【一部完結】Fate/Grand Order〜Bの因子〜 作:ちょっつー
「
突如として出現した天弓怪獣ニジカガチと相対するように現れた光の巨人ウルトラマンジードを見て、立香はそう言った。嵐の中だから、赤い月すら覆い隠す黒い積乱雲によってベリアルと誤認している……のではない。立香の視界に映っているのは、間違いようもなくウルトラマンベリアルだった。
山頂へ向かう途中、みんなと逸れた立香は衆合地獄とはちあい、腹を抉られた。殺されることはなかったが痛くて痛くて堪らない、我慢しようにも恐怖と痛みの両方が襲いかかってきて涙が止まらなかった。例えそれが鬼の気まぐれにとって不調だった魔術回路の流れを正常に戻すためだったとしても精神的苦痛は拭えない。
現に立香が山頂に辿り着き、衆合地獄と目を合わせた時その目には確かに恐怖が映り込んでいた。ただの人が、鬼に怯えを抱くその表情に堪らなく興奮していたのに、ベリアルを見た途端に彼女の顔から恐怖のふた文字が消え去っていた。
「よおし! ならこっちも心起きなく戦える! やるよ武蔵ちゃん、みんな!」
「あらまあ、目付き悪い仏さん現れたおもたらとたんに元気んなってもうたわ。フフフ、だけどアンタさんらにうちら両方相手にして勝てる思うとるん?」
「勝てるぞ! そのためにオレがいる!!」
嵐を突き抜け、愛馬と共に空を駆けてきたニキチッチが衆合地獄へ奇襲を仕掛けた。いくら嵐で視界が悪いと言っても相手は白い竜、この場では悪目立ちしているそれを避けるために衆合地獄が高く飛ぶ。
「ガッ!」
「城での仕返しだぞ! はあっ!!」
愛馬から飛び出してきたニキチッチの蹴りが直撃し、地面へ叩きつけられた。そんな痛みなど知らん、衆合地獄すぐに態勢を立て直すと自身の武器である瓢箪の付いた剣で斬りかかる。
「こないだ見はった時は槌やったのに斧に変わっとうやないの! 気分でも変えてきたん? おべべも着替えてやる気まんまんやねえ!」
「そうだぞ!! 日の本の正義の味方の真似事だ! まさかり担ぎ、けだものの背に乗っていたんだろう! 衆合地獄!!」
青い炎を纏わせた斧を担ぎ、白い戦闘装束へ着替えたニキチッチ。リクの令呪によるブーストで霊基再臨を果たしたその姿のまま、今の自分は
「……
「ん?」
「こんなおもろい相手、黒縄には渡せへんなあっ!!!!」
「来るか、愛馬よ下がっていろ」
顔が歪むほどの深い笑み。今まで戦ってきたどの英霊剣豪たちとも違う。鏖殺の使命を帯び、瞳が赤く染まり、己が善性を歪められ狂ってしまっていた英霊たちとは。
正気で狂っている。日本三大妖怪と恐れられている酒呑童子にとって人の命を奪うことなど食事と同じ。当たり前であるからこそ彼女は鏖殺の狂気に呑まれない。バーサーカークラスで召喚された際に付与された狂化スキルも同様。
「ハハハハハ!! これは? コイツはどうや!!」
「クッ、面倒くさいなお前はっ!」
理性を失わないから、鬼の戦闘センスが何処までも光る。手に持つ杯も剣も消し両手を空けると地面を駆け出し距離を詰め、ニキチッチを蹴り飛ばす。
斧を盾にし防いだが、その威力に後方まで吹き飛ばされる。
「────ッ。ハアアアア!!」
「ハハハハ!! えらいえらい!! よーわかったねえ!!」
ニジカガチが発生させている大嵐。大粒の雨が降りしきる中、ニキチッチは斧を頭上に上げ回転させて自分に降ってくる雨を弾き飛ばした。
衆合地獄が手を叩いて褒めたように、あの雨の中に彼女が瓢箪から放った毒の酒、それを雨の中に混ぜていた。
「この大嵐の中、自分に真っ直ぐ向かってくる雨など怪しいにも程がある!」
「それもそやねえ。次から気ぃつけるわ……。ほな、次いくでえ〜」
(嵐の中に隠れたか……アサシンのクラスも有していると言っていたしな)
カルデアに召喚された酒呑童子はアサシンクラス。彼女と戦う為に事前に情報を聞いていたニキチッチは嵐の中に姿を隠したのはそれかと当たりをつける。そもそも、ニキチッチは考えることが苦手なためにこうと思ったことはすぐに決断するのだが。
「ほっ! はいっ! うまいうまい!! ぎりぎりで避けはるんやねえ!」
(攻撃の瞬間に出る殺気までは隠せない。だがこのままではジリ貧だな)
神経を研ぎ澄まし、衆合地獄の殺気そして雨と風をかき分けてくるその音を察知しギリギリの所で避け、直撃を免れる。しかし、攻撃全部を避けられているわけではないため、少しずつ鋭利な爪が肌を切り裂いていく。
「フッ!」
「おっ? あららら?」
「見つけたぞ。ハアアアアアッ!!」
迷わない。ニキチッチは斧を地面に叩きつけ自分の立っている場所の高さを無理やり一人分下げると、攻撃しようと突っ込んできた衆合地獄の真下で迎える体勢となり、隙を見せた彼女に斧を叩き込んだ。
「ハハハハハハ!! 力技やないか! ええよええよ! そういう怪力自慢なとこも気に入ったわ!!」
「悪いがオレには愛しき妻がいる。他に靡く浮気者じゃないぞ」
「知らんの? 鬼いうんは人さまのもの盗んでなんぼなんよ」
斧を叩きつけられ真っ二つになっても飄々とした態度を崩さない。英霊剣豪の不死性によって見る見る内に身体が再生していく。追撃しようにも勘が働いていかない方が良いと感じ取り、こうして話に興じている。
「なら惚れさせてみるといい。オレはオレを問答無用に叩きのめしてくる強者が好きだぞ!」
「ええね! 趣味まで似とるなんて相性ええんとちゃう!!!」
再生した衆合地獄は、今度は正面から駆けてくる。手には何も持っていない、先の連撃を思えば彼女は徒手空拳でも鬼の力を遺憾なく発揮してくる。なら! と、ニキチッチは斧を天高くへと放り投げ自身も何も持たずに迎え撃つ。
「鬼相手に得物捨てるなんて度胸あるなあっ!!」
「飛び込む度胸もなければ母との約定を破る馬鹿はしないさ!!」
肉を抉るように突き立てられた爪。伸びてくる右手を左手の甲で外側に向かって弾き、弾かれた反動で少しだけ右を向いた衆合地獄の顔に左の肘鉄を浴びせる。
「ゴッ! ヒハハッ!!」
「フッ! ハッ!!」
殴られた所で。地面に倒れる前に右手を地面に落とし、鬼の膂力で身体を無理やり支え顔面に蹴りを浴びせる。頭から血が噴き出るがなんのその、痛みを感じていないとばかりにその脚を握りしめ逃げられない状態になった衆合地獄のガラ空きの腹に、所謂ヤクザキックを叩き込み蹴り飛ばす。
「ヒヒヒ! あ~おもろあ」
スパンッ! と首が飛ぶ。空に投げた斧の落下点に蹴り飛ばされていた衆合地獄の首がまるでギロチンで処刑された人のように綺麗に斬り落とされた。普通ならこれでお終い、斬首が死因となっている彼女なら尚の事。だが、これでも鏖殺の魔人は死なない。
「上手に落としたもんやねえ。でも、これじゃあうちには届かへんよ」
「届くぞ。願いと共に約束したからな」
「約束て、裏切られて終わりやないの」
鬼は約束を破るもの。それ以外にも彼女には覚えがあった。酒の席で毒酒を飲まされた結果鬼に横道はないと首を撥ねられた。それを覚えているから約束など交わしたところで無駄だと一蹴する。
「その気持ちわかるぞ。裏切る気持ちも、裏切られる気持ちもオレは両方とも知ってるからな!!」
首と身体をくっつけた衆合地獄が太刀を持って突撃してくるのを斧で受け止めながら会話を続ける。約束を破られただけではない、破った経験もあるからこそ、その大切さを説く。
「四つの忠告を破り絶体絶命に陥ったしな!」
「ハハハ! 言い付け四つも破るなんて随分とまあ破天荒だったんやねえ!」
「ああ! そして今、同じことをしようとしてる!!」
山々を避けること、竜を踏みつけぬこと、捕虜を助けぬこと、水浴びせぬこと。闘いの地が山であり、連れて行かれたおぬいと田助を助ける戦い、そして目の前にいるのは
自らの逸話の再現。ズメイを打ち倒した再現することで衆合地獄に対抗して見せている。
「ハハハ! それじゃあ最後は水浴びかいな! この大嵐んなかの雨がそういいはるんやないやろうねえ!」
「どうだろう、なっ!!」
身体全身を回転させ叩き落としてきた太刀を受け止めるのではなく側面を叩くことではじき飛ばす。それだけでは終わらない、踵落としをくらい地面に叩きつけられる。
「ガハッ!!」
「それなら
背中に太刀を突き刺し、身動きを取れなくされたニキチッチの身体に酒が、衆合地獄が手に持つ盃から湧き出る毒酒が注がれる。
自らを殺す要因となった毒酒を宝具として昇華させたそれは、浴びたもの肉を生きたまま腐乱させ僅かな骨しか残さない。
「【千紫万紅・神便鬼毒】フフフ、ハハハ! 水浴びには刺激強すぎるかもしれんねえっ!!」
「グッ──────ー!!」
全身浸かるほど大量の毒酒。目を閉じ息を止め、体内に入らないようにしても背中の傷から毒が入り込んでくる。逃れることのない毒を浴び続けなければいけない地獄、耐え難い痛みを一切声も出せずに浴び続ける。
「雨上がった。ああ吸い上げたんやね……。こらあの坊も終わりみたいやねえ、あっちも綺麗な青い目してておいしそうやのに」
溶けるのを待っていると、嵐が止み雲に覆われていた赤い月が戦場を照らす。嵐の中でも輝きが届いていたが、赤い月に照らされながら光り輝くジードの青い瞳を肴にして、ニキチッチが溶けたであろう酒を盃に掬い口に運ぼうとした。
「旦那の仇!!」
「ととっ、なんや消えてなかったんかいな」
「御免!!」
衆合地獄の身体が縛り上げられた。ニキチッチの仇をとろうと未だ消滅していなかった
「ふーん。こないなことするなんて、これはあんたの気持ちで動いたん?」
「────はい。これは、段蔵自ら決行しました」
「ええやないのええやないの!! リンボの人形やってるよりよっぽど可笑しいわ!! ────けど、もうどうもできんよ?」
「できる、ぞ!!」
いつでもワイヤーから脱出することは可能だった。けれどキャスター・リンボの操り人形でつまらない存在だった段蔵が歯向かってきたことが面白くて油断した。自信に満ち溢れたその言葉が聞こえたと思ったら衆合地獄は首を刎ねられていた。
「は? なんで、あんさん耐えてるん?」
再生しない。落ちていく頭を無理やり後ろに向けて見えた視線の先には、左手で竜の尻尾を握り、右手には刀身が崩れ落ちた村正に打ってもらった刀の柄だけが残ったニキチッチがいた。
神便鬼毒が効いていなかった訳ではない。現に彼女の纏っていた衣服も、ダマスク鋼出できた鎧ですら完全に溶かし尽くしているというのに、何故彼女だけが。
「はあ、はあ、三日三晩……竜の血池に耐え抜いたオレ……そしてこの身体は……愛する妻のものだ」
ニキチッチは最初から衆合地獄の宝具を受ける覚悟だった。竜の血池を耐え抜いた自分ならば、巨人の娘、人間よりも自然側の存在である妻、ひたすら夫の帰りを待ち続けた妻、その姿と共に歩いている自分ならば耐えぬけると信じた上で、この一瞬を待ち続けた。
あとは簡単だ。愛馬が突進するために鬼毒酒の池を通り抜ける瞬間に尻尾を掴んで抜け出し、段蔵に興味を向けているその一瞬の隙に、全力の一撃を叩き込んだ。
「お前を斬るだけの力は……リクがくれた力のおかげだがな……」
「なんやそれ……最初から相討ち狙いだったいうことかいな……」
「こうでも、しないと……おぬいと田助は救えなかったから、な」
「ああ、負けや負けや。あの小こい子らなら裏の穴の中で雨宿りしとるわ……」
耐えていただけ。毒は確かにニキチッチの霊核に届いていた。今も毒の進行が進んでいきニキチッチは愛馬を支えにしなければ立っていることすらままならない。
「ああ……。消えるんはええけど……あの神さんの力になるんは、最後まで気に食わんわ────」
「【僕の妹弟を救ってくれ】……願い、確かに叶えたぞ……リク。あとは、任せた────」
衆合地獄が完全に消滅したのを見届け、ニキチッチも愛馬と共に消滅する。虹の一撃を受けて敗北してしまったジードをその目で捉えていようとも、全てを任せて……。
ニキチッチ
無理やり自身の逸話の再現を行うことで土地、知名度ともに劣る衆合地獄にその刃を届かせた。鬼毒酒に耐えられるのか、段蔵が手助けにくるのかなど賭けな部分があったがそこにも打ち勝ち勝利することができた。
ズメイを呼んでしまうと討つべき対象が変わってしまうため呼ばなかった。
ダマスクの刀:日本刀とダマスク鋼、どちらも現代では再現不可能な製法、技術でありダマスカス製法は日本刀の製法に近いと言われていることもあり、村正は急場凌ぎではあるが刀を打つコトができた。業を断つ刀として扱えたのはリクの力を受け取ったからというのもあるがダマスク鋼との親和性があるニキチッチだからこそ。
衆合地獄
ジードもニキチッチもどこかのゴールデンと同じような碧眼をしていたのが運のつき。カルデアの酒呑が混じっているくせに二人にちょっかい出すことが多かったのはイケメン好き(魂含む)なため。ニジカガチのことは自分の中にいる別側面が表に出てきそうになるくらいには嫌い。
色々な偶然。衆合地獄を倒すなら?その上でリクくんと関わりが深くなりそう&もしかしなくても2部以降も活躍できそうなサーヴァントを考えた結果がニキチッチ。fate限定の親としてのニキチッチがなければぜーーーーったいに選ばれませんでした。