乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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73:似てる感じの親子、もしくは冷やす話

 

 人の気配に、目が覚めた。

 

「起きたか、 おはよう、青葉」

 

「おはようございます、青葉ちゃん」

 

 親の声よりもたくさん聞いた姉と幼馴染の声による朝の挨拶、ベッドに横たえていた上体を起こして声の元に視線を向ければ穏やかに微笑む親の顔よりたくさん見た二人の顔。

 正常に大切な二人を認識できる、今の僕は正気の領域にいるのだろう。いや、相変わらず僕を見続けている黒いヒトガタも見えてるから半正半狂なのかもしれない。

 

「おはよう、二人とも」

 

 大切な二人を認識できる、当たり前のはずのその事がたまらなく嬉しくて頬が弛むのを感じた。

 

「若姉さん、今回の襲撃で怪我はしなかった? 大丈夫?」

「青葉、球子を庇って怪我をしたらしいな。心配したぞ」

 

「ふふふ……」

 

 挨拶からすぐに口から出た衝動的な問い掛け、揃う声に幼馴染が面白そうにほころぶ。そして、姉が『やはりなこうなったか』とでも思ってそうな苦笑に似た微笑みになる。きっと、僕も姉と同じ顔をしているだろう。

 最愛の半身が危機に遭遇した、それを知って案じないはずがないのだ。真っ先に無事を確認しないはずがないのだ。僕達二人、いや、三人はそれを知っている。

 

「僕は全然平気、大丈夫さ。なんなら今すぐにでも渾身の居合を披露できるよ」

 

「一応言っておくが、絶対にやめてくれよ?」

 

「ん、さっさと治したいからね、そのつもりさ」

 

 急いで薪を拾わねばならない、故にできうる限り早く怪我を治す。そのためにじっくり療養するつもりだ。

 

「私は鼓膜を破ってしまってな」

 

「ん゛!?」

 

「だが、ちょっと手術したら問題なく聴こえるようになったぞ、最新医療とは凄いな」

 

 なんでも鼓膜一枚につき一~二針縫う程度の手術を三十分ほどしただけらしい、あっけらかんと笑いながら語る姉の太い胆には驚かされる。

 

「戦闘直後の仮の検査では他の皆は大した負傷なんて無い様子だったな。一応、これから本格的な検査もあるがまぁ大丈夫だろう」

 

 嬉しそうに語る姉が今回の襲撃はどのように相手が攻めてきてどのように姉達が返り討ちにしたかを語り始める。全員で切札を行使して二体の大型バーテックスを討ち取った辺りまで話しきった頃に廊下に繋がる引戸がやや強めにノックされた。

 

「誰だろ? どうぞ──」

 

「入るぞ」

 

 入室を促す返事を言い切る前にそこそこ勢いよく開かれる引戸と威勢の良さを感じる太い声、何事かと開かれた引戸の向こうにいる人物に注目すれば見覚えのある体格の良い男性と肝っ玉そうな女性、たしか球子の両親だったはずだ。何故こんな所に? と、疑問を浮かべていると球子父と視線が絡んだ。

 

「ハンッ、青い顔してやが──」

 

 バチンと、球子母が鼻で笑ったような球子父の頭を平手で殴った。

 

「喧嘩売りに来たんじゃないでしょ」

 

「……チッ」

 

 本当に何をしに来たのかこのオッサンは。姉と幼馴染も訳が解らないようで顔を見合わせて困惑の表情で首を傾げている。

 ほんの一瞬だけ心底嫌そうな"フリ"に見える大袈裟な表情を見せた球子父が体格通りなのっそりとした動きでベッド脇まで歩み寄り、すぐさま姉と幼馴染が阿吽の呼吸で見舞い客用の椅子を用意する。

 

「おう、怪我の調子はどうだ」

 

「ん、入院なんてちょっと大袈裟に感じる程度の深さに感じますね」

 

 用意された椅子にどっかりと腰を降ろしたムスッとした表情な球子父の質問に答える。実の所、背中に感じる痛みや皮膚の張った感じは大したものではなく、小学生の頃に対峙した刃物男にバッサリとやられた時の方がよっぽど重傷なのだろうと感じる程度には傷は浅い気がするのだ。それはさておき、本当にこの男は何しに来たのか、まさか見舞いに来たのだろうか。

 

「これ、お見舞いの果物です、お口に合えば良いのですが……」

 

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。うちの青葉ちゃんは食べるのが好きなのでとても喜びますよ」

 

「私からも、弟のためにありがとうございます。あぁ、椅子はこちらをお使い下さい」

 

 球子父の背後でにこやかに交わされる女性陣の会話、マジで見舞いに来ていたのかと、見舞いに来て開口一番に鼻で笑ったのかと少々驚いてしまう。

 

「何驚いてやがる、娘を庇われて助けられた親が庇った相手の見舞いに来るのは別に普通の事だろうが」

 

「……あっ、そっか」

 

 球子父の呆れたような、やはり鼻で笑うかのような態度で言われた言葉にようやく生まれる納得の念。なるほどな、と頷いた直後に球子父ががばりと頭を下げた。

 

「ありがとう、乃木君のおかげで娘は怪我一つ無く無事でいられた」

 

 深々と、本当に深々と下げたまま言いきった球子父。

 病室に響く堂々たる声、感謝を示す堂々たる礼の姿勢、突然の事に数拍の沈黙が空間を支配する。

 

「……ん……あ、いや、僕はただ護りたかったからそうしただけなのでそんなに頭を──」

 

「よし、筋は通した! 今はもうお前に用は無ぇ! カアちゃん、俺はもう行くぞ」

 

 下げないで、と言いきる間もなく顔を素早く上げて椅子からがばりと立ち上がる球子父。あまりにと早い行動の移り変わりに言葉が途切れて口が開いたまま止まる。言葉通りに退室しようとほんのりと足早に引戸に向かう球子父の横顔が軽く赤らんでいるのが無意識に追い掛けた眼で捉える事ができた。

 

「アンタぁ、話してみたい事色々有ったんじゃないの?」

 

「るせぇ、んなもん忘れた」

 

 呆れたような球子母に対してぶっきらぼうに答える球子父。そんな姿と状況の移り変わりに対して呆気に取られたのか姉と幼馴染がポカンとした表情を見せる。

 

「あぁ、そうだ。一つ思い出した」

 

「なんですか?」

 

 完全に球子父の作り上げた訳の解らない空気に皆が呑み込まれている中、ずかずかと歩いて引戸に手を掛けた球子父がわざとらしく思い出したかのように口を開く。

 

「礼は言った、だがまだ俺からの礼は終わっちゃいねぇ。化物だのなんだののゴタゴタが終わったら家に来い、それまで俺の娘を泣かすような事すんなよ」

 

「ん……ん? あ、はい」

 

 つまり、なんだ、どういう事なのか。まるで解らない。解説を求めて姉を見れば頭に疑問符を浮かべた表情、なるほど、姉も解ってない。それならば幼馴染に教えて貰おうと向き直れば同じく疑問符を浮かべた表情、なるほど、幼馴染も解ってない。謎は迷宮入りだ。

 

「今度こそ俺は行くぞ、じゃあ──」

 

「おーっす、青葉起きて──わっ!」

 

「──な……あん? 球子じゃねぇか」

 

「なんだ、父さんじゃん」

 

 やはりぶっきらぼうに言い放った球子父が引戸を開けると同じタイミングで反対側からも開けられた引戸が勢いよく開き、開かれた向こうに現れた球子が突然現れたように見えたであろう自身の父親に驚く。

 

「なんだとはなんだ。パパって呼べ」

 

「やだよ恥ずかしい」

 

「パパのどこが恥ずかしいってんだ!」

 

「声が大きくて態度も大きいところ」

 

「……そうか」

 

 開かれた引戸を挟んで交わされる球子と球子父による親子の会話。普段球子がちょっとふざけた雰囲気の時に使う棘のある言葉とはなんとなく違う棘のある言葉に球子父が悄気たように見えた。

 

「……俺はもう帰る……」

 

「そっか、気を付けてね」

 

 悄気たまま宣言した球子父に対して身をずらして通り道を譲る球子。一歩廊下に出た球子父が病室に入ってこようとした球子の肩を掴んで制止し、そのまま引戸を閉めた。

 

「なんと言うか……球子のお父さんはとても濃ゆいな」

 

「昭和のお父さんな雰囲気ですね」

 

「ウチのが騒がしくてごめんなさいねぇ」

 

「いえいえ、慣れてますから」

「丸亀城でもよくわからないまま盛り上がるのが日常ですし」

 

 和やかに交わされる女性陣の会話。そんな病室内のほっこりとした雰囲気に閉まりきって無かった引戸の隙間から漏れ聞こえてきた土居父子の話し声が届く。

 

「いいか球子、文字通り命懸けで女を守れる男なんてのは実はなかなかいるもんじゃねぇ、ぜってぇあの野郎を手放すなよ」

 

「……なんの話?」

 

「あん? あの野郎は球子の男じゃねえのか?」

 

「違うよ! 何言ってんの!?」

 

「なにぃ! そんじゃあそういう仲でもねぇのにあの野郎と一緒に"イタズラ"してたってのか!」

 

 わりと近くに落ちた雷の音のような球子父の怒声、その瞬間に球子母が一礼しつつ素早く立ち上がって引戸の前へと移動する。僕と姉と幼馴染の三人がまたも状況を理解しきってないポカンとした表情を浮かべた。

 

「野ァァ郎ッ! 遊びで手ェ出したのか! 俺がトドメ刺してやぶぇぁっ!」

 

 怒りの形相で引戸を勢い良く開けた球子父、獣のように飛び掛かってきそうな怒気を露にしていたが、引戸の前に待機していた球子母の腰の捻りを乗せた平手打ちで頬を弾かれてたたらを踏む。

 

「お騒がせしてごめんなさいねぇ」

 

「痛だだだだた、カアちゃん、痛ぇよ!」

 

「あ、あー、いえ、慣れてますから」

 

「父さん、早く帰って」

 

 至って普通に見える女性が大男を平手打ちで黙らせ、耳たぶを捻りながら引っ張って拘束する強烈な光景を生み出しつつなんでもない事のように振る舞いながら軽い謝罪をする球子母。ポカンとした表情ながらも辛うじて姉が反応して言葉を返し、ちょっと不機嫌な顔で頬を赤くした球子が球子父の横を通り抜けて言葉を吐き捨てる。

 

「それじゃあ今日はこれで失礼させて貰いますね」

 

「あ、はい、お気をつけて」

 

「痛いって! カアちゃ──」

 

 この騒がしさはただの日常だ、そう言わんばかりに動じない球子母がまたも軽く一礼しつつ今度こそ引戸を完全に閉めて球子父と共に姿が見えなくなる。気付けば嵐の後のような静けさが病室に満ちていた。

 

「ん~……強烈だったねって感想しか出ないや」

 

「冗談抜きでタマは今猛烈に恥ずかしい」

 

 顔を歪め、今しがたまで球子父が腰掛けていた見舞い客用の椅子へと乱雑に腰を降ろす球子。

 

「んで、恥ずかしい父さんの事は忘れるとして」

 

「ん?」

 

「怪我の調子はどうだ?」

 

 ムスッとした表情、ぶっきらぼうな口調、先ほど投げ掛けられた質問と一文字足りとも変わらぬ言葉、父子で同じ事をした事がなんだか面白くて頬が弛む。姉と幼馴染も微笑ましそうに頬を弛めていた。

 

「なんだよ、タマ今何か変な事言ったか?」

 

 ムスッとした表情からころりと訝し気な表情に変わった球子が僕達三人を見回す。

 

「いいや、そんな事無いよ」

 

「あぁ、もしかして……またいつもの仲良し三人組だけで通じ合うよくわかわらんアレか?」

 

「ん、そうかもね」

 

「そうか、で、怪我はどうなんだ?」

 

「なんて事ないよ、ちょっと縫ったくらいさ。すぐにでも居合できるくらいだよ」

 

 ほんの一瞬、表情から力を脱いて緩やかに息を吐いたもののすぐに眉をしかめた球子。何か気になる事があったのだろうか。

 

「一瞬だけ大した怪我じゃなくて良かったって思ったけど……よく考えなくても縫うほどの怪我って重傷じゃないか、誰も彼も怪我ばかりだから感覚狂ってきてるな」

 

「む、たしかにそうかもしれないな。命に関わらないだけで私の耳もよく考えればかなりの怪我だな」

 

 球子の言葉に納得したように頷く姉。お互いに顔を見合わせてどちらかと言えば嫌そうに見えなくもない複雑な表情を浮かべている二人に口を挟んでみる。

 

「ん~? 生きてて治る怪我ならそんなに気にする程でもないんじゃない?」

 

 命あっての物種。死なず、いずれ癒える怪我だけならば一時の苦痛を耐えればいいだけなのだ、危ない目にあったりひどい怪我を負ったとしても死んでなければ万々歳だろう。そう言葉にした直後、病室に僕の声が溶け消えて静寂が残った。

 口を微妙にへの字に歪めた姉、盛大に呆れたような表情の球子、ただ真っ直ぐに強い瞳の幼馴染が僕へと同時に視線を向ける。

 

「いや、青葉の言う事も解らないでも無いがな……」

 

「いやいや、若葉も解るなよ、これだから野武士は」

 

「青葉ちゃん、気にして下さい。若葉ちゃんも」

 

 怒気を放っている訳ではないし声を荒らげている訳でもないのにとても力を感じる幼馴染の短い言葉。それによって何故だかとてもいたたまれなくなって叱られたような気分になってしまった。

 

「ん、そーする」

「うむ、気を付ける」

 

「はい、大変結構です」

 

「……うぉぉ」

 

 有るはずのない不可視の圧力に素直に従って返事を返す僕と姉ににこりと微笑む幼馴染、このやり取りを見ていた球子が主に幼馴染を見ながらなにやら戦慄していたのは気のせいではないだろう。

 

「しかし、まぁ、あれだ……大した事ないって本人が言える程度の怪我でよかった。あの時は何がなんだか解らなかったけどタマは青葉に助けてもらってたみたいだからな、助けられた相手がそのせいで後遺症が残ったとかだったら寝覚めが悪いし」

 

 球子曰く、あの時僕が意識を失った後に通りすがりに一部始終を目撃していた人から話を聞いて状況を把握していたらしい。半笑いで「無茶しやがって」と言った球子が球子母が持ってきたお見舞いの果物の盛り合わせに手を伸ばして赤く熟れたリンゴを手に取る。

 

「タマを守ったってんなら一緒に自分も守れよな。このリンゴは無駄に心配掛けられたのと青葉を病院まで背負って運んだタマタクシーの代金として徴収する」

 

「ん? タマっちが病院まで運んでくれた──」

 

 ニヤリとした顔で言いきった球子の言葉に浮かんだ疑問を解消しようと口を開く。しかし、その言葉は今日二度目の引戸を叩くノック音に中断される。

 

「開けるよー? あっ、青葉くん起きたんだね。おはよう!」

 

「タマっち先輩、さっき廊下でおじさんと叫んでたでしょ。声響いてたよ」

 

 開かれた引戸の向こうに現れたのは友奈と杏。元気に挨拶してくれた友奈とやれやれと微笑む杏の様子に不調そうな様子は見えず、先程姉から聞いた通り大した負傷は無かったのだろうと安堵の気持ちが湧いてくる。

 

「うへぇ、聞こえてたのか……ほんとに恥ずかしいな」

 

「うん、おじさんが『どこが恥ずかしいってんだ』って言ってた所から『痛たたたぁ』って言ってた所までだいたい聞こえてたよ」

 

「この階、私達の病室しかなくて静かだから大きな音とか声とか凄く響くもんね」

 

 くすくすと可笑しそうに笑う杏と友奈にげんなりとする球子。話題を変えようとしているのか後頭部をガシガシと撫でた後に球子が僕を見て口を開く。

 

「で、さっき何か言い掛けてたろ、気になるから今言え」

 

「ん、気絶した僕をタマっちが運んでくれたんだねって話。救急車とか呼ばなかったのかなって」

 

「あぁ、それな。地震でそこらじゅうてんやわんやで救急車が対応しきれないみたいだったから背負った方が早いし確実だったんだ」

 

「なんと」

 

 今回の襲撃では広範囲の攻撃をしてくるバーテックスのせいで樹海の植物に多くのダメージが蓄積されたらしく、その影響が香川を中心に大きめな地震という形で現れたのだ。地面が揺れれば当然ながら僕と球子が遭遇したような危険が多く発生する、そのせいで救急車が不足したのだろう。

 

「勇者の訓練で鍛えられてたタマに感謝しろ、青葉は重いしお気に入りのパーカーが血濡れになるし大変だったんだからな」

 

「ん、ありがとう」

 

 鼻を鳴らしながら大袈裟に肩を揉む仕草をした球子に礼を言えば「ふふん」と笑いながら胸を張られる。小柄な球子が日々の鍛練によって造り上げた筋肉で平均よりは重くなってる僕を運ぶのは大変だっただろう、この恩は何処か何かしらの方法で返さなければ。何事にも報いを、だ。

 

「戦いが終わって私達も検査のために病院に来た直後くらいに真っ赤になってるタマっち先輩が真っ赤な青葉くんを背負って現れたのはビックリしたけど、二人とも無事で良かったよ」

 

「あれスッゴくビックリしたよね、青葉くんはぐったりだったし、タマちゃんもくしゃくしゃな顔だったし、それを見た若葉ちゃんも半分パニックになってたもん」

 

「パニッ……!」

「くしゃ……!」

 

 顔を見合わせてほっこりと笑う杏と友奈。その二人の言葉に引っ掛かる部分が有ったのか姉と球子が心外そうに眼を剥く。

 

「し、仕方無いではないか、球子ほどに芯の強い者が半泣きになりながらぐったりとして血濡れな弟を背負って現れたのだぞ、これに取り乱さない姉がいるものか!」

 

「はーーっ!? 泣いてない! タマは断じて泣いてない! むしろ激怒だぞ、タマを庇っといて自分を守らないアホのあっぱら葉に対して激怒だぞ!」

 

 声量大きく言い訳なのかよく解らない事を言い放った姉に続いて声を荒らげる球子。やはりと言うべきか僕はとても心配を掛けてしまっていたようだ。

 二人が声を張る姿に友奈と杏が微笑ましい物を見るような視線を向け、幼馴染も似たような表情を浮かべつつ口を開く。

 

「ここは病院ですよ、皆さん以外に患者さんのいない階ですけどあまり騒いではいけません」

 

「ぐぅ、たしかにそうだな、騒ぐのは良くない」

 

「ハァ……見舞いに来ただけなのにとことん辱しめを受けてる気がするな」

 

 幼馴染の正論にぐうの音を出して頷く姉とげんなりと息を吐く球子。

 

「くっそ~、恥ずかしい思いをしたり自分より大きな相手を運んで大変だったりお気に入りのパーカーの染みが取れなかったりツイてないな」

 

「ん、ツキが無くても命は有った。これだけで万々歳さ」

 

「このあっぱら野武士め、まだ言うか」

 

 げんなりとしたまま呆れた視線を僕に向ける球子。

 

「言うさ、皆生きてて、タマっちも生きてて、僕も生きてた、万々歳だよ」

 

 背中の突っ張る痛みの箇所を感覚で数えて五つ、これは要するに背中を刃物で五度刺されたのと変わらない怪我が僕の背中に有るということだ。そんな怪我でも僕は出血に命を落とさなかったのは球子が素早い判断で救急車に頼らずその小さな体で僕を病院まで運んでくれたからだろう。

 

「だからさ、タマっち」

 

「なんだよ、急にあらたまりやがって」

 

 先程の僕はたしかに『ありがとう』とは言った。だが、まだ足りない。僕の感謝の気持ちはまだ伝えきれてない。

 

「僕を助けてくれて、ありがとう」

 

 翡翠の瞳と真っ直ぐに視線を絡めて伝える感謝の気持ち。

 一呼吸の間げんなりとした表情からポカンとした表情に変えて動きを止めていた球子、やや間を空けてから思い出したかのように動き出して長く深い息を吐いた。

 

「気にすんな、青葉がタマを庇ってタマが青葉を助けた。たったそれだけの単純な事だろ、なぁ、相棒」

 

 したり顔で握った拳を僕へと向ける球子、このノリはとても解りやすいノリだ。

 

「それでも、さ。感謝してるよ相棒」

 

 僕も渾身のしたり顔で腕を上げ、球子の拳に自分の拳を向かい合わせた。

 

「次が有るならヘマすんなよ」

 

「ん、任せてよ」

 

 コツンと、拳と拳が合わさった。

 

 

 ─────

 

 

 そろそろ昼食が個々の病室に運ばれて来る頃だと一度解散した後、栄養バランスのみを追究したようなこれはこれで悪くないと言える程度の食事を済ませた僕は、襲撃の後に未だに姿を見ていない千景が気になったので千景に割り当てられた病室へと足を向けていた。

 

「千景ちゃん、いるかな? お見舞いに来たよ」

 

 廊下と病室を隔てる引戸を手の甲でノックする。怪我人である僕が一応程度の検査入院をしているだけの千景へとお見舞いするというのも中々に珍妙な話なのかもしれない。そんな事を考えつつ引戸の向こうからの返事を待つもなにも反応が無いことに自然と首が傾いた。

 

「いないのかな?」

 

 もしかしたら他の階にある売店にでもおやつか飲み物でも買いに行っているのか、それならばまた後で訪ねてみようなと踵を帰そうとしたが、目の前の引戸が完全に閉まりきっておらずに指一本程度の僅かな隙間を開けている事にふと気付く。そして、その隙間からなにか水の流れるような物音が漏れ出ている事にもふと気付いた。

 

「んん~?」

 

 反応は無かったがノックに気付かなかっただけでやっぱりいるのだろうか、いないのならばこの水音はなんなのだろうか、ほんの僅かな好奇心が混ざったような違和感が胸中に膨らむ。やはり気付かれてなかっただけなのかもしれないともう一度ノックしてみるも先程と変わらずに反応は帰らず、隙間から漏れ聞こえる水音にも変化はなかった。

 

「…………?」

 

 蛇口を閉め忘れて何処かへ行っているのだろうか、いや、千景がそんなうっかりをするようには思えない、いやいや、戦闘によってとても疲労しているであろう今の状態ならばうっかりぐらいするかもしれない。勝手に病室に入って閉め忘れているであろう蛇口を閉めるのは大きなお世話だろうか? 寄宿舎の自室ではなく病院から一時的に借りてるだけの部屋とは言え異性が寝泊まりする部屋に勝手に入るのはいかがなものだろうか。ぐるりぐるりと脳内に疑問が浮かんではその疑問が新たな疑問を呼んで積み重なり、しばしの間行動の全てを放棄して思考に全力を注ぐ。

 

「……ん~~、まぁ、いっか」

 

 考えても答えが見付からなかったので思考を放棄して行動に移る。さっと覗いてなにも異変がなければそのまま立ち去れば良いやと軽い気持ちで引戸をそっと開いた。

 

「千景ちゃん、いる? 入るよ」

 

 一応程度には室内に声を掛けつつ凹凸の少ない敷居を跨ぐ。そして、いるかもしれない千景の姿を探してぐるりと室内に視線を巡らせて確認すると、部屋の隅に設けられた洗面台の前に立つ千景の背中を見つける事ができた。流れる水の音や手を前に出している様子、部屋に視線を巡らせた時に見つけた運ばれてきてそのままらしき昼食から察するに食事の前に手を洗っているのだろう。

 

「千景ちゃん、これからお昼だったみたいだね。それなら出直す事にするよ」

 

 洗面台に向かい続けて身動きの無い千景に背後から声を掛ける。しかし、なにも反応が帰ってこない。──なにかがおかしい。強烈な違和感。

 

「千景ちゃん?」

 

 改めて呼び掛けてみるも無反応。

 なんだ、何がおかしいのだろうか。立ち去ろうと動き掛けた足を止めて思考を先程よりも深く強く巡らせる。

 そうだ、一切の身動きが無いのがおかしい。手を洗っているのならば背後から見ていても解る程度には体が動くだろう。水の流れる洗面台の前で微動だにしない千景はいったい何をしているのか、この不可解さが胸中に妙なしこりを発生させ、このまま何も確かめないままここから立ち去るなと直感が警鐘を打ち鳴らす。

 

「千景ちゃん」

 

 身動き一つ無い後ろ姿に歩み寄りつつ再度呼び掛けるも反応無し。二度のノック音に気付かず扉の開閉音にも気付かず更には二度の呼び掛けにさえも気付かない、なんだ、千景は何をしている、何に集中している。

 

「……もっと…………冷す…………もっと……」

 

 千景の傍まで近寄ってようやく耳で拾える微かな呟き。それは、普段の声色とはまるで違う幽鬼の囁きのような平坦で冷たい声色だった。

 説明のできない胸を締め付ける嫌な予感。なんなんだ、千景は何を冷やしているんだ。

 

「……気持ち……悪い……冷やさなきゃ……」

 

「千か──っ!」

 

 もう一度、呼び掛けようとして息が詰まる。

 千景の手元を覗こうと立ち位置を変えて見えた洗面台の鏡に反射して映る千景の顔、その色の無い表情と何処かで見たはずの濃い濁りで曇る瞳が僕の呼吸どころか思考さえも吹き飛ばして空白にさせた。

 

「……感触……なくならない……もっと……」

 

 鏡に映る濁りの瞳が見下ろすのは千景が前に出している手元、停止した思考のまま無意識にその視線を追い掛けて見えたのは流水に曝されている千景の華奢な手。

 

「……殺した感触…………気持ち悪い……」

 

 ──千景を、御願いします

 

 訳が解らな過ぎて困惑と停止を通り越して一周した思考が再び動き出す。

 

 ──千景を、私のようにならないように、どうか……

 

 ──身命を賭して、必ずや

 

 かつてとある女性と交わした約束、それを今思い出したのはその女性と千景の瞳がとても似ていたからだろうか。何もわからないままこのままでは駄目だと吠えたてる直感、それが衝動的に僕を突き動かして流水に曝されていた千景の手を鷲掴んだ。

 

「千景!」

 

「ひゃっ! 何!? ……あ、乃木くん。 いつの間に来てたの?」

 

 何をしても無反応だった通り僕の存在に気付いていなかったらしい千景が身を強張らせて驚く。目を白黒させながら千景が掴まれた自身の手と僕の顔の間に何度も視線を往復させる。

 掴んだ千景の手、いつもじんわりとあたたかいはずの華奢なそれがまるで人形の手のように冷たい。どれ程の時間流水に手を曝し続けていたのか、どれ程の時間今の状態でいたのか、想像するだけで悲しみや恐怖に似た動揺が僕の精神を負で浸食する。

 

「えぇと、あの……の、乃木くん。そんな顔をしてどうしたのかしら?」

 

「何をしてたの」

 

「え?」

 

「こんなに手を冷やして……何をしてたの。答えて」

 

 解りやすく困惑した表情を見せる千景からの質問に答えず、僕からの質問を押し付けて答えるように迫る。

 

「あ、あの……その……の、乃木くん、何か怒ってる?」

 

 瞳の濁りをそのままに困惑から動揺の表情に変移していく千景。

 

「怒ってない、知りたいだけ。今、何をしていたの」

 

 知りたい事を答えてくれずにどもる千景にもう一度答えるように促す。すると、何故か叱られてる幼子のように身を縮めさせた千景が思い出しながら話するようにポツリポツリと口を動かし始めた。

 

「昼食を食べようと思って手を洗ったら……冷たくなった手の感覚が鈍くなった気がして……もっと冷やしたら……気持ち悪いのも……無くなるんじゃないかって……」

 

「そうなんだ」

 

 先程耳で拾った千景の呟きに『殺した感触』という言葉があった、千景は何を殺した、何を殺さなければならなかった、何故殺さなければならかなった、昨日の戦闘を終えてからずっと病院にいたはずの千景に何があったのか、情報が足りない。だがしかし、心に変調をきたしているのがあからさまな千景にその原因であろう事を詳しく話させていいものかと迷いが生じる。

 

「……手、こんなに冷たくなっちゃってるよ」

 

 迷った結果、少しだけ話を反らして千景の様子を観察する事に決めた。

 

「冷たいけど……その方がいい気がしたから……」

 

「そっか、でも僕は千景の手はあたたかい方が好きだな」

 

「え? ──へぅっ!?」

 

 言いながら鷲掴んでいた千景の両手をそっと引き寄せて僕の頬と手に挟んで温める。頬に触れた千景の手の冷たさに心がひどくざわめいた。

 

「の、乃木く、な、なにを……」

 

「あたためてる、手が冷えきってると痛いっぽい痺れがあったりするじゃん。それに、これからご飯食べるんでしょ、かじかんだ手じゃお箸使うのも大変だよ」

 

 幼子のような表情からまた動揺の表情へ、変移する顔と共に顔色に赤みが増していく。そして、赤みが増すにつれて千景の瞳の濁りも薄れていくように見えるのも気のせいではないように思える。

 

「な、なんで……頬?」

 

「そうしたかったから」

 

 隻腕の僕では千景の手を温めるために両手で包む事ができない。なので、無くした左手の代わりに自分の頬を使っただけの話だ。

 僕の頬から千景の手へと熱が移り、冷たさに頬の感覚が鈍っていく。それでもまだ冷たい千景の手を温めるために頬擦りするように当てている箇所をずらして熱を分け与える。

 

「ひゅい!」

 

 息を吸っているのか吐いているのか解りにくい詰まった呼吸音を鳴らしながら千景の顔が動揺の表情から眼を丸くさせる表情へ。おかしい、普段の穏やかな千景と比べて表情の変化があまりにも大袈裟で激しく移り変わっている。呼吸も乱れている様子だし一度落ち着かせた方が良いのかもしれない。

 

「千景」

 

 あまり刺激を与えないようにゆっくりと踏み込んで距離を近付ける。僕との会話に集中させられるように、僕以外に視線を取られないように僕以外が見えなくなる状態にするためだ。

 

「なっ、ななな……な、のの、のぎく」

 

「大丈夫、落ち着いて」

 

 激しくなる千景のどもり、上下左右に泳ぎ続ける瞳、震えながら後ずさる足、やはりおかしい。何にそんなに動揺しているのか。宥めるため穏やかな声色になるようにイメージしながら普段よりも少しだけゆっくりと低い声で静かに話しかけ続ける。

 

「大丈夫だよ、痛いのも、怖いのも、ここには無いんだ、だいじょうぶさ」

 

「…………ひゃぅぅ」

 

 じりじりと後ずさり続ける千景を同じ早さで追い掛ける。後ずさる千景の背中が部屋の壁に触れて脚が止まり、代わりに泳ぐ瞳の激しさが増した。

 

「今は僕だけを見て。ここには僕と千景しかいない、他には何も無い、大丈夫、僕と眼を合わせるだけでいいんだ」

 

 泳いでいた瞳が僕の目に向けられて絡まる視線、心の動揺が映されていたのか千景の瞳に薄く涙が滲んで光を携えていた。そこに、濁りは見えない。

 どうにか千景の意識を僕に向けさせる事ができたのだろうか。ひとまずは落ち着きを見せる千景の様子が僕の精神に安堵を発生させて頬が少しだけ弛むのを感じた。

 

「…………ぁぅ……」

 

「ねぇ、千景」

 

「……はぃ……」

 

 会話の受け答えも落ち着いた様子でどもりも無く口調もゆっくりとしている。これならば先程断念した変調の原因について直接聞いてみても大丈夫かもしれない。

 

「いつもと様子が違ったみたいだけど、どうしたの?」

 

「……それは、乃木くんが……」

 

「僕?」

 

 絡んでいた視線を少しだけほどいて逸らす千景。

 千景の変調の原因は僕にある? 気付いてないだけで僕は千景に対してなにか酷い事をしてしまっていたのだろうか。それこそ、心に変調をきたさせて瞳を濁りに淀ませるような酷い事をだ。欠片も考えていなかった可能性に強い自責の念が沸いてくる。

 

「もしかして、僕、千景にとって嫌な事をしちゃっていたのかな?」

 

 僕に悪い部分があったのならば直さなければ、その悪い部分が千景の心に悪い影響を及ぼしてしまったのならば謝らなければと言葉の続きを促す。すると、逡巡するように口を少しだけ開いたり閉じたりと繰り返した千景が躊躇いがちに呟いた。

 

「……嫌じゃ…………ない……」

 

「……んん?」

 

 つまり、どういう事か。千景は僕に嫌ではない事をされて瞳を濁すほどに心を変調させていたのか。未だに事の全容を捉えるには程遠い情報しかないのでもう少し詳しく訊ねてみる。

 

「何が嫌じゃないの? 教えて欲しいな」

 

「…………ぁ……ぅ……」

 

 言い淀み、視線を低い位置で右に左に動かし始める千景。絡まりがほどけた視線に集中が会話から逸れてしまったと予想し、再度僕へと集中させるために瞳と瞳を近付ける。 目と鼻の先の距離に、潤む千景の瞳。お互いの視界にはお互いの顔しか見えない。

 

「教えて、欲しいな」

 

「…………ぅ……」

 

 千景しか見えない視界の中、声を大にする必要のない距離で囁く。

 千景の顔が暴発するように紅潮すると同時に、頭部への激しい衝撃と痛み。突如の事態に混乱しつつ頭を押さえつつその場で膝から崩れ落ちた。

 

「ふごぉぉぉぉぅ」

 

「青葉、お前はまた何をやってるんだ」

 

「千景、大丈夫か? こういう時はパンチくらいやっとかなきゃだぞ」

 

 脳髄が揺らされるような感覚の中で聞こえる呆れと怒気の混ざる姉の声と千景を気遣うような球子の声。不本意だが慣れ親しんでしまった感覚が僕は背後から姉に拳骨されたのだと悟る。

 

「んごぉぉぅぅ……逆に聞くけど、おふっ、何故今僕は拳骨されたのか」

 

「あらあら、青葉ちゃんまたやらかしをしたんですか?」

 

「わぁ、千景さんトマトみたいに赤くなってる。今回は相当やらかしたんだね」

 

 僕としては不条理に過ぎる拳骨の理由を問おうと痛む頭を押さえつつ振り返れば開けっ放しだった引戸からやれやれと言わんばかりな表情の幼馴染と杏が入室してきていた。

 

「なにやら青葉の珍しい大声が聞こえたから様子を見に来たら半開きの引戸から強引に迫っているようにしか見えない姿が見えたからな、どうせまたいつものだとは思ったのだがあまりにもあんまりな光景だったから止めさせてもらった」

 

「強引に迫るなんてしないよ、僕はただ千景──」

 

「黙れ、今回のこれはさすがに無頓着が過ぎる。お説教してやるからそこに正座しろ」

 

「えぇぇ」

 

 怒りにも羞恥にも見える赤面の姉、どうやら聞く耳を持ってはくれないらしい。それならば、一度お説教に耳を傾けてから釈明した方が手っ取り早いだろうと予測して渋々ながら正座する。

 

「ちょっと気弱な部分がある千景には難しいかもだけどやめて欲しい時は『やめて』って言わなきゃ駄目だと思うぞ。こいつ、この通りあっぱらぱーだけど相手が本気で嫌がる事はしないようにはしてるみたいだからそれだけでもわりと自衛できるからな」

 

「………………うん」

 

「千景さん、落ち着くために一口でもお水を飲んでおきましょうか」

 

 千景に寄り添うように世話を焼く球子と杏。

 

「なんか盛り上がってるみたいだけど何かあったのー? ……ぐんちゃんがまっかっかでちっちゃくなってる! また青葉くん何かやらかしたの?」

 

 ひょっこりと開け放たれていた引戸から顔を覗かせた友奈が目を丸くさせた後に苦笑いを見せる。

 

「そもそもだな、青葉には自分の言動が客観的に見てどんな風に見えるかの意識が──」

 

 懇々と口を動かし始める姉にお説教が長引く気配を察知しつつ、僕はただ「はい」と言うだけの人形になることを決める。

 

 視界の端に佇む黒いヒトガタに笑われてるような気がした。

 




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
パワフルなおっさんのゴーイングマイウェイには戸惑った。ゴーイングマイウェイしていいのはゴーイングマイウェイされる覚悟があるやつだけだ!なお、普段の青葉くんにゴーイングマイウェイしている自覚はまるで無い。サンキュー相棒!助けられたぜ!マジでサンキューな!サンキュータッマ!自分を客観視できないあっぱらぱーだから拳骨に不条理さを感じた、この拳骨は当然の仕打ちだと思われる、だって昼間っから盛ってるセクハラ野郎にしか見えねぇもん。千景の病室に入った時に引戸を閉めてなかった故に『千景!』が廊下に響き渡った。セクハラだと決めつけられたのは普段の行いのせい、実際セクハラだしね。

若葉さん
皆の事を家族のように大切に思ってるのは解るがな、それでも本当に家族な訳ではないし異性でもあるのだ、あまり軽率に肌に触れたりしていいものでは無いだろう。更に言うなればだな、嫁入り前の女子と二人きりの部屋であんなに距離を詰めていたら変な誤解を生じさせたりいらぬ不安を与えてしま──お説教の内容を一部抜粋。滅多に無い弟の大声を聞いて異変を察知してすぐさま出動、引戸の前一番乗り、覗いたらセクハラにしか見えなかった。

ひなたちゃん
軽率に怪我しないで下さい、もっと怪我を重く捉えて下さい、あなた達が怪我をする度に私はとても不安です。若葉ちゃんのお説教の援護をしようと思ったけど若葉さんが猛烈に説教してたので黙ってた。

タマっち
お父さんがなんとなく恥ずかしいお年頃。でも嫌いじゃない、むしろ好き。でも恥ずかしい、帰って。サンキュー相棒!助けられたみたいだな!ギヴ&テイク、いや、ギヴ&ギヴだ!勝手に助け合おうぜ相棒!あんずの部屋で一緒にご飯、聞こえた大声、今度はどうしたと出動してみれば発情期の畜生みたいなあっぱらぱー、溜め息。

杏ちゃん
廊下から聴こえた聞き覚えのある野太い声にビクッってなった、直後に聴こえたタマっちの声に安心した。タマっちはお父さんと仲良しだね。廊下から聴こえた呼び捨ての大声に少しだけビクッとした後に鼻息荒くなりかけた。見にいったらセクハラだった。

友奈ちゃん
今日は誰かの大声をよく耳にする日、タマちゃんのお父さん、青葉くん、お説教してる若葉ちゃん。ぐんちゃんがまっかっかなのを見て青葉くんがまたやらかしたんだろーなーって思っちゃう信頼。

千景ちゃん
昼食にしようと手を洗ってたらいつの間にかいつものぽやぽやが無い男子が部屋にいていきなり手を握られた。憂いの感じる表情で「好き」って言われながら握られた手に頬擦りされるしいつになく距離も近い、半ば混乱に陥った直後に二人きりの状況を強調された上に更に距離を詰められて顔も近くなった挙げ句微笑まれて囁かれる。そしてまた顔が近くなって──打撃音と共に男子が視界から消えた。嫌じゃないって、何が?ところで関係無い話だけど地元では『阿婆擦れの子』とか『淫乱女』って呼ばれてるらしいね!

タマっちパパ
パワフルな昭和風味父ちゃん。娘が泣かされたら相手を殺しちゃうかも。

タマっちのお母さん
普通のお母さん。お母さんという存在は強いのだ、故に普通のお母さんは普通に強いのである。

黒いヒトガタ
見てる。

───

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