もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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ネタ多め回。何故か文字数が一万越え。

あと、楽しみにしていた人もいるかもしれないであろう、団体戦のオーダー発表がこの回には含まれています。意外と思う人もいるかもしれないし、まあそうだろな、って思う人もいるかもしれませんね。




10,合宿に向けて

(うーん……)

 

 時は過ぎ五月を迎える。

 

 現在、時刻は夜。

 家でベッドに横たわり枕に顔を埋めながら悩み事を考えている者が一人存在していた。

 

 

 

「お姉ちゃん、お風呂沸いたよー」

「ん、私はもうちょい枕の感触味わっていたいから……咲、先に入ってきていいよ」

「う、うん?じゃあ私から先に入ってくるね!」

 

 ベッドに横たわっている人物、照はそう咲に言って動こうとはしなかった。

 それを聞いた咲は風呂場へと向かっていく。

 

 

 

 また、再び仲直りし関係が元通り仲良くなった照と咲を見た父は、その時を初めて見た時は驚いたという。

 お互いに距離を置いているのを知っていながら、あえて見守る事しか出来なかった俺を許してくれ、と父は照と咲に謝罪した。

 

 父も父なりに互いに刺激しあいストレスにならないよう、悪いとわかっていながらも考えての行動だったのだ。

 その行動がいい事とは決して言えないが、父なりの気遣いだと照と咲の二人は察していたので、特別怒ったりするような事はしなかった。

 

 

 

 そんなこんなで、宮永一家はどこにでもいるような、姉妹の仲もいい、普通の家族に戻ったわけで――――

 

 

 

(これから……どうしようか)

 

 照は六月に行われるインターハイ予選の時間、どのような時間の使い方をするか悩まされていた。

 

(淡に関しては心配してない、煌も去年より徐々に力を伸ばしているから期待できる。優希はまだまだ足りない、咲は……)

 

 団体戦を組む上で、メンバーをどう指導していくかを照は考えていた。

 

 淡はずっとやる気を出して麻雀に取り組んでおり、実力も申し分ないため何も心配する所は無い。

 煌も一年間照と打ってきて、というか麻雀といえばほぼ照が卓におり、嫌でも実力が伸びるような環境にいたのだ。そして煌の努力している所を照は一年間見ているので、こちらもそこまで心配はしてない。

 優希に関しては面白いものを持っている、と照は感じていた。が、まだまだ荒削り、いわばダイヤの原石みたいなもの。それを磨けるかどうかは今後の時間の使い方次第だと照は考えていた。

 

 ある意味、一番問題なのは――――妹である、咲。

 

 

 

(やる気が無いわけではない……けど、勝ちへの執念が薄い。私とやる時以外、どうしてもプラマイ0になってしまう。……これは、思った以上に重症だった)

 

 咲の実力は、間違いなく相当のものである。

 だが、咲は最終的にはプラマイ0になってしまう。もはや、これは癖だ。簡単に治るようなものではなかった。

 

 ただ、照と打つ時だけは本気で勝ちに来る。そして実際、ほぼ五分五分の成績を残す。これには他の部員も驚くしかなかった。特に唖然としていたのは淡なのだが。

 だが照抜きの場合は、ほぼプラマイ0になってしまうのだ。

 

(普通、麻雀を打つ人は勝ったら楽しいって思うんだろうけど……咲の場合は打てたら楽しいだから、そこの意識もあるのかなあ……しかも咲の場合、特別大会に勝ちたいとか、全国に行きたいとかそういう目標も持って無さそうだし)

 

 咲は感性が他の人とは若干違う所があるのだろうと照は思っていた。

 勝つから楽しいのではなく、打つ事そのものが楽しいという意識だ。照と打つ時を除いて、だが。

 

 

 

(くそ、私がいない時の清澄の咲は何であんなに勝つ気に満ち溢れていたんだろう……?そして咲の先輩は、どんな指導を咲にしていたんだ……?)

 

 前の世界、その時の清澄の部長の久が咲に対しどのような指導をしていたのかは照は知らない。

 更に言えば、前の世界で咲が全国に行きたい、実際に行って勝ち上がってきた。その強い気持ちの源はお姉ちゃんと麻雀を通じて仲直りしたい、お姉ちゃんと会うまでは負けられない、という事とは張本人の照は知る由など無かった。

 

 つまり、現時点でそのお姉ちゃんの照がいて本来あったはずの目標というものが無いのだ。

 

 

 

(うーん……)

 

 この夜、照は今後の予定について悩み続ける。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「今度、合宿をする事に決めた」

 

 ある日、部室で照が部員達全員に突然言い放った。

 

「合宿、ですか?」

「うん、目的は全員のレベルアップって事で。場所に関しては大丈夫、勿論皆の親の了承とかは必要になるけど」

「ま、私は親に何て言われようと出るけどねー」

「私もだじぇ!」

 

 親に確認する事も無く、既にその事を聞いて参加する気満々の者も多数。

 

「私も勿論。すばらな内容の合宿にしたいですね」

「俺も!ま、俺だけ男子だし、団体戦メンバーでもないんだけどな」

 

 皆がそれぞれ了承の意志を伝える中、未だ声を出さない者もいた。

 

「咲?」

「え?あ、うん。その、合宿って言われてもイメージがつかなくて。今までそんな経験無かったから……」

「……泊りがけで部活をする感じだよ。普段の部活なら時間も限られてるけど、一日中時間を使えるから、普段出来ないような事をじっくりこなしたりとか」

 

 照は簡単に咲に説明をする。

 要するに泊りがけで麻雀の特訓をする、それだけの話である。

 

 

 

「ま、合宿をするって事だけ伝えたかっただけだから。あと、もう一つ重大なお知らせね」

「珍しいですね、こんなに連絡があるのも」

「どうせなら一遍に全部話しちゃおうって思って。えっと、女子団体のメンバー決めてきたんだけど。あ、まだ提出はしてないから変更出来るし、反論があったら勿論聞くよ」

 

 その言葉を聞いた途端、淡と京太郎以外のメンバーの表情が一気に引き締まった。京太郎においては関係の無い話だからなのだが。

 

 ここは女子部員が五人、つまり全員が団体メンバーに選ばれる事にはなる。

 だが、それぞれどこのポジションに配属されるのか楽しみでもあり、不安でもあるのだ。

 

 更に言えば、それを考えてきたのは全国チャンピオンの照なのだから。

 その期待に応えなければならないと思うのは当然なのかもしれない。

 

 

 

「先鋒が優希、次鋒が煌、中堅が私、副将が咲、大将が淡で行こうかなって考えてる」

「お、私が大将かー。テル、わかってるじゃんっ!って、あれ?皆、どうしたの?」

 

 淡は大将に選ばれた事に喜びを表現するが、他のメンバーは黙ったままである。

 特に優希に関しては、いつもの勢いはどこへやら、その言葉を聞いた途端自信なさげな表情をしていた。

 

「……まあ、皆言いたい事はそれぞれあると思うけど」

「うん、何でテルが先鋒か大将にいないのって疑問はあるよね」

 

 麻雀の団体戦のセオリーとして、先鋒にはチームを勢いづけるエース、大将にもチームを纏めれる、風格やら責任やら実力を持つ者がつくと考えるのが普通ではある。

 どのポジションもそれぞれに役割を持ち重要ではあるが、特に重要視されるのはこの二ポジションである事は間違いない。

 

 なのにも関わらず、照は先鋒にも大将にも名前を置かず、中堅と自分で言っていた。

 

 

 

「……じゃあ、一つずつ説明しようか。まず、優希」

 

 照は優希の目を見ながら説明していく。

 

「優希の麻雀はチームを勢いづける事が出来る。安定感こそまだ無いけど、そのスタイルは先鋒向きだと私は思ったから」

「……私が、先鋒」

「あと次鋒の煌。優希には安定感が無いからどっちに転ぶかはわからない……でもいい流れでも悪い流れでも、煌なら状況に応じて麻雀を打てると思った」

「なるほど……」

 

 照が優希と煌、それぞれに自分の思っている事、そのポジションに配置した理由を説明した。

 

 

 

「……納得、出来ないじぇ」

 

 だが、優希はまだ弱気な声を出す。

 

「先鋒に選んでもらったのは凄く嬉しいじょ。だけど、淡が言った通り照先輩が先鋒にいた方が実力的にも申し分ないし、勢いもつくんじゃ……?」

 

 これがもし、どこにでもあるような普通の高校、いや、あるいはそれなりの名門校でも優希は喜ぶだけ喜び、任せとけと言って終わったかもしれない。

 しかし、照がいる高校での先鋒というポジション。何故自分が?と思う所があってもおかしくはないだろう。

 

 

 

「えっとね、確かに優希の言った通り私が先鋒にいるほうがいいのかもしれない」

「だったら何故……?」

 

 照は意外にも優希の反論に対し肯定する部分も持っていた。

 それだけに、優希はさらに疑問に思う。

 

「優希と煌には、実戦経験を積んでほしいんだ」

「実戦経験……?」

「もし私が先鋒にいたらその場で全て飛ばして終わる可能性もある。それじゃ駄目なの」

(テル、その台詞を真顔で言うのは……まあ、可能性に関しては何も否定できないけど)

 

 心の中でひっそりと突っ込みを入れる淡であった。

 ここで照が言いたい事、それは。

 

「この部内なら、二人が一番伸び白がある」

「「!」」

「実際に試合で打つのは、普段打つのとは全然違う。試合の中で掴む物は、いっぱいある。煌も中々対外試合とかする機会なかったしね」

「そうですね……団体のメンバーが揃っていなかった事もあって、個人戦に出るくらいしかなかったですね」

 

 もしメンバーが揃っていたならば、煌ももっと打つ機会に恵まれていたのかもしれない。

 だが、清澄麻雀部では団体が組めなかった。

 

 普段の対局とも練習試合とも違う、実践の独特の緊張感、空気。それは人を思っている以上にレベルアップさせる、照はそう言いたいのだ。

 

「私が中堅にいるのは、二人がもし上手くいかなくてもフォローするために。だから二人は自分のやりたいように、思う存分楽しんで打ってきて欲しい」

 

 照が中堅にいるのは前二人がやられても、すぐ取り返すためにという理由からだ。

 これはその言葉だけの理由以上に、何よりも後ろに照がいるという安心感を二人には与え、ノビノビと打たせる事が出来るという所もある。

 

「正直二人は、特に優希はまだまだ全然駄目。だけど、実戦で何かを掴んで。そして自信を持って、強くなって」

「そんなすばらな理由が……」

 

 その言葉を聞いて、煌は表情をいい物へと変える。決意したという表情だ。

 

「よしっ、この花田煌、次鋒任されましたぁ!」

 

 煌は照の考えに賛同し、元気よく返事をした。

 

「優希は、不満?」

「いや、そんな事は無いじぇ……よしっ」

 

 優希も不安だった表情はどこへやら、いつものような自信に満ち溢れたような顔になった。

 

「照先輩に託された先鋒、任されたじょ!煌先輩にいい流れをつなげれるよう、頑張るじぇ!」

「ふふっ、その意気。誰よりも、先鋒らしい先鋒になって」

 

 優希の心理状況はこの短い時間で劇的に変化していた。

 照がいるのに先鋒、ではなく照に任された先鋒、という捉え方だ。チャンピオンがいるのにも関わらず自分が先鋒、というプレッシャーではなくチャンピオンに託された、エースのポジションという自信になる捉え方。

 

 そしてそれは今の実力はまだ足りていないのかもしれないが、全国チャンピオンにそれだけ期待されているという事。優希は、それが嬉しかったのだ。

 

 人によっては託される事をプレッシャーに感じる者も多数いるだろうが、優希にはそれが無く、むしろそんなマイナスではなくプラスに変える。本当に向いているポジションなのかもしれない。

 

 

 

「副将の咲、大将の淡に関して言うと……咲も安定してバトンを回せるし、淡には信頼してるから。それだけ」

「私が副将かあ……」

「ま、多分サキに回る前に全てが終わってそうな気もするけど……ちゃんと、全力でスタンバイだけはしておくから!」

 

 こちらに関しては簡潔に説明した。

 咲はともかく、淡に関しては自分でわかっているだろうと照は思っていたからだ。

 

 

 

(……咲はプラマイ0、つまりはそこはかなり安定して計算できる。それで淡にバトンが繋がれば、問題は無い)

 

 本来なら照は咲のプラマイ0自体を治したいのだが、このインターハイ予選までの一ヶ月という期間で治るかどうかはわからない。

 だからこその安全策でもある。勿論一番の理想は、咲が普通に麻雀を打つ事なのだが。

 

 

 

「さて、連絡は終了。オーダーに関しては、変更したいとかの点は大丈夫?」

 

 全員が大丈夫、と肯定の頷きをする。

 

「……よし、じゃあ今日も練習始めるよ」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ついたじぇえええー!」

「ついたあああああっ!」

「ふ、二人とも凄い元気だね……結構長い時間バスに乗ってたのに」

「というより、この二人はバスの中でもかなり元気でしたからね……」

 

 時は更に過ぎ、五月後半。

 清澄高校麻雀部は、合宿の日を迎えた。

 

 少し山奥にあるそれなりの広さの合宿所でやる事になる今回の合宿。

 そこまでの道のりはバスで、そこそこの時間もかかるという事で疲れている者も多数いる中で、優希と淡の二人は元気しかなかった。

 

 それは横で見ている咲と煌が思わず感心してしまうほどだ。

 

「あれ、京ちゃんは?」

 

 咲がキョロキョロと周りを見渡すが、京太郎の姿は無い。

 

「ああ、京太郎君ならさっきバスに忘れ物したって言ってたよ」

「えっ、既にバスが出ていて持って行かれちゃったって展開じゃないのそれ?」

「いや、バスはまだあったから大丈夫。多分、もうすぐ来ると思う」

 

 未だ来ない京太郎の姿について、照が咲に説明をした。

 そしてそれを言ってすぐに、荷物を持ってやってくる人物の姿が見えてきた。

 

 

 

「いや、悪い悪い!ちょっと忘れ物をしててさ!」

「あれ?キョータローこの前私にめっちゃでかい荷物を合宿所に運ばなければならねえ……って泣きそうな顔で言ってなかったっけ?それにしては随分、普通の荷物の量だね」

「ああ、それなんだがな……」

 

 実は合宿前に京太郎は淡に話の流れでたまたま、泣き言を漏らしていたのだ。

 その具体的な荷物とは――――パソコン。それも部室のかなり大きい物だ。

 

「煌先輩がな、言ってくれたんだ。誰かの家にあるノートパソコンを持ってくればいいんじゃないかって」

「え?あ、そういえばそんな事も言ってましたっけねえ……」

「まあ、確かにそんな簡単な事に気づけていなかった俺もどうかしてた、それは否定しない。けどよ……」

 

 すると京太郎は突然、照の方に目線を向けた。

 

「おかしいだろ、照先輩!」

「え、私?」

「確かにあの大きさの部室のパソコンを一人で持って来いというのは……というか、持ってこれるんですか?あれ」

 

 煌も京太郎に賛同するように、それ以前にそもそもあれを持てるのかという前提の話すら際どいラインであった。

 

「だって……どうやるかはわからないけど、牌譜とか取るのに必要なんでしょ、あれ」

「ノートパソコンでも出来ますから!」

「そうなんだ……ごめん、京太郎君」

「あ、その……素直に謝られると何というか、こっちこそすみません……」

 

 照はパソコンが牌譜を取るために必要という道具という所までは認識していた。

 だが、別にそれは部室の大きい物ではなく薄いノートパソコンでも出来るという事は全く知らなかった。

 

 要するに、照はパソコンについてほぼ無知だった。それが今回の話の問題点の原因である。

 

 京太郎も何となく話の中で察したのか、謝られた事に対し謝る事でしか対応できなかった。

 

 

 

「ねーねー、とにかく荷物を中に運ばない?」

「そうですね、いつまでも外にいても何も始まりませんしね。まずは荷物を運びましょう」

 

 淡の一声に煌が反応し、ようやくそれぞれが荷物を中に運んでいくのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「よし」

 

 全員が寝室に荷物を置き、再び全員が同じ部屋に集まって来た所で照が一声発する。

 

「皆揃ったね。それじゃあ、今日のこれからの予定何だけど……」

 

 その時照が、いや全員が同じ行動をした。

 部屋にある時計に目を向けたのだ。既に、夕方と言える時刻に時計の針は指していた。

 

 

 

「ねえ」

 

 淡が全員を代表するかのように、自ら声を出す。

 

「今日ってお昼にはここに来れる予定だったよね?」

「う、うんそうだね。予定ではね」

「まあ、事故とか色々とハプニングが起きて遅れたのならしょうがないよ。だけどさ……バスの集合場所に来るのが何時間も遅れるってどうなのさ!?ねえ、テル、サキ!?」

 

 今回行われる合宿は二泊三日のメニューである。

 そして初日は正午ちょい過ぎの時間帯にはここに来れる予定だった。本来の予定は、だが。

 

「えっと……迷った」

「お姉ちゃんと同じく……」

「まあそうだろうね!?ってか、何で電話したのに出てくれないのさ!?」

「え、電話してくれたの?……あれ、電源がついてない。故障かな」

「それ充電してないだけだよね!?」

 

 あまりのポンコツっぷりに突っ込みが絶えることの無い淡であった。

 突っ込み疲れしたのか、若干ぜえぜえと息を切らしている。

 

「お、落ち着いてください淡さん!」

 

 そこに煌が、淡を落ち着かせるように声をかけてきた。

 

「照先輩がこうなのは日常茶飯事ですから!咲さんも、同じ感じとは思ってもいませんでしたが……」

「えっ」

 

 照はそれを聞いて心外な、と声を出すが全員がその声をスルーする。

 

「要するに、これは事故とかハプニングとかそういう類の物です。そう思っておけばほら、何も問題は無いでしょう?」

 

 そんな事を言う煌の目を見て淡は全てを察してしまった。

 あ、これはもう諦めているな、と。

 

(今思い返せば……)

 

 白糸台時代、何か動くとなった場合照には何かしら後輩がつきっきりで動いていたのを淡は思い出した。

 チャンピオンの特別扱いだと当時は思っていたが、そうではなかったのだと。いや、それはむしろある意味特別扱いなのだが。

 

 

 

「……この時間帯から打っても、中途半端だし皆も疲れが溜まっていると思う。だから今日は自由時間。勿論、打ちたい人がいれば打っても構わないし、休んでも遊んでも構わないよ」

 

 最終的にしっかり纏めてきたあたりは何だかんだ、部長なのだろう。

 ちなみに、誰一人として誰のせいで疲れが溜まったんだ、という突っ込みはしなかった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ごーはーんーのー」

「時間だじぇえええっ!」

 

 時間は過ぎ、夕飯の時間帯。淡と優希の二人は楽しみを堪え切れないのか、とりあえず叫ぶ。

 

 この場にいる全員が既に温泉に入り、浴衣に着替えてきていた。

 そんな中、とある人物は全体を見回し、その後ある思考をしていた。

 

 

 

(……ああ、これは普段苦労が多いであろう俺のためのラッキーイベントだ。間違いない)

 

 そう、唯一の男子部員、須賀京太郎である。

 

(煌先輩も結構な美人の部類、淡も普段は子供っぽいイメージなのに何だか……すっげー可愛い。これが浴衣の力なのか!?)

 

 まず煌と淡に対しての感想。

 煌に関しては美少女の部類だと京太郎は普段から思っていたので、それが浴衣を着ている事により更に可愛いといった普通の感想だ。

 

 淡に対しては、浴衣によりいつもの子供っぽさはどこかへ消え、かなりの美少女に見えると思ってしまった。

 

(照先輩ってあまり表情崩さないけど普通に美人なんだよな。……あれっ、咲もそう考えたら姉妹だけあって照先輩とかなり似てる所があるし美人なんじゃね?)

 

 照を見てから咲を見て、そんな事を思ってしまう京太郎だった。

 いつもは特に意識しないであろう幼馴染の咲ですら、どこか意識してしまっていた。

 

(それにしても……)

 

 京太郎は最後にチラッと優希の方を見る。

 

「む?さっきから色々と周りを見渡して……変態だじぇ!さては、この優希様を筆頭に見惚れたな!?」

(浴衣を着ていようが来ていなかろうがこいつだけはいつも通りだ、間違いない)

 

 そんな女子力を飛躍的にアップさせる浴衣というアイテム。

 それを持ってしても、京太郎は優希に対してだけはいつもの反応だった。

 

 

 

(しかし、なあ……)

 

 最後にもう一度、京太郎は周りにばれないように全体を見渡す。

 

 

 

(……おもちが足りない、ああ、おもちが足りない)

 

 清澄内のあまりの胸の無さに、思わず京太郎はそんな事を思ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「就寝時間目前だじぇ!」

「そんな時にやる事といえば、勿論!」

「枕投げしか無いに決まっているじぇ!」

「やっぱりわかっているな、ユーキ!」

 

 一日中テンションが尽きる事の無かった優希と淡の二人。

 そのテンションは、一日の最後まで持続していた。

 

 二人は必要以上ともいえる枕を既に手元へと蓄えていた。

 

「さて、と」

「もしかして現在考えている事は同じか?淡」

「……じゃあ、とりあえずせーので言ってみる?」

 

 二人はお互いに合図をし、せーので口を開く。

 

「「京太郎(キョータロー)の部屋に突撃だああぁぁっ!!」」

「え、あ、ちょっと二人とも!?」

 

 さりげなく自分が襲撃されるのではないかと密かに隠れていた咲だったが、予想外の行動に驚きながら隠れていた場所から出てくる。

 

「お二人とも、元気ですねー……」

「そうだね、元気だね」

 

 そんな二人を呆れ顔で見ていた煌と照であった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「くそ……」

 

 一方、京太郎は悲壮感を身体中から出しながら眠りにつこうとしていた。

 

「しょうがないけど……俺一人は流石に寂しいっての」

 

 一人ぽつんと、広い部屋で布団を敷いて寝ているのだ。

 他の部員が同じ部屋でいるだけに、寂しさは増していくばかりだ。

 

 

 

「五人は部屋でまだ元気にしてんのかな……ガールズトークとかしてたり」

「うりゃああああああっ!」

「んなあああああっ!?」

 

 寂しさ全開で独り言を呟いていた京太郎の部屋のドアが突然開き、淡の襲撃を喰らう。

 

「追撃だじぇ!!」

「んなっ!?てめ、このやろ!」

 

 更に京太郎が怯んでいる隙に、淡が入ってからすぐにまた入ってきた優希の怒涛の枕ラッシュを被弾し、京太郎の怒りのボルテージは増すばかり。

 

 

 

「ふはは、悔しかったらこっちの部屋までくるんだな!」

「という事で、さよならキョータロー!」

 

 投げるだけ投げて、優希と淡の二人は京太郎の部屋から逃げていった。

 

 

 

「……上等だくおらぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「あの二人、大丈夫かな……?」

 

 咲はいなくなった二人の事を心配していた。

 

 京太郎はこのような事は結構乗ってくるタイプだと知っていたので、間違いなく仕返しに来るだろうと咲は思っていた。

 そして、京太郎はそのノリが度が過ぎる事がたまにあるという事も知っていたからこその心配である。

 

 

 

「てめーら待てこらああああっ!」

「やばっ!?キョータロー意外と速いよ!?ってか、気持ち悪っ!」

「一人の限界量の枕……それを二人分持って尚且つ走るスピードも速いとか、どういう身体の使い方してるんだじぇ!?」

 

 部屋の外から悲鳴と怒鳴り声が同時に聞こえてくる。

 咲はそれを聞いて、はあとため息をつくしかなかった。

 

 

 

「ヘルプぅぅぅぅっ!」

「やっと部屋にたどり着いた……じぇ」

 

 元気はあるが追い詰められて焦りしか見せていない淡と、逃げる事にスタミナを使ったのか結構バテ気味の優希の二人が勢い良くドアを開け、部屋へと戻ってきた。

 ――――そしてすぐさま。

 

「喰らえおらあああっ!」

 

 枕をこれでもか、と持ちながら部屋へと入ってきた京太郎。

 そしてその枕を淡と優希の二人へと投げていく。

 

 

 

「くっ……ユーキ、反撃するよ!」

「勿論……だじぇ!」

 

 その投げつけられた枕を拾い、すぐさま反撃に出ようとする二人。

 だが、その枕を投げてから思わぬ事態が起きる。

 

「え?」

 

 京太郎が咲の方へと向かって来たのだ。

 咲は何故自分の方へと向かってきたのか検討もつかなかった。そして、京太郎が行動に移した事、それは。

 

 

 

「咲ガード!」

「え?ぶっ」

 

 何と咲の身体の裏に隠れるという奇行をこの男はやり遂げたのだ。

 そして枕は咲の顔にクリーンヒットする。投げた張本人の優希も、ヤバいといった表情に変わる。

 

「もう……京ちゃんの馬鹿ぁ!」

「ちょ、痛い!グーの物理攻撃は止めて!やるなら枕、枕ぁ!!」

 

 ここで更に思わぬ行動に移った人物がいた。

 何と咲は、京太郎に向けてグーパンチでポカポカと殴り始めたのだ。

 

 か弱い少女の拳とはいえ、痛いものは痛い。京太郎は、涙目になる。

 

 

 

「にぎやかですねー……」

「そうだね。でも私は、この空気嫌いじゃないよ」

 

 そしていつの間にか煌と照以外の四人で全員がとにかく枕を投げ合うという展開に変貌していた。

 その光景を見ながら、煌と照はそれぞれが思った事をそのまま口にする。

 

 

 

 しかし、ここでこの枕投げ最大の事件が発生する事となる。

 

「ぶっ!?」

「あっ、やばっ……!」

 

 手元が狂ったのか、淡が投げた枕は自分の意志に反して別の所へと飛んでいってしまった。

 そしてその別の所とは、何と照の顔面、クリーンヒットである。

 

 

 

「……」

 

 照は無言でその投げられた枕を掴む。

 

 

 

 この時煌は、照を見ながら本来ならありえないような事を感じていた。

 

 まず、禍々しいオーラを放っているかのように煌の目からは見えたのだ。例えるならば、魔王のような。

 そして何故か、枕を持つ右腕が渦巻いているかのような、そんな幻覚すらも見えていた。

 

 

 

 そして照はゆっくりと枕を持つ右腕を振りかぶり――――

 

 

 

 放つ。枕はありえないような不規則な回転を見せる。そしてそのまま淡の元へ――――

 ゴッ!という枕とは思えない、鈍器がぶつかったかのようなおかしな音が部屋中に響いた。

 

 淡はその場に倒れる。

 まず、部屋中の空気が凍りついた。だが、近くにいた優希が何とかその場へ駆け寄り、状態を確認する。

 

 

 

「……息してないじぇ」

「……は?冗談だろ?」

 

 優希のたちの悪い冗談かと思い、京太郎も淡の元へ駆け寄って状態を確認する。

 

「…………マジ?」

「大丈夫、その内目覚める…………多分」

「信憑性ねえええええ!!」

 

 照が発言をしようとも、そんな物に全く信憑性など無かった。

 

 

 

 そんな感じで、清澄高校麻雀部の合宿は始まっていく――――




今回のまとめ

オーダー発表
淡と優希、とにかくはしゃぐ
照と咲、迷子
おもち不足
照、コークスクリューロン(枕)
淡、死す(三年ぶり二度目)

オーダーに関しては最初からこうしようと自分の中で決めてました。

あ、淡は実際には死んでませんからね!

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