【一部完結】Fate/Grand Order〜Bの因子〜 作:ちょっつー
自分が未熟なことは、誰よりもよく知っている。
全部を守れるなんて言わない。
けど、どうか……。
大切な人たちだけでも守れる力を、勇気を、わたしにください……。
博樹さんとの契約を解除しろ。
ゲーティアが私のことを解放する条件として提示してきたそれは、博樹さんとベリアルさん。2人に対しての死刑宣告だった。
身体が消滅し、英霊召喚でも魂を喚びだすことしか出来なかったベリアルさんは、博樹さんとの同化を解除し更にマスター契約まで解除するとなるとその先に待っているのは消滅の二文字しかない。
博樹さんに至ってもだ。あの爆発を受けて瀕死の重体で、ベリアルさんと同化していないと生命活動が数分で止まってしまうほど危険な状態。
だから、ゲーティアの出した選択は私の死か、博樹さんとベリアルさんの両方の死という最低最悪のもの。
どうすれば最善か。そんなの分かり切っているから、私は鉄の匂いが充満した口を開いて叫んだ。
「べリアル、さん! わたしのこと なんて どうでも、いいっ! だからッ!」
⦅貴様は黙っていろ。決めるのは誰でもない、彼とそのマスターだけだ⦆
「────! ────!!」
自分のことは見捨てていいから、ゲーティアを倒してと伝えようとしたのに魔術で口を閉ざされてしまって声を出せなくされてしまう。
けど! ベリアルさんならあれだけで伝わったはず! そう思い、ベリアルさんたちに視線を向けるけど……
「…………」
(ベリアルさん?)
博樹さんと話をしているのか、放心したように突っ立っているベリアルさん。
彼がどう動くのかに掛かっているから、みんなが緊張した面持ちで見守っていると、ベリアルさんはブルブルと震わせながら左腕を正面に向けるように持ってきた。
「……ッハッ!! はあ、はあ……れい、じゅを、
そんな私たちに届いた声は、ベリアルさんのものではなかった。
(なんだ? なんだこれは!? 身体がいうことを利かねえ! 何が起こってる!!)
今まで生きてきた中で起こり得なかった不可解な現象、その現象が何なのか理解できず困惑するベリアルさんの声が聞こえてくる。
私との契約を解除するか、立香ちゃんのことを見捨てるか……。どっちが正解なのかは分からない、だけどベリアルさんの中で最善の答えは既に出てる。
────立香ちゃんを切り捨てる事だ。
(ベリアルさん、本当に立香ちゃんを見捨てることが貴方の答えなんですか?)
(当たり前だ。アイツが死ねばオレは気兼ねなく暴れることが出来る。人類の未来だとかに興味はねえが、あの蛆をぶち殺すのには最善の選択だ)
(そう、ですか……)
ならどうして最初から攻撃しなかったんですか? 呪いでゲーティアと立香ちゃんの痛覚が共有されていたとしても、今の言葉通りならそんなの気にせず攻撃してゲーティアの事を倒せたはずだ。そうベリアルさんに伝えたいけど今の彼にきっとこの言葉は届かない。届かないほど、困惑してるんだ。
…………ごめんなみんな。僕は、世界を救うよりも、自分の命よりも、ずっと一緒にいたこの人の背中を押したいんだ。
(ッ!? 身体の主導権が移っただと? なぜだ?)
(それだけ今のベリアルさんの心には迷いが生じてるってことですよ。僕みたいな男に負けるくらいですから)
はは、震えてる。そうだよなあ、今から自分の命を投げ出すんだ、覚悟を決めたからって怖くないはずがない。
私は、令呪が刻まれた震えている左腕を正面に向けると、逃げたりしないようにその左腕を右手でガッチリ握りしめる。
「……ッハッ!! はあ、はあ……れい、じゅを、
『まさか……! 博樹さん、君は何をしようとッ!!』
「己が思いを貫け!! ベリアル!! 」
(────何をしている宮原博樹。そんなもの、オレに効かないことは分かってるはずだ? 早く変われ)
「断る! 僕はマスターでアナタは僕のサーヴァントだ! だから私の言うことを、願いを聞け!! 第二の令呪を持って命ずる────」
身体全身に強い痛みが走り、ベリアルさんが身体の主導権を取り返そうとしてくるけど、それを気力だけで抑えながら私は二画目になる令呪を使用する。
カルデアから供給されている令呪とは違い、今使用しているのはベリアルさんと契約した時に刻まれた、正真正銘僕とベリアルさんを繋いでいるもの。
実際の聖杯戦争で使用される令呪のように【絶対的命令権】を行使できるけど、そんなもので言うことが聞いたら光の国は何度も消滅の危機に陥ってない。
無意味かも知れない。だけど、それでも使う。
「己が心に正直であれ!! ベリアル!! 」
(正直に……だと? お前はなにを言っている)
「本当は!! 貴方自身に気づいてほしかった!! 探して、探して、どんなに探しても見つけることが出来なかったから、手にしていても気づくことが出来なかったそれを!!」
そうだ、僕が立香ちゃんに嫉妬したのもそれが理由だったんだ。
ベリアルさんと同化している僕には絶対に不可能だったから……羨ましかったんだ。
⦅フハハ、フハハハハハ! 良いぞ面白い余興だ! 何が起こるか見届けさせてもらおうか⦆
「お前は黙ってろ!!」
命令じゃない。令呪に乗せるのはただそうして欲しいっていう願いだけだ。
ベリアルさんが立香ちゃんの命か自分と僕の命のどっちかで迷っているというのなら、その背中を押す。
そう、ただ押すだけでいいんだ。だって、ベリアルさんの心にはもう答えがあるんだから
「はあ……はあ……最後の、最後の令呪を持って命じる!!」
主導権を取り返そうとしてくるベリアルさんの圧に耐えながら、僕は左手に力を込めて、自分の中にあるもの全部吐き出すように最後の願いを叫ぶ。
「
願いを言い終えたのと同時に、自分の中から何か抜け落ち、身体から力が抜けていく脱力感が襲ってくる。
ああ……よかった……ほんとうに……よかっ……。
『守るべきもの……貴様の強さはそれかぁ……ゼロォッ!!』
どうして、今頃になってこんなことが脳裏に過りやがる。
身体が消滅したオレは、ゼロのシャイニングの力によって蘇ることに成功した。
『……光の国のヤツらじゃねえなら、少し力をわけてやってもいいか』
何百、何千年とどれだけ探し回っても守るべきものってのが見つからなかったオレは、気まぐれに回った宇宙で、光の戦士ども似た同じようにウルトラマンと呼ばれてやがる存在に向けて、闇の力をカードやクリスタルへと変えて分け与えたこともあった。
正義の心を持ったアイツらが、オレの闇の力を使った時どうなるのか観察しようとしてなあ。
『結局は、オレの力はオレにしか使いこなせねえってことか……』
オーブだったか? アイツはこのオレを手にする前に心が砕けて、弱腰になったもんだから興味を失った。
兄弟がウルトラマンで、妹が怪獣に変身する奴らはオレの力の結晶を手にすることは出来たが、使う事すらままならないあまちゃんどもだった。
それで踏ん切りがついて……いや、最初から死ぬ気だったんだろうな。そうじゃなかったら次元破壊爆弾に自分から突っ込んだりはしてねえ。
もしかしたらと期待したジードも、そうなることは叶わなかった……。
『あの、貴方は何て言う英霊……なんですか?』
そんなオレの守るべきものが、藤丸立香だと?
お前はそれをずっと前から知っていた。だというのに、オレが自分で気づくまで黙っていた…………。
ふっ、もうしばらくしたら消滅するんだ。考えたところで関係ねえか。
分離する時にオレの力を少しだけ残しはしたが……苦しむ時間を長引かせただけか……。
「マシュ────ッッッ!!!」
「【それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷────顕現せよ、『
ただ消えるのを待つだけ。そんなオレたちを包み込むように、白亜の城が築かれた。
「マシュ────ッッッ!!!」
博樹と分離したことによって宙に漂う球体となったベリアル。
そんな彼、そして宿主である博樹のことを完全に消滅させるためだと言いゲーティアは、紀元前1000年から西暦2016年までの人類史の全てを魔力に変換させた光帯を対人宝具として打ち出した。それが宝具【
人類史すべてを熱量へ変換させたその宝具の熱量を上回るものはこの地球上に存在しない。誇るようにゲーティアは隣で縛られている立香に声高らかに宣言するが。そんなの関係ないと立香はマシュの名前を叫んだ。
上回るものがない、何があろうと抗えない。そんな理由でベリアルと博樹のことを見捨てるほど立香たちの聞き分けは良くない。良かったらこの旅の始まりで既に躓いていたはずだ。名前を呼ばれずとも同じ気持ちだったマシュは、立香が叫ぶのと同時に2人の前に立ち、白亜の城を顕現させる。
「あ、あああ、あああッッ────!!」
『やめろマシュ・キリエライト。その熱はお前が受け止めきれるものではない! 何処かへ行ってろ!』
「そ、うだ……。わた し たちの こ と はみす、てて……にげるん……だ」
ベリアルも、そしてどうにか意識を繋ぎとめている博樹も、星を貫く熱量を防ぐマシュの意志は固くその盾を強く握りしめる。
ゲーティアが言っていたように、物理的にあの熱量を防ぐことはこの星にいる生命には不可能。だが、
「……良かった。これなら何とかなりそうです、ベリアルさん、博樹さん」
サーヴァントとして繋がってるからなのか、周りの音全てを掻き消す熱量が放たれている中でもマシュの声が確りと立香の耳に届いてくる。まるで別れの挨拶かのように、後ろにいる2人へと感謝の言葉をかけるその声が……。
「先輩がくれたものを、せめて少しでも返したかった。けど、怖くて逃げ出したかった。そんな私の背中を押してくれたのはベリアルさんでした」
その通りだと立香は頷く。一番最初、冬木の泥に呑まれた騎士王との戦闘で、ベリアルが
「恐怖に染まる心も、逃げ出したいと思う気持ちも、それは悪いことじゃないと。背負って戦っていいんだって、そのおかげで歩いてこれた!!」
だから守るんだと、心をくれたのが立香なのだとしたら、盾をくれたのはベリアルだから。
知り得ずに終わるはずの気持ちだった。ベリアルがシュミレーターでの特訓を付き合ってくれた時、博樹と一緒にウルトラマンを見た時、そして二人とも褒める時に頭を撫でてくれた時、その温かさがマシュにはとても心地良いモノになっていた。
この旅がなければ絶対に得られなかったから、人類史の熱を受け止めながら2人に感謝の言葉を伝えていく。
「私は、知らないから……。父親がいたら、こんな人なのかなって」
「ま、しゅ……ちゃ、ん……」
『…………』
「大好きです。さようなら、……お父さん」
最後の最後まで、マシュの心は揺らがなかった。ゲーティアの宝具の勢いが無くなるまで、一滴たりともベリアルと博樹には届かせなかった。
その結果がコレだ。盾だけを残して、彼女の肉体は光帯の熱量に耐えきれずに蒸発した。
⦅見るがいい。この結末は、お前が作り出したものだ。ただの、ごく普通の女の子を送り出した結果がコレだ⦆
ゲーティアは悲しみを帯びた表情を立香へ向ける。マシュは唯一、自分たちと同じ道を歩める可能性を持っていた存在だったから。
そんな彼女が、傷一つない雪花の盾だけを残して消滅したのは、守る価値もない
「……はあ、はあ……やっぱりお前は、何もわかってない」
⦅……分かっていない? 彼女を戦場に駆り出した貴様がそれをいうか! ただの、ごく普通の少女を死地へと向かわせた貴様が!! ⦆
「そのただの女の子に負けたくせに、よくもまあ勝ち誇った顔していられるよね」
どんなに悲しそうな顔をしても、どんなに死を嘆く表情を作ったとしても、立香にはそれが何処までも仮初の仮面にしか見えない。
だからこそ、立香はゲーティアには屈しない。心から気持ちを吐き出せない、ハリボテでしかない相手には負けられない。
「はははは、立香ちゃんにすら見透かされるなんて。ざまあないなゲーティア」
⦅貴様は……? ⦆
身体は理解してる。勝手に動く。だけどまだ、まだ気づけない。頭がそれを受け入れることを拒否している。
だから彼は、大切なものを何もできずに、目の前で失ってしまった。
ベリアルさんはオーブがテレビ本編に入る前に見限り、ルーブのことはまだツルちゃんの兄弟がご健全な時に見限ってしまったからその先を知らない。
知ってますか?その更に未来では貴方の力と貴方の顔した剣を振るう光の戦士が現れるんですよ。
ベリアルさんに立香ちゃんを見捨てるという選択は取れないことを確信していたからこそできた作戦。
分離した2人にトドメを刺してあとは勝ちだと思ってたゲーさんを邪魔したのがマシュ。
さあ、ここから先はお前のシナリオ通りにはいかないぞゲーティア!!
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