乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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57:過ぎ去る感じの春、もしく刺さる話

 

 突き刺さってはならない場所に、突き刺さってはならないモノが突き刺さった。

 

 ─────

 

 つい先日の乱闘騒ぎによってできた顔の痣が消えてきた頃、散ってくしゅくしゅになってしまった桜の花弁を踏み歩いた先にある丸亀城の道場にて僕は座していた。

 

「せぇいっ!」

 

「はっ!」

 

 前回の戦闘がかなり苛烈だったために大社から言い渡された鍛練の全てを禁止された強制的な休養期間が明け、鍛練を再開した友奈と千景の今まで以上に気合いの籠められた声が道場に響く。『休んでなんかいられないよ、もっと強くならなきゃ』とは休養期間の間そわそわとしていた友奈の談、強くなり続けるバーテックスに対しての危機感と仲間の負傷に対する忌避感が合わさった強い焦燥感が動機となって鍛練へと駆り立てるらしい。『次は、あんな結果になんかさせないわ』とは解禁された鍛練を始める前にかすかに耳で拾った千景の呟き、言葉は静かなものではあったが友奈の普段より強い踏み込みの音に引けを取らない千景の踏み込む足音に並々ならぬ気力を感じる。感じるが、普段の千景の流れを意識した流麗な体捌きがその力みによって崩れてしまっているのではないかと思う。なので、声を掛けて小休止を促してみた。

 

「え、でも……まだ始めたばかりだわ」

 

「ん~、それでも休憩。ほら、こっちきて座って。友奈ちゃんも」

 

「いつになく押しが強いね」

 

「……乃木くん、頑固状態だわ」

 

 やや渋々にも見える二人が僕の横に並んで腰を下ろす。友奈は軽く肩で息をしている程度だが、同じ時間だけ鍛練をしていた千景はハッキリとわかる位には息が荒い、呼吸の乱れが大きいのは間違いなく普段通りの動きが出来てないせいで身体に良くない力の流れができているからだろう。

 

「千景ちゃん、今日は動きがいつもとちがうね。いつもはもっと腰がヒュゥンーでしなやかなのに今日は膝がドスンで肩がひょんってなってるよ」

 

「えぇと……?」

 

「あっ、やっぱり何か違うなって感じたの気のせいじゃなかったんだ。なんだか今日のぐんちゃんは全体的にスヒュゥっじゃなくて若葉ちゃんみたいなキュッに近いよね」

 

「……スヒュゥン……?」

 

 友奈も自らの型稽古をしながらも視界の中にいた千景の動きに違和感を覚えていたらしい、僕と友奈の間では共通の気付きがあったようだが困った顔で首を傾げている千景には上手く伝わらなかったようだ。

 

「そう言う友奈ちゃんも踏み込みがダムッ過ぎて拳がぶれてたんじゃない?」

 

「やっぱりわかっちゃう? バーテックスをやっつけるのにもっと強い一撃が欲しくて踏鳴をおもいっきり強めたらその分拳に威力が乗せれないかなって試してみたんだけど……」

 

 前回の戦いで切り札を使用してもロクにダメージを与える事のできない頑丈なバーテックスが現れ、次回からもそういった頑丈な手合いがまた現れないとも限らないと考えた友奈なりの対策らしい。砕く事ができなかったのなら砕けるようになればいい、実に友奈らしく解りやすい対策法だ。

 

「下半身から上半身の連鎖がズレちゃったんだね、それで上半身を下半身に合わせてみたら次は拳がズレたと」

 

「そう、それ! 踏鳴を強めたら余計な力みのせいで身体の延びがスムーズじゃなくなっちゃった、これじゃあ入れた力が強くても打点がブレるし重さが乗らないから結局は弱くなっちゃうかも」

 

「ん~、もっと脚の前後の幅を伸ばして腰も今より深く落として前のめりになったら安定しないかな?」

 

「それも考えたんだけど……そこまで今までの動きから崩しちゃうと居着いちゃうかなって。動きが柔をなくしてるから隙も大きいし前後の動きに噛み合わないと思うんだ」

 

 どうやら友奈の普段より強い踏み込みの音は技の試行錯誤の途中にあったモノらしいがあまり芳しい手ごたえは無かったようだ。やはり先人が積み上げた武の型を自分の形に練り直すのが難しいのはどの理合も同じなのだろう。

 

「急に言葉がちょっと具体的に……できれば私にも今のみたいなスヒュウとかじゃない指摘が欲しいのだけど……」

 

 困った顔のまま僕と友奈の意見交換が途切れたタイミングで口を開く千景。

 千景もどうやら友奈と同じ考えで頑丈な相手にダメージを与えれる方法を模索していたらしく、それ故にいつもとは違う大鎌の振り方を試してみていたらしい。

 

「ごめんね、ぐんちゃん。私、武器を使う動きは門外だからなんとなくいつもと違うねってしかわかんないや。青葉くんは?」

 

「僕も体捌きの部分ならこんな感じかなってのはなんとなくわかるけど長柄の得物の扱いはあんまりかなぁ、ちっちゃい時に婆ちゃんから薙刀を少しだけ教わったけど基本のきの部分だけだしね」

 

「……そう」

 

 友奈と僕の言葉に困った顔から残念そうな顔に表情を変える千景。

 

「んでもさ、体捌きの部分から見て今日の千景ちゃんの動きに無理な力の流れがあるのはなんとなくわかるよ?」

 

「無理な……力の流れ?」

 

 残念そうな顔から一転して言葉の続きを求めるような興味を示している表情になる千景、友奈も同じく興味がそそられたのか僕の顔をじっと見る。

 

「ん、いつもはしなやかで綺麗な腰なのに今日は力に任せてるせいか右に左にフリフリ揺れてたからね。いつもより息が上がるのが早いのも身体が大鎌の重さに振り回されてるからじゃないかな」

 

「……腰……フリフリ……」

 

「ん、フリフリ。ずっと見てたから間違い無いよ、フリフリ、得物に振り回されるのは良くない動きの証拠だよ」

 

 再度「フリフリ」と消え入りそうな声で呟いた千景が俯いて立てていた両膝の間に顔を隠す。隠れきる前にほんの一瞬だけ見えた頬に朱色が見えたのは得物に振り回された未熟を恥じたのだろうか、指摘されるまで自分で気付けなかったのは僕も自身に置き換えて考えればすごく恥ずかしいかもしれないと納得の念。

 なにやら白けたような友奈の視線が僕に突き刺さる。

 

「道場にいるのに座ってるだけなのは珍しいなって思ってたけどずっとぐんちゃんの腰を見てたんだね」

 

「ちょっと考え事してたら視界に入ったのが気になっちゃって」

 

 道場の引き締まった空気の中でなら思考も回りやすいのではと道場の隅にてずっと座していたのだが、視界に入った二人の型稽古にの様相がいつもと大きく違うのが気になって視線が吸い寄せられてしまったのだ。

 

「もぅ、ぐんちゃんの腰を見てなに考えてたの」

 

「やっぱり無理して新しい動きを取り入れるより持ち味を活かすべきかなって」

 

 先日にやらかした自分よりも体格の優れた大人相手を含めた乱闘騒ぎ、その際にうまく言葉で説明できない意地のような何かが燃え滾ったせいで今まで鍛練で積み上げた一切合切を放り投げて技術なんてない真っ正面からの拳の応酬になってしまったのだが、結果的に僕の顔面はパンダのような痣や噴き出した鼻血で酷い有り様になったのだ。病院にて手当てされたが当然ながらすぐに治る訳も無く、その後寄宿舎に帰れば姉と幼馴染にそれを見咎められてそのままお説教コースだったのである。そんな筋肉に頼りきった結果の苦い記憶やバトルロイヤルの時に姉との戦いで得物の不利を埋めた自身の持ち得る全ての技術を駆使した三次元機動、そして、絶え間ない連撃が得意な友奈と遠心力を最大活用した整った身体の運びに優れた千景が攻撃に更なる威力を求めて本来よりも劣った動きになっているのを見て思ったのである。

 

「腰のフリフリから予想外の答え」

 

「ん、千景ちゃんの持ち味は綺麗な腰のしなやかさだと思うよ」

 

 腰がしなやかだからこそ激しく移動しながらも大鎌という重い得物を振り回す遠心力を制御できるのだろう。力に頼って腰を据え過ぎた動きになるのは勿体無いと思う。

 

「ぐんちゃんの持ち味は腰なんだね」

 

「ん、そーだと思うよ」

 

「……私の腰から……離れて……」

 

 両膝の間に顔を埋めたままうらめしそうな震え声を出す千景。

 

「友奈ちゃんの場合は威力よりもやっぱり隙の無い連擊だよね、バーテックス相手だとどんな感じかはわからないけど人間相手ならある程度の相手なら完封できると思うよ」

 

 テレビやネットで見る格闘技の試合と友奈の日々の鍛練を見比べてれば友奈の技能の高さは容易く窺い知れる。そこいらの同年代相手ならば友奈の連擊に対応できる人はいないだろう、もしかしたら大人相手にだって相性次第で完封できるかもしれない

 

「うーん、持ち味かぁ。一撃必殺は向いてないのかな」

 

「友奈ちゃんは体格的に重い一撃は打ちにくいもんね」

 

 鍛練によって引き締まった肉体を維持してしまう友奈はどれだけ踏ん張って重さを乗せた拳を繰り出しても体重という限界があるのだ、それを越えるには先程の意見のような体重以外の要素として前進する勢いだったり相手の力を利用したカウンター等が必要なのである。

 

「すごくスッゴい必殺技、欲しいなぁ」

 

「一撃で全部解決、僕もそんなのが欲しいよ」

 

 それこそ勇者ではなくてもバーテックスと戦えるほどの必殺技が欲しいと願ってしまうのは無い物ねだりか。願ってしまっている時点で自分以外にすがる弱さの思考なのだろう、無理だと解っていても僕には鍛練を詰む以外に無いのだ。

 

「ぐんちゃんは腰、私は連擊、青葉くんの持ち味はやっぱり身軽さとか反射神経かな?」

 

「ん、多分そうだと思う」

 

 千景の長所、友奈の長所を話した流れで僕の話になったのだろう。隻腕故に四肢の揃った他者と比べて手数や腕力に劣るが僕には他者よりも柔軟で機敏な動きができる自信がある。その長所を捨てて正面からの殴り合いをした結果が先日の酷い有り様な顔面なのだ。

 

「んで、僕なりにその持ち味を活かす方法を考えてたんだ」

 

「ぐんちゃんの腰を見ながら真面目な事考えてたんだね」

 

「私の腰に注目する必要性は……あったのかしら?」

 

 たぶん無い、視線が引き寄せられただけの話だ。

 震え声のままな千景をそのままに友奈が僕に向ける視線で言葉無しに話の続きを促す。

 

「考えた結果、壁を走れる気がした」

 

「ごめん、意味わかんない」

 

「僕もわかんない」

 

 座したまま二人の型稽古をする姿の背景にある道場の頑丈な造りの壁に『蹴っても簡単には壊れないんだろうな』となんとなく思い、直後に『どれくらい頑丈なんだろう』と考え、そこから『かなり頑丈なら踏んでもこわれないだろうな』になり、よく分からない思考の飛び方で『壁の上を走っても壊れないのかな?』になったのだ。壁の上を走るとはどんな現象なのか、無意識に走れる事前提で考えていたという事は僕の肉体は無意識レベルで壁の走り方を知っているのかもしれない。

 

「という訳で試してみようかと」

 

「わぁ、理解が追いつかないや」

 

 試すだけ試してみても損は無いはず、当たって砕けてみるのも一つの鍛練なのかもしれない。

 ちょっと感覚的っぽい雰囲気な僕と友奈の会話を聞いていた千景が閉じ籠もっていた両膝の間から少しだけ顔を出す。

 

「馬鹿と天才は……紙一重?」

 

「ぐんちゃん、青葉くんの場合はお馬鹿さんが凄い事できるかもしれないってだけだよ、紙一重じゃなくて両立してるよ」

 

「ん~、褒めるのと貶すのを同時にされたのかな?」

 

 もしかしたら呆れられたのかもしれない。それはともかく試してみようと立ち上がり小休止中の二人から数歩離れて壁と相対する。背中に二人の視線を感じた。

 

「青葉、いきまーす」

 

「あっ、ホントにやるんだ」

 

 投げ遣りにも聞こえる友奈の声を背中に聞きつつ呼吸を整えて壁へと向かって脚を踏み出して急加速、壁に向かって斜めに駆け寄って衝突寸前まで近付いた所で身体を背後に倒しつつ脚を上げて壁を踏み上がる。

 

「ふんぬっ」

 

 急激な体勢の変化による遠心力、速度を高めたまま壁を踏んだ事による慣性を全身に感じた瞬間に脳内で何かが噛み合った。

 

「っ……そおぉぉい!」

 

 壁を踏んでから二歩目、遠心力を殺さないまま体勢を壁に垂直に整える。三歩目、慣性を身体の重心で捉えて身体を壁に縫い付ける様に壁へ垂直にした身体を壁に寄せる様に進行方向へ倒していく。四歩目、五歩目と重心で捉えた慣性を食い潰すように消費しながら徐々に身体が壁に張り付くような体勢にしつつ脚を前に出せなくなるまで、壁と身体が平行になるまで前進。

 

「……っとと……六歩かぁ、わりと走れた」

 

 そして慣性の影響が無くなれば壁から蹴り離れて床へと着地。意外と走れた事に達成感を覚えつつ意識して作ったドヤ顔で二人のいる方へと振り替える。

 

「うわぁ、壁を連続で蹴るとかじゃなくて普通に走るみたいに走っちゃった」

 

「きっと凄い技能なのでしょうけど……なんだか凄さの方向が迷子な気がするわ」

 

「才能の方向音痴だね」

 

 引かれた、何故だ。

 

「そういえばバトルロイヤルの時も木とか使ってビュンビュン走り回ってたし今更感があるんじゃないかな?」

 

「あっ……確かに似たような事やってたね。若姉さんとの試し合いが楽しかったって記憶のほうが強烈過ぎて忘れてた」

 

 既に似たような事をやってたから無意識下に壁は走れるものと認識していたのかもしれないと合点がいった。

 

「あの時は二人だけ和風ファンタジーな世界になっていたわ」

 

 千景からみた僕達は侍と天狗が対決するアクションゲームみたいな光景だったらしい、どちらが侍でどちらが天狗なのかまでは明言してなかったが推して知るべし。

 

「と、いう訳で」

 

「なぁに?」

「何がどういう訳なのかしら?」

 

 揃えて首をコテンと傾げる友奈と千景、一纏めにされた鮮やかな赤毛と真っ直ぐで艶やかな濡れ羽色がサラリと揺れる。

 

「今更感があったのでステップアップして天井走ってみようかと」

 

 壁を駆け上がって勢いを残したまま天井を踏めばイケる気がしたのだ、試してみても損は無いはず。二人から壁へと再度向き直って息を整える。

 

「訳わからない事言ってるはずなのにわかっちゃうなんて不思議だね」

 

 背中に聞こえるやはり投げ遣りな声を聞き流しつつ最大限の慣性を得るために全力での疾走。先程壁を走った感覚から得たコツとして慣性を最大限活用するためには緩やかに身体を倒すのではなく急激な体勢の変化が必要だという事。

 

「 は 」

 

 肺腑を激しく膨張と収縮させる呼吸で全身を整えつつ一歩目で壁を踏上がり。

 

「 は は 」

 

 二歩目で天井付近の壁に踏ん張り、更に体勢を変化させて床を天井に天井を床に重力に逆らう。

 

「 は はっばぁああっ!」

 

 三歩目で踏んだ天井が抜けた。

 駆け上がった勢いのまま天井の板を突き抜けた下半身、慣性に従って砕氷船のように天井板を割り進む胴体。

 

「ぐえっふ……」

 

 そして、最後に天井板を支えていた梁に胴を強かに打ち付けてくの字に曲がった僕が干された布団のように天井から垂れ下がる。視界に、あんぐりと口を開けてかたまる友奈と千景、床に落ちた天井の破片が虚しく乾いた音を鳴らした。

 

「……痛い」

 

「青葉くんが天井に刺さっちゃった」

 

「……天井の……テケテケ……?」

 

 三者三様に呆然としたまま口からこぼれる言葉。

 腹部を打ち付けた痛みから逃避するように動いた思考が頑丈に造られる道場とはいえ基本的に触れる機会すら稀な天井まで頑丈な造りにする理由が無かったんだろうと天井が抜けた理由に思い至る。

 

「すごく、いたい」

 

 逃避していた思考がじんわりとした熱を感じる腹部によって現実に引き戻される、もしかしたら天井板のささくれた破片によって出血してるかもしれない。

 

「これ、どうしよう」

 

「私にもわからないわ」

 

「取り敢えず床に降りたい、助けて」

 

 逆さまな視界の中にいる逆さまの友奈と千景の困り顔、怪我の確認をするにも散らかした天井の破片を掃除するにもまずは重力に従って地上に帰還せねばならない。しかし、この体勢から下半身を無理矢理引っこ抜いては頭から床に落ちるのは必至なので自分ではどうにもできないのだ。

 

「引っこ抜けばいいのかな?」

 

「それなら……脚立が必要ね」

 

 じんわりとした熱が徐々に腹部の痛みから滑る様に重力の方向へと広がってきた事に腹部の出血を確信しつつ、呆然とした雰囲気からやや呆れた感じの苦笑いになってきた友奈とまた眉尻を下げた困り顔になってしまった千景の助けを待つ。どうすれば良いのかと話していた二人が庭師のおじさんから脚立を借りてこようと話がまとまった頃に道場の戸が開かれた。

 

「ん? んん? 何故青葉が天井から生えてるんだ?」

 

「あ……ら……? 青葉ちゃん、新しい遊びですか?」

 

 現れたのはこれから鍛練するつもりだったのであろう胴着姿の姉といつも鍛練を見学する時にタオルや水筒を入れている手提げ袋を持った幼馴染、二人揃ってぽかんと気の抜けた顔を晒す。

 

「遊びじゃなくて天井走ろうとしたら刺さっちゃったんだ」

 

 多分だけど僕の腹にも木片が刺さってると言ってみるのはブラックジョークの範疇なのだろうか、ジョークの範疇だったとしてもネタにするには最近の出来事にヘビーでデリケートな事柄があったので黙っておく。

 

「ん? んん? んんんん? つまり……なんだ?」

 

「天井青葉ちゃんですね」

 

 理解が追い付かなかったらしき姉が大きく首を傾げ、理解する事を放棄したらしき幼馴染が手提げ袋からデジカメを取り出して僕にレンズを向ける。

 

「まぁ、そうなるよね。訳わかんないもんね」

 

「一部始終を見ていた私達も……よくわからない状況だから仕方無いわ」

 

「そうなのか。青葉がよくわからない事をやらかしてしまうのは今に始まった事ではないしな、青葉が天井に突き刺さっている事実だけを飲み込めばいいのか」

 

「青葉ちゃん、撮りますよー」

 

「いえ~い、助けて~」

 

 友奈と千景の説明になっているのか微妙なラインの言葉に姉が納得したのか姉が何度か頷き、幼馴染がニコニコと楽しそうにシャッターを切る。

 

「うむ、うむ、よくわからないが刺さった青葉が助けを求めているのはわかった、引っこ抜けばいいのか?」

 

 言いながら天井にいる僕の真下へと来た姉が腕を前後に振って勢いをつけながらぐいとバネを押し縮める様にしゃがむ。もしかしなくても僕に飛び付いて体重を利用して引っこ抜くつもりなのだろう。

 

「待って、無理にしたら──」

 

「ん?」

 

 ささくれた木板に触れている腹の肉が裂けると、止める間もなくその場から跳ねとんで上下逆さまな僕の肩を掴む姉。手遅れか。

 

「ひぎぃ」

 

 自分の口から出た間抜けな悲鳴。姉の飛び付いた反動によってズルリと天井から引き抜かれて下半身の複数箇所を一斉にささくれた木に引っ掻かれる。けっこう痛い。

 

「ぬぐっ、重っ……」

 

 そして、重力方向に対して正しい姿勢で着地した姉の肩に逆さまの姿勢のまま首で着地する僕、呻くような姉の声が微かに耳を打つ。直後に後ろへと流れていく景色、僕が肩に着地した衝撃を流そうと姉が反射的に背後に倒れるように身を屈めたのだろう。

 

「んげふっ」

 

 勢いのままに背中で地上へと帰還し、なんとか受け身をとれたものの全身に駆け巡る衝撃が肺から空気を押し出して喉を鳴らす。

 

「天井からの雪崩式ブレーンバスター、痛そう」

 

「それって……?」

 

「プロレス技だよ」

 

「レスラー若葉ちゃんとレスラー青葉ちゃんですね」

 

 痛みと衝撃に悶える僕と姉をよそにほのぼのと解説する友奈と微妙に反応に困ったように「プロレス」とだけ呟いた千景。幼馴染がやはり楽しそうにシャッターを切り続ける。

 

「少し失敗してしまったか、青葉、無事か?」

 

「…………ん」

 

 悶絶しつつ出血しているだろう箇所の腹部に手のひらを当てて確認すればほんの僅かにだけ手が赤く染まる。負傷そのものは大したモノではなかったらしい、これなら絆創膏でも貼っておけば忘れた頃には完治しているだろう。

 治まってきた落下の痛みに悶絶を辞め、これから散らかした天井の破片を掃除しなければならない事を面倒くさく思いながらもなんとなく視線を向けた窓の景色、緑色の面積を増やし始めた桜の樹が見える窓の景色に映り混む黒いヒトガタがなんとなく呆れてるような雰囲気に見えたのは多分気のせいだろう。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
お馬鹿さんに才能を与えた結果壁を走った。壁を走れても必殺技にはなりません、星屑にすら傷一つ与えることのできない忍じ…居合剣士。NINJAではないサムルァーイである。ぐんちゃんの腰に視線を吸い寄せられた。お腹痛かったけど軽傷。皆が見てる前で姉に抜かれた。

若葉さん
さて、鍛練しようかなと道場に行ったら弟が天井に突き刺さってた、なぁんだこれぇ?ちょっと考えてもわからなかったので思考放棄。弟に求められたので皆が見てる前で弟を抜いた。

ひなたちゃん
鍛練若葉ちゃんともしかしたらいるかもしれない鍛練青葉ちゃんを撮影しようと見学しにきたら天井青葉ちゃんだった。考える前から思考放棄、理解する事を諦めることに慣れてる。幼馴染(姉)が幼馴染(弟)を抜く所を連写した、パラパラ漫画のように記録されたブレーンバスター。

友奈ちゃん
敵が強くなる一方だから焦燥感に駆られる勇者。求めたのは必殺技、しかし友奈ちゃんの格闘スタイルは隙の無い連擊が持ち味なので強烈な一撃とは少し相性が悪かった。重い一撃が欲しいなら一番の近道は太る事、重さはパワーやで!もしかしたら力士体型奈ちゃんが誕生するフラグかもしれない。え?おデブさんは嫌?ならば切り札しかないね。プロレス好き、元気があればなんでもできる!ダーッ!

千景ちゃん
切り札使えば隙だらけの必殺技だろうが反撃を恐れずに連続でブッぱなせる、半不死身の強み。しかし、必殺技なんて無かった。強力な一撃を求めて色々試してみた、参考にしたのは"強い人"だった。腰をフリフリ、大鎌に振り回されてフリフリ、パワースタイルは向いて無かった。なんかよくわからないけど素早い上半身、こんなのホラーゲームで見たわ。

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誤字報告ありがとうございます。
元祖丸亀鉄筋姉弟(小声)
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