乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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36:不条理な感じのノリ、もしくは短い反応の話

「特に目的は無いっていったけどさ」

 

「ん」

 

「あれは嘘だ」

 

 十一月の寒空の下、僕と友奈は球子に謀られたらしい。商店街につくやいなや演技がかった悪どい笑みを浮かべる球子。

 

「おっ、おのれタマっち、謀ったな」

 

「タマちゃん、何かやりたい事でもあったの?」

 

「やりたい事って言うか……骨付鳥が食べたい」

 

 悪っぽいノリに乗ったのに放置とはちょっと不条理だと思う。それはさておき、先程少し遅めの朝食を食べたばっかりなのに骨付鳥を食べたいと申したか。

 

「骨付鳥は別腹……と言いたい所だけど流石に今は喰えん、そんな訳で小腹が空くまでブラブラしよう」

 

「ん、ブラブラのプランを提示したまえ」

 

「了解、タマはプランTを提示する」

 

「プランTってなぁに?」

 

 小首を傾げて赤毛の尻尾をサラリと揺らす友奈。その仕草に僕と球子は顔を合わせてどちらともなく「フッ」と笑みを浮かべた。

 

「プランT、つまりはテキトーだな」

 

「ノープランだね」

 

 どや顔の球子に納得したのか頷く友奈。

 このプランTとは主に格闘術の先生にイタズラがバレて追い掛けられている時に発令されるプランで、発令された後はだいたい捕獲されている。

 

「タマっちのTはテキトーのT」

 

「青葉のAはアンポンタンのA」

 

 意味の無い言葉の応酬をしつつ商店街を歩く。なんとなしに閉じたシャッターの前で世の中の不条理を嘆く歌を歌いながらギターを弾くストリートミュージシャンの前で立ち止まり暫しの見物、大勢の人がスルーして通り過ぎて行く中で突然見物客が三人増えたからか歌声に力が入ったように聴こえる。

 

「んじゃあ友奈のYは?」

 

「ん~、ゆっくりのYかな? やっぱりプランYにしよう」

 

「ど~も~、高嶋ぁゆっくりぃ奈です~」

 

 間延びした友奈の声。

 僕達の会話に意味など無い。しかし、楽しい。

 

「ヘイ、ミス・ユックリーナ。この路上パフォーマンスに率直で辛口な感想をプリーズ」

 

「え? んーー……心に響かないね、全体的に軽い」

 

 友奈の辛辣かつ単刀直入故に説得力のある評価にミュージシャンの歌声が震える。四国の、強いては世界の未来を有無を言わさず背負わされた不条理の中にいる友奈の言葉は重たかった。

 

「ドンマイ、まぁ頑張りタマえよ」

 

 球子がミュージシャンの足下に置かれた開けっ放しのギターケースに小銭を投げ入れる、五百円玉なのは折れた心への慰めなのだろう。

 

「唐突だけど無茶ぶりを思い付いた」

 

「ん?」

 

 再度商店街をブラブラと歩いていると嫌な予感のする球子の声。

 

「青葉の今までのなんか色々に対しての頑張りみたいなのを認めて5タマポイントくれてやる」

 

 かなり久しぶりのタマポイントである。

 

「ずいぶんとふわふわした感じだね」

 

「ん? ってことは僕のタマポイントが10まで貯まった事になるね」

 

 なんかすっげぇ特典があるのだったか、前フリが前フリなだけに些か不安がある。

 

「特典としてタマと友奈をエスコートする権利をくれてやる。ほれ、エスコートしろ」

 

 なんと、たしかにコレは無茶ぶりだ。

 エスコートとはどうすればいいのだろう?

 

「わぁ! 面白そう!」

 

「王族にかしづく騎士のようにタマ達を先導してみタマえ」

 

 騎士か、騎士道なんてよく解らないがなんとなくでやってみよう。

 取り敢えず友奈の前に片膝をついて友奈の手を取ってみる。その感触は姉の手に良く似ていて、硬さともとれる表面のハリの奥にしなやかな軟らかさを感じた。戦闘の訓練を必要とする勇者にならなければ、また違った感触だったのだろうか?

 

「ユックリーナ、君を守る栄誉を僕に」

 

「……青葉くん、そういうの似合わないね」

 

「似合わないな、特にそのキリッとした表情が似合わない。顔がダメ過ぎる」

 

 似合わないのは解っていたが顔がダメはちょっと心にくる。立ち上がって膝の砂埃を叩いて払う。

 

「もっとこう……アレだ、普通な感じの紳士やってみろよ」

 

「普通って難しいよね」

 

「ラブロマンスの映画やドラマみたいにやってみたらどうかな?」

 

「ん、つまり二人を恋人のように扱ってみろと?」

 

 恋人がいた経験なんて無いので友奈の提案もまた難しく感じる。……恋人二人と道を歩くとはどんなシチュエーションなのか、硬派な男を目指す僕としては異次元の話である。

 

「タマっち……いや、球子」

 

「あん?……ふぇあ!?」

 

 寄り添うように球子に歩み寄り腰に手を回して抱き寄せてみる。そして、そのまま耳に口を寄せてそっと囁く。

 

「歩き疲れてないかい? そこの喫茶店で少し休もうか」

 

「……うぁ……うぅ」

 

 唐突過ぎたのか驚きに固まる球子、うっすらと耳朶が赤くなっていく。

 

「青葉くんが悪いホストさんみたい」

 

「……そこまでやれとは言ってないぞアンポンタン、お触りは禁止だ」

 

 グイと僕の胸を両手で押して数歩離れる球子、離れていく温かさがなんとなく名残惜しい。

 

「えー、お触り禁止なーの? めっちゃ触りたいのに」

 

「青葉くんが変化球な変態さんからストレートな変態さんになっちゃた……あれ? 今の青葉くんの声じゃないね」

 

 視界の外から僕ではない誰かの声。声の方向に振り向けば友奈の肩に背後から手を伸ばそうとしていたアウトローなファッションの男。

 

「ドギー、お触りは禁止だぞ」

 

「あーい」

 

「わっ、春の変な人」

 

 振り向いた友奈の声に「辛辣ゥー」と、おどけるドギー。

 

「なんか頭悪そうな事してる変なのがいると思ったら青葉くんだったから声かけたんだけどもしかしてデート中だった? 前とは別の子だし二人同時って凄いね」

 

「見た目あっぱらぱーな奴があっぱらぱーな事言ってるな。誰と誰がコレとデートして──」

 

「ついさっき騎士で恋人する事になった」

 

「青葉くんやるゥ~」

 

「アンポンタンとあっぱらぱーが合わさってめんどくさくなっちまった」

 

「変な二人だね」

 

 これ見よがしに溜め息を吐いてげんなりとする球子とさりげなくドギーから離れる友奈。

 

「そんな訳でドギーくんこれから友達たちの退院祝いパーティーの買い出しだからもう行くね、今日のドギーくんはパリピなーのよ」

 

 どんな訳だよ。

 

「友達"たち"って辺りにちょっと闇を感じるな」

 

「みんなようやく少年院から出てきたのーね」

 

「ちょっとどころの闇じゃなかった!」

 

 目を剥いて戦慄する友奈。

 あの弱い者いじめしていたアイツ等退院したのか。

 

「あいつ実はやべー奴なのか?」

 

 後ろ手に手を振りながらだらしない歩き方で去っていくドギーを見送りつつ球子が僕に訊ねる。

 

「ヤバイかどうかは知らないけどなんか疲れる奴だよ」

 

「たしかにちょっとしかお話してなかったけどなんだか疲れちゃった」

 

「そんならそこの喫茶店でちょっと休むか、自称タマと友奈の恋人兼騎士がそれらしいところを見せてくれるだろ」

 

 それはつまり奢れと? まぁ、お小遣いの使い道なんてたまの買い食い位しか無いので余裕は有るし別に構わないのだが釈然としないモノを感じつつも頷いてみる。

 

「冗談のつもりだったが言ってみるもんだな、ゴチになるぞダーリン」

 

「さすが騎士さまだね、いっただきまーす」

 

 なんだその申し訳程度の恋人要素と騎士要素は。やはり釈然としないまま三人で喫茶店の小洒落た装飾の扉をくぐった。

 

 

 ─────

 

 

「変化球な変態という僕への評価の説明を求めたい」

 

 カッコつけてブラックで頼んだものの結局美味しく飲めなかったのでたっぷりの砂糖とミルクを追加したコーヒーをすすりつつ友奈に問う。コーヒーをすすった音に球子が「お茶かよ」とツッコみ、視界の端で白髭を蓄えた穏やかな顔つきの店主が口角を少しだけ歪めて笑っていた。

 

「えっとね、それは……その……」

 

「過去の話を掘り返すような細かい男はハゲるらしいぞ」

 

 ショートケーキのイチゴを刺したフォークを持つ手を止めて言いよどむ友奈にチーズケーキをフォークで突っつきつつ助け船を出す球子、二十分に満たない前の話でも球子にとっては過去の出来事らしい。ハゲるのは嫌なのでこの話はこれで終わりにしておくべきか。

 

「半裸パンツ事件」

 

 ぼそりと呟く球子の声、この話はこれで終わりだ。

 

「タマもさっきの話で気になった事があるんだが」

 

「あっ、わたしも」

 

 思い出したかのよえに口を開く球子とそれにのっかる友奈。

 

「過去の話を掘り返すとハゲるらしいよ?」

 

「そんなのは知らん」

 

「タマちゃんも結構自由だよね」

 

 なるほど、不条理だ。この虚しい気持ちを歌にしてギターで弾き語りしたい、複数の意味でギター弾けないけど。

 

「んでだな、あのあっぱらぱーが言うには以前誰かとデートしていたらしいじゃねーか。そこんところ詳しく聞きたい」

 

「わたしもそれを聞きたかったな」

 

「やっぱり友奈も気になってたのか……タマ達の仲でそう言うの隠すのは水臭いぞ」

 

 面白い物を見ているかのような期待しているかのような二人の好奇の視線が僕に突き刺さる。だが残念ながら二人を楽しませるようは話題にはならないだろう。

 

「ん、それはドギーの勘違いだよ」

 

 ドギーが言っていたのは秋に千景と一緒に高知まで散歩した時の事を言っていたのだろう、あれはデートではない、エンジョイである。

 

「まぁ、そうだろうとは思ってたぞ」

「青葉くんだもんね」

 

 特に盛り上がりの無いままこの話も終わるようだ。

 

「ただ実家にお邪魔しただけだったのさ」

 

「ほーん……あん?……はぁ!?」

「それってもしかして挨拶ってやつでは!?」

 

 何をそんなに大袈裟に驚くのか。

 

「ん、挨拶は初手に人文字されたから変身で返してきた」

 

 座ったまま腕だけ動かして空中に手のひらでSの字を描く。

 

「駄目だ、まるで意味がわからん。だけど、ロマンスとかそう言うのじゃないのはタマにはわかったぞ」

 

「青葉くんはやっぱり青葉くんだったね」

 

 二人は何を納得したのだろうか。聞いてもロクでもない答えしか返ってこなさそうなので黙って甘いコーヒーをすする。 

 

『みなさん、今この四国の在り方が歪んだものだとは感じませんか』

 

「ん?」

 

 唐突に商店街の路地を見渡せる大窓の向こうから聞こえた哲学的な声に視線を向けると、路地の真ん中でなにやら街宣活動をしている神経質そうな顔に眼鏡を掛けたスーツ姿の女性。

 

『勇者と名付けられた五人の少女に負担を押し付け、その他全員が平気な顔で安寧を過ごす世の中を──』

 

 眉をしかめそうになる事を声高に主張する眼鏡女、その取り巻きであるだろう数人が道行く人にチラシを押し付けるように配っているのも見える。

 僕の知る限りの範囲では勇者の皆が戦う事に平気な顔をしている人はいないのだが酷い言い草である。僕も自分が戦えるのならば姉や皆よりも前に出て戦いたいとおもうのだが、勇者になれないという一点だけでこの思いは叶わないのだ。

 

「青葉くん、なんだか顔がおかしくなってるよ」

 

「真顔が似合わないな」

 

「ん」

 

 眉をしかめてはいなかったが気分が落ち込んだのは隠せなかったようだ。

 

『今こそその歪さを正す時であり、少女に負担を押し付けるだけの勇者という存在を廃し、天災との融和を──』

 

「しっかしあのうるさいネエちゃんはなんなんだ? 勇者はたしかに大変だがあんなの頼んだ覚えはないぞ」

 

 頬杖をつき、大窓の向こうで声を張る眼鏡女を半目で見る球子。

 

「融和って……バーテックスと仲良くしようって事なのかな? さすがに無理じゃないかなぁ」

 

 大窓の向こうに苦笑いを向ける友奈。

 

「……ん、近くであんなに騒がれたんじゃプランY、ゆっくりなんてできないし移動しようよ」

 

 了解の意を示した二人がカップに残っていた最後のひとくちを呷り、僕もすっかり冷めてしまっていた甘いコーヒーを飲み込む。

 

「ダーリン、ゴチ!」

「騎士さん、ごちそうさま!」

 

 なんとなく申し訳無さそうな白髭の店主とカウンター越しに相対し会計を済ませ、喫茶店を出て先に店を出て待っていた上機嫌な二人と合流。

 そのノリをまだ続けるのか、ならばとことん付き合うのも一つのエンジョイなのかもしれない。

 

「ん~、移動すると決めたは良いものの何処へ行こう?」

 

「もうそろそろ骨付鳥でも食べに行くか」

 

「んん? 今ケーキ食べたばっかりじゃん」

 

 球子の提案に少しの疑問、二人とも入店から自然な流れでケーキを食べていたがそもそも小腹を空かせる為にぶらぶらと宛もなく歩いていたはずでは?

 友奈と球子がほんの一瞬だけ顔を見合わせた後、僕を見て友奈が鼻で小さく吐息を漏らし、球子が小馬鹿にするように嗤う。

 

「ケーキは別腹だよ青葉くん」

「もうちょい女子の扱いを学ぶんだな」

 

「なんと」

 

「まぁ青葉にそこら辺の期待はしてないけどな」

 

 別腹ってのは普通に食事した後でもデザートなら食べれる事を言うのではないのか、もしかしたら女子は本当に胃袋を複数もっているのか。

 

「ん?」

 

 今日何度目かの不条理に肩を落としていると僕達三人に近付く人影を視界に捉え、念の為そっと立ち位置を変えて二人と人影の間に身を挟む。

 

「もしかして貴女達は勇者様では?」

 

 掛けられた声は落ち着いてるとも冷淡ともとれる女性の声、その声の主は先程喫茶店の大窓越しに見た街宣活動をしていた眼鏡女。

 ほんの微かに「うげっ」と、球子が嫌そうな声を漏らしたのを耳で拾った。

 

「そうですけど……何か御用ですか?」

 

 さすがの友奈も何か思う所が在るのか僅かにでも警戒しているのか、声のトーンが些か低く聴こえる。

 

「えぇ、突然に声を掛けて不躾ではありますが……私、勇者様方のファンでして……握手をお願いできませんか?」

 

 二人と眼鏡女の間に身を挟んでいる僕をまるで存在しないかのように欠片も僕をその目で見ることなく平坦な声を紡ぐ眼鏡女。

 

「お触りは禁止ですよ」

 

 なんとなく、気に食わない。

 ただ、それだけの理由で戸惑う二人の前から動かずに立ち塞がり続ける。

 

「貴方は何ですか?」

 

 まるで今僕の存在に気が付いたかのように僕にその眼鏡を向ける眼鏡女。掛けられた声は冷淡で、僕の目に合われた瞳の不透明さに理由の説明できない拒否感。

 前にも似たような質問をされた事が有ったか、確かあの時はカッコつけた名乗りで千景にダメ出しされた覚えがある。今回はシンプルに関係を述べるべきなのだろう。

 

「ナイトでダーリンな青葉です」

 

「…………」

 

 自分で訪ねておいて答えられたら固まるのか。何か小さくともリアクションが欲しい、また滑ってるみたいになってしまったではないか。

 

「こいつ、冗談通じなさそうな奴に冗談かましやがった」

 

「それを目の前で言うタマちゃんも結構際どいよ」

 

 背後から球子の慄く声と友奈の普段通りな声。

 

「は?」

 

 ようやく返ってきたリアクションだが、遅いし短い。

 

「そんな訳なので僕達はもう行きますね」

 

「は?」

 

 再度、眼鏡女の短いリアクション。

 呆れた声で「どんな訳だよ」とこぼす球子と苦笑いを隠さない友奈に振り返り「行こうよマイハニーとプリンセス」と、言ってみる。

 

「あぁ?」

「へっ?」

 

 二人のリアクションも短かった。

 ノリを継続していたのは二人なのに誠に不条理ではなかろうか。

 

 

 ─────

 

 

 固まっていた眼鏡女を置き去りにその場を立ち去った僕達はその後何も変わり事に遭遇する事なく無事に骨付鳥を楽しみ、傾き始めた昼過ぎの太陽を背に丸亀城への帰路を歩いていた。

 

「拗ねんなよダーリン、あそこで梯子を外したのは悪かったって。そろそろ機嫌治せよダーリン」

 

 ダーリン言うな。

 

「……別に拗ねてないし」

 

「骨付鳥食べてる時はぽやぽやしてたのに食べ終わったら戻っちゃったね」

 

「食ってる時だけ機嫌良いって動物かよダーリン」

 

 困ったような笑みの友奈とニヤニヤとからかうように嗤う球子。球子め、悪ノリしているな。

 

「タマちゃん、そろそろからかい過ぎじゃないかな?」

 

「そうか?……そうだな、青葉をからかうのはここまでにしとくか」

 

 友奈に諌められた球子の素直な終了宣言。

 

「んでだな」

 

「ん~?」

 

 唐突な球子の少しだけ改まったような声色。

 

「どんな考えごとしてたのかはぜんぜん解らんが多少の気は晴れたか?」

 

「ん?」

 

「青葉くん最近はボーッとしてる事多かったけど今日のお出掛け中はそんな事無かったみたいだったし、どうかな?」

 

「……ん」

 

 今回の突発的な外出の目的はそういう事だったのか。知らず、僕は二人に心配をかけていたのか。もしかしたら、いや、きっと他の皆にも同じように心配を掛けていたのだろう。

 

「青葉はそういう悩みみたいなのとか聞きだそうとしても喋らないだろうしな、それなら気晴らしに付き合う位しか思い付かなかった訳だ」

 

「前に青葉くんのお悩みを聞こうとしたらタマちゃんも大変な事になっちゃったもんね」

 

「言うな友奈、忘れたままでいさせてくれ」

 

 二人だって勇者の務めで大変なのだろうに、 貴重な 休日を割かせて僕の世話を焼かせてしまった事に申し訳無さと情けなさがふつふつと沸き上がる。

 

「おいおい、そんなヘタレ顔すんなよ。調子狂うって言ってるじゃんか」

 

「さっきの真顔よりも似合ってないよ」

 

 明るく振る舞う二人が、なんだか眩しい。

 

「男子の意地なのかは知らんがよ、タマ達に何も話さないってんならそれでもいい。だけどよ、青葉がそんなんだとどうにも居心地悪いんだ」

 

 いつもの快活だったり強気な笑みとは違う落ち着いた笑みの球子。

 

「今すぐじゃなくても良いから、話せるようになったらお話してね。きっと私達力になるよ」

 

 グッと両の拳を胸の前で握る友奈のひたすらに前向きな笑み。

 

「二人とも、ありがとう」

 

 悩みと言うよりはちょっと夢見が悪くて睡眠不足気味ってだけなのだが、それを言ったら二人はどんな顔をするのだろうか。呆れるのか、大袈裟に心配するのか、それとも肩透かしな理由に肩を落とすのか。

 そうだとしても、僕に心を配り、行動してくれた二人の優しさにとても心がやすらぐ。

 

「おう」

「うん!」

 

 何かが変わった訳では無いはずなのに今夜は良く寝れそうな気がした。

 

「そんじゃ、また晩飯時に食堂でな」

「またね」

 

 寄宿舎に帰り、各々部屋に戻る僕達。あれだけ食べたのにもう晩御飯の事を考えてるのかと、二人の胃袋が複数ある事に信憑性を感じていた時にスマホに着信とメールが来ていた事に気づいた。

 どちらの送信者もちょっとふざけて登録した"ハンサムボーイ"の呼び名。何事かと思いつつもまずはメールを開いてみる。

 

『通り魔のニュース、被害者はエマさんで目撃者は僕。詳しく話したいから気付いたら電話して欲しい。』

 

「は?」

 

 短いリアクションを、スマホの画面に返した。




 
 
 
 
 
 
 

アンポンタン。青葉くんがイメージしたラブロマンスが世間一般で言う昼ドラや火曜日のサスペンスな感じだった。変化球な変態という評価は妥当。相変わらず名乗りでスベる逆に高度なトークの持ち主。優しさが嬉しくもちょっと申し訳無さもかんじる。真顔が似合わない。マイハニーって……古くね? プリンセスって……なんやねん。



テキトーなタマっち。実際はマメなタマっち、身長的な意味で豆。男の子には意地が在るんだろ?理解のある女タマっち。無茶ぶりしてあたふたする青葉くんの反応を楽しもうと思ってたけどカウンターされた。ダーリン呼びに照れはちょっとしか無かった。青葉くんがぽやぽやしてれば落ち着く。変な人とのエンカウント率が高い。ダーリン呼びって……古くね?


ユックリーナ・タカシマ。辛口を求められたので辛口な評価を口にしただけ。変な人にはちょっと辛辣、青葉くんにちょっと辛辣なのは友情の証。でもじつはちょっと変な人だと思ってるのは否定しない。美味しい食べ物大好き、ケーキは別腹。胃袋が複数有るかもしれない勇者、牛とか言ってはいけない。そのうち角生えるけどね。

ドギー
友達が帰って来た、良かったね。お触りしたい。
(頭が)ワルそうな奴はだいたい友達。

眼鏡女
冗談通じなさそう。天と和解せよ、田舎で見かける小さくて黒い看板みたいな事を言ってる。

ハンサム
目撃者。

エマちゃん
すごく不運。

───

三人組の駄弁りが制御できません。
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