乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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59:勇者な感じの巫女、もしくは縁の話

 

「おっ? その不審者ファッション気に入ってんのか?」

 

「ん、ちょっと闇っぽい雰囲気だしたらハードボイルドな感じになるかなって思ってさ」

 

「闇っつーか病みだな、街中でいきなり刃物もって暴れだしそうな雰囲気だ。失うものは何も無いような無敵系のヤベー奴っぽい」

 

 とは背中の傷がある程度塞がってきたのでまだ抜糸はしていないものの退院した球子との会話である。

 重傷だったために未だ入院している杏のお見舞いに行こうとしていた球子に随伴するために街中を歩いても目立たないように金髪を隠すための帽子を被り、隻腕を誤魔化すために手袋をぶら下げてる例の姿が球子には面白いモノに見えたらしい。

 

「変かな?」

 

「いや、別に。パッと見て中二なのかって感じなだけで変過ぎるとは感じないな」

 

 中二ではない、中三である。

 球子が言うには目深に被った帽子で顔を見えにくくしてるのが顔を隠さなければならない事情のあるヤベー奴感と人との接し方がわからないから雰囲気で『俺に関わるな』とバリアを張ってる感を醸し出し、偽装のためにぶら下げた片方だけの手袋が何かを勘違いした年頃の謎ファッション感を垂れ流しているらしい。それらが合わさって失うものは何も無い系のヤベー奴っぽい仕上がりだとか。

 

「失いたくないものはあるよ?」

 

「知ってる」

 

 言葉短かに言いながらやれやれと笑う球子、隣を歩きながら何やら訳知り顔で僕の背中をぺちぺちと叩いた。

 

「ハードボイルドがどうとか言うけどさ」

 

「ん?」

 

「タマが思うにヒゲが足りない」

 

「ん~、それは僕も思ってた」

 

 しかし、僕には未だヒゲが生えてこないので泣く泣くツルリとした顎をそのままにしている。生えてる物を剃る事はできても無いものをいきなり生やす事はできないのだ。

 

「あと目付きだな、目付きから力が抜けてるからそれっぽさが無い」

 

「目付きに力かぁ、こうかな?」

 

 ちょっと頑張って顔に力を入れてみる、僕の顔を覗き込んだ球子が「ほぅ」と息を漏らした。

 

「努力は認める、でもやっぱりふやけた若葉みたいな顔にしかならんな」

 

「双子だからどう足掻いても似ちゃう……ふやけた?」

 

 ニシシと笑う球子、歩幅を合わせて歩いていたから気づいたのだが歩く速度がいつもよりやや遅い、普段のように軽口を交わしながら笑っていても背中の傷が突っ張って痛むのだろうか。

 

「おっと、そのままの顔をキープな。今タマの脳内で青葉の顔にヒゲを合成してる」

 

「ん、ハードボイルドなヒゲを頼むよ」

 

 僕の正面に立って後ろ向きに歩きつつ、むむむと唸りながら僕の顔を見続ける球子。

 

「……致命的にヒゲ似合わねぇ」

 

「まじか、命に関わるほど似合わないんだ……」

 

「ヒゲは諦めろ、ついでにどうやってもふやける目付きも諦めろ」

 

 顔面のほとんどを諦めなければならないのか。

 

「青葉のぽやぽやツラはハードボイルドに向いてないな、どうしてもってんならサングラスとマスクで隠すべきかもしれん」

 

「帽子……サングラス……マスク……そこに一欠片でも僕の顔が残ってるのかな?」

 

「いいや、何も残らない。そこにいるのはハードボイルドを求めた結果顔を捨てる事になった悲しい変質者だ」

 

「なんてこった、ひどい話だね」

 

 他愛無い話に珍しくオチがついた時、背後からかすかに噴き出して小さく笑う声を聞いたので振り返る。そこにいたのは以前カフェでいかに勇者の皆が素晴らしいかと熱く語った眼鏡女。

 

「こんにちは、久しぶりですね」

 

 僕と球子の後ろに人が歩いているのは気付いていたが、一定の距離から近付いてはこない上に足音を誤魔化そうとしている様子も感じなかったので捨て置いたのだが、知ってる人だとは思わなかったので少々驚きながらも挨拶。

 

「こんにち……ふふっ……すいません、盗み聞きするつもりは無かったんですが耳に入ってしまって」

 

「? ……あっ、前になんか演説してた人か」

 

 挨拶を交わす僕と眼鏡女を交互に見て一度だけ小首を傾げた球子が眼鏡女の事を思い出したらしい。

 

「ずっと後ろにいたのは貴女だったんですね、声を掛けてくれれば良かったのに」

 

「さらっと後頭部に目玉がついてるかのような発言だな」

 

 別に見えてはいない、気配と足音でわかるだろうに。

 

「いえ、土居様の事には気付いていたのですが……貴方の事はてっきり禍々しい不審者が土居様に絡んでると思ってどうするべきかずっと迷ってたんですよ」

 

「なんと」

 

「ぶはっ! やっぱ不審者に見えるのか!」

 

 眼鏡女の発言がツボに入ってしまったらしき球子が口を大きく開けて笑い出す。そして、少し後にピンと体を強張らせた、きっと笑いすぎて背中の傷が突っ張ったのだろう。そんな球子の様子に勇者の熱烈なファンを自称する眼鏡女が異変を察していぶかしむ。

 

「土居様?」

 

「いや、ちょっと突っ張っただけだから気にしないで下さい」

 

「? そうなんですか」

 

 どんな、何が、とは詳しい事は言わずにぼかして答える球子。四国のこれからを左右する自分達が負傷した事を言わないのは球子なりに色んな人を不安にさせないようにしているのだろう。球子はやんちゃな部分が目立つが実はとても周りの人に気を配る女の子だから間違いないはず。

 ほんの一瞬だけ神経質そうな顔をキョトンとさせた眼鏡女が神経質そうな真顔に戻して僕と目を合わせる。

 

「突然ですが」

 

「ん?」

 

「最近何か困った事はありませんか?」

 

 バーテックスなる化物が人類を攻撃してきて困ってます、というのは違うか。どんな意図のある質問なのだろうか?

 

「例えば目を離した隙にひとりでに物が動いてたり自分以外に動く物が無いはずなのに物音がしたりとか」

 

「え? なんですかそれ、ホラー?」

 

「お姉さん、こいつスピリチュアルでオカルトな壷とか買うだけのお小遣い持って無いですよ」

 

 球子の言葉に神経質そうな顔を困ったように歪めた眼鏡女が「詐欺とかじゃなくてですね」と前置きして言葉を続ける。

 

「その、なんと言いますか、説明に困りますね」

 

「スピリチュアルでオカルトな事なら大社関係で間に合ってますよ?」

 

「……そうですか、そうですよね。すいません、忘れて下さい」

 

 大社の名前を出すと大人しく引き下がる眼鏡女。直後に球子が若干震える声で言葉を搾り出した。

 

「大社で間に合ってるって……マジでそういうのなんかあるのか? もしかして丸亀城でも何か……?」

 

「ん? 神樹様のスピリチュアルな加護で勇者やってるタマっちが今更何を言ってるの?」

 

「そういやそうだった。タマ、スピリチュアルでファンタジーにどっぷり浸かってんじゃん」

 

 眼を丸くした球子に僕と眼鏡女が軽く笑って球子も続けて笑う。こんな感じでひとしきり和んだ後に「あぁ、そうだ」と思い付いたように口を開いて前置く。

 

「これを受け取って貰えますか?」

 

 渡されたのは手のひらに収まるサイズの小さな紙のカード。堅苦しいフォントで社名やら女性的な人物名、連絡先などが表記されている。

 

「えーと、名刺?」

 

「はい、その名刺は以前の職場のものですが書いてある私個人の連絡先は変わってないので……偶然逢うのもこれで三度目ですし、縁というものを大事にする質ですので正規な連絡先の交換をしたいと思いまして」

 

 神経質そうな顔で穏やかに微笑む眼鏡女。人と人との繋がりを大事にするのは良い事だとかつて祖母も言っていたし連絡先を交換するのはやぶさかではないのだが、名刺を貰うという生涯初の出来事に少なからず戸惑ってしまう。

 

「んー、僕名刺持ってないや」

 

「名刺持ってる中学生って逆に何者だよ、青葉が今その連絡先に電話してやれば履歴残せるだろ」

 

「たしかに」

 

 呆れた様子の球子のアドバイスにしたがって手元の名刺に記された電話番号を暗記してスマホを取り出す。

 

「ところでお姉さん」

 

「はい、なんですか土居様」

 

「これって逆ナンってやつですか?」

 

「逆ナンしてもよろしいのですか?」

 

「……やめといた方が良いと思う、色んな意味で」

 

「私もそのように思います」

 

 スマホの操作をしている内になにやら遠回しにけなされた気がするが、スマホの画面にある発信のボタンをタップして数秒後に眼鏡女がどこかに持っている端末が着信音を鳴らす。

 

「やったぜ、おとなのおねーさんの連絡先をげっとだ」

 

 女性陣の談笑に乗っかる感じですやや軟派っぽい発言をしてみる。

 

「軟派なのも似合わないな、ハードボイルドも似合わないし青葉はもうどうしようもないかもしれない」

 

「まじか」

 

「マジだ、諦めろ」

 

 どうしようもないならどうする事もできないのでありのままでいるべきなのだろうか。

 そんな僕と球子のやり取りを見て神経質そうな顔でにこやかに笑う眼鏡女と別れて杏の入院している病院へと再度歩みを進める。

 

「いつの間にあの眼鏡ネーチャンと仲良くなったんだ?」

 

「んー、仲良くって言うか一緒にカフェでコーヒー飲んでお喋りしたってだけだよ?」

 

「マジか、予想してたよりもずっと仲良くなってそうだな」

 

 歩きながらの雑談にて聞かれた事に答えを返せばなにやら戦慄する球子。

 

「ヤベー奴疑惑の変な不良やら打ち合わせ無しでクロスボンバー合わせれる動けるイケメンとかアメリカンな女の子だの、更には面倒くさそうな活動してるネーチャンだのって青葉の交遊関係はどうなってんだ?」

 

「気付いたらこうなってた、人と人との繋がりって不思議なモノだって婆ちゃんも言ってたしそういうモノなんじゃないかな」

 

「そーいうもんかー」

 

 納得したのかしてないのかなんとなくただ頷いただけに見える球子。雑談ながらに歩いた先に見えた病院、その敷地に踏み込んで建物の入口へと向かっている最中に僕と球子が進んできた道とは違う道、病院の駐車場から続く道に見覚えのある大小二人分の人影が有るのに気付く。

 

「ねぇ、タマっち。あれって……」

 

「あん? ……あっ、安芸ねーちゃんじゃん」

 

 人影に気付いてなかった球子に呼び掛けつつ人影に指差せば球子の驚く声。向こうも僕達二人に気付いたようで大小二人の内大きい方の人影であった安芸がこちらに向かって手を振り、安芸が居るところにはセットで現れる小さな方の人影がこちらに向かって走ってくるのが見える。

 

「ちんまいのは知らない子だな、青葉は知ってるのか?」

 

「ん、鷲尾先生の娘さんでひなちゃんや安芸ちゃんとおんなじ巫女だよ」

 

「へー……え? まじか、似てねぇな」

 

 相も変わらず元気な動きな鷲尾の事を知らなかったらしい球子がかつて僕も抱いたのと同じ感想を口にするのを聞きつつ、僕に視線を合わせて砲弾のように突き進んでくる鷲尾に対して今までに何度かやられた"どーん"だと予想をつけて受け止めるために手を広げて待ち構える。

 

「はらいたまい──」

 

「ん?」

 

 真っ直ぐに突撃してくるのかと思いきや衝突する直前でガクリと体勢を落として一瞬だけ力を溜める挙動を挟む鷲尾。

 

「──きよめたまえっ!」

 

「おごっ……」

 

 とても低い位置からロケットの如く放たれる鷲尾の頭突き、走った勢いと両足で踏ん張って全身を伸ばす力を無駄無く乗せきったそれが僕の丁度良すぎる高さにあった股間に捩じ込まれる。

 

「……お゛っ……ぅおぅ……」

 

 大人の嗜みである収納術を覚えてなければ僕は即死だったのだろう、子孫繁栄の双玉は辛うじて護る事はできたが最近成長してきた気がする子孫繁栄の宝剣に直撃した衝撃と痛みに全身から力が抜けていく。

 

「うわぁ……」

 

 ドン引きしている球子がこぼした声を辛うじて認識しつつその場に崩れ落ちる。

 

「……んぉぉ……鷲尾ちゃん……なんで……?」

 

 何故に前触れ無く金的なのか、暴力に訴えられるほどの悪い事を鷲尾にした覚えがないので痛みから少しでも意識をそらそうと悶えつつ搾り出した声で訊ねる。

 

「あっ、やっぱりにーちゃんだったんだ」

 

 僕じゃない可能性も考えた上での金的ロケット頭突きだったのか、なおさら意味がわからない。

 

「ちっちゃい勇者のねーちゃんになんかダメなやつがちょっかいかけてるのかもと思った」

 

「ちんまいのにちっちゃい言われた」

 

「ちょっ! 鷲尾ちゃん、それヤバいやつ!」

 

 なんかダメなやつとは──この変装ついでにハードボイルドを探求した闇っぽい服装が原因か。

 自分より小さい相手にちっちゃいと言われて素でショックを受けてる球子の声に続いて慌ただしい足音を鳴らして駆けてきた安芸が酷く慌てた声を放つ。

 

「乃木君、 大丈夫なの!?」

 

「たまは……ぶじ」

 

「タマは無事だぞ、心配すんな」

 

 とても投げ遣りなタマの声。

 

「そうじゃない……ぼくのたまの……こと」

 

「誰がお前のか」

 

「ねぇ球子、わりとこれふざけてる場合じゃ無いと思うよ、男子の股間はまずいって」

 

 恐らくは解っててズレた発言をしている球子を諌める真面目な声色の安芸。

 

「本人が無事だって言ってるから大丈夫」

 

「えぇ……そういうもんなの?」

 

 断言する球子に困惑する安芸。

 

「とーちゃんに教えて貰った必殺技が必殺じゃない……?」

 

 鷲尾先生、娘に何を教えてるんですか。

 

「……でも……」

 

「え、なに? やっぱなんかヤバいの?」

 

「たまは……収納したから無事だけど……棒がやばい……」

 

「やっぱりヤバいんだ、どうしよ……え? 収納できるものなの?」

 

「出た、青葉の謎技術」

 

 慌てていた様子から激しい困惑にガラリと変わった安芸に続く信頼さえ感じる球子のやれやれといった声。

 

「ぼくの相棒……潰れてない……? 痛くて……自分じゃ確認できない」

 

 感覚的に玉の無事は解るのだが股間にぶら下がる激痛の塊に最悪の事態が脳裏をよぎる。触って確認するにも痛みで触れないし目視で確認するにも脱力した体ではズボンを下ろすこともままならない。

 

「タマは潰れてない……いや、このボケはしつこいか」

 

「確認するにもどうすればいいのかわからないんだけど」

 

「……それ」

 

「オフッ!!」

 

 僕の苦痛など知ったものかとボケ倒そうとする球子と困惑のまま困った声を出す安芸、直後に鷲尾が軽い感じの掛け声を出した直後に激痛の塊が爆発した。

 

「ちゃんとついてるぞにーちゃん」 

 

 鷲尾なりの善意だったのだろう、だがそれは僕にとっての追い討ちで死体蹴りだ。

 

「うわぁ、ズボン越しだとしても普通に触って確めやがった。勇者より勇者やってるなこの巫女」

 

「鷲尾ちゃん、後でちゃんと手を洗うんだよ」

 

「? とーちゃんは男なら皆ここは自分の手より清潔にしてるって言ってたよ」

 

 爆発した痛みに身を丸めてしばらく動けなくなり、痛みが引いてきた頃に自分でも確認したがたしかに僕の股間は無事だった。

 

「勇者よりも勇者な巫女、青葉の交遊関係はほんと意味わかんねーな」

 

 そんな球子の呟きが虚しく春風に流された後、僕達と同じく杏のお見舞いに来たと言う巫女二人と共に賑やかなお見舞いをしたのである。

 

 

 ─────

 

 

「坊主、ちょっと詰所来い」

 

 とは、お見舞いを済ませた僕と球子が大社の車で送り迎えして貰っていた巫女二人と運転手の好意で丸亀城まで送って貰った直後、敷地の入口にて待ち構えていた格闘術の先生に止められて言われた言葉だ。その普段の軽薄な態度とは違った真面目な態度に隣を歩いていた球子が僕へ半目の視線を向ける。

 

「あんちゃん先生がマジメっぽいって……青葉はまたなんかやらかしたのか、タマは先に寄宿舎に帰るからな」

 

「え~、弁護してよ」

 

「何をやらかしたのかわかんないのに弁護なんてできねーぞ」

 

 平然と僕を見捨てて寄宿舎へとゆっくり歩いて行く球子。

 この格闘術の先生の要件に当たりをつけるならば外出を制限されていたのに変装しているとはいえそれを破って堂々と外出していた事についてだろう、負傷で動きの鈍っている球子を至近距離で護衛するためという言い訳は通用するだろうかとの微かな希望を抱きつつ警備の詰所へと向かう。

 

「この資料に全部目ぇ通せ、完全に記憶しろ」

 

 ほどほど程度のお説教で済ませて欲しいなと思いつつ詰所に呼ばれた時にいつも座るお馴染みの椅子に腰掛けたと同じくして乱雑に手渡された紙の束、顔写真やら被写体の写し方から見て街中の防犯カメラ等の静止画や人物名が多数記載されている。

 

「なにこれ?」

 

 てっきりお説教からのげんこつコンボだと思っていたので想定外な事の運びについ質問する。

 

「例のカルト集団に関係してる疑いのある奴等、疑いが濃い順にまとめてある」

 

「まじか」

 

 外出禁止を言い渡された日から大社と警察の全力捜査により浮かんできたほぼ確定の危険人物からちょっと疑わしいって程度の人物までを纏めてあるらしい、かつて僕を轢き逃げしようとした車やら轢き逃げ犯を起点に様々な方法で調べた結果との事。

 

「覚えてどうすればいいの?」

 

 覚えさせられるからには何かしらの目的が有るのだろうと資料に眼を通しつつ訊ねる。

 

「コイツらが勇者の嬢ちゃん達に近付いてきたら迷わず叩きのめせ。間違ってても構わん、勇者の安全を最優先だ」

 

「わぉ」

 

 まさかの攻撃許可だった。しかし、外出の禁止をされてる僕がどうやって皆に近付く危険人物に攻撃しろと言うのか。もしや、丸亀城の敷地内にコイツらが侵入してくる事を視野に含めた指示なのだろうかと疑問が浮かんだので更に訊ねる。

 

「平然と外出制限無視しといて何言ってんだ、どうせ言う事聞かずに勇者達とあちこち歩き回るんならもう利用しまくってやるからな」

 

「ん、お役目承ったよ」

 

 やや語気を荒らげる格闘術の先生に対して資料から眼を離さないままに答える。意図は理解した、ならば行動するのみ。まずはこの資料を一文字残らず記憶して記載された顔の全てと判明してる名前を脳内で一致させなければ。

 

「……予想してはいたがホント躊躇わねぇな」

 

「躊躇えば死ぬのは元旦の爆弾騒ぎで学んだからね」

 

 あのテロ事件の際、僕も格闘術の先生も一切の躊躇が無かったからこそ爆弾魔達に先手を許す事無くその場にいた全ての人が無傷で事を済ませる事ができたのだ。もしも躊躇の果てに爆弾魔達がその手に握っていたスイッチを起動させていればきっと悲惨な事態になっていただろう。なればこそ、ほんのわずかな保険的な意味かも知れなくとも格闘術の先生が僕に武を行使する許可を与えて言い渡した"お役目"に躊躇する理由が無い。

 

「ねぇ、せんせー」

 

「……なんだよ」

 

 資料を捲りながら何故か沈んだ雰囲気を感じ取れる格闘術の先生への質問を増やす。

 

「危険人物だって解ってるのになんでまだ捕まえないの?」

 

「その他にも判明してないヤベー奴がいたら更に上手く隠れられる事になるからな、確実に一網打尽にできるまで下手な手出しはできねぇんだよ」

 

「なるほど」

 

 今解ってる危険を絶やしても残るかもしれない危険が不意討ちしてくる可能性があるのか、僕の視野が狭かったらしい。ちなみに、今解ってる危険人物は大社と警察がある程度の監視をしていて何かしらの動きがあれば察知できるようにしているらしい。

 資料を捲りながらもう一度口を開く。

 

「ねぇ、せんせー」

 

「なんだ」

 

 やはり、あまり機嫌がよろしくは無いらしい格闘術の先生の声色。

 

「僕はこの通り賢くないからさ」

 

「知ってるけどそれがなんだってんだ」

 

「僕の事、上手く使ってよね」

 

「…………」

 

「必要なら何処までもやってみせるから、護りたいんだ」

 

 姉を、幼馴染を、皆を。

 濁流に挑む枯葉でもかまわない、無力で非力でも何かをせずにはいられない、この"お役目"に心が滾る。

 

「…………」

 

「せんせー?」

 

 言葉を途切れさせた事に違和感を感じ、資料に向けていた視線を格闘術の先生に向けると椅子の背もたれにだらしなく体を預けて天井を仰ぐ格闘術の先生の姿、姿勢故にその顔がどんな表情をしているのかが解らない。

 

「……そうかよ」

 

「そーなのさ」

 

 視線を手元の資料に戻して次の頁を記憶するために捲る。記憶、次の頁、記憶、次の頁と無言の空間の中で何度も繰り返す。

 フリーター、学生、四国の外から来た避難民、僕と年齢の変わらない中学生、年齢や職業に一貫性は無いが、資料に記載されている人物のほとんどが女性なのは爆弾騒ぎで逮捕されたハゲ女の『天の神様から神託を受けた巫女』とのたまった証言が関係しているのだろうか。資料の束の後ろの方に記載された神経質そうな顔の眼鏡女の写真を見つつ余計な推測に逸れてしまいそうになった思考を戻して記憶する事に集中した。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
失いたくないモノがそれなりに在る系のヤベー奴。失う位ならば赤く染めて赤く染まる。必要なら苦手な暗記も頑張れる、脳ミソフル回転の結果短時間で資料を暗記した。勉強もそれくらい頑張れれば姉の気苦労も減るのにね。発狂寸前な宝剣の痛みに血迷って「ズボン脱がせて」とか「僕のち◯こ見て」と言わない位には羞恥心があった。

タマっち
傷がほとんど塞がったので退院、でも杏ちゃんのお見舞いでほぼ毎日病院へ。傷口が開くから激しい運動は厳禁。背中がつっぱるので歩くのもちょっと遅い、自分の歩みが遅いのを自覚してから気付いたアッパラパーな男子が実はいつも歩調を合わせて歩いていたという事、体格差で歩幅が違うのです。へー、2タマポイントくれてやるよ。悶絶してても多分無事だと思う謎の信頼。

安芸さん
弟(天恐で入院中)がいるので男子の股間は防御力が低い事を知っていた。青葉くんが崩れ落ちたのを見てクリティカルヒットしたのだと察した。は?収納?なにそれ。杏ちゃんのお見舞いに来た、当然の如く鷲尾ちゃんがついてきた。

鷲尾ちゃん
あんまり関わり無かったけど顔は知ってたちっちゃい勇者のねーちゃんの隣になんかダメな奴がいたように見えた。とりあえず善意で「めっ!」した。「滅っ!」でもあるかもしれない。とーちゃん曰く、ちんこ狙え。鷲尾流緊急回避術、逃げられない時は積極的にちんこ。

杏ちゃん
入院生活に慣れてる。タマっちが退院してもほぼ毎日お見舞いにくるから賑やか、今日はとても賑やか。え?鷲尾先生の娘さん?似てない……かわいいねぇ。

眼鏡女
逆ナン?いいえ、人との縁は大事にする質らしいです。渡した名刺は以前の職場の物、故郷への未練故に捨てるに捨てれずになんとなく持ち歩いてた。

格闘術の先生
開き直って青葉くんを戦力に数えた、だって青葉くん言い付け破って勇者の傍らに侍り続けるんだもん。ほんのわずかな保険程度の考えではない、人の悪意から少女達を守る重要な要素だと思ってる。かつてヒーローを目指した自分が守るべき子供を利用する事に自己嫌悪、開き直ったけどやっぱダメだった。使い方を絶対間違えてはならない。
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