隣に女の子がいる登校、初めてのそれは気恥ずかしくなってしまいそうだった。ましてそのとなりがこんな美女だ、誰だってこうなると思う。
「織村君は今日の帰り、空いてますか?」
少しの無言を打ち払うように彼女が聞いてくる。
今日の帰り、つまり放課後か。今日は特にこれと言ってなかったはずだから彼女にそれを伝える。
「空いてるけど、なんで?」
「せっかくの恋人関係なんですから一緒に帰りましょう。まだお互いの事をしってないでしょう?」
魅力的な提案。特にやることもない放課後ということもありそれはいいのだが。
体力、残ってるかな。
「いいよ」
とりあえずは返事だけは返しておく。
よし、今日は休み時間全部イヤホンつけてなるべく人のいないような場所にいようそうしよう。そうすれば体力や精神値はそこまで奪われないはず。奪われないはずだ、多分。
「それでは放課後校門に待ち合わせしましょう。今から放課後が楽しみ!」
「そんなに?」
「ええ! 私、異性と放課後を過ごしたことないの。あなたとの放課後がはじめてになります」
ん? なんか聞捨てならないことを聞いた気がするのだが。
「あれだけ、告白とかされておいて?」
少なくとも男となら毎日会話しているような彼女が唯一度として放課後を男子と過ごしていないなんて素直に驚きだ。恋人とまではいかなくても友達と呼べる部類は一人や二人はいるものだと思っていたのだが。
「告白された回数とこれは全くの別問題です! というかむしろあれだけふっていたら男友達なんてなんているはずもないでしょう!?」
顔を赤くして抗議する佐倉さん。そしてそれに引き寄せられる視線。
またやってしまった。今日皆さん忙しそうですねあっち向いてこっち向いてしてるもんね、じゃなくて。
「そんなに声張らなくても! 周りの目線集めるからそれ!」
「あ」
指摘されて気づいたのか周りをきょろきょろする彼女。そんなことしなくても視線という名の針が常に刺さりっぱなしだからわかるでしょうに。
「意外と抜けてるところあるんだね佐倉さん」
「お、織村君にだけは言われたくありません! 昨日だって始業式遅刻してたじゃない!」
「お互いさまね」
自分のことは棚上げなんてそうはさせない。
確か先生の手伝いで、とかそれなにりな大義名分はあったきがするが、それでも遅刻したことには変わりない。まあそのあとの先生の対応は全然違うかったけど。彼女一言か二言で終わってたのに対し俺一枚とはいえ反省文書かされたし。
「そ、それはそう、なんですけど」
「ほら見ろ、人のこと言えない。こういうのは素直に受け取っておくべきだと思うけど?」
「うぐぐ、織村君の言葉が地味に痛い」
「君が選んだ人はそういう人です」
選ぶ人が悪かったな佐倉さん。告白する人のことはある程度理解しておいた方が身のためになることをこれを機に覚えておいてほしいと思う朝なのだった。
ご観覧ありがとうございます
それなりに久しぶりに書くのですがスラスラと話をかけるのは楽しいですね、なんて言ってみたり
お気に入り登録してくれた皆様、そして一話にもかかわらず評価をくれた蓮零さん、ありがとうございます
それではまた次回。
後ついでにツイッターやっているので是非。私のマイページにリンクありますので(露骨な宣伝