乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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52:我慢できない感じの友奈、もしくは汚れの話

 今年は桜の開花が少し遅れているようだとテレビに映るアナウンサーが言っていた日の事だ、春休み期間なので授業は無いのだが鍛練の為に一度教室に集まった際に後程僕だけ職員室に来るようにと呼び出しをされてしまったのだ。

 

「青葉、今度は何をした? 正直に言え」

 

「こんな光景前にも見たなぁ」

 

 剣幕な表情で僕に問い質す姉と両肩を捕まれて姉と向かい合う僕を見て杏がぼそりと呟く。職員室に呼び出されたからと言って僕が何かやらかしてると決め付けて問い質してくる姉からの信頼の薄さが地味に心に沁みる。

 

「タマちゃんは何か知ってる?」

 

「知らないな、何でタマに聞くんだ?」

 

「イタズラしたなら二人で一緒にしたのかなって思って」

 

「おいおい友奈、まるでタマとこのアッパラパーがセットみたいな言い方じゃないか。そういう傷付く事を言うのはやめタマえ」

 

 球子の溜め息を吐きながらの冗談を聞き流しつつ僕の肩を掴む姉の手をやんわりとほどく。

 

「特に思い当たる事はないよ」

 

「そうか、球子も一緒ではないあたりイタズラとかではなさそうだな」

 

「若葉までセット扱いするのか」

 

 納得したのか軽く頷く姉と視界の隅でややげんなりとする球子。

 最近は僕も球子も今までに色々とイタズラをしてネタが尽き気味だったのでこれといった事はしてないのだ、そういう訳で職員室に呼び出される理由が思い当たらない僕はちょっと深く考えて理由を予想してみる。

 

「あっ」

 

「なんだ、やっぱり何かやったのか」

 

「なに? なんか面白そうな事やったんなら誘えよ、みずくさいぞ」

 

「……やっぱりセットだね」

 

 記憶の片隅にあった『もしかして』と思える事に思考が至って無意識にこぼれた声に姉が眉をしかめて反応し、球子の不貞腐れたような声に友奈が苦笑いする。

 

「キノコの栽培に失敗してカビの固まりになった丸太を燃えるゴミに出したのが不味かったのかな?」

 

 最近のマイブームだったキノコ栽培、最初にホームセンターで買った初心者向けの栽培セットではなく丸太を使ってちょっと本格的に栽培するとより美味しいキノコを収穫できると知って試してみたのだが、管理に失敗して丸太を丸ごと真っ青でモジャモジャなカビの塊にしてしまったのだ。流石に処理に困ったそれを多きな指定ゴミ袋を何枚か使って適当に包んでゴミ捨て場にこっそり置いてきたのが駄目だったのかもしれない。

 

「丸太……? 一応聞くがどれくらいの大きさなんだ?」

 

 眉をしかめたままな姉の問い。

 

「僕の腰くらいだよ」

 

「結構大きいな」

 

 僕の部屋にある押し入れの空きスペースにギリギリ入る大きさなのである。

 

「昨日、庭師のおじさんが渋い顔しながらそれ回収してノコギリで切り分けてたよ」

 

「って事はゴミ出しのルール的にアウトだったんだな、青葉、おとなしく怒られてこい」

 

 目撃談を話す友奈とニヤニヤとせせら笑う球子。

 

「まじか、多少大きいとはいえ火に突っ込めば燃えるしいけると思ったんだけどな」

 

「しっかりとゴミ捨てのルールを調べてから捨てるべきだったな、やってしまったからには仕方無いが次からは気を付けろ」

 

 盛大に溜め息を吐いた姉に背中を押されて向かった職員室、簡素な引戸を過ぎれば何人かの職員の他に鷲尾先生と格闘術の先生がいた。鷲尾先生が入室した僕に気づくなりいつかも使った奥の応接スペースへと通された。

 

「さて、早速だが本題に入ろう」

 

 僕が座ったソファーの対面にあるソファーに座る先生二人、どうにも纏っている雰囲気にピリピリとしたものを感じる。そんなにもカビでモジャモジャな丸太は重大なゴミ捨てのルール違反だったのか。

 

「ゴミの分別はこれから気を付けたいと思います」

 

「は? 何言ってんだ坊主?」

 

 機を先んじて反省してる風に言ってみたのだが変な顔をされてしまった、どうやら呼び出された理由は全く別の事らしい。

 

「先日の事故、いや、轢き逃げ事件についての話なのだが」

 

「あっ、そっちでしたか」

 

「呼び出されて真っ先に怒られると思う辺り普段の行いが透けて見えるな」

 

 どうにも間が外れたのかピリピリとした雰囲気が霧散する先生二人。鷲尾先生の言葉にそう言えばそんな事もあったなと思い出す、大した怪我もなく済んだので僕の中ではちょっとした話の種程度の事だったのだが先生二人がそんなに雰囲気を変えながら僕を呼び出す程の事なのだろうか。

 

「警察の方々の捜査のおかげで例の車の運転手を突き止めて逮捕に至ったのだが……今回の事件、かなり根の深いモノだったみたいでね」

 

「? ……轢き逃げに深いも浅いもあるんですか?」

 

 僕の問いに対して言葉が詰まった様子の鷲尾先生がかつて無い程に渋い表情を僕に見せる。

 

「轢き逃げじゃなくて殺人未遂だ、元旦の爆弾女達の仲間がたまたま街で見掛けた坊主を狙って殺そうとしたんだとよ。犯人が坊主を殺れたと思いこんでるみたいで自慢気に自白したらしいぞ」

 

「えー」

 

「もう少しショックの少なさそう表現を……」

 

 鷲尾先生が僕にチラリと痛まし気な視線を送りつつ日常会話と同じようにスッパリと言いきった格闘術の先生を諫める。

 

「あんな刀を振るより遅い速度で僕を殺せると思われてたのはちょっとショックかも」

 

 あの程度の速度に反応できないなら僕はハンサムとの試合に負けて丸亀城から去ることになっていただろう。あれで殺れると思われていた事で間接的にあの最高に心踊ったギリギリの試合と僕の貴重な強敵兼友人の本気を馬鹿にされたような気がしてそれなりに腹立たしさを感じてしまう。

 

「うむ? ……ううむ……」

 

「気にするだけ無駄ですよ旦那」

 

 形容しがたい表情で閉口してしまった鷲尾先生と常と変わらない僕を小馬鹿にしたような表情の格闘術の先生。その後、一度お茶を啜った格闘術の先生が表情を引き締めて説明を始めた。

 曰く、たまたま街で元旦のテロを邪魔した僕を見掛けた犯人が突発的に僕を不意打ちで殺害しようとし、いざ車の横を通り過ぎた僕を背後から襲おうとした直前にスモークガラス越しに僕と目が合って察知されたと思い一度断念したらしい。その後、ぼんやりと横断歩道を渡り始めたのを見て轢殺を試みたとの事。突発的に殺そうとした直後に諦めて更に再起する思いきりの良さは他の健全な事に生かして欲しいものだ。

 

「あのカルトな犯行動機な奴等にホントに仲間がいたんだ、世も末だね」

 

「シャレにならねぇからその冗談はやめろ」

 

 吐き捨てるようにダメ出しされてしまった。やはり『世も末』はこの情勢ではギリギリアウトなワードらしい。

 

「で、だ」

 

「ん?」

 

「坊主はしばらく敷地外への外出禁止な」

 

「まじか、なんでさ」

 

「突発的に殺人を行おうとするテロ勢力に狙われたと知って尚『何故』と問われるとは思わなかったよ」

 

 これ見よがしに溜め息を吐く格闘術の先生と指で眉間を揉む疲れた表情の鷲尾先生。僕を外出禁止にしてる暇があるなら他にも必要な対応があると思うのだが、具体的に言えば皆の安全確保についてだ。

 

「勇者達の安全については今大社のジジイ達が話し合ってる、最大限勇者達の安全を確保しつつストレスの少ない方法を模索中だ」

 

「ん~、悠長だね」

 

 話し合いの結果が出るまでカルトな奴等が待ってくれるとは思えない。

 

「テロ未遂の翌日に温泉旅行を決める位にはのほほんとしてるからな」

 

「今は警察の方々がご厚意で丸亀城周辺を全力で巡回してくれているのだよ」

 

 皆の主な行動範囲になる丸亀城周辺と商店街を中心にこれでもかと人員を配置しているらしい、道を歩けば必ず視界内に制服私服問わずにお巡りさんが絶対にいるレベルとの事。お巡りさんの平和への熱意にはまさに感服の思いだが、それだけの人員を丸亀城周辺に寄せて他の地域はどうなっているのだろうかという心配は余計なお世話なのだろうか。

 

「それだけ厳重に警戒してるんなら別に僕も出歩いていいと思うんですけど?」

 

「お巡りさんの警護対象をすすんで増やす事もあるまい、大人しくしてなさい」

 

「えー」

 

 強く言い切った鷲尾先生、つまりは面倒を増やすなと言う事か。ならばお巡りさん達に察知されないようにかくれんぼ的な散歩をせざるをえない

 

「そういう情報を拡げている訳じゃねぇが実は表向き坊主は轢き逃げで重症、もしくは事故死したっぽい空気にしてる、死人が出歩くなよ」

 

「そこまで明かさなくとも良いのでは?」

 

「あの程度で殺されないし!」

 

「うるせぇ、カルト集団の反応を探りたいから大人しく死んどけ」

 

「……私の感性がおかしいのだろうか?」

 

「このクソガキにはここまで言っとかないと絶対やらかしますよ」

 

 頭を抱え始めた鷲尾先生と鼻息強く言い切った格闘術の先生、実際に出歩こうと思っていたがクソガキ言うな。

 そんなこんなで決定されてしまった強制丸亀城引きこもり期間、迷惑かつ危険なカルト集団はさっさと全員逮捕されて欲しいと願うばかりである。

 

 

 ─────

 

 

「もう……我慢できないよ……」

 

「……高嶋さん?」

 

 春の陽気が感じられるようになってきたから変質者が増えてしまったと適当な理由を先生二人がでっち上げて皆に外出を控えるように通達して数日、昼のうどんを啜って午後の鍛練に備えていると珍しく口数の少なかった友奈の我慢が突然限界に到達してしまったらしい。

 

「もう我慢できない」

 

「なにか気に障ることを……言ってしまったかしら?」

 

 友奈の口数の少なさを気にしていたらしく途切れ途切れながらも話し掛けていた千景が友奈の言葉に眉尻を下げておどおどとしている。

 

「ううん、ぐんちゃんは何も悪くないよ。なんだか気をつかわせちゃってごめんね」

 

「ええと……その、いったい何が我慢できないのかしら……?」

 

「えっとね……」

 

 一呼吸の間を置いて千景ちゃん合わせていた視線を僕に向ける友奈、その顔には強い決意の色が見える。

 

「青葉くん」

 

「んー?」

 

「しようよ」

 

『政府は現在、勇者様と巫女様による調査の結果無事が確認された諏訪へと輸送する物資に関する寄付の協力を広く呼び掛けて──』

 

 主語の無い友奈の言葉に固まる食堂の空気、備え付けのテレビだけが虚しく嘘のニュースを垂れ流す。

 

「したいの?」

 

「うん!」

 

 なんの事か一瞬わからなかったので一度聞き返すと元気良く帰ってきた返事に底知れぬやる気を感じてしまう。

 

「? なんか空気が変わったか?」

 

 唯一キョトンとした表情をしていた姉の呟きが固まった空気に小さく響く。

 

「今日はとことんやろう!」

 

「昨日も三連続でやったばかりなのに?」

 

 口を開く度にやる気が増していくのを感じさせる友奈の声、その闘志とも言えるやる気に抜けていた主語の正体を掴んだ僕が返した言葉に固まっていた食堂の空気が凍り付くのを感じたのは何故なのか。

 食堂のカウンターの奥から「三連続、若いわぁ」と年嵩の女性職員の感心するような声がほんのりと届いた。

 

「あれじゃあ全然足りないよ、だっていつも私が叩くだけなんだもん」

 

「えー」

 

「たまには青葉くんも叩き返してよ、そうじゃなきゃ物足りないよ」

 

 友奈の一言に離れたテーブルに座っていた鷲尾先生が震える手で胃薬を取り出しておもむろに口に放り込む姿を視界の端で捉えた。なにやら顔色が悪いが胃袋に強烈なダメージでも受けてしまったのだろうか、お大事にして欲しいものだ。

 

「…………ぴゃぁ……」

 

 球子が赤い顔で鳴いて震え始めた、舌でも火傷したのだろうか? そして、再度カウンターの奥からほんのり届く「ハードプレイね」という女性職員の声。僕と友奈がヤってハードじゃなかった事は一度も無かったはずなのだが友奈には物足りなかった様子。

 うどんの最後の一口を食べきった友奈が満足気に目を細めた友奈が自身のお腹をゆっくりとした手つきで撫でる。

 

「僕が叩いたとして、もしも怪我しちゃったら大変だよ。大事な体なんだからもしもの可能性は少しでも減らさなきゃ」

 

「ンブフッ!!」

 

 僕の言葉の途中で鷲尾先生が鼻から何かを噴き出したの視界の端で捉えてしまったのを見なかった事にした。そして、僕の言葉の直後にぎょっとした表情になった幼馴染と杏がいつの間にか自慢気な顔になっていた友奈にグルンと顔を向ける。何が気になるのかわからないが二人の視線は友奈の顔と腹部を細かく行き来していた。

 

「ふっふっふ、実はそんな心配性な青葉くんにぴったりのオモチャを調達してきたのです!」

 

「ん、おもちゃ?」

 

「…………お……おも……ちゃ」

 

 食堂の空気が凍り付いた頃から微動だにぜずに友奈を見ていた千景が震える声で呟く。ゲームが好きな千景は玩具にも興味があるのだろうか?

 

「ぐんちゃんもオモチャが気になるの?」

 

「!? …………!」

 

 そんな千景の呟きに反応した友奈が千景に問うが、千景は首だけ上を真っ赤にしながら猛烈に左右に往復させる。

 

「そのおもちゃってのはそんなに凄いの?」

 

「うん、私も最近知ったんだけどとても安全で色んな人が使ってるんだって」

 

「へー、でも、ダメそうだったらすぐにやめるよ?」

 

「うん! はやく試そうよ!」

 

 待ちきれないと言わんばかりに僕を「はやくはやく!」と急かす友奈、安全な叩ける玩具とやらは正直眉唾な話だが求められるのはやぶさかではない。僕も残っていたうどんを一息に啜る。

 視界の端で胃薬を飲み直した鷲尾先生が机に突っ伏すのを見たが、僕はそれも見なかった事にした。

 

「どこでやろう?」

 

「今日は天気も良いし外がいいな、グラウンドでやる?」

 

「ん」

 

 天気が良い日の屋外は僕にとってはちょっとやりにくい条件ではあるのだがどうしてもってほど嫌では無いので頷く。

 

「……屋外……白昼堂々……ひえぇ……」

 

 天気が良い日ならば細かな内容は違えど皆やってるだろうに球子は何に対して戦慄しているのだろうか。

 

「その玩具とやらが少し気になるな、私も後で見学しに行く」

 

「若葉ちゃん!?」

 

「ん、わかった」

 

 態度で断固として興味が無いと示した千景とは反対に姉は友奈の調達したモノがきになるらしい。僕も眉唾だとは感じているが、それでもそれなり程度には興味が引かれるのでここら辺はやはり双子故の感性の近さなのだろか。

 友奈と二人で食べ終わった食器を下げるとカウンター越しに女性職員が素敵な笑顔で僕達に向かって親指を立ていた。

 

 さて、玩具を使うか否かはまだわからないがどちらにせよ気合いを入れなければ。

 

 

 ─────

 

 

「ちょっと待ったぁ!」

「二人とも動かないで」

 

 いざ、尋常に! ……と、対峙した友奈と事を始めようとした瞬間、走ってきた球子と杏が慌てた様子で僕と友奈の間に割り込み、千景が不安を隠さない表情で友奈のジャージの裾を握り、幼馴染が息を切らしながら僕の目の前至近距離に立ちはだかった。よく見なくとも息を切らして肩で呼吸をしている様子に幼馴染がよほど急いでここに駆け付けたのだとわかる。

 

「んん? 何事?」

 

「青葉ちゃん」

 

 急いで来たせいなのか軽く頬を上気させている幼馴染が真面目な表情で僕の目を真っ直ぐに見据えてしっかりとした口調で僕の名を呼ぶ、急ぎかつ真面目な話があるのだろう。

 

「勘違いだったと気付いた事が勘違いだったら大事ですので一応聞きますね、正直に答えてください」

 

「ん」

 

「昨日青葉ちゃんが友奈さんとナニを三連続して、これからどんな玩具を使って叩き合うハードな事をしようとしたんですか?」

 

 大真面目な茜色の瞳で僕を見上げながら平坦に見せかけた声色で僕に問う幼馴染。

 

「鍛練、組手だよ。ほら、コレが友奈ちゃんが用意したおもちゃさ」

 

 手に握っていたスポーツチャンバラという武器を使った異種試合をスポーツ化したものに使われているエアーソフト剣と呼ばれている棒を幼馴染に見せる。これは安全性を最大限高めて作られた物でわざと眼を狙って突きでもしない限り怪我をするのが難しい代物だ、難点としては真剣や模造刀に慣れた僕には軽すぎて握り心地が落ち着かない事か。

 今までは僕と友奈が一緒に鍛練する時は友奈が全力で攻めて僕が全力で凌ぐミット打ちが主だったのだが、怪我をさせる事が嫌でずっと打ち返さないでいた僕と互いに全力で攻めて凌ぎ合う試合形式の鍛練をどうしてもやりたかった友奈がテレビでスポーツチャンバラと言う競技を知り、この棒を僕に使わせれば互いに全力を出し合えるのではと思って調達したらしい。

 

「そうですか」

 

 ただそれだけ言ってその場で瞼を閉じる、恐らくは何かに思考を巡らせているのだろう。

 

「あの……高嶋さん」

 

「えぇと、なぁに?」

 

 僕と同じく状況をよく解ってないらしき友奈に普段よりも慎重に口を開いてるように見える千景がおじおじと友奈と視線を合わせている。

 

「何があったとしても……大事な『友達』どうしの事だから……きっと……祝福できるから……答えて欲しいわ」

 

「……え~と?」

 

 声に切実ささえ感じられる千景に首を傾げる友奈。

 

「……高嶋さんの……お腹の……中……」

 

「? うどんを食べてお腹一杯だよ?」

 

 ぽむんっ、と自らのお腹を軽く叩く友奈にほんの僅かに肩を跳ねさせた千景がおろおろとしながら口を開いたり閉じたりとする。もしかしたら友奈の言葉は千景が望んだ答えとは別の方向からの言葉だったのかもしれない。

 

「おい、あっぱらぱー」

 

 半目な球子からいきなりの罵声じみた呼び声。

 

「さっき言ってた"大事な体"ってのはどういう意味だ?」

 

「そりゃああれだよ、みんなはいつ襲撃してくるかわからないバーテックスに備えてなきゃいけないんだから何時だって最大限整えておかなきゃでしょ? 怪我なんてもっての他じゃん」

 

 怪我はものによっては僕の左腕と同じくらい取り返しがつかないものがあるのだ、気を付けるに越したことは無いと断言しよう。

 

「……まぁ、やっぱりこういうオチだよね」

 

 力の抜けた杏の呟き、そしてよくわかってないままの僕と友奈以外から漂う微妙な空気。

 

「なんだ、みんな急に急いで食べ終えて何処かに行ったと思ったらここにきていたのか。そんなに皆も二人の鍛練が気になっていたのか?」

 

 そんな空気に通ったよくよく聞き慣れた声に振り向けばこちらに向かってのほほんと歩いてくる姉の姿、先程言っていたように見学しに来たのだろう。

 

「若葉ちゃん、お二人が鍛練の話をしていたって解ってたんですか?」

 

「そうだが、それ以外に別の話なんかしてたか?」

 

「…………ふふっ」

 

 幼馴染の問いにキョトンとしながら姉が応え、しばしの無言の後に幼馴染が自嘲するように笑う。笑顔がとてもよく似合うはずの幼馴染なのにどうしてかその投げ遣りな微笑みに空虚さを感じてしまう。

 

「私は……いつの間にか汚れてしまっていたんですね……」

 

「んぇ?」

 

 抑揚の無い幼馴染の声に再度醸し出される四人の微妙な空気。ここに来るまでに走って来たであろう幼馴染はほんの少しだけ乱れた黒髪とその空虚な表情以外はいつも通りに見えるが。

 

「ひなちゃんはいつも通り綺麗でかわいいよ?」

 

「あぁ、ひなたは自慢の幼馴染だぞ?」

 

「……うふふ……」

 

 なんとなく褒めてみたら姉も追従して幼馴染を褒める。されども、幼馴染の空虚さは増すばかりだった。

 

「……青葉ちゃん」

 

「ん?」

 

「ごめんなさい、私をどうか……一思いに斬り捨てて下さい」

 

「んん!?」

 

 底の無い穴のような瞳で訳のわからなさを加速させる幼馴染に対して驚愕の音が喉から噴き出す。

 

「お願い……誰か無価値な私を……埋めて……お願い……」

 

「ぐっ、ぐんちゃん!?」

 

 両手で顔を隠してうずくまってしまった千景もなにやら錯乱している様子。

 

「僕がひなちゃんを斬るなんてありえないよ! なにがなんでも生きて貰うからね!」

 

「どうしたのぐんちゃん!? お腹痛いの!?」

 

 何を思っての破滅願望的な発言なのかはわからないが両者のその後ろ向きな願いを叶える事は絶対にあり得ない、僕の代わりに誰かがその願いを叶えようとするならば先ずその誰かを僕が斬り捨てるだろう。

 

「トドメを刺してから更に追い討ちを掛けたか、ひっどい双子だな」

 

「なんだと? この訳の解らない状況は私達が原因なのか?」

 

 呆れた様子の球子に難しい表情で問う姉。

 

「この無自覚さがそのまま突き刺さるね」

 

 力を抜いたまま鼻で嘆息する杏。

 

「汚くて……ごめんなさい」

 

「土に埋まって……肥料になって……花になりたい」

 

 何がなんだか未だに解らないが明らかに様子のおかしい幼馴染と千景の様子に鍛練どころではなくなってしまった。

 どうすれば良いのか解らないがひとまずは千景は友奈に任せ、僕は自責の言葉を垂れ流す幼馴染が自信を取り戻せるように言葉を尽くして幼馴染の色んなところを褒めてみよう。

 目を真っ直ぐに合わせて、褒める。

 

「……こんなに一生懸命になってくれる青葉ちゃん達に対して、私はなんて汚れた邪推を……」

 

 悪化した、何故だ。











青葉くん
パパではない、クソガキである。キノコを栽培しようとしたがカビを栽培してしまったので捨てた、ゴミの処分は自治体の定めたルールに従いましょう。なんか死んだっぽい空気にされてる。威力があるだけののろまな体当たりで殺せると思うなよ?最低限上下左右に動きまわってフェイントできる車になってから出直してこい。友奈ちゃんが調達した棒が思いのほか良さそうでこれなら喜んで組手に付き合うよと思ったら幼馴染と千景が錯乱した、組手はおあずけ。

若葉さん
弟が職員室に呼び出されたら真っ先にイタズラを疑う信頼。前科ばかりだもんね、仕方無いよ。なにやら主語の無い会話を耳にしてもまずは「鍛練かな?」って思う程度には脳筋。ふむ、今まで受けるだけだった青葉が攻撃もする試合型式の鍛練をするのはとても気になるぞ、見学希望。

ひなたちゃん
え?何をするんですか?三連続?叩かれないと物足りない?……大事な体!?おもちゃ!?えっ!?まさか!!薄汚れた誤解による勘違いでした。若葉さんの誤解しようがないだろって態度に自らの汚れを直視した気がしてしまった。え?鍛練以外の発想があるのかって?……ふふふ、わたしよごれちゃいました……

タマっち
うん、知ってた。ちょっとタマげたけど結局はこんなパターンなんだよな、間違いない、タマは詳しいんだ。特に意味は無いけど青葉くんを一発殴ると決めた。

杏ちゃん
まさかの14才の母疑惑に対しては鼻息フンスフンスはできなかった、仮にそうだったとしたら色々と大変過ぎるもんね。

友奈ちゃん
ママではない、少女であり勇者である。お腹一杯食べた直後に激しい運動ができる若さ。たまたま知った安全な棒を使えばエセ紳士な青葉くんも組手に付き合ってくれるかもと思って調達してきた。今までいっぱい叩いた、でも本当は対等に叩き合いたかった。叩いて!いっぱい叩いてよ!ウキウキで叩き合おうとしたら横槍入れられた。

千景ちゃん
フリーズしてたら「興味があるの?」って聞かれて再起動、興味無いです(必死)想像したのはどんな玩具だと思ったのかな?『友達』と『友達』が幸せな関係になったのならそれはきっと素敵な事だから頑張って祝福しようと思った。でも違った、安心。身重で勇者のお務めは厄い匂いしかないもんね。来世は価値のある綺麗なモノになりたい。

鷲尾先生
血気盛んな若者達との感性の差違に悩む。変質者の季節だから外出の制限を強めた。ひどい理由だなって思ったけど皆素直に従ってくれてちょっと安心。

格闘術の先生
青葉くんはしっかりと理解させてお互いの認識の齟齬を無くしておかないと絶対にやらかすって思ってる。以前一度やらかして真剣でチャンバラしようとしてたもんね。

ホーミング轢き逃げ車の運転手
爆弾女達の仲間、ノーキルノーアシストで逮捕。取り調べに対して「邪魔をしたクソガキをヤってやった」と自白。だって相手を思い切り跳ね上げた(ように見えた)しボンネットもガッツリへこんでたもんね。

───

セクハラをやらねばならなかった(義務感)

次は勇者を追い詰めて泣かす(不退転の決意)
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