乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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 シリアスっぽくなったけど多分この話だけ。
 あらすじ的な第0話


0:こんな感じの男子

 何事にも報いを……乃木の生き様、祖母と双子の姉がよく口にする言葉だ。腕を失い、次に失うのは命かという状況で僕は報いを受けたんだろうなと呑気に考えているのは、痛みと恐怖による現実逃避かのんびり屋とよく言われる僕の性格によるものか。

 

「青葉っ!青葉ぁ!」

 

 狂乱染みた姉の叫びを白い化物達の向こうから聴き、あの一瞬だけでも姉の無事を勝ち取った事に微かな安堵と「叫んでる暇が有るなら早く逃げてよ」と焦燥が入り交じる。

 

「そんなっ、青葉ちゃん!」

 

 人の悲鳴と化物の暴れる音が絶えない空間で幼馴染のひなちゃんの悲痛な声が耳に届く。普段は温厚で声を荒らげる事の少ない幼馴染がこれほどの声を出したのだ、きっと僕は酷い有り様なのだろう。

 

 まぁ、そうだろうなと思う。失った左腕の断面から流した血で畳に血溜まりを作り、更に人を容易く噛みちぎる化物に囲まれて逃げ道の無い有り様なのだから。

 

──化物を目の前に尻餅をつく姉に助けの手を伸ばすか否か。

 

 今になっては迷う事自体が有り得ない程に答えの解りきった選択肢。でも、あの瞬間の僕は恐怖に負けて選ぶことをほんの一瞬だけ躊躇してまった。

 

──故に報いを受けた。

 

 体の硬直を無理矢理振り払って姉の背後に駆け寄り、低い位置にある姉の襟首を掴み強引に投げ飛ばす。そして崩れた自分の体勢のまま噛み付いてくる化物を避ける為に腕を振った勢いで少しでも体の位置をずらす。姉は傍にあった祭壇に背中から倒れ込み、僕は避けきれなかった左腕を化物に噛まれ、そのまま振り回されて腕を引きちぎられ、余った勢いで化物に囲まれる位置に弾き飛ばされて無様に転がされる。

 

──報いを受けたんだ。姉を助けることを迷った報いを。

 

 血の溢れる左腕、前腕の中程から何もなくなった部分を無事な右手で強く握って止血の真似事を施す。

 化物の向こうにいる姉が眼を見開き蒼白させた顔で僕を見ている。そんな顔をさせてしまったのが左腕の痛みより少しだけ辛い。

 

「えーと、腕の切断って適切な止血じゃないと出血多量で30分位だっけ?」

 

 何がと言うまでもなくこのままであればの僕の余命だ。それより先に化物に殺されるか。

 姉と同じ居合道を学ぶ際に、事故の対処法として同時に学んだ応急処置法と対処しなければどうなるかが脳裏によぎり、ついでに思考の一部が口から零れるがこの状況でどうしようもない。

 

「若葉ちゃん、手を伸ばして!」

 

 ひなちゃんの叫びが再度耳を打つ、次々と人が命を落としていく中で幼馴染の身がいまだ無事であることを喜ぶべきかこの場から逃げ出していない事を嘆くべきか。

 

「やめろっ!化物めぇぇ!!」

 

 もっと早く姉に駆け寄る事ができれば、もっと僕の体が鍛えられていれば、もっと上手く姉を投げる事ができれば、僕に迷いが無ければ、この結果は少しだけ変わっていたのかもしれない。

 

 悲鳴と騒音を上回る姉の怒号を耳にしながら、開いた口で覆い被さるように寄ってくる化物を前に僕は──

 

──フワリと視界が切り替わる

 

 左腕の断面に姉が手を紅く染めながらシャツをきつく縛り付ける。それでも滅多に見ることの無い姉の涙と同じ量だけ紅い雫が断面を覆った布から滲み出して滴り落ちる。

 

「この!止まれっ、青葉が何をしたと言うんだ!何故こんな仕打ちを受けなければならない!」

 

 姉のクシャクシャに歪んだ顔と悪態に珍しい事は続くものだと、のたうち回りたくなる腕の痛みと背を丸めて踞りたくなる全身の悪寒から逃避するように考える。

 

「若葉ちゃん!あっちからまた怪物が!」

 

 幼馴染の声にどよめく周囲に姉は気に留める様子を見せず、その手に祭壇から持ち出した太刀を握る。白い鞘と柄が紅く汚れるのが見えた。

 

「くっ……討ち漏らしがいたのか。青葉、ここを絶対に動くなよ、すぐに戻る」

 

 乱雑に涙を拭った姉の頬に紅い化粧が走り、怒りと憎悪の眼光が迸る。そんな姉の珍しい姿は見たくはなかったと痛みから思考が逸れていく。

 隼の速さで駆け出す姉と入れ代わるように幼馴染が左腕に寄り添うように触れて追加で断面を縛り付ける。幼馴染が細く白い手を紅く汚す姿がどうしようもなく心を揺さぶる。

 

「大丈夫、きっと大丈夫ですから、青葉ちゃんも若葉ちゃんも無事に四国まで連れていきます」

 

 震える声で自分に言い聞かせるように大丈夫と何度も繰り返す幼馴染が紅い布の上から両手で断面を握り締める。その両手を合わせる姿は祈りを捧げる姿を連想させた。

 

「お嬢ちゃん、私達は次は何処に逃げればいいんだ」

 

「大橋を越えて四国へ行きます。そうすれば助かります」

 

 何人かの大人が僕と幼馴染を取り囲む。その表情は皆一様に不安と疲れが見てとれた。そうではない人達も上の空で煙草を燻らせる人や抱き締めあって震える人達、一塊に纏まって泣いてるクラスメイト達など常識外の事態に半ば混乱に近い様相だ。

 

「その男の子ほどじゃないが怪我人もいる、病院へ寄って行けねぇか?」

 

「人が多く集まっていた所にはあの白い怪物が沢山集まっているかもしれないので……」

 

「だがその様子じゃその男の子は四国なんて遠すぎて保たないぞ、それで良いってのかよ」

 

「おい!あんた、言い方ってもんが……」

 

「良いなんて事!ある訳無いじゃないですか!」

 

 幼馴染のほとんど初めて聞く怒鳴り声と力を増して握り締められた左腕に珍しい事はやっぱり続くんだなと痛みに集中してしまいそうな気を散らす。

 

「あの戦っていた女の子に抱えてもらって行けば良いんじゃないのかな?あれだけ動けるんだから四国まですぐだろう」

 

「それじゃあ誰が私達を守るってのよ!」

「私は反対だ!」

「一度助けたなら最後まで責任を持つべきだ!」

 

 幼馴染の怒鳴り声に静まり返る空気の中、「それじゃあ」と煙草を燻らせていたおじさんが投げ遣りな喋り方で提案するが、当然のように批難の声が巻き起こる。

 

「若葉ちゃんなら……青葉ちゃんを?……でも……」

 

 俊巡する、幼馴染。自分を含めたこの場全員の安全性と僕の命を天秤の両端に載せてしまったのだろう。僕にだって解る、その天秤をどちらに傾けても人の心には辛い選択になる。

 その二択を、幼馴染に選ばせたくない。

 

「ひなちゃん、大丈夫。迷う必要なんて無いんだ」

 

 僕の平常を装う言葉にもう一度静まり返る空気。そっと幼馴染から離れて震えそうになる脚を必死に抑え込み、煙草を燻らせるおじさんに歩み寄る。

 

「おじさん、その足元のカバンは防災カバンだよね?」

 

「あ、あぁ」

 

「ちょっと借りるね」

 

 咥え煙草のままポカンとするおじさんの返事を聞かずにカバンに手を入れてまさぐる。目当ての物はすぐに見つかった。

赤色のチューブ容器の蓋を右手と口で開け、中身を左腕の断面に紅く潤う布の上から振りかける。

 

「おじさん、火貸して」

 

「は?何を考えてるんだ。馬鹿な真似は……」

 

 拒否されるのは目に見えていた。だから僕は震え出した脚になけなしの力を込めて跳び上がり、おじさんが咥えている赤く灯された煙草に着火剤にまみれた左腕を押し当てた。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

 祖母から聞いた曾祖父の戦争での体験談の実践、肉の断面を火傷させての止血処置。単純な話だ。僕の出血のせいで幼馴染が重たすぎる二択を背負わなければいけないのなら出血を止めてしまえば良い。

 左腕に絡み付く激しい痛みと左半身に纏う灼熱にまだこれだけの元気が僕に有ったのかと思える叫びが喉から搾り出される。

 

──苦痛に波打つ視界が滲み、再び姉が白い化物を前に転倒している場面を繰り返す。

 

 姉を投げ飛ばし、腕を噛みちぎられ、血濡れで転がり、幼馴染が責め立てられ、腕を焼いて、痛みに絶叫する。

 何度も何度も繰り返し同じ場面を体験し、その度に姉と幼馴染の見たくない表情を心に刻まれて──

 

──扉の開く音に、眼を開いた。

 

 

「青葉、今日も来たぞ。……なんだ、また寝てたのか?そんなに昼寝ばかりしてるから夜に眠れないんだぞ」

 

「……勉強以外にやることがないと寝るしかないんだよ」

 

 反射的に言い訳を返す。それからようやく先程の光景が夢だったのだと思い至る。

 白い壁と白い床、備え付けのベッドや小さな戸棚まで白で統一された病室にどこか上機嫌さを感じさせる姉の声が通る。扉をくぐる姉の後ろにはいつもよりも微笑みの色が濃い気がする幼馴染の姿もあった。

 

「また窓もカーテンも締め切ってたんですね。今日はいい天気なんだから空気の入れ替え位しなくちゃ駄目ですよ」

 

 なにかと世話焼きな幼馴染が白いレースのカーテンと窓を手早く開く。窓の向こうに見える小さな雲混じりの青空にあの日の白い化物を連想し、僕の体が一瞬だけ強張って震えそうになるが、二人には気付かれないように気合いで封じ込める。存外なんとかなるものだ。

 ただでさえ入院するほどの大怪我で二人を心配させてしまっているのだ、空が怖いなどと気弱な言葉を吐いて二人の余計な心配事を増やしたくは無い。

 

「ほら、じっとしてて下さい。寝汗掻いてますよ」

 

 幼馴染がポケットから出した白いハンカチが額を優しく撫でる。いつも有無を言わさず世話を焼く幼馴染に僕は気恥ずかしくもいつも頭が上がらない。

 汗を拭われてる間も頭の中で繰り返されていた化物に襲われる映像を振り切るように少しだけ勢いを着けて上体を起こす。急に動いたせいか二の腕まで短くなった左腕の傷跡が突っ張るように痛む。

 

「それで、二人とも機嫌良さそうだけどどうしたの?」

 

「ふふん」

「ふふっ」

 

 ベッドの横に置いてある椅子に座る姉と窓の前に佇む幼馴染が顔を見合わせて笑う。

 ここしばらくは沈みがちな顔ばかりを二人にさせてしまっていた原因の多くが僕にあると自覚があるだけに、勿体つけるように笑う二人の笑顔がなんだか嬉しい。

 

「青葉の退院後の住まいが決まった」

 

「ほほう」

 

 あの一月前の化物が降ってきた日、頻発していた地震で切断された電線が散らした火花が火元になり半焼した我が家。そこに代わる住まいを姉が確保してくれたらしい。

 しかし、住む家が決まっただけでこんなにも機嫌良さそうに振る舞うだろうか?

 

「大社の人達を説得してな、私やひなたが今住んでいる寄宿舎に部屋を1つ貸して貰える事になったんだ」

 

「私も一緒に説得しました。青葉ちゃんは眼を離したら不安ですからね」

 

 なるほど、納得した。幼児っぽい扱いは不本意だけど納得した。

 そして、察した。行方知れずの両親と祖母の生存の可能性は絶望的なのだろう。帰る場所がなく、保護者の当ても無いが故のこの処置なのだ。

 二人が明るく振る舞うのはそれを感付かせないために?考え過ぎだろうか。

 

「学校も私達の使っている丸亀城の教室で一緒に授業を受けれるぞ!」

 

 胸を張って「どうだ」と言わんばかりに語る姉に不自然さは感じない。嘘とか隠し事が苦手な姉は言動に裏がある時は解りやすく不自然になるので本心で一緒に過ごせる事を喜んでくれているのだろう。それは僕にとっても嬉しい。

 

「……反応が薄いな。嫌だったか?」

 

 姉の様子を伺う事に気を取られ過ぎて上の空になっていたのか、自信に溢れた姿から一転してしおらしげに萎んでしまう。

 

「そんな事ないよ、少し驚いてただけ。若姉さんとひなちゃんと一緒なのは嬉しいよ」

 

「そうか!」

 

「よかったですね若葉ちゃん。青葉ちゃんがクラスメイト達と離れる事を悲しむんじゃないかって心配してましたもんね」

 

「あぁっ、それは内緒にしてくれと──」

 

 むしろ、安心してしまった。

 あの日、少なくないクラスメイトが僕の左腕と同じ運命を辿った。誰がどんな風に命を落としたまでは把握していなかったが、避難所だった神社から四国に帰るまでに一度も顔を見ていないクラスメイトは多い。

 空席だらけの教室に登校して、誰がいなくなってしまったのかを知ってしまうのが怖い。知ってしまうよりは姉と幼馴染と一緒に全く別の場所に行きたいと思う僕は薄情者なんだろう。

 

──この薄情の報い、きっといつか受けるのだろう。

 

「青葉ちゃん、傷が痛むの?」

 

 じゃれあっていた二人が揃って不安気に僕の顔を覗き込む。無意識に左腕の断面を掴んでいたらしい。

 

「少し突っ張っただけだよ。大丈夫」

 

「そんなに眉間に皺を寄せておいて大丈夫には見えないぞ」

 

「青葉ちゃんが痛いのとか辛いのを顔にだすのはあまり無いことですから」

 

 顔に思考の一部が出ていたらしい。無意識の仕草ってのはどうにも厄介だ。

 

「止血の為とはいえ腕を丸焦げにするまで焼いておいて大丈夫なんて言う奴の大丈夫なんて信用ならんからな。看護師さんを呼ぼう。」

 

「いやいや、ホントに大丈夫だから。ちょっとした違和感みたいなレベルだから。」

 

 ナースコールのボタンに執拗に伸びてくる姉の手を添えるような手刀で逸らし続ける。腕の本数的にかなり不利だが肘や体も盾に使い全力で抵抗する。

 

「ほらっ、こんなにっ、動ける、位には、だいじょーぶっ!」

 

「くっ、確かに、大丈夫、そうだが。負ける気は、無い!」

 

「ふふっ、二人とも楽しそう」

 

 騒がしくなった病室に看護師さんが雷を落とすまで攻防は続いた。

 

 

 ─────

 

 

「話を戻すか」

 

「話?」

 

「青葉ちゃんのお引越しよ」

 

 再び看護師さんの雷が落ちて来ないように声を落として話を再開する。

 

「次の休みに家から燃え残った青葉の私物を運んでしまおうと思ってな。何か優先して運んでおきたい物はあるか?探しておくぞ」

 

「大変じゃない?退院してから……」

 

 自分でやるよ。と言い掛けて片手では結局手伝って貰わないと荷物もろくに運べない事を思い出す。

 

「問題無い、大人の人が手伝ってくれる」

 

「そうなの?大社の人?」

 

「ああ、避難してくる時に青葉を背負って走ってくれたおじさんが今大社に勤めていてな。その人が手伝ってくれるんだ」

 

「あ~、あの火を貸してくれたおじさんだね」

 

 一時的に化物から逃れた先で止血の為に腕を焼こうとした僕に火と燃料を貸してくれたおじさんの顔を思い出す。人の良さそうな穏やかな顔のおじさんだ。腕に火を着けた時のギョッとした顔と化物を討ち倒して戻ってきた姉に顔面を殴り飛ばされた時の顔も同時に思い出してしまいつい笑いそうになる。

 結局痛みと流しすぎた血のせいで四国に戻るまでに体力のもたなかった僕を背負って移動し続けてくれたのもこのおじさんだ。

 

「若姉さん、おじさんと仲直りできたんだ」

 

「仲直りというか、完全に私が悪いからな。誠心誠意謝ったんだが逆に謝られた」

 

「……不思議だね」

 

「……不思議だ」

 

 完全に被害者なのに逆に謝ってしまうとは人が良いってのを通りすぎているのでは?米国なら2秒で訴訟されてるレベルのパンチだったのに。大人が背中から宙を舞う威力だ。

 

「で、何かあるか?」

 

「胴着と練習刀が燃え残ってるなら。他は特に無いかな」

 

「そうか……そうかぁ。よし、任せておけ!」

 

「……青葉ちゃん、居合、続けるの?」

 

 対照的な反応の二人。今日一番の笑顔と困惑の顔。

 

「大丈夫だよひなちゃん。居合ってのは身体の動かし方や精神の在り方を鍛練する武道なんだ。誰かと斬り合う訳でもないし片手でもやってみせるよ。片手での型だってあるんだしね」

 

「うむ、この大丈夫は信用できる大丈夫だな」

 

「……二人がそう言うなら大丈夫なのかしら?」

 

「うん、大丈夫さ。多分ね」

 

「後出しで多分をつけるな」

 

 姉の笑みに釣られてか憂いを拭うように幼馴染も微笑む。

 やっぱり、この二人は笑顔でいるのが一番だ。

 二人の笑顔に自然と僕の頬が緩むのを感じる。

 あの地獄を生き延びれて、今この笑顔を見れて良かったと強く思う。

 

 笑顔のまま他愛ない会話を続ける。丸亀城の事や勇者のクラスメイトの事、病院食の味気無さや夜の病院の落ち着かない雰囲気の事。話の流れで姉がふと気が付いたように話の継ぎ穂をつなげる。

 

「そう言えば勉強の方はどうなんだ?教科書読みながらドリルを解くだけじゃ限界があるんじゃないか?」

 

「解らない所をそのままにしてたら後から大変ですよ。どこが解らないとかありましたか?」

 

 ヤバい、不味い流れだ。と思っているうちに自然な動作で白い戸棚に手を伸ばして僕の教科書とドリルを取り出す幼馴染。

 入院しているとはいえ勉学を疎かにはできないだろうと姉の用意したそれは、表紙を見るならまるで新品のようだ。

 

「……青葉ちゃん。これは?」

 

 何枚かページを捲った幼馴染の瞳に冷気が宿り微笑みが抜ける。

 

「どうしたんだひなた?……3ページしかやってない……だと?」

 

 手元に視線を寄せた姉の眉が吊り上がる。

 

「勉強以外にやることが無いと言ったけど勉強するとは言ってない」

 

「そうですか。お手本のような三日坊主ですね」

 

「何事にも報いを。そうだろう?青葉」

 

 強がりで冗談を言ってみたけど、火に油を注いだだけだった。

 

 雷が2本、鋭いのと冷たいのが落ちてきた。

 

 

 ─────

 

 

 寄宿舎の門限まで居座った二人がいなくなった病室、二人を見送ってすぐに閉じた窓とカーテンから離れてベッドに腰を下ろす。

 

「勇者と巫女、か」

 

 神具を武器に化物を打ち倒す勇ましい者、勇者。

 神の御告げ、所謂神託を受け取り勇者を導く、巫女。

 あの日、姉は祭壇に祀られていた太刀の神具を手にして化物を殲滅して多くの人を救い、幼馴染は行き場を失った多くの人を神託をもって導いた。

 対して僕は戦う姉の助けになれず、動けないままに足を引っ張り。気丈に振る舞おうと恐怖を堪える幼馴染を僕の短慮で悲しませてしまった。

 

「何事にも報いを」

 

 軽はずみに命をなげうつ行動で腕を失い、僕を護るために足を止めさせてしまった姉に僕の命と誰かの命の取捨選択を迫り、救えたかもしれない命を取り零させてしまった。

 幼馴染に大勢の人を救うために少数を見捨てざるをえない局面に立たせ、何一つ非の無い幼馴染に自分を責めさせてしまった。

 あの状況では仕方無かったなどと思いたくはない。確かに護られてる時に無理に動けば出血を早めてそのまま死んでいたかもしれないし、腕の断面を焼かずに避難をしていれば四国に帰るまで命を保てなかったかもしれない。

 

「報い、かぁ」

 

 姉が駆け寄れば間に合ったかもしれない誰かが、命を落とすのを見てしまった時の悲痛な顔が眼に焼き付いている。

 幼馴染が流れ続ける僕の血に対して神託の道のりが遠すぎる事に気付いてしまった時の悲惨な顔と、燃える僕の腕を見ながら崩れ落ちて泣いていた姿が脳裏に焼き付いている。

 

「痛っ」

 

 無意識に治りかけの断面を掴んでいたらしい。肉の内側で蠢くような気持ちの悪い痛みに眉間の皺が寄る。この腕がはずみに命を賭けた報いならば、大切な二人にあんな顔をさせた報いはどのようなものか。

 いや、まずは僕が報いを受けるより先に二人には報われて欲しい。命を選ばせてしまった姉には選んだ僕の命を以て最大限の助けに。涙を流した幼馴染には悲しみを消して余りあるほどの笑顔を。

 

──でも、何をどうすればいいのか

 

 幸い離ればなれになるはずだった二人とはまだ一緒にいられるらしい。考える時間はまだ有るみたいだ。

 考えている間に先ずは自分自身を鍛え直そう。もとより頭が良くないのは自覚しているし、取り柄は居合が達者と言われるくらいだったんだ。二人に宣言した通り隻腕でもどうにかしてみよう。

 勇者とか神様とかスケールが大きいやらファンタジーやらでよく分からないけど、僕は僕が出来ることで姉を助けて幼馴染を笑顔にしよう。僕への報いはどうかその後に来てくれるように存在するとわかった神に祈っておこう。

 僕のこれからの事は定まった。なら先ずはやる事がある。

 

「明日までに半分なんて、つらい」

 

 3ページしかやってないほぼ新品のドリル帳、これを明日二人が見舞いに来るまでにやり進めなければまた雷が落ちてくる。

 

 






青葉くん
開幕物理的散華をやらかした命懸けシスコンボーイ。でもそこにいたのが幼馴染でも多分同じ事をしたのでただの命懸けボーイなのかもしれない。双子なので姉と似ている、姉が男に産まれて気の抜けてる顔をしてたら多分こうなるって顔をしている。
止血の為に全力根性焼きしたら見ていた人達にも精神ダメージ与えてしまった視覚的公害ボーイ。きっと阿鼻叫喚。
勉強苦手。居合が得意。姉が誉めてくれるので居合めっちゃ頑張ってた。やっぱりシスコンかもしれない。

若葉さん
弟の腕が奪われてぶちギレ。化物死すべき慈悲は無い。
目を離したら弟がミディアムレアで激おこ。犯人っぽいおじさんを殴る。躊躇は無い。でもおじさん巻き込まれただけ、ドンマイ。
弟が勉強しない。きちんと叱れるお姉さんです。
張り合う相手が身近にいたので居合はかなり凄い
原作にはいないユルい弟の影響で原作ほど勇者なメンタルじゃないかも。

ひなたちゃん
いつもニコニコ素敵な幼馴染。でも追い詰めると泣いちゃう。
色々やらかす男の子が幼馴染なので面倒見の良さが加速。

おじさん
タバコ辞めたらしい。
焼き肉が食べれなくなったらしい。
殴られたほっぺがめっちゃ腫れてた。
原因となった男の子を背負って走り続けたら勇者と巫女から多大な信頼を寄せられたらしいよ。やったね!
途中のあばら屋で見つけたリヤカーについでに妊婦とか他の力尽きた人達とか載っけて更に走ったら避難民全員からリスペクトされたよ。やったね!
結果的に信用に足る人物と判断されて人手不足な大社が丸亀城の巡回警備員兼庭師として雇ってくれた。やったね!
老け顔20代の独身
これからの登場予定は未定

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