本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
後半部分が少しだけ変化しています。活動報告の方に一応前の問題部分も乗せているので、比べ読みも出来ます。
(さて……最後の衣の親、ここがかなり重要になってくる)
南三局、長かった中堅戦も残り二局を残す所となった。
衣にとって最後の親番、本人としては何としても連荘して出来るだけ稼ぎたい所だ。
(海底コースも効かぬ、故に出来る事は限られてくるが……それならば誰よりも早く和了ればいいだけの話!)
衣は後半戦だけの収支ならプラスだが、全体で見ればまだマイナスだ。
つまりこの親で和了らなければ、全体でのプラスに持っていくには苦しくなるだろう。
(……ッ!)
三巡目、まだ手は二向聴の所で衣は顔をしかめる。
そして不要牌を切っていき――――
「ロン、1000」
その衣の捨てた牌が照に突き刺さる。
あっさりと、衣の親は流れてしまった。
(点数の低さとか親が流れたとかそんな物は些細だと思うくらい……非常に拙い、そんな気配――――!)
だが、衣が顔をしかめたのは照が聴牌をしたのを察知したからとか、それで和了られてしまったからとかの問題では無かった。
それよりももっと別の、これから来る何か。
「……ねえ、ちょっと寒くないかしら?」
(気づいたか、風越――――!)
久が突然、寒気を訴える。
今ここで行われているのは、長野県予選歴代最高とも思われるくらいの熱き対局。
そんな中、寒気を感じる者が出てきたのだ。
「んー、そうかー?別にそんな感じは……」
しないぞ、と智美が言い切る前にその言葉は途切れた。
――――パリンッ、とどこかで物音がしたのだ。
「きゃっ……ちょっ、停電!?」
音と同時に、会場内の電気が全て消えた。
一番最初にその異変で動揺し口を開いたのは久。
『えー、会場内の皆様落ち着いてください!今原因を調査しています、申し訳ありませんがしばらくお待ちください』
そして会場に響き渡るアナウンスの声。
勿論、対局もストップ。一時中断だ。
「ふー、オーラス前に思わぬアクシデントだなー……」
ワハハ、ついてないなーと笑いながら智美は喋る。
だが、他の三人に関しては口を開こうとすらしない。
(なん……なの、この圧力は!?)
(手を抜いていた訳では無いだろうが、底が知れぬ……まだ来るのか、清澄!)
久と衣の二人は照から詳しくはわからないが、何かの力を肌で感じていた。
そしてそれは、寒気を催すくらい強力なものであった。
(……まだ、こんな所では終わらせない。稼ぐだけ稼ぐ……!)
そして一人、闘志を更に燃やしていく者がいた。
―――
「うわわ、停電だじぇ!」
そして停電の影響というのは当然、各高校の控え室にも起きていた。
清澄の控え室でも、優希が突然起きた停電に少し楽しそうに反応する。
「びっくりした……何かが割れたかと思ったら、突然停電が起きて」
「こんな大きな建物でも、突然このような出来事が起こる事もあるんですね……」
咲と煌は優希とは対照的に、驚きつつも冷静に物事に対し対処する。
騒ぐことなく、椅子に座りながらじっとしていた。
「……」
「……淡さん?」
「…………ん?」
「いや、やけにじっとしているなって思いまして……優希みたいに騒ぐとばかり」
「煌先輩は私の事を何だと……いや、普段はそうかもしれないけどさー……けど」
煌はてっきり淡も優希と同じように停電が起きた事に対し楽しむタイプだとばかり思っていたが、今に限っては違った。
だったらどうなのか、と周りは逆に気になる。
「……何だろ、すっごいゾクゾクするっていうか……ちょっとヤバいかも、この感覚」
「ッ……!?」
暗くて周りがよく見えないのに感じる、むしろ逆に見えないからこそ敏感に感じるとでも言うべきか。
他の三人は、今の淡からオーラのような何かを感じ少し寒気を覚えた。
それは対局中で本当の意味で全力を出した時の淡に近い物だった。
(……淡ちゃん、恐らく今のお姉ちゃんの様子を感じ取って一種の興奮状態になってる)
優希と煌はモニター越しには流石に感じ取れなかったが、咲はもう一段階超えてきたような照の現在の様子に気づいた。
そして淡は自分と同じようにそれを感じ取ってテンションが上がっているのだろうと、咲は分析する。
(……今のお姉ちゃんは本当に凄い事になってる。この対局……終わりはあるの?)
―――
『本当に長らくお待たせいたしました、復旧作業が終了いたしましたので間もなく中堅戦を再開させて頂きます』
しばらく時間がたった後に、ようやく復旧作業が終わり全体にアナウンスが流れる。
観客席からもようやくか、といった声がちらほらと出てくる。
大多数の人からすれば熱かった中堅戦の最中に停電とか水を差されたな、といった感情だろう。
だが、本当に僅かではあるがわかる人からすれば――――これからのオーラス、いったい何が起こるんだといった興味、不安という思いが頭の中をよぎる。
(あんな照先輩……見た事ねえ)
京太郎も、その僅か側の人間であった。
とは言っても、誰かみたいにオーラを感じるとか、凄まじい力を肌で受けているとか、そんな事は京太郎にはわからない。
ただ一つ感じ取れたのは――――目力。
(普段から打ってる時の照先輩は真剣そのもので手を抜いたりはしない人だが……なんつーか、その真剣に打つという事の一つ壁を越えたような、あー……自分でも何考えているんだかわかんねーけど)
南三局のあたりから京太郎は何となくではあるが、そんな事を感じていた。
大会なのだから普段と違ってもおかしくは無いのかもしれないが、そのような変化とはまた違う――――ギアを上げてきたかのような印象。
(普段もそうだけど、それ以上に見ていて……本当に、照先輩が負ける気がしねえ)
敵に回せば恐ろしいなんてものじゃないが、味方にいればこれほど頼もしい存在もいないだろう。
麻雀は運の競技だからある程度は平等とか、そんな事をまるで微塵も感じさせないような頼もしさだ。
「頑張れー!照先輩ー!」
思わず、そんな事を大きな声で口に出してしまった。
観戦室という、他の一般人が多数いる場所で。
「あっ……すみません、いや本当にすみません、ごめんなさい!」
ここには勿論清澄を応援するものだけではなく、むしろ風越などの名門校を応援する人の方が多い。
周囲に睨まれた京太郎は、ただただ謝るだけであった。
―――
(さて、オーラス……衣としてはここで大きいのを取っておきたい場面ではあるが)
復旧作業も終わり再び動き出す中堅戦。
照が自動卓のサイコロを回し、それぞれが牌を手に取っていく。
(先程感じ……否、今なお溢れ出ている清澄の力。これがどう影響してくるのか、気になる所)
十三の牌を手に加えた所で、それぞれが理牌していく。
(……うむ、ドラ3の二向聴。伸び方によっては跳満までは届くか……ッ!?)
衣は自身の配牌にそれなりに満足してから、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに、自分の手ではなく照の方に目を向ける。
そんな衣の様子に回りは気づく事も無く、周りはツモっては牌を捨てていく。
「ロン、2000」
「は?冗談……冗談じゃないなー、一巡目から東のみの北単騎とかどうしようもないだろー……?」
一巡目、智美は北を切った。
それ自体は、よくある行動だ。明らかに不要であり、役牌にもならないから切った、それだけの話。
異質なのは、それが刺さったという事。
まさか、誰もリーチ宣言も無しに北で振り込むだなんて夢にも思わないだろう。
唯一聴牌に気づいていたのは、その気配を感じ取る事の出来た衣だけだ。
だが、衣が驚いたのは配牌時聴牌という部分だけではない。
(今のは単なる偶然とは言い難い……速度が更に増している、底が知れぬ!)
今まででも照の聴牌、和了速度というものは相当の物であった。
だが、そのレベルを更に超えてきた。配牌時聴牌もこの一回で終わらず、まだ何度もあるかもしれないとすら、衣は感じたのだ。
「……続けます、一本場」
当然和了り止めをする事は無く、連荘していく。
―――
たまに照は、考える事がある。
何故、自分は勝ちたいのか、と。
個人戦に関しては自分の力がどこまで通用するのか試したい、その上で一番になりたい、ととてもシンプルな答え。
それは今も昔も変わらない事である。
では、団体戦に関してはどうなのか。
白糸台にいた頃は、個人戦の時と団体戦の時で思っている事はそこまで変わらなかった。
自分の力を発揮し点を稼げば、後は他のメンバーが上手くどうにかしてくれるだろうといった位の考えだ。
別にそれはそれで一種の信頼の形でもあり、決して悪いといった事ではない。
現在――――清澄での団体戦では何故勝ちたい、と思うのか。
当初、タイムリープしてから清澄に入った理由というのは咲と仲直りしたいから、それだけの理由。
そしてそれは無事、とても長い時間をかけたが達成できた。
今ここで麻雀を打つ理由――――自分の力を試したいだけかと言われたら、否。
白糸台では対局中の細かい指摘等はしてきたものの、指導をする中心人物かと言われたらそうでもなく、自身のために淡々と部活をこなしてきた。
だが、清澄では自分だけが最上級生。部員も少ないため、慣れない指導を照自身がしなければいけない立場であった。
不器用な照は、自身が全力で打っていく中でしか教えていくことしか出来なかった。
だが、どんなに強く――――厳しくする事しか出来なくても、今いる部員達は必死に堪えながら、照を慕ってついてきてくれた。
光るものはあったものの最初は大した実力も無かった優希や煌も成長し、咲も照との対局の中では必死に姉を超えようとし、淡はテルを絶対に倒すと言いつつも当たっては砕け、当たっては砕け。
そんな後輩達の頑張る姿を見て、照の考え方というのは変わっていく。
この後輩達を絶対に全国に連れて行ってあげたい、且つそこでも優勝したい、と。
だからこそ自分が、皆の為にどんな相手であろうと出来るだけ点を稼ぐ、いわばチームの為に必死に行動する。
それはただ打って点を稼ぐのと、似ているようで違う事だ。
「……リーチ」
またもや、二巡目といった驚異的なスピードでの聴牌。
当然、周りはそんな速度についてこれる訳も無い。
「ツモ、リーチ一発……2000オールの一本場は2100オール」
そしてそのまま一発ツモ。
その流れのまま、百点棒を手にとって宣言する。
「まだまだ終わらせない、二本場……!」
照はチームを勝ちあがらせる為に、どこまでも貪欲に、必死に打ち続ける。
―――
(このっ……今の清澄、まるで竜巻の如し……!)
照の力を例えるならば、その勢いといい、自然災害レベルであると衣は感じた。
それほどまでに、照の勢いというものは留まる事を知らない。
「ツモ、4200オール……三本場」
またもや照のツモ和了、そして止まろうとする事は勿論無かった。
(まずいなー……完全に守りに回ってたけど、このままじゃ全部ツモで毟り取られかねないぞー、少し冒険するべきか……?)
今までは振らなければいい、その気持ちだけでここまで戦い抜いてきた。
だが、このままでは守りに入ったらむしろツモによって点数をどんどん削られていくのではないかと智美は思い始めた。
だったら、危ない橋を渡って早和了り、または衣や久に差込、その方が被害が少なくてすむのではないかという考えに至ったのだ。
「ツモ、6300オール……四本場」
(うっはー……笑えないぞ)
だが、橋を渡ることは無かった。
橋すら無かった。何かをしようとアクションを起こす前に、既に照は和了っていたのだ。
(竹井……は凄い疲弊してるなー、私と違って常に攻め続けて戦い抜いてきたんだ、無理も無いか……)
久は誰の目から見てもわかるくらい、疲弊していた。
それでもまだ、集中を切らす事無く立ち向かおうとしている。
(天江は……ん?)
衣に目を向けた所、何やら目を瞑ってじっとしているのだ。
「おーい?」
「……む、すまぬ。決して寝ていた訳ではないぞ」
そして智美の声に応えるかのように衣はゆっくりと目を開けた。
(……この対局、厳しさは誰の目から見ても一目瞭然。だが、ここからどれだけ苦な状況に陥ろうとも)
目を閉じ集中力を高め、自分は何をすべきか再確認した衣。
そして、たどり着いた結論。
(……衣は衣の麻雀を打つ!)
――――パリンッ、と。
本来ならば聞き覚えのあるはずが無い音ではあるが、ここにいる会場の人ならつい先程聞いた聞き覚えのある音。
そして、再び停電が起きた。
『申し訳ございません!再び、原因調査のためしばらくお待ちください!』
主催する側、アナウンスから聞こえてくるのはおかしい、こんなはずではといった感情が混じった焦りの声。
観客からすれば、いい加減にしろとの野次。
(――――この感じ、来る!)
(行くぞッ――――!)
だが、停電が再び起きたという事はもはや対局をしている側からすればどうでもいい事で。
ただ必死に麻雀を打つ、それだけの事であった。
―――
『長らくお待たせしました!中堅戦再開します!』
ようやく復旧作業も終わり動き出す中堅戦。
長い時間待たされても、四人の集中力というものは損なわれはしない。
(この局……動けるなら動いていく方が懸命ね)
配牌時から火力は微妙だが、まずまず手作りしやすそうな久の手。
攻めを重点としながら、打っていく。
「ポン!」
(なっ、ここで……)
(海底コース!?)
久の捨てた二萬を衣は鳴く。
そしてこれはこの対局内でしばらく見せてこなかった――――衣の海底コース。
鳴かれた久、そしてそれを見ていた智美はここに来てのこの行動に驚いた。
(確かに脅威……だけど、これは宮永照に対しては効果は無かったはず。本人もそれは気づいているはずなのに、何故?)
久が驚いた理由として、突然鳴いてきたというのにも驚いた事は驚いたのだが、何よりも先程効いていないはずの能力を再び使ってきた事。
厳密には全く効いていない訳では無いのだが、それでも破ってきた照に対し再びこの行動は何の意味があるのか、と。
「……リーチ」
(来た、データが正しければ倍満以上確定手……!?)
十巡目、照からすれば遅い方のリーチではあるが聴牌まで漕ぎ着ける。
そしてそれは、久の予想している通り倍満以上が確定している手であった。
「カン!」
(ちょっ、何だそれー!?)
(海底コースを自ら崩し、ドラの暗槓――――!?)
ドラ表示は四萬、つまり五萬の暗槓を突如衣はやってのけた。
赤ドラが含まれる、つまりこの時点でドラ5確定である。
(……いや、捉え方によってはこのカンは決して悪いものではないわね)
だが、そんな奇行とも思われるようなカンに久は着目する。
(宮永照はドラを含まず倍満以上の手を作っていたという事になる、となると自ずと手は絞られるはず)
ドラを含まず倍満以上確定となると、染め手である可能性が非常に高い。
(河からそのような気配を匂わせていないってのが流石って所かしらね……ただ、少なくとも萬子は通るはず。ツモられたらどうしようも無いかもしれないけれど……)
既に衣が二萬を3つ、五萬を4つ抑えている以上萬子染めというのはほぼ無いに等しい。
ヒントが出来ただけでも、収穫のある衣のカンであった。
(……ちょっ!?)
だが、衣のカンはそれだけでは留まらなかった。
新しいドラ表示は一萬――――つまり、ドラ8。
その時思わず口元に笑みを浮かべる衣と、少し表情を歪ませる照がいた。
(さて、宮永照に対しての安牌は運がいい事に恵まれてるけど、こうなってくると天江衣が怖いわね……)
十二巡目、現在久は二向聴。配牌から中々良ヅモには恵まれなかった。
手を進めながらでも今の所は照に対しての振込の心配は無いが、衣に対しては未知数。
降りようと思ったら一応、どちらからも逃げる事は出来る。
「ポン」
(ここで鳴き……!?降りてなかったのかー?)
久は智美から鳴く事でまず一向聴に持ち込む。
火力は決して高いものではないが、ここは攻めを選択した。
(攻撃は最大の防御、ここで宮永照に和了られたらもう無理な気がするしね。……行くしかない!)
ここで照に和了られたら終わる事は無いのではないかとすら思った久は、攻める事での防御を選択した。
「ポン!」
(ま、またか……?二副露、流石に張ったかー?)
次巡、再び智美から久は鳴く。
これで聴牌、あと一歩の所まで持ち込んだ。
(たかが2000点手……だけど、この場においての2000点は無理して手を進めるほど、大きな価値のある物なのよ!)
ここで和了るという事は、照の連荘をストップさせる事を意味する。
それほど価値のある小さな和了というのも、中々無いだろう。
(風越……その心意気や天晴れ、だが故に……完全に衣に流れが舞い降りた!)
衣はこの久の二度目の鳴きで、この南四局での勝利を確信した。
自身の海底コースというわけでもない、照のリーチ、久の聴牌気配を感じ取っていながらも、だ。
(月は満ちておらぬ、水面に明かりは灯されず。だがその河に潜む力強き大魚は、底の暗き場所にいてもその動き故に鮮明に姿を捉える事が出来る――――!)
このままの流れで行くと、最後のツモは照。
その最後の牌を、衣は狙い済ましていた。
(最初からここまで圧倒されていたが、ついに仕留める好機……!逃さぬぞ、清澄!)
大きな動きも無い流れのまま、照の最後のツモ番まで回ってくる。
引く以前から既に、何かをわかっているかのように――――照にしては本当に珍しく、諦めたかのような表情を見せた。
そしてその最後の牌を照が河に捨てると同時に、衣は大きく笑みを浮かべながら宣言した。
「大魚の如く暴れまわっていた猛者も、ようやく捕らえたぞ……!ロン、河底撈魚対々和三暗刻ドラ8、32000の四本場は33200!」
衣の狙い済ましたかのような単騎待ちが、照に炸裂する。
そしてそれを合図に、長き中堅戦も幕を閉じた。
清澄・128500(+52300)
風越・107700(-32700)
龍門渕・102000(+6200)
鶴賀学園・61800(-25800)
今回のまとめ
照、圧倒
衣、意地の役満直撃
何とか修正完了。
正直、ネタが本当に浮かばなくてヤバい状況でした。
とにかく照に役満直撃させたかったので、どうしようと考えた結果……あんな形に。
ちょっと能力というか、オリジナルっぽくなっていますね。今に始まったことではないのですが。
月が浮かんでいないのならば、他者(魚)を引っ張りあげちまえ、と。うーん、この無理やり感。
ただ衣にリンシャンさせるよりかは、こっちの方がいいかなーと個人的には。