乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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22:迫る感じの危機、もしくはタオルの話

 上へ下にと動く僕に合わせてギシッ、ギシッっと寄宿舎の僕の部屋に床鳴りの音が響く。何度も反復した上下運動に比例して熱くなった体に汗が滲んで呼吸が荒く乱れてくる。

 

「……ハァ……フゥ」

 

「青葉ちゃん……凄い……」

 

 僕の上にその軽い体を載せた幼馴染の感嘆の声、その声に限界が近いと感じていた肉体に再び気力がみなぎり浅い反復運動になりかけていた動きが深い動きに回復する。

 深く下へ、そしてゆっくりと元の位置へ。

 

「……ふっ……ふんっ」

 

 僕の動きに合わせて幼馴染の軽い体がゆらゆらと動くのを感じながらも繰り返す。

 

「しかし青葉のコレは凄いな、こんなにも太くて硬い。いつの間にこんなになっていたんだ?」

 

 横で見ていた姉が僕の脈動するモノに指を這い滑らせる。同年代の平均よりも明らかに太くて硬いコレは僕の数少ない男らしさを示す自慢のモノだ。

 

「くすぐったいよ、若姉さん」

 

「おっとすまない、邪魔してしまったな」

 

 もう一度深く下へ、そしてまたゆっくりと元の位置へ。

 幼馴染の声で気力は奮い立ったものの肉体的な限界はやはりどうしようも無いみたいだ、今の動きで自慢のモノがビクビクと痙攣し始めた。

 

「あっ……やばっ、若姉さん、押さえて」

 

「任せろ」

 

 姉が僕の上にいた幼馴染を押さえる、そして直後に僕 の自慢のモノが半ばからガクンと折れて崩れ落ちた。

 

「あたたたた……ちょっと攣ってる」

 

「大丈夫ですか青葉ちゃん?」

 

 怪我をしないように姉に押さえられてその身を確保されていた幼馴染が僕の上から体をどかして頭上から掛けてくる。その声は先程の感嘆の声とは違い少しだけ心配気だ。

 

「大丈夫だいじょーぶ、少し休めば治るよ」

 

「そうですか」

 

「ふむ、確かに痙攣しているな」

 

 姉が僕の自慢のモノを伸ばして手のひらや指を優しく動かして揉みほぐす。じわじわと緊張が伸ばされて心地よさを感じる。

 

「んで、何回だった?」

 

「……すまん、驚き過ぎて途中から数えてなかった」

 

「私もです。ごめんなさい青葉ちゃん」

 

「え~」

 

 幼馴染を背中に載せて隻腕の僕が何回腕立て伏せを出来るかの挑戦だったのにカウントを頼んでいた二人はうっかりしてしまったらしい、だがまぁ回数は解らないがそれなりの数をこなす事ができたのでそれなりに達成感は有った。

 事の発端としては暇を持て余した姉と幼馴染が連れ立って僕の部屋にお茶を飲みに来たところ鍛練を終えて着替えている最中の僕に遭遇、半裸の僕に幼馴染がちょっと赤面したり姉が『見事な肉だ』なんてセクハラ発言したりと紆余曲折を経てから三人でテレビを見ながらお茶を啜っていたのだが、テレビ番組で筋肉自慢の人が背中に恋人を載せて腕立て伏せをする企画を見た姉が『青葉のあの肉なら同じ事をできるんじゃないか?』と言ったのが始まりだ。

 僕に恋人はいないので幼馴染に代わりに乗って貰ったのだが軽すぎて少し難易度が低かったかもしれない。

 

「それにしても見ない間に随分と腕が太くなったな」

 

「普段はずっと長袖ですものね」

 

「成長期だからね、毎日鉄の棒振ってればこうなるさ」

 

 腕を振って腕捲りしていた袖を戻す、それから気付いたのだが少し汗臭い。鍛練の後に汗を流したのだがまた汗をかいてしまったからだろう。

 

「ちょっと汗流してくるよ」

 

「そうか、背中を流してやろう」

 

「いや、いーよ」

 

 腕を自分の背中に回してクネクネと動かして届かない所など無いとアピール、僕の腕の筋肉は同年代の平均より硬くて太いが関節の動きを妨げない程度に収まっているのだ。

 

「相変わらず動きが別の生き物のようだな」

 

 浴室に向かう僕に呆れた笑い声の姉。この柔軟さがかつてあの少年と試合した時に最後の悪あがきから勝利を手繰り寄せた秘訣なのである。

 手早く汗を流して脱衣室に戻れば脱ぎ散らかした僕の服は片付けられていた、洗濯機の動く音が聞こえるので姉か幼馴染が回収して貯まっていた洗濯物と一緒に洗濯してくれたのだろう。こういった気遣いは有難いなぁと思いつつもふと気付く、いつもの癖で着替えを用意してなかった。僕は基本的に風呂上がりは全裸でうろうろしているのである。

 脱衣室でタオル一枚の僕、パンツの入ったタンスまで辿り着くにはリビングでテレビを見ながらお茶を啜っている二人を突破しなければならない。ここから姉に「着替えを取って」と言えば姉はパンツを鷲掴みにして持って来るだろうがそれはなるべく避けたい、主に羞恥心の関係だ。

 

「……よし」

 

 姉と幼馴染とはいえ異性がいる空間をタオル一枚で突破するのはちょっと勇気が必要だが覚悟は決まった、今の僕なら行ける気がする。

 抜き足と差し足を駆使して足音を殺してリビングをそっと覗く、テレビを見ている二人の後頭部が見えた。幸運な事に見ている番組は芸人や来場者の笑い声を垂れ流すバラエティ番組のようでその大きめの音が僕の気配を消すのに有効だろう。

 

『熟練の職人技で打たれるうどんがスタジオに──』

 

「このおじさん、行きつけのうどん屋さんのおじさんじゃないか」

「テレビに出演する程の方だったんですね」

 

 更に姉と幼馴染はテレビに見知った顔の人が出演しているのに夢中なようだ。ここに駄目押しでボール隊員にタイミングを見計らって窓に小石でも当てて貰えればやり易いのだが贅沢は言えない。

 

「おじさん……また頬に赤い手形をつけていますね」

「また女将さんと喧嘩したんだな、生放送なのによくやるものだ」

 

 僕もテレビの内容が気になるが優勢すべきはパンツなのである。抜かりの無い抜き足差し足を継続して見知った間抜け面を笑っている二人の後ろを慎重に進む。

 

『実食はCMの後!』

 

 マジかよ、このタイミングか。

 

「コマーシャルの内にお茶を煎れ直しますね」

「ありがとうひなた、頼むよ」

 

 あああぁっ!やっぱりこうなった!

 幼馴染が立ち上がりテーブルの上のお盆に湯飲みを載せて持ち上げる、僕はその間せめてもの抵抗として腰のタオルをしっかりと締め直す事しかできなかった。ボール隊員の不在が悔やまれる。

 そのまま振り返る幼馴染、僕と眼が合った。

 

「きゃっ!青葉ちゃんいつの間に!」

 

 驚いた弾みでそのまま後ずさる幼馴染、そうなればすぐ後ろの足元に有るテーブルに躓くのは当然で後ろ向きに倒れそうになってしまう。

 

「ひなたっ!」

「危ないひなちゃん!」

 

 立ち上がって支えようとする姉より僕の伸ばした腕の方が早かった、幼馴染の腕を掴んで引き寄せる。驚きに驚きを重ねて幼馴染の手からお盆が落ちるが構わずに抱き止めた。

 そして、腰の締め直したタオルが動きを阻害したせいで抱き止めた勢いを御しきれずに僕は幼馴染を抱えたまま後ろに倒れた。

 

「二人共大丈夫か!?」

「ん」

「…………」

 

 受け身も取れずに倒れてしまったがわりと大丈夫だった。落とした湯飲みも割れてはいない様子だし僕をクッション代わりにできた幼馴染も大丈夫だろう。

 

「ひなちゃん、怪我は無い?大丈夫?」

 

「……はい」

 

 言葉短い返事の幼馴染、覗いた顔は赤い。……流石に幼馴染でも半裸の異性に抱き寄せられたら恥ずかしかったのだろう、悪い事をしてしまった。

 幼馴染ごと身体を起こして座る。

 

「おーい、青葉、いるか?ちょっと聞きたい事が有るんだ」

 

 玄関から球子の声、物の少ない僕の部屋は半ば溜まり場のみたいな扱いなので勝手知ったる仲の球子や友奈は日中の間はこのように自然に部屋に上がってくるのだ。

 トットッと軽い足音を鳴らしてリビングに顔を出した球子の時間が停止し、早送りで陽の沈む映像を見ているかのように球子の顔が紅潮していく。

 何故赤く?と考えるとすぐに答えが解った。半裸の僕、僕の上に座る赤い顔の幼馴染、球子のこの眼を回している赤い顔、まず間違いなく球子はハレンチな勘違いをしているのだろう。ボール隊員、君が必要なタイミングは今じゃ無かった。

 

「……おっ……おま、お前!ななな何してっ」

 

 いまだに顔を赤くして動きの無い幼馴染の下から身体を抜き、覚束無い足どりで後ずさる球子を追い掛けて腕を掴む。

 

「ひゃっ!離せっ!」

 

「落ち着いてタマっち。絶対タマっちは勘違いしてる」

 

 僕は今までにあった似たような状況で学習したのだ、こういう時はまず落ち着いて貰うのが一番なのである。

 掴まれた腕を振り回しながら涙目を泳がせる球子に顔を近付けて眼を合わせる。

 

「ひいぃ!近いっ、顔が近いって!」

 

「大丈夫だよタマっち、ほら、僕の眼を見て」

 

「ちかいってぇ…………」

 

 振り回していた腕から力が抜けて肩を縮こまらせた球子が消え入るような声を発しながら大人しくなる。後は説明して解って貰えば解決だ。

 

「なんなんだこの状況」

 

 背後から聞こえる姉の声をそのままにどう説明したものかと考える。今までの僕の言葉は解釈の幅が広くて誤解を招く事が多かったらしいのでシンプルに状況を説明するのが良いのだろう。僕だって成長してるのだ、完璧な説明をしてみせよう。

 

「タマっち」

 

「……なんだよぅ」

 

 シンプルに、説明!

 

「僕はね」

 

「…………」

 

「ひなちゃんを乗せた汗を流したからパンツが欲しかったんだ」

 

 完璧だ!これ以上簡潔で解り安い説明は無いはず。

 

「…………」

 

 くしゃりと歪んだ球子の顔、翡翠の瞳から涙が零れる。何故だ。

 

「……タマの、パンツも……剥ぎ取るってのか」

 

「んんん?」

 

「いや青葉よ、お前今のはわざとじゃないのか?」

 

「……やめて、くれよぅ……青葉、友達だろぅ?」

 

 しゃっくりを上げて泣き始める球子、ホントに何故こうなってしまったんだ。いつも元気な笑顔のはずの球子の泣き顔は、辛い。

 

「タ、タマっち!多分誤解に勘違いを重ねてとんでもない思い違いをしてるよ!」

 

「青葉くーん!この前借りた漫画の続きあるかな?」

 

 玄関から再び声、今度は友奈が上がってきたようだ。

 トンットンッと足音を鳴らしていた友奈が僕達の惨状を目の当たりにして停止し、真顔のまま拳を構えた。

 友奈の赤くなった真顔の視線は、僕のタオル一丁の腰元へ。

 

「あああああっ!待って!待って友奈ちゃん!違うんだ、必殺技の必要な場面じゃないんだ!!」

 

「……手、はなして、くれよぉ」

 

「タマちゃん泣いてるけど、酷い事したんじゃないの?」

 

「ふむ、いよいよ収拾がつかないな」

 

「……青葉ちゃん……そろそろパンツを履いた方が良いと思います」

 

 誰か、助けて。

 

 

 ─────

 

 

 結局事態が収拾したのは陽の沈み始めた夕方頃、友奈は「なんだぁ、また青葉くんのいつものだったんだね」と言って本棚に貸してた漫画をしまって本棚をあさり始め、球子は幼馴染に宥められた後に顔を赤くしたまま温めのお茶を飲んで少しずつ心を落ち着かせていた。

 

「パンツが欲しかったは無いだろう」

「はい」

 

「一生懸命考えたのは認めますけどシンプル過ぎましたね」

「はい」

 

「タマは初めて青葉に恐怖を感じたぞ」

「ごめんなさい」

 

「必殺技の出番じゃなくて良かったよ」

「はい、僕もそう思います」

 

 そして姉と幼馴染は正座する僕にお説教していた。お説教に追撃する球子と友奈にも囲まれてお説教の立体音響である。因みにもうパンツは履いてるしシャツも着ている。

 

「それじゃあいつもの締めくくりだ」

「んぐぉぅ」

 

 姉の宣言の直後に脳天から首に突き抜ける衝撃、いつものとはつまり拳骨である。

 

「そういえば球子は青葉に用事が有ったんじゃないのか?」

 

 頭を押さえて痛み耐える僕を放置して姉が球子に問い掛ける。「あぁ、そうだった」と球子が口を開いた。

 

「授業が終わってからあんずを見てなかったから何処に行ったか知らないか聞きに来たんだ。電話してもあんずのやつ出なくてな」

 

「そうだったんだ」

 

「それなら私、アンちゃんが丸亀城の敷地から出ていくのを見たよ」

 

 球子の質問に答えたのは友奈、授業が終わったすぐ後に機嫌良さそうに歩いていく後ろ姿を見たらしい。

 

「もう寄宿舎の門限ですからそろそろ自室に帰ってるかもしれませんね」

 

「そうか、ちょっと見てくるぞ」

 

 赤らんでいた顔がかなり平常な状態に戻った球子が部屋から出ていく、それだけの事を聞きに来ただけなのにこんなトラブルになっていたのか。

 

「青葉くん、この本借りていくね」

 

「ん」

 

「それとこれ、続き読みたいって言ってたやつの新しいやつ。ここに置いておくよ」

 

「ん、ありがとう」

 

 友奈もここにきた当初の目的を果たしたらしく、玄関に向かっていく。「それじゃあね、漫画ありがとう」と

言葉を残して僕の部屋から出ていった。

 

「ん~~、なんか……疲れたなぁ」

 

「青葉は見た目は多少男らしくなっても中身は変わらんな」

 

「青葉ちゃんは、青葉ちゃんですから」

 

 いつもの三人、いつもののんびりである。なんとなく時計を見てみれは寄宿舎の門限を過ぎた時刻、球子は杏と合流したのだろうか。

 不意に僕のスマホが着信音を鳴らし、画面には"タマっち"の表示。

 

「もしもし、どうしたの?」

 

『あんずが、いないんだ』

 

「ん?」

 

 電話越しにでも解る球子の焦り声。

 

『敷地の入り口に立ってた警備の人も、あんずを見てないって言ってた』

 

「うん」

 

『電話にもっ、出ないんだ!』

 

 先程赤くした顔でしどろもどろになっていた声とは違う、混乱に近い緊迫した声。僕の緩んでいた思考が張り詰めていくのが感じる。

 

『あんずは、門限破るやつじゃない』

 

「うん」

 

 杏は規則を破る女の子ではないし、致し方無い場合も事前に許可を申請するなり急遽の場合もきちんと連絡をする女の子だ。特に姉妹のような球子には心配かけないように絶対に連絡をするはずだし、球子が電話をした時に出られなくても折り返したりするのがいつもの二人のやり取りだ。

 

『何度電話しても、出ないんだっ!』

 

「タマっちは、今何処にいるの?」

 

 球子の通話の声に混ざる球子自身の荒い吐息の音や雑多な音がスマホのから耳を打つ。車の走る音や犬の鳴き声は丸亀城の敷地内ではしないはずだ。

 

『外にいる、とにかく走ってる!あんずに何かあったのかもしれない……捜すの手伝ってくれ!』

「わかった」

 

 即答、スピーカー通話に切り替えつつタンスを開けて着替えを引き出す。

 

「タマっちは人通りの多いところを捜して、絶対に人の少ない場所には行かないで」

 

『解った』

 

 脳裏をよぎってしまったのは一昨年の刃物男の事件、暗がりに迷い込んでしまっては球子に危険が迫らないとは限らない。本音を言うと球子と合流して球子自身の危険性を減らしたいが僕は人の少ない場所を探しに行く。その為に、球子には僕と約束して貰う。

 

「少しでも危ないかもって思ったら、なにがなんでも逃げて、大声で助けを呼んで、自分の身を守って、絶対だよ」

 

『解った、あんちゃん先生に教えられた護身の基本だな』

 

「うん、それじゃあ一旦切るね。何かあったらすぐ連絡だよ」

 

『あぁ、頼んだ』

 

 着替えを終えて、左袖に小刀を仕込む。

 通話を途中から聞いていた姉と幼馴染の顔に色濃い不安の影が見えた。

 

「青葉、状況は少ししか解ってないが私も行くぞ」

 

「いや、若姉さんとひなちゃんはここにいて欲しいな。入れ違いで杏ちゃんが戻ってきたら連絡して欲しいんだ」

 

 半分本音の理由だ、言ってない半分は二人に少しでも危ないかもしれない事から離れていて欲しいから。

 

「青葉ちゃん、袖のそれは……」

 

「使う予定は無いさ、重りが有った方が走りやすいだけだよ」

 

 全部嘘、隻腕になって長い僕に今更重心がどうので走り難いなんて無いし、必要ならば使う。

 

「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」

 

「……気をつけろよ」

 

「……行ってらっしゃい、青葉ちゃん」

 

 部屋から駆け出した僕はまず、スマホのホーム画面にある「1」とだけ記されたボタンをタップして耳に当てた。

 

『どこで、何があった』

 

 ワンコールで聞こえてきた頼りになる熱い声に状況を説明しつつ、僕は丸亀城の敷地から飛び出した。

 

 

 ─────

 

 

 あんずがいない。

 

『もしもし、今帰りなんだけど──』『──って事があってさぁ』『ウケる~』『──その件はメールで──』

 

 陽が少しずつ沈んで暗くなってきた街、買い物袋を提げた主婦や駄弁りながら歩く女子高生、何も無い所に頭を下げてるサラリーマンを避けながら全力で走り抜けた繁華街の何処にもかわいい妹分の姿は無かった。

 

 あんずが、いない。

 

 入れ違いになったのかもと何度も往復した丸亀城と繁繁華街を繋ぐ色んなルートの何処にも「守ってやらないと」って決めた大切な妹分はいなかった。

 あんずは可愛いから変な奴に連れ去られてもおかしくないと嫌な想像をしてしまい、怖くなって息が詰まりそうになる。あんずは可愛いから、勇者の力があってもまだちょっと弱いからタマが守ってやらないといけないんだ。

 

 あんずが、どこにもいない。

 

 これだけ捜しても見付けられないって事はこの辺りにはいないのかもしれない。走り続けていると、ふと人通りの少ない道が目に入った、この先にあんずが散歩でよく通る公園が有るのを思い出した。

 

『タマっちは人通りの多いところを捜して、絶対に人の少ない場所には行かないで』

 

 いつもぽやぽやしているアイツが珍しく強く言い聞かせるようにタマに言った言葉を思い出す。だけど、もしかしたらこの先にあんずがいるかもしれない。

 悪いとは思ったけど躊躇ったのは少しの間だけだった、タマの直感がこの先が怪しいと示していたからだ。

 

「あんず、こっちにいるのか?」

 

 暗くなった人通りの少ない道を突き進みんで見えてきた公園、この時間帯だとやっぱり人は全然いないようで静まり返っていた。

 

 公園の入り口を通った時に気付いた異臭に足が止まった。この臭いは、なんだ?

 

 

「お嬢ちゃん、丸亀城の女の子だね」

 

 振り返った公園の入口、物陰に異臭を放つ男が隠れていた。

 




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
風呂上がりはしばらくスッポンポン派。柔軟さを保てる内の最大筋肉を維持する男子、軽い幼馴染を背中に乗せて腕立て伏せしちゃう。この肉は、そこいらの奴より、硬くて、太い(ドヤ顔)筋トレでは無く棒振りのみで鍛えた棒振りの為だけの筋肉。もう中学生、キチンと成長してます、考えてから発言する事を心掛けましょう。え?結果がこれ?……こいつどうしようも無ぇなぁ。その必殺技だけはマジ勘弁!男子じゃなくなっちゃう!相変わらず正座からの説教拳骨コンボ。スマホのホーム画面にはいつでも繋がるホットライン。女の子に切羽詰まった声で頼られてスイッチON。走り出す切羽詰まった青春。

若葉さん
弟の太く硬い肉に指を這わせたり揉んだり引っ張ったり……いかがわしい想像した人は斬られても文句は言えない。弟が目の前でスイッチONになったのを目撃、使う予定は無い?ホントか?無事に帰ってくるならそれでいい。

ひなたちゃん
貯まっていた洗濯物に「まったくもう」と思いながらもテキパキ洗濯、脱衣室に幼馴染の着替えが無いのには気付かなかった。振り返るとそこに半裸な隻腕の戦士体型、ビビる。誰だってビビる、当然である。抱き寄せられた胸板はかつて知ってたものより逞しかった。驚きを鎮めてる内にピタゴラ的誤解の嵐、中身はやっぱり変わってない。行ってらっしゃいを言ったからにはおかえりなさいを言いたい。

友奈ちゃん
青葉くんとは漫画を貸し借りする仲。泣いてる友達の為に拳を握れる気高く優しい勇者。誰が見てもあの状況は誤解する。青葉くんの奇行を「いつもの」で片付けちゃう信頼。必殺技は必要なら封印を解く。初めて青葉くんの傷痕や火傷跡を目撃、凄惨ではあるけどそれよりも衝撃的な状況だった。

タマっち
異性でも友情は成り立つと信じる女の子。友達だと思ってる男子がなんか凄い事になってた。目に映る色んなモノ、ちょっと見上げるようになったアイツが逞しい身体(肌色面積9割)で迫ってきた、普通に怖い。掴まれた腕が振りほどけない「パンツ欲しい」おいバカ辞めてくれよぉ!誤解だった。こんな感じの馬鹿だけど頼れる奴、電話で助けを求めると「わかった」即答。あんず、どこ?ここ?エンカウント。

青葉くんの部屋
相変わらず物が少ない、青葉くんがいなくても別の誰かがいる事があるので暇なら覗いてみるって選択肢にでてくる。基本的に鍵はかかってない。枯れた桜の小枝がタンスの上に、数少ないインテリア。

───

誤字報告ありがとうございます。読み手の皆さんの国語力と優しさに頭のさがる思いです。
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