乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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41:取り外せない感じのアレ、もしくは蟹の話

 鷲尾先生の背中を流してから「へい三助坊主、こっちも頼む」とのたまった格闘術の先生の背中を石鹸で直接こすった後、サウナに気付いてはしゃぎながら突撃していった大人組を見送り、先に温泉から上がった僕は先程「なんかして遊ぶぞ」と誘われていたので皆のいるであろう部屋に向かったのだが。

 

「やっぱり二人組と三人組に別けるんじゃなくて五人一塊のほうがそれぞれ援護し合えるんじゃないかな?」

 

「だが、それでは時折発生する神樹様へ向かう討ち漏らしへの対処の初動が遅れそうではないか? 役割を定めて前と後ろに配置した方が良い気がするぞ」

 

「役割を定めるなら……武器の間合いが広い伊予島さんと、一番足が早くて素早く援護に回れる乃木さんを中心に他の三人で囲むのはどうかしら?」

 

「なるほど、陣形を組むのか……その案をもう少し煮詰めてみよう」

 

 皆のいる部屋から扉越しに聞こえる白熱している議論の声、遊ぶとかそう言う雰囲気ではなさそうだが一応ノックしてみる。

 

「あら、青葉ちゃん。遊びにきたんですね」

 

 ノックして間もなく開かれた扉の先には浴衣とどてら姿の幼馴染、湯上がりからそれほど時間がたっていないのかふんわりと甘い洗髪料の香りが鼻をくすぐる。

 

「ん、そうなんだけどさ。邪魔になりそうかな?」

 

「いえ、大丈夫だと思いますよ」

 

 快く通された部屋で車座に座りバーテックス襲来時の対策を真面目な顔で話し合う皆。いや、球子と友奈は真面目な顔で頷いたりしているが発言がほぼ無い。

 

「つまり……あんずともう一人が後ろで……」

「ローテーション組んで……交代しながら……」

 

 話し合いの内容を理解するために必死らしい、自分なりに理解した事を呟きながらうんうんと唸っていた。

 

「連携を取りながら戦う事にしたんだね。でも、なんで急に?」

 

 幼馴染が部屋に備え付けられたポットとティーパックで煎れてくれたお茶を啜りながら問う。

 

「……ちょっと真面目な話をしてクールダウンしたかったらしいですよ。それで、杏さんがバーテックスに対しての戦い方を変えてみないかと提案したんです」

 

「へー」

 

 なんでも先週のテロ未遂事件の時にみんなで外向きの円陣を組んで警戒した時に心強さを感じ、それからバーテックスを相手にする時にも皆でもっと連携した方が良いのではとずっと考えていたらしい。

 

「細かい所を考える始めると……資料が欲しくなるわね」

 

「丸亀城の資料室に参考になりそうなのがいくらかあったはずだよ」

 

「ならば今はこれくらいにして続きは帰ってからにしよう」

 

 話し合いを主に進めていた三人が区切りをつけたらしい。途端に硬さを感じていた空気が弛緩して徐々にいつもの弛い空気に切り替わっていく。

 

「よし……タマは完全にクールになった。いきなり青葉が抱きついてこようが平気だ」

 

 集中していたらしい球子は僕が来ている事に全く気付いていなかった様子だ。いきなり僕が抱きつく状況とはいったいどんな状況なのか、変質者扱いはさすがに傷つくし心外なのだが。

 

「いきなり抱きつかないよ」

 

「あん?……ぬわぁっ! 青葉だぁーっ!」

 

 声を掛けるなり大袈裟に驚く球子。その頬には薄い赤色をつけて瞳が微かに泳いでいた。

 

「人を見るなり叫ぶだなんて随分だね、この扱いはさすがに傷つくよ」

 

 ふざけて驚いたフリをしてるのではなく明らかにガチで驚かれてしまうような事をした覚えは無いのだ。

 

「……わりとつらい」

 

「いや、すまん。そんなヘタレ顔すんなよ。タマが悪かった」

 

「えっと、気を取り直してトランプでもしようよ」

 

 珍しくちょっと微妙な空気になってしまった僕と球子の間に友奈が入って空気を変えようと提案してくれたのでそれに乗る事にした。この場の皆も参加するようだ。

 

「なんのゲームする?」

 

「んじゃあババ抜き」

 

「トランプの……定番ね」

 

 勇者五人の車座に僕と幼馴染を足した七人の車座、トランプの束をシャッフルしていた友奈がそれぞれに手札を配っていく。皆の手札が揃いきる前にちょっと微妙な感じになっていた球子が自らの頬をペチンと音を立てて挟むように叩き、いつもの自信に満ちた表情になって口を開いた。

 

「タマは罰ゲーム有りにすることを提案する!」

 

「罰ゲームか……どんなのだ?」

 

 小首を傾げる姉。

 

「一番早抜けした奴が決める事にしよう」

 

「なるほど」

 

 そんなこんなで決定された罰ゲーム有りのトランプ大会、正直僕の部屋でぐたぐだとしている時とあんまり変わらない流れに思わなくもない。

 

「へっへっへっ、タマが一抜けして面白おかしい罰ゲームをさせてやろう」

 

「タマっち先輩が謎の自信に満ちてる」

 

 全員が面白おかしい罰ゲームをさせられる事態を回避しようと結構マジな感じで始まったトランプ大会。ババ抜き、ジジ抜き、大富豪にポーカーや7並べ、様々なゲームをするなかで様々な罰ゲームが執行された。

 

「えと……それじゃあ、最下位の人は次のゲームを鼻にティッシュを詰めた状態でプレイ」

 

「最初の罰ゲームから飛ばしてるな」

 

「ぐんちゃん、結構えげつないね」

 

「あら……私が最下位ですね」

 

 幼馴染が両の鼻の穴から白髭をモッサリ出しながら次のゲームをする事になったり。

 

「私が一抜けか、ならば最下位は次のゲームを正座でして貰おう」

 

「ぬぅ、タマの負けか……何故勝てないんだ」

 

「そういえば正座すると短足で成長するって聞いた事あるなぁ」

 

「なにぃ!? 青葉、それマジなのか!?」

 

 凄まじい気迫の球子が次のゲームの進行を皆に急がせたり。

 

「罰ゲーム、どうしようかな……そうだ、最下位の人は六位の人を壁ドンして愛の言葉を囁いてね!」

 

「まさかの罰ゲームを受ける人数を増やす悪辣っぷりにタマは驚きを禁じえないぞ」

 

「ぐんちゃん」

 

「……たかしま……さん」

 

「私は死にましぇん! ぐんちゃんの事が、しゅきだからぁ!」

 

 友奈がちょっと古いドラマからセリフを引用して過酷な罰ゲームを華麗に乗り越えて笑いに変えたり。

 

「ようやくタマが一位か、とはいったものの実は勝つことしか考えて無かったから何も罰ゲームを考えて無かった」

 

「ん、そーいうのあるよね」

 

「最下位は皆から十秒ずつ擽られて貰うか」

 

「まじか」

 

 僕にとっては最下位だろうがなかろうが中々にきっつい罰ゲームを宣言されてしまう一幕もあったが。

 

「さて、最下位は私だ。逃げも隠れもしない、遠慮なく全員掛かってこい」

 

「ひなちゃん」

 

「はい」

 

「待て……やっぱり二人は待て! 耳は辞め……ひゃうんっ!」

 

「若葉ちゃんってくすぐったがり?」

 

 相手が姉だった事を安堵しつつ幼馴染と二人掛かりで遠慮無しに弱点の耳を責めてみたり。

 

「いざ一位になっても罰ゲームってなかなか思い付かないですね……最下位の人は次のゲームの間六位の人を膝に乗せてプレイしましょうか」

 

「危なかった~、あとはタマちゃんと青葉くんだけだね」

 

「やべぇ」

 

「タマの地獄が決定されてしまった」

 

 膝に女子を乗せるのも女子の膝に乗るのも複数の意味で僕には辛い罰ゲームである。かろうじて乗せる側の方が少しマシなのかなと考えてる視界の端で幼馴染が珍しく『やっちゃった』と言わんばかりの表情をしていた。

 

「おい、座り心地悪いから正座じゃなくて胡座にしろよ」

 

「……ん」

 

「土居さん……スッポリ収まってしまったわね」

 

「胡座に変えたら意外な座り心地の良さにぶっタマげだ、背もたれも丁度いいな」

 

 最初はもじもじと落ち着かない様子だった球子だが、要求された胡座に渋々変えたところ改善された座り心地が気に入ってしまったのか上機嫌に背中を倒して体重を預けてくる。

 

「…………ん」

 

 ほんのり香る爽やかな甘い匂いや体の前半分で感じる暖かさと軟らかさに反応したらその場で自害するつもりで心を無にして耐えきった。

 

「青葉ちゃんが一位ですね」

 

「ん? ……ホントだ」

 

 心を無にしていたらいつの間にか一位になっていた。

 

「んじゃあ最下位の人は皆にお茶煎れてよ」

 

「上手く……できるかしら」

 

 最下位になった不安気な千景が幼馴染にサポートされながら煎れたお茶を皆で飲んで小休止を挟む。ティーパック故にか幼馴染が先程煎れてくれたお茶とそんなに変わらない味のお茶を啜る。

 

「どうかしら?」

 

「美味しく煎れれてますよ」

「んまい」

 

 ほっこりとお茶を啜る皆に訊ねた千景に幼馴染が返した言葉を皮切りに皆がそれぞれ「美味しい」と口を開き、言葉を受け取った千景が胸を撫で下ろしてほころんだところでトランプ大会を再開。

 

「いざ一位になっても罰ゲーム思い付かないね……う~ん、最下位の人はなんか面白い話で」

 

「サラッと決めた友奈の雰囲気で一瞬だけ軽めの罰ゲームに思えたがこれはキツイぞ」

 

「ん、面白い話って結構難しいよね」

 

「それじゃあ……秘密を一つ暴露するとかどう?」

 

 皆が一斉に『それはマズイ』と腰を引いたので面白い話に決定された。特に球子が激しく怯んでいたのだが何かトラウマみたいなモノでもあるのだろうか?

 

「マジか、また僕が最下位か」

 

「……秘密の暴露にしなくてよかったぁ」

 

 安心したように皆が笑っていたが罰ゲームで面白い話をする事になってしまった僕としては話すネタに困ってしまう。何を話したものかと考えていると唐突に部屋の扉がノックされ、幼馴染が対応するために扉を開くと支配人さんが素敵な営業スマイルでそこにいた。

 

「お食事の支度が整いましたのでお運び致しました」

 

 そうして運ばれてきた刺身や天ぷらといった豪勢な料理と大きな蟹が七人前、運んできた従業員の人が言うには「盛り上がってるようだからそちらで食べてくるといい」と鷲尾先生が手配してくれたらしい。

 

「うどんは無いのか」

 

「ん、うどん、無いね」

 

 特に理由は無いが猛烈にうどんが食べたい気分だったのだが、さすがにこの豪勢な料理達にうどんはついてこなかったのが少し残念である。球子も僕と同様にうどんの気分だったらしく同じように少しだけ残念そうにしていた。

 

「ねぇ若姉さん」

 

「なんだ?」

 

「蟹ってさ、大きなのは海の遠い所で捕れるんだよね?」 

 

「そうだな」

 

 小さな蟹ならば河川や陸地から近い所でも捕れるだろうが運ばれてきた蟹はとても手のひらには収まりきらない大きな蟹、脚一本の長さだけで顔ほどにもある大きな種の蟹なのだ。

 

「まさか……蟹を捕るために神樹様の守りの外に出ている命懸けの漁師さんが……?」

 

「うぅむ、どうなんだろうな……ただ言えるのは、いつもの事でもあるがこの料理はおろそかには食えないと言う事だ」

 

「ん、そうだね」

 

 出所のわからない不思議な蟹と豪勢な料理を皆で囲んで食事を始めて数分もしない内に「あっ」と、友奈が思い出したかのような声を出した。

 

「青葉くん、面白い話をどーぞ」

 

「あ、話すネタ考えてる途中だったのに蟹に意識持ってかれて忘れてた」

 

「いや、まぁ、蟹だからな。意識持ってかれるのは仕方ないな……だけど罰ゲームは罰ゲームだ、なんか話せ」

 

 そのまま忘れていて欲しかった事を友奈が思い出し、フォローなのか追撃なのかわからない言葉を球子が続けた。面白そうにニヤニヤと余裕の笑みを浮かべてるあたりきっと後者なのだろう。

 

「どうしようかな……僕が若姉さんと心中しそうになった話でもする?」

 

「っ!……んぐっ! ん"っ! ん"ん"ぅ!」

 

 面白いかはわからないがインパクトありそうな話をしてみようかと皆に問うてみたところ、皆の食事の手が止まり姉が口を押さえて激しく咳き込んだ。

 

「大丈夫?」

 

「……危うかった……もう少しで飛び出す所だったぞ。……それよりもなんだその物騒な話は? 私は知らない間に殺されかけてたのか?」

 

「若葉さんも知らない事だったんだ……ひなたさんは?」

 

「私も初めて聞きましたね」

 

「ん? この話、二人は知らなかったんだ」

 

 戸惑いの表情のまま頷く二人の催促する視線に「そんな身構えるような話じゃないよ」と、前置きしつつ続きを話す。

 

「十四年前の話さ」

 

「のっけから訳わからんな、赤ん坊じゃねぇか」

 

「いや、産まれる直前の話だよ」

 

「さらに訳わからなくなってるじゃねぇか」

 

 球子の困惑しきりのツッコミに答えつつ言葉を繋げる。

 

「母さんのお腹の中でさ、僕と若姉さんが白と黒の勾玉くっつけた模様みたいな姿勢になってたんだけどさ」

 

「……対極図かな?」

 

「ん、多分それ。杏ちゃんはやっぱり物知りだね……んで、僕が産まれる時に姉さんをがっしり抱っこする感じになってたせいで詰まっちゃって二人揃って危ない状態になっちゃてたんだってさ」

 

「心中と言うよりは……普通に難産の話ね」

 

 千景の言葉に反応に困ったような微妙な表情になった皆、話しておいてアレだが『僕達難産だったんだ』なんて誰かに言われたとしても僕だって反応に困るだろうなと思う。そんな中で友奈が口を開いて言葉を繋げた。

 

「それで、どうなったの? 二人がここにいるって事は無事に産まれたって事なんだろうけど……オチは?」

 

「あんまりにも出てこなくて母さんがイライラし始めた頃に付き添ってたばあちゃんが先にキレてさ、母さんのお腹に『一緒にいたいのはわかったから甘ったれてないでさっさと出てこい』って怒鳴ったらスッポーンって僕が産まれたらしいよ」

 

「肝っ玉な母ちゃんと婆ちゃんだな」

 

「乃木のおなごは鬼より強いって近所では有名だったからね、婆ちゃんは押し込み強盗を物干し竿で叩きのめしてたし」

 

 幼い頃やたらと騒がしい物音に昼寝から目を覚ますと祖母が庭でいかにも盗人な風貌の男を物干し竿で泣くまで叩きのめしていたエピソードを話してみると、皆が姉に視線を向けて納得するように頷いた。

 

「……何故みんな私を見て頷いた」

 

「若葉ちゃんは強いもんね」

 

「乃木家はみんな猛者……いや、野武士か」

 

 誤魔化す笑みの友奈と更に深く頷いた球子。

 

「んで、婆ちゃんが言うには『甘ったれの青葉は若葉の落としたキンタマを拾って使ってる元おなごかもしれないね』だってさ」

 

「男の子のってやっぱり取り外しできるんだね」

 

 友奈が例え話を真に受けてしまったのか納得するようにうんうんと頷いた。

 

「できないよ」

 

「え? できないの?」

 

「ん? できないよ」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「えぇい! その話はやめろぉ!」

 

「食事中に下ネタは良くないですよ」

 

 顔を赤くして荒ぶる球子と話の途中から黙々と蟹の殻を剥いていた幼馴染に怒られてしまったのでこの話はコレでおしまいだ。

 

「結局なんの話だったのかな?」

 

 首を傾げる杏、なんの話だったか。

 

「ん~、産まれる前から好きでしたー……って話なのかな?」

 

 それこそ死にかけるぐらいにだ。

 

「愛が重てぇよ……ってか話してる本人もわからなくなってんじゃねーか」

 

「温泉に来ても結局いつも通りなぐたぐだした感じになってるね」

 

 疲れたように肩を落とす球子と呆れの中に安堵があるかのような苦笑いをする友奈。たしかに場所が部屋から温泉宿に変わっただけで、やってる事はなんて事ない大切な日常の延長だった。

 

「青葉ちゃんはどこに行って何をやっても青葉ちゃんですから……はい、剥けましたよ」

 

「ん! ありがとう」

 

 幼馴染からキレイに殻を剥かれた蟹の脚を受け取って口へ運ぶ、細い身からは予想してなかった舌に感じるズッシリとした重量感とそれに違わぬ深い旨味、そして淡白な味故にはっきりと舌に残る強い甘味。これは美味しい。

 

「んまい」

 

「そうですか」

 

 自然に弛む頬に力を込め直して何度も咀嚼する度に増す蟹の旨味のなんと幸福なことか、流石に蟹の殻を片手で剥くのは難儀していたので幼馴染の嬉しい心遣いも相まって更に美味しく感じる。

 

「また自然に世話焼いて自然に受け入れてやがる」

 

「……もう……甘ったれでいいや」

 

 呆れの半目を僕と幼馴染に向ける球子だがこれは仕方ないと思う、蟹が美味しいのが悪いのだと開き直ってみた。

 

「それなら……これも……どう?」

 

「ん?」

 

 不意討ち気味に千景から差し出された剥き身の蟹の脚、蟹を剥く事に慣れていないのか所々傷ついてほつれた身になんとも"らしさ"を感じる。

 

「さすがにこんなにあると食べきれないから……乃木くん……どうかしら……?」

 

「頂くよ、ありがとう」

 

 ちょっとだけ見た目の崩れているそれを受け取り、大きく口を開けておもいきっり頬張る、ツルリとした身の感触が口に触れる事さえ心地好い。

 

「ん~~、んふふ」

 

「……ふふっ」

 

 咀嚼する僕を見て眦を下げて頬を弛める千景に"餌付け"の単語が脳裏をよぎったが、その千景の表情と蟹の美味しさの前には些細な事かと思い至りそのまま蟹の身が舌の上で踊るさまを楽しむ。実に美味い。

 

「まるで両手に花で青葉くんがプレイボーイみたいな状況だね」

 

「プレイボーイって言うか……介護? おじいちゃん?」

 

 杏の呟きに続く悪気はないであろう友奈の言葉。広義的に見て介護で間違ってないのかもしれないがちょっと心にくるモノがある。

 

「タマは女子に世話焼かれて鼻の下を伸ばしてる男子に対して姉のコメントを求める」

 

 失礼な、鼻の下を伸ばしてなどいない。ほっぺたが落ちそうなだけだ。

 

「与えた分だけ全部食べてしまうから気を付けてくれ」

 

「そう言う若葉もこっそり剥いた蟹を青葉の皿に載せてるのに今気づいたぞ」

 

「……さすがに私も食べきれなくてな、残す訳にもいくまい」

 

 そう言うなり今度は堂々と目の前に置かれる蟹のプリップリな剥き身、「実は私もちょっと……」「そろそろ限界で……」と友奈と杏も便乗して蟹の剥き身を積み上げる。みるみる内に築かれていく蟹の山に比例して増していく幸福感を得ながらも一口一口を味わいながらよく噛んで飲み下す。

 

「すげぇ、ホントに全部食べやがった」

 

「与えた分だけ食べてしまうからなぁ」

 

 皆が食べ終わって食後のお茶を楽しんでいる頃に食べ終わった僕を見て驚愕を露にする球子と鼻で嘆息する姉。

 

「ふぃ~~……ん?……あ」

 

「乃木くん……どうしたの?」

 

「食べ過ぎて動けない」

 

 食べてる最中は食べる事に集中して気づかなかったが、いざ食べ終わると窮屈な腹部に呼吸さえも負担に感じるほど食べ過ぎていたようだ。切れた集中に伸ばしていた背中から力が抜け、そのまま仰向けに倒れる。

 

「あんだけ食べれば食べ過ぎにもなるな、普段の倍はたべたんじゃないのか?」

 

「かもしれない……食べ過ぎだと気付いた瞬間からかなりお腹がつらくなってきたよ」

 

「うぅむ、食べさせた手前食べ過ぎを笑ってやることはできないな」

 

「あげ過ぎてしまったのね……大丈夫かしら?」

 

 皆が苦笑する中で一人だけオロオロとしていた千景に姉が向き直って口を開く。

 

「ぬるいお茶を与えておけばいつの間にか復活するから大丈夫だ」

 

「食い過ぎでぶっ倒れてる奴の口に更に物をいれるのか」

 

「ついでに胃薬も渡しておきますね……あら?」

 

 なにやら戦慄している球子をよそに自分の鞄に手をいれていた幼馴染が少し抜けた声を漏らした。

 

「忘れてきてしまったみたいですね……先生達に持ってきてないか聞いてみます」

 

 言うやいなや部屋から足音静かに出ていく幼馴染。鷲尾先生ならば胃薬を常備しているだろう、鷲尾先生はここ最近胃薬を常用しているらしく食後に服用している姿を食堂でよく見掛けている。

 

「なぁ、青葉よぉ」

 

「ん~?」

 

 仰向けで木目調の天井しか見えない視界の外から聞こえた球子の声、他の皆が見ているであろうテレビのバラエティー番組の愉快な音声に混じるその声はなんてことないような声色にもちょっと真面目っぽい声色にも聞こえる。

 

「前はタマとそんなに変わらなかったのにどうやってそんなに身長伸ばしたんた?」

 

「んー、うどんかなぁ?」

 

「そうか、うどんは万能だな」

 

 いつの間にか姉とほぼ同じか少しだけ僕が大きくなっていた身長だが、早く背が伸びないかなと願ってはいたが特別なにかをした覚えはない。覚えはないが、入浴時に鷲尾先生から聞いた"大きく"する方法のうどんを沢山食べるを思い出し、そう答えた。股間を"大きく"する効果は未だ実感はしていないが、常日頃から食べてはいるうどんがもしかしたら身長の方に作用したのかもしれない。

 

「それとよ」

 

「ん~?」

 

 変わらぬ日常会話のような口振りで言葉を紡ぐ球子、一呼吸の間の後に言葉を繋げた。

 

「青葉はなんであの時、戦えたんだ?」

 

「あの時?」

 

「テロの時」

 

 他愛の無い会話のように言葉を落とす球子。少しだけ首を動かして声のした方を見るとほんの少しだけ近い位置に胡座をかいてテレビを見ている球子の横顔が見えた。その表情も、常のまま。

 

「ああするのが、一番だと思ったからかな」

 

「まぁ、そうかもしれないな。青葉が気づいてああしなきゃ皆ブっ飛んでたかもしれないしな。でもよ、その後は……タマ達が勇者装束で円陣してた時も皆と同じように立ち続けたのは、なんでだ?」

 

「んん? つまり……?」

 

「あの時バーテックスを群れ単位で倒せる強い奴が四人いて、それと同じ場所に居続けたのは……なんでだ?」

 

 勇者と比べて圧倒的に弱い僕が、戦力的に考えて守られる側の僕が、それでも前に立った理由を聞いているのだろうか?

 

「ん~~……そうしなきゃって……いや、そうしたい……ってのも違うね……そうすると決めたからさ。うん、そういうことだよ」

 

 テレビを見て「見てみろよアレ」笑う球子の横顔に具体的ではないままに告げる。

 

 護ると決めたから、護った。ただそれだけ。

 いつ決めたとか、なぜ決めたとかはうまく説明できないけど、僕の中で決めていた『姉の力になる』と『幼馴染の笑顔のために』が、いつの間にか『皆の力になる』と『皆の笑顔がみたい』になっていた。心が既にそう決めていた、だからそう行動したのだ。

 

 動くのがつらいので首だけを気合いでなんとか持ち上げて覗いたテレビ画面に映っていたのは、ストッキングを被った芸人が熱湯風呂で悶える姿。見苦しい面白さだ。

 

「青葉の言う事はよくわからんな……んでよ」

 

「ん?」

 

「ヘタレの青葉がそんなに頑張んなきゃいけないほど、タマ達は頼り無いか?」

 

 赤くなった体で床をのたうち回る芸人の悶絶の悲鳴に混じる球子の普段通りに見せかけた声。テレビを見て笑う球子の横顔も普段通りに見せかけたのであろう硬い笑い顔。

 

「そんな事ないさ、僕はみんなが頑張ってきたのを世界で一番近くで見てきた。みんなが凄いことはきっと僕が世界で一番知ってるよ」

 

 神性を帯びた武器を使えるだけの普通の女の子達、それが人を喰らう化け物と戦うために何年も努力してきたのを僕は知っている。日々の鍛練は過酷で辛かっただろうに、それでも頑張り続ける事ができている皆をどうして頼りないと思う事ができようか。

 

「そうだ、タマ達はすっげぇんだ」

 

「ん」

 

「だから、あれだ……頑張り過ぎるなよ?」

 

「ん~?」

 

 つまり、球子は何を言いたいのか。僕の賢くはない頭ではちょっとわからなかったので聞き返そうとしたところで部屋の扉が開かれて幼馴染が胃薬を手に戻ってきた。反射的に向けた視界に映った幼馴染の表情がどこか浮かない表情に見える。

 

「なにかあったの?」

 

「なにか……って訳じゃ無いのですが……」

 

「ん?」

 

「先生二人がサウナでのぼせたらしくて……お部屋で揃ってぐったりしてました」

 

 身近な大人のそんな姿を見れば微妙な表情の一つもするだろうと納得し、二人とも疲れてるみたいだったしサウナの高温に残った体力を持っていかれてのぼせたのだろうと予想。仰向けの体を精一杯の力でなんとか起こして幼馴染が持ってきてくれた胃薬をぬるいお茶で流し込む。

 

「なんの話だったっけ?」

 

「……タマ達はすっげぇんだって話だ。んな事よりさっさとお腹の中落ち着かせろよ、枕投げをやろう」

 

「ん、いいね。やろう」

 

「一応言っておくけど若葉と組むのは禁止だぞ」

 

「そっかぁ」

 

 強いという事は孤独を招くと、いつかも考えた下らない事を思考の隅に追いやって再び仰向けに背を倒す。木目調の天井を見上げながら温泉に来ても変わらない日常に幸福感を感じながら満腹故の眠気に任せてほんの一時だけ目蓋を閉じた。











青葉くん
みんな罰ゲームに手加減が無いから毎ゲームひやひやしてた。乗るか乗せるか迷った結果頑張って負けた。産まれる前から姉が好きすぎて死にかける。蟹おいしい!あればあるだけ食べる、食べ放題の店に行けば後で後悔するまで食べるタイプ。蟹おいしい!皆の為に自分を使うと決めてる。すごい事暴露した。姉(元兄)のキンタマ再利用説。

若葉さん
耳は駄目だ、やめろ!……やっ、やめっ……やめろぉ!……あふん。そっと指先で撫で回された。罰ゲームに正座を思い付いたのは罰=正座orげんこつの方程式が脳内で固定されているから、だいたい青葉くんのせい。この飯、おろそかには喰わんぞ。

ひなたちゃん
ティッシュで作ったサンタ髭(上半分)が鼻から飛び出る。旅先には念のため薬を持ってくタイプ、でも今回はお部屋に忘れてきちゃった、うっかり。訪ねた部屋で死にかけの大人二人、そりゃあ微妙な表情にもなる。

タマっち
照れとか色々あったけど青葉くんがいつも通りなのでいつも通りになった。乗るか乗せるかでまた恥ずかしくなったけど乗せたら前が見えないから頑張って勝った、利害の一致。安定感のある座椅子のおかげで恥ずかしさにすぐ慣れた、くつろぐ。踏み込み難い話題でも勇気を出せる、相棒とはただの遊び仲間ではない。でもちょっと不器用。

杏ちゃん
罰ゲームを利用して趣味に走る系美少女あんずん。この美少女に権力を与えてはいけない。実は罰ゲームを全部回避している。とっても物知り。皆でクールダウンするために作戦会議を提案。

友奈ちゃん
男の子のは取り外しできません。男の子のは特殊な事例以外で取り外しされません。だから引っ張ったり捻ったりなんてしてはいけません。いいね?「なんか面白い話して」と要求する時点でかなりのボケ殺し、天然のサディスト疑惑。

千景ちゃん
のぼせても勇者の加護ですぐに回復。罰ゲームの水準を決める一発目に女の子が人前に出れなくなる顔になるような罰ゲームを提案してしまった。トランプ大会をとってもエンジョイ。カピ葉ラへの餌付けにちょっとだけハマってる、食卓を共にするコミュニケーション。

先生達
肉体疲労時の過度なサウナは危険。

園っち
どこかの時空で『のんびりしてるけどどうせ野武士なんだろ?』って初対面の時に西暦四国勇者から思われた。風評被害?いいえ、満開20回は伊達じゃない。

───

2話連続で玉。違うんです、ホントは1話にまとめる予定だったんです。文字数がいつの間にか増えちゃうんです。文章をコンパクトにまとめるにはどうしたものでしょうね?
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