乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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65:愛された感じの少女、もしくは嘘の話

 

 姉の申請により実施された精密検査、皆に科学的観点では肉体的な異常は無いとの結果が出た。それは喜ぶべき事ではあるのだろう。しかし、それは科学では観測、数値化する事のできない部分でなにかが皆に影響を与えている可能性があるかもしれないという事でもある。

 

「なんか違和感あるってのは言われてみりゃそうかもしれないな、たしかに最近のあんずはリアクションが大きい気がする」

 

「タマっち先輩のぼんやりも増えたもんね」

 

「少なくとも最も私達に近しい人間である青葉が皆にナニかを感じているのだ、きっとナニかがあるのだろうと私は思う」

 

「乃木くんが言うなら……そうなのかもしれないわね」

 

 と、このように皆も言われてみればたしかにそうだと思う程度には違和感に憶えがあったらしく、体の不調では無いのなら思い当たるのはアレしか無いと共通の予想をしていた。

 

 穢れ。

 

 厳密に言えば言葉を間違えていると大社の神官は言うらしいが、解りやすいイメージ的な表現としてそう呼称されている概念的なナニか。それがとうとう皆に影響を与え始めているのではないかとの意見に至っている。

 

「文献や伝承、占事などと研究を尽くしていますが穢れについては正直な所確固たる理解が及んでいる訳ではありません」

 

 とは穢れについて改めて考えた僕達がこれについて知っている事が少ないと自覚し、それならばもっと詳しく知っておくべきだと丸亀城に来て貰った大社の神官から説明を受けた時の言葉だ。神官はこの言葉を冒頭に現段階で解っている事だけを説明してくれた。

 一つ、霊的な存在を肉体に降ろし、そして離れていった時に残った残り香のようなもので、それがどんなに小さく薄くても分け御霊のように大元の存在と同一の性質を持つ。

 一つ、数値や法則に当て嵌めれる存在ではなく、誰かや何かに対して"こう"だったから他の誰かや何かに対しても"こう"なるとは限らない。

 一つ、それらは悪意が有って悪い影響を及ぼすのではなく、一つの肉体に本人の魂以外の高位な霊的存在が憑いてしまってるが故に副作用的に影響が出ている。本来は勇者達に対して協力的だからこそその身に降ろせる。

 

「そしてなにより、たしかにそこにあるであろう存在とは言えどもやはり概念的な存在、おおらかな気持ちで気にし過ぎないでいられるのならば影響を受けていたとしても気付かないなんて事もあるでしょう」

 

 ほんの一瞬だけ僕へと視線を経由させて姉を見ながらそう締め括った神官の言葉に入院中でこの場にはいない友奈以外の視線が姉に集まる。

 

「ん? なんで皆私を見るんだ?」

 

「なるほどな、野武士メンタルならお化けも怖くないってことか」

 

 きょとんとした表情で皆を見回す姉に球子が納得したように頷く。

 

「若葉さんは常にいつも通りだもんね、やっぱり常在戦場の心構えの効果なのかな?」

 

「通常営業若葉ちゃんです」

 

「推測が多いに含まれますが、恐らくはそのように思われます」

 

 またもほんの一瞬だけ僕に視線を経由させつつ皆の予測に対して後押しするように賛同する神官、その言葉に皆がやっぱりなと言わんばかりの雰囲気を纏う。もしや、この神官は姉と僕の形代という繋がりを知っていて、それが露見しないようにフォローしてくれているのだろうか。

 

「若葉の野武士メンタルは頑丈だもんな。この心配性のヘタレなんかやっこさんどもの襲撃の度にこれでもかってほどのヘタレ顔してるってのに若葉はピンピンしてやがる」

 

 僕の背中を乱雑に叩いて笑う球子、この話題には複数の意味で触れて欲しく無い。

 

「わりと大事なこと聞き忘れてたんですけど、溜まった穢れを無くす事はできないんですか?」

 

「うむ、たしかにそれは是非に聞いておきたいな」

 

「わかりません、現在調査中です」

 

 話題を逸らすために神官へ向けて出した質問、半ば苦し紛れに出た言葉ではあるが、もしもそんな方法があるのならば聞いておきたい。この質問に姉も興味を示し、皆もつられたのか全員の視線が神官に向けられたと同時にきっぱりと突き放すような返答。

 神官以外のこの場全員がえも言われぬ微妙な表情を見せた。

 

「それじゃあ、どれぐらい溜まっているかの判断とか……そもそも溜まっているかどうかの判断方法は有りますか?」

 

「わかりません、現在調査中です」

 

 杏が気を取り直したように別の質問を神官にぶつけてみるが焼き増しの返答。えも言われぬ雰囲気がえも言われぬ表情をした皆を包み込む。

 

「えぇ……」

 

「それじゃあ、最近の皆の違和感は本当に穢れの影響なのかって事もわからないんじゃ……?」

 

「そうですね」

 

 困惑を隠さない杏の漏れ出たような声に続いた千景の疑問、それを肯定した神官に球子が呆れたように半目を向けた。

 

「結局、タマ達が使った切札の穢れがどうなってるのか確実な事は誰にもわからんって事か」

 

「そうなりますね。勇者様方はいわゆる思春期でお年頃という時期でもありますし、穢れ云々が関係のないお悩みなどでちょっといつもと違うなんて事も有り得ますしね。あっはっはっはっ!」

 

 かしこまった口調ながらも投げ遣りに笑い出す神官、わざわざ来て貰っておいてなんだがこの神官肝心な部分で役に立たないな。

 

「……と、このように私達大社は、いえ、人類は神秘という不定形の存在に対してまだまだ無知なのです。もしかすると穢れについては実際に体験している、あるいは体験するであろう勇者様方の方が詳しくなりうるでしょう」

 

 ひとしきり笑った後に真面目な雰囲気を取り繕って話し始める神官、白けた視線を皆から向けられつつも一度言葉を区切って更に話を続ける。

 

「勇者様方が"こうだ"と思ったものを信じて下さい。そして、できうる限りそれを伝承して下さい。それこそが人類が神秘を知る手段なのです」

 

「真面目に締め括ったけど要はタマ達が体張って穢れを調べろって事じゃん」

 

「そうですね」

 

「モルモットみたいな……気分だわ」

 

「だって仕方ないではないですか、勇者やら切札やらどんな文献や伝承を調べても前例がないんですもん。皆様方はある意味で最新の神話ですよ、そんなんどう調べろとおっしゃいますか」

 

 流石に嫌そうな表情を見せた千景に対してわずかに『そりゃそうだ』と言えそうな気がする理屈で逆ギレっぽく言いのける神官。言いたい事はわかるがいい年齢の大人が拗ねながら『もん』とか言わないで欲しい。

 やはり悪い意味でえも言われぬ雰囲気に包まれる皆、その中でやや間を空けてから千景と杏が何かに思い至ったのか表情を変えた。

 

「前例が無くてわからない事だらけなら……何故私達が異変を感じる前に大社は穢れの存在に気付いたのかしら?」

 

「あっ、私も千景さんと同じ事が気になりました」

 

 大社が穢れの存在に気付いた発端は姉と僕に呪いとも言えるまじないをかけたお爺三羽鴉が想定外の現象を察知した事が切欠だ。大社の偉い人達の間ではどのような経緯でそうする事が決まったのかは知らないが未だに皆にはこのまじないの事は伏せられている。僕としても皆に、特に姉に余計な心配をさせて不要な心労を増やさないでいられるこの状況の方が良いとは思っている。

 しかし、勘が鋭いのか一つの物事に対して常に複数の視点を持っているのか、僕の思惑など知った事かと頭脳派な二人によってまたも提示される触れて欲しくない話題に喉が詰まる思いを味わう。

 

「気になりますか、それはですね……聞きたいですか?」

 

 ほんの一瞬、それこそ注意を向けてなければ気付けないほどの一瞬だけ僕に視線を向けた神官が神妙な雰囲気を繕って勿体ぶる。この神官、やはり僕と姉の形代という繋がりを知っているのだろう。

 

「なんだなんだぁ? そんなに勿体ぶるほどの話なのか? 取り敢えず聞いとくから話してくれよ」

 

「もしや、私達以外の勇者がいて切札を使っていたとかだろうか?」

 

 球子が神官に対して胡散臭さを感じているのか先程からの半目を継続しつつちょっと雑に続きを促し、姉がちょっと考えた後に話の内容を予測する。

 

「聞きたいと言うのならば語りましょう……予め言っておきますが聞きたいと願ったのは皆様方ですからね」

 

「まじか」

 

「聞いたら後悔するような内容なのかしら……?」

 

 とても残念だと、芝居がかった仕草と態度でそう示した神官にまさかここで暴露するつもりなのかと驚きの声が口からこぼれ、千景が首を傾げつつ神官の様子に引いた様子を見せる。杏も神官の雰囲気に呑まれたのか両手をキュッと握り締めて僅かに身を震わせた。

 

「神憑り、という言葉が昔からこの国にはあります」

 

「かみがかり?」

 

 まさかの暴露かと思えば予想に反した言葉におうむ返しに言葉を復唱してしまう。

 

「はい、語源は神霊やその他の霊的存在が人身にのりうつる事、もしくはそれによって超常的な事ができるようになっている事で──」

 

 唐突に始まる国語の授業のような語りにまたも皆がえも言われぬ表情でえも言われぬ雰囲気を纏い始めるが、神官は気にした様子を見せずに辞書を引いた内容をそのまま言葉にしているかのように言葉を続ける。

 

「──つまりはまぁ、勇者や切札の前例は在りませんが神霊を身に降ろした存在は伝承に幾らでも在ったということです」

 

「無駄に長くて無駄に難しい語りにタマは後悔したぞ」

 

「普通に勉強になるお話だったね」

 

 話の途中から話を聞いてるのか聞いてないのかこっそりとあくびをしていて球子がやれやれと首を振り、対照的に話の途中から興味を刺激されていたらしき杏がほっこりと微笑む。

 

「後悔するのはまだ早いですよ、ここからはちょっとダークな話です」

 

「まだ続きがあるのか、話の長さと内容のディープさが若葉とどっこいどっこいだな」

 

「私の話はこんなに長くも難しくも無いと思うのだが」

 

「無自覚若葉ちゃんですね」

 

 だらけるように椅子の背もたれにもたれ掛かった球子の言葉に姉が目を丸くし、薄く笑いながら放たれた幼馴染の言葉に姉の目が更に大きく開いて幼馴染に振り向いた。

 

「勇者の条件、つまりは人が神霊より力を授かり勇者になるには何が必要なのか、大社はそれを調べています」

 

「初耳だけど……納得ね」

 

「その条件が解れば戦力を増やすことができるかもしれないですもんね」

 

 神官の言葉に頷く千景と杏。

 

「これもやはり確固たる事はわかりませんが無垢である事、少女であること、そして、神霊との相性の良さが必要だと予測されています」

 

「まだあんまりよくわかってないのな」

 

「茶化したら駄目だよタマっち先輩」

 

 もはやあくびを隠していない球子を諌める杏。

 

「神霊との相性。巫女とは違う形で神に好まれる、神に愛される、古来よりそれは世界各地にてある種の異種婚姻譚とも言える神婚説話等に語られています」

 

 球子の茶化しに弛むと思われた空気、しかし、神官の語りは止まらずに声の抑揚が徐々に薄れ、一つ言葉を連ねるごとに場の空気を重く息苦しいものに変えていく。

 胡散臭い雰囲気だった神官の変貌に姉が眉を歪め、杏が怯んだのか少しだけ背を丸めた。

 

「神に愛される。その多くは力を得て、幸運を得て、数奇な運命をたどります。しかし、更にその殆んどの者の末路は……」

 

 一度言葉を句切る神官、そのタイミングで誰かが喉をゴクリと鳴らした。

 

「年若きままに神の伴侶となるために神の領域、神の住まう場所に至ります。それはすなわち肉体と魂の解離、つまりは……」

 

 死、なのだろう。神官は言葉を濁したがあまりにも解りやす過ぎる。

 姉が、幼馴染が、皆が、この場にいる五人の神霊に愛されてる大切な存在達が息を飲んだ。

 

「私の知る人間にも神に見初められた者がいました」

 

「あ、あの……」

 

「幼き頃より美しく、深き知性と慈悲を持つ女性でした」

 

 語る言葉に色を無くし重たい口調のまま宙を見詰めながら語る神官、その異様さに幼馴染がおそるおそる声を掛けるが反応は帰らなかった。肩を震わせた杏が安堵を求めたのか隣の椅子に座る球子の手を握るが、球子さえもがこの異様な空気に呑まれている様子を見せていた。

 

「やがてその者は人の男と結ばれ、子を授かります。しかし、それが神よりその者に与えられていた神域に至るまでの猶予だったのです」

 

「だ、大丈夫なのか……目がイッてるぞ」

 

「今では幼いながらも巫女の役目を勤める聡い少女の親になったその者は、その少女が乳離れする頃から奇行をするようになりました。夜な夜な意識の曖昧なまま山に入っていくようになるのです」

 

「…………ぃゃ……」

 

 球子が声を震わせながらも茶化すが神官の語りは止まらない。むしろ声に色をなくしたまま口調を早めていく。その尋常ではない姿に杏が眦を薄く滲ませて全身を震わせた。

 殴ってでもこの神官を止めるべきなのだろうか。怯える杏や顔を青くさせている幼馴染を見てそう思わずにはいられない。

 

「その者の夫や周囲の者が止めても繰り返される夜の入山、何度も何度もなんどもなんども山に入っていたその者は……ある夏の日に! とうとう……」

 

 急な神官の大声に全員がビクリと背を震わせる。

 

「たっくさん蚊に刺されてしばらく痒みに悶えたらしいですよ……夏の夜に虫の対策もせずに山に入ったんだから当然ですよね」

 

 霧散する重い空気、何故か両手をグッと握りつつ親指を立ててしてやったりな顔になる神官。

 

「私、怪談得意なんです」

 

 僕達はこの神官にからかわれたのだろう。

 

「ん~、怪談より顔の方が怖かった」

 

「キメてたナニかの効果が切れてきたやベー奴な顔だったな」

 

「……真面目に話聞こうとして後悔しちゃった」

 

 してやられた悔しさを紛らせるために放った言葉に球子が言葉を繋げる。杏が眦を袖で拭ってげんなりと言葉を吐いた。

 

「それで、なんの話でしたっけ?」

 

「あぁ、うむ、なんだったか……もう疲れたな」

 

「もう昼時だし飯にしよう、またイカれた顔で怪談されたら余計に疲れる」

 

 悪れびもせずにわざとらしく小首を傾げた神官に疲れた表情の姉。球子がこの穢れについての講習会を切り上げる事を提案して皆が一斉に頷いて同意した。

 とても疲れたが形代については結局露呈される事なく際どい話題をスルーできたのは喜ばしいと思う。

 

「……お待ちを」

 

「ん」

 

 挨拶もそこそこに食堂へ行くためにぞろぞろと退室する皆の最後尾を歩こうとするも声色静かに神官に肩を叩かれて呼び止められる。

 

「次の休日、予定は空いてますか?」

 

 皆が完全に退室してから開かれる神官の口。胡散臭さはなりを潜めて真面目な空気を感じ取れる。

 

「空いてますよ、なにか要件でも?」

 

「はい」

 

 こうして神官から語られたのはお爺三羽鴉の内最後の一羽、梟笑いの老人が僕と直接会って話したい事があるのだという事。断る理由もないので了承しておいた。

 梟笑いの老人と繋がりをもつこの神官もいわゆる大社の主流派とは違う考えで行動しているのだろうか。取り敢えずほぼ確実なのは僕と姉の繋がりを知っていて際どい話題を胡散臭さと悪ふざけのような怪談で逸らしてくれたという事だ。

 

「青葉、何を話しているんだ? 皆先に行ってしまったぞ」

 

 短い簡潔な言葉で次の休日にどう行動するかの予定を擦り合わせた直後に扉から身を乗り出して部屋を覗き込んできた姉。

 

「私が呼び止めてしまってたのですよ。実は私、皆様方の使っているスマホの開発に関わってまして、使用感の感想を聞かせて貰ってたんです。特に若武者様のスマホは私がカスタムの設計をしてまして……」

 

 この神官、僕のやたらと重たい鉄板仕込みのスマホを作った奴か!

 神官の胡散臭さとスマホの使用用途の方向音痴さが脳内で合致した。

 

 

 ─────

 

 

 胡散臭い穢れ講習会を済ませて次の休日、僕は神官と打ち合わせた待ち合わせの場所に迎えに来た車に揺られていた。丸亀城に直接に迎えに来なかったのは何故なのか、もしかしたら大社の関係者にあまり察知されたくないのだろうか、主流派とは違う思想を持っているというのが関係しているのかもしれない。

 

「着きましたよ」

 

 ハンドルを握っていた先日は神官装束で胡散臭い語りをしていた神官も今はそこら辺を歩いてそうな休日のオッサンのような姿、やはり目立たないための工夫なのだろう。丁寧な運転で駐車された後に車を降りればなんてこと無い普通の住宅街、その中にある年季の入った古い建物ながらも手入れが行き届いている広めな屋敷が目的の場所で、この中に梟笑いの老人が待っているのだろう。

 

「さぁ、中へどうぞ」

 

「お邪魔します」

 

 胡散臭いオッサンが預かっていたらしき鍵で玄関を開き、促されるままに屋内へ。

 

「ほっほ、若武者殿、よくぞいらして下さった」

 

「……こんにちは、しばらくぶりですね」

 

 建物の奥、隣の建物との位置関係によってやや陽当たりの悪い和室にいた梟笑いの老人、表情はにこやかながらも以前会った時よりもやつれた頬、土気色に近づいた深い皺のある肌、鈍い濁りを浮かべた瞳、自分達以外は動くものなど何も無いはずなのにナニかを追い掛けて泳ぐ視線、それらによって穢れの影響を計り知ってしまいほんの一瞬だけ言葉に詰まってしまった。

 

「そろそろ着く頃だと思って茶を煎れておきましたわ、最近は姪に任せてばかりだったのですが姪は大社に行かせてますので久々に自分で煎れましてな、お口に合えば良いが」

 

「いただきます」

 

 梟笑いの老人の対面に用意された座布団に腰を降ろせば微かに震える指で用意されていた湯呑みにお茶を注がれる。この広い屋敷に一人でいたのだろうかと気配を探れば拾えた気配は目の前の老人と部屋の扉の前にて待機している胡散臭い神官の二人分のみ、僕達がここに着くまで梟笑いの老人は一人で待っていたのだろう。

 

「早速ですが」

 

「なんですか?」

 

 直接会って話したい程度には大事な要件なのだろうと、居ずまいを正した梟笑いの老人に合わせてまっすぐに向けられた視線に同じく視線を返す。

 

「姪を嫁に貰ってはいただけぬか」

 

「えぇぇ、いらないなぁ」

 

 そういうのは本人の意志が大切だと思う、いくら叔父とは言え勝手に決めるのはいかがなものか。それよりもなんだ、まさかこれが直接会って話したい事だったのか、このために僕は休日を浪費しているのか。これならば丸亀城に残って自主的な鍛練をしている姉や球子と一緒に鍛練していたかった。

 

「今ならあの堅物と小心者の孫もつけるが?」

 

「僕に公然と三股しろと? お断りです」

 

 そもそも梟ジジイの姪以外は顔も知らないし、なんなら三人とも名前すら知らない、そんな相手をどうしてお嫁さんに貰えるだろうか。きっぱりと断れば心底残念そうに肩を落とす梟ジジイ、見た目以外は元気そうでなによりだ。

 

「直接会ってお話したいってのはまさかこの話ですか?」

 

「いやいや、まさかまさか。今のは単に死ぬる前に姪の花嫁姿を見たいがための冗談半分にございますよ」

 

 まさかそんな事は無いだろうとの願望を込めつつ訊ねれば不健康な顔での茶目っ気な笑い。恐らくは常に幻覚に視線を奪われ続けて精神的に疲労が溜まっているであろう梟笑いの老人に長話は酷であろうと思って要件を済ませれば早々に帰宅するつもりでいたが、本当に見た目以外はピンピンしているのかもしれない。

 

「ん~、まぁ、冗談話はおいといて」

 

「ほぅほほ、半分本気にございますが」

 

 しつこい。本気で三股をさせようとするな、尚質が悪い。

 

「今日の本題はなんですか? 僕はてっきりまた事後承諾な感じで何かやっちゃったからその報告かなって思って来たんですが」

 

 一度僕の背後を睨み、何も付いてない自分の肩を手で払った梟笑いの老人が再度居ずまいを正して僕の眼をまっすぐに見詰める。

 

「いや、此度は何もしておりませぬ。むしろ、何もできなかったと申し上げるべきか」

 

「ん?」

 

 何もできなかった? 大切な姪のために数十年貫いた信仰を曲げた程の男が行動できなかったとはどういう事だろうか。

 

 

「大社は、人類の敗北を是としました」

 

 

 微塵の揺らぎも無く僕を見詰めながら短く告げる梟笑いの老人。感情を圧し殺した半死人のようなその顔に、質の悪い冗談では無いと悟る。

 

「は?」

 

 言葉の意味は理解した。しかし、納得と感情が追い付かずに間抜けな音が口から漏れる。

 

「言葉の通りです、勇者様達の絶えぬどころか戦闘を繰り返す度に悪化していく負傷、学習して強くなり続ける敵、されど勇者の人員追加をできない現状、人類は既に追い詰められていました」

 

 言葉を句切り、半ば呆然としている僕の理解が追い付きかけたタイミングで更に言葉を続ける梟笑いの老人。

 

「そして、士気に関わるとして伏せられていましたがほぼ修復が不可能になるまでに破壊された土居様の神具や勇者様達に影響を及ぼし始めた切札による穢れが決め手となり、大社は人類が敗北すると受け入れたのです」

 

 敗北を受け入れた?

 諦めたのか?

 皆は、最前に立つ皆は誰一人として挫けていないのに?

 

 

「ふ ざ け る な!!」

 

 

 理解に感情が追い付き、暴発した。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
勉強憶えないくせに穢れ講習会の内容はしっかり理解した。話題がやベーところに掠める度にヒヤヒヤしちゃう。なんか変な神官に友達が泣かされそうになったからぶん殴るべきか凄く迷った。ヘイジジイ!茶ぁしばきにきたで!嫁?しつこいねん……。本題はよ……え?なに大社へたれとるねん(激おこ)

若葉さん
若葉さんって居合の事になると早口になるし話長くなるよね。幼馴染からの不意打ちにちょっと裏切られた気分になった。お化けなんて怖くないメンタル強者。

ひなたちゃん
早口になっても話が長くなっても若葉ちゃんが好き!これも若葉ちゃんの魅力です。

タマっち
神官の胡散臭さを感じてナメてかかったら突然の変貌にビビった。授業でもないのに勉強は勘弁。

杏ちゃん
神官の変貌にすごくビビった。授業とはちょっと違う勉強会に知識欲を刺激されてちょっとほっこり。

友奈ちゃん
入院中だからハブられた。後程ぐんちゃんとアンちゃんが解りやすく教えてくれる予定。

千景ちゃん
モルモットみたいな扱いはちょっと面白くない。大人に逆ギレっぽく言い返されるとかなり困惑しちゃう。

胡散臭い神官
かつて鷲尾青年と一人の女性を巡って争った。

梟ジジイ
しつこい。

───

誤字報告ありがとうございます。

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