【一部完結】Fate/Grand Order〜Bの因子〜 作:ちょっつー
「日本晴れ! ……っていっていいのかしらねこれ」
「流石に
私────藤丸立香は、村正さんの庵へと向かう帰り道をみんなで歩いていた。パライソを無事打ち倒した私たちは、策があるから邪魔になるっていうのと事件の中心である下総からおぬいちゃんと田助くんのことを遠ざけるのが目的。だったんだけど
朝起きたら土気の町を中心に下総全体を囲むように雲が広がっていた。気づくことができなかったのかはわからないけど、この異常気象は何か原因はあるはず。
「ゆっくりだがあの雲は狭まってきてやがる。土気を中心にしてるってんなら里の生き残り連中も土気に逃げるよう言っとかねえとな」
「雲の下は嵐で先が見えないほどの状況でした。人為的に引き起こされたものならばあれは……」
調べに出ていった小太郎の言葉を聞き青ざめる。嵐、台風、自然現象を相手にするなんてどうすればいいの? 引き起こしている術者本人を叩けばいいのかもだけど、どれだけ強力なんだろう。
「だあだあ」
「ん? 田助くんも空飛びたかった? ごめんね、流石に君のこと連れて飛ばせるのは怖かったんだ」
「竜の背に乗って飛ぶ。なんてこんな異常な時じゃないと経験できないものね、楽しんでるといいのだけど」
田助くんが空に手を振ってるのを見て顔を上げると、ニキチッチさんの竜が翼を広げて飛んでいるのが見える。空から異常が見つからないか見に行ってもらったんだけど、折角だからっておぬいちゃんも連れて行って空の散歩を楽しんでる。
「おぬいちゃんは強いよね。あんなに小さくて傷ついてるのに、それでも前を向こうとしてる」
「今更だな。まあ時代の所為もあらぁ、そうしなきゃ生きていけねえ。最初の頃は塞ぎ込んでたが、儂はアイツが泣き言言ってるとこ見たことねえからな」
里を襲われて、両親を失った。村正さんやリクくんが一緒に暮らしてくれたのもあるけどそっか……。やっぱり強いなおぬいちゃん。
「誰かに甘える、頼るって……とても難しいことなんだ。それを教えてくれる両親がいなくなったなら尚更だ」
「もしかして……リクくんも家族が?」
「ああ僕は
「ご、ごめんなさい! 不謹慎だったよね!」
「全然大丈夫。小さい頃はそりゃあ悩んだりしたけど、今は仲間がいるから」
強がりで言ってるんじゃない。色々なことを経験してきたから、その度に仲間と一緒に乗り越えてきたから言ってる。リクくんが迷わずに戦えるのもジードだっけおぬいちゃんにあの言葉を教えたのも、そんな経験があったからなんだ。
「ああでもはじまりは架空のヒーロー。爆裂戦記ドン! シャイン!! っていうんだけどね! そのドンシャインが……」
え、あ、この好きな物を早口で話す感じ……なんか何処となく博樹さんに似てるかも……。
「大丈夫だ。目を開いてみなさい」
「…………。────!! うわ────!!」
田助を立香へ預けおぬいは
「皆はお前に気をつかわせまいと言わないが、オレは言おう。お前はえらいぞ」
「へ?」
「────貴女はとてもえらい娘です」
「にきちっちさん……?」
不意に、落ちないようにおぬいを抱きしめているニキチッチの雰囲気が変わった。それはおぬいですら少し気がつくような変化で、まるで意識が男性から女性に変わったようなそんな変化。
「家族を失ったというのに、貴女は挫けず前を向いて頑張って立っている。それはとてもえらいことです。ですが、泣いてもいいのですよ」
「で、でも……。ぬいはお姉ちゃんだから……泣いちゃったら田助も……泣いちゃう、から……」
突如家族が自分とまだ言葉も話せない弟だけになった。村正やリクが支えてくれたといっても両親がいなくなった悲しみが消えるわけではない。それでも田助がいるから、自分が頑張らなければいけないからと涙を堪え続けてきた。村正やリクがいたから、自分と同じ女でありながら強く、逞しく戦う武蔵と立香を見たから、強くありたいと傷を塞いだ。
そんな時に、自分を優しく抱きしめてくれる母のぬくもり。
「今は誰も見ていません。涙もこの青空が消してくれるでしょう」
「ぬい、ぬい……ね……」
「空は気持ちがいいぞ! オレが連れて行ってあげよう!」戦いから帰ってきて、立香たちの顔を見る前の不安な表情。遠くからでもしっかり見えたからこそニキチッチは行動にうつした。まあ、やったはいいがどう慰めればいいのかわからなかったのだが……。
胸の中に埋もれながら、今まで堪えてきたものすべてを吐き出すおぬい。その声も、涙も、普段より強い風が吹き飛ばしていった。
(厚い雲。もうそこまで迫っているか……)
服を濡らす優しい雨を受けながら、暗く、厚い雲が目視で確認できる場所にまで来てることに気づく。虹の神がくる……衆合地獄の言葉が現実味を帯びてきた。
(アイツが言っていたことが本当ならば、この国の外も、いいやこの下総以外の場所はもう…………)
場所は江戸。但馬守が要請した増援が受理され、戦国の世を知る最後の軍勢が下総全土に闊歩する怪異を掃討するべく集められていた。
「我らはこれより土気に馳せ参じ!」
集められた軍勢は万を超えた。士気を高めいざ出陣の狼煙が上がるかと思ったその時だった。
「む、雨か?」
昨日まで快晴だった江戸が、今日になって厚い雲に覆われていた。雨が降る前にと思っていた武士達だったが一粒、また一粒と雨粒が増えていくと同時に尋常ではない風が吹き荒れ始めた。
「なんだこれは!?」
「お、落ち着け! 落ち着かんか!!」
雷が江戸城に落ちる。雨と風、そして黒き雲によって光を奪われた世界に、雷の光が爆音と共に訪れる。
「え、江戸城が!!」
「なんだ! なんなんだこれは!!」
自然現象。そう呼ぶには余りにも不自然な大嵐。武士たちは戸惑い、家の中に籠もっていた人たちも何か何かと顔を出す。
「ねえ城の後ろに蛇がいる!!」
落雷によって燃えさかかる江戸城。暗闇の中で唯一光が照らすその城を見た子どもがふとそんな言葉を漏らした。
それを聞いた子どもの祖母は、突然雨で濡れた土で服が汚れることなど気にせずに地面に膝を付け祈り始めた。
「ああ天の主よ!
「邪な心虹に触れる時、大いなる災いとなってその姿を顕す。ああ鎮まりたまえ静まりたまえ!!」
人の営みを助ける善神としての姿は見る影もない。大いなる災い、嵐の化身、災いの荒神としての姿として顕現したニジカガチは、祈りを捧げる人の声も聞かず嵐を吹き荒らす。
「あ〜あ〜。いい肉あったかも知れへんのに、勿体ないわぁ〜」
「…………」
「あらまあどないしたん? ここが更地になるん見んくてええの? ああそれとも……」
逃げようにも逃げる場所がない。嵐は家を吹き飛ばし、大地を抉り、人の命も吹き飛ばす。それを遠くから見ていた衆合地獄は、隣で同じように見ていた黒縄地獄が踵を返すのに待ったをかける。
「ちいこい子たちが消えるん、見たくないん?」
「既に神による清浄は成されました、見るものはありません。何処ぞの羽虫のように卑しい真似のする意味もありません」
「うちはお片付けのお手伝いしてあげとるんよ。あれは息吹の神さんと同じ蛇の神様やからねえ、仲良くしたいやん?」
「その汚い口を閉じるために、もう一度その首切り落としてもよろしいのですよ」
「あらあらこわいこわい。ふふふ」
本気の殺気。首に置かれた刀をいつでも斬り落とせるぞと、その殺気を浴びながらも衆合地獄は楽しそうに笑いながら、ニジカガチが洗い流した地に残された淀を吸いに飛んでいった。
「ふはははははは!!!! 哀れ!! 実に哀れだぞ江戸よ徳川よ!! ああ征くぞ虹蛇神! 厭離穢土が拓きし道と共に!! あまねく
(私は、どうしたのだろう……)
"加藤段蔵"、戦国時代に名を馳せた伝説的な忍び。絡繰りを用いたという逸話があるがその真実は段蔵本人が絡繰仕掛けで動く人形だったこと。目の前にいる彼女は英霊でも、襲名して継いできた存在でもなく段蔵本人。
丹馬守に仕える忍びとして、立香たちの目となれと命を受け彼女らへついてきた彼女は、前を歩く立香たちを遠くを見るように見つめていた。
『ああ全てを、スベテモヤシマショウ!! 』
『違うチガウチガウ!! 私の、ワタシノセイジャナイ!! 』
『時が来る。我が神よ、この世を地獄へと変えてしまおう!! 』
壊れていた段蔵を拾い、修理し再稼働させたのは”キャスター・リンボ”。彼女は英霊剣豪側の忍びとして魔人たちの行く末を記録する役目もあった。魔人たちが鏖殺していくその様を、インフェルノやパライソが壊れていくその様を……何もせず記録しつづけていた。
「段蔵さん?」
「……! リク殿、どうかなさいましたか?」
「いや何か思い悩んでるみたいな感じだったからどうしたのかな〜って」
今もそうだ。言うならば彼ら彼女らの監視が目的。3騎もの英霊剣豪を倒してみせた彼らを放ってはおけないと段蔵を差し向けてきた。
そんな中、彼女が敵側であることを知らずかとぼけているのか、リクが話しかけてきた。
「いえ段蔵は絡繰ですので、悩む。という機能は搭載されていません」
「え、そうなの……かな?」
段蔵の反応にリクは疑問符を浮かべる。レムという報告管理システムに感情が、心があることを知っているため絡繰だからと決めてしまうその言葉がどうしても信じられないからだ。
「僕にもさ、機械で作られた仲間がいるんだ」
「リク殿にも、ですか?」
「うん。仲間がいたから僕は僕の運命を乗り越えることが出来た。その仲間のうちの1人なんだ」
リクは話し始めた。お節介焼きな仲間のことを、心が折れていたときジーッとしててもドーにもならないと励ましてくれた仲間のことを。
「ああでも、一回敵の罠で戦わなくちゃいけなくなった時があるんだ」
「敵対、したのですか」
「うん。その敵は僕の手で僕の大切な物を失わせようとしたんだ。だけどレムは乗り越えたんだ。自分の運命を」
「運命を……絡繰が自分自身で……」
与えられた命令を遂行する。その為の絡繰である段蔵には理解出来なかった。所有権が変わったのなら主人はリクではなく敵に移った、敵がリクを消去するよう命じたのならそのように動くのが機械、絡繰だ。
「機械だとか、人間じゃないとか関係ないんだ。運命は変えられる。だからさ段蔵さんが悩んでいるのも、自分自身で気が付かないうちに変わったからなんじゃないかな?」
「変わった。絡繰である段蔵が……」
『ンンンン! ならば見せてあげましょう、お前が変わることはないのだということを』
「!? あ、ああああ!! 私は、段蔵は…………!!」
「段蔵さん? なっ! うわあああああっ!!」
ニキチッチ
愛する妻の姿で召喚されたが、ニキチッチだけの意識があるわけではない。親として自分だけでは不十分だという理解をしているため、普段は隠れているが妻に意識もニキチッチの霊核の中に混在している。おぬいを慰めたのは妻の人格が表に出たため。
天弓怪獣ニジカガチ
人類終末装置すらも超えた、置換などしなくてもその身一つで地球そのものを白紙化してしまうほどの力を持った荒ぶる神。彼の神が生み出した巨大な台風はその内部だけが僅かに残る人類史であり、その外はリセットされた。
嵐を引き起こすのは権能の一つでしかなく、怪獣という形をなしている自然現象といった方が正しい。
ブレーザー登場時とかけ離れているのは契約者である横峯教授が善性で人類、文明のリセットを望んでいたこと。ブレーザーやアースガロン稼働後に行動を起こしたことから自分を止める存在がいるからこそ行動に移したとも取れる。悪意の塊に呼び覚まされたわけではないためあれだけの被害ですんだ。