乃木さんちの青葉くんはこんな感じである 作:ቻンቻンቺቻቺቻ
最近、青葉の様子がおかしい……いや、双子の姉である私がそう思うのもちょっとアレではあるが元々のズレたおかしさとは別のおかしさが今の青葉にはある。
「青葉、次の日曜日なのだが久々にあのうどん屋に行かないか?この前のテレビで見てから無性に食べたくなってしまってな」
「ん、ごめん若姉さん、次の日曜日は他の予定があるんだ」
これだ。今までの青葉なら『行く!』と二つ返事で眼を輝かせて『ひなちゃんも誘おうよ』とまで言葉を繋ぐのがいつものパターンだったのだが断られてしまった。今までも誘えば絶対一緒に行動するという訳でではなく九割五分程だったのだが、何時からかはこのように断られる事が増えてきた。
少し記憶を掘り返してみる。こうなったのは冬の終わりか春の始まり位からなんとなく程度のおかしさは感じていたのだが、最近の杏が行方不明になった日、青葉が不良達の乱闘騒ぎに乗り込んで女の子を助けたという事件から更に様子がおかしくなったように思える。
青葉が乗り込んだ乱闘騒ぎとやらは凄惨極まる有り様だったらしく、顎が外された者や砕かれた者、鼻が潰れて原型を無くした物、更には乱闘騒ぎの現場には切り落とされた指が落ちていたらしい。何が原因の乱闘かは知らないが喧嘩にそこまでやる人間がいるというのが俄には信じがたいが事実らしい。
そんな凄惨極まる光景を目の当たりにした青葉が心を痛めて様子がおかしいのかと思ったのだがじっくりと観察しても青葉が弱っている様子は見えない。今も鍛練の小休止に傷だらけのスマホで何かメールのやり取りらしき事をして上機嫌そうに気の抜けた笑みを浮かべている……どう使ったらスマホがあんなに傷だらけになるのだろうか?
「機嫌良さそうだな、良いことでもあったのか?」
「ん?ん~~……内緒」
また、これだ。今まで私達双子の間で言葉にしない事は話さなくても解る事か話すまでもないどうでも良い事、もしくは性差によるちょっと話し難い事の三つ程しか無かったのだが、最近の青葉には秘密が増えた気がする。
基本的に面白い事や楽しい事などのポジティブな事は誰かと共有したがる青葉が上機嫌の理由を内緒にするのは本当に珍しい事だ、いつもなら『聞いてよ若姉さん!』と尻尾を振る犬のように寄ってくるはずなのだが……私には言えない事なのだろうか?
どうにも、雑念が混じる。
今日の鍛練はあまり身が入らなかったな。
「あの様子を見ると、気分が若返りますな」
鍛練の終わりに呟いた指南役の老人の声。
「あの様子とは青葉の事ですか?」
「ええ、その通りですな」
「青葉がどうしてああなのか解るのですか?」
「主とする理合は違えど同じ剣士で、同じ男です故に、私もあのような時期が在りました」
指南役の老人には青葉の様子に何か思い当たる節が在るらしい、少し深く訊ねてみる。
「弟さん、あれは色を知りましたな」
「……いろ?」
「左様、赤い色を知ったのでしょう」
いろ?イロ?色?……色!?つまりは、そう言う事なのだろうか。互いに何でも知り合っていると思ってた半身にいつの間にか『春』が来ていたのか。
「私の時は齢十と六つの頃でしたなぁ。弟さんには少し早いかもとは思うやもしれませんが、この乱れた世なら若者の早熟も致し方在りませぬでしょう」
日曜日の予定とはもしかして相手との逢引なのだろうか?先程の上機嫌はその相手とのメールのやり取りなのだろうか?
「私の相手は当時では珍しい女剣士で腹違いの姉でした。新月の無明にて音を頼りに──」
なんか衝撃的な事を聞いた気がするがそんな事より青葉の事だ。どうしよう、私は姉としてどうするべきなのか?……まずはひなたに相談してみよう。
─────
非常事態だから部屋に集まって欲しい。そうメッセージを受けて向かったのは若葉ちゃんの部屋、どうやら女子では私が最後だったみたいで青葉くん以外はもう皆集まっていた。
「友奈も来てくれたか、早速だが本題に入ろう」
「あれ?青葉くんは?」
ひなちゃんが煎れてくれたお茶を受け取りつつ若葉ちゃんに聞いてみる、二人は基本的にいつも一緒なイメージがあるので青葉くんも来ると思ってたいた。
「実はだな、その青葉についての事が今回集まって貰った理由なんだ」
「あん?どういう事だ、また青葉の奴が何かやらかしたのか?」
「それだとしても本人がいないパターンは珍しいね」
タマちゃんの声に続くアンちゃん。私もアンちゃんの言ったように青葉くんのいないパターンは珍しく感じる、青葉くんが何かやらかしたとしても若葉ちゃんは誰がいようとその場でお説教するし話し合いでも蚊帳の外にはしないからだ。
「やらかしとは違うのだが……その……だな」
言い淀む若葉ちゃんは珍しい。相槌を挟んでみたら話しやすくなるかな?
「どうしたのかな?」
「……青葉に、恋人ができたのかもしれない」
若葉ちゃんとひなちゃん以外の動きが止まった。勿論、私も驚きで止まってしまった。
「それは確かな情報なのかな!」
一番早く反応を帰したのは鼻息をフンスと鳴らすアンちゃん、アンちゃんはこういう話題が好きだもんね。
「指南役の老人が青葉の様子をみて『私もああだった』と言っていたんだ。少し前から私もなんとなく青葉の様子に違和感を感じていたから割りと可能性が有るのかもしれない」
「いや、それってひなたが相手じゃなくてか?」
若葉ちゃんの言ってる事が本当なら私も相手はひなちゃんじゃないのかなって思う、だって青葉くんは普段はあんな感じでぽやぽやしてるけど刃物の人が襲ってきた事件の時みたいにひなちゃんに危険が迫ったら文字通り命懸けでひなちゃんを護る程大切にしているからだ。よほど大切に思ってなかったらどんなに勇気がある人でもそんな事はできないと思う。
「それは違いますよ」
「違うだろうな」
『えっ?』
即答する二人に皆の呆気にとられる声。二人が言うには若葉ちゃんひなちゃん青葉くんの三人はもう家族的な関係だから今更恋とかそういうのは無いらしい、幼馴染って不思議な関係なんだなぁ。
「私も青葉ちゃんになんとなく違和感を感じてたんです」
「そうなんだ」
「それでだな、遠回しとか鎌をかけるとか苦手だから単刀直入に聞くが……もしかしてこの中にその相手がいるなんて事は……」
もじもじとしおらしく皆に問いかける若葉ちゃん、顔が赤い。
「タマは違うぞ、青葉とは友達だしな」
「私も違うかなぁ」
タマちゃんとアンちゃんの即答。
「友奈はどうなんだ?」
「うん、違うよ」
青葉くんは優しくて気の合う男の子だけど今のところそういう対象にはちょっと見た事無いかな、何て言うか友達だったり分野は違うけど鍛練のライバルみたいな感じが強いと思う。
「千景は?」
「私も……違うわ」
あんまり喋って無かったぐんちゃんも聞かれたら否定の声、この中には青葉くんの相手はいないみたい。
「そうか、一番ありえそうな千景も違ったか」
「……え?」
「青葉は面倒見の良い年上に弱いからな」
眼を丸くしたぐんちゃんにそう答える若葉ちゃん、さらっと青葉くんの好みを暴露しているけどいいのかな?
ひなちゃんが溜め息吐いてる……そっか、青葉くんと似た者姉弟だもんね、これは多分若葉ちゃんの"やらかし"なんだ。青葉くんが入院した時のパンツ鷲掴み事件のアレと一緒なんだろうね。
「全員ほぼ即答か。姉である私が言うのもなんだが青葉はモテないな、そう悪い男子ではないとは思うのだが……恋人と言うのは勘違いな気がしてきた」
それは……
「青葉は若葉とひなたが大好き過ぎるからな、普段べたべたと引っ付いてる訳じゃ無いが全身から二人が大好き光線を出してやがる」
「そうなのか?」
タマちゃんが、言ってしまった。そして、若葉ちゃんは自覚が無かったみたいだ。
この三人はお互いを凄く大事にしあってるのが普段のちょっとした行動でなんとなく感じてしまうのでそういう意味では入り込む余地が無さそうに見えちゃうのだ。それさえ無ければ若葉ちゃんの言うとおり整った顔の若葉ちゃんと双子なだけあってシュパンッとぽやぽやの違いはあれど青葉くんも実は整った顔立ちだし優しい性格だからそれなりにモテるんじゃ……あ、ダメだ、凄くズレた性格でもあるもんなぁ。解らないや。
「でもその大好き光線を知らない人からみたら青葉くんはモテるんじゃ……丸亀城の外にお付き合いしてる人が?」
フンスフンスとボルテージが上がっていくアンちゃん。どうだろう、凄くズレてるよ?無自覚セクハラしちゃうんだよ?
「そうか、丸亀城の外か……尾行しかないな」
えー。
「日曜日に丸亀城の外に用事があるのは解っているんだ、尾行して相手を突き止める!」
ヤル気満々に宣言する若葉ちゃん、何がここまて若葉ちゃんを駆り立てるのか。解らないから聞いてみた。
「この場の誰かなら安心できたのだが、何処ぞの誰とも知れぬ相手に青葉を任せてはおけん!」
「姉弟愛……なのかしら?」
ぐんちゃん、違うとおもうよ。もうこれはただのブラコンだと思うよ。
─────
「こちらボール、状況送れ」
『こちらジャック、対象が今寄宿舎を出た。暢気に鼻唄を鳴らしている』
スマホのグループ通話機能から聞こえる若葉の声、青葉の奴はかなりご機嫌な様子でこれから出掛ける様だ。
「よし、配置につくぞアプリコット」
「うん!……コードネームの方が長くて呼びにくく無いかな?」
「気にするな、気分だ!」
物陰に隠れて待つこと数分、聞き慣れた声色の気の抜けた鼻唄が通り過ぎていく。クラスメイトに休日に何をしているかと暴かれているとも知らずに暢気なもんだ。
アホの青葉には時タマ恥ずかしい目に遭わされるからな、秘密にしていた恋人の存在を暴いてからかってやるんだ。何事にも報いを、そうだろう?青葉め。
物陰から顔を出して青葉の向かう先を覗く、向かう先はあんずが寝ていた公園みたいだ。
「ボールより各員、対象は公園に向かった。このまま後を追うから先回りを頼む」
『ジャック了解』
『フレンド、シャドウ班も了解だよ!』
つかず離れずな距離を保ちつつ肩掛けの鞄と細長い袋……刀袋ってやつだったかを背負う青葉の後を追ってたどり着いた公園、あんずが行方不明になった時のイカれ男との邂逅を思い出して少しだけ身震いしてしまうが、昼間は犬の散歩やジョギングなどで色んな人が行き来する普通の公園だ。日中なら危険もないだろう。
「全員合流したな」
自販機のお茶を買って庇の下に置かれたベンチに座って飲んでいる青葉を遠巻きに監視していると後ろから若葉の声、ひなた以外がのクラスメイトが全員そろったようだ。ひなたは巫女のお役目で大社に行っているので今回はいない、曜日や日にちが大切な"神事"ってのが在るらしいので大変だなと思う。
「ここで待ち合わせしてるのかな?」
「……どうなのかしら?」
青葉の場合はどんな理由でどんな行動をするのか解らないからな、待ち合わせかもしれないし理由は無いけどなんとなくお茶を飲みたくなっただけなのかもしれない。用事があるってのに刀袋を持ち歩いてるからな、ホントにわからん、何に使うつもりなんだ?……いや、今隣にいる若葉も神具の生大刀を刀袋で持ち歩いてるし剣に本気の奴は皆こうなのかもしれない。
「ぼーっとしてるね」
「日向ぼっこしてるカピバラみたい」
「脱力感が……そっくりね」
あの抜けてる姿を見てるとホントに青葉に恋人ができたのかって疑問が沸いてくる。
若葉の言うとおりアイツは悪い奴では無い、一緒にいて全然気を張らないしイタズラの悪企みも一緒にできるノリの良い奴だ。でも、普段の様子から異性とかあんまり気にして無いように見えるからな、そのせいか時タマ無自覚に変態っぽくなるのがタマに傷な奴だ。
青葉の事を考えて連鎖的にほぼ素っ裸の青葉に腕を掴まれた時の事を思い出してしまった。いつの間にかちょっと見上げるくらいになったアイツは引き締まったアクションスターみたいな体つきだった、暑い日でも意地でも長袖を着続けているアイツの露出の多い姿は初めて見たけど話に聞いた大変な傷痕や火傷痕、タマには無い太い腕が衝撃で記憶に焼き付いている。掴まれた腕も、どんだけ振りほどこうとしても何て事無いように掴まれ続けた力の差にちょっと男女の差を感じたのはタマだけだったのだろうか?思い出してしまった肌色にちょっと頬が熱くなる。青葉の癖に!
「あっれれぇ?その後ろ姿はエマちゃんかな?」
唐突な知らない声に皆で振り向けば知らない奴、姿はなんだかチャラい。
「んっんー?違った。ごっめーん人違いだわ……でも見た事ある顔だね」
「えーと?」
あんずに一歩近寄って顔をまじまじと覗くチャラ男、新手のナンパなのか?タマのいる前であんずに粉をかけるなんて大したタマだな。あんずとチャラ男の間に体を挟み込む。
「なんだおま──」
「思い出したっ、青葉くんが探してた写真の子だ~ね。無事だったんだ」
青葉の友達か?変な奴だな、青葉とは類友ってやつか。
「そしてそこにいるのは若葉さんじゃーないですかぁ。島根からの帰りは本当にありがとうね……やっとお礼言えた~」
「君は?……いや、ちょっと思い出したぞ。ひなたにちょっかいかけて青葉に泣かされた奴か。すまんが名前は失念してしまった」
若葉と青葉の元クラスメイトか。ってか青葉に泣かされたって……アイツ喧嘩することあるんだな。
「ならば改めましてぇ香川で今二番目に根性のある男、スーパーマッドドック、ドギー君でっす。いずれ一番になるんでヨロシコ」
なんだコイツ……ってかあの電話のアイツかよ!
「変な人だね」
友奈の率直な感想には同感だ。
「辛辣ーっ」
「二番……目?」
「一番は青葉くんっしょ」
青葉が一番根性ある?あのぽやぽやが?……ダメだ、タマにはコイツの全てが解らん!
「パッキンガールをハントしようかと思ったけど若葉さんにお礼言えたしドギー君満足だからもう帰るわ~。じゃーねー」
ふらふらと歩き去るチャラ男。
「……なんだったのかしら?」
「変な人だよ」
この公園には昼間も変な奴が現れるのか、あんずにはもうこの公園に近づかないように言った方が良いのかもしれない。
─────
「む、青葉が移動するな。ここで待ち合わせではなかったらしい」
若葉さんの声に青葉くんの方を向くと設置されたゴミ箱に空き缶を捨てて歩きだす青葉くんの姿。その後ろ姿はぽやぽやな雰囲気とは違って真っ直ぐに伸びた綺麗な背筋。
「何処に向かってるのかな?」
「タマには解らんな」
青葉くんの行動を読める人は多分若葉さんかひなたさん位じゃないかなぁ、いや、今回は読みきれなかったからこうやって尾行しているんだっけ。
青葉くんは本当に解らない男の子だと思う。
私が皆に心配掛けてしまった居眠りの日、青葉くんは私と勘違いして乱暴されていた女の子をニュースになるほどの乱闘騒ぎの中に突入して助け出したらしい。不幸中の幸いと言って良いのか解らないけど怪我をするだけで済んだ女の子を助けた青葉くんは暴れる不良達をほとんど一人で制圧しちゃったみたい。いつものぽやぽやな青葉くんを見てるとちょっと信じられない話に思える。
丸亀城に来た警察のちょっと偉い人から表彰されていた青葉くんの『ん?んん~?』と首を傾げてる姿を見てたけど本人も良く解ってない様に見えた。
でも、勘違いだったとしてもそんな危ない所に私が居ると思って助けようとしてくれたのはちょっと嬉しいかも。
青葉くんは、戦う事を知っている。
若葉さんを助けるためにバーテックスに挑み、ひなたさんを守るために刃物を持った大人と対峙し、勘違いだったけど私を救うためにひどい乱闘騒ぎに突入した。知っているだけで三回、どれも命を落としてもおかしくないはずの事。
青葉くんは勇気のある人だ。天災の日、タマっちに守られていただけの臆病な私とは違う。
青葉くんの勇気の根源はなんなんだろう?聞けば勇気の出し方を教えてくれるかな?
「ヘイ!アオバッ!」
思考に耽りながら半ば無意識に皆について歩いていると突然聞こえた大きな声にハッと意識が戻る。いつの間にか街のちょっと奥まった路地を歩いていたみたい。
「なんと!」
「マジか」
「わっ!」
「……いきなりね」
若葉さんの音量を落としつつも震える驚愕の声。そして、その声に続く皆の驚きの反応。
それも仕方ないと思う、電話しながら歩いていた青葉くんが異国情緒溢れる金髪の女の子にしがみつかれていた。
「ヘルプ!あたまオカシイひとついてくる!」
「ん!」
女の子が指差した先にボロボロに擦りきれた服を着ている割れた眼鏡の男性が笑顔で足を引き摺りながら歩いているのが見えた。笑顔がとても不気味だ。
「うへぇ」
タマっちの嫌そうな声、知り合いなのかな?
青葉くんが何て事無いように顔でしがみつく女の子の腕をそっとほどくと珍しい大声を放った。
「あわせて!」
青葉くんに投げられるスマホ、不気味な人は股間に当てられたそれに動きを止めた。
「君はいつも突然だな!」
また知らない男の人の声。声の感じから多分年齢は私達に近いと思う。
「そーれっ!」
「でやぁぁぁっ!」
青葉くんと道の向こうから走りながら現れた知らない男の子がそれぞれ曲げて突き出した肘で挟み込むように不気味な人の首を叩いた。
「スゲェッ、クロスボンバーだ。息ピッタリじゃん」
タマっちの声量を落とした驚きの声。
不気味な人の眼鏡がポーンと明後日の方向に飛んで行ってそのまま咳き込みながら踞っちゃった。
「よしっ、逃げよう」
「サンキューアオバッ!ハンサムボーイ!」
「どういう状況なんだいこれは?」
投げたスマホを拾い上げて走り出す青葉くんと知らない二人、ホントにどういう状況なんだろう?
青葉くんを見失わないように走る私達が不気味な人の横をすり抜ける時に「あぁはぁぉおぇっふ」と不気味な声を聞いた。
─────
傷だらけのスマホの理由は扱いの悪さだったのか、物は大事に使えとちょっとお説教しなければいけないのかもしれないな。
いや、今はそんな事より青葉に抱きついていたあの女子の事だ。あれが青葉の交際の相手なのだろうか?
「アオバにはまたタスケられました」
「ん」
「またって、似たような事が前にも?」
突然合流した理知的な顔の少年も青葉と仲が良いように見えるがどういう関係なのだろうか?少なくとも以前の学校のクラスメイトでは無いだろう。顔に全く覚えがない。
「ハイ、ムリヤリにファックされそうなのをタスケられました」
「……」
あまりにもあっけらかんと言う女子に固まる理知的な少年。尾行していた私達もそれぞれ見開いた目でお互いの顔を見合わせてしまった。
「スゴかったですよ、ニュースになるジケンにアオバはヒトリでとびこんでタスケテくれました。」
例の杏と勘違いして突入した乱闘事件の被害者だったのか、確かに歩いている後ろ姿は杏と瓜二つに見える……もしかしてその縁で青葉と恋仲に?
「ん、そんな事よりエマちゃんは何でこんな人通りの少ない道に?あんな事件があったのに無防備過ぎるよ」
"そんな事"で片付けるな阿呆!
だが確かにここはお世辞にも落ち着ける場所とは言えない場所だ。廃ビルや空き家の多い少し薄暗い場所、女子の一人歩きにはよろしくない場所である。
「アルバイトでス。ニュースペーパー……シンブンはいたつデス」
「へ~」
「デモもうオワッタので帰りまス」
「人の多い所まで送ろう」
理知的な少年の提案、青葉には多分できない気遣いがあの少年にはできるのだろう。
「サンキューハンサムボーイ、でも家はアソコにあるので問題ないでス」
「なるほど、帰りたくてもあの変な人が着いてくるから帰れなかったんだね」
あの変質者に家を知られないように逃げ回っていたところ青葉に会ったと、そういう事か。
「それじゃ、アリガトでした。アオバ、ハンサム」
元気良く手を振って走り出す女子を見送る男子二人。青葉の用事とはあの異国情緒溢れる女子では無かったらしい。
「ハンサムだってさ」
「……辞めてくれよ」
仲良さげに肩を並べて歩く青葉と少年。あの二人の関係はなんなのだろう?
「んで、例のブツは用意してくれたの?」
んん?
「抜かりないさ、ここに各種揃えてきたよ」
「さっすがー」
理知的な少年が片手に提げる銀のアタッシュケースを音を立てて叩く。青葉の用事の相手とはあの少年だったのか。
「なんだよ、恋人じゃなくて友達にあう用事だったのか」
球子の少し落胆した声。肩透かしな空気が私達に満ちる。
「上質な物をね……揃えれるだけ揃えてきたんだ」
「そいつは良いね、ご機嫌だよ」
「この中は和洋中、なんでもござれさ」
ちょっと待て、なんだその会話は。その話し方だとまるで──
「なんだか密売人とお客さんみたいな会話だね」
「こんな話の流れアウトローな内容の小説で読んだ事あるなぁ」
私の心の内を友奈が代弁し、杏が同調する。
まさか、まさかだよな青葉、そんな物に手を出してなんかいないよな?と、心が不安に満ちる。
「早速試すかい?」
「いいね、試すにはうってつけの人のいない場所をこの近くで知ってるんだ。そこに行こう」
あ"あ"あ"あ"あ"っ!青葉!何を試すつもりだ!私が感じていた違和感はもしかして『人間やめますか?』のフレーズで有名なアレが原因なのか!?
今にも飛び出してしまいそうな私を押さえつける球子と友奈、何故止めるのか。
男子二人が向かった先は一棟の廃ビル、裏口を躊躇無く開けた青葉についていく少年。時間差を置いてから廃ビルに慎重に忍び込んだ私達は壁越しに青葉と少年の会話を盗み聞く。
「んー、これはあんまりだね」
「これはどうだい?」
小刻みに聞こえるトンッという音に混じる男子二人の声。
「ん、結構いいけどちょっと持ち歩きには向かないかな?」
「じゃあコレは?」
軽快に交わされる男子二人の会話。
「コレも射ってみたらどうだい?」
「ん」
そういうのには興味が無かったから知らないが短期間に幾つも試して良いものなのか?……もうガマンできん、突入する。
「私は行くぞ、青葉を止めなければ!」
「そうか、頑張れ若葉」
球子の気の抜けた声援、何故そんなにのんびりした様子でいられるのだろうか。
「青葉っ!」
壁から開け放たれた扉に身を乗り出して叫ぶ、同時に私の体から腕一本分離れた場所にクナイが突き刺さった。……何故クナイ?
「うわあっ!若姉さん危ない!」
「お怪我はありませんか!?」
慌てる男子二人。
「ほらな、こういうパターンは大体勘違いなんだ。タマはもう学習したぞ。」
「お約束だね」
球子と杏のやれやれといった声。
「青葉くんはそういうアウトローな事興味無さそうだもんね」
「乃木くんは……結局いつも健全だから」
友奈の声とそれに同調する千景の声。
つまり、どういう事だ?ん?んん?
─────
乃木くんと理知的な男の子に事情を聞き終えて解った事は実に単純な事だった。
乃木くんがちょっとした切欠で知り合った剣術の友達に『投擲武器で良いもの何か知らない?』と聞いた所、『道場の倉に使ってるか解らない投擲武器が色々あるから試してみなよ』と返されて実際に試そうとしたのが乃木くんの今日の用事だったらしい。
「疲れたわ」
解散して帰った自室のベッドに身を投げ出して呟く。
結局、乃木くんの恋人騒動も勘違いだったらしい。その場で乃木さんが問いつめた所『あっはっはっ、まっさかぁ』と乃木くん本人に笑い飛ばされていた。私は、少し安堵した…………何で、私は安堵したのだろう。
最初に乃木さんが『青葉に、恋人ができたのかもしれない』と言った時も何故かとても不安になったしまったのも、何故なのだろう。
「…………」
天井を見詰めながら考える。
多分、乃木さんや土居さんに恋人ができたと聞いてもそれほど動揺は無いと思う。でも、高嶋さんに恋人ができたと想像すると、胸が少し苦しくなる。
高嶋さんと乃木くんの共通点、それは多分二年前のクリスマス前の日に私に言ってくれたあの言葉だ。
『友達』
自然に手を繋いで微笑んでくれる高嶋さん。
優しく手を引いてくれる乃木くん。
二人は、私にとって初めての『友達』なんだと思う。
二人と一緒に居ると、両親にも感じた事の無い柔らかで暖かい気持ちが何処からか産まれてくる。とても優しくて落ち着く気持ち、多分この気持ちが『友達』に感じる"友情"なのではないかと最近の私はそう思っていた。
去年の秋、乃木くんが私の手を引いてくれた時のゴツゴツした感触を思い出す。硬い手のひらに感じた優しくて柔らかい不思議な感じ、自然と頬が緩む。
少し前の春の夜、手を引いてる歩いた時に乃木くんは『千景ちゃんの手は暖かくて好きだなぁ』と言ってくれた。乃木くんも、同じ気持ちを感じていたのだろうか。
『友達』と、私は口に出して二人にそう言えた事は無いけど二人は私をそう言ってくれた。私も、そう思っている。そう、思っていたい。
乃木くんに本当に恋人ができたとしても、乃木くんはそれでも私の手を引いてくれるのだろうか。
乃木くんの手は、一本しかない。乃木くんが手を繋げるのは、一人だけなのだ。
曖昧だった頭の中の思考が言葉として纏まり、不安の根源に思い至る。私は、寂しかったのかもしれない。
そして、もう一つ思い至る。
乃木くんには友達が沢山いる、丸亀城の中だけではなく外にもだ。明るくて優しい高嶋さんもきっとそうなんだろう。
二人にとって私は沢山いる『友達』の中の一人なのだろう。でも、私には手を伸ばしてくれた二人だけ。
私は、『友達』が離れてしまうかもしれない事を恐れて不安になり、勘違いだったと知って安堵した。安堵してしまった。
本当に『友達』だと思うならばきっと祝福しなければいけないはずの事なのに。
自分の醜さに気付いてしまった。
醜い私は、やはり無価値なのだろう。
若葉さん
コードネームはジャック、若→じゃく→ジャック、サイボーグ忍者ではない。喧嘩にそこまでするのぉ?投げたブーメランが全部青葉くんの額に刺さる。大好き光線には気づいて無かった、だってそれが仲良し3人組のスタンダードだから。お姉ちゃんは心配性、恋人できたのなら紹介しなさい!勘違い。まて、その闇取引みたいなのはなんだ?まて、試すな。辞めろバカ!勘違い。
ひなたちゃん
相談の内容にびっくり。皆が何か知ってるかも、聞いてみましょう。後から聞いたオチにやっぱりなぁってなった。若葉さんと青葉くんはすでに家族的な何かに数えてる。
友奈ちゃん
コードネームはフレンド。えーー、と思いながらも面白そうだからノリで参加。ノリが良い協調性の高い勇者。青葉くんは鍛練のライバル、超えるべき目標。でも青葉くんはエセ紳士だから打ち返してこない、反射的に反撃してくるような力量が欲しい。競い合いたいのかもしれない。
タマっち
ボール再び。記憶に焼き付いた肌色にテレる、ムッツリかな?ただのトラウマかもしれない。公園はタマっちにとって危ないスポットとして記憶されました。青葉くんは友達でイタズラの相棒、丸亀城でやんちゃなノリが一緒にできる奴。
杏ちゃん
コードネームはアプリコット、呼びにくくなぁい?ガールハントの声が掛かる金髪美少女、変な人にモテる。勇気が欲しい。青葉くんは理解の外にいる不思議な人。
千景ちゃん
シャドウ再び。一番可能性があるとお姉さんに言われて一瞬だけ思考停止してた。でも違うんだなぁ。皆でワイワイやった後に自室で心の整理。青葉くんは『友達』高嶋さんと一緒の枠。
エマちゃん
色々大変な目に遭ったけどまずはアルバイト、稼がなければ生きていけません。
ハンサム君(かつてのエリート君)
青葉くんとはちょこちょこ会っては軽く試合する仲。「あわせて!」の一言で合わせられる男子のノリ。初対面のエマちゃんにちょっとドキドキする思春期男子。
ドギー君
気の合う友達がほとんど連行されて暇な自由人、ナンパするために散歩。思いがけず若葉さんに再会、お礼が言えた。良かったね!
イカれ男
抱き締めたいフワフワな子が増えてニッコリ。眼鏡狩りされてノックダウン。「あぁはぁぉおぇっふ」眼鏡を探そう。
青葉くん
出発→待ち合わせ場所で茶を啜る→急用でちょっと遅れる連絡→待ち合わせ場所変更→合流寸前でアメリカンなヘルプ要請→クロスボンバー→試す。そんな普通の休日を観察されてた。姉が暴露してしまった事は皆聞かなかったふりしてくれているので本人は知らない。内緒の理由は投擲武器を欲した理由の説明に困るから。モテない理由は大好き光線(オブラートに包んだ表現)。オブラートに包まない表現?滲み出るシスコン臭。
乱闘事件
そういう事になった、主に大社パワーで。イメージアップの為に青葉くんを利用してみました、本人は良く解ってない。
指南役の老人
小童が色気付きおったわ、この前までは目の前で鯉口カチカチ鳴らしてやっても「落ち着き無いね、トイレガマンしてるの?」ってボケ老人扱いしおった癖に今では小さく一度鳴らしただけで反応しよる。面白いから忘れた頃に背後に回って鳴らしてやれば小童めビビりよるわ「わざとやってる?」とかほざきよるがボケ老人だからなんの事か解らん。青葉くんが実戦に備えたがってるのを見抜く。初めての実戦相手は腹違いの姉。
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誤字報告ありがとうございます
編集中の文を間違えて投稿してしまう凡ミス、失礼しました。