もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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今回は対局シーンはなし。


22,熱

 既に選手達は退場し、中堅戦の余韻だけが会場を包み込む。

 熱気は未だ、収まりを見せてはいない。

 

 

 

「さて、未だ熱の冷めない状況ですが……藤田プロ、中堅戦を冷静に振り返ってもらってもいいでしょうか」

 

 何も会場だけに熱が篭っているわけではない。

 見ている者を全て熱くさせた、つまりこの実況席でも熱というのは自然と高まっている。

 

 だが仕事は仕事、きっちりと中堅戦を振り返る事をアナウンサーは藤田プロに促した。

 

 

 

「そうだな、熱戦になる事を予想するのは容易であったが、その予想を更に超えてくるような対局であった。見事だった」

「選手全てが実力を全て出し切った……と捉えてよろしいでしょうか?」

「いや、違う。恐らく、実力を超えた物があの場では発揮されていた。そしてそれは、あの面子だからこそ起こった事」

 

 それぞれが皆実力を出し切ったのではない。それ以上の物を出してきたのだ。

 意地のぶつかり合い、対局中の成長、更にはチームを引っ張る最上級生の責任感。数多くの物が、この対局にはあった。

 

 

 

「天江が役満を直撃させるというドラマのような幕切れではあったものの、それでも宮永照が圧勝。やはりチャンプは強かったですね」

「プラス52300点か……宮永照にしてはかなり少ないと思うぞ。本人も悔しがってるんじゃないか?そして宮永照がいる場で天江はしっかりとプラスに乗せてきたし、竹井と蒲原も大きすぎる失点では決して無い」

「清澄が単独トップになったとはいえ、鶴賀を除く三校の差はわずか。ここからどんな展開が待っているのでしょうか」

「特に清澄と龍門渕は決勝に上がってくるまで一度も対局していないからな」

 

 鶴賀が少し苦しい点数にはなってきているものの、他は団子状態と言ってもいいだろう。

 まだ、どこが優勝するといった判断が出来るような点数では無い。

 

 

 

「龍門渕は二年生二人だから場慣れはしているだろうが、清澄の二人は一年生か……大星はかなり実績のある選手だが、宮永照の妹とされる宮永咲に関しては未知数だな」

「清澄の不安要素にもなりかねない……という事でしょうか?」

「さあな。可能性はあるが、宮永照がこのチームは全員が強いと明言している。……まあ、見てみない事には何もわからんか」

 

 龍門渕と清澄、互いにここまで副将以降は対局をしていないという共通点がある。

 だが、龍門渕の透華と一は実戦経験が豊富。それに比べ、淡はまだしも咲に関しては周りから見ると本当に未知数なのだ。

 

 

 

「風越の吉留と池田に関しては決勝に上がってくるまでもしっかりと実力を発揮していたので期待が持てるか。また、鶴賀に関しては出遅れてはいますが……ここまで上がってくるまで後ろ二人の活躍は光っていましたからね」

「副将の東横、大将の加治木……チームを実力で引っ張ってきた二人だな。部長の加治木を軸とし、ここまで勝ち上がってきたダークホース。これからが怖いぞ」

「部長は蒲原です」

「え?」

 

 藤田プロは思わず、変な声を出してしまった。

 

 今まで鶴賀が決勝まで上がってくるまでに後ろ二人の活躍というのは見事であった。

 特に大将のゆみの堂々とした打ちっぷりというのは、藤田プロに部長だと思わせるほどの物であった。

 

 

 

「さて、残りは副将と大将の二つ。今後の展開も目が離せません」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 中堅戦を終え、選手達は凱旋する。

 廊下を歩いているのは、大きな耳のようなリボンをつけ満足気な表情で歩いている少女。

 

 

 

「おっ、とーか!」

「お疲れ様ですわ、衣」

 

 龍門渕の控え室に戻ろうとしていた衣は、会場に向かおうとしている透華とバッタリと出会った。

 

「やけに早いな?」

「ふふ、勝負は対局前から始まっている……目立ってナンボですわ!」

「……ん?」

 

 透華が早くから会場入りをしようとしている理由は、一番乗りしたかったからという理由だけだ。

 その意図をよくわかっていなかった衣は、疑問の表情を浮かべる。

 

 

 

「……最後の、お見事でしたわ。まさか衣といえど、あの宮永照に役満直撃は……」

「……多分、もう一度やれと言われたら出来ないだろうな」

「え?」

 

 衣の最後の和了。

 あれは見事、という言葉以外で表現が出来ない程の凄い物であった。

 

 だが、衣自身はもう一度やれと言われたら出来ないと口にする。

 

 

 

「実の所、衣もよくは覚えてはおらぬ……とにかく集中して、必死に打っていたらあの形になったのだ」

(無意識の内に覚醒……?あれ程の強さですのに、衣自身はまだまだ成長しているという事ですの?)

 

 周りから、特に衣をよく知っている者からすれば実力が更に覚醒、と呼べるものであった。

 だが肝心の衣自身がその事をしっかりと覚えていないと言う。

 

 

 

「だが一つ言えるのは、楽しかった事……衣は麻雀をしていた」

「?麻雀はいつも打って……」

「今までの衣は打ってはいなかったんだ。口では説明し難いが……とにかく楽しかったという事だ!」

 

 衣が確実に実感している手ごたえ。

 それは人に説明するのは難しい部分があるが、楽しさの上に成り立っている物。

 

 

 

「だからとーか……勝ってきてくれ!衣はもっと、麻雀を楽しみたいぞ!」

「……!」

 

 元々龍門渕の麻雀部というのは衣の為に作られたチームだ。

 衣と一緒に麻雀を打てる友達、という事で透華が純、智紀、一を集めて結成。

 

 部内では楽しくは打ててはいたが、それでも衣のどこか退屈そうで満足していない部分というのは見られた。

 そしてその退屈そうにしているのは大会で他のチームと当たるとより一層目立つ所もあった。

 

 だからこそ、今の衣の満足そうに麻雀をしてきた、そして楽しんできたといった様子を見て透華はとても嬉しく感じた。

 

 

 

 だが、それ以上に驚いたのは衣がこうして透華に頼み事をしてきた事。

 今まではそんな事は一度も無かった。そしてその頼み事というのも、もっと楽しみたいといった良い内容。

 

 

 

(……そんな事を言われたら、益々負けるわけには行かなくなりましたわね)

 

 それを聞いて、透華が燃えない訳が無い。

 衣を、チームを全国に導くためにやるべき事は一つ。

 

 

 

「当然ですわ!圧倒的実力で、トップの座を奪ってきますわ!」

「頼んだぞ、とーか!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「みはるん、大丈夫か?」

「うん、任せて華菜ちゃん……しっかり、バトンを繋いでくるから」

 

 こちらは風越の控え室。

 

 風越は清澄にトップを渡してしまう結果となってしまった。

 だが点差はさほど離れてはいない。照と衣という大災害が通り過ぎてこの僅かな点差なら、むしろいい形で繋げているといっても過言ではない。

 

 それは照と対局して健闘した久、そしてその前の二人がしっかりと点を稼いできたというのも大きい。

 

 

 

(久先輩……あんな人達を相手にしながら一度も下がらなかった。多分、私だったら途中で心が折れていたはず)

 

 点数以上に、久の対局というのは風越のこれから打つメンバーに勇気を与えただろう。

 ある意味、点数こそはいまいちだったが流れを作った清澄の煌に共通している部分もあるかもしれない。

 

 

 

(私も……下がらないで、最後まで自分の麻雀を貫く!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ワハハー、帰ったぞ……何だその顔はー?」

 

 智美が元気よく鶴賀の控え室のドアを開けた所、メンバーが皆驚いたような顔で智美の方を凝視していた。

 思わず、智美は突っ込んでしまう。

 

 

 

「……いや、酷い事を言うがここまで健闘するとは誰も思っていなかった」

「……ド直球だなー?」

「ここで蒲原が飛ぶような事があっても、誰も責めはしなかったよ。だがこの点差なら……まだいけるぞ、優勝のチャンスはいくらでもある」

 

 皆の気持ちを代弁するかのようにゆみが代表して言う。

 照と衣相手にこれだけのマイナスで済んだのだ。大健闘という言葉以外には、かける言葉は見つからない。

 

 

 

「モモ、頼んだぞ。逆転するには私達二人で大量点を稼がなければならない」

「任せて欲しいっす!……この場、私にとっては好都合の場っすよ」

 

 だが、鶴賀が他の高校に比べ出遅れているのは事実。

 故にゆみは、一年生の東横桃子に大量点を稼いで来いとの指示。

 

 

 

「ん?モモにとって何が好都合なんだー?」

 

 智美が疑問に思ったことを口にする。

 場が好都合、というのは普通に聞けばよくわからない言葉だろう。

 

 

 

「中堅戦の熱が冷めてないっす。他の副将のメンバーもその勢いのまま来るに違い無いっす。それは本来、怖い事でもあるっすけど……」

 

 あれだけの対局の後だ、どこの高校のどのメンバーもその勢いをそのまま持ってくるだろう。

 流れというものは怖いもので、誰かが何かを掴んだらそのまま突っ走ってしまう可能性もある。だがそんな場を、桃子は好都合と言った。

 

 

 

「……逆に、それだけ早く消えれるかもしれない事っすよ。そうなったら早い段階で……ステルスモモの独壇場っすよ!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「照先輩、遅いですね……」

 

 中堅戦が終わってしばらく経ったのにも関わらず、照はまだ控え室に戻ってこない。

 煌が心配するような事を思わず口にする。

 

 

 

「……さて、そろそろかな」

「あ、サキもう行っちゃうの!?全く、テルったら妹に言葉くらいかけてやれよって話だよねー」

「あはは……大丈夫だよ、淡ちゃん。もう、伝わってるから」

 

 ソファに座っていた咲がゆっくりと立ち上がり、腕を上にゆっくりと伸ばす。

 既に臨戦態勢と言ってもいいだろう。

 

 

 

 

「……実は、私は大会って言われても特に思う事とかも無かったんです。普通だったら勝つために、って思うんだろうけど私はただ麻雀を楽しく打てればいいなって……」

 

 突然、咲が口にする言葉。

 普通、大会に出るからには勝ちたい、という必死の思いが出るのが一般的だろう。だが、咲はそういうのは無かった。

 

 他の出場者に比べて、勝ちへの執念というのが無かったのである。

 

 

 

「……ただ、優希ちゃんとか煌先輩、お姉ちゃんの打ってる姿を見て……伝わってくるものがいっぱいありました」

 

 団体戦を必死に戦う姿。

 チームを勝たせるために自分がやらなければいけない事を精一杯やる姿勢、そして熱意。

 

 それが自然と、見ている咲にも伝わってきた。

 

 

 

「今、私が打つための理由……このチームが運んできたバトンを、淡ちゃんに渡す……そのために、精一杯戦ってきます!」

「サキならいつも通りの実力出せばよゆーでしょー!テルとやってる感じでやれば、大丈夫だって!」

「咲ちゃん頑張れだじぇ!頼んだじょ!」

「その気持ちを言葉に出来ただけでも十分すばらな事ですよ。是非、悔いの無い様に戦ってきてください!」

 

 皆からの応援のメッセージを受け取り、咲の目の色も更に変わってくる。

 自分がやるべき役割、それをしっかりと頭に入れながら。

 

 

 

「行ってきます!」

 

 咲は元気に部屋を出て行った。

 

 

 

「っと、私もちょっと対局が始まる前に適当にぶらぶらしてくるねー」

「ん、行ってらっしゃいだじょ」

 

 そして咲が出るとほぼ同時に、淡も控え室を出る。

 

 

 

「適当にぶらぶら……?淡さんはどこに行ったんでしょうか?」

「さあ、淡がぶらぶらしているのはいつもの事だじょ」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ッ……!」

 

 誰もいないような場所でドン!という大きな叩いたような音が鳴り響く。

 普段はどちらかと言えばクールで、そこまで感情を表に出さない人物が悔しさを前面に出していた。

 

 

 

「あっ、こんな所にいたんだ。探したよー?」

「……」

 

 人気のない場所に、照はいた。

 壁を叩いたせいか、少し手が赤くなっている。

 

 

 

「もうちょいでサキの対局始まっちゃうし、さっさと戻ろー。あ、あと対局お疲れ様ー」

「ッ、あの対局でならもっと稼げたはず……私は全然、チームに貢献出来ていなかった」

「はい、ストップ」

 

 責任の言葉を並べる照に対し、淡が待ったをかける。

 その淡の表情は珍しく、少し怒ったような顔をしていた。

 

 

 

「点数に関しては問題ないから。トップまで上げてくれたんだし、もっとサキと私を頼ってよ」

 

 淡としては、ここまでチームの為を思って頑張ってくれている照に対して嬉しさの気持ちはとても強かった。

 白糸台にいた時の照とは違うという事を、淡は感じ取っていた。

 

 ただ、少し責任感を持ちすぎなのではないかという所も感じていた。

 自分だけで戦っているわけではないのだから、後のメンバーを頼ってよ、と。

 

 

 

「それにさー」

「……ん?」

「あの卓、周りイケてるのばっかだったし。中々難しかったと思うよ。風越は何かこうガーって来てたし、鶴賀は自分の力をわかっているからこそ出来た打ち方だったと思うし、衣は何か……後半グワーって来てたし!」

 

 淡は前半戦に大きな和了を見せ注目した久は勿論、健闘した智美、後半戦は面白すぎるというくらい凄まじい対局を見せた衣。

 その卓で、荒稼ぎするのは照であっても中々難しいと言えるであろう。

 

 

 

「ま、その中でも圧倒的一位何だからやっぱテルが最強なんだろうけどねー」

「……ふっ」

「え、何で笑ったの?」

 

 だが、それだけ相手が厳しくても堂々と飛びぬけた成績を残してきた照は凄い、と淡は改めて口に出す。

 それと同時に突然、照が笑いだしたので思わず淡は問いかける。

 

 

 

「……いや、だってさ。私を頼れ、だなんて言う淡なんて今まで知らなかったし、相手をこうして認めてる淡も知らないし」

「む!今までだって面白そーなのは興味持ってたりしたし!ってか、私だってこんな責任感のあるテルなんて今まで知らなかったよ!」

 

 淡はこうやって口には出してはいるが、興味を持つ事はあっても口に出してしっかりと認め、褒めるという事はそこまで無かっただろう。

 そして責任感云々に関しては、お互い様である。

 

 

 

「やっぱりさ」

「ん?」

「私達変わったよね、それもかなり」

「そうだね……根本的な所に関しては何も変わって無いと思うけど」

「……それってどーゆー意味なのさ?」

 

 根っこの部分は変わってはいないが、大きく変わっていったのは事実。

 それはお互いが自覚し、照が淡を、淡が照を見てもわかる事であった。

 

 

 

「……強く、なったのかな?」

「自分の事はわからないけど、淡に関しては強くなったと思う。それは実力だけじゃなくて、色々な面で」

 

 その変化とは、確実にいい方向へ向かっている物。

 照の目からは、実力だけじゃなく総合的に成長している淡の姿が映っていた。

 

 

 

「……よしっ!そろそろ戻ろ、サキの試合始まっちゃう!」

「……そうだね」

「サキなら負けないと思うけど……どんな結果になっても、点数さえ残ってればこの大成長を遂げた淡様が全部まくっちゃうからよゆーなんだけどね!」

「ふふっ……期待してるよ、淡」

「ん?……う、うん!勿論!」

 

 いつものように大口を叩いていたら、照からは淡が今まで聞いた事の無いような期待している、との声。

 思わず、少し対応に焦ってしまう淡。だが、その闘志という物は確実にその言葉で上昇していた。

 

 

 

「……あ、そういえば中堅戦の休憩の時に鬼畜大魔王がどうこうって――――あれ?」

 

 照が中堅戦の最中に言われた事を淡に問いかけようとしたら、既にその姿は見えなく――――いや、遠く先に走って逃げている淡の姿があった。

 

 

 

『間もなく、副将戦が始まります。選手の皆さんはスタンバイしてください』

 

 会場全体に聞こえてくるアナウンス。

 長野県予選団体戦決勝も、終盤を迎えようとしていた。




今回のまとめ

透華、負けられない理由が増える
みはるん、先輩の対局で勇気付けられる
モモ、周りからは見えないような闘志を燃やす
咲、戦う理由が出来る
淡、死す(かもしれない)

感想等の予想では副将に一、大将に透華の予想が多かったけどそんな事は無かった。
むしろずっと最初から大将一というのは決めていました。それが一番、盛り上がる展開を作れるのではないかなーと。

中堅ほどではないですが、副将も色物が多い事。
というか、長野勢強すぎだろ……どこも全国出たらトップクラスのような気がするんですが、気のせいですかね。
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