乃木さんちの青葉くんはこんな感じである 作:ቻンቻンቺቻቺቻ
未だ肌寒さを感じるものの春の兆しがそこかしこに見える三月の朝、丸亀城勇者教室の生徒達は瀬戸大橋記念公園にてそれぞれ勇者装束と巫女装束を纏った調査組と留守番の僕とでしばしの離ればなれを惜しんでいた。
「知らない人について行ってはいけませんよ、きちんとうがい手洗いもして下さいね──」
「鍛練する時はしっかりと休憩をはさむんだぞ、拾い食いは絶対するな──」
いや、姉と幼馴染だけが過度に心配しているだけかもしれない。というか、拾い食いの心配されるほど僕はあっぱらぱーでは無いし心配されるのは何があるかわからない神樹の結界の外に出る二人の方だと思うのだが。
「心配性もそこまでにしとけよ二人とも、いつまでも続けてたら出発できなくなっちゃうぞ」
「そうは言いましても青葉ちゃんから長い間目を離すのが心配で……」
心底呆れた様子の球子にこれでもかと眉尻を下げる幼馴染、僕はこの歳になっても目を離したら危うい奴扱いされているのか。
「今までも入院なりなんなりで離れて過ごす事はあったが会おうと思えばいつでも会いに行ける状況だったからな、こんなに長い期間すぐに会えない距離まで離れるのは初めてだからかどうしようもなく落ち着かないんだ」
「ホントにずっと一緒だったんだね」
そわそわと解りやすく落ち着かない様子の姉にさすがの友奈も苦笑いを隠せないようだ。
「乃木くんが二人より落ち着いているのが……少し意外だわ」
「ん? そうかな?」
出発地点である記念公園に来てからずっとこの調子で言い付けを垂れ流す二人に若干うんざりしているのか小さな溜息混じりの千景。実は僕自身も姉の言葉には全力で同意だが、自らの足で着いていくことさえできない足手まといになるくらいならば大人しく待ってる方がマシだと思っているので心配ではあるがまだ落ち着いていられるが故の温度差なのだろう。
「あぁ、何故青葉は勇者ではないんだ。勇者ならば一緒に調査へ行けて離れる必要も無かったのに」
「もしも青葉くんが勇者だったら常に突撃してそう、ぜったいに制御不能だよ……」
大袈裟に嘆く姉の言葉にもしもの可能性を考えてげんなりとする杏。きっとその予想は当たっているのだろう、僕ももし皆と肩を並べれるだけの力があるならば敢えて肩を並べずに一番前に立ち続けようとすると他ならぬ僕が確信しているし望んでいるからだ。
「……猪が二頭……」
声量が小さ過ぎて誰が呟いたかはわからなかったけどそんな言葉を耳で拾った。
「むぅ、心配事は尽きないがそろそろ出発しなければ探索の計画に影響がでてしまうか」
「そっかぁ、もう出発の時間だもんね」
山ほどの言い付けをしても物足りなさそうな姉。スマホで時間を確認すると行動開始の時間になっていた、しばらくの離ればなれは名残惜しいが見送りの時だ。
何を言わずとも幼馴染を横抱きにした姉と同じく何も言わずにそれを受け入れた幼馴染、それを見た皆がやれやれと言わんばかりの表情をしながら自分の荷物と姉の荷物を分担して背負う。
「みんな、気を付けてね。いってらっしゃい」
短くて簡単だけど、僕からの見送りの言葉。
『いってきます』
皆が笑顔でそう応えてくれた。
「若姉さん、小腹空いたからってバーテックス食べたら駄目だよ。ひなちゃん、疲れたらすぐに休みなよ」
「言われずとも食わないさ」
「はい」
「お前も心配性かっ!」
ついでに皆が跳んでいく直前に僕もちょっとだけ言い付けをしたら姉の変な笑いと幼馴染の嬉しそうな笑い、そして、跳ぼうとしたのに間が外れたのかガクリとした球子からツッコミが飛んできた。
─────
皆が四国を囲む壁を越えていく砂粒のような後ろ姿を見送った後、誰もいない静寂にしばらくは皆に会えないという今更な実感を覚えつつそれに付属してきたしっとりとした寂しさを誤魔化す為にかなんとなくそのまま始めた散歩。しかし、目的も無く商店街に足を踏み入れた時に向けられた色んな人から向けられた視線に一度丸亀城に真っ直ぐ帰った方が良かったかも知れないと失敗に気付いた。
別に不特定多数の人に視線を向けられる事そのものはもう慣れてしまったから気にならないのだが、不特定多数の中にパトロール中らしきお巡りさんがいるのが少々拙い。僕の腰には皆を見送るために全員で記念公園まで移動した時から帯びている大小の得物が二本、見咎められてしまったら面倒になりそうだ。
例のなんか凄い許可証を使えば往路では皆に変質者を近寄らせない威嚇目的だと説明てきたのだが今は一人、現時点ではただの銃刀法違反になるのではなかろうか。
もしも事情聴取されて持ち物の検査された場合、腰の棒手裏剣と小刀を腰に帯びる事にして空いた左袖に仕込んだ燃料入りのペットボトルとマッチ代わりの発煙筒の終活セットが見つかってしまうだろう。そうなればもう明日の朝刊には『勇者の弟、危ないので逮捕』なんて見出しの記事が掲載されてしまうかもしれない、そうなれば調査を終えて帰って来た姉と幼馴染が泣く、怒りながら泣く、確実に。
──逃げるか?
ふと脳裏によぎるどうすべきかの案。しかし、あのお巡りさんは確実に僕を見ながら僕に向かって歩いて来ている、この状況で逃げたとしても追いかけられるだろうしそうなれば無線機で応援も沢山呼ばれるだろう。仮にそれでも逃げられたとしても顔を見られているのだ、すぐに居所を掴まれて丸亀城に警察が訪ねてくるだろう。日本のお巡りさんは優秀なのだ、ドラマで見たから間違いない。
──誘き寄せて、ヤるか?
ヤって隠してしまえばと思考しながらほぼ同時に脳内で否定する。何処に誘き寄せるというのか、何処に隠すというのか、そもそも現時点で目撃者だらけだから隠しようが無い、公務中のお巡りさんの消息が絶たれた時点で絶対に騒ぎになる、なんかもうダメダメ尽くしな案でしかない。
どうしたものかと考えても思い付かないので取り敢えず堂々と直進してみた。
「やぁこんにちは、お疲れ様だね」
「お疲れ様です」
スレ違う直前に足を止めてにこやかに挨拶してくるお巡りさん。内心そのまま歩き去れよと思いながらも堂々と返事してみる。
「今日は勇者様達と一緒じゃないのかな?」
「…………」
聞かれたくない事をド直球で聞いてくれるなこのお巡りさんは。と、鳴りそうになる舌打ちを堪えつつ皆は四国外調査に行ったと答えようと口を開いたが、言葉を放つ前にとある疑問によって声を出す前につい止まってしまった
「どうしたんだい?」
皆が四国外調査に行っていることはまだ公表されてないのだ、皆が帰って来て調査結果を纏めてから公表する事になっていると聞いているのだがそれを僕がお巡りさんに訊ねられたからといって話して良いものなのだろうか?
「ん~~、何処まで話して良いのか解んなくて」
「あっ……なるほど、機密のお役目中なんだね」
何を察したのか解らないがあっさりと引き下がるお巡りさん。たぶん、斜め上な勘違いをしている。
「引き留めてごめんね、邪魔しちゃったみたいだね」
「いえいえ」
「それでは本官はこれにて失礼します」
佇まいを正してにこやかだった顔を引き締めながら素早く帽子に手を当てて敬礼し、そのまま僕が今進んできた道に去っていくお巡りさん。それでいいのだろうか、ここにわりと危険な装備の中学生がいるのだが。
「ん……まぁいいや」
優秀なはずの日本の警察が僕の武装を納得しながら見逃したのだ、きっと問題無いのだろう。
お巡りさんと接触していた時間は短くて交わした言葉も少ないものだったが、短時間の内に色々と考え過ぎてしまったのかせっかくの散歩なのにもう疲れてしまった。緊張もあったせいなのかどうにも喉が渇く。喉を潤しながら休憩したいと考えながら歩を進めた先で見つけた喫茶店、かつて球子と友奈をエスコートしながらプランYの途中で立ち寄ったその場所に憩いを求めて小洒落た装飾の扉を開いた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へ」
僕以外に客のいない店内、カウンターの奥で以前来た時と変わらない白髭の店主が穏やかな声色と表情で迎えてくれた。特に理由は無いがカウンター席に腰を掛ける。
「コーヒーに慣れてなくてもブラックで飲めるコーヒーはありますか?」
入店する直前は甘くてミルクたっぷりなコーヒーを頼もうと思ってたのだが、静かでお洒落な店内の大人っぽい雰囲気に心変わりしてそんな注文をしてみた。お茶の甘味を感じさせるほろ苦さは好きなのだが酸味や渋味を感じさせるコーヒーの苦味はあまり得意ではない、しかし、いつかハードボイルドな男になりたいと思っている僕はブラックコーヒーを美味しく飲めるという事に少々以上の憧れを抱いているのである。
ニコリと穏やかな顔つきを更に穏やかにした店主が頷き、カウンターの裏から豆を取り出して落ち着いた動作でコーヒーを落とし始める。
「以前来た時は勇者様達と一緒だったけど、今日は一人なんだね」
店主のゆったりとしているのに無駄の無い動きをぼんやりと眺めながら注文の品を待っていると突然に店主が口を開く。この店に来たのは数ヶ月前に球子と友奈の三人で寄ったきりなのに店主は勇者でもなんでもない僕の事を覚えていたらしい。
「はい、今日は一人で散歩です」
「そうかい、まぁ、ゆっくりしていってね」
そんな穏やかで短い会話の後にカウンターに置かれた華やかで果実的な薫りの黒いコーヒーと小皿に載せられたクッキー。
「そのクッキーはブラックに挑戦する君への個人的な贈り物だよ、バターを多目に焼き上げているからコーヒーの苦味や渋味をやわらげるんだ」
「……ぉぉ」
茶目っ気に微笑む店主が「もちろん、そのコーヒーは慣れてなくても飲みやすく落とした自信作さ」とも付け足す。その仕草や心遣いには今まで接した事のある他の大人達とは違うダンディズムを感じる。
思わず口からこぼれ落ちた感嘆の声の後にお礼を告げ、その自信作なコーヒーを口に含む。見た目はよく見るブラックコーヒーだが、果実的な薫りを裏切らない渋味を感じさせないフルーティーで不思議な苦味が口内を満たした。
「おいしい」
何も言わず無言のまま微笑む店主。店内の雰囲気、ダンディズムな店主、黒いままのコーヒー、その三要素によりなんだか大人になった気分を味わえた。
そんな大人な雰囲気にふと皆がいない間の鍛練以外の暇潰しに杏から借りてポケットに入れていた文庫本の存在を思い出し、ここで活字でも読んでみれば更に大人っぽくなるのではと思い付いてポケットに手を入れてまさぐる。それと同時に背後で扉の開く音を耳にした。
「あら……? 貴方は……」
「ん? あっ、こんにちは」
聞き覚えのある声に振り向けば眼鏡を掛けた神経質そうな顔つきの女性、以前この店に来た日と皆が演舞を披露した日から続いて三度目の邂逅か。
「……もしかして勇者様とご一緒ですか?」
「一人です」
お互いに会釈した直後にハッとした表情を見せた眼鏡女がほんのりと期待するような顔に変えて訊ねてきたが残念ながら今日は僕一人である。正直に答えれば眼鏡女は目で見て解るくらいには肩を落としながら一つ席を開けた隣のカウンター席に腰掛けた。
「わかりやすくガッカリしてますね」
「えぇ、まぁ、一瞬でも勇者様達と会えるのではと思ってしまったので」
期待してすぐに否定された訳か、そりゃガッカリするのも当然なのかもしれない。そんな眼鏡女の様子を見て朧気な記憶の中から勇者のファンだと言っていたのをなんとなく思い出す。
「皆のファンなんでしたっけ?」
「はい、勇者様の為ならわりとヤバい事でもできるくらいにはファンです」
「……わーぉ」
眼鏡女が注文を済ませたタイミングで聞いてみればグルンと顔を勢い良く向けられて断言されてしまった。この人はもしかしたら見掛けに寄らず実は面白い人なのかもしれない。
「そんなにファンなんだ、熱烈ですね。なにか理由でもあるんですか」
「えぇ、それはもう。勇者様達の強い有り様は私の理想で──」
嬉々として語り始める眼鏡女、読書を終えた杏に感想を聞いてみた時と同じ空気を感じる。以前うっかりと軽い気持ちで杏に感想を求めてしまった時はお茶を三杯飲み干す位の時間ずっと語られてしまったが、この眼鏡女ももしかしたら好きな事にはとびっきり饒舌になるタイプなのかもしれない。
眼鏡女曰く、天災前に住んでいた奈良から避難する時に実は友奈に助けられていたらしく、当時小学生だった友奈がその小さな体で化物を倒しながら避難民を老若男女問わず励まし続ける心身の強さに女性とは斯くあるべしと確信し、憧れたとの事。他にも男尊女卑の世の中において~だの女性の社会的地位~だのと色々とめんどくさい事や難しい事も言っていたが要点だけ言えばこんなもんだと思う。
穏やかに苦笑いする店主が落としてくれた二杯目のお代わりを半分ほど飲んだあたりで眼鏡女はようやく落ち着いてきた。
「最初は友奈ちゃんのファンだったのがいつの間にかみんなのファンになってたって事かな?」
「端的に言えばそうです。皆様はまさしく世の女性が理想とすべき方々です」
相槌を打っている内に丁寧語がいつの間にか何処かへ無くなって砕けたままの口調で訊ねればまた断言された。この人はこんな感じの人なのか。
「これでもかってほど皆が好きなんだね、そんなに熱心な人は初めて見たかも」
「……貴方ならば鏡を見ればいつでも見れるのでは? 演舞の日以来貴方は御側付きガチの人として有名じゃないですか」
「なんですと?」
そんな呼ばれ方は初めて聞いたので驚いてしまう。そんな僕を見て眼鏡女が変な物を見たような顔になり、やや間を置いてから何かに納得た顔に変えて言葉をきりだした。
「もしかして、普段SNSとかはやらないんですか?」
「まぁ、あんまり」
「そうでしたか、最近ではこんなのが出回ったりしてますよ」
そう言った眼鏡女がスマホを操作して僕に見せたのは短い動画、内容は僕と球子と友奈が並んで商店街を歩いている後ろ姿を撮影し始めた瞬間に僕が振り向いて腰の得物の柄を撫でつつ撮影者を脅かしてるものだった。動画のタイトルには『カメラ回したらガチの人に睨まれた』と表記されている。間違いなく以前三人で街をブラついていた時の映像だろう、あのジャージ男は動画を消していなかったどころかネットの海に放流していたらしい。
「うわぁ、なにコレ……恥ずかしい」
消えろだのなんだのと口にしている自分の姿を他者の視点で見るとこんなにも恥ずかしいものなのか。
「何を恥じてるんですか? 察するに休暇中らしき勇者様達の穏やかな時間を守った事を誇るべきでは? 多くの人が貴方の行いに好意的な反応を示してますよ」
「いや、そうじゃなくて……」
ぐいと眼鏡女が突き付けてきたスマホの画面、動画の備考に『街の風景撮ってたら勇者様達も偶然撮れた、ヤベー奴がいきなり半ギレしたのも撮れた』とあり、コメント欄には『どうみても盗撮目的だろ、通報した』『ガチの人に阻止されてやんの(笑)』『これはガチの人グッジョブ、うどんを購入する権利をやろう』などと記されている。少し画面をスクロールしてみると『消えろ(迫真)』とも記されていた、穴があったら入りたい。
「……まじか、うわぁ……まじかぁ」
「なにがそんなに恥ずかしいんですか? 元旦の事件と同じく勇者様達の事を思っての行動だったのでは?」
そうだけど、そうじゃない、それどころじゃないのである。。
無理矢理忘れようとしても先程の強い言葉を吐いている自分の映像が何度も脳内で繰り返され、時間を経るごとに自身への羞恥が増していく。
「傲慢であったり粗暴な男性ばかりのこの世の中だからこそ貴方のような女性を守れる人が胸を張るべきです、恥じらうことなんて何も無いじゃないですか」
「……きっついなぁ」
褒められてるのかも知れないけど今は本当にそれどころではないのだ。
頭を抱えながらも視界に入っていたカウンターに置かれたスマホの画面、そこに記されていた『消す(消してないし拡散されてる)』の文字にしばらくは癒えなさそうなダメージを受けた。
─────
調査初日の夜、勇者達は六甲山近くのキャンプ場で焚き火を囲みつつうどんを啜っていた。
「満点の星空、みんなで囲む焚き火、おいしいうどん、コレこそがキャンプの醍醐味だ。タマはこういうのがしたかったんだ」
「とうとうタマっち先輩がアウトドア欲を隠さなくなっちゃった」
野営の場所を決める際には水のため燃料のためと一応はそれらしい理由を付けてキャンプ場を推していた球子が満足そうに笑う姿を見て杏が半ば解っていたと言わんばかりに苦笑する。
「タマちゃんはアウトドアが好きだもんね」
「おう。最近はまた爆弾女のせいで刃物男の時みたいに色々と制限されちゃってたからな、久しぶりの本格的アウトドアの機会だからエンジョイせざるをえないぞ」
テロ未遂事件の影響で勇者達の安全のために大社が設けた幾つかの制限、その中には厳しい門限や単独行動の禁止などがあり、アウトドアの趣味を楽しむには些か条件が悪いと球子が愚痴をこぼす。
「少し息苦しいが制限も仕方ないだろう、状況が良くなるか戦いが終わるまで我慢するしかあるまい」
「大変なお役目の最中ですが、これで少しでも発散できればいいのですが……」
「愚痴っぽくなっちゃったな、すまん」
宥める若葉と自身は何も悪くないハズなのにどこか申し訳なさそうにするひなたに球子が軽く謝る。
「よし、決めた!」
「なにが?」
うどんの最後の一口を勢い良く啜って飲み込んだ球子の唐突な大声にその場の全員が視線を寄せ、皆の疑問を代弁するように友奈が首を傾げた。
「戦いが全部終わって面倒が全部無くなったら皆でちゃんとしたキャンプをしよう! 炭火でバーベキューしたりおっきなテントの中で皆でごろ寝したりの本格的なやつを!」
瞳をこれでもかと輝かせる球子が声高に宣言する。
「今回はいない青葉も含めて全員でだ! 絶対に楽しいぞ!」
「わあぁ……いいね! スッゴく楽しそう!」
球子と同じ位に瞳に光を灯す友奈の賛同の声、その声に普段はアウトドアにあまり興味を示さない杏や千景も肯定的に微笑む。
「戦いが終わったら……か。そういえば奴等に報いを与えて勝利する事ばかりを考えたいたから考えた事も無かったな」
「私はきっと心の底からのんびりできるはずのその時を皆さんと一緒にのんびりしたいと思います」
「それはいいなぁ」
しみじみと言葉を落とした若葉にひなたが微笑みながら語る。
「あんずは戦いが終わったら何かやりたい事あるか?」
「えーと、たくさん本を読みたいなぁ」
「普段たくさん読んでるだろ」
「今よりもっと読みたいの、次の日の鍛練とか勉強とか一切考えないでめいっぱい、朝から晩まで」
「視力落ちちゃうぞ?」
「ぐんちゃんは何がしたいってあるのかな?」
球子と杏のやり取りを見た友奈が静かにうどんを食べ終えた千景に問い掛ける。
「私も……皆で生き延びる事ばかり考えてたから先の事は考えて無かったわ」
「そうなんだ」
「……でも」
「なぁに?」
問われた時に微かな困惑の表情を見せた千景、その直後に短い間を作ってから言葉を繋げた。
「楽しいことも、嬉しいことも、皆と一緒に体験したいわ」
「私も! いっぱいエンジョイしたいね!」
静かな口調でやわらかく微笑む千景と顔を合わせた友奈が焚き火の灯りに照らされながらニッコリと大輪を咲かせる。
文明の灯りの無い夜空の下、困難の中でも六人の少女達は未来に思いを馳せて笑い合っていた。
ガチの人くん
ネットに晒されてた。コメント欄はわりと青葉くんに好意的、でも『刃物チラつかせるヤベー奴』とか『なんでコイツ堂々とポン刀ぶら下げてんの?警察はよ』とか『イキった癖にアホを見逃したアホ』とかのコメントもそれなりにある。『後頭部に目玉ついてる妖怪』ってコメントもあった。でもそんなコメントよりチンピラ風味な自分にダメージ受けた。勇者達と仲良く散歩してる姿をよく目撃されてるので丸亀城周辺の人達にはかなり好意的に受け入れられてる、地元補正。ネットで有名な忍者、全国放送で色々とやっちゃったもんね。強い言葉を吐いた結果ネタキャラとしても認識された。使うつもりは無いけど一応使い捨て終活セットを持ち歩く、使い捨てるのは自分。
若葉さん
実は出発前夜まで青葉くんを背負って連れていこうかなんてわりと本気で考えてた、冗談っぽく「おんぶして連れていくか?」と訊ねたら「足手まといの生き恥を掻くなら腹を十字に開く」と本気なのかブラックジョークなのか解らない言葉で返された。うん、留守番しててくれ、そんな事されたら泣くぞ。報いと勝利に向かって毎日頑張ってます。
ひなたちゃん
いつになっても抜けてる幼馴染が心配な世話焼きの女の子。幼馴染は本気だしたら凄いのに普段はぽやぽやしてるし抜けてると認識してる。今回は心配される側、心配される事がちょっとくすぐったかった。戦いが終われば心配する事なんて何にも無しで皆でのんびりできると信じてる。
タマっち
コイツらまたやってるよ……って思いながら幼馴染組を見てた。治安のせいで欲求不満。戦いが終わったら全員でキャンプをエンジョイな、拒否権は認めない。みんながノリ気になってくれたのが嬉しい。
杏ちゃん
暇を予想した青葉くんにお勧めを求められたので最近のお気に入りだった恋愛小説を布教した。さあ、青葉くんも読書の沼にはまるのです。作戦組んでも青葉くんなら平然と突撃しそうだと思ってる。戦いが終わったら活字の海に飛び込みたい。
友奈ちゃん
青葉くんがもしも勇者だったらきっと凄く頼もしいんだろうなって思ったけど杏ちゃんの予想を聞いてフォローするのが大変そうとも思った。戦いが終わったら皆でたくさんエンジョイしたい!
千景ちゃん
リーダーが心配性を拗らせてるのを見て出発前に微妙な気分になった。でも兄弟や姉妹がいたら私もこうだったのかな?なんて考えてみたけどわからなかった。皆で生き残る事を考えてた。戦いが終わっても皆と『友達』と笑っていたい。
眼鏡女
奈良出身。実は友奈ちゃんと一緒に避難してきてた。握手を求めた時に自分の事は記憶に無いんだろうなと思いつつほんのりと期待してた、でも反応的に覚えられてないとわかっちゃった。だってたくさんいる避難民の中の一人だったし特別な接点も無かったので仕方無いね。それでも友奈ちゃんの大ファン。言動からフェミニズムを感じる。
お巡りさん
温泉旅行の時に正義のヒーローやってた。別に補導とか職務質問でもなく挨拶しようとしてただけ。
店主
穏やかなダンディズム。御側付き青葉くん(って認識してる)を応援してる。
ジャージ男
消せと言われたのでスマホの電源を消して動画は残してた、屁理屈。後からムカついたので晒したら炎上した。
───
いきなりですが三人称に挑戦してみました。三人称ってこんな感じでいいんですかね?
誤字報告ありがとうございます。