乃木さんちの青葉くんはこんな感じである   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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79:弱い感じの人間、もしくは神託の話

 

 大鎌の刃が私の肩から脇腹を通り抜ける。

 ずるり、身体がずれて離れる。

 手に残る感触が私がやった事だと告げる。

 

 大鎌の刃が私の腹部を横一直線に通り抜ける。

 ぐらり、身体が傾いて離れる。

 手に残る感触が私がやった事だと訴える。

 

 大鎌の刃が私の頭を胴体から切り離す。

 くらり、回転した視界が最期に頭の無い私を映す。

 私を切った他の私の手に残る感触が私が私を切ったのだと責める。

 

 私が消えれば次の私へ、私はバラバラになり続ける。

 気持ち悪かった、怖かった、嫌だった。だけど、どれほど拒む気持ちがあっても私はバラバラにされ続けた。

 

 助けを求めた。切り続ける私と死に続ける私しかいないのに私は助けを求めた。そして、私しかいなかったはずの場所で煤けたような人を見つけ、助けを求めた。助けを求めながらまたバラバラになった。

 首を、胸を、腹を、手を、足を、切り離されてバラバラにされ続けてバラバラにし続ける。嫌だと願っても、助けを祈っても、刃を拒んでも、変わる事なく私が私を殺す。

 

 私にはもうどうしようもなくて、また胸に大鎌が走った。

 でも、身体はずれず、落ちもしななかった。

 

『大丈夫』

 

 煤けた人とは違う、ひどく黒ずんで汚れた人が私を押さえてくれたのを私が見た。

 だから、私は押さえられてない首に大鎌を走らせた。

 

『大丈夫』

 

 汚れた人が私の頭を抱いてまた押さえる。

 私が繰り返し私に大鎌を振るう。だけど、私はバラバラにならずに手に人を切る感触だけが残される。

 

 ひどく黒ずんで汚れた腕が私を抱いて繋ぎ止める。

 汚れているけれども、力強くて大きくて優しい腕。私の気持ち悪い手とはまるで違う。

 何度も私を切りつけて人を切る感触がこびりついた自分の手に視線を落とす、どうしようもなく疎ましくて忌々しくて気持ちが悪い。

 

 気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪い。だから、私は自分の手首を──

 

 

『ぐんちゃん!』

 

 

 自分を呼ぶ友達の声にハッと意識の場所が反転する。複数の自分から唯一の自分へ、妄想から現実へ、優しく包まれていた感覚が苦しいほどに締め付ける感覚へ。開けた視界、妄想の中では何も掴んで無かった手を掴む両手の元へと視線を辿らせれば高嶋さんのとても不安そうな顔が間近に映り、視界の端に見慣れた麦穂色が申し訳程度に見えていた。

 

「ぐんちゃん、私がわかる?」

 

「うぐっ……」

 

「ぐんちゃん!?」

 

 必死さを秘めた問い掛けに答えようとするも、開いた口から漏れたのは締め付けられる圧力による声にならない鈍い音。その音を聞いた高嶋さんが表情を辛そうなものへと崩す。

 

「……くる……し、い……」

 

「! ……どこが苦しいの?! はっ!? 救急車!」

 

「っ! ……千景!」

 

 苦痛の中でなんとか絞り出した声に慌てた様子で私の手を離してスマホを操作しようとする高嶋さんが見えるのと同時に、私を締め付ける圧力が更に増して耳元で私を呼ぶ乃木さんの緊迫した声が聞こえた。

 巨人に握り潰されているのではと半ば本気に錯覚するほどの圧力に尋常ではない息苦しさと苦痛を覚えながらも助けを求めるように状態を訴える。

 

「あ、ばら、潰れ……」

 

「あばらが苦しいの!? えと、救急車何番だっけ!」

 

「大丈夫だ千景! すぐに医者を呼んで楽にしてやる!」

 

「ぅぎゅ……!」

 

 耳鳴りが聞こえ始めるほどの大声が耳元で放たれ、更に増した圧力が私の肺からなけなしの空気を絞り出した。

 

「取り敢えずお前ら落ち着け、若葉はその腕を離せ」

 

「117に掛けてみて下さい」

 

 視界の外から呆れたような土居さんの声と落ち着いた伊予島さんの声が耳に届く。

 

「仲間が苦しんでいるのに落ち着いていられるか!」

 

「うん! えぇと、1! 1! 7!」

 

 またも耳元での大声と真面目な顔でスマホを操作する高嶋さん。

 

「もしもし! 救急車をお願いしたいんですが……あれ?」

 

「どうにもならんなこりゃ」

 

「いいや、どうにかしてみせる! 大丈夫だからな千景! 私がついてる」

 

「そうじゃなくてだな……しょうがない奴だな、そいっ!」

 

「あぅっ!」

 

 土居さんの軽い掛け声と同時に軽い衝撃と乃木さんの微妙に似合わない小さな悲鳴、私を締め付けていた圧力が途切れて解放される。

 

「何故叩く!?」

 

「千景を苦しめてるのは若葉のゴリラ腕力だ、自分の腕が震えるくらい締め付けたらやられた側が苦しいのは当然だろーよ」

 

「……あっ」

 

「『楽にしてやる』って、これからトドメを刺してやるって宣言にしか聞こえなかったのがヒドいな。介錯人かよ」

 

 盛大に呆れた声の土居さんに諭されてようやく落ち着いた乃木さんの間抜けな声。いい加減離れて欲しいがまずは呼吸を整える。

 

「これなんかおかしい! おかしいよアンちゃん! ずっと今の時間がアナウンスされてる!」

 

「今何時でした?」

 

「え? えっと、二時四十五分」

 

「もう少しでおやつの時間ですね、背中の診察に行ってる青葉くんもそろそろ帰ってくるかもしれません」

 

 ほんな僅かな無言に満ちた間。

 

「乃木さん」

 

「! ……あ、あぁ、千景、大丈夫か?」

 

 背まで回されていた腕をほどきながら少しだけ後ろに下がって至近距離から私の眼を覗き込む乃木さんにおずおずと訊ねられる。

 

「その、だな……。青葉を参考にした結果こうなってしまっただけで、千景を苦しめようとした訳じゃ──」

 

「何事にも報いを、だったわね?」

 

「んにゅ!?」

 

 あまり状況を理解してるとは言い難いけど、あの苦痛は乃木さんのせいだったというのは土居さんの発言で把握している。求めた覚えのない言い訳を並べてながら叱られる事を悟った仔犬のような顔へと手を伸ばして頬を指で摘まんで引っ張る。

 

「いふぁい……ひゅまない、ひゅるしふぇくぇぇ……」

 

「わぁ、若葉さんも青葉くんと同じくらいに頬っぺた軟らかいんですね」

 

「ぐんちゃん、大丈夫なの?」

 

 情けない声の謝罪を聞き流しながら眉尻を下げている高嶋さんに向き直る。

 

「えぇと……たぶん、そうだと思うわ」

 

「よかったぁ。なんだかぼーっとしてたから声を掛けてみたんだけど、何を言っても無反応だったからもしかして凄く調子が悪くなっちゃったんじゃないかって思ったよ」

 

「ふぃかけぇ……てをふぁなひぃてくえ……」

 

「少し……考え事にのめり込み過ぎてたみたいね」

 

「その考え事について詳しく聞いてもいいですか?」

 

 何を言っているのかわからない情けない声を聞き流しつつ高嶋さんにとの会話を続けていると、伊予島さんの真剣な声色が挟まれる。

 

「私達から見て先程の千景さんは考え込んでいたと言うよりは自失状態に見えてたんです。それも、大きな声で呼び掛けても無反応が続くほど意識が薄い状態でした」

 

「……え?」

 

「うん。さっきのぐんちゃんって、目を開けながら寝てるんじゃないかってくらいぼーっとしてたんだよ。それでね、こんなにぼーっとしてるのはちょっとおかしいなってみんな心配になってたの」

 

 二人の説明に胸が奇妙なざわめきを覚える。私が自覚しているのは最近見る頻度が増えた嫌な夢の内容をふと思い出してしまっていたというだけなのだが、どうやら私は私が思っているよりも思考に没頭していたらしい。

 

「ふぃかけ? ふぉのわわふぁなひひゅるのか?」

 

「なに言ってるのかわかりそうでわからん。面白いから写メ撮っておこう」

 

「ふぁまふぉ……」

 

「お? 今のはタマの名前を呼んだのか?」

 

 情けないのと暢気なのをそのままに二人と話を続ける。かなり苦しかったのですぐに楽にしてあげるつもりはない。

 

「それでその、今回は混乱している様子ではなかったけれど雰囲気が以前夜中に酷く取り乱した時にとても似てまして……もしかしたら、今のも穢れの影響かもしれないから詳細な記録を残しておきたいんです」

 

 穢れの影響、そして、それの対処法を知るために最近の伊予島さんは以前にも増して勤勉になっている。私が大社と医者にに不安を抑える薬を服用するように指示されるきっかけとなった夜を境に、彼女は常にメモ帳を持ち歩いて些細な事でも記録を残している姿が見られるようになった。

 前例が無くて専門家さえも殆んど何もわからないのなら、もっとも間近で影響を観測できて実際に体験している自分達こそが詳細に理解できるはず。それならば自分達を守るためには誰かに調査を任せるのではなくて自分達で影響を回避する術を探すべきだと思う。とは、記録をつけはじめた時の伊予島さんの言葉だ。穢れの影響を彼女も恐れているのに、真っ正面から向き合って知恵で打ち勝とうとしているのだろう。彼女の勤勉さと慎重さ、そして、恐れている対象から逃げない勇気は真に尊敬されるべきだと思う。

 

「話すのは構わないのだけど……なにをどう話せばいいのかしら?」

 

 伊予島さんに協力するのは吝かではない。むしろ、進んで協力したいと思っている。彼女が穢れの対処法を解明できたのならばここ最近の私の変調や、これから先皆に発生するかもしれない変調を解決できるかもしれないからだ。その為には恐らく最も穢れの影響を受けている私のデータが何かの手掛かりになるかもしれない。

 

「できるだけ詳細に全部です。あの夜以来千景さんの変調がここまでハッキリと現れたのは今回が初めてですから、もしかしたらこれが重要な記録になるかもしれません」

 

「いつもは『あれ?』って思った時には青葉くんがぐんちゃんに呼び掛けてすぐにいつも通りになってるもんね」

 

 私自身は朧気程度にしか記憶に無いのだが、私が酷く取り乱してしまったらしい夜から考え事をしたり少しでもぼんやりしようものならすぐに乃木くんが私の手を取って意識の状態を確認してくるようになった。かなり心配を掛けてしまっているのか乃木くんは傍にいる時は常に私に注意を払っているらしい。嫌ではないけど、何かを感じたのならばすぐに手を握られて至近距離で眼を合わされるのはとても恥ずかしい。

 

「青葉が言ってた目と雰囲気で良くなさそうなのがわかるってのは今の千景を見てなんとなくタマもわかったけど、それにしたってアイツ反応早すぎだよな」

 

「あほふぁはふぃふぁへふをおふひぃへふふぁはは」

 

「本格的に何を言ってるのかわからん。ってかもう痛みに慣れて平気な顔してんのかよ」

 

「できるだけ詳細に話すのは構わないのだけど……考え事をしてたらいつの間にか絞め潰されて手を握られていたとしか言えないわ」

 

 私の主観ではただそれだけ。だけど、皆から見た私は放心と表現するほどに意識が薄い状態らしい。実際に乃木くんにはいつの間にか手を握られていたり今の様に気付かない内に絞められたりしているので私が認識してないだけで私はそこそこの頻度で意識が薄くなっているのだろう。

 大社の指示により一日のほぼ全てを集団行動する事になっているが、もしもなんらかの理由で私が一人になっている時にこの状態になったらと思うと少し怖くなる。

 

「気付いたら呼び掛けられてる……そこは青葉くんが気付いている時と変わらないみたいですね」

 

 カリカリとメモ帳の上にペンを走らせながら伊予島さんは言葉を続ける。

 

「それで、その考え事とは何についてですか?」

 

「……えっと…………」

 

 いつも記録を残す時は時間と場所と何をしていた時かという程度のメモらしいが、今回は先程の言葉通りかなり詳しく記録を残したいのだろう。食い気味な雰囲気に少したじろいでしまう。

 

「ここで言いにくい事でしたら後でメールか文書で教えて欲しいです」

 

 伊予島さんにしては珍しく圧力を感じさせる物言い、言外に例え知られたくない内容だとしても絶対に教えて欲しいと言っているのだろう。彼女にとって今回の変調はそれほど重要視しているらしい。

 

「いえ、言いにくい事って訳じゃないから問題ないわ……最近見る夢をふと思い出してたのよ」

 

 私は元々寝起きの時点で睡眠中にみた夢の殆んどを忘れる質だったけれども、取り乱したらしい夜に見た印象強い光景と、それに似た夢ばかりを見ているせいかこれについては記憶している部分が多い。その夢の光景をふと思い出してたいたと告げ、内容についても簡潔に説明する。

 自分で自分を切る、必死だったあの時は躊躇い無くそれをしたがとても気持ちの悪い行動だった。殺生は穢れを産む、もしかしなくともあの時の行為と今も尚感じている気持ちの悪さや私の変調は無関係ではないのだろう。

 

「自傷の悪夢か、あの戦いでの影響なのだろうな……。すまない、私の失態をフォローしたせいで千景にこんな負担を……」

 

 だけど、それをした事に後悔は無い。伊予島さんとの会話を続けている内にいつの間にか力が弛んで摘まんでいるだけになっていた頬を引っ張り直す。

 

「ふぃ!? ふぁへふぃっふぁふ!」

 

 萎れていた表情から一転して驚きと情けなさの混ざる表情に変わる乃木さん。もうしばらくは楽にはさせない。

 

「今更の話だわ……。全員無事に帰るために貴女が突撃して、同じように全員無事で帰るために私が助けた。これは私が自分で決めた行動の結果で、この話はこれでお終いなのよ……めんどくさいから謝らないで」

 

 本音半分以上の言葉を言い切った後にもう少しだけ引っ張る力を強める。

 時代錯誤な侍のように責任感の強いこのリーダーはこのように強く言っておかなかれば、きっと後々も気にして引きずりつづけるだろう。そうなってしまっては今後の戦いの際に彼女が最も活躍するであろう突撃という行為に気後れしてしまうかもしれない、それは私達全員の勝率を大きく下げてしまうと容易く想像できてしまう。

 

「……ふいぃぃぃぃ……」

 

「責任を感じてるのならば次からはもっと上手くやって、これから先も勝ち続けなさい」

 

「……ふぁふぁっふぁ」

 

「何を言ってるのかわからないわね」

 

 引っ張っていた力を弛めると「わかった」と微かな情けなさを残しながらもしっかりとした口調で言い切られる。もう少しだけ引っ張ってやるつもりだったけどなんとなくその気が萎えたので指を離した。

 

「おぉ、まるで千景相談役がポンコツな後輩を叱る先輩みたいだ」

 

「まるでって……ぐんちゃんは最初から先輩だよ?」

 

「若葉をポンコツって表現したのを否定しないのが友奈にとっての若葉の認識が透けて見える」

 

「はっ!? タマちゃんの巧みな話術に嵌められた!」

 

「後からでも否定しないのが面白いな」

 

「私はポンコツに見られてたのか……!?」

 

 愉快なやり取りをする二人とその横で愕然とするポンコツなリーダー。そんないつも通りな三人の空気に参加せずに手元のメモ帳を難しい顔で見詰めていた伊予島さんが誰に聞かせるつもりもなかっただろう独り言をこぼす。

 

「最初にまず寝てた時、それから順に階段で躓いた後、テレビでニュースを見てた時、枝毛を切って整えてた時、考え事してた時……」

 

 伊予島さんの呟きは私に変調が起こった時の羅列。らしいと言うべきか、それに気付いた土居さんがしょげた乃木さんと慰めようとあたふたする高嶋さんをそのままに訊ねる。

 

「どうしたあんず、なんか気付いたのか?」

 

「ううん、なんにも。今のところそれぞれの共通点が見付からないしそもそもの情報がまだ少ないから……」

 

「まぁ、まだ調査を始めたばかりだしそんなもんだろ」

 

 眉尻を下げた表情でメモ帳をしまう伊予島さんが申し訳なさそうに応え、堂々と微笑む土居さんがぽむぽむと伊予島さんの肩を叩く。

 

 もしかしたら、私は伊予島さんが羅列した事の共通点が解るかもしれない。そして、それはきっと私が最初に打ち明けなければこの丸亀城の誰もが気付く事ができないだろう事だ。

 寝てた時は、自分を殺す夢を見た時。

 階段で躓いた時は、かつて階段から突き落とされたのを思い出していた。

 ニュースを見ていた時、高知でイジメ被害者が自殺したと報道されていた。

 枝毛を整えて貰っていた時、鋏を握っていた高嶋さんの事を信じていたのに耳元で鳴らされた切断音にかつて耳を切られた事を思い出してしまっていた。

 今、悪夢を思い出していた時、この手に人を切る感触も鮮明に思い出していた。

 

 今までの変調は、私が不安や恐怖、嫌な思いをした時に発生しているのかもしれない。

 これを打ち明けたら、穢れについての調査も進むのだろうか、その可能性はあると思う。調査に協力したい気持ちはある。でも、打ち明けるのが怖い。

 これを打ち明けるということはつまり、私はかつてイジメを受けていたと暴露する事と同義だ。

 

 失望されるかもしれない、落胆されるかもしれない、幻滅されるかもしれない、軽蔑されるかもしれない。先輩や相談役、同じ勇者の仲間として頼ってくれる皆が私はイジメを受けていた弱い人間だと知ったらどんな反応をするのか、とても怖い。

 

『勇者は強いのよ』

 

 以前、友達の死を想像して怯えていた乃木くんへと向けた言葉。勇者は強い、それは間違いない。でも、私は弱い。腕力や武術という意味ではなく、人間として弱い。具体的に何故かと言葉にするのは難しいけど、ここにいる全員の中で格別に弱い。

 たぶん、高嶋さんや伊予島さんは『大変だったね』と悲しみながら受け入れてくれるかもしれない。土居さんや乃木さんは私の地元に義憤を向けるかもしれない。上里さんはイジメを耐えた事を労ってくれるかもしれない。乃木くんは……全部かもしれない。

 皆は人間として強いから、きっと私が人間として弱くても関係無く今までと同じように接してくれるだろうと思ってるはずなのに、"もしかしたら"と考えてしまうのはまさしく私が人間として弱いからなのだろう。

 

 私が弱いと知って、またあの日のように友達を心配して怯える乃木くんを想像してしまう。

 怯えると、とても心が辛くなる。『友達』に、乃木くんに辛い気持ちをさせてしまうかもと考えると、私の心が辛くなる。

 

 

「ぐんちゃん」

 

 

「……なにかしら?」

 

 いつの間にか思考に集中していた意識の外から声をかけら、先程まで乃木さんの頬を引っ張っていた手を高嶋さんに握られていた事に気付く。

 

「またぼーっとしてたよ」

 

「そうみたいね。でも……今回は本当にただ考え事してただけだから大丈夫よ」

 

 嘘を吐いた。

 

 手を握られていた事にさえ気付いていなかった。

 そして、確信した。やはり、私が変調をきたすのは不安や恐怖などの負の感情が引き金なのだろう。

 

「そっか、なんかおかしいなって感じたら、いつでも言ってね」

 

「……ありがとう、高嶋さん」

 

 自分の弱さを自覚しながらもこの心地好い空気に甘えて改善できないのもまた、私が弱いからなのだろう。

 

 

 ─────

 

 

 背中にある縫合した怪我の経過は良好、これならば来週には抜糸できるだろうと医者に太鼓判を押された。

 丸亀城でのんびりと休暇を過ごしているであろう姉を含めた皆に良い土産話ができたと思う。この怪我に負い目を感じている節がある球子や、心配させてばかりの姉と幼馴染をこれで一安心させてあげれるだろう。そんな事を病院のエントランス前で考えながらなんとなく黒いヒトガタと視線を合わせあっていると、濃さ故に視界を阻害する黒いヒトガタの向こうに黒塗りの乗用車が停車した。

 

「ん、時間通り」

 

 たまたま怪我の予後を診察する日と幼馴染が大社にて役目を勤める日が重なり、それならばと幼馴染が気を利かせて帰りは車に同乗できるようにと計らってくれたのだ。

 車に向かって歩みを進めて黒いヒトガタを通り抜けたと同時に静かな音と勢いでドアが開かれて幼馴染が下車し、僕へと視線を合わせて歩み寄ってくる。

 

「ひな、ちゃ……?」

 

 迎えに来てくれてありがとう。そう言おうとした口が動きを止める。

 なんてこと無い日常の中では決して誰にも見せる事は無いであろう感情を堪えすぎて全ての思いを胸の内に封じ込めたような虚無の表情。そんな顔をした幼馴染を初めてみた衝撃に自分の中の身体の動かし方を忘れてしまった。

 

「……青葉、ちゃん……」

 

 とん、と、軽い衝撃で僕の胸へとぶつかるようにしがみつく幼馴染。

 動揺が抜けきらず身体の動かし方も忘れたままのはずなのに僕の右腕は幼馴染をゆっくりと抱き締めていた。

 

「何があったの?」

 

 何も無かったら幼馴染はこんな表情をしない。

 何も無かったら幼馴染は姉にだって縋るような抱擁をしない。

 何か、幼馴染の心を著しく動揺させる事があったはずだ。

 

「……神託が、ありました」

 

「ん」

 

 大社での役目とは神託を授かる事だったのだろう。その神託が幼馴染をこれほどまでに動揺させたのか。

 

「近日中に……バーテックスによる大規模な侵攻が開始……されます」

 

「え?」

 

「……バーテックスの……総攻撃、です」

 

 つまり、四国を守る勇者達と世界を滅ぼす化物達の総力戦が始まると言う事だ。

 

 薪である巫女の情報はまだ得られず、薪をくべる神性を帯びた火の用意もまだ整っていない。

 降伏の狼煙を上げるよりも早く、次の戦いが始まる。

 

「……きっと、大丈夫さ」

 

 幼馴染は実際に戦いへ赴く皆に動揺する姿を見せないようにするため、しっかりとこの神託の内容を伝えるために噴き出し続ける不安を必死に自分の中に封じようとしているのだろう。

 

「あおば……ちゃん」

 

 腕の中から縋るように僕を見上げる幼馴染。

 

「大丈夫」

 

 どうか、そうなってくれと願いながら求められたであろう言葉を幼馴染と自分に言い聞かせた。




 
 
 
 
 
 
 
青葉くん
大丈夫さ!うん、大丈夫!イケるイケる絶対大丈夫!マジで大丈夫だからなんとかなるなる!…………ほんとにぃぃ~~~~???

頬っぺたのびのびさん
ベアバッグで1キル取り損ねた、取り損ねてよかったね!何事にも報いを、悪い事してしまったと思ったからされるがままひ頬っぺたのびのびの報いを受けた。青葉みたいにはやはりできないなって思った。何言ってるかはフィーリングで読んでね!

ひなたちゃん
神樹から「そろそろアイツらカチコミくるで~」と世界規模のネタバレされてめっちゃ不安になった。きっとこれから一番不安なのは最前線に立つ皆のはずだから感情を整理しようと頑張ってたけどちょっとツラかった。

タマっち
うっわ、野武士ゴリラやべーなって思いながら見てた。ホントに苦しそうだから強めにチョップして止めた。

杏ちゃん
大社から常に最新の資料を取り寄せたりのんびりとしてる時でも目の届く仲間を常にチェックしたりと穢れの研究にガチり始めた。恐いものを恐いままにせず知恵で挑む策士の勇者。

友奈ちゃん
若葉ちゃんはポンコツ、否定しない。でも頼りになるリーダーだって事にも全肯定。ぐんちゃんのお手てにぎにぎ、この行動は青葉くんの影響を受けていると言うことは否定できない。

千■■ゃん
つまりは居心地の良い空気がもしかしたら壊れてしまうかもしれない事に怯えてる。ネガティブ思考に囚われる弱虫メンタル。お薬のんでる、怪しい薬ではない、ちゃんとした医者の処方した抗不安薬。

───

誤字報告ありがとうございます。

アンケートの結果は活動報告にて。
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