【一部完結】Fate/Grand Order〜Bの因子〜 作:ちょっつー
【自分たちの為の物語】
「あっ、おねーさん! ごきげんよう 」
「ははは、今日も来たんだねライムちゃん 」
「ええ! 今日もおねーさんのお話、聴かせてちょうだい 」
そろそろ就寝の時間だって時に私の部屋に訪れてきたこの子はナーサリー・ライム。 第四特異点、あの霧のロンドンで博樹さんが契約したサーヴァントだ。
彼女、どういうわけか数日置きに私の所に来て話を聞きに来るんだよね。 しかもその内容が、私が今まで旅してきた特異点での事。
最初は私じゃ上手く話せる自身ないから他の誰かに頼んだほうが良いよって言ったんだけど……
『そんなの気にしないわ。 私はおねーさんの目で見て感じた物語を聞きたいんだもの 』
そう言われたから、誰かに言い聞かせるっていうよりかは、私が本当にその時感じた事を振り替える話し方で特異点の事を物語るようにしてる。
「それじゃあ、前はどこまで話たんだっけ? 」
「オルレアンで悪いおじさまが一人何処かへ行っちゃった所で終わったの。 わたしと会った時も一人だったし、悪いおじさまはきっと一人が好きなのね 」
「ははは、そうなのかも知れないね。 じゃあ────」
────────
自分の名前を忘れてしまう空間。 べリアルさんが名前を思い出したことで怪獣墓場を舞台とした空間が崩壊していく。 空には亀裂が入り、ロンドンの街並みが覗くなかで、アリスちゃんは崩れた岩の1つにぺたんと力なく座り込んでいる。
『お願い、お願いおじさまっ! あたしの一番大切な親友を! バットエンドへ向かってるアリスあたしを救ってあげて!!』
「お願いが、あるんだけど……いいかな? べリアルさん…… 」
私自身も、この空間に入ったことで1度名前を失った。 そのダメージは思いの外大きかったみたいで全身が今にも動かなくなりそうな痛みが走ってくる。
そんな痛みを誤魔化しながら、私はべリアルさんにある提案を出す。
「あの子を、アリスちゃんをこのまま放っておいたら消えてしまう……。 だけど、このまま消えてしまうのを何もしないで見ていることなんて出来ない 」
「助けると言うのか? アイツを、人ではない写し鏡であるあの英霊を 」
「ああ。 貴方と歩くって決めたんだ。 女の子とした約束ひとつ守れなかったら私は私を許せなくなる。 だから、アリスちゃんを救うために、力を貸してほしいんだ 」
「ふっ…… 」
べリアルさんは馬鹿なヤツを見るように、呆れながら苦笑しながらもその手を動かし、崩れた岩を集めてどんどんと離れていくアリスちゃんへと続く道を作ってくれた。 私は一分一秒でも無駄にしない為に身体に渇をを入れて岩場に向かって駆け出した。
岩場に体重をかけると直ぐに崩れ始めてしまう。崩れるよりも速く、はやく脚を上げて次の岩場へ移っていく。
「こないで、こないでこないでこないで!!!! 」
「っ!! 」
私が走ってくるのを見つけたアリスちゃんが攻撃を仕掛けてくる。来ることを拒絶してくるその攻撃だけど、止まってしまっては落ちてしまう。それと、絶対助けてくれるって信じてるからそのまま走り続ける。
「とっととその娘を止めろ、宮原博樹!! 」
「ありがとう!! べリアルさん!! 」
岩場の道を形成しながら、アリスちゃんの攻撃を消滅してくれるべリアルさんに感謝を伝えながら走り抜け、ようやくアリスちゃんが座り込んでいる岩場までやってくることが出来た。
「どうして……どうしてここまで来たの? バットエンドが決まった物語になんて、ありすに会えないこんな世界なんて嫌!! あたしはいたくないの!! 」
バットエンドが決まってる……そうか、アリスちゃんは全部知ってるんだ。人理が焼却されてしまったこと、2018年から先の未来が存在しないこと……だからバットエンドだって、ありすちゃんに会う事が出来ないって嘆いてるんだ。
「…………君に、物語を書いて欲しいんだ 」
「え? 」
しゃがみこんで、アリスちゃんに目線合わせながらそう伝える。 けどアリスちゃんは言葉の意味が理解できていないのか顔を上げて私の事を見てきた。
「ああ、書いて欲しいじゃ可笑しいのか。 う~ん記してほしい? 伝えてほしい? なんて言えばいいんだろう? 」
「違う、ちがうわ。 私は本、誰かが書いた物語を綴じる栞。 そんな私が物語を書くなんて無理よ!! 不可能に決まってるわ!! 」
アリスちゃんは自分の英霊の在り方として、物語を書くことなんて出来ないと否定する。 けど、それこそ有り得ない。 だって彼女の記憶のなかにはずっとありすちゃんとの思い出が残っているんだ。それを、栞なんて思わせたくないから、否定する。
「不可能なもんか。 作家さんが書いたお話だけが物語じゃない。本を読んで、こうしたい、こうなったらいいなって思って誰かが書き加えたそれだって立派な物語だ。 子どもが書いたラクガキだって、知らない人からしたらただのラクガキでも、その子の中には壮大な物語がある。 物語を描くのに資格なんていらない、誰にだって物語は描けるんだ!! それが例え物語を綴じる本だって 」
何を話せばいいのか、どう説明すればいいのか考えたなかで、一番に思い浮かんで来たのはやっぱり、家族との思い出だった。自分も通った道だけど、娘と息子が書いたオリジナルのウルトラマンや怪獣の絵。あれだって物語のひとつだ。
『こうやってゼットンのことたおすんだよ!! 』
『誰もザギ様のことたすけてくれないからわたしがたすけるの!! 』
後は、結婚式の事だ。自分がどんな子供だったのか、どんな人生を歩んで妻との馴れ初めはどんなだったのか。 それを綴った写真の数々だって私だけの物語だ。
だからこそ、物語は誰にだって書くことが出来る! 描けるんだ!!
「誰かの為の物語は、”自分の為の物語”に変えることが出来る。 だから、結末がバットエンドって決まった物語だって、その人の気持ちひとつでハッピーエンドに書き換えることが出来るんだ 」
目の前でポタポタと零れる涙を手で拭ってあげながら、いつも学校に向かう子どもたちへ向ける笑顔を作る。
「ぐすっ……でもわたし、貴方たちの物語を最初から知らないわ 」
「それなら知ってるみんなから聞けばいいんだよ。 虹みたいに、沢山の綺麗な色が連なった物語が出来る。 それってとっても素晴らしい事だと思わないかい? 」
「ふふ、ふふふ……。 おじさま、と~っても欲張りさんなのね。 わたし、バットエンドが大嫌いなの!! だから絶対ハッピーエンドを迎えなきゃ許さないわっ!! 」
何かの隠しているような笑顔じゃない、心のそこからん笑顔見せてくれたアリスちゃんを見て、釣られて頬が上がる。
「ずっと、ずうっと。 何度も何度もバットエンドを迎えてきた人が漸く掴むハッピーエンドの物語だ!! 誰が邪魔してこようが、運命がそれを許さなくても掴みとる!! どうだい? わっくわくするだろうアリスちゃん!! 」
いつかどこかで、アリスちゃんしか知らない物語を誰かに語ることが出来るように……
そのために、ここでアリスちゃんを消さないために契約を結ぶ。
「…………べリアルさんっ!! サーヴァントとの契約ってどうすればいいんですか!! 」
と、思ったけど私自身サーヴァントとの契約ってカルデアで一瞬で触れただけで何も知らないんだよな。べリアルさんとの契約もいつの間にかだったし。
すると、呆れた様子で私の隣まで降りてきたべリアルさんが私の手を掴んでアリスちゃんに手を翳すように前に出す。
「魔力を流す感覚はお前の身体が覚えている。 後はオレに続け 」
べリアルさんが言うように、身体の中にあるであろう魔力、そして手に浮かんだべリアルさんの顔のような令呪に力を入れると、血のような”ナニか”が身体を伝っていくのが分かる。
「告げる 」
「────告げる 」
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば 」
「──汝の身は我が下に──我が命運は汝の剣に──聖杯の寄るべに従い──この意この理に従うならば 」
後は、べリアルさんの言葉を聞かなくても分かる。何故だか理解できる。私とアリスちゃんとの間に魔力の繋がりが出来ていく感覚が教えてくれる。
「──我に従え、ならばこの命運──汝が“物語”に預けよう 」
「
結んでいた髪はほどけて、綿菓子のように広がる。 そして彼女の目の前に現れた大きな本は、これからアリスちゃんが物語を紡いでいくからか、題名も表紙も書かれていない白紙の本だった。
【まっていてねありす。 あなたへおくるためのさいこうのハッピーエンドの物語をえがいてみせるからっ!!】
と、言うわけでライム……アリスはべリアルさん以外で博樹さんが契約した唯一のサーヴァントです。(これから増えることは絶対にないです)
第3再臨のライムのスカートに写ってる「不思議の国のアリス」の意匠。 FGOマテリアルでワダアルコ先生が言うにはあの部分はライムが使用する「物語」によって意匠が変わるというものがあったので。
この小説のライムの意匠はまだ白紙の物語だけどバットエンドを見続けたべリアルを写しているから、真っ黒なまま。
【博樹さんがありすに会えた理由】
べリアルさんがライムの固有結界である"名無しの森"に囚われたことで、ナーサリー・ライムというサーヴァントの霊基に刻まれた記憶と実際は生死の境をさ迷っていた状態の博樹だったからこそ起きた偶然。