もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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一話の文字数が1万超えてしまった……これっていいのか悪いのか。
個人的には5000字程度がいいのかなーって勝手に思っていたのですが、どうなんでしょうか。

六話目にしてようやく元通りの学年ですね。
あと、やっと原作の主人公が登場します。


6,清澄高校

「あ……」

 

 雪は溶け、間もなく春を迎えようとする時期。

 そしてこの時期、ある年代の者にとっては人生を左右するような時期だろう。

 

 その時期の中で、最も重大な日――――高校受験、合格発表日。

 

 ここ清澄高校でも、受験をした中学三年生達が自分の番号を探しに訪れてきて――――

 

 

 

「あったあああああ!!私の番号!受かったああああっ!!」

 

 合格したものは喜び、不合格の者は嘆き悲しむだろう。

 そして、ここに合格した人物、その中でも他の人と比べ異常なほど喜ぶ者――――大星淡。

 

 淡にとってはどんな役満を和了る事よりも、更にはインターミドルで勝ち上がっていくよりも、よっぽど嬉しい出来事なのかもしれない。

 周りの目など気にせずに、喜びを声で、身体で体現する淡。

 

 

 

「これで……またテルと同じチームで麻雀が出来る!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「京ちゃん、あの子凄いね……」

「……ああ、よっぽどこの高校に入りたかったんだろうな。別に特徴ある学校でも無いと思うけどなあ……」

 

 時、場所を同じくしてここにいる二人の人物。

 目的も同じで合格発表の番号を二人で見に来たというわけだ。そんな時に、色々と物凄い淡を見かけたという模様だ。

 

「京ちゃん、番号あった?」

「おう、あったぞ!咲はどうだった?」

「うん、私もあったよ。おめでとう、京ちゃん!また、同じ学校だねー」

「お、咲もおめでとうな。と言ってもなあ……」

 

 二人の人物――――宮永照の妹、宮永咲とその幼馴染の金髪の少年、須賀京太郎。

 両者共に、自身の番号が掲示板に掲載されていた。つまり、合格をしたという事になる。

 

「ん?どうしたの京ちゃん」

「いや、俺はともかく咲ならもっとレベルの高い高校狙えたんじゃないかと思ってさ。何で清澄にしたのかなって」

「え?それはね……京ちゃんと一緒の学校が良かったからかな!」

「……ホントか?はいはい、嬉しい嬉しいっと」

「むー、適当に言ってるでしょ!」

「いや、これでもかなり嬉しいのは本当だからな。知っている奴が多いに越した事はないし、それは咲も同じだろ?しかも咲なら、俺がいないとまだまだ駄目そうだからなー」

「そんな事無いって!京ちゃんがいなくても平気だもん!」

「……じゃあ、今日俺と一緒に来ないでここまで迷わず来れたか?」

「えっと……自信ない、かも」

 

 と、聞いている者がいれば微笑ましいような会話をしていく二人。

 

 京太郎に関してはギリギリ、とまではいかないが学力的にちょうど良く家からの距離も悪くなかったため、清澄を選んだ。一般の高校生ならよくある理由だ。

 だが咲に関しては京太郎の言う通り、もっといい高校も狙えなくは無かっただろう。

 

 

 

(京ちゃんと一緒の高校が良かった、その言葉に嘘偽りは無いけど)

 

 咲としてもさっきの言葉に嘘は無く、京太郎と同じ高校が良かったというのは本音だ。

 だが、理由としてはそれだけではない。もう一つ、大きな理由がある。

 

 

 

(お姉ちゃんと同じ学校……そこに、入りたかった)

 

 咲からすれば、未だに口も聞いてくれない姉、照のいる学校。そこにどうしても入りたかったのだ。

 

(入ってどうこうとか、そういうのは全く考えても無いけど。そもそもお姉ちゃんは私が清澄に行くなんて事も知らないはずだし)

 

 咲は、また昔のように姉の照と楽しく喋ったり、そんな仲のいい姉妹に戻りたいと考えていた。

 そのために何かをする、との具体的な案が浮かんでいるわけではない。だが、清澄に入ることで何かきっかけを作る事が出来るんじゃないかと、そんな考えも無しの理由で受験したのだ。

 

 考えこそ無い。だが咲は、どうにかするための一歩を踏み出す事には成功したのだ。

 何年も同じ家にいながら喋っていない、姉と再び仲直りするために。

 

 

 

(また、お姉ちゃんと一緒に楽しく喋りたいな)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「テルー、受かったよ!」

「おめでと、まあ私もあれだけ勉強教えるの手伝ったし、受かってもらわなきゃ困るんだけどね」

(横でお菓子ばかり食べてただけな気がするんだけどなあ……)

 

 その後淡が家に帰宅し、夜を迎えた時間帯。

 自分が無事清澄に受かった事を照に報告するため、淡は携帯から電話をかけている。

 

「勿論麻雀部に行くから、よろしくっ!」

「うん、楽しみに待ってる。煌の後輩も無事受かったってさっき煌からメール来てたし、来年は団体戦も出たいね」

「……えっと、妹のサキは?」

「その……どこ受験したのかもわからない、ごめん」

(相変わらずまだ会話すら出来ていないんだなぁ、まあ仕方ないか……)

 

 煌の後輩が入部する事もほぼ確定し、これで麻雀部も春からは四人は揃う事となる。

 

 そしてもう一人、身近にいて知っている人物で一番可能性がある者、咲についてだが。

 照は、まだ咲と会話も出来ていない状況で咲の進路がどこに向かっていったのかもすら把握出来ていない。

 

「じゃあ、もしかしたら清澄に来てないって可能性も」

「あるかもしれない。私が清澄に入るというイレギュラーを引き起こしているし、そしてイレギュラーによって引き起こされる自分以外の者の改変というのもいくつか起きている。煌がいるのもそう」

 

 照と淡、過去に戻ってきた二人が前の時間軸と別の行動をする事によって、改変される出来事というのが存在する。

 つまり照が清澄に入ったことによって咲が自分を避けて他校を受験しているかもしれない、という事を危惧しているのだ。

 

「来てるといいね。ま、私が入学したら確認しとくから!」

「うん、お願い。ありがとう、淡」

「このくらいへーきへーき!私としても、サキが清澄にいるかかなり気になるしねー」

 

 

 

 照と淡、二人とも咲が清澄を受験しているとは知らないまま入学式を迎える。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 ――――入学式。

 ついに高校生と、義務教育を終えてある意味大人に近づいた子供達が、期待を胸に学校に生徒として初登校する日。

 入ったらこんな部活をやろう、自分は入学を気に変わりたい、などなど人それぞれ色々な思いを持ちながら、偉い人の退屈なお話を聞いて高校の生徒になったんだ、と一年生達は実感していく。

 

 高校生というのは小中学生と違って校区で分けられている訳ではないので周りにいる人は初対面の者が多数となってくる。

 勿論、全てが初対面というわけでは無い。同じ中学から受験した者というのも当然多少ではあるが、いるわけで。

 

 つまり、入学したての時は大体その中学校の知り合い同士で話す事が自然と増える事になる。

 

 

 

「京ちゃん、同じクラスになれるといいね!」

「ああ、そうだな」

 

 咲と京太郎の二人もその例に漏れず、今は二人で話している。

 二人の中学校から清澄に入学した生徒は他にも数人いるが、あまり喋った事が無いような人ばかりだったのでそこまで絡んではいないといった模様だ。

 

「確か自分のクラスを確認して、時間がある程度たったら体育館に入場って感じだよな」

「うん、一年生教室のある四階に大きな掲示板があるって入学案内に書いてあったはずだけど……」

 

 現在二人は学校の階段を登っている。

 清澄高校は四階建ての校舎、下級生の一年生はその長い階段を全て登りきらなければならない。

 

「長いよ、この階段……」

「咲は運動不足だな、でも毎日ずっと登っておけば慣れるって……って、あるじゃねえか、掲示板!」

「え、どこ!?って、目の前に」

 

 階段を登りきり四階に到達した所のすぐに、大きな掲示板があった。

 そこには自分のクラスを確認する者が多数おり、ざわざわと少なからずにぎやかな状況になっている。

 

 咲と京太郎も同じように掲示板を見て、自分の名前がどこにあるか探す。

 だがこの二人、似ていた。自分の名前を探すのは当然として、隣にいる者。咲なら京太郎の名前を、京太郎なら咲の名前を一緒に探していたのだ。

 

 ――――そして。

 

 

 

 

 

「「見つけた!京ちゃんの(咲の)名前!」」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁ、ダルいー、眠いー……」

 

 体育館で上級生による吹奏楽の演奏や、校長先生やPTA会長などの生徒にとっては特別ありがたくも無いお祝いの言葉、そんな色々なイベントが含まれた入学式も無事終了した。

 その後クラスに戻ってきた生徒達。その中でも淡は、長い話がよほど堪えたのか机に頭を突っ伏してぐったりとしている。

 

 

 

「俺がお前等の担任だー、最低でも一年間は受け持つからよろしくなー」

 

 そんな中、担任の先生による声がクラス内に響く。

 

「早速だが、皆に軽く自己紹介してもらおうか。と言っても時間もそんなにあるわけでもないから、自分の名前と軽く特技とか、趣味とかそんな感じで適当になー」

 

 淡もその言葉を寝そうになりながらしっかりと聞き取る。

 淡本人、初日から悪い方向では目立ちたく無いと一応は心がけてはいるのだ。

 

 

 

 

 

「――――よろしくお願いします!」

「おうよろしく、んじゃ次大星ー」

 

 出席番号順で自己紹介が行われていく中、少しの時間を経て淡の出番がやってくる。

 淡はふぁい、と眠そうな声を出しながら座っていた椅子から立ち上がる。

 

 

 

「えっと、名前は大星淡……みんなよろしくっ!清澄にはテ……宮永先輩がいるから来ました!麻雀部入って、全国優勝しちゃいます!」

 

 クラスから今まで以上にざわざわとした声が出てくる。

 

 一応、ここの学校で照は有名人である。

 麻雀というメジャーな競技の全国個人戦優勝者がいるのだ、有名じゃないわけがないというのも当然かもしれないが。

 

 だが個人では強くても清澄麻雀部が強いというのは別の話である。

 麻雀の強豪校で打ちたいなら、長野なら名門の風越に、それ以外でも東京やら大阪やらの学校に進んで行くのがセオリーだろう。

 

 当然、清澄にも照に憧れて入部を希望するという者も多数いた。去年の話、ではあるが。

 入部希望者が皆怯えて麻雀を嫌いになり辞めていくという噂、それは結構広まっており、今年清澄に麻雀目的で進学する者は去年ほどはいないと考えられていた。

 

 

 

「……大星、それは本気で言ってるのか?」

「えっ?当然じゃないですかー」

「……そうか、ならいいんだが」

 

 この担任も麻雀部の事はわかっているので、淡もその麻雀を嫌いにならないかという事を心配する。

 が、結局は本人次第、意思は尊重するので無理に引きとめはしなかった。

 

 

 

「……なあ、大星さんってもしかして女子インターミドル二位?」

「うん、そうだけど?」

 

 一人の男子生徒が何かを思い出したかのように質問を投げかけた所、あっさりと肯定の返事が淡から来る。

 その事を聞いたクラス内の生徒はほとんどすげー!とか、マジ!?等の驚きの声がいたる所から出てくる。

 

 

 

「ま、大星に時間割きすぎても他の生徒が自己紹介出来なくなるからここまでな。後は個人で聞くように。んじゃ、次ー」

 

 その声を無理やりストップさせるかのように担任が自己紹介を他生徒に振っていく。

 それでもまだ、ちらほらとざわつきがあり収まりきっていない現状だが。

 

 

 

「ねむ……」

 

 当の淡本人はそんな事は知らん、と言わんばかりに再び机に頭を突っ伏す。

 

 

 

「須賀京太郎です、やりたい事はまだ別に決まってないですけどまずはクラスの人と仲良くできたらいいなーって思ってます。そんなわけでよろしく!」

 

 次々と自己紹介が進んで行く中、淡は意識を手放すか手放さないか、そんな瀬戸際の中で戦っていた。

 クラスの人の自己紹介で何となく名前は聞こえてくるものの、頭の中を右から左へと突き抜けるかのように入っては来ない。

 

 

 

「――――よーし、次は宮永なー」

「はい、えっと、私の名前は宮永咲で……」

 

 

 

 その時突然ガタガタッ!!といったこの場、このタイミングには相応しくない奇妙な音が鳴り響く。

 自己紹介をしようとした人物――――咲はポカン、と口を開き、その他クラス中も元々人の自己紹介を聞くために喋ってはいなかったが、空気が余計に静まり返る。

 

 

 

「……えっと、大星どうしたー?」

「えっ?あ、その」

 

 音を鳴らした犯人、淡にクラスの全員の気持ちを代弁するかのように担任が聞く。

 

(ま、まずい!宮永咲という名前に驚いてこんな現状作っただなんて言えないし、どうやって言い訳をしよう……!?)

 

 淡は言い訳を考えながら物凄く焦る。

 もしかしたらこの学校に来ていないかもしれない、だが探していた人物、宮永咲が自分と同じクラスにいたのだから。

 

 ここで正直にサキがいたからびっくりしました!と淡が言ったら周りに変な目で見られるのは確実だろう。

 だから淡は考える、この場で怪しまれずに且つ無難な言い訳を――――!

 

 

 

「えっと、寝てて変な夢見ててびっくりして起きた時に足を机にぶつけて音が響きました!」

「ほーう、正直者は嫌いじゃないぞ。とりあえずこの自己紹介終わったら職員室に後で配布する全員分のプリントがあるから持ってくるように」

「うえぇっ!?」

 

 

 

 言い訳をしたつもりが逆に正直者とみなされる、淡にとっては予想外の展開。

 そんな淡の意図を知らないクラスメイトにとっては、まるでコントのようなやりとりに笑いが起きる。

 

 

 

「えっと、自己紹介続けていいですか……?」

 

 そして、放置されててちょっと涙目になる自己紹介中の生徒もいたそうな。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「なあ咲……学食行こうぜ!」

 

 数日後、授業が普通にスタートしたある日の事。

 京太郎が突然咲に学食を食べに行こうと、提案を持ちかける。

 

 ――――そしてその勢いのまま昼休みに食堂に二人は行ったわけだが。

 

 

 

「はい!レディースランチ!」

「おー、うまそー!」

「ったく、京ちゃんったら!ただレディースランチが食べたいだけで私を呼ぶなんて!」

「いやー、だってさ、滅茶苦茶うまそうだったんだよ、今日のレディースランチ!」

 

 ただ単に京太郎がレディースランチを食べたいが為に、咲を食堂に来るよう提案したのだ。

 そんな調子のいい京太郎に対し咲は、少し怒って、呆れたような口調で話す。

 

 ちなみに咲は、家から持ってきた弁当だ。 

 

「……ん?何の音?メール?」

 

 突然ピロリン、といった軽い機械音が流れたので何かなと隣の京太郎の方を向いたら指で携帯をいじっていた。

 

「いや、ちげーよ。ほら」

「……麻雀?京ちゃん、麻雀するんだ」

「おう、といっても役を全部覚えたのは最近何だけどなー」

 

 京太郎がやっていたのはスマホの麻雀アプリだった。

 

「いや、結構面白いな麻雀って!まだ全然できねーけどさ、最近凄い麻雀やるのが楽しくてさ、麻雀部に入ろうかどうかも迷ってるんだよね、俺」

「麻雀部、か……」

「あ、咲。そういえばさ……」

 

 京太郎は何かを思い出したかのように咲に改めて話しかける。

 

「――――咲の姉ちゃん、いた事も知らなかったけどさ。びっくりしたよ、まさか麻雀全国優勝してるだなんて、そしてこの高校にいるって」

 

 自己紹介の際に、咲は担任にこの事を指摘され、京太郎を含めクラスが騒然とした。

 担任もあまり騒ぎを大きくするのはまずいと察したのか、深くは追求しなかった。だが、宮永咲の姉は宮永照、そしてその姉はここの麻雀部で全国優勝をしているという事実だけでも麻雀に興味ある者は勿論、興味が無い者でも驚くような事であった。

 

「咲は麻雀できるのか?」

「うん、一応は……でも、あまり麻雀は好きじゃない、かな」

「……そっか」

 

 京太郎はこれ以上麻雀の話題を振るのはやめようと考えた。

 長い付き合いだったからこそわかる、咲の触れちゃいけない雰囲気、それに踏み込みかけていたという事を京太郎は何となくであるが、認識した。

 

 だからこそ別の話題に変えようと京太郎が考えた矢先――――咲が、再び口を開く。

 

「……いや、ごめん。やっぱり、麻雀は好きなんだ、とっても。だけど、ちょっとね」

 

 言葉だけの意味を捉えるならば、咲の言っている事はかなり矛盾しているだろう。

 だが、京太郎はその言葉の意味を理解し、同時に考える。

 

(咲に何かしてやれる事ねーかな……)

 

 麻雀関連で咲が何かしらの事を起こしたのだろうと、京太郎は推測した。

 仲のいい、親友とも言える立場の咲に対し、何かしてあげたい。だが、その何かが京太郎には浮かばない。

 

 

 

「……とりあえず、飯食おうぜ!冷めちまう!」

「……そうだね!だけど、私はお弁当だから既に冷めてるけどね」

 

 腹一杯食っておけば元気になるだろう、とその場しのぎではあるが悪くは無い案を京太郎は浮かび、それを咲に促す。

 そしてお互い食べようとした矢先――――

 

 

 

「――――ちょっとそこにお邪魔させてー!」

 

 強引にレディースランチを同卓のテーブルにドカァッ!と置く人物、現る。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「はあ、最悪なんだってば!今日に限って私の周り皆弁当だし!危うくぼっちという屈辱を味わう所だったよ!」

 

 こう愚痴をもらすのは突如現れた金髪の生徒――――淡。

 新しいクラス、とりあえず席の近い人同士どんどん仲良くなっていくよくある法則。その中で、淡以外の周りの女友達は全員弁当持参という不運。

 よって淡だけがこうして食堂にやってきたのだ。

 

「あはは、大変だったね……えっと、大星さんだよね?」

「うん、大星だよー。だけど淡って呼んでもいいよ!」

「えっ?……うん、淡ちゃん!私も、宮永咲だけど宮永でも咲でもどっちでもいいよ」

「じゃあサキで!えっと、そっちは……」

「俺?須賀京太郎だよ。ま、あの一度の自己紹介だけじゃ中々名前全部は覚えきれないわな。俺もどっちで呼んでもいいぞ」

「じゃあキョータローで!キョータローも淡って下の名前で呼んでいいよ!」

 

 咲と京太郎、二人からすれば同じクラスなだけで席も遠く、まだ話す機会もほとんど無かったのにも関わらずすぐに溶け込む淡であった。

 

「ねえねえ、サキとキョータローって仲いいの?」

「まあ、幼馴染みたいなもんだな」

「京ちゃんとは中学でずっと同じクラスだったしね」

「へー、付き合ってるの?」

 

 そんな唐突な鋭い質問に京太郎は口に含んでいた麦茶をブッ!と心の中で吹きかけたが何とか飲み干す。

 

「ゲホッ、何でそうなるんだよ!付き合ってなんてないって!な、咲?」

「え?で、でも私、きょ、京ちゃんなら別に……」

「何言ってんだお前はあああああ!?」

 

 速攻で否定したのにも関わらず何故か顔を若干赤らめながら混乱する咲に気づいた京太郎は、つられるかのように混乱してしまう。

 ――――そんな漫才のような二人を見た淡は。

 

 

 

(あー、これはテルに劣らないポンコツ臭……)

 

 何かを嗅ぎ取っていたとか。

 

 

 

「そういえばさ、二人は何かの部活に入るの?」

 

 このままだったら二人は混乱し続けるだろうと察した淡は、とりあえず話題を変えようとする。

 

 そしてこれは淡にとってかなり興味深い質問内容でもある。

 偶然とはいえ、こうして咲と話す機会が出来た。京太郎はともかく、その咲が果たしてどこの部活に入ろうとしているのか。――――果たして麻雀部に入る気持ちが現時点であるのか、気になっていた。

 

「え、ぶ、部活?」

「部活なあ……一応考えているのは無い事はないけど。あ、そういえばさ。淡って麻雀部に入るんだっけ?」

「ん?そうだよー」

 

 逆に京太郎から淡に対し同じような質問を返した。

 

「ほら、自己紹介の時に宮永先輩……ここにいる咲の姉ちゃんがいるから来たって言ってたじゃん。やっぱ、憧れてここに来たのか?」

「んー、ちょっと違うかな。まあ憧れもあるっちゃあるんだけどね」

 

 京太郎の質問に対し全てではないが、若干の否定をする淡。

 淡がここに来た理由は、それだけではない。過去に戻ってきてまた再び高校一年生を迎え、色々な思いを見に宿し照のいる麻雀部を目指してきた。

 

「実はさ、テルとは結構長い付き合いなんだよねー。だからサキの事も多少だけど知っている事もあったんだよ?」

「えっ?」

「うん、呼び捨てで呼ぶくらいは付き合いが長いね。まあ、結構序盤から呼び捨てで呼んでた気もするけど」

 

 咲は淡が言った予想外の言葉に驚いてしまった。

 咲としては、淡も自分の姉である照に憧れて清澄に入った物だと思っていたからだ。だが、淡からは照とは結構な親しい関係のような口ぶりだ。

 

「自己紹介の時私が机をガタッ、て大きい音出した時あったじゃん。あれ、寝てたんじゃなくてサキの名前を聞いてびっくりしたんだよ?まさか、同じクラスだなんて、ってね」

「へー、そんな関係が宮永先輩とあったのか……びっくりだぜ」

 

 京太郎は淡の予想外の交友関係に驚く。

 自分の親友である咲の姉と親しい関係の者が、まさか同じクラスにいるとは思わないだろう。

 

 

 

「……お姉ちゃんは」

 

 今まで黙っていた咲が口を開く。

 

「お姉ちゃんは、やっぱり私の事、嫌ってた?」

「えっ、おい咲?」

 

 嫌い、という言葉が出てきた事に京太郎は思わず反応してしまう。

 

「そう、だよね。私、駄目な子だからお姉ちゃんに嫌われててもしょうがないよね……」

「咲……」

 

 京太郎は何がどうなっているのか咲から聞きたかったが、それをしなかった。

 このタイミングで追求したら、咲が壊れてしまうかもしれないと思ってしまったからだ。

 

 そして、そんな咲を見ていた淡はこんな事を考えていた。

 

 

 

(……うわ、これは思った以上に酷いすれ違いというか、何というか)

 

 嫌ってなんかいないのに咲はそう思い込んでいる、そんな姿を見てこう思ってしまった。

 

(私が口で説明するのは簡単なんだけどなー、まあ、仲直りはできるのかもしれないけど)

 

 それだけでは根本的な解決にはならないと、淡は考えた。

 

(多分それだけじゃ、サキは麻雀部に入らないと思うんだよなー。一度はお姉ちゃんが私の事を嫌いにさせた麻雀はしたくないって感じで)

 

 淡の考える根本的解決は咲と照が和解、そして咲が麻雀部に入ることだ。

 淡自身、咲と麻雀をしたい、五人目の団体戦メンバーにしたいと考えているのだ。まだ対局した事は無いがあの照が強いと言っていた咲、それと組みたいという気持ちが淡にはある。

 

(でもなー、根本的な解決方法が見つからない……どうしようかなー?)

 

 と、淡は色々と思考するが中々いい案が出てこない。

 

 

 

「だああああっ!!」

 

 そんな時、少し口を閉じていた京太郎が我慢できない、と言わんばかりに口を開いた。

 

「きょ、京ちゃん?」

「だめだ、難しい事は考えられねえ!おい、咲!」

「は、はい!?」

「ケンカしたなら、謝れよ!口で謝れないなら……そうだ、麻雀で謝れよ!」

「え、どういう事それ!?」

 

 麻雀で謝る、という謎の言葉を発した京太郎に対し咲は物凄く疑問に思い突っ込んでしまう。

 

「あ、いや……何か俺も混乱してて適当に言ってしまった、悪い」

「いや、案外いいんじゃない、それ?」

「えっ?」

 

 京太郎としても自分でよくわからない事を言った自覚はしていたので淡に肯定された事に対し困惑してしまった。

 

(まあ、麻雀で謝るってのとは違う気もするけど……何かこの姉妹は、今なら麻雀でしかしっかりと語れない気がするんだよねー。そういった意味では、キョータローの案はいい案だね)

 

 結局は牌に愛された姉妹なんだろうな、と淡は推測する。

 ならば語るべき場所は、卓の上ではないか、と。

 

「でも……」

「咲、不安なら俺も麻雀部入部するぞ!」

「えっ?」

「いや、咲の為ってのもおかしいな。元々麻雀部に入るか迷ってたわけだし、そうだな、咲はついでだ!」

「京ちゃん、それは酷くない!?」

「そうだな、そのついでで不安になっている咲のそばにいてやるよ。そんな顔した咲、ずっと見たくはねーからな。だから、頼むから元気になってくれよ!」

「きょ、京ちゃん……」

 

 言っている言葉自体はいい物ではないが、その本質が伝わった咲は、感激して思わず涙を目に浮かべる。

 ――――が、そんないい展開の所に水を差す者が一人。

 

「え、キョータロー麻雀部入るの?」

「ん?そうだぞ、今決めた!」

「……止めた方がいいんじゃない?」

「何で!?そしてこのタイミングでそれを言うの!?」

 

 淡であった。

 せっかく少し京太郎がかっこよく決めたのに、台無しである。

 

「キョータローって麻雀結構打てるの?」

「いや、役を最近全部覚えたくらいだな。まあ、初心者なのは否定しないな」

「うん、やめよう」

「だから何で!?」

「まあ、下手したら精神障害とか起きちゃうかもしれないからねー」

「麻雀ってそんなに過酷な競技だっけ!?」

 

 そんなのは自分の知っている麻雀じゃないと、京太郎は思わず叫んでしまった。

 だがしかし、淡の言っている事は意外と外してはいないのも事実である。京太郎は勿論、冗談と捉えているが。

 

 そして、淡は京太郎の心を燃え上がらせる言葉を言ってしまう事に。

 

 

 

「ま、雑魚はお呼びじゃないって事だねー」

「……あ?」

「いや、一応善意なんだよこれでも。サキは知っていると思うけど、テルは凄いからねー」

「え?えっと……」

 

 ずっと落ち込んでいたのは自分のはずだったのに、こんな空気じゃ落ち込んでなんていられないと咲は何となく感じてしまった。

 というより、落ち込んでいる暇が無い、と。

 

「……言うじゃねえか」

「ん?」

「上等だよ!絶対に入部するからな!そして淡を負かす!」

「へー、私の実力は高校百年生レベルだよ?」

「あぁ!?なら俺だってすぐに百一年生になって追い越してやらあ!」

「まあ、その頃には私は千年生になってるだろうけどねー」

 

 燃え上がる京太郎に対し、ニヤニヤしながらそんな京太郎を見る淡。

 そしてそれをオロオロしながら見る咲。

 

「おい咲、今日の放課後麻雀部に行くぞ!」

「え?あ、うん」

「じゃ、放課後麻雀部だねー。私もまだ入部してなかったから、ちょうどよかったかな」

「あれ?淡ちゃんてっきり入部しているのかと思ったけど」

 

 咲は淡が既に麻雀部に入っているとばかり思っていたので、疑問に思う。

 

「新入生歓迎会とか、そういうの面倒臭いからねー。だからちょっと遅れて入ろうと思っていたから、ちょうどよかったかな?」

 

 去年ほどではないにしろ、今年も照に憧れて入部希望をする人はそれなりにいるだろうと淡は推測していた。

 そして麻雀が怖くなりやめていく、そういう人物と関わるのが淡は面倒臭かったのだ。

 

 

 

(急だけど)

 

 咲は一人、思考する。

 

(自分でも、どうなるかわからないけど……これを、きっかけにしたい。お姉ちゃんと、また再び)

 

 まさか今日麻雀部に行く事になるとは夢にも思っていなかっただけに、未だ実感もわかないどころか、心の中で怯える部分、行きたくないと思う部分もある咲。

 だが、引きはしない。それは仲直りをしたいという自分の強い気持ち、そして京太郎の支えのおかげもあるだろう。

 

 

 

(んー、うまいこと乗ってくれたな、キョータローは。気持ちは強そうだし、面白そうかな?)

 

 淡はうまく挑発に乗った京太郎を見て、そんな事を考える。

 

 別に挑発をしなくても京太郎は麻雀部に入っただろうが、それは咲の為という考えが強い。それだと、麻雀は趣味程度でしか取り組まない可能性もあるだろう。

 入るからには本気でやってほしい、そんな考えを持っていた淡はあえて京太郎を挑発し、そしてあの流れだ。

 

 初心者でも、本気で取り組めばどんどん伸びる。

 

 

 

(でもなあ、精神障害云々は割と事実何だよなぁ……キョータローいい奴っぽいし、ぶっ壊れなきゃいいけど)

 

 照と咲の関係の問題とは別に、また悩みを抱える淡であった。 




今回のまとめ

淡、受かる
三人、同クラス(優希は別)
咲、安定のポンコツ
京太郎、この時点でまだ入部していない(原作相違点)

淡って無邪気で少しキチ……ぶっ飛んでいるイメージなのに、何故か突っ込み役になってしまいがちなのは何故だろう。周りがそれ以上にぶっ飛んでいるせいなのか。

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