もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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長くなりそうなのでキリのいい所で一度区切りました。

初、麻雀の闘牌シーン。結構ざっくりしてる。ルールとか、用語とか、読者様が知っている前提で書かせてもらっています。わからない所があれば、申し訳ない。


4,Roof-top対局(前)

「じゃあ」

 

 既に臨戦状態となった四者、既にそれぞれ席に座っている。

 

「準備はいいかな?改めてよろしくね」

 

 東家、つまり起家。そこに座るは、全国チャンプでもある宮永照。

 

「おっけー!」

 

 南家には全中二位、そして特殊な条件で少し遡れば、白糸台の大将を勤めた実力者、大星淡。

 

「よろしくお願いします!」

 

 西家には清澄高校の照の後輩、花田煌。

 

「よろしくお願いします」

 

 北家には県内屈指の実力者であり、風越のダブルエースの一角、竹井久。

 

 

 

「ルールは大丈夫だよね?」

「ええ、個人戦で使われる大会ルールよね?いつもそれで打ってるから問題ないわ」

(テル相手に25000点スタートで誰も飛ばない未来が見えない……)

 

 照が皆に再確認し、久がそれを代表するかのように答える。

 

 25000点スタートの30000点返し。オカあり、ウマなし。

 赤ドラは五萬が一枚、五筒が二枚、五索が一枚の計四枚だ。

 

 

 

「じゃあ、始めよっか」

 

 対局、開始ッ――――!

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 東一局。

 

(正直な所、今の段階では私にとっては相当すばらな流れですね)

 

 煌は自身の手、そしてこの全体の卓を見回して率直な考えを頭に浮かべる。

 

(照先輩はどうなっているんだってくらいのすばらな和了率の高さです。……が、最初の東一局だけは様子見に回る)

 

 その照の癖を知っているからこそ、煌はある結論にたどり着く。

 

(本来なら親の連続和了で大変な事になるのがいつものオチですが……起家という事は、最初様子見をするという事を考えるとこの半荘、親の連続和了タイムは二回から一回になる)

 

 それだけでもだいぶ違う、と煌は考える。

 照は親で何連荘するんだって位おかしな連続和了をするのだ。止める側も一苦労では済まされないような……その回数が一回減るというのは、とてもラッキーな事である。

 

 そしてその照の事だけではなく、今煌に来ている流れに関してもだ。

 

(配牌二向聴……それも点数的にも悪くなく、綺麗な手。まともに上がるチャンスがここしかないと考えると……絶対に逃さないッ……!)

 

 自らに配られた良手、そしてそれを逃すわけにはいかないと煌は強い意志を持つ。

 

 

 

 ――――八順目。

 

 

 

「ツモッ!!タンヤオドラ2で2000、3900!」

 

 ダマから煌が和了する。得点的にも7900点で悪くない。

 

「へえ……やるわね」

「風越のエースにそんな言葉を頂けるなんて光栄ですね。この調子で行きたい所ですっ!」

 

 開幕から今回は調子が良い、と煌は自分自身で感じていた。

 だが、ここから来る恐怖を煌は知っているため、油断なんてものは一切無い。

 

(調子はいい……が、ここからが問題ですね)

 

 対面に座る眠れる魔王が、目覚める時。

 

(まだ東一局ともし周りに見ている方がいたら思うかもしれませんが……この序盤のリードは本当に大切なリード。この後攻めるか引くかは……局ごとの配牌と相談ですね)

 

 

 

 一方、この局では周りから見ている者がいれば何も出来ていないと判断するであろう……久も、ある感触をつかむ。

 

(七順目に引いた二萬、いらない牌だと思っていたけど残して正解ね。上家のえっと……花田さんだっけ、少し前からツモ切りだったしそのまま投げれば恐らく振っていた)

 

 不要牌をあえて残す事によって、5200点の直撃を避ける事に成功した。

 つまり、意味のある行動が出来たという事。そしてそれは、久のスタイルでもあり、調子のバロメーターでもある。

 

(調子、悪く無さそうね)

 

 止める事が出来たという事は、調子もいいという証拠だ。

 そんないい気分を持ちながら、久は次の局の準備をする。

 

 だが、まだ彼女はこの卓の本当の恐ろしさを知ってはいない。

 そしてそれは、これから身をもって体験する事となる。

 

 

 

(……おかしい)

 

 それとは別に、この卓に違和感を感じる者が一人いた。

 

(なぜ、三向聴スタートだった?)

 

 その人物とは照である。

 悪くは無い。むしろ、ちょっとはいいかなといった具合の麻雀をやっていればよくある手。

 そんな手になる事が、おかしいのだ。

 

(淡……何を企んでいる?)

 

 照はこの卓では唯一淡の能力を知っている人物だ。

 そしてその能力を知っているからこそ、おかしいという事に唯一気がつく。

 

 淡の能力が発動されると、淡以外の配牌が五向聴以下になる。そしてそれは、照も例外ではない。

 だが、この局ではならなかった。つまり、淡は能力を使っていないという事が容易に推測できる。

 

 

 

(まあいい)

 

 照は淡の事を気にはする。だが、それだけだ。

 気にしたからといって、照自身の麻雀が変わるわけではない。

 

(私はいつも通り打つだけ)

 

 

 

 そして動き出す。次は、東二局――――!

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「あぁーーーーー!遅れたし!久先輩に申し訳ないし!」

 

 そんな大声を出しながら勢いよく店に入ってきた図々しい、とても図々しい人物――――池田華菜はぜえぜえ、と息を切らしながら周りをキョロキョロと見回す。

 

「うるさいわ!場所を考えろ!」

「あっ、まこちん。久先輩見なかった!?」

 

 華菜は同じく風越の一年でもありRoof-topの店員である、まこに久がどこかにいないか尋ねる。

 

「久なら……あそこで打っちょる」

「ん?誰と打ってるし?」

 

 華菜は久が打っている相手が純粋に気になった。

 

 確かにここ、Roof-topはたまにプロも来る場所。

 そしてプロ以外にも、常連で趣味で打っているのにも関わらず中々の実力者という人もたまに来る。

 

 今回もそんな大人達の類かなーと卓を見る華菜だったが、その目に映るのは自分と同じくらいの学生と思われる三人だった。

 

 そして華菜はこれからまこから聞く言葉によって恐らく、今年一の衝撃を受ける事となる。

 

 

 

「あの……赤い髪の人物。……宮永照」

「…………え?ええええぇぇぇえええ!?!?!?」

「うるさいわ!」

「へぶしっ!?」

 

 馬鹿みたいにうるさい、うるさすぎる声を出した華菜に対し、まこの拳が華菜の右頬を綺麗に捉える。

 その衝撃のおかげか本当に若干ではあるが、突如叫ばない程度には落ち着く華菜。

 

「……あと補足すると、金髪は全中二位の大星淡、もう一人の特徴的な髪の方は花田煌っていう宮永照の後輩じゃ」

「全中二位!?あと宮永照の後輩って事は……それだけでそれなりに強そうに感じるし」

「ああ、仕事中じゃからずっと見れておるわけじゃないが……花田も見る限り中々の打ち手じゃな。だけど」

「いや、それ以上は言わなくていいし!」

 

 更に言葉を続けようとしたまこに対し、華菜はストップをかける。

 

「後はあたしの目で見てくるし!久先輩があの卓でどれだけ戦えているかも気になる所だし」

「……ショックを受けるかもしれんぞ?」

「え?」

 

 早速見に行こうとした華菜に対し、思ってもいなかった言葉がまこの口から出てきて思わず華菜は足を止めてしまう。

 

「久の実力は、わかっておるじゃろ?」

「う、うん。部でも屈指の実力者、私の推測だけど全国でも十分に戦えるクラスの気がする」

「全国クラスっていうのは、わしも同意見じゃ。それだけに……な」

 

 その言葉を最後まで聞いたかわからない程度の所で、華菜は再び足を動かす。

 

 

 

(久先輩!何がどうなってるし!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 ――――東四局。

 

「ロン、5200」

「ッ、そこ当たりますか……!」

 

 煌が照に5200点の放銃。

 

(配牌を見た時は行ける気がしたんですけどねぇ……この振込はかなり痛い、すばらくない)

 

 ここは攻め時、と判断した煌であったが結果として照に振り込んでしまった。

 

(この流れだと満貫、跳満と来てしまう……それも、親で。何とか阻止しなければ……!)

 

 一人、静かに闘志を燃やす者がここにいた。

 

 

 

 それとは別に、未だ引っかかりを抱く者もあり。

 

(淡……まだ仕掛けてすら来ない。どうして?)

 

 照は下家にいる淡に対し、最初の時よりも更に気になってしょうがなかった。

 本当に、何もしてこないのだ。

 

(……何を考えているのかは知らないけど)

 

 それでも、最初の時と同じように変わらない。

 

(私は、私の麻雀をするだけ)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 南一局が始まろうとしていた所に、一人の人物が顔を出す。

 それは、久がよく知る後輩。

 

「久先輩?って、どうしたんですか、その汗の量は!」

「え、あ、華菜?」

 

 風越の麻雀部員――――池田華菜。

 

「ん、誰?」

「あ、えっと……後輩よ、流れ止めてごめんなさいね」

「そう、別に止めた事に関しては問題ないよ」

 

 照が突然の謎の訪問者に気を引かれたが、久の一言により理解する。

 

「あの、すみません。久先輩の後ろから対局見てても大丈夫ですか?」

「いいよ、問題ない。というか、他にも周りに観戦者がたくさんいるし別にわざわざ確認取らなくてもいいのに」

 

 久以外――――三人を代表して、照が答える。

 気がつけば、この卓の周りには興味を持ち観戦する者が多数存在していた。高校生のチャンピオンが打っているのだ、当然といえば当然かもしれないが。

 

 照の一言に対し、華菜はありがとうございますっ、とだけ答え久の後ろに立つ。

 

 

 

(点数的にはそこまで離れてない……これだけ見ると久先輩、十分戦えているようにも見えるし)

 

 華菜は現在の卓の流れを目で見える情報だけで冷静に判断する。

 

 照・29400

 淡・22500

 煌・27400

 久・20700

 

(先輩は現在ラス……と言っても、まだ点数は全然動いていない。逆転は可能だし)

 

 東場が終了したのにもかかわらず、点数はまだ横一線だ。

 一つの和了で、一気に順位が変わる点差。

 

 

 

(……だけどあの汗の量、尋常じゃなかった。凄く気になる……けど。あたしに出来る事は黙って見ながら先輩を応援する事だけだし)

 

 普段、部内でどんな人を相手にしてもあんな汗をかいている久を華菜は見た事が無い。

 

(先輩、頑張って……!)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(ッ……!)

(あー、この圧力……何時までたっても慣れないですねぇ)

 

 感じる者は、感じる。

 もしこの対局を見てる者からすれば、普通に打っているようにしか見えないだろう。

 

 だが、現在対局をしている本人達からすればわかる、照の圧倒的威圧感。

 そしてそれは、連続和了をすればするほど増していく。音は鳴ってない、が。ゴッ!という効果音が聞こえてしまうくらいの物だ。

 

 久はそれを始めて感じ取り、更に汗が。主に冷や汗が、頬を伝って流れ落ちる。

 煌も久ほどではないが若干の汗が出てきて、本人は思わず苦笑いをしながら対局していく。

 

 

 

「ツモ、4000オール」

 

 そしてこの局も和了るのは照。これで四連続和了だ。

 

「……次行くよ、一本場」

(あー、何ででしょうねえ……いつも照先輩が連続和了をする辺りから更に気持ちが高ぶってくるのは)

 

 常人なら心が折れてもおかしくない所を、煌はむしろテンションが上昇する。それは決して悪い意味ではない。

 これは悔しさを通り越して気持ちが切れる者と、悔しさを自分を奮い立たせる材料、プラスに持ってくる者の違いだ。煌は当然、後者。

 

 そしてそれは、煌の強さだ。

 ここまで一方的でなお、前に立ち向かえる者も中々いないのだから。

 

(そりゃあ、照先輩との実力差なんて天と地なのはわかっていますよ。それでも、今自分が出来る事を全力でやって一矢報いたい……!)

 

 煌の強い意志は、自らを奮い立たせるだけではなく伝わる者には伝わる。

 

 

 

(花田さん、ほぼ毎日チャンピオンと打っててよくめげないわね。……凄すぎよ、正直。だけど、私も……!)

 

 初めて照と対局しその異常さを身をもって感じ取り、だからこそ煌の凄さを知る久。

 そして煌に触発されるかのように、自らの心の炎を強く燃焼させていく。

 

 

 

(どんなに劣勢でも、諦めずに向かってくる強さ。そんな煌だからこそ、やっぱり打っていて楽しさを感じる)

 

 照もその煌の気迫に関しては高い評価をしている。

 照自身も、心が折れた相手に攻撃をするよりも、向かってくる相手を真正面から倒すのがやはり楽しいと感じる所があるのだ。

 

 

 

(ふーん……?思っていたよりも、最高じゃん、煌先輩)

 

 淡も静かに対局をしながら煌の良さを感じ取る。

 

 淡は照の事をよく知っている。だからこそ、照の相手をした者は大体どうなっていくかというのも知っている。

 だが煌はその一般例に属さず、少数の――――淡が味方なら好きなタイプ、の人間であると判断した。敵ならば、心の折れないウザい奴、という評価になるわけだが。

 

 

 

(面白い……いいね、面白いよ!)

 

 照から来るプレッシャー、そしてそれをむしろ力に変える煌、初体験ながらまだ耐え、諦めない姿勢を見せる久。

 その全てを見て、淡は面白い、そう純粋な感想を頭に浮かべた。

 

 

 

(――――さあて、そろそろ仕掛けようかなあ?)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 二度目の南一局。

 

 

 

(この手、悪くない……!既に白の暗刻が揃っていて二向聴、速度的には十分いける……!)

 

 煌、自らの執念のおかげか良配牌をここで持ってくる。

 

(ですが照先輩も跳満手といえど、恐ろしい速度で引いてくる……純粋な引きなら恐らく負ける、ここは安くても鳴きが必須でしょう)

 

 今求められているのは高さではなく早さ、そう煌は考える。

 

(いい所を淡さんが捨ててくれるとありがたいですが、それは序盤では中々難しいでしょうか……?)

 

 麻雀のセオリーとしてはやはり、揃えにくい公九牌から切っていくのが基本である。

 勿論、配牌によっては当然例外も存在するが。

 

 煌としては鳴きたい所、中張牌の所を切ってほしいと願う。しかしそれらの牌は、序盤から切られるという事も早々無いだろう。

 

 

 

 だが、淡の最初の捨て牌は予想に反して。勿論嬉しいという意味で。

 何と、六筒を捨ててきたのだ。

 

 

 

「チー!」

 

 そしてそれは、煌が求めていた牌。

 

 

 

(すばらですよ、淡さん!これで一向聴、もう少し……!)

 

 鳴く事により、手を進める事に成功した煌。

 そして浮いた不要な牌、自風の西を切っていく。

 

 

 

「ポン」

 

 その西を、淡が鳴く。

 

 

 

(淡さんからすればオタ風牌の西をポン……?淡さんも照先輩の事はよくわかっているはず、つまりは速い手で和了りにきている?という事は、チャンタ、トイトイ、あるいは染めの類でしょうか)

 

 六筒を捨てて西を鳴くという事はそれらの可能性が高い、と煌は分析していく。

 そして次に淡が捨てる牌、またもや中張牌の三萬。

 

 

 

「それもチーです!」

 

 運のいい事に、それも煌の必要としていた牌だった。

 

(張った……!クズ手で結構、すばらですよ……!)

 

 今ここに来て、煌は超絶なスピードで最高のクズ手を聴牌する。

 満貫程度といったらおかしいかもしれない。だが、そこで親の連荘を止める事が出来たのならば大健闘なのだから。

 

(勿論、聴牌だけがゴールじゃないです。ここまで来たら、絶対に和了る……!)

 

 煌は強く願いつつ、不要牌の一筒を切っていく。

 

 

 

「それもポン」

 

 再び反応するは、淡。

 これで西と一筒、二つの牌を煌から鳴いた事となる。

 

 

 

 そして淡は少し迷った素振りを見せた後に三索を切り――――

 

 

 

「ロンッ!白のみ、1000の一本場は1300!」

 

 煌、堂々とこの対局中にて最高の笑顔でクズ点数を申告。

 

「はいはいーっと、1300ね」

「私、一度もツモってないのだけれど……」

 

 どこか嬉しそうに点棒を渡す淡と、信じられないという表情をしながら呆れたように声を出す久。

 

(淡さんの表情を見るに私と同じく早く流そうと考えていたみたいですね、やはり染めかチャンタあたりだったのでしょうか)

 

 

 

 そんな点を受け取る煌を見ながら、親を流された照はいくつか感じる所があった。

 

(この局ではかなり煌の和了ってやるという執念を感じたね、その1300点は私にも強く伝わってきたよ)

 

 たかが1300点、結果だけ見ればただ親を流しただけの事だが、そうではない。

 照の連続和了をたかが満貫程度で終わらせたという事に、大きな価値がある。

 

 

 

 そして照が感じた物、それは煌だけの問題ではなかった。

 

(淡が鳴くなんて凄く珍しいと思ったけど……本気で私の親を止めに来てた?能力を使っていないのは、自分の素の力がどこまで通用するか試しているのかな?)

 

 淡の鳴き、というのも照は白糸台でも中々見た事が無い。

 それだけに、今の局は珍しい、と感じていた。

 

 

 

(うまくいったー!どこ切るかは迷ったけど、ピンポイントに差込!)

 

 振り込んだのにも関わらず、どこか満足している者がいた。淡だ。

 

(今の局、周りからは私は早和了り、とかそんな風に見られてたのかなー。何も揃ってない、クズ手にすら満たない手だったんだけどね)

 

 淡の手は染めでもチャンタでもトイトイでもなかった。何も揃っていない、ぐちゃぐちゃのどうしようもない手。

 鳴いても役なし、どうしようも無いのに淡は鳴いたのだ。

 

(あの鳴きはただテルにツモらせないための役割なんだよねー、そして私の絶妙なアシストと煌先輩の執念の良手とがいい具合にマッチして流れたと)

 

 淡は流そうと考えていた。

 だが、それは自らの和了ででは無い。

 

(私が流すんじゃなくて、私で流す。別に流れればどうだってよかったしー、どうせテル相手にあの流れで高めなんて無理無理)

 

 それは一種の場の支配に近いものがあった。

 勿論能力は使っていない、技術、直感、要するにデジタルとアナログが混じった物。

 

 相手の効率の良さを上げるためのセオリーでは切らない牌をあえて切る、そしてその中張牌のどこを切るかは自らの直感によるもの。

 

 

 

(あの時、私が負けてから。私には何が足りなかったのかを必死に考えた)

 

 穏乃に負けてから淡は自分がこれから強くなるためにはどうすればいいか、どうしたら穏乃に勝てるかを過去に戻ってから考えていた。

 

 淡はまず、自分は能力に頼りすぎていたという事に気づく。

 

 もしあの時、自分に仮に能力を封じられても普通に打って勝てるだけの実力があったなら。

 もしあの時、能力を封じられてるとすぐに察知できる直観力、柔軟に打ち筋を変えれる判断力があったなら。

 

 淡はそれから努力なんて自分には合わないなーとか思いつつも相当の努力をしていく事となる。

 ひたすらにネトマを打つ、ひたすらにプロの打ち筋の動画を見る、強い人と生で打つ機会があればそれを必ず自分の糧にする――――その他、淡は数知れずの麻雀に関する自分の為になる事ならば、積極的に行ってきた。

 

 高い意識と、それに伴う努力が淡の麻雀を変えていく。

 

 

 

(ははっ、感謝してるよ高鴨穏乃!私はまだまだ、上を目指せる。高校になったら百年生ってレベルじゃない、千年生まで目指すよ!)

 

 一つの敗北が、油断だらけで、隙だらけだった淡をここまで変えた。

 

(私が能力を使わなくても、テルにこうして通用している。……和了れてないんだけどねー)

 

 和了れずとも、部分部分では通用している場面もある。

 現に、まだ淡は煌への差込以外、振り込みも無い。

 

 

 

(あー、でもなあ……)

 

 

 

 淡は確かに変わった。だが、根本的な所までは全く変わっていなかった。

 とにかく、一番でなければ気がすまない性格。そしてそれは、照相手であろうとも。

 

 

 

(結局は、能力を含んで私なんだ。さーて、ここからは……私の全て、全力で行かせて貰うよ?)

 

 今まで淡は決して手を抜いていたわけではない。いや、全ての力を出し切っていなかったから手を抜く、と同義になるかもしれない。

 ここまで淡は、能力を使わない中で全力で打ってきた。

 

 だが大星淡という打ち手は、能力を使ってこそ百%の大星淡だ。

 

 

 

(こっからトップ狙うから……あはっ、覚悟してね)

 

 ここにもう一人、眠っていた魔物が以前とは更なる力を見に纏い、目覚める。

 

 

 

 南一局終了

 

 照・41400

 淡・17200

 煌・24700

 久・16700




今回のまとめ

煌、先制パンチ
照、当然のように四連続和了
池田
煌、燃える。ひたすら燃える(Mではない)
煌、執念の最高のクズ手和了
淡、覚醒フラグ

まあ、まこも風越なんですね。池田ならまこちんって言いそう。
もし池田の出てくる所で地の文がきつくなっていると感じたならば、それはアンチ池田ではありません。池田の愛ゆえです。←

煌の見せ場が多めですねー、凡人が強大な敵(?)に立ち向かうのってやっぱり好きなんです。末原さんじゃないですけど。

照は安定の強さ。というか強すぎるからいかにあまり和了させずに見せ場を減らすか、という気持ちで書いていたのに余裕で4万点超えた。マジキチすぎる。

感想等があれば随時募集しています。

あと、初めてランキングに載っているのを確認できた……評価して頂いた方々、そして読者の方々、皆様に感謝です!

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