乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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2:鍛練する感じの三人、もしくはパンツの話

「青葉ちゃん、起きてください。今日から若葉ちゃんと朝の鍛練するんですよね」

 

 掛けられた柔らかい声に意識が浮上する。こうやって朝に起こされるのは何時ぶりか、少なくとも腕を無くして入院する前は日の出頃に自然と目を覚ましていた。

 病院での体を動かさない日々で体力を落としたのか、それとも怠惰な生活が癖になったのか一度寝付くとなかなか起きられなくなり、それを改善したいと姉に相談したところ「ならば鍛練だ」と、脳筋極まる解決策を提示されたのは昨日の話。

 目覚めの改善のために早起きして鍛練するとはこれ如何に。いや、ここでの生活も慣れてきたので朝の鍛練を再開しようと思っていたので文句は無い。無いが、釈然としない。

 

「おはよう……なにやってるの?」

 

 目を擦って幼馴染の声を辿ると新しく用意した簡素なタンスの前に膝を揃えて座り、見覚えのある段ボールに手をいれている幼馴染の姿。

 

 閉じたカーテンから漏れた光に照らされているその横顔はいつもの微笑みにみえるが、なにか毅然とした堅さを含んで見える。

 

「何って……青葉ちゃんを起こしにきたんですよ」

 

「そうじゃなくて、その段ボールは?」

 

「これは青葉ちゃんの着替えが入ってる段ボールです」

 

 言いながら段ボールから僕のパンツを取り出して膝に置き、丁寧に畳んでタンスにしまう幼馴染。淀みなく行われた一連の動作が疑問を忘れる程に自然で、再び幼馴染の手が僕のパンツを段ボールから取り出すまで見送ってしまった。

 

「いやいやいや、自分でやるから。流石にそういうの自分でやるから」

 

 僕にだって羞恥心はある。幼馴染とはいえ女の子にパンツを畳まれるのは僕の羞恥心をわりと刺激している。

 

「自分でやるって言っても、タンスを用意したのはもう二日前ですよね?ほっといたら青葉ちゃんはすぐ面倒臭がるんですから」

 

「それには理由があってだね」

 

 段ボールから取り出して着用、洗濯して取り込むときにタンスへというサイクルを想定していたのだ。

 

「はいはい、そうですね」

 

 世話焼きオカンモードか。この状態の幼馴染は大概の反論に聞く耳をもたない上に食い下がり続ければそのまま説教でカウンターしてくる半分無敵の状態である。

 

 つまり、止まらない。

 

「ひなちゃんだって幼馴染とはいえ異性のパンツは恥ずかしくないのかい?」

 

「何を今更、何年か前までは一緒にお風呂だって入ってたじゃないですか」

 

 そうだけどそういう事じゃないと思うんだ。もっとこう……思春期的な?

 精神的に揺さぶる作戦は失敗、実力行使は女の子に対して使う手段ではない。八方塞がりか。

 

「おはよう青葉、起きてるか?そろそろ走り込みを始めよう」

 

 次々とパンツを含めた各種肌着が畳まれて行く最中、玄関の扉が開いて姉がジャージ姿で現れる。

 第三の作戦、援軍だ。姉を巻き込んでみよう。

 姉がこちらの味方になれば幼馴染の世話焼きレベルをオカンから近所のおばちゃん程度には落とせるかもしれない。そうなれば鍛練を始めるなんとなくの流れで三人で部屋を出て中断させる事ができるはず。

 

「おはよう、若姉さん」

 

「なんだ、起きたばっかりか?カーテンなんて締め切って……ほら、今日は鍛練日和だ」

 

 軽快な足取りで部屋を横断した姉がそのまま勢いよくカーテンを開き、射し込む朝日が部屋を蹂躙して僕の喉奥を恐怖混じりの動揺で固める。

 不意打ちに、ヒュッと、音の着いた息が漏れた。

 

「おはようございます若葉ちゃん」

 

「おはようひなた。ん?何故ひなたが青葉のパンツを?」

 

 そう、そうだよパンツだよ。幼馴染の凶行を止めなくては。

 二人から見えないように脇腹を強く絞るように握り、引き攣る喉を痛みで正常に戻す。

 

「聞いてよ若姉さん、ひなちゃんが……」

 

 パンツを畳んでタンスにしまうんだ。と、言い掛けて気付く。

 横着の結果幼馴染が僕のパンツを畳んでいるのであって、決してイタズラや意地悪目的で僕のパンツを弄んでいるわけではない。むしろ隻腕になった僕が身の回りの事に難儀していると思った上で純粋に手伝いをしてくれているのかもしれない。いや、そうなんだろう。

 それに、パンツがどうこうと姉に言ったとしても横着の報いを受けただけだろうと言われるオチが目に見えている。

 

「?……取り敢えず顔でも洗ってきたらどうだ?」

 

「……あぁ……うん……そうするよ」

 

 言葉尻を無くした僕に小首を傾げる姉に返す言葉はこれしかなかった。

 

 

 ─────

 

 

「って事が今朝にあってさ。顔を洗って着替え終わった頃には若姉さんも一緒になってタンスに着替えを詰めてたんだ。どう思う?」

 

 夏の終わりに最後の元気を絞り出すような日射しから逃れた丸亀城に新設された道場の中、格闘技の自主的な鍛練に小休止を挟んだ友奈に意見を求めてみる。道場の隅で練習刀を脇に正座していた僕の隣、壁に背を預けて座る白い胴着姿の友奈が困惑を隠さない顔で首を傾げた。

 

「どうって、何がかな?」

 

「同じ年頃の女の子として、異性のパンツは恥ずかしくないのかなって」

 

「男の子からパンツの話題を振られた時点で私は既に恥ずかしいかな」

 

「そっかぁ、話しといてアレだけど僕も若干恥ずかしかったんだよね」

 

「えぇぇ……」

 

 トンッと鳴らされた踏み込みの音に眼を向けると、道場の中心で姉が神具である生大刀を手に型稽古をしている。その動きは身内の贔屓目無しにでも力強さと滑らかさを両立した見事な動きだ。

 隣の友奈もその熟練された動きに眼を輝かせてほぇーと力の抜ける息を漏らしている。

 

「居合の事はよくわからないけど、若葉ちゃんの動きってとてもキュッとしててカッコいいね」

 

「そうだね」

 

 ここ最近の姉の太刀筋は鬼気迫るものがあり、動きの一つ一つに満ちる迫力はきっと誰が見ても称賛するものだろう。

 

「あんな感じでキュッて動くのって何かコツがあるのかな?何度やっても授業で教えて貰った動きができないんだよね」

 

 丸亀城の生徒は僕という例外を除けば五人の勇者と一人の巫女で構成されていて、いずれ来るであろう化物達との戦闘に備える特別な女の子達だ。大社の大人達は彼女達を少しでも戦力として向上させるために体育の名目で個々人に必要であろう戦闘の技術や基礎体力の鍛練を施している。

 友奈はその授業で教わった型を満足する形でこなすことができなかったのを気にして、放課後の空いた時間を利用して鍛練しているのだろう。僕が姉の型稽古に便乗して見学している間、視界の端で友奈は何度も同じ型を繰り返し、型の後半で体の安定を崩しては肩を落としていた。

 

「コツっていうかアドバイスできそうだけど、欲しい?」

 

「青葉くん、どこが駄目なのか解るの?」

 

 集中して見ていなくとも視界の中で何度も同じ動きをされれば朧気にでも動きの粗は浮かび上がってくる。友奈自身では解らなくとも、動きを横から見てると解りやすいものだ。

 

「うん、後ろ回し蹴りが巧くいかないんでしょ?踏み込みの足の向きが毎回バラバラだよ。もっと内股っぽく踵を前に出していいんじゃないかな」

 

「やってみる!」

 

 そう言って立ち上がるや否や、一歩ステップを踏んだ友奈が軸足を中心に綺麗な円を描く。着地した友奈の顔は鳩が豆鉄砲を喰らったようにポカンとしていた。簡単なアドバイス一つでこうもあっさりと上手くいくのは、友奈も姉と同じく武芸の才に秀でているからなのだろう。

 

「できちゃった」

 

「できたね」

 

「青葉くんって、実は凄い?」

 

「友奈ちゃんの鍛練の成果じゃないかな。切っ掛けを掴めば成功するくらいには鍛練を積んだって事だよ」

 

「そうなのかな?」

 

「きっとそうさ」

 

 んん?と技を成功させたのに釈然としてなさそうな友奈が再び隣に腰を下ろす。もう少し休憩するのだろう。それならばもう少し話に付き合って貰おう。友奈が相手だと余り話上手ではない僕だが何故かいつもより口が回るのだ。

 

「それでさ、パンツの続きなんだけど」

 

「パンツって」

 

「姉だから幼馴染だからで僕のパンツに恥じらわないのはまぁ良いとして」

 

「良いんだ」

 

「日に日に二人の世話焼きっぷりが進行している気がするんだ。そんなに甘やかされるほど隻腕での生活に難儀している訳じゃないんだけどな」

 

 今朝のパンツ事件しかり、日常的な事で言えば皆で食堂に行けば姉が椅子を引いて座らされて幼馴染が食事の載ったトレイを運んでくるし、ちょっとした階段の手前ではホラと手を差し出されて繋ぐ事を促されるなど多岐に渡る。

 僕は老人でも弱りきった病人でも無いのだ。

 

「パンツだと思ったら真剣な感じの変化球だった」

 

 型稽古をしている姉を見ていた赤い瞳が僕へと視線を移し、透き通った赤が僕の眼に真っ直ぐ合わされる。

 

「心配なんじゃないかな?だって、いっつも隈浮いてるし調子悪いんじゃないかなって思われてるんじゃない?」

 

「隈?」

 

「うん。最初に教室で見た時よりは全然良いんだけど隈取れないよね。元からなの?」

 

「あー、これは確かに入院してからだけどそんなに気になるものかな?」

 

 今では7・30天災と呼ばれているあの化物が空から降りてきた夜以来、星空が見える夜になると塞がった腕の傷口が疼いて眠れない事がある。そうなると次の日には隈の浮いた不健康フェイスが出来上がり、何度となく繰り返している内にいつの間にか隈が顔に残るようになってしまったのだ。

 

「丸亀城に来てから体調そのものは悪くないんだけどね、癖になっちゃったのか取れないんだよねこれ」

 

「そうなんだ。青葉くんの顔がもっとシャッキーンってなったら二人とも安心するんじゃないかな」

 

「顔が、シャッキーン」

 

「ほら、顔が似ている若葉ちゃんがいつもシュバッとした顔だから余計に気になるのかもしれないし」

 

「顔が、シュバッ……うん、なんとなく解るよ。でもどっちかと言うと若姉さんの顔はシュパンッじゃないかな?」

 

「シュパンッ……わぁ、しっくりくるね」

 

「誰の顔がシュバーンだ」

 

「若姉さん」

「若葉ちゃん」

 

 シュバーンではなくシュパンッである。

 呆れ顔の姉も鍛練の小休止にするのだろう、友奈の反対側の隣に壁を背にして腰を下ろす。

 

「で、なんの話をしていたら私の顔が擬音になるんだ?最後の方しか聞こえてなくてな、二人の会話は感覚的過ぎて私には全然想像がつかない」

 

「僕の隈が取れないねって話だよ」

 

「どうしてそこからシュバーンになるのか」

 

「隈が取れないから若葉ちゃんとひなたちゃんが心配してるんじゃないのかなって」

 

「ふむ、まぁそれは有るが……それで?」

 

「んで、僕がシャキーンとなれば若姉さんとひなちゃんが安心するんじゃないかって話だよ」

 

「そういうことだよ、若葉ちゃん」

 

「そうか、うん。シュバーンはどこに……いや、いい。どうでもよくなったぞ、私は気にしない」

 

 感覚派の人間が揃うとこうなるのかと溜息を吐かれる。最近溜息を吐かれる頻度が多い気がする

 

「それで、青葉くんの顔が悪いってのは当たってるのかな?」

 

「青葉の顔悪いのはそうなんだが、私達が気にしていることは他にあるんだ」

 

「うーん、話の流れ的に間違ってないのにこのけなされてる感じ」

 

 隣に座る姉が体ごと僕に向かって膝を揃えて座り直し、真剣な眼差しで僕の顔を真っ直ぐに射抜く。唐突な、だけどもとても真面目な姉の顔に緩い空気が霧散したのを感じ、僕も姉に応えるように向き合って膝を揃える。

 お互いの膝が触れ合う距離で姉の眼を見て言葉を待つ。姉が中身の無い左袖を見てから脇に置いた練習刀をじっと見て、最後に揺れる瞳で僕を見た。鏡合わせみたい、と友奈が呟く。

 

「最後に鞘から抜いたのはいつだ?」

 

 問われた言葉に記憶を辿らなくとも答えは出せる。天災の前日、修学旅行が楽しみで眠れずになんと無しに庭で軽く振るっていたのが最後だ。こんな時間に刃物振り回すなと祖母に拳骨を落とされたのもセットで覚えている。それがどうしたのだと言うのだろうか?

 

「病室で青葉が居合を続けると言った時、私はまた青葉と居合をできると思ってとても嬉しかった。ひなたは少しだけ不安だったようだが、帰り道に二人で退院すればすぐに刀を振りだすだろうなと笑いながら歩いたものだ」

 

 揺れる瞳の理由は不安なのだろう。知らずの内にまた僕は姉を辛い気持ちにさせていた事実に気分が落ち込む。報いを返す前にまた僕は繰り返してしまったのか。

 

「だが、前は暇さえあれば刀を振るっていた青葉が退院から今に至るまでに稽古をしている所を見ていないし、していたという話も聞かない。風邪をひいていても集中すれば頭痛を感じないと刀を振るっていた青葉がだ」

 

「青葉くんが実は居合ガチの人だった……?」

 

「そう、ガチだったんだ。」

 

 そんな事はない、僕は居合は好きだが実態は師範に盆踊りと称される程度のモノで、風邪の件は集中すれば他の事が気にならなくなるだけだ。

 

「そんな青葉がこれだけ時間が有ったのに刀を振らず、今も私や友奈の稽古を見ているだけでただ一度の抜刀も無い。こうなれば青葉は実はまだ良くなって無いのではないかと思うのも当然だろう?」

 

「それは確かに心配にもなるね」

 

 友奈の同意の声に姉が頷く。

 つまり、姉と幼馴染は僕が生活の一部としていた居合に励まないから治ったふりをして不調を隠していると思っていたと。隈がいつまでも取れないのもそれを後押ししていたらしい。

 

「私が思うに青葉、以前との体の感覚の違いにまだ慣れてはいないのではないのか?青葉ほどの鋭い感覚の持ち主なら腕一本の違いは常人の腕一本とは倍ほどちがうのだろうな」

 

「青葉くんってやっぱり凄かった?」

 

「あぁ、四国の居合道に乃木の若武者ありと言われているからな」

 

「ほぇぁー、凄いんだね?」

 

 初耳だ、しかもそれ「若」だけに多分姉の事を指していると思うのだが。

 なにやらむずがゆい二つ名はさておき、姉の不安の原因が解ったのならさっさと解決してしまおう。僕が居合しないのが不安だったのだから目の前で型の一つでもして見せれば解決できるだろう。幸いここは道場で、手元に練習刀もあるのだから。

 姉が懸念した通り以前との体の違いが感覚に擦り合わずに鯉口を切る前に「なんかちがうなー」となって抜刀しなかったのは事実だし、片手での型を実は知らないけど、なんとなくでどうにかなるだろう。為せば成る。多分。

 

「よし」

 

「青葉?」

「青葉くん?」

 

 やる気を滾らせるには先ずは腹から、短く強く発声。脇に置いていた練習刀を手に立ち上がり腰に帯び、何度か前後上下にずらして定まる場所を探す。

 

「姉の悩みを知ったのならば解決するのが弟の務め。乃木の男児たるもの家族を安心させるべし!」

 

「青葉くんが急に凛々しくなった!?……なんか似合わないね」

 

「そんな乃木の教え、私は知らないぞ」

 

「いま、つくった」

 

 腰にどうにか定まった気がする練習刀を一度ペシリと叩き、道場の中心に向かって歩き出す。久々の居合に心が昂ってくる事を自覚。

 

「待て、心配だとは言ったが無理に居合をするな。自分のペースで調子を戻してくれればいいんだ。戻ってこい」

 

「きっと大丈夫。無理なんて、ないよ。多分ね」

 

「キリッとした顔でフワフワした事言ってるけど、どうなの?」

 

「戻れ青葉!その大丈夫は駄目な感じの大丈夫だ!」

 

「えぇ……」

 

 姉の大袈裟な制止の声を置き去りに道場の中心に腰を下ろす。たった今まで感じていた筈の板張りの床の冷たさが、腰に刀を帯びているだけで別物に感じるのは僕がまだまだ未熟だからだろう。

 刀を携えても常のまま自然に、師範の言葉だ。

 

「───」

 

 意識を全身に集中。全神経で自分だけに集中。

 床の冷たさも、肌に感じる空気も、高揚した気力も、姉の声も全て遠くなる。左肩から連鎖的に感じる全身のズレだけ奇妙に形を残して僕に重なっている。

 帯びた刀が少しだけ不安定、鞘を抑える腕もない、どう刃を抜こうか。抜いたとしてもどう振るうか。姉の言う通り腕一本のズレは大きく、以前とおなじく振るえば体を勢いに流され無様を晒す事になる。瞬間的に多くを自分から感じ取り、感覚のまま実行する。

 立ち上がりながら帯に絡めた鞘を床に垂直に向くように捻り立てて帯を締め付けて腰に固定、天井に向かって引き抜くように抜刀。手首を返して切っ先を高く真っ直ぐ上に、間を開けずに足を前後に拡げた踏み込みに合わせて縦に一閃。床に当たりそうな刀身を上半身に流した両足の踏ん張りで無理矢理抑える。

 

「ほぇぁー」

 

 動作としてはほんの数秒足らず。残心の意識の中、友奈が気の抜ける音色の吐息を漏らすのが聞こえていた。

 

「ふぅ」

 

 自分の吐息を耳に聞き、集中が途切れたのを自覚する。跳ね上がる心臓と額に滲む汗の感触、持続しない集中力に失った体力の多さが改めて浮き彫りになってしまった。

 

「どーんなもんだい」

 

 据え物切りならば、間違い無く一振りで青竹三本を両断していた一閃。二月の療養後に片手でこの太刀筋ならば姉の不安も晴らせるだろう。

 渾身のしたり顔で二人に向き直り、言い放つ。眼を丸めた二人に、達成感と満足感が体を満たすのを感じる。

 

「あれ?青葉くんだよね?別の人がさっきまで青葉君のふりをしてたんじゃなくて?」

 

「乃木さんちの~、青葉くんだよ~?」

 

「間違い無く青葉だな。集中が途切れるとへなちょこになってるあたり本人に間違い無い。」

 

 疲労感で抜けた力に語尾が緩む。これは本格的に鍛え直さないといけないようだ。

 壁際の元の位置に戻ろうと一歩踏み出してから手に持った練習刀を納刀していないと気付き、慌てて鞘に収めようとして僕は太腿に冷たい痛みを感じた。

 

「青葉ぁぁ!?」

 

「えっ、ちょっ……血出てるよ!?」

 

 練習用の刀でも形状は刀、当然切っ先は鋭利な形になっている。集中の切れていた僕が以前の様に納刀しようとした結果、不安定に帯びていた鞘を無い筈の左腕で押さえた気になって不安定な鯉口に切っ先を収め損ね、そのまま太腿を勢いよく刺してしまったのだ。

 

「いたい」

 

「そうだろうな馬鹿者!だから無理をするなと!!」

 

「えっと、手当しなきゃ!」

 

「でも大丈夫、腕食べられた時よりは痛くない」

 

「比べるものがおかしいよ!」

 

「あ、この大丈夫は本当なやつだ」

 

「姉弟で何かが通じた!?」

 

 

 ─────

 

 

 結局、怪我は絆創膏を貼ればなんとかなる程度のモノで、友奈が用意した救急箱のお世話になっただけでどうにかなった。ちょっと裂け目が出来て赤く染まった袴の方が僕的にダメージが有るとまで言える。

 

「毎回毎回、青葉は一つ事をこなした後は大抵こうだ。だから無理をするなと言ったではないか」

「はい」

 

 わたわたとする友奈と手馴れた動きの姉に手当されて、怪我が大したものではないと確認されると仁王立ちの姉にそのまま正座するように言われてお説教が始まった。

 

「傷口は浅かったが刺さった場所に太い血管があれば大事だったんだぞ、解っているのか」

「はい」

 

「でもほら、怪我が大したこと無くて良かったよね」

 

「そうだが、だからこそまた同じ事をやらないように強く言いつけねばならない」

 

 友奈のフォローも虚しく、姉の眉は吊り上がったままだ。

 クラスメイトの前で正座させられてガチ説教されたのは生涯二度目だけど、このやるせなさといたたまれなさには慣れない。以前は丸亀城に来る前の学校の教室で、クラスメイト全員と先生の目の前でやられたのでそれよりはマシではあるが。

 多分だが、あの一件でクラスメイト全員に姉は怖いというイメージを定着させてしまったのかもしれない。

 

「そもそもだな──」

 

 視線で姉の背後に立つ友奈に、助けを求めるが無言で首を左右に振られる。

 姉のありがたいお言葉を右耳から左耳へ受け流し、今日の夕食はなんだろうかと思いを馳せる。長話をされると思考が別の方へ逸れていくのも一種の現実逃避なのだろうか?

 

「では最後に拳骨だ。この痛みを教訓にしろ」

 

 振り下ろされる姉の大振りな遠慮無い握り拳。乃木家は祖母も両親も説教の最後は拳骨で締め括る事が多い。姉もその悪習を引き継いでしまったようだ。痛む脳天に目頭がツンと熱くなる。

 

「…………」

 

「なんだ、何か不服か?」

 

 仁王立ちの姉を見上げて二つの紫水晶を見つめる。そこにはもう、微かな揺れも存在しない。

 

「不安は、晴れた?」

 

「ッ…………はあぁ~~」

 

 深く長い溜息。何故だ。

 

「あっ、なるほど。青葉くんの頑張りはそういう事だったんだ。姉弟愛だね!」

 

「青葉、お前というやつは……」

 

「え、パンツのためだよ?」

 

「んん?お前は何を言ってるんだ?」

 

「そうだった、パンツだね。そういう話だったね」

 

「二人で何の話をしていたんだ!?」

 

『パンツだよ』

 

 声が揃って、姉が頭を抱えた。そんな夏の終わり。




青葉くん
感覚派居合ボーイ。空が怖い?そんなのは甘えだ!痛みで誤魔化せ!居合ガチ勢なのか誉められたくて頑張ったのか真偽は不明、不明だけど才能と棒振りに捧げた時間は裏切らない。パンツは恥ずかしい。体捌きの延長で多少は居合以外の体術に理解あり、ガチ勢かもしれない。姉のためにスポーツ選手が体験するゾーンって奴に入った。やっぱりシスコンかもしれない。顔が悪い。3話連続で叱られてる。

ひなたちゃん
慈愛系巫女ガール。大変かもしれない幼馴染の為ならパンツを畳む慈愛の女の子。平気な顔してるけど実はちょっと照れてる。言い訳して横着してたんだと解ると照れの反動で多分怒ってた。

若葉さん
脳筋系心配性シスター。弟のパンツになにを恥じるというのだ?でも自分のパンツは恥ずかしい、女の子ですから。鍛練に気合い入ってる?奴等に報いを受けさせるのだ、弟の腕の報いをな。普段の弟はへなちょこだと思ってる、間違いではない。
顔がシュパンッ

友奈ちゃん
感覚派勇者ガール。よくわからないクラスメイトの男の子からパンツの話題をふられても対応してあげる優しい子。パンツは恥ずかしい。鍛練真面目に頑張るよ!クラスメイトの男の子が実はハイスペックなのかもしれない。姉弟の絆を目撃?

千景ちゃん
本来なら包囲網の一環としてパンツの話題をふられてた子。出番が無かったのは濡れ犬の未熟故に。次回こそは。

師範
ガチ勢。ガチ過ぎて服役中。出番は無い。

─────

文体に纏まりを作ろうとしたら3話目にしてプロットから少し離れる不具合。
話を書くというのは難しいですね。
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