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全身空色の少女は、今日も今日とて人里で丁度いい獲物を探し歩いていて、それが今見つかった。
彼女より一回り幼い身なりのいい金髪の少女。そのきめ細かな肌を陽の光から守るように傘を差している。顔に見覚えが無いことも合わせ、どこかいいところの箱入り娘かと憶測を付けた彼女はその少女を標的に定め喉を鳴らした。
一歩、二歩。ゆっくりと足音を殺して近づいていく。手の届く距離まで近づいても少女は詰め寄る彼女に気付かない。内心ほくそ笑んで彼女はついに手をかけた。
「ねえねえ、そこの貴方!」
声を掛けられた少女は突然のことに特に驚くでもなく、無言のまま振り返った。そのタイミングを狙いすまして。
「おどろけ~!!」
そう叫びつつ彼女は可能な限り凶悪な顔を作ってみせる。我ながら完璧だ、なんて自画自賛しながら少女の反応を待っていたが、しかし期待も虚しく少女はぽかんと口を開けたまま固まっていた。
やりすぎたか、という罪悪感がみるみるうちに彼女を染め上げていく。謝るべきかどうするべきか、対処に困りあたふたしていると少女は破裂したように笑いだした。
「フフッ……、驚かす前に声を掛けたら……! 意味がないじゃない……! ……フフフッ」
「な! だ、だって後ろからいきなり大声をだしたら……びっくりしすぎちゃうもん!!」
「プッ……フフッ……そうしようとしてるんじゃないの……? アハハハッ!!」
笑いのツボに入ったのか数分の間笑い転げたあとに改まって少女は告げた。
「驚かしたいならもっと別の方法を考えたほうがいいと思うわ。例えばその変な傘を使うとか」
「……やっぱり、この傘って変なのかな?」
「少なくとも私は、そんな紫の傘差している人見たことないもの」
その言葉に彼女は目に見えて気を落とした。対して少女はそれを予期していたかのように悪戯気な笑みを浮かべ、だけど、と続けた。
「私は好きよ、その傘」
それは彼女にとって何より喜ばしい言葉だった。急に照れくさくなって、顔をそむける。
「えへへ……、多分この子も喜んでるんじゃないかな……」
なんて風に誤魔化したが、その頃には少女の話題は驚かし方に戻っていて。子供の無邪気ゆえの残酷さに少しだけ傷つきながらも耳を傾けた。
「傘を使うにも色々あると思うけど、やっぱり一番はこうよ!」
そう前置くと少女は手にしていた傘を一度閉じる。かと思うと彼女の方を向けて勢いよく開いた。バンッ、と鈍い音とともに彼女の顔に風が押し寄せる。
確かにこれなら驚かせるかもしれない。そう考えもしたが、しかし彼女の意識はもっと別のところに向けられていた。
「ねぇ、その傘少し借りてもいい?」
「? いいけど、どうしたの?」
意図が汲めず首を傾げている少女から傘を受け取ると、彼女は無言のままその傘をまじまじと観察し始めた。依然として状況が理解できず少女が押し黙っていると、ようやく彼女が口を開いた。
「やっぱり。この傘、骨が少し曲がってる」
言って少女に見せるが、彼女が判別できるような違和感はない。それを察したのか彼女は尋ねる。
「最近少し開きにくかったりしなかった?」
そう言われてみれば、少女にも思い当たりがあった。ただそれでも指摘されなければ気にしない程度。しかし彼女は釘を刺すように続けた。
「このまま使い続けたらどんどん悪化していって、すぐに使えなくなっちゃう」
「それは、困るわ……」
彼女の言いたいことをようやく理解して少女は表情を曇らせる。しかしそれを阻むように彼女は明るい笑顔を浮かべた。
「私に任せて!!」
*
「すごいすごい!」
そう言って飛び跳ねる少女の手には曲がりの直った傘があった。
少女の手を引いて走り出したかと思うと、彼女は小さな工房へと入り、瞬く間に彼女の傘を修理してしまったのだ。
「その傘、すごく大事に使われてた。これからも大事にしてあげてね」
最後に彼女がそう告げると、少女は元気よく肯定した。それを見て、当初の目的など忘れ彼女は息をつく。
その時、彼女に後ろから声がかかった。振り返ると目を奪われるような美女。どうやら少女の母親らしい。
その後一言二言母親から礼を受け取ったあと、彼女は二人を見送った。
「じゃあね! 一本だたらさん」
「うん、それじゃあね」
見えなくなるまで手を振りあって。手を下ろすと同時どっと疲れが彼女を襲う。ただそれを全部かき消すくらい彼女の心には温かいものがあった。
しかし、ふと気付く。
「……私、一本だたらだって言ったっけ?」
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彼女――多々良小傘の姿が見えなくなってから母親――否、母親役を演じた女性が尋ねた。
「それで? 突然いなくなって今回は何をしていたのですか? ――"紫様”」
「別に。ただの視察よ」
元気な少女の面影はどこにやら、急にふてぶてしくなって少女――紫は答えた。
「視察ならいつもスキマから行っているではないですか」
「視点を変えて初めて見えてくるものもあるのよ。実際、面白いものを見れたわ」
その『面白いもの』とやらは、恐らくただの趣味趣向によるものだと分かりきっていて、その女性は呆れて言葉が出なかった。言ってもどうせ意味がないと理解しているのも理由の一つだが。
そしてそれを理解した上で少女は不敵に微笑んだのだった。
「多々良小傘、ね」
……その後、度々金髪の少女の姿が人里で見られたというが、それはまた別の話。