ある程度予想がついてた……というか、これしかないだろ、って感じのメンバーですが。
「しっかし、麻雀部の部室が旧校舎の方にあるってなあ……」
「行くの面倒臭いよねー、まあ部室は別に汚いとか、設備不足とかそういうのは無いから大丈夫って聞いてるけど」
「淡はまだ一度も行った事が無いのか?」
「うん、実は旧校舎自体に入るのも初めてだったり!」
淡、咲、京太郎の三人は授業を終えて、放課後に麻雀部への部室へと向かうため旧校舎を訪れている。
「咲、大丈夫か?」
「え?」
「いや、さっきからずっと黙ってるからさ。昼はああ言ったけど、きつかったら無理する必要は無いんだぞ?」
「ありがとう京ちゃん、心配してくれて。でも……大丈夫だから、うん、大丈夫」
咲は自分にも言い聞かせるように二度、大丈夫という言葉を繰り返す。
それを見た京太郎はそっか、と一言だけ呟いた。
「あ、あれっぽいね!全く、旧校舎まで来るのも面倒なのに一番上の階って凄いだるいしー!」
そう愚痴をこぼすのは淡。
三人はようやく麻雀部の部室の目の前まで辿りついた。
京太郎が一歩前に出て部室のドアをノックしようとした所、隣にいた淡がそれを無視するかの如く――――
「こんにっちわー!」
「おい、ノックくらいしろよ……」
思いっきりドアをノックする事無く、勢いのままに開ける淡。
それを見た京太郎は思わずため息をつく。
「……あれ、淡さんですか!?」
「そういう貴方は煌先輩じゃないですかー、お久しぶりですっ!」
そんな淡達をまず出迎えた人物、二年生の煌であった。
「清澄に入学してくれたんですね、すばらです!淡さんは、麻雀部に入部希望ですか?」
「もちろん!」
「あれ、えっと……そちらのお二方は?」
淡と一緒に来た咲と京太郎の姿を見て、煌は指摘する。
「須賀京太郎っていいます、俺も入部希望です!」
「おお、初の男子部員でしょうか!?それはすばらな事ですね。っと、今言ったようにここには男子部員はいないのですが、須賀君は大丈夫でしょうか……?」
「勿論ですよ!こいつには、負けられないんで」
「へー、キョータローは誰の事を言っているのかなー?」
「おめーだよ!」
京太郎は淡の事を横目で見ながら言ったので、それに気づいた淡はわざととぼけた振りをする。
そんな二人を見ていた煌は、
「ふふ、やる気がありそうで何よりですね。すばらです。私は花田煌、二年生の麻雀部員ですよ」
と、自身の自己紹介をしながら新入部員を歓迎する。
煌としても、やる気がある人物が入ってきたほうが当然、嬉しいのだ。
というか、やる気が無いとまず、精神が持たないといった方が正しいか。
(淡さんが連れて来た、という事は一応、期待してもいいのでしょうか。……まあ、打ってみないとわからないですけどね)
照の事を知っている淡が連れて来たという事は、知ってて連れて来たという事になるから、期待してもいいのではないかと煌は頭の中で考えていた。
(……って、あれ?)
煌がまだ名乗っていないもう一人の人物を見て、少し感じる所があった。
(もしかして……)
自分がいつも見ている先輩と、どこか同じ雰囲気を感じる人物。
「えっと、そちらの方は……?」
「あ、宮永咲って言います!ここに来ているのにも関わらず言うのも何ですが、私はまだ入ると決めているわけじゃなくて……」
「……ふむ、当然部活動はどこに入るのか悩みますよね。大丈夫ですよ、勿論ここに来た以上は入ってほしいなーとは、個人的には思いますけどね」
「あはは……何だかすみません」
この時期はまだ一年生はどの部活に入るのか完全に決め切れていない時期でもあるので、咲みたいな生徒はいてもおかしくないだろう。
そしてそんな生徒に対してごく普通の会話をしながら、煌は別の事を考えていた。
(あれが……照先輩の言っていた、妹ですかね?)
話だけは聞いていた、照の妹。
そして事情も全部を聞いているわけではないが、煌も何となく知っている部分もある。
照も咲が来るとは限らない、と言っていたので煌としては咲が来た事はとても嬉しい事だ。
そしてあの照ですら咲は強い、と言っていた。
(是非、入って頂ければすばらなんですけどね……)
その咲が入ったとすれば、大きな戦力だ。
そして戦力以前に、ついに団体戦を組む事が出来る。
「あれ、そういえば煌先輩だけなの?」
「えっと、照先輩はちょっと遅れると言ってました。もう一人私の知っている後輩が入部しているのですが、もうそろそろ来るはず……?」
その時だ。
部室のドアの向こうから聞こえる階段を思いっきり駆け上る音。
そして音は部室の前で止まり――――
「こんにちわだじぇ!」
バン!と淡が入ってきた時にも負けず劣らずの音が部室中に鳴り響いた。
―――
「じょ?もしかして三人は新入部員か!私は片岡優希って言うじぇ、今年入学してきた一年生だじょ!よろしくな!」
「あはは……まだ入ったって決めたわけじゃないけど。よろしく、片岡さん。私は宮永咲だよ」
「む、そうなのか?っと、そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、優希でいいじょ、咲ちゃん!」
突然部室に入ってきた人物――――片岡優希は、早速フレンドリーに三人に話しかけていく。
「私は大星淡だよー、呼び方はどっちでもいいよ、私はユーキって呼ぶね!あ、私は入部決めてるんでよろしくー」
「おう、よろしくだじょ淡!で、そっちの金髪ヤンキーは?」
「金髪だけどヤンキーじゃねえ!俺は須賀京太郎だよ、どっちで呼んでも構わないぞ。あと俺も入部決めてるからな」
「よろしくだじぇ!」
元々この一年生達――――いや、咲は少し違うかもしれないが、基本的に誰にでもフレンドリーに話しかけるタイプだ。
だから馴染むのには時間がかからないどころか、数分で仲良しだ。
「今年の一年生は活きがいいどころか、チームワークも良くなりそうで嬉しいですね」
「私達の力で清澄レジェンドを作るじぇ!」
「まあ、私一人の力だけでも余裕だけど皆がいればもっと余裕かなっ!」
「す、凄いね二人とも……」
とりあえず、どこか似ている所がある淡と優希であった。
自信過剰、ムードメーカー。煩すぎるといっても過言ではないくらい、部は盛り上がるだろう。それは咲も、思わず引いてしまうくらいに。
「じゃあ、面子も揃った所で――――」
麻雀部に面子が揃う、それ即ちやる事は一つ。
言われなくてもわかっている、淡と優希はワクワクしている顔、それを見て苦笑いする咲、あまりよくわかっていない京太郎。
「――――打ちますか?」
―――
「照先輩は一時間ほどで来ると言っていたので、半荘よりかは東風でサクサク打ちますか」
「やった!私のホームだじぇ!」
「後は五人の中で誰が抜けるかですね、最初は一年生同士で打つというのも面白いですが……」
そう煌が提案した所、気まずそうな声を出す者がいた。
「あの……俺、初心者なんで最初は見ていてもいいですか?」
「あれ、須賀君は初心者だったんですか?」
「いや、その……何か、すみません」
「何も謝る必要なんてどこにも無いですよ。初心者でも大歓迎ですし、これから上手くなればいいんですから」
煌が京太郎に対しこのように返事をする。
京太郎はそれを聞いて少し気が楽になったのか、安堵の表情を見せた。
「それならそうですね、須賀君は最初は観戦という事にしましょうか。どの視点から見ても構いませんが……」
「京太郎!私の視点から見ていると凄く参考になるじぇ!」
「淡さんの打ち筋なんて見るとどうでしょうか?」
「じょ!?」
煌は淡の実力を知っているので、それを見るように京太郎に勧めた。
ナチュラルに煌からスルーされた優希は、どこか悔しがっている。
「淡ですか?」
「ええ、淡さんはインターミドル二位の凄い実力者ですし、とても参考になると思います」
淡に関してはそれ以上の物を持っていると言っても過言ではないが、事実として残っているインターミドル二位。
その肩書きだけでもかなりの実力者であり、下の者から見れば参考にする部分がたくさんあるだろう。
「へー、キョータローは私のを参考にしちゃうんだー?」
と、ニヤニヤしながら淡は言う。
こいつには負けられないと先程言っているのにも関わらず、それを参考にするという事はもう既に負けを認めているのとある意味同義だろう。
「……ああ、じゃあせっかくだから参考にするわ」
「あれ、キョータローの事だからお前なんか絶対に参考にしねえ!って言うと思ってたのに」
「淡は俺をどんな奴だと思ってるんだよ!?……流石に初心者の分際でインターミドル二位に勝てるだなんて思ってもいねえよ。……今はな」
「ふーん?」
淡はそんな京太郎の言葉を聞いて意外だな、と感じていた。
(いいじゃん、意外と伸び白あるんじゃない?キョータローは)
ただのお調子者ではなく、自分の実力をしっかりと自覚し、吸収出来る所からは吸収しようとする。
そんな京太郎を見て、淡は伸びる可能性はある、と感じた。
「……じゃ、打ちますか!」
―――
「まあ、これが私の実力かなー!」
「東風なのに一位になれなかった……!?」
「はは、私がラスですか……後輩に負けると、流石に悔しいですね」
東風戦一回目。
序盤は優希がリードしていたが、徐々に淡が追い上げていき、そのまま一位に。
振込も無く安定し、プラマイ0で終えた咲が二位、終盤振り込んだ優希が三位、振込こそ無かったものの和了も無く、親の時に大きいのをツモられ失点してしまった煌が四位。
「流石淡さん、強いですね」
「淡ちゃん本当に強いじょ、東風なら一位になれる自信があったのに……」
「まあねっ!私が強い事なんて知ってるから!」
煌と優希から褒められ、謙遜せずに強いアピールをする淡。
「わからん……何であの時淡は振り込まないで止める事が出来たんだ」
「まー、色々あるんだよ。まだキョータローには難しいかもしれないけどね」
対局中、明らかに浮いた牌なのにも関わらず振り込まなかった場面があった。
それを疑問に思う京太郎だが、淡からすると初心者には理解するのは難しい事だと指摘する。
「咲さん、打ってみてどうでしたか?」
「えっ?凄く久々で……家族以外の人とやるのは初めてだったから、新鮮でした」
煌から話題を振られ、それに答える咲。
咲がこうして麻雀をするのも何年ぶり、というくらい久々な事なのだ。
「……よし、それではもう一度対局しましょう!須賀君、是非やってみてはいかがでしょうか?」
「……そうですね、見ていてやりたくなりました。通用しないかもしれないですけど」
「別に今通用できなくても大丈夫ですよ。それに、麻雀は運の要素が強い競技です。どんな初心者でも、チャンスはありますよ」
「……よし!やります!」
「じゃあ、私が今度は抜けるので須賀君はここの席に入ってください」
煌は京太郎にやってみるように促す。
京太郎も実際に対局している所を目の当たりにして、かなりやる気が上昇していた。
「じゃあ、二戦目行きますか!」
―――
「飛んだ……」
「これが私の実力だじぇ!」
「きょ、京ちゃんしっかり!」
「キョータロー、次!次頑張ればいいから!」
東風戦二回目。
東三局、京太郎が飛んで終了。
一位は勢いのまま親で和了りまくった優希、二位が咲、三位が淡だ。
京太郎のかなり落ち込む姿を見て咲はともかく、淡ですらフォローを入れるような状況である。
「……ってかよ」
京太郎が力の無い声で話し始める。
「最後に飛ばしたの、お前だろ、咲……?なのにしっかり、って励ますって何か違くないか……?」
「あっ、その……ごめん、和了牌だったからつい」
「まあ、和了牌なら仕方ないじぇ」
最後に止めを刺したのは優希でも淡でも無く、咲だった。
京太郎の捨てた牌をロン和了、飛びという流れであった。
「須賀君の麻雀部デビュー戦が飛びですか……いや、むしろこれ以上悪い事は無いと考えて、這い上がれば大丈夫ですよ!」
「花田先輩、凄くプラス思考ですね……」
煌から励ましと呼べるのかわからないレベルの励ましを京太郎は受ける。
ある意味、メンタルの強さがかなり強い煌だからこそ言えるような台詞なのかもしれない。
(……ユーキ、結構やるじゃん)
淡は対局しながら冷静に場を振り返っていた。
(確かに能力は使わないで打ってたけど、あの勢い、火力は中々。一回目は上手く流れを止めながら打てたけど、二回目はキョータローというカモのせいで止められなかったなー)
今回の対局では淡は能力を使わずに打っていた。
それでも実力の高い淡である。それに対し、十分対抗できる程の実力を優希は持っていると淡は感じていた。
(サキは……うーん、よくわからなかったな)
淡はずっと麻雀に対し様々な努力をしてきた。
そしてここ数年で、他人、場を観察する能力というのが非常に優れるようになってきた。
だがそんな淡でも、咲に関してはよくわからなかったのだ。
(煌先輩はまあ……流れが来てなかったんだろうなあ)
振り込まずにラスというのは、攻める所を見極められなかったという部分も無くはないが、それ以前に運が無かったという要素の方が強い。
結局は麻雀というのは運の要素が強い所もあるので、仕方の無い事でもあるが。
(キョータローはまあ……お疲れ、うん)
心の中ですら、哀れむ淡であった。
「どうしましょうか?またメンバー変えて打ちましょうかね?」
「そろそろタコス力が切れそうだじぇ、一度買いに行きたいじょ」
「優希、そういうのは部活前に買うのが常識ですよ……それに、旧校舎からじゃ本校舎の食堂に行くのも時間がかかるで……ん?」
煌がかかるでしょう、と言おうとした所部室のドアからノックの音が鳴り響く。
「はーい、どうぞー」
煌が了承の返事を言い、ガチャリと淡、優希のような常識知らず達とは違い、ドアが静かに開く。
「ごめんね、遅くなった」
―――
「あっ、照先輩だじぇ!」
「テルー!ひさびさ!」
「あ、淡だ」
「反応薄っ!?」
部室に入ってきたのは清澄の最上級生でもあり、全国チャンピオンの――――照だ。
手には、何かが大量に入っている袋を持っている。
「これ、遅れたお詫び。みんなにはお菓子、優希にはタコスを買ってきた」
「流石すぎるじぇ!」
「……お菓子はテルが食べたかっただけじゃないの?」
「…………そんな事ない」
勿論皆で食べようという意識もあったものの、大半は自分が食べたいという欲望の方が強かったため否定するのに多少の間が開いた照であった。
「今日は優希以外にも三人の一年生が来てくれたんですよ」
「へえ、だから少し人数が多い気がした……?」
その一年生三人はどんな人物なんだろう、と照が目を向けた所一人の人物に集中してしまった。
長い付き合いの淡でも無い、見た目チャラそうである意味目が行きそうな京太郎でもない。
ただ一人の妹――――咲である。
「煌、今日って私が来る前に何回か打った?」
「えっと、東風を二回ですね」
それを聞いた照はお菓子の入った袋を床に置き、真っ先に対局の牌譜が入ったパソコンに目を向ける。
そして――――パソコンの前に立つ、だけ。
「煌、牌譜ってどうやって見るの」
「……ちょっと待っててください」
やっている事だけなら間抜けかもしれないが、照の声質が明らかに違う事を煌は感じたので急いでパソコンを操作する。
煌も、こんな照を見るのは初めてなのだ。
「これ、ですけど……」
その中で照は点数の覧だけに目を向けた。
そして、咲のスコアを確認する。二戦共に、プラマイ0だ。
その事を確認した照はパソコンから目を離し、咲に目を向け――――
「咲」
「お姉ちゃん」
「打とう」
「うん」
ずっと会話をしてこなかった、何年ぶりともいえる、会話にすらなっているのかわからないようなやり取り。
二人は既にやる気満々である。
「えっと、どうしましょう?照先輩と咲さんが入るとして、残り二人は……」
「じゃあ、俺抜けてもいいですか?せっかくチャンピオンの打つ所を見れるなら、参考にしたいですし」
「……キョータロー、テルのは参考とか、そういうレベルじゃないかも」
「……えっ?」
思ってもいなかった言葉が淡から飛んできたので、思わず驚いてしまった京太郎。
「私も一度抜けたいじぇ、少し休憩したいじょ……」
「……じゃあ、私と淡さんが入ることにします?」
「私は別にいいよー、煌先輩こそ……大丈夫?」
「……メンタルの強さだけが取り得なんで。淡さんこそ」
「んー?私は大丈夫、強いからね」
「羨ましいですね、その強さ」
いきなりのよくわからない言葉のやり取りに、意味を理解できなかった京太郎と優希は首をかしげる。
(キョータローとユーキは気づいてないかな、今のあの二人……異質)
(あそこに入っても大丈夫、と簡単に言える淡さんも、本当にすばらですね……)
(煌先輩の言葉、信じるよ。ぶっ倒れられても困るしねー)
淡と煌は、何となくわかっていた。
現在、照は今までの照とは違う。麻雀を打つ時には容赦無い打ち筋の照だが、それを超えるかのような、オーラのようなものが伝わっていた。
咲も咲で、先程までののらりくらり打っていた咲とは違う。何かの意気込みを感じるような、強いものが出ていた。
淡も煌もそんな二人に挟まれて打つ事になるので互いに心配しあい、先程のような会話になったというわけだ。
(……咲?)
だがここに、もう一人変化に気づいていた者がいた。京太郎だ。
照の普段を知らないためそっちには全く気がついていないが、普段から長い付き合いの咲の変化には気づく事が出来たのだ。
いつものようなおっとりとしていてどこか抜けている咲ではなく、あそこにいるのは京太郎の知らない咲だ。
(……頑張れ)
咲は今、ケンカをした姉の前で色々な物が頭の中で渦巻いているのだろうと京太郎は推測する。
そして今、京太郎が出来ることと言えば一つだけ。
(……頑張れ、咲)
この対局を乗り越え、咲と照の明るい未来に繋がっていく。
そう祈りながら、応援するだけだった。
今回のまとめ
淡と優希は似てる(気がする)
京太郎、飛んで死亡
咲、プラマイ0
照、やっぱり機械オンチ
シリアスな場面でも照はポンコツだった。
今回でいきなり照と対局すると思っていた方もいたかもしれませんが、次回からという事で。