乃木さんちの青葉くんはこんな感じである 作:ቻンቻンቺቻቺቻ
「おはよう、まきくん」
みーねーちゃんの朝は早い、オレが起きた時にはみーねーちゃんが用意したお昼に食べるおにぎりとか休憩の時に飲むお茶を風呂敷に包んだ物が大体部屋の隅に用意されているからだ。
一緒に畑で色々やるジッチャンやバッチャン達からは『毎日休まずできるなんてえらいね、きっと良いお嫁になるね』なんてよく言われてみーねーちゃんは赤くなっている。お嫁になるならオレのお嫁になって欲しい。
いつもみーねーちゃんと二人で手を繋いで畑に行くと、ほとんどの場合うたのんねーちゃんがもう畑で元気良く色々やってる。うたのんねーちゃんは最強過ぎるから寝ないで畑にいるのかもしれないなんて思う事があるけど暗くなって帰るときは皆一緒だから多分みーねーちゃんより朝早いだけなのかもしれない。自信はない。
「グッモーニンッ!みーちゃん、まきお」
「おはよう、うたのん」
「うたのんねーちゃん、おはよう!」
畑で色々一緒にやる人達はうたのんねーちゃんが元気なのを見て皆元気になる。みーねーちゃんもそうだしオレもそうだ。うたのんねーちゃんが元気だと皆嬉しい、オレももっと一緒にいてもっと嬉しくなりたいからお嫁にきて欲しい。
「茄子がもうナイスな感じね、他の秋野菜もかなりナイスな感じだし今晩は皆で集まって網焼きなんてどうかしら?」
「わぁ……素敵だね」
うたのんねーちゃんの育てた野菜は好きだ。こうなる前はあんまり野菜は好きでは無かったけど皆で育てた野菜を食べてからはとても野菜が好きになった。特にうたのんねーちゃんが育てた野菜は特別美味しい気がする。
「ナスに味噌塗って焼きたい!」
「ん~~っ!それはナイスな案よまきお。想像しただけでヨダレが出てくるわ!」
「網焼きするなら魚の干したのがあったからそれも焼こうよ」
網の上でじっくり焼き上げた半身のふわとろなナスに味噌を塗ってチリチリと焦げ目を着けた焼きナス、アレは最高に美味しいのだ。薄くスライスしたカボチャをほんの少しの塩で焼いて食べるのも甘くて美味しいし、軽く焦げ目を着けたネギにちょっと醤油をつけるのも想像しただけでヨダレが出てくる。
三人で食べ物の話をしていると畑で色々やってた他の人達にも網焼きの話が広がったらしく、まだ午前中なのにそこら辺の人達も楽しそうに晩御飯の話をし始める。どうやら今晩は畑の皆で集まって網焼きパーティーになるのが確定したらしい。
「なんだかとってパワーがみなぎって来たわ!そうと決まれば今日も一日がんば──」
突然離れた場所から聞こえる警笛の音。聞き慣れてしまった嫌な音にその場の皆の楽しそうな顔が引き締まる。この警笛は"奴等"がきた合図だ。
「──っは!こうしちゃいられないわ!勇者白鳥歌野今征きます!」
「うたのんねーちゃん!オレも行く!」
一瞬だけ驚いていたうたのんねーちゃんがすぐにやる気に満ちた元気な顔で走り出す。"奴等"は皆でつくった此処に酷い事をする敵だ、オレはここで待ってるなんてできずにみーねーちゃんと繋いでいた手を離して走り出す。
走り出したタイミングの違いはほんの少しだけなのに、追い掛けた最強の背中はすぐに遠くなった。
「待ってまきくん!危ないよ!」
オレを追い掛ける声は、すぐそばにあった。
みーねーちゃんこそ危ないから待っていて欲しいのに。
「みーちゃんとまきおも、着いて来ちゃったの!?」
うたのんねーちゃんが走り着いた先にオレも追い付くとうたのんねーちゃんの驚く声。オレだってこの諏訪の男なんだ、敵が来ているのに黙っているなんてできやしない。
「オレがいるなら百人力だよ!」
「はぁ……はぁ……最後まで……追い付けなかった」
結局みーねーちゃんも敵である"奴等"……今回は一匹だけだから"奴"のいる場所に来てしまったけどなんとかなる、オレがなんとかしてみせる。
「おっ、まき坊も来たか!」
先に来ていた沢山の畑仲間のオッチャン達が"奴"ことイノシシを鍬とかシャベルを持って半分だけ描いた丸で囲んでいる中からオレの事に気付いたオッチャンが楽しそうに言った。
「でもジャマだから下がってろ」
その言葉にカチンときたので足元の石を拾ってオレと同じくらいの大きさのイノシシ目掛けて投げつける、オレだって戦えるんだ。いずれスゲェ男になってうたのんねーちゃんとみーねーちゃんをお嫁に貰いたい俺はイノシシ相手にビビってはいられない。
──フギィ!!
オレが投げた石は囲んでいた大人達を睨み付けながらふごふご鳴いてたイノシシのおでこに当たり地面に落ちた。
「まき坊、おめぇやりやがったな!」
「ブワハハハ!とんでもねぇヤンチャ坊主だな」
楽しそうに怒る大人達の声、近くにいたみーねーちゃんが「ひゃぁ、まきくん危ないよぅ」と震える声で言いながらオレを抱き締めるように押さえるけどもうやってしまった事なので手遅れだとおもう。
──フゴフッ!
石を投げたオレがいる方向とは違うあさっての方向に駆け出したイノシシが畑から追い出そうと囲んでいた大人達を追い散らす、ギャーギャーと喚き散らす大人達の必死な様子が面白くてなんだか笑ってしまいそうだ。
「あわわわわ……大変な事になっちゃった」
「コレはもうどうしようも無いわ、二人ともこっそり目立たないようにエスケープして……まきおは後でお説教よ!」
「えーー」
うたのんねーちゃんに言われるがままにみーねーちゃんの手を引いて物陰に隠れる。
イノシシは腰を痛めていたから遅れてきた猟師のジッチャンに撃たれて今晩の網焼きパーティーの一品になる事になった。
─────
"奴"ことイノシシの襲来が落ち着いて大人達がイノシシを捌いてお肉に変えている間、うたのんねーちゃんとみーねーちゃんとオレはごちゃごちゃとした機械の前に肩を並べて座り、四国の人達といつもの通信をしていた。
「──ってな訳で今夜は皆で網焼きとイノシシで焼肉なんだ、羨ましいだろ!」
『ぐぬぬっ、まきおの癖にグルメなパーティーとは生意気な。素で羨ましいあたりがまたムカつく』
『七歳相手の言葉に本気で歯を喰いしばるな、どれだけ悔しいんだお前は』
うたのんねーちゃんと若葉ねーちゃんのいつものを終わらせた後の皆でのお話で青葉に自慢してやれば通信越しでもわかる悔しそうな声、青葉はうたのんねーちゃんが最強だと認めない生意気な奴なのでいい気味だと思う。
『それにしても猪ですか、追い掛けられた人達にお怪我は有りませんでしたか?』
この優しい落ち着いた声はひなたねーちゃんだ、スピーカーから聞こえる声は心底心配そうで見ず知らずのオッチャン達を本気で心配しているのが解る。みーねーちゃんと同じ巫女さんだって聞いてるからきっとひなたねーちゃんも凄く優しいねーちゃんなんだろうなって思ってる。会ってみたいなぁ。
「大丈夫ですよ、一人二人跳ね飛ばされた人もいましたが畑の柔らかい土がクッションになって怪我は有りませんでした」
通信する時はいつもとは違う喋り方になるうたのんねーちゃん、前になんで喋り方を変えるのかって聞いたら『これも勇者のお役目だからよ』と言っていた。勇者……最強の為にこういう喋り方をしているって事はオレもこういう喋り方をしたら最強に近づいてスゲェ男に近づくのかな?でも、 難しいからまずは他の事で頑張る予定だ。
「暴れていた猪もすぐ後に来た猟師のお爺さんがなんとかしてくれたので……周りの被害もほとんどありませんでしたよ」
『猟師……鉄砲かぁ、暴れる猪を倒しちゃうのは凄いね』
「あの猟師のジッチャンは多分青葉より強いぞ、パーンってやったらすぐにイノシシが倒れたんだ。一撃だもん」
青葉は生意気だけど実は自分より大きい相手に喧嘩で勝てるくらいには強いらしい。でも、さすがに離れた所から攻撃できる猟師のジッチャンには勝てないだろう。
『……そうだろうね、飛び道具は怖いよ。鉄砲なんて向けられたらどうしようもないや』
『真剣に考え込んだと思ったら何を当たり前の事を言ってるんだ?』
『……いや、鉄砲向けられたらどうするか考えたけど何も思いつかなくてさ』
普段とはちょっと違う青葉の声と若葉ねーちゃんのツッコミ、珍しく素直に認めた青葉になんだか拍子抜けしてしまった。
『まきお』
「なんだよ?」
ちょっと真剣な青葉の声も珍しい。
『歌野ちゃんと水都ちゃんは好きか?』
「当たり前じゃん、超大好きだし。超だぞ、お嫁にきて欲しい」
うたのんねーちゃんとみーねーちゃんが小さく「フフフ」と笑う。多分本気に思われてないんだろうなってのはオレには解る。
『まきおの目の前で二人が鉄砲を向けられたらどうする?』
「めっちゃ守る!」
何を当たり前の事を聞いてくるのか、青葉はやっぱりアホだな。
『そうか、そうだよな……うん、そうだな』
何かに納得した青葉、アホが何考えてるのかなんてスゲェ男になる予定のオレには解らないのでどうでもいいや。この後すぐにいつものムカつく感じに戻った青葉、皆もいつもの感じで楽しくお喋りする。
「さて、そろそろ時間ですね、今日はこのくらいにしておきましょうか」
楽しい時間はとても早く感じる、今日の通信はもうおしまいだ。うたのんねーちゃんがごちゃごちゃとした機械をいじると最近音の悪くなってきたスピーカーが静かになる。
楽しい通信は終わった。でもこれから楽しい網焼きパーティーなのである。
─────
楽しい網焼きパーティーもすぐに終わってしまった。最後の方は大人達が皆お酒を飲んでアッパラパーになっていたけど皆楽しそうにしていた。
いっぱいいっぱいに膨らんだお腹に満足しながら家に帰れば後は歯を磨いて寝るだけ、今日は白い怪獣の来なかった楽しい一日だった。
「明日のおにぎりのお米研いでおかなきゃ」
台所に立って音を鳴らしながらお米を研ぐみーねーちゃん、その音にまだハッキリと覚えているかーちゃんが台所に立っていた後ろ姿を思い出す。
『まきお!寝るなら歯を磨いてから寝なさい!』
よくそんな風に怒鳴られた。
──かーちゃん、オレちゃんと毎日歯を磨いてから寝てるよ。
きっとかーちゃんにはもう会えない。
オレは最近になって死ぬって事がどんな事かをちょっとだけ解ったんだ。今日だって"奴"……イノシシは死んで畑の皆に食べられた。
かーちゃんはいなくなる最後に走ってるオレを突き飛ばして『いきて!』って叫んでた。突き飛ばされたオレが振り返った時には白い怪獣しかいなくなっていたのはかーちゃんは白い怪獣に食べられたからだと思う。
白い怪獣が憎い。
うたのんねーちゃんは最強のヒーローだ、白い怪獣が来たら全部ボッコボコにしてやっつける。
みーねーちゃんもスゴいねーちゃんだ、うたのんねーちゃんは最強の理由の一つにみーねーちゃんが応援してくれているからって言ってた。その後に『まきおの応援もとてもパワーになってるわ』って言ってくれた。つまりオレもちょっとスゴいのだ。
うたのんねーちゃんみたいに最強になりたい。
最強になってうたのんねーちゃんと一緒に白い怪獣を倒したい。うたのんねーちゃんは最強でもたまにちょっと失敗して怪我をする事があるからオレはそれを守りたい。
「まきくん、まだ起きてたの?」
「今歯を磨き終わったからもう寝る」
エプロンを脱ぎながら台所から出てきたみーねーちゃん、エプロンがとっても似合う。いつもエプロンを着けてる時間の方が長かったかーちゃんもエプロンがとても似合ってた。
みーねーちゃんはきっと良い"かーちゃん"になると思う。だってオレがみーねーちゃんの事をこんなにもかーちゃんみたいに好きだからだ。
「そうなんだ、それじゃあもう寝ようか」
「うん」
隣り合わせてに並べた布団にそれぞれ入る。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
明日も、明後日も、ずっと今日みたいな一日になれば良いなぁ。
まきおくん
華麗なるまきおの華麗なる一日はみーちゃんの「おはよう」から始まる。そして華麗なる一日の終わりはみーちゃんの布団に潜り込んで終わる。スゲェ男になってねーちゃん二人をお嫁さんに貰いたい無謀な男の子、身をわきまえろ!でも大好きな気持ちは本物、それがどんな類いの大好きなのかは不明。死とは何かを考え始めた七歳児、環境故か生い立ち故か。かーちゃんはもういないって理解してる。
うたのん
ヒャハー!収穫の季節だぜ!たまんねぇなぁ!おいそこの茄子!収穫されたくなければ10秒数える前に赤くなってみせろ!10…9…8…ヒャァッもう我慢できねぇ!0だ!収穫。丹精込めて育てた野菜は当時五歳の少年の野菜嫌いを修正した。「超大好き」は嬉しい。「お嫁に欲しい」は本気にしてないけどやっぱり嬉しい。
みーちゃん
避難民のジッチャンとバッチャン達に色んな知恵袋を授けられて自然と花嫁修業みたいになってる女の子。え?結界から出て山葡萄を収穫してきたって?……なにやってるんですか!ジッチャン達相手に珍しく怒る。葡萄をこう……ゴニョゴニョするとな、大人の飲み物になるんやで!いつの間にか手伝わされてる、これは必要無い知恵袋だ。酒税法?密造?知らんなぁ!酒に命を賭ける飲んべえ達に頭を悩ませてる。
青葉くん
七歳児にムキになる。鉄砲は怖い。でもゼロ距離で突き付けられたら引き金を引く前に身をずらして抜刀する自信はある。
若葉さん
弟に対して何を言ってるんだと思ったけどまきおへの質問でもしかして刃物男の時に相手が鉄砲だったらって考えたのかなって思った。鉄砲持ってるヤバい奴がそうそういてたまるか。
ひなたちゃん
青葉くんはきっと相手が鉄砲でも怯まずに私達を護ろうとするって確信してる、それがどんな方法であろうとも躊躇わないんだろうなとも確信してる。かつて見た赤い背中がそう確信させる。危ない事には近寄らない!
諏訪の農民
イノシシを追い払おうとして跳ね飛ばされたり二日酔いでも鍬を振ったりとたくましい奴等。うたのんの影響で毎日が大変でも楽しい。飲んだ酒は密造酒。
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誤字報告ありがとうございます
読みにくい表現を少し修正しました。