乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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24:一瞬だけな感じの抜刀、もしくは憤怒の話

 鳥の巣みたいな乱雑な髪の毛ごと頭を右手で押さえ付けて駆け寄った勢いと体重の全てを乗せた膝を今この瞬間までヘラヘラと醜悪に歪めていた口の少し下に叩き込む。膝に感じた感触でこの鳥の巣頭の青年はしばらく流動食しか食べれなくなった事を確信。

 

「なんだコイツ!」「マジかよヤベェ音したぞ!」

 

 駆け寄る時に見えた姿は両腕を交差させて顔を庇い、微かに見えた口元は痣で青くなったり腕で隠された鼻から流れたのであろう多量の血液で濡れた赤い顎。

 怒りがとめどなく沸いてくる。

 僕は、丸亀城の勇者を、クラスメイトを、女の子達の日常を護るのに少しでも役に立てば良いという名目で丸亀城に置いて貰っていたはずなのに、その少しさえも僕は役に立つ事ができなかった。

 なんて無能、なんと能無し、どうしようもなく役立たず。自分に、怒りが沸いてくる。

 

「んだテメェ!」

 

 口と鼻から流血して崩れ落ちる一人と驚きに動きを止めた二人、そして即座に拳を握った判断の早い青年。その判断の早さが、僕に取っては都合がいい。

 慌てふためく二人をまずは無視して擬似的な一対一、ついカッとなって後先考えずに不良に囲まれる位置まで飛び込んでしまったがコイツを手早く仕留めればかなり有利に傾く。

 

「オラッ!」

 

 激しく怒りに歪めた顔の割にはコンパクトで早い真っ直ぐな拳、何か武術の経験者なのだろう。だがしかし、僕の身近には拳を武器に戦う才高い勇者と勇者に多彩な格闘術を教える達人がいる。この程度の拳ならば二人との防具付きでの組手より怖くない、対応できる範囲だ。

 

「コーー……」

 

 この不良青年をいなしてもまだ二人いる、長く動き続けるために息を乱さぬように深く呼吸。

 首をかたむけてやれば拳がほんの少しだけ頬を撫でるように突き抜ける。当たると確信していたのだろう目の前の不良青年の目が丸くなった所に顔目掛けて全力で飛び込む頭突き。前頭部に感じる感触は硬いもの、砕く事は出来なかったらしい。だが、仰け反る不良青年の口から白い破片が飛び出してそのまま後ろ向きに倒れた。脳震盪に追い込む事はできたらしい、入れ歯か差し歯でこれから生きていけ。

 

「なんだこのガキヤベェぞ!」

「マジかよっ!マジかよっ!」

 

 事ここに至って喚き散らすしかしてない二人を更に無視して上着を手早く脱いで音もなくその場に身を起こして力無く座っていたフワフワで少し赤の混ざる金の髪の上から掛ける。俯く顔に垂れる長い髪でハッキリとは見えなかったが破れた衣服に少しだけ肌が露にされてしまっていたのが解ってしまった。その女の子の尊厳を踏みにじられたかもしれない姿に、際限無く怒りが沸いて頭がおかしくなってしまいそうだ。

 自分の無能以上に、この不良青年達に対して今ここで首を落としてやりたいと思う程に心がドス黒く染まる。

 でも、それは僕の判断でするべきではないと、少しだけ心に残った冷静な僕が踏みとどまらせる。

 

「ねぇ」

 

「…………」

 

 きっと怖い思いを沢山したであろうから、少しでも怖い思いを減らしたいと願って怒気のままわめき声散らしたくなるのを必死に堪えて問い掛ける。

 

「望むのなら、全部、殺すよ」

 

「…………」

 

 僕の中で渦巻く怒り、憎悪、嘆き、山程のドス黒い感情を必死に堪えつつ、口下手な僕はたどたどしく言葉を選びながら優しくを意識して問う。

 

「殺したいほど、憎いなら、僕が、代わりに、ヤる」

 

 僕の知るフワフワな少女は少し気弱だけど何時だって穏やかで、誰かを傷付ける事を良しとする女の子ではない。もし、この少女がそれを望んで無いのに僕の勝手な感情でこの不良青年達を血に沈めてもこの少女は加害者の死をも心の傷にしてしまうだろう。

 僕は、このフワフワの少女に、もう傷付いて欲しくない。

 

「…………」

 

 僕の上着に隠れた頭が一度だけ小さく左右に揺れた。

 

「そっか、やっぱり優しいんだね」

 

 だから、殺さない。

 

「優し過ぎるよ……辛いくらい、優しい。」

 

 それはそれとして、殺さないけど壊す。

 何事にも報いを、乃木の……僕の生き様。人として男として、この犬の糞にも劣る下衆共に痛みを与えずにはいられない。

 

「うわあぁっ!」

「うおぉぁっ!」

 

 似てるけど、正反対の叫びが二つ。ひとりひとり遮二無二に僕が侵入してきた方へ走り出し、もう一人はポケットから取り出した折り畳みのナイフを広げる。得物を、抜いたな?

 

「フーー……」

 

 まずは逃げ出した不良青年を逃さないように懐の通信できる鉄板を投げつける、顔を目掛けて投げたつもりだったが酷く乱れた走り方に狙いが逸れて鼻先を掠めただけで鉄板は勢い良く石膏ボードの壁に突き刺さった。ドス黒い感情に乱れた僕の精神ではこの程度らしい、鍛練が足りない。それでも逃げ出した不良青年は腰を抜かしたらしくその場にへたりこんだのでまずは良しとする。

 

「こんのクソガキィ!」

 

 どいつもこいつも刃物を振り回す奴は僕が"クソガキ"に見えるらしい、心得の無いであろう大振りでナイフを振るう軌道に鞘滑りの音無くそっと小刀を抜いて待たせる。刃物は、こう使うのだ。

 

「……あ?……え?」

 

 カランと、軽い金属音と共に落ちる粗末なナイフと指。僕はただ刃物を持っていただけなのにコイツが勝手に手を勢い良く滑らせただけた、正当防衛とかなんて考えるまでもなくコイツの不注意によるただの事故である。

 死なず、指を少し無くして生きていけ。

 

「俺の、指?」

 

「そうだよ」

 

 一度小刀を振って血を払い納刀、呆けて半開きの口に指を四本突っ込んで親指を顎下にめり込ませるように掴んで一度だけ左右に激しく振る。

 

「は"あ"あ"は"あ"!!」

 

 左右の動きに対応出来ない構造の顎関節が外れた不良青年が痛みと息苦しさに踞る。死にかけの羽虫みたいに震える姿のなんと不様な事か。

 

「ドギー君助っ人に颯爽とと~じょ~……終わってるじゃん」

「えー、俺達走っただけかよ」「武器なんて探してっから遅れるんだろーがよ」「お前が最初に武器欲しがったんじゃん」「コイツまだ元気じゃん、それっ!」

 

 ぞろぞろと現れたドギー達の一人が腰を抜かしていた不良青年の鼻先を爪先で蹴り飛ばす。コイツ等なんだかしまらないなぁ。

 

 最初にこの部屋で女の子に暴力を振るっていた不良青年のグループは全員地に伏せ、その不良青年達を置いてあった真新しいガムテープで拘束していく不良集団達。そのガムテープは何のためにこの部屋に用意されていたのかと考えるとまた胸糞悪くなるが、危機はもう越えたのだろう。

 僕の上着に隠れた金のフワフワにもう一度、優しくを意識して話し掛ける。

 

「助けられなくて、ごめんなさい」

 

「…………」

 

 また小さく左右に降られた上着越しの頭。

 

「傷を確認しよう。顔を、見ても良い?」

 

「…………」

 

 小さく上下した上着越しの頭。僕は自分の硬い指でこれ以上傷をつけてしまわないようにそっと上着を捲って垂れる赤の混ざるフワフワを寄せた。

 

 

 ─────

 

 

 見えたのは、靴だった。

 

「んぉ?」

 

「あぁはぁ、逆だね。」

 

 どっちがどっちか解らない新聞紙の包みなら二分の一でこうなるのは仕方無い、それでも意表を突かれた光景だったからか少しだけ震えの小さくなった手で反対側の新聞紙を捲り上げる。

 

「…………」

 

 そこに在ったのは瞳を閉じて身じろぎ一つ無いあんずの顔、人形みたいに整った杏の頬に手を添えるとふわりと柔らかくて暖かかった。息も穏やかに繰り返している。

 

「あんず……良かったぁ……」

 

 あんずの奴はタマの心配なんて知らずに公園のベンチで熟睡していたのだ、この可愛いくてフワフワした寝顔に止めどなく安堵が溢れて滲んだ涙がちょっと間抜けなオチに感じた腹立たしさを全て押し流す。

 無事で、良かった!

 

「泣くほど嬉しくて、大切だったんだね。あぁはぁ、素敵だね、あぁはぁはぁ」

 

「言っただろ、妹みたいに大切なんだって」

 

 あんずを起こさないように気にしているのか先程よりは小声で笑うイカれ男。それでも不気味な事は変わらない。

 

「春でも夜は冷えるからね、寒いのはかわいそうだから新聞紙」

 

「……あぁ、うん、そうか」

 

 タマの持ってるアウトドアの知識にも新聞紙は保温性が高いから災害の時とか遭難した時とかに毛布代わりに使えるとは知っていたけどその心遣いはちょっとズレてると思う、起こせよ。

 

「ふんがっ……いっけねぇ、寝てた」

 

 隣のベンチで寝ていたホームレスが突如跳ね起きる。辺りを見回してタマ達に視線を向けるとしわくちゃな顔を更にしわくちゃにして微笑んだ。

 

「おやぢさん、丸亀城の女の子連れてきたよ」

 

「そうかい、お迎えが来たのか、良かった良かった」

 

「ぁん?どういう事なんだ?」

 

 おやぢさんと呼ばれたイカれ男よりは雰囲気も身なりも匂いもかなりマシなおっさんホームレスが言うにはこの公園は夜になるとホームレス達の溜まり場……家?になるらしい。暗くなってきたからいつものようにこの公園に来たら既にあんずが寝ていたから驚いたとか。

 

「去年の冬の終わりになぁ、胸が苦しくてぶっ倒れた時に助けてくれたお嬢ちゃんがこんな場所で無防備に寝てるもんだからなぁ、どうしたもんかと思ってたんだよ。」

 

「ここの皆はおやぢさんが恩人、おやぢさんの恩人にもしもが無いように皆見張ってたんだ」

 

 イカれ男が物陰に向かって指差す、先程タマ達を遠巻きに包囲していたらしき身なりの汚い集団がいるのが見えた。

 

「起こしてやればよかったじゃん」

 

「目が覚めて、目の前に汚いオッサンがいたらどうなると思う?」

 

「……スッゴくビビるだろうな」

 

「んだろぉ?」

 

 目が覚めたら既に夜で新聞紙の布団を被せられてても驚くだろってツッコミは入れない方が良いのだろうか?タマもう解んない、あんずが無事だったからもうどうでもいいや。

 

「うん……うん、取り敢えずオッサン達はあんずにもしもが無いように守ってくれてたんだな、ありがとう。」

 

「なぁに、恩を返したまでさぁ。畜生みたいな生き方してても恩を忘れる程人間辞めてねぇからなぁ」

 

「あぁはぁ、こないだぼくは野良犬にご飯持ってかれたなぁ」

 

「うん、そうか」

 

 どうしよう、この空間はどんな言葉で喋れば良いのか解らな過ぎてタマったもんじゃないな。

 

「それにしてもぐっすり寝てるねぇ、愛らしい寝顔だぁ」

 

「あんずは可愛いからな、寝てても可愛いんだ」

 

「あぁはぁ、ホントに可愛いね……抱きしめたいなぁ」

 

「あんずを見ててくれたのは感謝してるけどそれは辞めてくれ」

 

「あぁはぁ」

 

 真顔で何も言わない笑い声。ホントになんだよコイツ、怖すぎる。

 イカれ男の不気味で意味深な笑いに戦慄していると、しわくちゃなオッサンがタマにそっと口を寄せて耳打ちする。

 

「コイツはこの通りイカれとるから早く連れ帰った方が良いと思うよぉ。ワシもコイツはなにヤるかわからねぇもんなぁ」

 

「……そうする」

 

 寝ているあんずの体勢をそっと起こしてから背負う、起こす事もちょっと考えたけどあんずが目を覚ました状態でこのイカれ男に会わせるのはなんだかよろしくない気がしたからだ。

 

「それじゃあおっちゃん達、ありがとな」

 

「気ぃ付けてなぁ」

「あぁはぁ」

 

 振り返らず歩く。ヤベー奴に背中を向ける事になってしまってるけど他に大人も沢山いるみたいだし大丈夫だと思いたい。

 

「……んぅ……タマっち……」

 

「なんだ、起きたのか?」

 

 丸亀城に向かって歩く中、背中の暖かいあんずが突然口を開く。

 

「……おねえちゃん……」

 

 寝惚けているのか寝言なのか、なんだが頬が緩む。ホントに、無事で良かった。背中の柔らかいぬくもりが、言葉に出来ないほど愛おしい。

 

「……って呼んでくれても……いいんだよ……」

 

「コイツめ」

 

 うん……目を覚ましたらまずはお説教だな。若葉とひなたがアホの青葉にするみたいにはできないかも知れないけど精一杯心配したんだと伝えよう。

 丸亀城の敷地に入り寄宿舎に向かう、寄宿舎の前には若葉とひなたと友奈に千景がソワソワした様子で立っていた。

 

「ただいま。あんずのやつ公園のベンチで熟睡してやがった」

 

「それはなんとも言えないな」

「幸せそうな寝顔ですね。一枚撮っておきましょう」

「無事……だったのね」

「アンちゃん、良かった~」

 

 皆に心配させた妹分にはキチンとお説教しなくてはだな、若葉達にコツを聞いておこう。

 タマの部屋の扉を開けて貰ってベッドに優しく寝かせる、今夜はお説教の講習を受けるのであんずへのお説教は明日にしよう。

 

「そういえば青葉はどうした?合流はしなかったのか?」

 

「ん?……いっけね」

 

 若葉の問いに思い出したのは『何かあったらすぐ連絡だよ』と言った青葉の声……すっかり忘れちまってた。

 

 

「連絡するの忘れてたな、タマから電話するぞ」

 

「そうか」

 

 ポケットのスマホを操作して電話帳から『アホの青葉』を探してタップ、耳に当てると何度目かのコール音で通話状態になった。

 

「もしもし」

 

『もしもし~、こちら取り込み中の青葉くんに代わってエス・エム・ディーことスーパーマッドドギー君が現場をリポートしま~す』

 

 は?なんだコイツ?と思考が停止して言葉が詰まる。

 

──ヒャハハ!コイツ?鼻が横へ直角に曲がってやがる!

──治してやろーぜ、それっ!

 

 そして、訳の解らない話声の奥から聞こえる下品な笑い声とイカれた内容、直後に男の悲鳴。なにが、どうなってるのか。

 

『あ~もう、皆弱いもの虐めは良くなくない?……うへぇ、こんな所まで歯が飛んでるよ。どんな事したらこうなるんだろね?』

 

 はぁ?は……歯?飛ぶ?

 

『あっるぇ~?もしもし?聞こえてる?』

 

 あまりの内容に思考が停止したまま周りを見渡す、スマホから漏れてた声を聞いていたのだろう四人が蒼白な顔でタマを見ていた。

 

「きっ、聞こえてる!青葉に何があった!無事なのか!?」

 

『わぁお、急に大声、青葉くんが無事なのかって?それは~うん、青葉くんしだいだね。今ほっぺが凄いことになってるよ』

 

「そんな!?」

 

 もしかして、タマが青葉に助けを求めたから、青葉が夜の街であぶないことに巻き込まれたんじゃないかと思考が追い付く。

 

『んおっ!顎の関節外れてるし、めっちゃ間抜け面だな。写メ撮っとこ』

 

 ひなたが腰を抜かしたのかその場にへたりこんで友奈が泣きそうな顔で拳を握って震わせる。

 

『うわっ、もしかしてこれ顎砕けてる?ひぇぇ~ここまでやるんだ』

 

 顎……砕け……?千景が両腕で自分を抱き締めて震えながらしゃがみこむ。

 タマが、青葉を巻き込んだせいで、青葉が大変な事に?……身体中が震えて涙が溢れてくる。青葉を虐めないでくれと電話の先に言いたいのに息が詰まって声が出てこない。

 震えて力の入らないタマの手から奪われるスマホ、奪ったのは今まで見てきたどんな顔よりも怖い顔をした若葉、いつもの凛とした表情から変わりすぎていて別人だと言われても納得できてしまうほどの形相だ。

 

「貴様、青葉に何をした」

 

 形相とはかけ離れた、静かな声。でも、声だけで人を殺せそうな迫力。

 

『あっるぇ?もしかしてその声乃木さんちの若葉さんじゃない?相変わらずおっかない雰囲気だね』

 

「答えろ」

 

『何もしてないよ?……えっ?誰からかって?通知はタマっちって表示されてたけど若葉さんとお話してるよ……うん、これ青葉くんの電話……そのお顔怖~い』

 

 タマには電話先のふざけた奴が誰と話をしているのかは解らないけど若葉の形相がゆっくりと萎んでいくのが見えた。

 

『もしもし若姉さん?杏ちゃんを探しに行ったら別の事件に首突っ込んじゃった!タマっちと一緒いるの?タマっちが丸亀城に戻ってるなら杏ちゃんは見つかったの?』

 

 元気そうな青葉の声が若葉の手にあるスマホから漏れる、珍しく一息に沢山の事を喋る青葉の声に悲壮な空気が満ちていた部屋になんだがユルい空気が生まれた。

 

「それに答える前に一つ聞くぞ」

 

『なにさ?』

 

「青葉、お前、無事か?」

 

『いつかの約束通り、無傷だよ』

 

「そうか、杏も無事に見つかったぞ」

 

 完全に気の抜けた若葉が、先程の形相の反動なのか青葉みたいなぽやぽや顔になった。

 つまりは、いつもの青葉のやらかしみたいな事を電話越しにやってたのだろう。

 涙が引っ込んだ。

 

 

 ─────

 

 

 髪を寄せて見えた顔に僕の顔が歪みそうになるのを必死に堪えた。

 穏やかさが形になった柔らかい眼差しだった瞳は吊り上がり、鼻は血を流しながら外国人みたいに膨れ、唇を切ってしまっているのか血を流す口から八重歯が出ていた。まるで、別人ではないか。こんなに、顔が変わるほど殴られていたのか。

 

「タスケテくれて、アリガトです」

 

 話声もいつものフワフワした感じではなくぎこちなさを感じる。言葉を発するのが辛いほど、怖かったのか。

 

「ニホンジンには、まだサムラァイの心を持つ人がイタですね」

 

 頭もしこたま殴られたのか、訳の解らない事を口走り始めた……そうだね、赤の他人だね!顔立ちがなんだかとてもアメリカンな感じだ。

 

「んん?君、誰ぇ?」

 

「ワタシ、エマ言います」

 

 あ、あれー?あれれ~?

 

「杏ちゃんじゃなかったんだ」

 

 まさかのここまでやって他人の空似の人違いだったのか、助けて損……いや、決して損とかそう言うのでは無いんだろうけど僕の目的はこうじゃない。見知らぬ他人では無くて杏を捜しに走っていたはずだ。

 

「ワタシはアンズとは違いますよ?」

 

「うん、見れば解るよ。杏ちゃんは可愛いからね」

 

「……ワタシはまるでカワイク無い?」

 

 言い方が悪かった、エマと名乗ったアメリカンなこの女性はどちらかと言うと美人だと思う。頬を膨らませて僕のほっぺを両手でつねるエマにそう弁解する。この人、今しがたまでヒドイ目に遭ってたのに元気だな。

 失礼な事を言ってしまった自覚はあるのでしばらくはされるがままにしておこう。

 

「あっるぇ?もしかしてその声乃木さんちの若葉さんじゃない?相変わらずおっかない雰囲気だね」

 

 先程からウロウロと電話しながら歩いていたドギーが聞き捨てならない事を喋る。

 

「ドギー、誰と話してるのさ」

 

 頬を引っ張られながら振り向いたせいか自分の頬に止めを刺す痛み、かまわずに話を聞くと壁に突き刺さっていた僕のスマホが着信していたけど僕が気づいてなかったから代わりに出たらしい。コイツも、自由人か。

 ドギーから僕のスマホを取り上げて姉に話を聞くと僕がちょっとだけ大暴れしている間に杏は見つかっていたらしい、無事なようでなによりだ。

 

「坊主!無事か!?」

 

 ちょっとカオスな部屋に突入してきた格闘術の先生率いる丸亀城の警備隊、ドギーとドギーの仲間達が固まる。部屋の隅で弱いもの虐めをしていた奴らは表情さえ固まっていた。

 硬直は一瞬だった。

 

「てめぇら、加減するな。取り押さえろォ!」

 

 まぁ、そうなるよね。パッと見たらリンチ事件そのものだもん。僕はアイツ等を弁護するつもりは無い。

 素早い動きで不良少年達を投げ飛ばし組伏せていく警備隊達、訓練を積んだ大人と普通の不良少年達だったら勝負にはならないのは当然である。

 

「ちょっと待って俺何もしてなっ……ンアーッ!」

 

 格闘術の先生の手で宙を舞ったドギー、確かにコイツは電話してただけだったな。

 

「せんせー、そいつはここまで案内してくれた奴なんだ」

 

「ん?そうか。すまん、このヤンキー共の仲間かと思っちまった」

 

「別に間違ってもいないよせんせー」

 

「青葉くん!ややこしくなるからやめてぇ!」

 

「ワォ、エキサイティングですネ」

 

 んー、杏ちゃんは無事だったかぁ、良かった。

 なんだかとっても疲れた中学一年生になってすぐの春の夜。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
君が望むなら皆殺しにするよ(赤の他人)首を横に振られたのでちょっとだけ大暴れで終わった。何気に作中初めて青葉くんが害意を持って実際に刃物を使った瞬間、でもコレ相手が勝手に小刀に手を突っ込んじゃっただけ(青葉くんの強弁)正当防衛って、難しいね!頭突きは女性でも屈強な軍人を一撃KOする危ない技、自爆の危険もあるのでやめましょう。大暴れの結果人違いだった。助けたアメリカンなモブ女の子にフラグ立てたその場でへし折る男の子な青葉くん。いつかの約束とは抜糸の時のアレ。
今回のスコアは3キル1アシスト。

タマっち
背中のぬくもりが愛しい。愛の女、タマっち。イカれ男から逃げ出さなかった結果最愛の妹分と無事に再会、良かったね!可愛い妹分を怖い目(イカれ男)に遭わせないためにおこさずにおんぶ。青葉くんに連絡忘れてたな→電話→自責と恐怖で涙。最近泣いてばかりだね、涙の似合う女、タマっち。結局いつものアレだった、良かったね!

杏ちゃん
最初から最後まで寝ていた今回のMVP。何故MVPかって?杏ちゃんがあの時汚っさんを助けてなかったら……イカれ男はきっと恩人の恩人ではない事になった杏ちゃんを抱きしめた後に"ずっと一緒"になってたかも、そして捜しに来たタマっちも……ワンアクションで事件解決に多大な影響を与えた上に命3つを救いました。

若葉さん
憤怒!マジで丸亀市滅ぼす五秒前。でもいつもの勘違い。良かったね!心の底から良かったね!

ひなたちゃん
信じて送り出した幼馴染がリンチされてた、自失状態。スマホから聞こえてきた元気な声で復活、また心配させて!ちょっと怒る。

友奈ちゃん
助けを求めてるかもしれない友達が手の届かない所にいる、強くなっても、大事な友達を助けられなきゃ意味がない!……え?この流れいつもの感じ?心臓に悪いよ!

千景ちゃん
お部屋でゲームしてたら双子の苦手な方が訪ねて来た、え?杏ちゃん行方不明?私何も知らないわ。一応確認しに来たらしい。スマホ越しに感じた暴力の気配におびえる。……あれ?自分の事じゃないのに何でこんなに怖いんだろうね?答えは解らない。

おやぢさん(かつての善の汚っさんA)
ジジイになってから始める善悪の区別がつかない大きな子供の子育て。自分の先は長くないと思ってるけどこのイカれをそのまま四国に野放しにしたらヤバいと思って頑張る、コレがあっしの生きる最期の理由ですぁ。入院してた病院から治療費払えないだろうから逃走、おい、恩をかえせよ。大社が治療費を払いました。

イカれ男
善悪の区別がつかない系イカれ野郎。彼はタマっちの言葉に首を縦にも横にも振らなかった、そう言う事なのである。抱きしめたいなぁ(熱烈)フワフワなあの子は犬の味、犬だもん。犬の可愛いと女の子に対する可愛いが同列。

ドギー君
スーパーマッドドギー君、自由人。弱いもの虐めはもうあんまり好きじゃない。ほっぺが凄いことになってる→女の子に左右にびよーんとのばされてるの意。

不良少年の集団
絵に描いた不良集団、ほとんどが取り押さえられました。敵ではなかったけど決して善人達ではない。

拉致グループ
パッキンねーちゃんゲット!(物理)からの必殺仕事人(やわらかめ)をされた。

エマちゃん
また名前がついた脇役。後ろ姿が杏ちゃんにそっくりな元留学生。元?故郷は多分滅びた、そういう事だ。颯爽と助けてくれたサムライボーイはデリカシー無かった。


───

視点の切り換えを多用してみましたのですが、読みにくい読みやすいの判別が自分ではどうにも解りません。どうでしょうか?
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