乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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25:ピッタリな感じの息、もしくは試行錯誤の話

 寒い。薄ぼんやりと定まらない意識の中、自分という肉体に魂が重なってないかのような不定形な感覚の中で感じるのはただそれだけだった。

 布団……布団は何処へ消えたのか。僕の聖域を形作る真綿の結界、例え全裸でもこの結界の中では誰にも咎められる事は無い。

 僕の肩に触れて揺り動かす小さな感触、激しく鳴らされる鈴の音のような誰かの声の不快感よりもこの小さな感触の暖かさをもっと感じていたい。

 

 この感触を掴んで、抱え込むように引き寄せる。

 

「うわぁっ」

 

 僕の胸に収まったほどよい柔らかさの温かさが心地好い。ぐねぐねと動いて離れて行こうとする温もりの塊に右腕を絡みつけて自分の胸に押し付ける、温もりと柔らかさの心地好さに喉の奥、肺腑からじわりと吐息が漏れて喉が音を鳴らす。

 

「ん~~……」

 

「ンーーッ!」

 

 諦めの悪くビチビチと動く温もりの塊に覆い被さるように寝返りを打って体全体で押さえ込む、体全体で感じる温もりの塊の大きさは僕より幾らか小さい程だ。

 

「タマっちが補食されちゃった」

 

 寒さと自らが動いた刺激により定まってきた意識で拾った音が言葉として認識される。そうか、タマっちが補食されたのか。……なんだって?

 

「んん~~?」

 

「ぷはっ……なにすんだよっ、離せ」

 

 眼を開ければ至近距離に球子のちょっと赤くなった顔。なんだ、球子はここにいるじゃないか。

 

「ん~」

 

「おい!離せって!」

 

 感じる温もりを更に抱き寄せて堪能しつつ再び目蓋を閉じる。

 

「タマっち……たべられてないじゃ……ん」

 

「青葉くん寝惚けてるね」

 

「タマは今青葉に捕まって食べられそうなんだが」

 

 そうか、球子は僕に捕まっているのか。つまりはこの温もりは球子だったのか。

 

「……タマっち……あったかい」

 

「そうだよね、タマっち先輩はあったかいよね」

 

「えぇい、この……離せっ!」

 

 温もりが跳ねるように動き、顎に衝撃と痛み。

 

「んぐぅ……ん?」

 

 痛烈な刺激に眼を開ければ至近距離に球子の顔、赤らめた顔で少し怒ってるように見える。

 

「おはよう、タマっち。なんだかやけに近いね」

 

「この助平青葉!まずは手を離せ!」

 

 手?そう言われてから僕はようやく自分の状態を認識した。僕は事もあろうに自分の敷布団の上で球子を抱き締めて覆い被さるような姿勢になっていたのだ。

 

「んぬぁ!?」

 

「まったく、青葉相手に油断するとすぐこれだ」

 

 驚いて跳ね起きた僕に身を起こした球子がジットリと睨み付ける。なんだってこんな状況になっていたというのか、男女七歳にして席を同じうせずとまでは言わないけど同衾するのはいかがなものかと思う。

 

「ハレンチはいけないと思うよ?」

 

「あぁそうだな、だから報いを受けろ助平青葉」

 

 赤い顔の球子に平手打ちされた。何故なのか、説明を求める。

 

「タマっち先輩が青葉くんを起こそうとしてお布団を剥いだら青葉くんがあったかいタマっち先輩を捕まえちゃったんだよ」

 

「息をするようにセクハラしやがって、タマはいい加減慣れてきてしまった自分にタマげてるぞ」

 

「そうなんだ……ん?」

 

 そもそも何故球子と杏が朝の少し早い時間から僕の部屋に来て僕を起こそうとしていたのか。

 

「解らない顔してやがるな、外を見てみろよ」

 

 赤みの引いてきた顔でニヤリと笑う球子に促されて釈然としない気持ちのまま閉じたカーテンに歩み寄る、今では腕を無くした直後と比べて空に対しての恐怖感はかなり薄まってはいるものの完全に何も感じない訳では無い、違和感を持たれない程度に一瞬だけ息を整えてから意を決してカーテンを開いた。

 

「なんてこった」

 

 辺り一面の白、何処を見ても白、朝日を反射して輝く白。丸亀城が漂白されていた。

 

「な?スゲェだろ、ワクワクしてこないか?」

 

「タマっち先輩ったら昨日見た大雪の天気予報見てからずっとソワソワしてたもんね」

 

 確かに昨晩の時点で大雪は予報されていた、だから日課である姉との朝の鍛練も滑ったら危ないので今日はお休みにして堂々と寝坊していたのだ。

 大雪の予報に違わず降り積もった分厚い雪の層、まだ誰にも踏み荒らされてない美しい白の光景から反射する光が寝起きの瞳を刺激する。

 

「……はっ!まさかタマっち……」

 

 ワクワクしている様子の球子は既に防寒装備、タマっちに付き合わされてるだろう杏も同じく寒さに備えた姿である。

 

「友奈は既に起こした、今は支度してる」

 

 再度ニシシと笑う球子、つまりはそういう事なのだろう。

 

「庭師のオッチャン達に掃除されちゃう前によ」

 

「エンジョイだね」

 

「そうだ」

 

『エンジョイ!』

 

 朝から揃う合言葉、寒さに感じる気怠さも朝早い時間に感じる眠気も既に無かった。

 

 

 ─────

 

 

『せーーのっ!』

 

 声を揃えて白い平面に三人で飛び込んだ。受け身なんて考えない無防備に大の字に倒れるジャンプである。

 

『…………』

 

 着地の瞬間に全身に感じる片栗粉に重さと柔らかさを足したようなキュッとした感触と顔への冷たさ。そして、直後に感じる鼻への痛み。

 やや時間を置いて身を起こす。

 

「……鼻ぶつけた」

 

「私膝ぶつけた」

 

 大雪だったとはいえ脛の高さ程度の積雪では僕と友奈を受け止めきる事は出来なかったらしい、裏切られた気分だ。

 

「……だから止めたのに」

 

 飛び込むのには乗り気では無かった杏の呆れた声。

 

「タマは平気だったぞ?」

 

 満面の笑みで上機嫌な球子だけが平気だったらしい、球子にも裏切られた気分だ。この差は多分体重差によるものなんだろうけどそれを指摘すれば球子も友奈も怒り出しそうなので口にはしない。女の子に体重や体型の話題が厳禁なのはこの丸亀城で過ごした二年間で嫌と言うほど学んだのだ。

 

「ん、お約束な飛び込みも済ませたし何をしよう?」

 

 雪をエンジョイするのにも色々な種類がある。雪合戦然り、かまくら然り、雪だるま然り。どれも楽しそうだ。

 

「らしく無いな青葉」

 

「ん?」

 

 鼻で笑いながらやれやれと首を振る仕草の球子。花開く笑顔の友奈が球子の言葉に繋ぐ。

 

「思いつくもの全部やろうよ!」

 

「ん!」

 

 そうだった、エンジョイとは即ち楽しむ事。何をする何をしないと決めて楽しみの可能性を狭めるのはナンセンスだ、楽しそうだと思った事を無差別に手当たり次第やるのがエンジョイの花道である。最近の僕は鍛練に力を入れすぎてそんな基本的な事を失念してしまっていたようだ。

 

「タマはここを拠点にする事を提案する!」

 

「タマっちの提案を支持しよう!」

「同じくタマちゃんの提案を支持するよ!」

 

「え?……えっと?」

 

 僕達三人の視線を受けて少したじろぐ杏、ややあってから思い立ったかのように口を開いた。

 

「よ、よろしい!……かまくらを設営せよ!」

 

『エンジョイ!』

 

 結論から言って、かまくらの設営は失敗に終わった。

 

「かまくらってさ、人が入れる大きさにしなきゃだよね?」

「そうだな、あんず」

 

「皆が作りたいのって、皆で入れる大きさだよね?」

「そうだよ杏ちゃん」

「皆で作るんだから皆で入れなきゃ」

 

「雪……足りないね」

『…………』

 

 杏の言ったように寄宿舎の前に降り積もった雪をかき集めて盛った雪山は中身を掘り抜いても皆で入るにはどう考えても小さい物だった。二人位なら肩を寄せ合ってどうにか入れるがそれ以上はどう足掻いても無理だろう。

 他の場所から雪を持って来るにしても雪を運んでいる間に日がぐれてしまうだろう距離にしか雪は残ってないのだ。

 

「……雪だるま作ろう!」

 

 気を取り直して元気よく声を放つ友奈、ここに雪が無いのなら他の場所で雪遊びである。

 

 結論から言うと、雪だるまの作成も失敗に終わった。

 

「ねぇ青葉くん」

「ん?」

 

「雪だるまって、頭もお腹もまんまるだよね?」

「ん」

 

「私達が押してるの……ロールケーキみたいな形だね」

「……ん」

 

 僕と友奈で胴体、球子と杏で頭と手分けして雪だまを転がしていたのだが、僕と友奈は何度作り直しても歪で大きなロールケーキのような形にしかならなかった。離れた所で同じように雪だまを転がしていた球子と杏もこちらと同じく歪なロールケーキか短い樽みたいな形にしかなってない様子。テレビで見た丸くて大きい雪だまはどうやって作るのだろう。

 そこかしこに乱立する寸胴な雪の塊、僕達は本格的な雪遊びの経験が足りない模様、どうにも上手くいかない。

 

「僕達は……雪でエンジョイできないのかな……?」

 

「諦めるなよ青葉!タマ達のエンジョイはこんなもんじゃないだろ!」

「そうだよ青葉くん、まだ私達にできる何かがあるはずだよ!」

 

 誰かと何かの勝負をしていた訳でも無いのに不思議と漂う敗北の気配、言葉では前向きな球子と友奈も声色は少し力が無かった。

 

「あっそうだ、この雪だま?を全部さっきの雪山に足したらかまくらに十分な大きさにならないかな?」

 

『!?』

 

 唐突な杏の提案。なんて事無いように言われたその言葉は肩を落としていた僕達に光を与える言葉だった。消えかけていた僕達のエンジョイの灯火に再び朝一番と同じだけの活力が復活する。

 

「さっすが杏ちゃん!」

「アンちゃんは賢いね!」

「タマも鼻が高いぞ!」

 

「えっ、そうかな?」

 

 結論から言うと、微かな失敗は有ったがおおむね成功だった。

 

「んぎぎ……重たいぞ」

「皆で押しても、凄く重いね」

「今日ほど隻腕を嘆いた事は無いよ」

 

 雪だまは転がせば転がすほど大きくなる、寄宿舎から離れた場所で作った雪だま群れを寄宿舎のそばに作った雪山に運ぶまでに転がせなくなるほど大きく重くなってしまうのだ。

 

「運べる位に割っちゃえば良いのに」

 

『!?』

 

 再びなんて事無いように提案する杏、その様子はどこか呆れているようにもみえた。

 こんな一幕を経て乱立していた雪の寸胴を運び終えた時には寄宿舎の前に作った雪山はかなりの大きさに変貌していた。この雪山を掘り抜けばここにいる四人だけではなく勇者教室の皆で入れそうな気がする。

 

「何をしているかと思えばかまくらか、私にも手伝わせてくれ」

「水筒に温かいお茶を淹れてきました、少し休憩してはどうですか?」

 

 途中、姉と幼馴染の参戦によりかまくら作成の作業速度が上昇し、本格的雪遊びの素人しかいないのに驚くほどの早さでかまくらは完成に至った。

 

「遂に……遂に僕達はやったんだね!」

「あぁ、タマ達でも雪でエンジョイできたんだ!」

「諦めなかった結果だね!」

 

「なんのテンションなんだこの三人は?」

「いつもこんなのだと思うなぁ」

「そうですね」

 

 テンションの差が激しいけど僕達は満足なのである。

 

「んじゃあ次は雪合戦するか」

「タマちゃん、それいいね!」

 

「折角かまくら作ったのに入っているのは一瞬だけなのか?」

 

「若姉さん、僕達は作りたかっただけなんだ。冬の明るい時間は短いんだからもっと色んな事をエンジョイしようよ」

 

「職人気質というものなんでしょうか?」

「じっとしてられないだけじゃないかな?」

 

 そういうことである。

 かまくらからさっさと飛び出す僕達三人、なんとなしに見上げた寄宿舎の窓にぼんやりとかまくらを見ていた千景と視線が絡んだ。自然と僕の頬がゆるんだ。

 

「千景ちゃんもおいでよ!」

 

 窓越しだから少し声を張りつつ手を振って呼ぶ。少しの間の後に千景は反応を返さないまま窓の奥に姿を隠した。

 

「ん~~?」

 

「千景の奴どうしたんだろうな?」

 

「気付かなかったのかな?それとも体調悪いのかな?」

 

 千景はどうにも夏頃から悩みでもあるのか時折今みたいに考え事に耽って反応が薄くなることがある。まるで丸亀城に来たばかりの何に対しても無関心で昏い瞳を向けたいた時みたいな姿を見る度に僕の心は寂しさに似たざわつきを感じてしまうのだ。

 

「ん……呼びに行ってみる」

 

 あまり踏み込んでも煩わしいのかもと思って今まではそっとしていた。だが今は折角皆で珍しい大雪をエンジョイしているのだからちょっと踏み込んでもう一度誘ってみよう。もし悩みが有ったとして、それが僕達に相談できないような事でも皆で遊べば多少は気が晴れるかもしれない。

 

「私も行く」

 

 千景の最近の様子を気にしている様子だった友奈も僕と一緒に千景の部屋に向かい、辿り着いた部屋の呼び鈴を鳴らして呼び掛ける。

 

「千景ちゃん、僕だよ、青葉だよ」

「私もいるよ」

 

 幾つか分の呼吸の後に控え目に開かれた千景の部屋に繋がる扉、ゆっくりと全開になった先にはなんとなく程度に感じられる落ち込んだ空気を纏う千景の姿。

 

「どうか、したの?」

 

 華奢な唇で紡がれた言葉に朧気に感じられる沈んだ心、『どうかしたの?』とは僕も聞きたいけど敢えて黙っておいて、悩みでもあるのだろうかと感じる雰囲気に触れずに本題を出す。

 

「ぐんちゃんも雪合戦しよう?」

 

「……えと」

 

 友奈の誘いの言葉に眉尻を微かに下げて答えあぐねている千景。その姿に僕はいつかの買い出しの時に感じたのと同じく千景をこのままにしたくはないと、笑う千景の顔が見たいという義務感に似た衝動を感じ、その衝動のままに千景に手を差し伸ばす。

 

「行こうよ千景ちゃん、僕は君と楽しみたい」

「私も!ぐんちゃん、一緒に行こう!」

 

 千景に伸ばした僕の右手と友奈の左手、一瞬だけ、見間違いかなと思うほどほんの一瞬だけ眼を丸くした千景が「少し待って」と言って部屋の奥に行ってすぐに寒さに備えた温かい服装になって戻ってきた。

 

「ありがとう」

 

 千景のその「ありがとう」は何に対してのありがとうなのか解らなかったけど、とても解りやすく嬉しそうに笑う千景の笑顔と、雪遊びに冷えた僕の手を暖める千景の柔らかい手が僕の心を満たした。

 

「千景ちゃんの手は、やっぱり暖かいね」

「ぐんちゃんの手、あったかい!」

 

「……そう」

 

 

 ─────

 

 

 さて、勇者教室の全員が揃った雪合戦である。

 ルールは至極簡単、それぞれ別れたチームで協力して雪だまを投げ合いつつ相手チームの旗を奪えば勝ちである。雪だまと侮るなかれ、千景を連れて合流した時に球子が不意討ちで僕の顔に雪だまをぶつけたのだが太陽に暖められたのか湿り気を帯びてきた雪だまの硬いこと痛いこと、これは油断すると雪だまで泣かされてしまうかもしれない。

 

「ふむ、偶然ではあるがかなりやり易いチームになったな」

「チームワークなら一番の組み合わせかもしれませんね」

「これはもう勝った気がするよ」

 

 勇者教室は総勢七人なので三対四に別れるのだが、公正にグーとパーでチームを作った所偶然にも僕達幼馴染組が一つのチームとして完成したのだ。もう負ける気がしない。

 雪合戦を始める前に準備として雪だまを作るのを幼馴染に任せて姉と二人で庭木の根本の雪を掻き分けて手頃な枝を探す。準備は整った。

 

「おーい!そろそろ始めるぞ~」

 

「おーけー!」

 

 球子の開始の催促の言葉に返事をすれば友奈が頭上高くに雪だまを投げる、あれが地面に落ちれば開始なのだろう。

 

「行こう若姉さん!ひなちゃん!」

 

「最短距離を突き抜ける。ひなた、遅れるなよ」

 

「はい」

 

 沢山の雪だまを抱え持つ幼馴染を背後に僕と姉は木の枝のみを手に並び立つ、友奈が投げた雪だまが地に落ちると同時にこの陣形のままただ真っ直ぐ前進を開始した。

 

「あいつら堂々とし過ぎだろ!」

「遠慮無く行くよー」

 

 友奈の合図で前方四方向から連続で投げられる雪だま、そのことごとくを僕と姉の二人は手の木の枝で払い落とす。当たって痛いなら当たらないように全部打ち落としてやろう作戦である。

 

「思ったより、楽勝だな」

 

「どっちが、沢山、落とせるか、勝負しない?」

 

「二人とも大はしゃぎですね」

 

 僕の提案で動きを加速させ合う僕と姉、お互いの動きを阻害しないように守り合いつつも雪だまを落とす数を競い合う。こうなれば幼馴染は雪だまを抱えたまま歩くだけになってしまった。

 相手チームの旗に近づくにつれて増える雪だまの早さと数に合わせて僕達姉弟も加速する。

 

「……待て、二人ともちょっと待て!」

 

 旗まで目前の所で雪だまの雨が止んで球子の制止の声。

 

「ん?」

「ん?」

 

「ん?じゃなくてだな。なんで合戦にジェダイの騎士が乱入してんだよ」

 

「二人とも剣が強すぎて雪合戦にならないよ」

 

 球子と杏の異議申し立て、どうやら流石にやり過ぎたらしい。

 

「きょとんとする顔がそっくりだね」

「やっぱり……双子ね」

 

 苦笑いする友奈と同調する千景に続いて幼馴染が僕達の背後から声を放つ。

 

「やり直しましょうか」

 

 木の枝禁止で仕切り直す事になった。

 次の雪合戦では同じ陣形で前進しつつ投げられた雪だまの全てを僕と姉でキャッチして投げ返したら「脳筋二人を同じチームにしたら強すぎる!」と球子に抗議され、以後の雪合戦は僕と姉が同じチームになる事は無くなった。圧倒的強さとは寂しさを招くと学んだ。

 と、このように若干の躓きは有ったものの勇者教室の皆で雪合戦を全力でエンジョイした僕達は空が薄暗くなってきたのを切欠に皆でかまくらに入って一休みしている。

 かなり大きなかまくらを作れたと思ったが流石に中学生六人と腕一本分だけ省スペースなほぼ中学生一人で入ればかなり狭く、皆で肩を寄せ合ってギリギリだった。これだけ狭いと警備の詰所からこっそり拝借してきた火鉢をいれるのは危ないので仕方無くかまくらの外で無駄な暖を撒き散らしていて貰う事になった。

 

「それにしても最初の若葉ちゃんと青葉くんの息はピッタリだったね」

 

 皆での取り留めの無い雑談の中で友奈が木の枝を振る真似をしながら先程の雪合戦での話題を振った。姉が「フフン」と胸を張る。

 

「FPSに……RPGの勇者が参戦してたわ」

 

「勇者無双だったな、しかも協力プレイ。あれはズルい」

 

 少し面白そうに言う千景と少し悔しそうに言う球子。

 

「二人は居合道の風雲児と乃木の若武者ですからね、ずっと昔から体を動かす事でチームになると無敵なんですよ」

 

 微笑みながら水筒のお茶を皆に振る舞う幼馴染が言葉を挟む。その言葉に皆が興味を示したように幼馴染に注目した。

 

「風雲児?青葉が若武者と呼ばれてたのは知っていたが……なんだそれは?」

 

「若の文字は若姉さんの文字なのになんで僕が若武者なんだろうね?」

 

「二人とも二つ名がつけられてたんだ、初めて聞いたけどあの動きならなんだか納得かも」

 

 杏の言葉に微笑みを絶やさない幼馴染が笑みを濃くしながら「それはですね」と続ける。

 

「若葉ちゃんにいつもくっついてた武者だから若武者って大人達が呼び始めたんですよ」

 

『……えぇ』

 

 なんと。

 

「それで青葉ちゃんに抱き着かれたりして腕の中にいたりするのが多かった若葉ちゃんは"青"の中にいるから雲が転じて風雲児になったんですよ」

 

『……えぇぇ』

 

「……反応に困る由来だな」

 

「それぐらい仲良しだから息がピッタリなのは当然ですよ」

 

 つまりは僕達の二つ名は居合の腕前云々では無くて仲良しこよしな双子を微笑ましく思った大人が揶揄したモノだったのか。

 いやまぁ確かに小さい時は姉と常に手を繋いでたりしたけどさ、人前では姉の後ろに隠れたりしてたけどさ!……それってどうなの?

 

「今では実力が伴ってるのだから……良いんじゃないかしら」

 

 微笑む幼馴染以外、僕を含めて全員が反応に困っている中での千景のフォローが心に染みた。

 多分思春期な僕には少し照れる事実を知ってしまった中学一年の冬、もうすぐ春がくる。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
若武者(迫真)?いいえ、わかむしゃ(笑)である。由来を知っても少し照れるだけで終わった。窓の向こう暗い顔をしているあの子、一緒に笑顔になろうぜ!主に自己満足のために!増やした鍛練に力を入れすぎてエンジョイの心を忘れかけた、コイツから遊び心を無くしたらどうなるんだろうね?投げ返した雪だまはソフトな威力。増やした鍛練とは投擲武器の扱い、選んだのは棒手裏剣、何故かって?体の何処にでも隠しやすいから。「何故投擲武器を?」と姉に聞かれたら「カッコイイから」でゴリ押しした。もうすぐ二年生だもんね、姉から暖かい視線。

若葉さん
風雲児(ガチ)?いいえ、ふーうんじ(かわいい)である。そんな若葉さんも今では勇者で風雲児。アイコンタクトで作戦会議、ノータイムで決議、いざ出陣。弟と幼馴染とチームを組んで大暴れ、おとなげない。でも楽しかった、エンジョイである。

ひなたちゃん
朝から元気な声が聞こえたから窓を覗くと雪遊びしてた、楽しそうでニッコリ。体を冷やさないように暖かいお茶を差し入れしましょうね、世話焼きオカン。双子に挟まれて堂々の進軍。信頼故に飛んでくる雪だまに対して欠片も備えなかった。私の幼馴染達は凄いんです(集中線)

タマっち
腰布一枚で「パンツ欲しい」に比べれば大抵の事は許せる。懐の広い女、タマっち。でも抱き枕にされたのをビンタ一発で許していいの?大丈夫かな?感覚狂ってない?タマっちは暖かい。ジェダイの騎士に火縄銃で対抗する。

杏ちゃん
エンジョイ勢のブレイン担当、まだ少し照れがある。分割して運ぶなんて蟻さんにもできる事なんだよねぇ。皆が楽しそうにはしゃいでるのを見てるのが好き。脳筋二人のコンビネーションを見てすぐに敗北を悟った。

友奈ちゃん
丸亀城が誇るセラピスト、青い珍獣を連れてアニマルセラピー。ぐんちゃんの様子が時折暗くなるのがずっと気になってたけど踏み込む決心が出来なかった。でも珍獣が出動したのを見て頑張ってみたよ!

千景ちゃん
色々考えすぎてどツボにはまってた。何も解決してはいないかもしれないけど伸ばされた二人の手を掴む。素敵な友達が手を差し伸べてくれるだけの価値が私にも在るのかな?冷えた二人の手はそれでも暖かかった。

庭師のジェントルマン
雪かきしようとしたら謎の轍がそこかしこにある、なんだろうね?辿ってみたら少年少女達が遊んでた、ほっこり。

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