乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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20:男臭い感じの距離、もしくは昂る話

「ぐにぐにぐ~に~」

 

 僕の相棒である無銘の数打ちを没収した格闘術の先生が代わりの得物を探しに行って早数分、僕は特にやる事も無しに木椅子に座って投げ出した手を鷲尾に好きにされるがまま篝火を見つめていた。

 火は、嫌いではない。庭師のおじさんはあの日僕が腕を焼いた事で火を忌避しているのではと思っていたらしいが、僕にとって火とは命をつないだある意味では生存の象徴だ。恐れよりも安堵を感じる程である。

 

 ちらりと、一瞬だけ満天の星空を見る。

 あの天災の夜空と同じ星空に、喉の奥に少しの恐怖が蠢いた。そう、少しだけの恐怖だ。

 これから始めるのは斬るか死ぬかの果たし合いでは無いと知って抜けた気、その弛んだ気で見上げた星空にこれっぽっちの恐怖しか感じないのは何故なのか、別に今の僕はテンションが高まっている訳でも無いし別の恐怖の源の存在を感知している訳でも無いのだ。……ここが大社で四国を、人を護る神樹様が近い距離に在るからだろうか?直接見た事も無い存在がちょっと近い距離に在るだけで恐怖が薄まるものなのだろうか。

 

「んー、わからないなぁ」

 

「解らないのは私もだよ」

 

 鷲尾の側に立っていた安芸の声、僕が木椅子に座ってから無言で僕の顔をじっと見ていたが何か気になる事でも有ったのか。

 

「ん~~?」

 

「この気の抜けた感じは夏にも見たね、さっきのガチ顔とは同じ顔の造りのはずなのにぜんぜん別人に見えるわ」

 

「僕はいつだって乃木さんちの青葉くんだよ?」

 

 唇をへの字にした不思議な笑顔で「やっぱり抜けてるねぇ」と言った後に安芸はつづける。

 

「さっきの真剣を抜いたアレ、ハッタリだったの?」

 

「んー?どーゆー事?」

 

「ほら、あれ」

 

 安芸が華奢な指を向けた先に、僕と同じように木椅子に座る少年の姿。周囲にスーツの一団が立ちそれぞれが何かを話し掛けている。「パフォーマンス」「盤外戦術」「動揺を誘う」等と小声で話し掛けるスーツ達の声が一部だけ耳にとどいた。

 

「乃木君のさっきのが既に作戦だったのかって」

 

 囲まれる少年は両膝にそれぞれ肘を立てて指を組み、それを眉間の低い位置に当てて真っ直ぐに篝火を睨んでいる。その眼光は抜刀する寸前の姉が深く集中している時の眼に少しだけ似ていた。

 

「邪魔しないであげればいいのに」

 

「おっと、話が飛んだね、なんの話?」

 

 少年は恐らくこの予定外の待ち時間に整えていた精神的な何かを狂わせない為に集中しているのだろうと、その予測を安芸に説明する。根拠の無い僕の直感だが、あながち外れてるという訳ではないだろう。

 

「ふーん、そう言う乃木君はあんな集中みたいなのしないの?これから試合するには見えない抜けっぷりだけど」

 

「僕の居合は日常の中にあるのさ、日常で深く集中なんてそうはしないでしょ?」

 

「うん?うーん……男の子の世界か、ちょっと難しいね」

 

 さっきのはちょっと気を張りすぎた例外である。刀を携えても常のまま自然に、僕はこんな場を整えられた試合に挑む身になってもまだまだ未熟なのだ。

 

「坊主、持ってきたぞ。どっちか選べ」

 

 掛けられた声に振り向けば面姿の格闘術の先生、手にはそれぞれ竹刀と木刀。まず竹刀を受け取り二度三度振って確かめる。

 

「んー……ふぐ」

 

 口で横に咥えて続けざまに木刀を受け取ってまた二度三度振って確かめる。問題無し。

 

「おーへー、ほふはひはひ」

 

 オーケー、問題なし。いつでもヤれる。

 

「えっ?二本?」

「にーちゃんなんだか間抜けな格好だな」

「やるかもとは思ったがマジでやるのかよ」

 

 先ほどの立会人は『禁じ手無しの一本勝負』と言った、これからやる事に文句を言われる筋合いは無い。

 

「り、両者前へ」

 

 再び、少年と十歩の距離で対峙する。

 

「うん、君はやっぱりそういう感じか。もう驚かないよ」

 

「禁じ手無しの一本勝負にごさいます。両者構え」

 

 僕も少年も先ほどと同じ構え、違うのは僕の口に誰かの手汗でちょっとしょっぱい竹刀が咥えられてるたけだ。

 さぁ、始めよう。

 

「始めっ!」

 

 翔ぶように駆け出してきた少年、まずは変形脇構えからそのまま振りかぶって木刀を投げつける。激しく縦回転する木刀が少年に向かって飛んでいく。

 

「解りやす過ぎる!」

 

 足を止めずに容易く回避する少年。

 そうだろう、隻腕の僕が二本も得物を見せたら片方は投げると簡単に予測できるだろうと僕も思っていた。だが、これは?

 

「なっ!?」

 

 僕も駆け寄りながら竹刀を投擲、横回転する竹刀を少年がその場で木刀を振って打ち弾く。足を、止めたね?

 駆け寄りながら、また投擲。投げたのはいつも懐に有る僕の最強、鉄板仕込みのスマホ。素早い回転で少年の股間に吸い込まれたスマホに、少年の動きが完全に止まって顔が歪む。

 

「ふぐっ」

 

 ほんの少しだけ漏れた苦悶の声と少しだけくの字に曲がる少年の体勢、立会人から未だ一本の宣言が出ないので駆け寄った勢いで遠慮なく鳩尾を蹴り抜く。

 

「うっ」

 

 背中から倒れる少年、受け身をとった様子は見えないが立会人からはやはり一本の宣言は無い。どこまでやらせるつもりなのだろうか?

 左袖から鞘ごと小刀を抜きつつ仰向けに倒れた小年に股がる。ここまでされてもその手から離されてない木刀を警戒して腕ごと足で挟んで締め付けた。

 

「どこまでやれば、一本なのさ」

 

 眼を白黒させる少年の首に鞘入りの小刀を添えても、誰もが何も言わなかった。僕の問いに帰って来た音は篝火の弾ける音だけだった。

 

「……」

 

 帰らぬ声に嘆息しつつ小刀を鞘から抜いた。

 

「参った、降参」

 

 ようやく帰ってきたのは、少年の降伏宣言だった。

 わりと呆気なく、僕は勝利した。

 

 

 ─────

 

 

 スーツ曰く、反則だろう。

 面神官返す、禁じ手無しだろう。

 再度のスーツ、やり直せ。

 面神官再度返す、はよ帰れ、約定通り丸亀城の事に二度と口出すな。

 鷲尾曰く、ふぐっ!だって、あははは!

 

 体が冷えてきた、もう帰りたい。

 僕は大人達が言い争うのを見ながら木椅子を篝火に寄せて座り、放り出した腕を大はしゃぎの鷲尾に纏わり憑かれていた。

 

「鷲尾ちゃん、火の近くで動き回ると危ないよ」

「そっか、じゃあグニグニする」

 

「ねぇ乃木君、剣術試合ってみんな今みたいな感じなの?」

 

 安芸の問に僕は答える術は無い。居合道にも試合はあるがそれは直接打ち合うモノではなく修めた技を競い合う魅せ合いであるし、そもそも僕の教わった流派はそういった試合にすらほとんど参加しないで型と据物斬りで技の研磨を重ね続ける流派だったのだ。僕は今の今まで試合なんてやった事なんて無く、誰かと打ち合ったのはそれこそ昨年の刃物男が唯一だ。僕は試合のルールすら知らないのである。そう安芸に言ってから更につづける。

 

「そもそも禁じ手無しなら試合として成り立つモノなのかな?」

 

 ルール無しで試合するなら僕は砂とか石とか電動のマシンガンを持ち込んで滅多撃ちにする、他の人も多分そうする。

 

「そっか、ルール無しなら飛び道具だってでる……いや、でるの?」

 

 ともかく勝ちは勝ち、僕は丸亀城に残れるのである。

 

「いい加減にして下さい!」

 

 突如響く少年の怒気の声、言い争っていた大人達の声が静まりかえる。僕の手のひらをグニグニと揉んでいた鷲尾さえも停止して声の元に視線を寄せた。

 

「僕は自らの口で敗けを認めたんです!これ以上はただ恥を晒すだけではないですか!」

 

「おっ、イケメンは潔いね」

「んー、あれが意識高い系ってやつなのかな?」

 

 再戦を望むのでもなく敗北を嘆くのでもなく敗けを敗けと認めろとスーツの一団に詰め寄る少年に、しつこく面神官達に食い付いていたスーツ達も流石にたじろいた。自分達の主張を通す為の剣士が味方ではなくなったのだ、そうもなるだろう。

 

「そもそもさっきの試合では僕は三度は死んでいました!死人に剣を振らせると言うんですか!」

 

「ん、なんか変な事言い始めたね」

「……反応しにくいわ、色んな意味で」

 

 当てられた投擲具が刃物ならばそれで一度、蹴られたのが鳩尾ではなく前傾して少し下がっていた頭部なら首をやられて二度、もしくはその時点で隠していた小刀を使われていても二度、そして最後の首に添えられた小刀で三度らしい。

 意識高い系はたかだか試合で命をどーのこーのと考えるらしい。少年は剣に対して本気過ぎるのかただの面倒くさいやつなのか、僕には判断がつかない。

 そう言われてスーツの一団もようやく大人しくなった。あれで納得するのか、大人って解らないなぁ。

 

「すまないね、終わった試合にケチをつけられて嫌な思いをしただろう?」

 

「んー?」

 

 黙りこんだスーツ達から離れて僕の元まで来た少年が頭を下げる。

 凄いなコイツ、投擲で金的狙ってきた相手に謝罪して頭下げるのか。僕だったら絶対許さないで根に持つのに……頭ネジがやっぱりぶっ飛んでるのかな?

 

「僕はもう勝ったからどうでもいいよ?寒いからもう帰りたい」

 

「ドライだねー」

 

「君はやっぱりそんな感じなのかい……」

 

 少年が乾いた笑みを浮かべる。笑みの後に口を少し開いたり閉じたりして何かを俊巡する様子を見せた後に「あんな見栄切った後でこんなのは恥ずべきなんだろうけど」と前置きして言葉を繋げた。

 

「あの身のこなしなら君は純粋に剣だけでも相当だろう?今の試合は勿論僕の敗北のままでこれから別試合として剣と剣の勝負をして貰えないかな?」

 

 少年の瞳に、挑戦の炎。その炎の輝きに、僕は丹田から沸き立つ熱い何かを感じた。こんなのは、初めてだ。

 

「いいよ」

「ありがとう」

 

 熱い何かの正体を考える前に、僕は無意識で即答してしまっていた。

 

「男の子のノリかな?」

「にーちゃん達、もう一回やるのか?」

 

 首を傾げる安芸と鷲尾をかがり火の側に置き去りに、僕らは再び明るい夜の庭で対峙する。僕の右手に木刀で左袖にも小さな木刀、構えはやはり変形脇構え。対する少年は三度目の正眼。

 

「はじめっ!」

 

 ざわめく大人達を無視して、鷲尾が楽し気に合図を宣した。

 両者、駆け寄る。

 

「オオォォォッ!」

 

 少年の咆哮と共に振り下ろされた袈裟に木刀を沿わせつつ足を地に長く擦らせて回避、ガリッと鳴らされた木刀から伝わる衝撃は生涯初に感じる試し合いの感触。

 

「ふっ!」

 

 伸びた足を戻す勢いで木刀を振り下ろして無防備になった少年の肩を狙う横一文字。少年が袈裟で踏みしめた足をそのまま更に強く踏んで無理矢理戻した木刀が僕の木刀に合わされた。

 

「オォォァァ!」

「……ふ」

 

 合わされた木刀が力任せに弾かれる。手に残る感触は未だかつて無かった純粋な競い合いの衝撃、衝撃を流すために木刀と共に後ろへ跳ね下がる。

 

「退いたな!」

「ふ……ふ」

 

 当たり前だが、力では絶対に勝てない。真っ向から叩き合う刀の間合いは完全に少年に掌握されている。

 僕が跳ねた間合いを一足で詰めた少年の、前進する勢いを乗せた強力な縦一閃。真剣ではなくてもこんなモノを頭に当てられたら死んでしまいそうだ、勘弁して欲しい。

 

「ふ」

 

 木刀を背負うように背中に回して軽く前傾、できた傾斜で一閃を受け、全身で踏ん張り乱暴な音を鳴らして滑る木刀から逃れる。背中の全てで一閃の強力さを感じとり、肝か冷えて縮み上がった。

 流し切った直後に木刀を手離し、前へ。

 

「ダラァァッ!」

「ふふ」

 

 跳ね上がる動きで帰ってきた木刀を更に前進して少年の脇を通り抜けて回避、一歩進んだ足をそのまま軸足に半回転、同時に左袖から小木刀を抜く。

 

「ふは」

 

 回転の勢いのまま振り向きかけの少年の胸を狙う突き。

 

「ぐっ」

「はは」

 

 苦し気な声と共に無理矢理な体勢で横飛びされた少年に、僕の突きは触れなかった。体勢の整いきらない少年に全速力で接近。刀の間合いは少年のモノなら、抱き締め合うような小刀の間合いは僕の間合い。もう、逃がさない。

 

「オオォォォアアァァァ!!」

「ははっ」

 

 互いに手を回せば抱擁し合える距離を少年が手首を回して木刀を振って必死に広げようともがく。僕はその力の乗せれない剣閃のことごとくを小木刀で受けて流し、受けて滑らせ、受けずに躱す。

 少年のもがきに僕も攻めきれずに空気の哭く音だけが幾重も繰り返される。不意の衝撃が腹に響いた。

 

「あっ……」

「ふはっ」

 

 互いの踏み込みが重なり、少年の膝が僕の腹に当たったらしい。その事故のような一撃に小年の顔が悲しげに歪んで一歩二歩と後ずさる。

 

「すまな──」

「構わない!」

 

 中断なんてさせない、再度構える。

 

「続けよう!」

 

 この沸き上がるヤル気はなんなのだろうか、こんなのは初めてだ。

 

「でも!」

 

「良いんだ!構えて!」

 

 少年の困惑は一瞬だった、瞬きの合間に燃え上がった挑戦の瞳。堪らなく、それが嬉しい。

 もう一度僕の間合いに閉じ込める為に接近するも少年の間合いに欠片でも入れば一撃で意識を奪われるであろう剣閃が振るわれる。どう攻略すべきか。

 前進、袈裟、横飛びの回避、追って横振り、膝と背を大きく逸らして回避、膝を狙われた掬い上げる斜め一閃、そのまま後ろ回転で跳ねて逃げる。体勢を立て直す中で少年が突きの溜めを見せながら前進してくるのが見えた。

 

「ふははっ」

 

 僕は今、楽しい。

 

「でやぁっ!」

 

 上半身を横に大きく滑らせて清々しいほどに真っ直ぐ胸の真ん中を狙われた突きを躱す。靡いた左袖が木刀で貫かれた。

 

──真剣じゃなくても死んじゃうんじゃない?

 

 相当着古した僕の胴衣の脆い部分に当たったのか、この強い少年が加減を忘れるほどに夢中になっているのかはどうでも良い、隙を見つけた。

 少年の体勢が戻される前に右手の小木刀を額に向かって投げる。

 

「ぬぅあぁっ!」

 

「ははっ!凄いっ!」

 

 自分の動きで骨が折れるのではと思える程に激しく首を逸らした少年に僕の投げた木刀は当たらなかった。完全に無手、でも、まだ辞めない。

 

「悪あがきに、付き合ってもらうよ!」

 

「……君って奴は!」

 

 少年の木刀を、貫いている僕の左袖ごと掴む。

 

「コーー……フーー……」

 

 意識を全て少年へ、全神経で少年の全てに集中、全霊を以て少年の些細な動きまで観察。まだ、この試合を終わらせない。

 

「なにっ!?」

 

 少年の木刀を引く動きに合わせて右手を前に、追従して僕自身も動く。続けざまな押す動きにも同様に合わせる。

 

「はっは!どう?」

 

「豆腐を斬るより抵抗無し、真剣でも指の一本どころか皮膚さえ斬れてないだろうね……屈辱だよ!!」

 

「あはははは!できるとは思わなかったけど、できちゃった!」

 

「チクショウ!君は妖怪の類いか!」

 

 端正な顔を激しく怒りに歪めた少年が縦に横に前や後ろへと木刀を動かし、僕がそれに追従する。

 

「これなら!どうだ!!」

 

 腰を深く落とし、全身が膨れ上がったように見えるほどに力を籠める少年。木刀が、天に向かって振り上げられた。

 

「は!は!は!はっ!」

 

 木刀に追従して僕も飛ぶ、少年の膝を蹴り上がって飛んだが木刀の勢いに負けて手から木刀が滑り抜けて袖を引き千切って行った。

 

──手のひらの中から先、無くなったな。

 

 僕の頭の上に少年の頭が在る天地逆さまの視界で考えるのは、コレが真剣を使わない試合で良かったという安堵。これ以降、この試合で僕は手を使えない。使う気になれない。

 

 見上げた僕と、見上げた少年の眼が合わされた。

 

「貰ったぁぁぁあ!!」

 

 木刀を引き寄せて構えようとする少年、重力に従い落ちる僕。早かったのは、僕だった。

 

「あむ」

「うひぃ!」

 

 少年を押し潰すように体当たりする事になった僕は、接触の瞬間に少年の首に軽く噛みついてやったのだ。

 

「ぐぇっ」

「むぐっ」

 

 同時に地面に倒れて重なる僕と少年、純粋に剣と剣の勝負かは疑問が残るが、この試合の勝者も僕だった。

 

「どーんな……もんだい!」

 

「……完敗だよ。君は凄いなぁ」

 

 二人で大声で笑い合い、別れ際に強く握手を交わした。大人達の事情とか全部置き去りにして、久しぶりに友達が増えた、そんな冬の終わる夜。

 

 

 ─────

 

 

 目の前の現実が信じられない。

 

「嘘でしょ……鷲尾先生」

 

「残念だが、嘘ではない」

 

 こんなのは、あんまりだ。

 

「青葉……お前……」

「残念です、青葉ちゃん」

 

 姉と幼馴染も暗い顔で僕を見詰める。姉の固く握られた拳が小さく震えているのが見えた。

 

「青葉くん、あんなに頑張ったのに」

「先生!どうにかならないのか!」

 

 友奈の深く沈んだ声と球子の抗弁。鷲尾先生にすがりつくように詰め寄る球子に、鷲尾先生は無言で首を左右に振るだけだった。

 

「もう一度……チャンスは無いんですか?」

「…………」

 

 杏のすがるような確認の声と千景の沈んだ視線にも、鷲尾先生は無言で首を左右に振った。

 

「もっと違う結果なら、もう一度チャンスはあっただろう。だがしかし、乃木君の手の答案用紙を見てみるがいい」

 

 震える僕の手に握られた答案用紙を皆が覗き込み、揃って溜息を吐いた。

 

「算数はよく頑張った。だが理科と社会、追試の上でも赤点だ。それも、合格ラインから遥か遠い点数でだ」

 

 去年の年度末のテスト同様に赤点だった算数と理科社会。算数は今年もお願いした千景先生の教えにより赤点ラインを遥かに上回る事ができたが、理科と社会の二教科、これが算数に時間を取られ過ぎたが故に勉強不十分なまま追試の日を迎えてしまい赤点を拵えてしまったのだ。

 大社での試合の結果、丸亀城に残れる事になった僕はこの勇者教室で進級する。その学年が一つ上がる合間にある春休みを補習で過ごすか否かの追試試験に僕は落ちてしまったのだ。

 

「……なんて、こった」

 

 春休みの日中を教室で勉強しながら過ごす、それはつまり桜のシーズンを勉強を強制される牢獄の中で過ごすという事である。

 花見が、できない。

 

「なんてこったぁ!」

 

「勉学を怠った報いだ、しっかり勉強するんだぞ」

「花見はお預けですね」

 

 突き放す姉と幼馴染の声に目頭がツンと熱くなる。

 

「青葉、ガチ泣き寸前じゃねーか」

「そんなに花見がしたかったんだね」

 

 泣きたくもなる、去年は白い独房で過ごすという羽目になったから合わせて二年間花見をしていないのだ。

 

「男の子の涙ってこんな理由で見れるんだね」

 

 僕はわりと簡単に泣く、涙に文学的ロマンチックなんて求めないで欲しい。

 

「心底……残念だわ」

 

「千景ちゃん、せっかく算数教えてくれたのに、ごめんね」

 

「花見は……またの機会ね」

 

 とても残念そうな千景の顔に胸が激しくに痛んだが、丸亀城勇者教室は誰一人欠ける事無く進級する。

 心が枯れそうな春の始まり、僕は中学生になる。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
第一試合、勝因は飛び道具、こんな奴に何でも有りとか言っちゃう大人達が悪い。鉄砲伝来で飛び道具が強くなったから戦が変わったって鷲尾先生が言ってた!懐の最強は防具ではなくて飛び道具だった。第二試合、多分純粋な実力勝負。この沸き上がる気持ちはなんだ!笑いながら木刀ブンブン振り回しちゃう、楽しい!闘争に目覚める青葉くん、初めての相手はイケメンだった。え?汚っさん?ノーカウントやろあれは。無事丸亀城で進級できました!相変わらず勉強苦手。
産まれる時代か性別を間違えた。

安芸さん
男の子の世界にちょっと着いて行けなかった。イケメン潔いやんと思ったらなんか変な事言い始めて戸惑っちゃう。ぽやぽや→ガチ→抜け→燃え→青春な青葉くんの推移を目撃、実は姉以外で初めての青葉くんのガンギマリ顔を見た原作キャラ。

鷲尾ちゃん
にーちゃん強ぇ!イケメンがふぐっ!って言ってた、指差して笑う天然の煽り屋。ハシャギ過ぎて冬の寒さをはね除けた。

イケメン小年
気合いがうるさい。第一試合、敗因は文化の違い。カルチャーショックにより多大な影響を受けた。三度、某は死に申した。真面目にやっても強そうなアイツにリベンジ。速さを備えた剛剣の使い手、実力は青葉くんに並んでいた。ほぼ零距離を纏わり憑かれたり動きを合わされまくって戦慄、刃を握られて剣士の誇りを傷つけられた屈辱に激怒、合わされた体捌きに+羞恥。この妖怪め!終わってみれば負けたのに清々しい、友情!
産まれる時代か性別を間違えた。

面先生
やると思った。勝ったからもうどうでもいいや、はよ帰れ。

大社
弟君の活躍にガッツポーズ、根拠の無かった信仰が現実に。加速する信仰。飛び道具を使った時に面集団の中から「ほっほ」と聞こえた、活用してるぜ!第二試合の青葉くんの動きには流石に引いた。天狗かな?

政府
最初から最後までドン引き。飛び道具って……剣術試合に飛び道具って……駄目なら駄目だと最初に言いましょう。なにあれ妖怪?

立会人
ドン引き過ぎて止めるタイミングを見うしなう、しっかりしてほしい。

───

のわゆ世界2016年冬の金的三部作、完!

もうすぐ突入するのわゆ原作時間軸に備えて戦闘描写の練習をしてみましたが良く考えたら人対人の戦闘描写で勇者対バーテックスの戦闘描写の練習になるのか、濡れ犬には解りません。
もっとスピード感を出すにはどうすれば良いんでしょうかね?

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