乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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40:比べる感じの大きさ、もしくはの暴露の話

 大社はやっぱり頭おかしい。

 

 取り調べに対してべらべらと口を開いているらしい爆弾ハゲは『天の神様は寛大で、勇者の存在を破棄し抵抗を辞めて赦しを請えばこれ以上の襲撃は無くなる』と、何度も力説しているらしく、その他にも爆弾ハゲは『天の神様から神託を受けた巫女は他にもいる、私達は嘘なんて言ってない』と、同じ思想で行動している人物が他にもいる事を窺わせる発言をしているらしい。電波な発言を垂れ流すのは当人の勝手だとは思うのだが実際に行動に移したコイツらはかなり頭おかしいと思う。しかし、大社の対応も頭がおかしいものだ。

 爆弾ハゲの発言に示唆された勇者を狙う電波な勢力の存在、それの真偽が不明な現状でテロ未遂事件の翌日に『温泉で癒されてきなよ』と、決めてしまうのは頭がおかしいと言えるのではないだろうか。

 一応弁護するのならば、勇者にとって精神状態というのはとても大事な要素で、初陣の時には恐怖に震えていた杏が勇者アプリを起動できずに勇者装束を纏えなかったと聞いている。万が一を避けたいであろう大社が怖い思いをした勇者達の心のケアを優先したいというのは解るとも言える。

 

 でも、やっぱり大社は頭がおかしい。

 

 まず頭がおかしいのは丸亀城から温泉宿への移動手段だ。別にヘリコプターをチャーターしたとか道路を封鎖して護送されたとかでは無く車での移動だったのだがその車がおかしかった。

 

「マジかよこれ、すっげぇ」

 

 とは眼を輝かせていた球子の言葉だ。他の皆も些細な反応の違いはあれど共通していたのは驚きの様子だった。旅支度を整えて集合した皆の前に停車したのはダックスフンドのように胴体の長い黒塗りの車、扉を開いて中に入れば冷蔵庫とテレビが完備されたホテルのような内装だった。

 

「なんか凄い車ですね」

 

「うむ、性能も凄い車でね。自作爆弾程度ならば至近距離で爆発しても凄く怖いだけで済む頑丈さなのだよ」

 

「すげぇ」

 

 なにやら疲れた顔をしている引率の鷲尾先生に聞いてみたところそんな答えが帰って来た、なんでも大統領が乗る車と同じかそれ以上の性能らしい。

 

「よくこんなの用意できましたね」

 

「最初はどこからかレンタルするつもりだったのだが……四国内どこを探しても無かったので作ってもらったのだよ」

 

「んん?」

 

 まさかの勇者達のためのオーダーメイドな突貫制作だった。大社の偉い人達が『勇者の安全の為ならなんでもしていいよ』と、言ってたらしいのでやっちゃったらしい。作成を依頼されてから一週間以内に仕上げた製造者も『作っちゃえ』な発想になった鷲尾先生もGOサインを出した大社もそれぞれがちょっと頭おかしい。おかしいが、すげぇ。いったいどれ程のお金を掛けたのだろうか。

 

「まるでVIPになったみたい」

 

 移動中の友奈の発言だ。友奈はこういった車には慣れていないようで、フカフカのソファーのようなシートに腰を沈めて身を小さくしながら落ち着きなさげにもじもじとしていた。

 

「私達は世界に五人しかいない替えの効かない重要人物よ……まるでじゃなくて、本当のVIPなんじゃないかしら」

 

 そう言う千景も落ち着かないのかシートに沈めた腰は垂直で、曲げた膝も垂直、両手は膝の上でガッチリ握られてカチカチに緊張している様子に見えた。

 

「そうなのかな? そうだとしてもなんだか落ち着かないよ」

 

「そんなに堅くなってないリラックスしタマえよ、ほらジュース、冷蔵庫に入ってたぞ」

 

 球子はすぐに慣れてしまったのか、備え付けの冷蔵庫を漁ったりフカフカのシートにぐでっと寝そべって思いのままに高級車をエンジョイしているようだった。

 

 温泉宿での対応もちょっと頭おかしかった。

 警備や秘密保持のために一般客を全員追い出したとか周辺一帯を封鎖したと言う訳ではない。むしろ温泉宿側がすすんで貸し切りにしてくれたらしいし警察もとても協力的で厳重に警戒してくれたのだがその内容がおかしかった。

 

「うどんまっしぐら商事の皆様ですね。ようこそいらっしゃいました」

 

「はい。今日より一泊二日、よろしくお願いします」

 

 温泉宿についてすぐの鷲尾先生と宿の支配人らしき人の会話だ。なんでもこの聞き慣れない会社の名は警察関係の人達がお忍びで宴会や旅行する時に使う偽名で、情報通なら知ってる人は多いらしく勇者達がここに来る予定ではないと見せるカモフラージュに利用したとの事。更に、実際に多くの警察官が書類上では今日から二日間休みになっているらしく、その書類上では休みな人達がこの温泉宿周辺に集まって厳重な警戒をしているとの事カモフラージュにカモフラージュを重ねて更に警戒を増す為の一手ということだ。また更に言えば宿の従業員に扮した警察官が施設内を巡回しているのだとか、ここまでやればこの温泉宿はもう要塞のようである。

 警察組織にまで影響力があるらしい大社の手はどこまで伸びているのか、頭のおかしさを極めるとこんなにも凄くなれるのか。

 

「乃木君に限っては過ちなんてないと信用しているが、乃木君の宿泊する部屋は皆と別になっている。……私と一緒の部屋だ」

 

 そんな『二人組作って~』の指示で余ってしまった奴みたいな部屋割りを説明する鷲尾先生の顔はなんとなく申し訳なさそうな表情に見えなくもなかった。

 

「温泉はいったら後でこっちの部屋にこいよ、なんかして遊ぶぞ」

 

「なんかって……なぁに?」

 

 支配人さんに先導されて部屋まで案内されている途中での球子の誘いと首を傾げる杏。

 

「その時の気分で決めよう、プランTだ」

 

「テキトーだね!」

 

 温泉宿に来ていても普段と変わりなく駄弁ってぐだぐだして過ごしそうな予感を感じつつも案内された部屋に入るとくたびれた姿の格闘術の先生が机に突っ伏してうたた寝しているのを見つけた。ゲッソリとした顔に無精髭、口の端から机に垂らしたよだれが相まって寝顔が汚い。見るに堪えないその寝顔が哀れなのでせめて顔に白い布を掛けてやろうと近付いたら気配でも感じたのか唐突に眼を開いた。

 

「……おー、坊主と旦那も来たか」

 

 覇気の無い先生曰く、警備計画を徹底するために今しがたまで警察との打ち合わせや温泉宿の施設を何度も見回って確認していたとの事。あの認識の擦り合わせの為の話し合いからほぼ不眠不休で詰めきったらしく、その甲斐在って警備は完璧らしい。薄ら笑いで「これで勇者の身にもしもがあるなら世界滅んじまえ」と、冗談なのか本音なのか解らない事を口走ってもいたが「お疲れさま」としか言えなかった。

 

「警察の士気もスゲェぞ、『世界を守る勇者様達を守るって、これは間接的に私達も世界を守れてるのでは?』だってよ」

 

「へ~」

 

「『子供の頃に憧れた世界を守るヒーローになれそうですね!』なんて言われちまったわ」

 

「ノリノリだね」

 

 是非とも皆を守ってヒーローを遂行して欲しい、そう願うばかりである。

 

「んで、坊主にはこれ渡しとく……正直色んな意味で坊主には渡したくねぇがそうも言ってられねぇしな」

 

「ん? なにこれ?」

 

 脈絡なく格闘術の先生が懐から出して渡してきたのは畏まった装丁の手帳、生暖かい表紙を捲ると臨時政府の偉い人やら警察の偉い人やらの名前と判子が押されている。

 

「勇者を保護するためなら色々やっちゃって良いよって許可証だ、いわゆる超法規的処置ってやつだな」

 

「なんと」

 

 四国の色んな偉い人達が先日のテロ未遂事件を重く受け止めたらしく、少しでも勇者達の安全を確保するために勇者の身近にいる大社関係者に発行されたものらしい。これがあれば街中で帯刀してようが危険を察知して抜刀しようが咎められないとの事。

 

「勘違いすんなよ、これは殺しのライセンスじゃねぇからな」

 

「んじゃあ、どこまでやってもいいのさ?」

 

「正直俺もよくわからん……旦那はわかりますか?」

 

「……必要なところまでやってもいいのでは?」

 

 自信無さげな鷲尾先生は初めて見た気がする。それはともかく、やっぱり必要なら殺ってもいいのか、偉い人達はどこまで想定しているのだろう。

 

「乃木君は理解してると思うが、このような物を与えられても暴力的な事態は最大限避けるように」

 

「はい」

 

 鷲尾先生に言われずとも皆が怖い思いをするかもしれない事は僕も避けたい、殺るなら皆が最大限認識しないように影で殺るつもりだ。

 

「さて」

 

 唐突に言葉を発して立ち上がる格闘術の先生。

 

「俺達大人はこの温泉のためにめっちゃ頑張った」

 

「ん」

 

「ずっとここにいたのに温泉を堪能できない位頑張った」

 

「ん、そうだろうね」

 

 ずっと働き詰めで入浴もろくにできなかったのだろう格闘術の先生から感じる獣臭、正直臭い。

 

「風呂入りたい」

 

「ん、そうなんだ」

 

「……一番風呂は貰ったァ!」

 

「なんと!?」

 

 足音激しく走り出して部屋から飛び出して行く格闘術の先生。これは僕への挑発と受け取った。

 

「一番風呂は僕のだ!」

 

 呆気にとられている鷲尾先生を置き去りに僕も部屋を飛び出した。

 

 

 ─────

 

 

 ひなたに突っ掛かったと思ったらすぐに杏に標的を変えて一通り揉みしだいた球子が落ち着いた頃、私達は肩を並べて温泉を堪能していた。

 

「ちくしょう、あんずめ、こんなに育っていたのか……ずるい」

 

「んもぅ、タマっち先輩ったらまだ言ってる」

 

 湯から出した手をわきわきと動かして空気を揉む仕草を見せる球子に上気した頬を恥ずかしそうに少しだけ膨らませる杏。

 

「あんずだけじゃなくて若葉も友奈も千景もずるいな。なんだその長い手足は、なに食ったらそんな体型になれるんだよ」

 

「丸亀城にきてからはみんなほとんど同じ物食べてるよ」

 

 悪気はないのだろうが友奈のその一言は"体質"や"個人差"と言う単語を突き付ける残酷な一言なのではないだろうか。邪気のない顔の友奈に対して少し沈んだ顔をした球子の様子にはそう思わざるをえない。

 

「しっかし、千景は特にずるいな」

 

「……え?」

 

「千景だけスラッとしてる感が突出していてなんだかモデル体型っぽい、みんな同じぐらい食べて鍛練頑張ってるのに千景だけ筋肉も肉も薄く見える。タマが理想とするしなやかボディに一番近い」

 

 たしかに球子の言うとおり千景はこの中でも線か細い。恐らく千景の筋肉が控え目に見えるのは筋肉量が重要な打撃の格闘術を主に鍛練している友奈や幼い頃より鍛練を続けてきた私とは違い、大鎌という筋肉量よりも身体の使い方や遠心力の利用が何倍も重要な得物の鍛練をしているからだろう。他の者達と同じ分だけ鍛練しても筋肉量が増えにくいはずだ。

 

「これでも、丸亀城に来てからすこし……太ったわ」

 

 少しだけ伏し目がちに言う千景だがそうは見えない、今の標準よりもすこし細めな体型が本当に太った後の姿だとしたら以前はどれ程の細かったのか。

 

「それって背が伸びたから一緒に体重も増えただけなんじゃ……?」

 

「そうなのかしら? 以前は標準体重に届かないくらいだったのだけど……今は標準くらいだわ」

 

 杏の問いに答える千景だがもしかしてそれは控え目とはいえ鍛練で増えた筋肉の分なのでは無いだろうか。

 

「まさか千景に自虐風な自慢を言われる日がくるとは……これは持たぬ者の正当な怒りだ!」

 

「え?……なにを……ひゃぅっ…………ちょっ……やめ……」

 

 なにやらダメージを受けておののいていた球子が突然荒ぶり千景の手足を撫で回し始める。突然の事に目を丸くしていた千景の虚しい抵抗により跳ねる湯の水音とか細い悲鳴が露天の湯けむりに紛れて響いた。

 

「おぉっ、温泉の効果なのか? 千景の肌すっげぇスベスベしてるな」

 

「そうなの? ……わぁ、ぐんちゃんスッゴくツヤツヤだね」

 

「……ひぅっ……」

 

 温泉の美肌効果に驚いて落ち着いた球子に友奈も合流して千景の肌を撫でているが自分の肌を触って確かめた方が早いのでは無いだろうか。

 

 突如、引戸が勢い良く開けられる乾いた音が浴場内に響いた。

 皆で反射的に浴場の入口に振り向いたがそこには閉まったままの引戸、直後に女湯と男湯を隔てる壁の向こうから重い物を水面に投げ込んだような音が二つ同時に鳴り響いた。

 

『これ絶対一番風呂は僕だね』

『ぬかせ、俺の方がぜってぇ早かった』

 

 壁の向こうからの青葉と格闘術の先生の言い争う声、二人揃って何を小学生みたいな争いをしているのか。

 

「あんちゃん先生も来てるのか」

 

「格闘術の先生は警備のために先に来て見回っていたらしいですよ」

 

 声が筒抜けだと解ってしまったからか先程よりも声を小さくして話す球子とそれに答えるひなた、皆もなんだか気恥ずかしいのか先程より大人しくなっている。

 

『爪先伸ばして着水したぶんだけ僕の方が早かった』

 

『うるせぇ、ちんこ小さい癖に生意気言うな。ちんこの大きさぶん俺のほうが早い』

 

『ちんこは関係ないじゃん!』

 

 何を大声で言い争ってるんだ!

 唐突で強烈な下ネタに私を含めて皆が石のように固まり、何故か眼だけを動かして互いに顔を覗きあっている。

 

「…………青葉も小さいのか……」

 

 球子の呟き。変なシンパシーでも感じたのか?

 

『本気出せば二倍だし! 小さくないし!』

 

 青葉の叫びに耐えきれなくなったのか杏が茹だった顔色で縮こまり顔の下半分まで水没してしまった。いかんな、刺激が強いぞ。私自身も羞恥心を刺激されて温泉の熱ではない熱を頬に感じてしまう。

 

「に、二倍? ……そうなの?」

 

 こっそりと私に聞く友奈。しかし、静まりかえっている女湯ではどれ程の小声でも言葉が耳に入ってしまうのか皆も怖いもの知りたさな表情で私に視線を向ける。

 

「わからん、さすがにその状態を見たこと無いし見ようと思った事も無い」

 

「……そ、そっか。そうだよね」

 

 正直私に聞かないで欲しい。

 

『ムキになんなよ。大丈夫だって、俺も坊主くらいの頃はそんなんだったから。高校生になるくらいにはいつの間にか大きくなってるから』

 

『……まじ?』

 

「……タマも……もう何年かで……なるかな?」

 

 ここにいる中では最も控え目なモノを持つ球子が自分のモノに両手を当てて切実に呟く。その反応しにくい呟きを皆は聞かなかった事にしたようだ。

 

『そういえばちんこで思い出した』

 

 ちんこ言うな。ちんこで何を思い出すというんだ。

 

『大人の嗜みの収納術教えてよ』

 

『あぁ? めんどくせぇな』

 

 ちんこで思い出す収納術とはなんなのか、皆も唐突な話題変換に聞こえる会話に羞恥が薄まったのか平静さをわずかながら取り戻した様子だ。

 

『減るもんじゃなし、教えてよ』

 

『しょうがねぇな、一回見せるだけだぞ……フン!』

 

 会話の途中で何故か気合いを入れる声。

 

『収納したぞ』

 

『な、なるほど……!』

 

 浴場で何を収納したのか。

 

『腹筋の使い方で引き込むんだね……こう……いや、こうかな?』

 

『そんないきなり出来るわけないだろ』

 

『できたよ』

 

『マジかよ。天才か』

 

 腹筋で、収納? 皆もよく解っていないらしく互いに顔を見合わせて疑問符を交換しあっている。

 

『あっ……ヤバイかも』

 

『なんだよ、やろうと思っていきなりできちゃった事が既にヤバいってのにまだなんかあるのか?』

 

『キンタマが片方だけ収納した所から出てこない』

 

 

 は?

 

 

「若葉ちゃん! 男の子のって取り外しできるの!?」

 

 小声で叫ぶ器用な友奈の声におでこまで水没した杏以外の視線が私に集まる。やめろ、私に聞くな。聞かないでくれ!

 

「しらん」

 

 そう答えるのが精一杯だった。

 

『あらよっと』

 

 壁の向こうから鈍い打撃音。

 

『腰か腹に衝撃与えると出てくるのがほとんどなんだが……どうだ?』

 

『叩くなら先に言って欲しかった、でも出てきたよ』

 

『そうか、またキンタマ引き籠った時に叩いても出て来なくなったらすぐ病院行けよ』

 

『病院行かなかったらどうなるの?』

 

『キンタマ腐る』

 

「若葉ちゃん……その……腐るんですか?」

 

「わたしにタマはない、しらない」

 

 ひなたまで私に聞かないでくれ。おずおずと口を開くひなただが私に答える術は無いんだ。

 

『キンタマ腐るのは困る』

 

『未使用のまま使えなくなるのは嫌だもんな』

 

『みっ、みみみ、未使用じゃ……!』

 

 未使用じゃないのか!? 壁の向こうからの思わぬ大人な発言に壁の向こうの青葉がいるであろう方向に振り向いてしまう。相手は誰だ? まさかこの場にいる誰かなのか?

 

『見栄はんなよ』

 

『……ん』

 

 なんだ、未使用なのか。と、理由の説明できない謎の安堵を感じつつ元の姿勢に戻ると、皆が先程までの動揺していた様子とは違って意外な程平静さを保っていた。

 

「青葉だもんな」

「青葉くんだもんね」

「青葉ちゃんですから」

 

 なにやら納得しあっている球子と友奈とひなた。これもある意味では信頼の現れなのだろうか。

 

『んで、使用の予定は?』

 

『ん?』

 

『実はあの娘が……とかってあるんじゃねぇの?』

 

「……フンス」

 

 音もなく浮上してきた杏が鼻息強く期待の眼差しで壁の方向に視線を向ける。今までずっと沈んでいたのか? お湯の中で何を話しているのか察知したのか?

 

『どーせ野郎二人しかいねぇんだし吐いちまえよ、裸の付き合いってやつだ』

 

 クラスメイト全員います。

 

『この話の流れで名前を出したらまるでその娘とスケベな事したいって言ってるみたいじゃない?』

 

「今更だけど、なんで私達こっそりしてるんだろ?」

 

「しかも、めっちゃ聞き耳立てちまってるな」

 

「悪い事してた訳じゃないのになんだか罪悪感を感じちゃうよ……」

 

 友奈と球子が顔を見合わせて曖昧な苦笑いを浮かべる。

 

『好きだのなんだのってそんなもんじゃね?』

 

『なんだかそれ不純な気がする』

 

『こじらせた乙女みたいな事言ってんな、エロい事に興味無いわけじゃないんだろ?』

 

 壁の向こうからの声が途切れ、つられて女湯側の全員も口を閉じて男湯を隔てる壁に眼を向ける。

 

『ムッツリめ、そんじゃあ俺もなんか暴露するから正直に吐けよ』

 

『……せんせーが先なら』

 

「暴露のしあいっこが始まっちゃったね」

 

「こちらに人がいると知らせるのも遅い気がしますし、浴場から出ていくにも脱衣場の扉を開く音で察知されてしまいそうですね」

 

 ちょっと困った風な友奈の声に答えるひなた。どうにも私達は何をするにも機を逸してしまったようだ。

 

『実は俺の高校生までガチで仮面ライダーみたいなヒーローになりたくて鍛えまくってた。ヒーローになれるって本気で思ってた』

 

『マジか』

 

 なるほど、それ故に神職ながら多彩な格闘技に精通する達人でもあったのか。

 

『なれた?』

 

『見りゃわかんだろ、この通りだ』

 

『そっかー』

 

『んで、結局坊主はムッツリスケベとただのスケベどっちだ?』

 

 その二択ではどちらもスケベでは?

 

『うーん……スケベだと思う』

 

「青葉くんスケベさんだって認めちゃたよ」

 

「変化球な変態からスケベ野郎にランクアップだな」

 

 友奈が困惑の声を漏らし球子がやれやれと呆れたように首を振る、杏も望んだ話の展開では無かったのか荒らげていた鼻息を静めて姿勢を正す。

 

『って事でスケベが確定した坊主はクラスメイト達をエロい目で見てる訳か』

 

『言いがかりじゃん』

 

『でもドキッとしたりする事はあるんだろ?』

 

『ん……まぁ……たまに』

 

 青葉の発言の瞬間、女湯の時が止まった。

 恐らくはこの場の全員の胸の中には『え?』と共通の思いが浮かんでいるはずだ、普段のぽやぽやとした青葉の言動にそのような意識があったとは思えないからだ。

 ひなたも、友奈も、球子も、杏も、眼を剥いて男湯の方へと視線を向けて驚き、千景がうつむいたまま動かない。……うごかない?

 

『へぇ、誰がどんな事した時にだ?』

 

『誰がって訳じゃないけどさ、夏場とかに目の前で襟元を開いてパタパタされたりすると凄くテレる』

 

「千景、様子がおかしいがどうした?」

 

 声を掛けても反応を示さない千景を訝しんだ友奈が様子を確認してすぐにハッとした表情になる。

 

『その程度なら役得とでも思っとけよ』

 

『僕には刺激が強すぎる』

 

「……ぐんちゃんのぼせてるみたい」

 

「いかんな、引き上げて運ぼう」

 

 いつからのぼせていたのだろうか、そういえばと記憶を少し振り返ってみたが千景は少し前から言葉を発して無かった気がする。もしかしてその間ずっとのぼせていたのだろうか?

 

『誰がってなると……みんなは極々まれに無防備になる位だけど、タマっちがたまにヤバい』

 

『意外な名前がでたな』

 

「……なんだと?」

 

 友奈と協力して千景の腕を肩に回して担ごうとしていると壁の向こうから本日何度目かの衝撃発言。名指しされた球子が不意の事に信じられないといった表情をした。

 

『イタズラが大成功した時とか二人で喜んでる時にタマっちはたまに僕の肩に腕を回して『やったな!』ってやるんだけどさ……』

 

「な、なんだってんだよぅ」

 

『やわらかい』

 

「ふぇぁ……」

 

『あ~、なるほどな』

 

 今日一番の赤ら顔になった球子が身を縮めて鼻の下まで水没し、ブクブクと泡を吹き始める。

 

『顔の横にさ、無さそうでほんの少しあるやわらかいのがあたるんだ……友達によこしまな気持ちを抱き掛けて死にたくなる』

 

『かなりぶっちゃけたな』

 

「タマっち先輩、大丈夫?」

 

 杏が水没していた球子を引き上げる、タコのように茹で上がった球子はいつもの元気溌剌な姿からかけ離れた肩を縮めたしおらしい姿に変貌していた。

 

「ぅうぅ~~、青葉の癖にぃ……タマのコレは男子的に"有る"判定なのか……よこしまな気持ちってなんだよぅ、タマに対してナニ考えたんだよぅ……」

 

 震える小声で言葉を垂れ流す球子の様子には壊れたと言う他ない。何事にも報いを、結果的に盗み聞きのような行為をしてしまった私達への報いを球子が一身に引き受けてくれたのだろう。

 

『小さくても反応するって事は坊主の幼馴染とかヤバいんじゃねぇの?』

 

『ひなちゃんはおっぱいも含めてひなちゃんだから』

 

「これは……どう受け取ればいいんでしょう?」

 

 激しく困惑の表情を浮かべるひなたにどう答えたものかと思考を回してみたが、考えるほどにどう解釈したものかと解らなくなる発言に少し困る。

 

『実はおっぱい大好きだろ。大きくても小さくてもイケるおっぱい星人とみた』

 

『……嫌いな男子はいないと思うんだ』

 

『だろうな、俺もおっぱい好きだ』

 

「青葉くん、スケベさんだね」

 

 そうか、青葉は女子の胸部が好きなのか。

 

「このままここにいたらまた爆弾発言を聞きかねませんし……千景さんを早く運んであげましょう」

 

 大いに同意できるひなたの言葉に促されて千景を担ぎ直し、脱衣場へ向かう。友奈と二人で担いでいるからなのか、かなり軽く感じてしまうのがほんの少しだけ羨ましい。

 

「……開けますね」

 

「あぁ、頼む」

 

 意を決した顔のひなたが脱衣場に通じる引戸に手をかける。開く音を男湯側に察知される可能性があるが千景の健康には変えられない。

 ひなたが引戸を開くと同時に、男湯側からも引戸を開く音が響いた。

 

『君達は大きな声で何を語っているのだ、脱衣場まで声が届いていたぞ。そも、男がおっぱいが好きなのは語るまでも無い事だろう』

 

『鷲尾先生が真面目な顔で下ネタ言って……でけぇ』

 

『旦那……実は西洋の血が流れてるんすか?』

 

 タイミングよく鷲尾先生も入浴しに来たらしい。偶然でもこのタイミングの良さに感謝したい所だが、短い間に衝撃発言が連発された戸惑いの方が大きかった。

 

『全裸の教師などいない、ここにいるのはただの鷲尾おじさんだ。下ネタを言ってもおかしくあるまい。あと私は純日本人だ』

 

『なら尚更そのイチモツは規格外過ぎますぜ』

 

「……早く出ようぜ……なんかもぅ、ここにいたら頭おかしくなっちまいそうだ」

 

 この場の全員が顔を赤くしているが、その中でも最も赤い球子が消えてしまいそうな震える声で言葉をこぼす。

 

『何を食べてたらそんなにちんこ大きくなったんですか?』

 

『うどんだ。余談だが、妻がおっぱいを大きくしたのもうどんだと言っていた』

 

 うどん、もっと食べなければ。

 

 千景を介抱するために、恥ずかしい下ネタ空間から脱出するために、私達は決意を胸に脱衣場へと歩を進めた。











青葉くん
なんて小さなおっぱい、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。小学生当時「女の子が好きです」とか言っちゃってた青葉くん、順調におっぱい星人に進化。でも、基本ムッツリ。よこしまな気持ちを=抱き締めたいがせいぜいのヘタレ。抱き締めたいなぁ、あぁはぁ。なんかよくわからない許可証貰ったけどそんなん無くても必要ならどこまでもヤる。自覚無いまま色々暴露する系男子part2。うどん食べたい。

若葉さん
おっぱい星人を胸に抱いて添い寝したのは先週の話。ちょっと『ん?』って思ったけど姉弟ならそんなもんでしょ。うどん食べたい。

ひなたちゃん
おっぱいも含めてひなたちゃんなんです。つまり小さくてもひなたちゃん。うどん食べた。

タマっち
しなやかボディを夢見るぷにぷにぼでい、普通なら胸板に間違われる。男子の感覚が鋭い故にちょっと自信持った。相棒を色香で惑わす悪い女、ボディタッチ多めな天然悪女のタマっち!うどんめっちゃ食べたい。

杏ちゃん
LOVEな話かと思ったら下ネタだった、がっかり。青葉くんは毎回期待はずれ。うどんは食べてる。

友奈ちゃん
必殺技対策が練られている。え?取り外せるの?え?腐るの?……男の子って不思議だなぁ。うどん美味しい!

千景ちゃん
太った?いいえ、健康になった。いつからダウンしていたのかな?スベスベでツヤツヤ、もうちょっと太陽に当たってもいいんじゃない?まさかの同性からセクハラ。うど…ん…?

仮面ライダー先生
おっぱい好き

鷲尾おじさん
おっぱい好き

警察
ノリノリ

大社
なんでもしていいって言ったよね?はい、これ領収書。

政府
え?……え?

うどん
万能

───

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