乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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37:練習する感じの皆、もしくは備えの話

 曰く、鍛練の早朝ジョギングをしていた時に悲鳴を聞いて駆け付けた所、新聞配達の最中だったらしいエマが背中を血で赤く染めて襲われている所に遭遇したとの事。助けに入る間もなく刃物を振り回していた犯人がエマの顔に刃物を当てた事で頭に血が昇り三度目の切りつけの前に顔を殴って帽子越しに髪の毛を掴んで投げ飛ばしたらしい。

 

『その時に帽子ごと髪の毛を一掴み分引き抜いたのを証拠として警察に渡して置いたよ』

 

 顔はマスク等で隠されていたから解らなかったが長い髪の毛と投げ飛ばした際の感覚で犯人は女性の可能性が高いとも言っていた。

 その後、犯人は逃走。エマをそのままにする訳にもいかず追い掛ける事はできなかったらしい。

 

『ニュースの通りエマさんの命に別状は無いけど傷は薄く残るかもしれない』

 

 スマホ越しに聞いたその言葉はわかりやす過ぎる程に悔恨に満ちていた。きっと、もっと早く悲鳴の元に駆け付ける事ができればせめて顔に傷を残す結果にはならなかったはずだとおもっているのだろう。

 そして、話の最後にこうも言っていた。

 

『奴は切りつけたエマさんの顔を見て「違う」って言ってたんだ。あくまでも僕から見た印象の話なんだけど……青葉君のクラスメイトで勇者の女の子に後ろ姿がエマさんと似ている子がいたよね?』

 

 そう、言っていた。

 

 

「杏ちゃん、最近人に恨まれるような事した?」

 

 仮にその犯人がエマを切りつけたのが実は不本意な事だったとするならば、狙いはもしかして杏だったのだろうか。そうだとするならば、何故その犯人は杏を狙うのだろうか。

 

「……? ボーッとしてたかと思ったら藪から棒にどうしたの?」

 

 道場の隅で並んで座る杏にまさかとは思いつつも一応聞いてみたが本人は全く身に覚えが無いようでキョトンとしている。

 

「ん、なんでもない」

 

「そう? 変な青葉くん……いつも通りかも」

 

「なんと」

 

 本人に覚えが無くとも相手に理由が有るかもしれないというのは三年前の刃物男の一件で学んでいる、電話で話を聞いてすぐに格闘術の先生に報告をしておいたのは間違いではないはずだろう。報告した際に格闘術の先生は「俺が仕事を堂々とサボれる世界にならねぇかな」と言うぼやきに反したギラついた目で警備員を集合させてすぐに警備計画を見直していた。

 

「はぁっ! はっ!」

 

 道場の空気を震わせる姉の苛烈な声。何かを斬るためではなく魅せるための剣閃が緩急をつけて二度閃く。

 急遽決まった元旦での勇者達による演武、それに参加する皆の自主練習の一環として演武とはどのようなものなのかと姉が披露しているのだ。

 

「このようにただ早く強く得物を振るうのではなく──」

 

 姉の型を傍で見ていた球子と千景と友奈の三人に対して姉が説明する。姉と説明を受けている三人が演武に参加する予定なのである。

 姉はリーダーとして張り切って参加を決め、球子は面白そうだ任せタマえとノリノリになり、友奈は最初尻込みしていたものの球子のノリに引っ張られて躊躇いながらも参加を決意し、千景も尻込みしていたものの魅せるための動きも実力向上に繋がるよねと姉と話していたらなにやらやる気になっていた。唯一参加しない杏は緊張して失敗しそうだとの理由で辞退している。

 

「つまりは静と動の切り替えが重要で──」

 

 それにしても姉の講釈は長いな。二つの紫水晶から光線を放ちそうなほど輝かせる姿を幼馴染に写真に撮られても尚気付かずに饒舌に語るのは居合への情熱が溢れているからなのだろう。

 

「わかった、半分くらいわかったから止まってくれ」

 

「いっぺんに一杯言われたらわからなくなっちゃうよ」

 

「説明だけで……日が暮れるわ」

 

「む? そうか」

 

 姉の長い講釈に球子が音を上げて二人もそれに続く。三人ともうんざりした顔をしているが姉はまだ語り足りなさそうな様子。

 

「なんかもうあれだ、タマは口で説明されるより実際に見て動く方が多分良い……そんな訳で青葉、ちょっとお前も座ってないでやってみろ」

 

「ん?」

 

 球子からのキラーパス。

 

「青葉くんの演武、ちょっと興味あるかも」

 

 好奇心を隠さない口ぶりの友奈と何を言わずとも期待が見える千景の視線が僕に刺さる。

 

「ん~、僕のは参考にならないよ」

 

「なんで? 青葉くんも居合すごいんじゃないの?」

 

 姉以外が僕の言葉に小首を傾げるなかで皆の共通の疑問であろう事を杏が口にする。

 僕の居合は日常の居合、腕を落としてから自然な動作に擦り合わせる自己流を突き詰めていった結果一般的な居合から大きく離れてしまい、"魅せる"ではなく"見せない"や"見にくい"つまりは演武としては不恰好な"醜い"モノに仕上がっているのだ。

 鍛練を共にする姉もそれをよく解っているのか僕がそのある意味では外道とも言える剣筋に磨きがかかる度にちょっと複雑な表情をする事がある。

 

「参考にするかどうかは見てから決めるからやってみろよ」

 

 だが、減るモノでも無いので見たいと言うならば見せるのはやぶさかではない。

 座る脇に置いておいた練習刀を掴んで立ち上がり、そのままゆっくりと歩き出す。

 

「ちょっと本気だすよ」

 

「乃木くん、やる気な顔ね」

 

 歩きつつ、呼吸音を控え目に息を整える。

 

「だからさ」

 

「あん?」

「なぁに?」

 

「見れるかな?」

 

 ちょっとだけ悪戯心が沸いたので最大限見にくい型で抜いて振るってみたくなったのだ。

 

 歩み寄ると見せかけて転んでしまったかのような動きで身を倒し、滑るように前に出した足で床を踏みつつ抱えるように持った練習刀の鞘の先を足指で掴んで固定。皆からは僕の背中と頭しか見えて無いだろう。

 

「青葉ちゃ──」

 

 突然の動きで幼馴染の驚く声を聞きつつ床を踏んだ足から更にもう一歩先に踏み込み、身体を起こしながらも前進の勢いのまま抜刀して縦一閃に垂直な切り上げ。

 抜刀の瞬間と技の入りを見せないちょっとしたネタ型なのだ。

 

「──ん!? ……あら?」

 

 視界の中に呆気に取られるみんなの顔と溜め息を吐く姉の顔。

 

「どう? 見えた?」

 

 そして、僕は切り上げの姿勢のまま渾身のドヤ顔なのである。

 

「青葉、意地悪しないで普通のを見せてやれ」

 

「……ん」

 

 ちょっと叱られてしまった。

 

「無駄にスゴいな、無駄に」

 

「足元からの刃物は怖いね、しかも不意討ち」

 

「やっぱり……アサシン?」

 

「後ろからじゃなんにもわからないや」

 

 反応は三者三様、悪くはないけどウケてもない様子。ウケるネタだと思っていただけにこの結果には少々ガッカリである。

 

「決めポーズのままションボリ顔の青葉ちゃん、一枚撮っちゃいました」

 

 恥ずかしくなるから決めポーズとか言うのはやめて欲しい。

 

「青葉がそーゆー訳のわからん所でスゴいのはみんな解ってるからタマ達にもわかりやすいのやれよ」

 

「ん」

 

 褒められたのか流されたのかは微妙だが次に普通っぽい感じで型を披露したが『若葉との違いが片手か両手かの違いしか解らない』と、皆に口を揃えて言われた。

 瞬間的な美しさと力強さに秀でた姉の剣、どれだけ鍛えようと補えない隻腕の非力さと制限される動きを補う為に動きの流れに重きを置く僕の剣、しっかりと見比べれば剣に対して素人でもわかるはずなのに皆にはもう少し理解して欲しいものだ。

 

「乃木くん……少し、不機嫌?」

 

 少し休憩する事にしたのであろう千景が僕の座る横に腰を下ろす。

 

「……ん、そうでもないよ」

 

 ちょっとだけ嘘を吐いたかもしれない。

 姉の居合は実戦剣術の動きを取り入れているものの正統な居合だ、外道とも言える僕の居合とは断じて違う。姉の居合は僕の居合と同列に見ていいものではないのである。

 

「そう」

 

「ん、そうなのさ」

 

 分野は違えど武芸を学んでいる皆にはこれをちょっとでもわかって欲しかったのだが同じ居合で一括りにされてしまったのがちょっと残念に感じでしまった。

 姉の居合は、強く、美しいのだ。

 

「そういえばさ」

 

「なにかしら?」

 

「千景ちゃんが人前に出て演武するのって決めたのがさ、結構意外に感じるかも」

 

 僕から見た千景はおとなしく控え目な性格な女の子だ、最初は尻込みしていたものの最終的に参加すると決めたのは何故なのだろうか。

 

「魅せるための動きも……実力に繋がるのでしょう?」

 

「ん」

 

 ただ斬るための動きとは違う魅せるための型、それを追究すると斬るための動きを追究するのとは別の形で自らの体に合った体の動かし方を学ぶことになり、それが自らの体への理解を深めて結果的に全体の動作が洗練されていくというのが僕と姉の共通の認識である。

 

「だからよ」

 

 千景は実力の向上の為に参加を決めたのか。

 

「強くなれば……バーテックスとの戦いでもしもの事態を回避できる確率を高められるわ」

 

「そうだね」

 

 語る千景の瞳に昏さを霞ませる前向きな光。

 

「私は戦いを生き延びて……笑って帰りたいから」

 

「ん!そっか。そうなるのが一番だもんね」

 

 二人で顔を見合わせて笑う。

 皆が戦いに行っても無事に帰って来てくれて、それで笑い合えるのは僕にとってもとても嬉しいことだ。

 

「だから私……頑張ってみるわ」

 

「ん!」

 

 休憩もほどほどに腰を上げる千景、鍛練を再開するのだろう。

 

「千景ちゃんは腰がしなやかで綺麗だから魅せる動きもすぐに上達できるさ、応援してるよ」

 

 球子が苦笑いする杏に見守られながら旋刃盤を構えてトリプルアクセルをしているのを視界の端に捉えつつ歩き出す千景の背中に声援を贈る。

 千景の大葉刈を振るう姿は姉とは違う形で美しさに秀でている、千景が魅せる事を意識して大葉刈を振るうのならば更に流麗で美しくなるだろう。

 

「…………そぅ」

 

「そうさ」

 

 歩みを止めて若干俯きながら振り返った千景がなにやら薄く赤面しつつ短く応える。その表情は、ちょっと困ったような微笑みに見えた。

 

 

 ─────

 

 

「馬子にも衣裳だな」

 

 僕を見てヘラリと笑う格闘術の先生。

 馬子にも衣装とはたしかどんな人間でも身なりを整えれば立派に見えることって意味だったか、褒め言葉に使う言葉としてはやや不適切な言葉のはずだ。僕は国語の成績だけはそれなりなのでこれは間違いないはず。

 

「ふむ、居合で和装に慣れているからか服に着られている雰囲気では無いようだ」

 

 指で顎を擦りながら納得するように小さく頷く鷲尾先生。僕が今身を包んでいるのは白い袴の神官装束、二人の先生に教えて貰いながらややこしい着方をするこれを着用したのである。実は未だに格闘術の先生が実は神職な事実に対して嘘くさいと思っていたので淀みなく教えてくれた事に驚きを隠せない。鷲尾先生は何でも知ってそうな雰囲気のある大人なのでむしろ納得である。

 

「ん、思ったより動きにくくない」

 

「そりゃあ元々は大昔の貴族が狩りの時に着てたモンだからな、動きにくかったら狩りなんてできねぇよ」

 

「そうなんですか鷲尾先生?」

 

「その通りだ」

 

「おい、なんでわざわざ確認した」

 

 普段の言動的に胡散臭いからである。

 

「んじゃ、今日の坊主の役割を確認しとくぞ」

 

「ん」

 

 今日は二○一九年の元旦、丸亀城の敷地を一般解放して皆が演武を披露する日だ。

 

「伊予島の嬢ちゃんから離れるな」

 

「ん」

 

 以上が今日の僕に課せられたお役目だ。シンプルで簡単な事に聞こえるがこれは非常に重要な事であると僕は理解している。

 先月のエマを切りつけた通り魔、もしかしたら杏を狙っている可能性が僅かでもあるコイツが未だに捕まっていない状況での丸亀城の一般解放、本当に目的が杏だったとして演武を見に来る一般の人達に混ざってコイツが近づいて来ないとは言いきれない。むしろ、今日のような日こそが危ないとも言える。

 

「本当なら演武をしない伊予島の嬢ちゃんには天守にでも引っ込んでいて貰いたいがそうはいかねぇし、常に警備に囲ませるのも難しいからな。とにかく傍にいて目立て」

 

 五人の勇者の内四人が演武をする中で杏一人だけが姿を見せないのは多くの人に不審や不安を及ぼす可能性がある上にこのお祭りのような行事の中で杏自身の自由を制限するのも非常によろしくない、勇者にとって……いや、普通女の子である杏にそれがストレスになって勇者である事を苦痛に思ってしまうかもしれないのは良くないと大社の偉い人達が判断したらしい。

 勇者として活動する上で精神状態はとても大切な要素なのだ。

 

「ん、目立って周りの一般の人達の目を寄せる、それがいるかもしれない通り魔への牽制になるんだよね」

 

「そうだ」

 

 金髪で神官装束を着用する少年、ついでに隻腕な僕ならば人混みに紛れても目立つだろう。更に目立つ要素追加の為に帯刀も許可されている。

 

「まだ子供である乃木君にこのような役目をさせるのは申し訳ないが、やはり少しでも安全性を増すために必要な事なのだ……すまない」

 

 渋く、苦い表情の鷲尾先生。声色も沈んでいるしその瞳には苦痛さえ感じているのではと思えるほどの憂いの光。

 

「僕は子供じゃなくて男です。バスや電車だって大人料金ですよ」

 

「そういう意味では……いや、うむ、そうか」

 

 口では納得しているかのようだが表情から渋さも苦さも薄れてはいなかった。

 

「生意気言いやがって、大人だって主張するなら一応先生でもある俺に敬語で喋ってみやがれ」

 

「え~」

 

 絶対にやだ。格闘術の先生の練り高められた武と毎日皆の安全のために熱心な姿は尊敬してはいるが絶対にイヤだ。

 友奈に金的を授けた恨みが全てを台無しにしているのだ。

 

「それじゃあ身仕度も整ったしみんなのいる控え室に行くよ」

 

「へいへい、坊っちゃん敬語はどうした?」

 

 煽られても使ってたまるか。

 

「せんせーに敬語使うくらいなら坊っちゃんでいいや」

 

「……けっ、つまんね」

 

 そう言いつつも何故か弛んでいる格闘術の先生の頬。今のやりとりの何処が気に入ったのか、僕にはわからない。

 

「それじゃあ乃木青葉、お役目を果たしに行ってきます」

 

 大社がこれを帯びなさいと用意した漆塗りの華美な鞘に納められた刀を持ち、二人の先生が居る部屋から退出して歩き出す。向かう先は杏がいるであろう皆の控え室……ではなく寄宿舎の僕の部屋。

 

「これじゃ、足りない」

 

 目立てと求められて刀を用意されたが、足りない。

 もしもに備えるならば、刀一本では足りない。

 荒事が微かにでも予想されるのならば、備えは万全にする必要がある。

 

 隠し持つことが習慣となっている袖の小刀と腰の棒手裏剣、あれも装備してこそ僕の万全なのだ。

 











青葉くん
自分に合う居合を模索した結果居合と言い張るにはちょっと違うかもしれないナニかになってる。本人は居合をやりたいのにどうしてこうなった。何故居合にこだわるのかって?姉とお揃いだから。シスコン。姉の居合は美しい、外道の剣と一緒にしないで欲しい。ときたまボーッとしてるのは継続、つまり夢見が悪い。フル装備神官装束バージョンで出撃。

若葉さん
居合オタク。暗殺剣みたいなヤツが冴えていく弟にちょっと複雑。かつて五体満足だった頃の弟の剣は舞踊のような美しさだったと思ってる。なお弟さんは自分の剣を盆踊りだったと思ってる模様、ついでに言えば今の剣はネタ。

ひなたちゃん
ころぶような動きをした幼馴染がかつて腕を落として重心を狂わせてた頃の幼馴染と重なって見えてしまった。また驚かせて!んもぅ!ちょっと仕返しにショボン顔を激写。

タマっち
剣とかあまりわからないけど若葉さんも青葉くんもキレのある動きをしてるなぁって漠然におもってる。「あーはいはいスゴいねー」なのか「お前がスゴいのは当たり前だ」なのか、どっちだろうね。盾でどうやって演武しろってんだ?とりあえず派手な動きしておく。

杏ちゃん
フル装備青葉くんがつきまとう事が確定してる。リード無しで珍獣のお散歩です。

友奈ちゃん
足元から垂直に跳ね上がる刃物の対処法を考えた結果剣を振る前に低い位置にある頭を蹴り飛ばせば良いのかな?って思い付いた。不意討ちは察知すればただの変な動きです。本気の青葉くんと異種組手してみたい。

千景ちゃん
腰がしなやかで綺麗。生きて帰って笑うために頑張ってる。私は、笑いたい。『友達』と笑っていたい。それが私の価値なのかもしれない。

鷲尾先生
子供である自分の生徒に微かにでも危険が有るかもしれない役目をさせることが辛い。勇者達が心配過ぎて辛い。最近胃薬のんでる。子供が普通に子供のままでいられる世の中ならいいのにね。

格闘術の先生
お偉方が色々考えた結果青葉くんに頑張って貰おうって指示を受けて実はイライラしてた。子供を戦力に数えなければいけない不甲斐なさにまたイライラ。人手が足りない、平和が足りない。大人に対するように戦力として扱ってしまった相手が自分に対して子供のままの振る舞いをすることがちょっと辛いけど嬉しい。

───

気になってた長編クロス物を読んでみたら夢中になってました。
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