もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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20,目覚め

 中堅戦後半戦が間もなく始まろうとしている時間帯。

 最後の選手が、会場へと入ってくる。――――それも、前半戦の最後に比べ大きく顔つきを変えて。

 

 

 

「待たせたな」

 

 最後に席に着いた衣はまず一声出す。

 その言葉には、複数の意味が混ざり合っていた。

 

「前半戦は、忘れてくれ。こっからは……緊褌一番、衣の麻雀を見せる!」

 

 引き締まっていた会場の空気が、その言葉により一層引き締まる。

 衣以外の選手も今まで決して油断をしていたという訳では無いが、益々気を引き締めた。

 

 

 

「……ワハハ、こいつは更にしんどくなりそうだなー」

 

 智美の言葉を口火にするかのように、後半戦が始まっていく――――!

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(うーん、起家かぁ……)

 

 場決めで後半戦は東家となった久。

 つまり、最初の親番という事になる。

 

 久は起家自体には別に特別好き嫌いを持っているわけではないのだが、それよりも別の所に問題があった。

 

 

 

(宮永照が北家……これは一番起きて欲しくなかったパターンね)

 

 久の上家、つまり北家。そこには照がいた。

 この場合、例えば南四局で照が連荘を続ければ誰かが和了するまで終わりが訪れはしないという事。ちなみに南家は智美、西家は衣だ。

 

 他家でも親番が回ってくる回数というのには変わりは無いが、ラス親連荘がずっと続くのは精神的に来るものがある。

 個人戦ではなく団体戦なので、和了り止めを決めるのは親次第であるが。

 

 

 

「その牌、ロンだ」

「ッ、早……!?」

「8000……衣の麻雀を見せると言っただろう?容赦などしない!」

 

 二巡目という驚異的なスピードで衣はロン和了をする。

 久には油断も慢心も無い。だが、そうだとしてもこの速度では何も気づく事も出来ず、振り込んでしまうのは無理も無い。

 

 

 

(……これはしょうがない、引きずらないで切り替えるしかないわね。それにしても……)

 

 点棒を持ちながら、久は衣の表情を見る。

 その顔からは点棒をよこせ、次の局を早く打ちたいんだ!というのを言わずともひしひしと伝わってくるような、そんな顔だ。

 

 

 

(……本人の言う通り、前半戦の天江衣とは大違いみたい。これは、相当厄介になってきたわね……)

 

 心の中では悪態をつく久。

 だが、その表情はそれとは裏腹にやや笑みを見せていた。

 

 

 

(でも、そうこなくっちゃって感じね。この緊迫感……更に燃えてきたわ!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ようやく、衣らしさが戻ってきたって所か?」

 

 こちらは龍門渕の控え室。

 後半戦が始まり、衣らしい高火力の速攻を見れた事から純はそんな事を口にする。

 

 

 

「確かに、麻雀の見た目とかはらしさは出たのかなって思う所はあるけど……僕は何だか、いつもとは違う物を感じるよ」

「あら一、どんな所がかしら?」

 

 純とは対照的に、普段とは違うという事を口にする一。

 それに対し、透華が一にどんな所が違うのかと問いかける。

 

 

 

「何だかほら……衣っていつもどっしりとしているような感じじゃない?だけど今日は、向かって行くかのような……うーん、上手く説明できないけどそんな感じ」

「……説明下手ですけど、言いたい事が伝わらないわけでは無いですわね」

 

 一は上手く言葉にする事は出来なかったが、何となくの意味は透華もその他のメンバーも理解する。

 

(……宮永照の影響力が大きいですわね、衣が挑戦者のようにあんないい表情で麻雀をしている姿、何時以来でしょうか)

 

 今までの衣ならば、特別意識せずとも自ずと牌が寄ってきて勝利を掴んでいた。いわば、打たされたという表現になるだろう。

 だが今の衣は必死に勝とうと、どうにかしようとしている。衣自身が考え、麻雀を打っているのだ。

 

 

 

(今の衣が、宮永照にどこまで勝負できるのか……楽しみですわ!頼みましたわよ、衣!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(後半戦の天江さん、前半戦とは全然違う……淡の一言が、意識を変えたのかな)

 

 照は前半戦とは違う衣をかなり警戒していた。

 その変わった理由として、全ての会話を聞いていたわけではないが恐らく淡の言葉が原因なのではないかと照は推測する。

 

(本当に、敵に塩を送って何がしたいんだか……まあ、私もそんな淡に感謝しているのだからどこかずれているのかもしれないけど)

 

 一般の感覚ならば、自分の味方の助言で敵が強くなったのならば怒るのが普通だ。

 だが照は淡に対し怒るどころか、むしろこうして敵である衣が強くなった事に感謝している。

 

(勝つためにここに来ているのに、相手が強くなってむしろ喜んでいる自分はやっぱりどこかおかしいかな)

 

 ただ勝つというだけなら、相手は弱いほうが勝ちやすいだろう。

 しかし、口にこそは出さないが照は強い相手と戦い、その上で且つ勝つ事の二つを求めている。

 

 そこには結果だけを求めているのではなく、根本的な所である麻雀を楽しみたい、それに繋がっている。

 純粋に、強い相手と戦ったほうが楽しいと照は感じているのだ。

 

 

 

(……まあ、どんな相手だろうと私は負けない。それだけの事――――!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 ――――東四局。

 

(先程の衣の親……出来るだけ連荘しようと考えていたが、あっさり突破された。ここまですんなり行かれるのも、初の経験だ)

 

 東三局の衣の親も、照の和了により流れてしまった。

 照ほどでは無いが、それでも圧倒的和了率を誇る衣からすれば滅多に無い経験である。

 

 

 

(衣の支配が効いていないわけではない。だが、海底から這い上がってくるかのようにどこかで突破されてしまう)

 

 後半戦に入ってからも衣は自身の海底撈月コースが通用するのか試してみた。

 その結果、照の聴牌速度はいつもよりは遅くはなっているものの、どこかで一向聴から手が進みそのまま和了ってしまうのだ。

 

(故に、衣の手札の一つが封じられているような物。それならば、どうすればよいものか……)

 

 これから照相手にどう打っていけばいいのか衣は必死に考える。

 頭を使ってどうにかしようとした事が今までに中々無かったせいか、いい案はすぐには浮かんだりはしなかった。

 

 

 

「ツモ、2000オール」

(むー!くそ、悔しいぞ……)

 

 衣が考え込んでいる内に、あっさりと照がツモ和了。

 そして、照の親は続いていく――――!

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(さて、配牌はっと……微妙だなー)

 

 東四局一本場。

 

(まあ、仮に多少良かろうがどうにもならなさそうな流れ何だがなー……麻雀打っててこんなにどうしようもないと思ったの、初めてだぞ)

 

 智美は打ちながらそんな事を考える。

 最初から相手がとんでもない格上であり、厳しいという事は理解していた。だが、実際に打っていてここまで絶望を感じるとなると厳しいものがある。

 

 

 

「ロン、7700の一本場は8000だ!」

「ッ……!」

 

 今度は衣が久に対しロン和了。

 久は顔をしかめながら、点棒を衣に渡す。

 

 

 

(竹井も辛そうだなー……チャンプはあの勢いだし、天江も完全に復活してるし。何か出来る、という次元じゃなくなって来ているのがな……)

 

 もし実力差があろうとも、戦術や相性によっては何か事を起こす事も麻雀という競技の中だったら出来なくは無いだろう。

 

 それすら出来ないのだ。

 圧倒的な実力差。それが、照と衣に対してはある。

 

 

 

(……唯一運がいいとすれば、後半戦はチャンプか天江のどちらかが圧倒的という展開にはなっていない事か。上手く均衡が取れていて、それなりに早い流れで進んでいるのは悪い傾向ではないなー)

 

 後半戦の東場だけを見れば、どちらかが親で圧倒的に連荘という事態には陥っていない。

 照が連続和了で本当に僅かにスピードが落ちた所を衣が追いついて和了する、その流れで意外とサクサクと場は進んでいる。

 

 

 

(……和了れなくても折れないぞ、後ろに繋ぐ事を必死に考えなきゃな)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(清澄の連続和了、驚異的な物ではあるが……火力の代償として徐々に速度は落ちていく。全く対応が出来ない訳ではない)

 

 ――――南一局。

 先程和了った衣は、冷静に東場の展開を振り返っていた。

 

 

(だが、このまま打っていても衣の方が劣勢だ。それに、このままでは前半の借金を消す事など出来ぬ……)

 

 対応は出来ても、優勢というわけではない。

 照が和了り続けていずれ何とか追いつけるというレベルである。それでは照の方が結局稼ぐ事になるし、その速度のままあっさりと後半戦も終了してしまい、衣も多少しか借金を返す事は出来ないだろう。

 

 

 

(……しかし、こうして冷静に場を見てみると他の面子も中々。鶴賀は自身の実力を理解し、この場を上手く立ち回っている)

 

 衣は照だけではなく現在対局している相手をしっかりと認める。

 智美に関しては、和了れてはいないものの未だに前半戦から振込は無い。ツモで削られてはいるものの、この面子相手ならば多少のマイナスならば十分すぎるほど健闘している。

 

(風越は……この状況下の中、よく攻め続けられる。愚……では決して無い、まだ勢いを感じる。折れてはいないし、前半戦の例もある)

 

 久は振込がやや目立つものの、折れずに自分の麻雀というものを貫いている。

 この場において、それは中々出来ない事だ。

 

 

 

「ツモ、300、500」

 

 またもやあっさりと早い段階で照の和了。

 

(この清澄の和了は致し方無し……が、このままだとそのまま終わってしまう。衣も何かしないと……)

 

 

 

 ――――南二局。

 

(この配牌……ここで清澄を何とか速度で上回る事が出来ないだろうか?)

 

 衣の配牌は二向聴、ダマで満貫を確実に狙えそうな手。

 速度も火力も十分、後は照に競り勝てるかどうかといった所だろうか。

 

 

 

(……よし、良形聴牌!後は和了るだけだが……)

 

 四巡目に五、八索の二面張といった形を作った衣。

 リーチはせずに、不要牌の北を捨てる。

 

 

 

(……ッ!?)

 

 その時、衣は大きい力を感じる。

 それは照ではなく、別の方向から。

 

 

 

(ずっと沈んでいたと思ったが……ここで来るか、風越!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(……張った!久々に張った、ここは絶対に逃さない)

 

 南二局四巡目、久も聴牌。

 それもかなりの良形。萬子の二三四、筒子の二三四、索子の二三四五六七八、北といった現在の手。

 

(さて、後は何を切るかだけね……)

 

 もし三色を確定させたいならば索子の五か八を切るべきではある。

 だがそれは衣の待ち、その事を久が知るはずも無いが。

 

(この展開……あえて北で待ってみるのも面白いかもしれないわね)

 

 現在場には先程衣が捨てた北を含め場には二枚。

 地獄単騎という形にはなるがそれはある意味久の普段通りのスタイル、そして今も八索に手をかけようとする。

 

 

 

(……いや)

 

 八索を捨てようとして、やめた。

 

 

 

「リーチ!」

 

 久が場に捨てた牌は――――北。

 

 

 

(いつもの私なら迷わず八索だったわね。ただ……)

 

 普段ならば久ならほぼ絶対に八索を捨てる場面。

 しかし、何かを感じ取ったのか今回捨てたのは北であった。

 

 

 

(ッ、引けぬ……清澄の聴牌気配はまだ、こうなれば風越との一騎打ちかっ!)

 

 張ってから最初のツモで和了出来なかった衣。

 未だ照の聴牌気配は無い事を感じ取っていたため、ここは久との一騎打ちになるであろうという事を悟る。

 

(清澄が少し出遅れているこの南二局、絶対に取って起きたい所……純粋な運での一騎打ち、衣が取る!)

 

 ここで衣が取れば前半戦の借金をほぼ全て返す事が出来ると同時に、総合的にプラスの収支に持ち込む事もかなり見込める場面だ。

 そんな大事な所である事を理解していたために、何としても取りたいと衣は願っていた。

 

 

 

 だがツモをした久の表情を見た衣は、やられたと感じてしまう。

 

 

 

「……ふっ、そっちを持ってくるのね。ま、一発ツモってだけでかなりありがたいのだけど」

 

 久は引いてきた牌を、そのまま勢いよく卓に叩きつけるかのように置く――――!

 

「ツモ、リーチ一発断幺九……裏乗らず、2000、3900!」

 

 久の引いてきた牌は二索。

 三色も消え、裏も乗らなかったが一発でツモ和了が出来たため中々の火力にはなった。

 

 

 

(……ま、天江衣が目覚めてそして今の自分のこの流れ。何で待っても悪待ちって感じだったかしらね?)

 

 後半戦に入ってから衣に大きいのを二度振込み、全く流れが来ていなかったといってもいい場面。

 久はいっそ開き直り、むしろ何で待っても悪待ちだろうと北を切る事を選択した。

 

 そしてそれが、結果的に成功したわけである。

 

 

 

(まだ、終わらせないわよ!どんな相手だろうと最後まで攻め続けるわ!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「びっくりしたわね……」

「キャプテン、久先輩の今の和了ですか?確かに、絶対五か八索切って天江に振り込むと思ってたし……」

 

 風越の控え室では今の久の和了に対しかなり驚いていた。

 久の打ち筋をよく知っているメンバーは、恐らく衣に振り込むのではないかと思っていたからだ。

 

「竹井さんらしくないと思ったけれど……でもやっぱり、竹井さんらしいわね」

「キャプテン、どっちですか……」

 

 あそこで北を切った久に対し美穂子は一瞬らしくないと思いはしたが、根本的な所はやはり久らしいと感じていた。

 あの面子相手でも自身の攻める麻雀を貫いているのだ、そして何とか喰らい付いていっている。

 

 

 

「本当に楽しそうに麻雀を打っているわ、竹井さん。あの面子相手にそう思いながら打てているのって、凄いわね」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「さて、後半戦南二局が終了しましたが藤田プロ……藤田プロ?」

「いやあ、何というか見入ってしまってな……長野県予選史上最高の対局じゃないか、これ?」

 

 解説室ではアナウンサーが藤田プロに対しコメントを聞こうとしたが、その藤田プロが解説業を忘れるかのように完全に試合に見入ってしまっていた。

 そして出てくるコメント、長野県予選史上最高の対局という言葉。

 

「そこまで……いや確かに凄いのは事実ですが」

「宮永照の凄さは遺憾無く発揮されている、だが完全に独走状態というわけではない。後半戦の天江の復活、予想以上の竹井と蒲原の健闘、この中堅戦の選手達は本当に凄いよ」

 

 実力そのものや実際の打ちっぷり、様々な事を藤田プロは評価していく。

 それを語る表情は、仕事をするプロ雀士というよりかは純粋な一人の麻雀好きといった顔であった。

 

「そんな中堅戦も、残り二局です」

「ああ、もうそれしか無いんだと残念に思うくらいだ。お客さんは、しっかりと残りの対局を目に焼き付けて欲しい」

 

 その素晴らしい対局である中堅戦も残り僅か。

 藤田プロの口からは、目に焼き付けろとの言葉が出る。

 

 

 

「……しかし、ここまで来ると予想も出来ん。宮永照と天江の速攻であっさりと終わる可能性もあるし、大きなドラマが起きるかもしれないし、竹井や蒲原の番狂わせも起きる可能性もある」

「プロでも予想がつかない対局ですか……それほどまでに高レベルな対局という事で、よろしいでしょうか?」

「ああ、高レベルだな」

 

 プロの雀士ですらこれからの予想をする事が出来ない現在の卓。

 それだけ、高いレベルでの対局が行われているのだ。

 

 

 

「では、間もなく南三局が始まります。……藤田プロ、解説だけはお願いしますね」

「ああ、うん……すまない」

 

 

 

 激闘が行われている中堅戦も、ついに終盤戦を迎える。




今回のまとめ

衣、復活
久、ある意味での悪待ち炸裂

照も衣も純粋に強すぎるから書きにくすぎる……
強くても隙のある能力者ならまだ書きやすいのですが、この二人隙が無さ過ぎて辛い。

そんな中堅戦もいよいよ終盤、最後にどんな出来事が起こるのか。
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