乃木さんちの青葉くんはこんな感じである 作:ቻンቻンቺቻቺቻ
元旦の演武とその後のテロ未遂事件は速報で四国中に報道された。大社が関わる事は基本的に大社による情報規制の後に報道されるのが常だったのだが、丸亀城にいなかった多くの大社の関係者が情報を把握する前にその場にいた一般の人達が動画や画像をSNS等を利用して拡散し、それにより対応に混乱が生じたたまま規制が間に合わずありのままの事実がテレビやラジオで報道されたのだ。
「どの局もテロ、テロ、テロ……ついでに演武にちょっと触れて更についでに大社の暗部、武装神官ときたもんだ……クソ喰らえだな!」
警備の詰所にてラジオのチューナーを乱暴に操作しつつ悪態をつく格闘術の先生。演武が大成功に終わったかと思えばその直後に爆弾テロ騒ぎなのだ、荒れるのも仕方ない事だと思う。
「勇者達にかすり傷一つ無いって情報も同時に拡がったのは不幸中の幸いか、最悪四国中がパニックになってたぞ」
「ん、皆に怪我が無くてホントに良かったよ」
僕の同意の声にラジオを乱暴に弄っていた格闘術の先生の手が止まり、昼にも見たケダモノの目が僕に向けられた。
「なぁ~にのほほんとしてやがる! 坊主がいなけりゃ全滅の大惨事もあり得たのに有りもしない暗部の危険人物扱いで報道されてんだぞ!」
どうやらSNS等を中心に僕は大社が秘密裏に育成した特殊部隊や暗殺者だとの面白いデマが飛び交ってるのが格闘術の先生は気に食わないらしい。ラジオやテレビもこの情報を明言しない程度に触れているせいか噂が噂を呼び、捏造と虚構に固められた謎の人物がネットで一人歩きしてる様は都市伝説はこうして産まれるのだろうなと納得できるほどだ。
「そういうの、あんまり興味ないからどうでもいいかな」
「坊主、お前ってやつは……それでいいのか? ホントにいいのか?」
「ん」
頷く僕に、項垂れて深く椅子に座る格闘術の先生。
怖い思いをさせてしまったけど皆は無事だった、今はそれが一番大事なのだ。
「一之瀬、茶ァ煎れろ。とびっきり濃いやつだ」
格闘術の先生の指示でいつかのチョロい組の片割れが拙い手つきで急須に茶葉を山盛りねじ込み始める。そんな煎れ方だと一種の気付け薬のようになりそうだが良いのだろうか。
「本題に入る、今回の件について俺と坊主の認識を擦り合わせておくぞ」
「ん、わかった」
今回僕が警備の詰所に来ているのは偉い人に報告するために実際に武力行使をした僕の認識したものを格闘術の先生は把握しておきたいという理由なのだ。僕は報告書の書き方なんてまるっきりわからないし、格闘術の先生から僕に警察の調べで解った事を教えてくれると言われれば是非もない。
「まず聞きたいのはなんで襲撃を察知できた? 俺には坊主がいきなり振り向いた後に爆弾女が飛び出して来たように見えたぞ」
「ん、鞘走りの音が聴こえたんだ」
「……いきなり訳わからんな、あの雑踏の中で正確な方向が解るほど聴きわけれるものか?」
そう言われてもハッキリと聴こえたのだから仕方ない。
「それに奴等が持ってたのは腹に巻いた爆弾と手に握っていた起爆スイッチだけだ、刃物は無かった」
「あの握ってたのスイッチだったんだ」
「知らずに弾き飛ばしたのか」
「ん」
一射目で両手を射ち抜いたのは偶然にも最適な行動だったのかもしれない、最初に脚を止めさせていたとしたら二射目を射つまでに起爆されていた恐れがある。実際にあのパイプ爆弾とやらがどれ程の威力が有るのかは知らないが僕の足で十歩も無いあの距離で爆破されたら皆に被害が及んでいたかもしれない。
「そうか、俺も爆弾なんて気付かなかったからほぼ零距離に近付いてたわ。最初に心臓打ちで動きを止めてなかったら今頃ミンチだったかもな」
「お互い爆破されなくて幸運だったね」
声を揃えて乾いた笑い声を上げる僕と格闘術の先生。一頻り笑っている間にお茶ができたらしく僕と格闘術の先生の前にそれぞれ湯呑みが置かれる、僕にこの青汁みたいな色のお茶を飲めと? 普段警備はこんな物を飲んでいるのか?
「で、だ。次に聞きたいのは──」
不意に着信する格闘術の先生の携帯電話。画面を確認した後に一言「ちょい悪いな」と残して席を立った格闘術の先生が少し離れて通話を始める。
「んげぇ」
手持ち無沙汰に青汁のようなお茶をほんの少しだけ舐めてみたが舌が痺れるのではと思うほど苦くて渋い、これはお茶への冒涜ですらあると思う。これは普段の幼馴染が煎れてくれる渋さ控え目で苦味と甘味の程よいバランスな美味しいお茶に慣れてしまっている僕には受け付けられない駄汁だ、お茶と名乗るのは控えて欲しい出来損ないだ。
「坊主、すまんな。呼びつけておいて悪いが今日はここまでだ、最速で寄宿舎に帰れ」
「ん?」
通話を終えた格闘術の先生の唐突な解散宣言。まだ事件の最初の話しかしてない上に警察の調べで解った事を教えて貰ってないのだが。
「続きは明日だ、坊主が膝をかち割った爆弾女は病院だがハゲの女は取り調べに対してべらべらと喋ってるらしいからな。明日まとめて教えてやる」
ヒラヒラと手を払う動きで早く帰れと促す格闘術の先生。しかし、どうにも腰が重く、腰掛けた椅子から離れたくない。
「どうした、さっさと帰れ」
「すごく、帰りたくない」
「あぁ?」
脳裏によぎるのは幼馴染の気丈に口を結んだ表情と身を縮めて震えていた杏の姿、あの二人はきっととても怖かったはずだ。混乱のまま武器を構えた球子と友奈もきっと怖かっただろうし千景も声が震えていた。
皆が怖がる事態の中で最も暴力を振るっていたのは僕なのだ、事を起こした爆弾女達は結局の所何をする間もなく制圧されたし格闘術の先生は血の一滴も流さず自分も相手も無傷のまま事を済ませた。それに反し、僕は危機を感じるがままに武器を抜いて暴力を行使し、ヤバい奴相手とは言え両手を武器で縫い合わせて膝を射ち貫くなどと日常ではあり得ない暴力的な光景を皆に見せてしまったのだ。
結果だけを見るならあの場ではあれで皆に掠り傷一つ負わせる事なく事態を治められた。しかし、少し冷静になれた今になってからもっと上手いやり方があったのではないかと考えているのだ。先程は皆に怪我が無いのが一番だと自分を誤魔化そうとした。でも、誤魔化しきれなかった。
一番皆を怖がらせたのは、僕なのかもしれない。
そう考えてしまった結果、皆のいる寄宿舎に近付く事さえも心の何処かに拒否感を覚えてしまい、腰が重たくく感じる。皆に合わせる顔が無いのだ。
そう、打ち明けてみた。
「うるせぇ、ウジウジすんな気色悪ィ」
「え~」
対する格闘術の先生の反応は鼻に小指を突っ込んでほじくっている白けた顔。僕としてはかなり真面目な話のつもりだったのにその反応はあんまりではなかろうか。
「もう面倒くせぇからここでグダグダしてないで寄り道せずにさっさと寄宿舎に帰ってやれ。それで大体上手くいくからよ」
「んん?」
何の話なのかと首を傾げていると立ち上がった格闘術の先生に襟首を掴まれて詰所から放り出された。扱いが雑過ぎではなかろうか。
「今夜はそこらじゅう警備員だらけで寄り道したらすぐわかるからな。さっさと帰れよ」
取り付く島もないとはこの事か、さっさと閉められる詰所の扉。あまりの扱いにしばし呆けた後に「何だこの青汁よりヤベーのは!」と、扉の向こうから噎せながらの荒れた声が響いてきた。あれを飲んだのか。
「……帰ろ」
気は進まないが帰るしかない。爆弾テロ騒ぎの直後だからか敷地内は厳重に警備されており、少しでも寄り道しようものならばすぐに報告されてしまいそうなので足取り重たく寄宿舎へ向かう。
暗い気持ちのせいか、視界の上端に見える雲混じりな星空が僕の臓府を形有る恐怖で強く締め付ける。
「みんな、もう寝てるのかな?」
たどり着いた寄宿舎、僕の部屋以外それぞれの部屋は既に照明が消されていて真っ暗な窓が見える。あれだけの騒ぎがあれば疲れるのは当然だし皆早めに就寝してるのかもしれない。唯一明かりが点いている僕の部屋には恐らくは姉か幼馴染か、もしくは二人が僕の部屋に来ているのだろう。
幼馴染がいたのなら『また怖い目に遭わせてゴメンね』と謝ろうと心に決めつつ、自分の部屋の扉を開いた。
「ただいま」
「帰ったか、青葉。おかえり」
「おかえりなさい、青葉ちゃん」
予想通り、姉と幼馴染がいた。そして、──
「お邪魔してるよ青葉くん」
いつも通りの友奈がいて。
「テレビ見てみろよ、青葉の暴れっぷりが動画に撮られてたのが放送されてるぞ」
面白がってる球子もいて。
「あんな事があったばかりなのに……暗くなってから出歩くのは感心しないわ」
ちょっと眉をひそめている千景もいて。
「……? ポカーンとしちゃったね」
やっぱりふわふわしてる杏もいた。
皆が、僕の部屋にいた。
「ん……? んん~?」
予想外過ぎて理解が追い付かず、首が傾いて視界も傾く。
「どうした青葉? 何をそんなに固まっている」
「なんでみんないるの?」
「青葉の部屋が溜まり場になっているのはいつもの事だろ」
姉の問いに問いで返せば球子からの当たり前だろと言わんばかりの態度での答え。そうだけど僕が聞きたいのはそうじゃない、なんでみんな何時も通りな感じでつい先程大暴れした僕の部屋にいるのか。
「あっ、今日はみんなこの部屋に泊まる事になったからな。へんな事すんなよ」
「……んん!?」
「パジャマパーティーだね」
「外泊は……初めてだわ」
唐突な球子の言葉を頭の中で三度繰り返してようやく理解し、驚いたと同時に友奈の楽しそうな声と枕を抱き締めつつちょっともじもじしてる千景の声が続いた。
「許可は若葉からとった」
「若姉さん!?」
「……ふふん」
姉よ、何故胸を張る。
驚愕に鈍っていた思考がちょっとだけ状況に追い付いてきて気付いたのは押し入れさえも利用して敷き詰められた人数分の布団。そして、皆が寝間着姿だという事。
「押し入れで寝るのやってみたかったんだ~。ふーふーふー、わたしゆーなですー」
ダミ声っぽくアニメキャラの物真似をする友奈が押し入れに腰掛ける。これは、既にエンジョイのスイッチが入ってるテンションか。
「……んん? ……あれぇ?」
「状況は全部説明されただろうに、何をそんなに首を傾げてる」
「取り敢えず座ったらどうですか青葉ちゃん」
キョトンとした顔の姉と手際よく僕の肩から上着を剥いで衣紋掛けに掛ける幼馴染。
「僕……あんなにみんなを怖い目に遇わせちゃったのに……あれぇ? 何時も通りな感じで……んん?」
「つまり……何だってんだ? わかりやすく話せよ」
面倒くさそうに半目で僕をみる球子。
「あんなに怖がらせちゃったのに……みんな平気なの?」
「平気じゃないからここにこうして集まってんだろうがよ。言わせんな、察しろニブチン」
「部屋に一人でいたら落ち着かなかったから誰かいないかなと思って青葉くんの部屋に来たんだよ」
これみよがしに溜め息を吐く球子と頬を指で掻いて苦笑いする友奈。たぶん、会話が噛み合ってない。
「なんだかまだよくわかってないって顔してるね」
「ん」
「……ははぁ、わかったぞ」
杏の声に頷けば何か合点がいったらしき姉の声。
「察するに、青葉はあの騒ぎで自分の大立ち回りがみんなを怖がらせたんじゃないかって思ってて、でも怖がらせてしまったと思ってたみんなが普段通りな感じで部屋にいたから混乱したんだろう」
「ん、そういうこと」
流石は僕の姉、僕の事を完全に理解している。
こんな僕と姉の言葉の応酬を聞いていたみんながそれぞれの顔を見合わせて露骨に呆れたような顔だったりやれやれと言いた気な苦笑などそれぞれ表情を変えた。
「なぁあんず、このニブチンに言ってやれよ。多分あんずが言ってやれば納得するだろ」
「うん」
なんだというのか。
「青葉くん」
杏の、ふわふわで真っ直ぐにな瞳が僕を見る。
「危険に気付いてくれて、守ってくれて、ありがとう」
「……ん……え」
一音一音ゆっくりと聞き取りやすく告げられたのは、真摯なお礼の言葉。
「なんだよ、まだ間抜け面してやがる」
「ならばやはり、ひなたの出番だな」
「はい」
そっと僕の両頬に添えられるふわりと暖かい手のひらが力を込めず僕の顔を引き、優しく微笑む幼馴染の顔と向かい合わされる。
「青葉ちゃん」
「……ん」
名を呼ばれ、反射的に返した意味の持たない音。
「前にもとても似た事が在りましたね。私達が怖かったのは青葉ちゃんのせいではありません、悪い事をした悪い人達のせいです」
幼馴染の言葉に思い出すのは刃物男の事件。
「私は、私達は青葉ちゃんが戦う時はいつも誰かの為だって知っています。私達が青葉ちゃんに驚いたとしても、恐怖する事はありません」
「たしかに驚いたけど、バーテックスの方がよっぽど怖いもんね」
「そうね……私はむしろ、乃木くんが庇う背中を見せてくれたから……すこし落ち着けたわ」
幼馴染の落ち着いた声に続く和気藹々とした友奈と千景の声。
「そもそもよ、怖いと思った相手の部屋に上がり込むかよ。みんながここに来てる時点で気づけよ」
「タマっち先輩ったら『後から怖くなってヘタレてるかもしれないから見にいってやろう』って心配してたくらいだもんね」
「あっ、あんず! ちがうぞ! タマは笑ってやろうと思ってだな……!」
ふわふわと笑う杏に頬を微かに赤くしてじゃれつく球子。
そうか、そういう事だったのか。
「青葉、確かに皆は怖い思いをした。だが、それはお前のせいではないしそれで心折れる程みんな弱くもない……まったく、青葉は変な所で心配性だな」
「ヘタレの青葉がタマ達の心配するなんて百年早いぞ」
弱っていたのは皆じゃない。弱かったのは、また僕だ。
相も変わらず、僕は未熟のままだった。
「ん、そっかぁ」
「……だけど、まぁ、青葉はヘタレなりに頑張ったからな、礼は言っとくぞ……ありがとよ」
「土居さん……ツンデレかしら?」
「ちっ、千景ェ!」
「……フンス!」
「あんずも鼻息荒くするな!」
皆がそれぞれ言ってくれた『ありがとう』に、とても心が安らいだ。そして、僕は一つ心に決めた。
また危機が訪れないことが一番だけど、もしまた危機が近付くのなら皆がそれを認識する前に排除すると、今度こそ怖い思いをさせないと、そう決めた。
そのためには、やはり鍛練が足りない。
─────
姉を投げ飛ばし、腕を噛みちぎられ、血濡れで転がり、幼馴染が責め立てられ、、腕を焼いて、痛みに絶叫する。幾度も同じ光景を繰り返す合間に見えた幼馴染の泣き顔と腕を無くした球子のうなだれる後ろ姿、血の紅化粧を頬に走らせた姉の憎悪に満ちた眼光。
毎夜繰り返される悪夢の中に救いのように紛れ込んだ皆の談笑する光景、すがるように手を伸ばしたその光景に突如駆け寄る醜悪な笑み。その手に握る機械を僕に見せびらかすように掲げ──
「青葉」
姉の呼び声に、意識が現実に戻る。
開いた眼に光が入らず混乱仕掛けるが、僕の頭を包む二本の感触と額に触れる控えめな柔らかい感触、そして、鼻に感じる慣れ親しんだ匂いに心を落ち着かせる。
「……若……姉さん?」
「あぁ、そうだ」
姉に添い寝され、胸に抱かれているのか。
「うなされていたぞ、悪い夢でも見たのか」
何故姉が僕の部屋にいるのかと一瞬だけ戸惑ったが、そういえば球子発案の突発的なお泊まり会を僕の部屋でしていたなと寝起きの鈍い頭で思い至る。うなされていたらしい僕に気付いた姉が、僕の寝てる布団に入ってきたのか。
「……うん」
「そうか」
僕と姉の囁きの声だけが耳を打つ無明の静寂の中、僕の頭を包んでいた一本がゆっくりと動き、小さく往復する暖かな感触が僕の頭を撫でる。
「ここ最近、ずっと悪夢を見ていたのか」
「…………」
姉は見抜いたのか。
「いつからかまた、薄く隈が浮いてたからな。よい睡眠をとれてなかったのだろう」
「…………」
答えは返さない。でも、無意識の内に姉の背中に回した手に少しだけ力が入ってしまった。
「そうか、どんな夢だったんだ?」
「…………」
言葉は発っさない。皆が命を落としてまう夢だなんて言葉にしたくなかった、言葉にすれば、いつか現実になってしまう気がしたから。
「言葉にしたくないほどの怖い夢か」
やはり、姉は見抜く。
「でもそれは、全部ただの夢だ」
「…………」
「だから、大丈夫。青葉はきっと、大丈夫」
怖いのは、僕への脅威ではないのだ。
「青葉が大丈夫って言えば大体大丈夫なら、半身の私が大丈夫って言ってもきっと大丈夫になる」
無明の中の姉の声は、もう帰らない母や祖母の声に少しだけ似ていた。
「いつもは青葉が私に言ってくれるからな、今は私が青葉に言おう……大丈夫だ」
「……ん」
大丈夫にするために、頑張らなければ。
「……なぁ青葉、一つ聞くぞ」
「ん」
小さく往復し続けていた暖かい感触が止まり、僕の頭を包む感触が二本に戻る。
「あの時叫ばなければ、青葉はアレを殺すつもりだったのか?」
──『殺すなっ!』
あの時の叫びとは、一射目の直前の懇願の叫びか。
「……わかってるんでしょ」
「それでも、言葉にして聞きたい」
「ん、そっか。……殺す気だったよ」
ぶれて聞こえる、息を飲む音。
「ある人が僕に聞いたんだ『大切なモノを犠牲にしなければ大勢の人が死ぬとして、貴方は大切なモノと大勢の人のどちらを選ぶ』って」
「それで、どう答えたんだ?」
「大切なモノを選ぶ、むしろ僕は"大切"の為なら大勢の人を手に掛けれる。僕にとっての"大切"はそう言う意味を持つって答えたよ」
「そうか」
「僕の"大切"は、みんななんだ。みんなを護りたくて、一番確実なのがそれだと思ったんだ」
家を無くした僕の帰る場所は、大切な姉と幼馴染のいるこの丸亀城だ。そして、この丸亀城で一緒に過ごす皆の事も家族のように大切に思っている。
「そうか」
「ん、そう」
僕の頭を包んでいた二本の感触に力が増し、軽く締め付けられる。息苦しさを感じる寸前のそれが心地よくて、安心できて、心が落ち着いた。
近付く眠気に、意識がぼんやりとし始める。
「私ならその問いに『どちらも犠牲にさせない』と答えるよ」
「……ん、そっか……やっぱり若姉さんは、つよいや」
誇らしい程に、姉は強く、気高い。
「……僕には、できない」
僕は、未熟で、弱いのだ。
「そんな事ないさ」
「……こわいよ」
「大丈夫」
「……夢みたいに、みんなが……いなくなるのが……こわい」
「大丈夫。私も皆を護る」
「……たいせつ……なくすのが、こわ……い」
「大丈夫」
意識が落ちて、夢の続きを見た。
─────
なんだか妙に優しい気がした皆と朝食を共にした後、僕は昨日の話の続きをするために警備の詰所へと足を運んだのだが。
「ぃよぉ~~う坊主、よく来たな。まぁ座れや」
「……おはよう、乃木君」
「んん?」
理由の見えないハイテンションな格闘術の先生とゲッソリとした鷲尾先生に迎えられて困惑を隠せなかった。
「そんじゃ昨日の続きすっか」
「ん」
ひどく疲れているのかソファーで項垂れている鷲尾先生をそのままに行われる昨日の続き。格闘術の先生の奇妙なテンション以外は恐らくは普通の話し合いで終わり、一日の内に警察の取り調べで解った事もそのまま教えて貰えた。
「んでだな、来週勇者教室の全員で温泉に行く事になったわ」
「ん? なんて?」
話し合いの最後に脈絡なく言われた言葉に対して思わず聞き返してしまった。
あれだけの騒ぎがあった翌日に何を言っているのか。直前に聞いた天の神がどーのとか勇者を捧げて赦しを請うだのとかってカルトな犯行動機並みに訳のわからない話に驚きと呆れを禁じ得ない。丸亀城の外には皆への害意を持つ誰かがまだいるかもしれないのに暢気に温泉とはこれ如何に。
「大社のクソジジイ達が決めた。勇者のメンタルケアだってよ……ヒャッヒャッヒャッ! 笑えよ坊主、冗談みたいだが現実だぜ!」
投げ遣りに笑う格闘術の先生、奇妙なテンションはそのせいか。項垂れていた鷲尾先生も深く重たい溜め息を吐いている。
大社はやっぱり頭おかしい。
青葉くん
寝息も身じろぎの音もない静けさのなか姉に弱音を吐く、というよりは些細な反応で色々見破られる。大社の育てた暗殺者(デマ)大社にとって都合悪い奴を消してる(嘘)天災のどさくさで色々殺った(捏造)目的のためなら殺しを躊躇わない(本当)一部政治家は暗殺部隊に狙われてる(作り話)姉と幼馴染なら目隠しでも匂いで解る。同じ弱気を繰り返した未熟者メンタル。失うくらいなら、殺す。
若葉さん
弟がうなされて瞬時に目が覚めるスーパーお姉ちゃん。弟を添い寝して抱き締める。ナニがとは言わないが控えめだけどやわらかい。犠牲になんてさせない強者メンタル。私に任せて皆は寝ていろ。
ひなたちゃん
青葉くんの部屋にお礼の気持ちを伝えに行って青葉くんがいなかったのでそのまま待ってた。何度でも弱気になるのなら、何度でも励まします。
きっと起きてる。
タマっち
妹分の様子を見に行ってたけどヘタレな相棒も気になってた。そして自分もちょっと不安だった。相棒の部屋に行けば一緒にいる人数が増えて妹分の安心が増してヘタレの様子も見れて自分もちょっと気が楽になるかも、名案。頼りになるヘタレの部屋へ。
多分起きてる。
杏ちゃん
なんだか不安でどうしようかなって時に颯爽と王子さまなタマっち登場、ニッコリ。驚いたし怖かった、でも頼りになる皆がいたからもう平気!
もしかしたら起きてる。
友奈ちゃん
お泊まり会を一番エンジョイしたであろう勇者。押し入れで寝るのはやってみたかった、青色のタヌキじゃなくて桜色の勇者。
おそらく起きてる。
千景ちゃん
お泊まり会は初めて。かつて手を引いてくれた優しいはずの手が武器を振るって人を傷つけるのを見た。でも、手を引いてくれた時に見た背中は何も変わってなかった。むしろ、心強かった。
おおかた起きてる。
鷲尾先生
心労案件が増えてばかりで大変。胃薬も増える。
格闘術の先生
寄宿舎周辺を警備してた奴から電話、勇者達が青葉くんの部屋に集まってるってよ。生き延びたからにはこれからも苦労してもらいます。暗部の教官(虚構)
一之瀬
少しでも和ませようとイタズラしたらガチでキレられた、時と場合が悪い。
警察
あの……例の少年にも事情聞きたいんですけど。
大社
あれは習字の文鎮と林檎の皮剥きに使う果物ナイフ、いいね?そういう事なので弟くんはなんら問題ありません。
テロになんかに絶対に屈したりしない(キリッ)
爆弾女
テロ屋じゃないよ、仮にテロ屋だとしても狂信者と言う名のテロ屋だよ!
───
事故や災害時など極限な状況で助けを求める人や弱ってる人を見て自分がしっかりしなければと心を強く保たせる心理状態が在るらしいですね(にわか知識)なんで急にこんな事書いたって?意味は無いです。
更新かなり遅れるだろうなと思ってたけど何故か書き上がったので投稿します。