もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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まだ、大将戦は開始しないです。




26,それぞれの、思いを乗せて

 現在、副将戦と大将戦の間の準備の時間帯。

 もう少しで大将全員が揃い、最終決戦を迎えるといった所だ。

 

 

 

(……試合の流れこそ掴み所の無い感じではあったが、結果に関してはモモは十分な数字を残してくれた。。後は、私が何とかする番だな……)

 

 鶴賀大将、ゆみは早めに会場に向かいつつ頭の中でそんな事を考えていた。

 試合内容は終盤は見ている者からすればよくわからない、といった内容であったが最終的に桃子は中々のプラス収支。望みを繋いだ形だ。

 

(現在清澄を抜いて、三位浮上……いや、後ろは見るな。一位に視線を向けろ。約五万点……本当に厳しいが、希望が無いわけじゃない)

 

 鶴賀は清澄を抜いて順位は浮上した。

 だが、後ろを見る事に意味など無いとゆみはすぐに考えを改め直した。

 

 一位しか全国の切符を手に入れることの出来ないこの決勝。

 となれば、結局の所狙うのは一位しか無いという事になる。照準を合わせるのは、必然的にそこだ。

 

 

 

「先輩っ!」

「……モモ?」

 

 突如、ゆみの目の前にどこからか現れたのは先ほどまで副将戦を行っていた桃子であった。

 その表情は色々な感情が混じったような、悲しげとも楽しげとも違う、どちらかと言えば不安そうな、そんな複雑な表情をしていた。

 

 そんな少しおどおどしたような様子を見せる桃子の頭に、ゆみは手のひらをポンと乗せた。

 

 

 

「……せ、先輩?」

「モモ、私は優勝を必ず取ってくる。だから……頑張って、と言ってほしい」

 

 そんな台詞を言いつつ、ゆみはらしくないな、と自身を振り返った。

 

 勿論、優勝を取るという気持ちに嘘偽りなど微塵も無い。

 それに加え、頑張ってという応援の一言があればさらに自身の力が、否、チームとしての力が。加算されていく気がしたのだ。

 

 

 

「……先輩の為なら何度だって言うっすよ!頑張ってください!」

 

 その言葉を言った時のモモの表情は、満面の笑顔。

 

 

 

「ありがとう、モモ……行ってくる!」

 

 そしてゆみも笑顔で返し、会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「……っし!」

 

 こちらは風越の控え室。

 試合ギリギリまで会場へは向かわず、控え室で集中力を高めていた華菜はようやく動き出す。

 

 

 

「行ってきます!」

「ま、気楽にやってきなさい。いつもの力を出し切れば、大丈夫よ」

「信じとるけえ、ファイトじゃ!」

 

 同じくここまで戦ってきた久、まこからも激励の声がかかる。それの一つ一つに、華菜は笑顔で応える。

 

 

 

「華菜ちゃん……」

「みはるん、ナイスファイトだったし!後はこの華菜ちゃんに、任せなさい!」

 

 先ほどまで試合をしていた未春に対しても、自信満々に対応した。

 

 

 

「華菜……」

「キャプテン、何そんな心配そうな顔してるんですか。私が頂点取ってきますよ、任せてください!」

 

 心配そうな表情を見せる美穂子にも、その表情というものは変わらず。

 とにかくトップを狙う事しか考えていないような、そんな堂々とした顔だった。

 

 

 

「池田ァ!!」

「は、はい!?」

 

 周りの言葉を受け止め、いざ会場に向かおうとした所に今までで一番大きな声が控え室に響く。

 その声を出したのは厳しい表情をした、久保コーチからであった。

 

「忘れんじゃねえぞ、どうやってここまでたどり着けたのか、そしてそれは一人の力じゃねえって事をな」

「と、当然です!」

「じゃあ、今自分が何をすべきなのか大声で言ってみろ池田ァ!」

 

 その声は響く事をやめようとはしない。

 そしてそれを受け止め、華菜は更に大きな声で返していく。

 

 

 

「……風越に優勝の二文字を持ってきます!」

「……よし、行って来い!!」

 

 全てを受け止め、華菜は控え室を飛び出した。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 龍門渕の控え室付近の廊下では、一が会場へ向かうため一人で歩いていた。

 

 

 

(……内容はどうあれ、透華はトップでバトンを回してくれた。後はボクが、リードを守りきるだけ)

 

 少し硬い表情をしながら、一はそんな事を考える。

 

 本来、一は龍門渕というチームの中で大将というポジションにつく事はほとんど無いに等しい。

 だが、今回の大会では様々な理由から、不慣れなこのポジションに任命された。

 

 試合慣れこそしているものの、大将に慣れているかと言われたらそれはまた別の話となってくる。

 現に一は、かなり緊張していた。

 

 

 

「……あ」

「……一?」

 

 その時一の向かいから歩いてきたのは、つい先ほど試合を終えたばかりの透華。

 その表情は、勝者とは思えないほど納得してないようなものであった。

 

 

 

「お疲れさま、透華。流石だね、しっかりリードを広げてきて」

「あんなものは私の麻雀では無いですわ!気がついたら試合が終わっていて、何故か最も点数を稼いでいて……納得行きませんわ」

 

 やはりか、と一はまず思った。

 

 あの状態の透華を見たのは一自身も久々であったが、そうなった時の透華というのは打ち筋が変わり、且つ不気味な強さを持ち、そしてその事を透華自身は覚えていない。

 一はその状態の透華の麻雀というのはあまり好きではなかった。というよりかは、普段の透華の打ち筋が好き、と言うべきだろうか。

 

 そしてそれは、透華自身も別の透華の気がついたら打っている麻雀というのは、好きではなかった。

 

 

 

「……ただ」

「?」

 

 小さく透華が、呟く。

 

「一つだけ、まあ気に食わないですけど。良かったと思う点がありましてよ」

「……何?」

「最初に一が言ったように、リードを広げられた事ですわ。自分の力じゃないみたいで癪ですけど、結果として良かったのは事実。しっかり一に繋ぐ事が出来ましたわ」

 

 内容そのものは納得していない。

 だが、結果という点だけに目を向ければそれは相当納得できるものであった。

 

 今は衣の為に、龍門渕の為にチームが勝つ事が一番重要なこと。

 そして透華はその為に貢献できた。これだけは、良かったと思えた点だ。

 

 

 

「……ねえ」

「ん?」

「どうして、ボクを大将にしたの?衣が中堅をやりたい、と言うのはまだわからなくも無かった。だけどそれなら、ボクが副将、透華が大将でも良かった気がするってずっと思ってたんだ」

 

 一が今までずっと抱えてきた疑問、何故自分が大将なのか。

 衣が中堅ならば、必然的に透華が器的にも、性格的にも大将になるのではないかと一は思っていた。だが、透華は自分を大将にする事は無く、逆に一を大将へと指名した。

 

 透華が言うなら、とその時は受け入れてしまった一だが、自分を大将に選んだ事に関しての疑問は消えなかった。

 

 

 

「何故かって?今更そんな事を一は聞くのでして?」

「えっ……いや、まあ、うん。気になっていたと言えば、気になっていたから……」

「……理由なんて単純でしてよ。一はやれば出来る子だから、それだけですわ!」

「…………えっ?」

 

 思わず、一は少し固まってしまった。

 もっと大それた理由があるのかと思いきや、物凄く単純な理由だったからだ。

 

 

 

「……一?何でそんなに表情が固まってまして?」

「いや、そりゃ固まるって!そんなんで大将にされても、嫌じゃないけど、そんな器じゃないというか……」

「……何を馬鹿げた事を?」

「え?」

「言い方を変えればよろしくて?」

 

 自信無さげに言葉を連ねる一に対し、透華は別の言い方で発言する。

 

 

 

「大将に置いても大丈夫、それだけの信頼と実力を兼ね備えていると判断したから置いた、それだけの話でしてよ」

 

 堂々と言い切る透華の言葉に、再び一は面食らう。

 

「一自身は自信無さげにおっしゃってますけど、周りは皆認めてましてよ。私だって、そんな適当にポジションなんて決めたりしませんわ」

「……ボクが、皆を引っ張っていく立場?」

「当然!もう一度言いますけど、一はやれば出来る子だから、もっと堂々としてれば良いですわ!」

 

 ここまで言われて、一の心に何も響かないわけが無かった。

 先ほどまで、少し自信も無く緊張しっ放しでもあった一だが、今ではその表情というものも変わってくる。

 

 何より、チームの中でも一番と言っていいほど信頼を置いている透華にここまで言われたのだ。それで燃えない訳が無い。

 

 

 

「……わかった。任せて!ボクが龍門渕を必ず優勝に導くから!」

「頼みましたわよ、一!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ちょっと、外出てくる」

 

 副将戦が終了した途端にそう言ったのは、清澄の控え室でずっと観戦していた照。

 その表情は、険しいものだった。

 

 

 

「……わかりました」

「ごめんね、すぐ戻ってくるから」

 

 暗い雰囲気の部内であるが、照がこれから何をしに外に出るのか察した煌は一言だけ返す。

 そのまま、照は控え室を出て行った。

 

 

 

 何よりも心配しているのは、先ほどまで試合をしていた妹の咲だ。

 初の公式戦で、重要な場面であの結果。責任を感じないわけが無い。

 

 

 

(咲……どこにいるの!?)

 

 照は咲が恐らく通るであろう、清澄の控え室から試合が行われる会場までの道を中心に探す。

 だが、すぐには見当たらなかった。

 

 

 

 それからも館内を走り回り、照は必死に咲を探し続ける。

 

 

 

(あっ……あれは!)

 

 しばらくしてようやく、咲と思われる人物が遠くに歩いているのが見えた。

 大泣きしており、照がいる事には気がついていない。

 

 

 

 照が咲に近寄り、声をかけようとしたその瞬間だった。

 

 

 

「咲ッ!!」

 

 聞き覚えのある男性の声が、照がいる方向とは逆の方向から聞こえてくる。

 そこにいたのは――――必死に走って、照と同じく咲を探していたであろう京太郎だった。少し、汗が流れている。

 

 

 

「きょ、京ちゃん……!……京ちゃぁぁん!!」

 

 咲は照には気づかず、京太郎の声に反応し更に涙が流れ落ちる。

 そのまま、京太郎のいる方向へと向かっていった。

 

 

 

(……取られたとか、嫉妬とか、そんな感情が僅かでもある自分は本当に馬鹿だ)

 

 それを見ていた照が感じた事は、ほんの僅かの負の感情。

 誰よりも早く咲を姉として慰め、元気付けたかった。その一番を取られたという、いかにも子供っぽい感情。

 

 

 

(……だけど、それ以上に強く思っている事。本当に……ありがとう、京太郎くん)

 

 しかしその負の感情というものは些細なもので、京太郎への感謝の気持ちの方が圧倒的に大きかった。

 あれだけ深く傷ついた咲を照は一人で慰めきれるかというと、完璧な自信は無かった。だが、京太郎なら――――何となく、何とかしてくれるのではないかと感じていた。

 

 

 

(そして咲……お疲れさま、よく頑張った)

 

 ここに、咲の初の公式戦というのは、本当の意味で幕を閉じる。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 少しの間、咲は京太郎の胸に頭を突っ伏して涙を流すだけで、一言も交わさなかった。

 京太郎が咲に対し落ち着く時間が必要だと、あえて名前を呼んだ後は特に何も言わなかったのだ。変に言葉を交わしても、冷静でない咲にとっては悪い意味で捉えてしまう可能性だってある。

 

 時間をかけて、ようやく咲が少し落ち着いて涙を止めた。

 

 

 

「ありがと……京ちゃん」

「大丈夫か、咲」

「うん……少し、落ち着いた」

 

 勿論、万全というまで回復したわけではない。

 それでも、咲は先ほどまでの最悪な状態よりかは幾分か回復したと言っていいだろう。

 

 

 

「二人とも」

「あっ……照先輩」

「お……お姉ちゃん」

 

 ずっと二人がいることに関しては気づいていたが、数十秒の間咲が落ち着くまで遠くで見守っていた照が、タイミングを見計らってようやく二人に声をかける。

 咲の声は、少しビクビクしたような声質だった。

 

 

 

「咲、お疲れさま」

「う、うん……」

 

 特に何かを指摘する事無く、ねぎらいの言葉だけをかけてきた照に対し、咲は少しだけ安心した。

 内心、怒られるのではないかと気になっていた部分があったからだ。

 

 

 

「京太郎くん……ありがとう、咲を心配してくれて」

「と、当然ですよ!」

 

 特に多く語る事無く、照は素直に京太郎に対しお礼を言う。

 京太郎も一言だけで、返事をした。

 

 

 

「……お姉ちゃん、どうして何も言わないの?」

 

 怒られないのはよかったのだが、何も言われないのは逆に咲にとって違和感があった。

 あれだけの事をしたのに指摘無し、というのはおかしいという咲にとっての負い目があったからだ。

 

 

 

「今、何か言ってほしいの?」

「……え?」

「それよりも、すべき事があるはずだよ」

 

 それでも、咲が聞いても、照は言わない。

 今はそれよりも、他にやるべき事があるはずだ、と。

 

 

 

「後ろを振り向く事も大事だけど、今は前を見て。淡の試合をしっかりと見てあげて」

「あっ……そうだ、そうだよね。うん、淡ちゃんを応援しなきゃ」

 

 咲も自分を反省するのは今ではなく、まずはチームの全てを見届けなければ、という気持ちに変化する。

 その為にやる事は、淡の応援だ。

 

 

 

「じゃあ……控え室で、応援しよう。京太郎くんも、最後は一緒に来るといいよ。淡に……全てを託そう」

 

 そして三人は、清澄の控え室へとゆっくりと歩いていった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

(やれやれ、早く来すぎたか……?気持ちが高ぶりすぎているのかもしれないな)

 

 ゆみは相当早く試合会場の付近まで歩いてきた。

 試合開始まではまだしばらく時間があるという、こんなに早く来なくても良いだろうという位の時間帯だ。

 

 

 

「……あれ?随分と早いんだね?」

 

 誰もいないだろうとゆみは予想しながら会場入りしたのだが、そこには既に一人座りながら待機している者がいた。

 

 

 

「……それはこっちの台詞でもあるが。私と同じ、気持ちがかなり高ぶっている口か?」

「んー、まあ。否定はしないね、こっちは早く打ちたくてしょうがないんだよねー」

 

 そこにいたのは淡。

 気持ちを抑えられないのか、少し足をばたばたさせながら待機している。

 

 

 

(他校とはいえ、先輩に対する態度……まあ、今はいいか。それよりも……清澄がこの状況に追い込まれているというのに、まったくプレッシャーを感じていないのか?)

 

 とにかく打ちたくてしょうがない、といった様子の淡を見てゆみはまずそう思った。

 今、一番流れも点数も悪いのは清澄である。それにも関わらず、プレッシャーというのは皆無のようにゆみの目からは見られた。

 

 

 

(一年生でこれか、インターミドルという大舞台で結果を残してきたとはいえ……場慣れてるな。実力以上に手強い相手かもしれん)

 

 既に、かなりの警戒を向けるべきに値するとゆみは素直に評価した。

 

 

 

「……あれっ、皆早いなあ……とりあえず最後、よろしくお願いしますって事で」

 

 少し時間が立った後に、一も会場入りを済ませる。

 

 

 

「っと、私が一番最後か。悔いなく皆頑張ろう、ま、勝つのは私だけど!」

 

 試合開始ギリギリに、華菜も会場入りする。

 

 

 

 

 

 ――――そしてついに、最後の決戦。大将戦が幕を開ける。




今回のまとめ

それぞれの大将、気合十分
京太郎、男らしさを見せる

次回から本格的に大将戦です。ご期待ください!

あと25話、咲を不完全燃焼のまま終わらせるといった流れだったので賛否両論かなーとは思いつつ投稿したのですが、予想以上でありました。
正直な所かなり驚いていて、感想で色々な意見を頂きましたが……逆にこれだけの人が読んでくれていたのか、と嬉しくもなりましたね。
内容に関してはこれは自分の考えているストーリーなのでどうしようもない部分ではありますが、描写などその他細かい点への気配りを考えつつ、これからも更新を頑張りたいな、と。まあ、咲さんのファンの人にとってはよくない内容だったり、冷やしとーかの内容が人によっては微妙だったりしたかもしれませんが。。

そんなこんなでこれからも頑張っていきます。
読者の皆様、今後もよろしくお願いいたします!

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