乃木さんちの青葉くんはこんな感じである 作:ቻンቻンቺቻቺቻ
雲一つ無い夜空、月が凍てつき、星が嘲笑う。恐ろしい程に美しい。天空恐怖症の僕がしっかりと夜空を見据えたのは何時ぶりか、空があんなにも恐ろしかったはずなのに些細な事だと捨て置く事ができる。"大切"を死なせてしまうかもしれない恐ろしさに比べれば、ただなんとなく恐ろしいだけの天空などあまりにも小さな事だ。
僕はこんなものにあれだけ心を乱していたのかと思うと、その未熟さに深く恥を感じるばかりだ。
「ほんと、未熟ばかり恥ばかりの半生だったよ……だからこそ、最期くらいは誇りを抱えていきたいと思うんだ」
たくさん歩いたような、まだ少ししか歩いてないような時間の感覚が曖昧に感じる中、数歩先を先導する黒いヒトガタに話掛ける。たぶんだが、大きな病棟が建つ程度には栄えた場所から人の気配が無いところまで移動している事からそれなり程度には歩いているのだろう。
利害の一致で利用し合っている関係だが、黒いヒトガタが敵ではないと理解できてから仲間意識に似た妙な親近感を覚えてしまっているしまいついつい話掛けてしまうのだ。
そして、当然のように返事は無い。無言のまま地面から這い出てきたかのように現れたバーテックスの幻覚を一刀で祓う黒いヒトガタ。
「あぁ、そうだ、そういえば僕が認識できていなかっただけで穢れの溜まりが少ない時からずっと幻覚を祓っていてくれたんでしょ? そのお礼を言ってなかったね」
返事は無いが、話し掛けつづける。
僕が幻覚を見た時の殆どは妹が戦いに赴き、切札によって発生したたくさんの穢れがまじないで僕に移された時だ。止まった時の中で穢れを移されて時が動き出せばその影響で幻覚を見る。そして、その後に移された穢れそのものである黒いヒトガタが幻覚を祓って僕を正気に戻す、簡単な理屈だ。
穢れが移った最初から幻覚を祓ってない理由も簡単だ。かつて梟笑いの老人は爆発するように突然現れた穢れに冒されれば勇者であっても酷い悪影響が有り得ると言っていたが、時間停止によって擬似的な穢れの爆発的増加をこの身に受けた僕の発狂具合が黒いヒトガタの対応できる範囲を越えていただけなのだろう。発狂してから穢れの爆発が落ち着き、神霊の欠片程度でしかない黒いヒトガタが対応できるようになってから幻覚を祓い、僕は正気に戻されていたのだ。
幻覚は消えていたが精神の猛毒である穢れはそのまま、幻覚を祓っても大元である猛毒が残っていれば僕を蝕み続けるのが本来だ。だけど、黒いヒトガタがそれを抑え続けて幻覚を祓い続けてくれたからこそ僕は皆との日常を問題無く過ごす事ができていたのだ。
「ありがとう、君のおかげで今夜僕は自身に課した役目を果たせる」
やはり、返事は無い。無言のまま、電柱の陰から僕に憎悪の眼差しを向けていた妹の幻覚を斬り祓う。すこし、心臓に悪い。
「今こうやって君の剣技を見れるのは、僕に溜まった神性の欠片である君そのものがたくさんになったからなのかな?」
どんなモノでも欠片がたくさん集まればある程度は元の形が見える。この黒いヒトガタもたくさんの穢れで力を増し、僕のような只人に視認できるほど存在の強さを増したのだろう。最初は一瞬現れるだけだったのに、徐々に見える時間が伸びて四六時中見えるようになり、今では些細な動きまで見れるようになったのはそういうカラクリなのだろうと推測する。
返事は無い。だが、一瞬だけ僕へと振り返った動きの流れで燃える落としたはずの僕の左腕を片手で斬り祓う。無いはずの左腕で火傷の幻肢痛を感じていたのでとてもありがたい。それはともかくとして、
「今の剣技、僕の動きじゃん」
どうやらこの黒いヒトガタは僕を見続けている内に技を見て盗んでいたらしい。既に神域の技量がある癖に正統とは言い難い僕から技を盗むとは随分と勉強熱心な事だ。
剣士として格上であろう相手に技を盗まれる。神域の存在に僕の技に盗むだけの価値があると判断されたのは嬉しいが、神域の技量を持つ存在が僕の剣技を盗んでも僕が振るうのとなんら動きが変わらないという事実に僕の剣技はこれ以上発展しないのかもしれないと思ってしまい微妙な気分になる。僕の剣技は技術として頭打ちなのだろうか。
「まぁ、今夜が最期だから発展もなにも無いけどね」
僕なりのブラックジョーク、もちろん何の反応も無い。直後、空から墜ちてきた血塗れの勇者装束を纏った友奈があらぬ方向に折れ曲がった四肢でもがき、僕に助けを求める視線を送っている幻覚を大輪の花火のような剣技で斬り祓った。
まず間違いなく妹の剣技の模倣、しかも、模倣ながら妹よりも少しだけ洗練された力強い一閃。
「両手で剣を握れない僕には絶対に至れない境地……見せびらかしてくれるじゃないか」
返事は無い。無いまま歩き続けて次の幻覚を斬り祓う。
杏の首を絞める球子と球子の顔に掴みかかって眼窩に指を突き入れて目玉を潰して頬肉を爪で抉る杏、大切にし合う二人をこれ以上無いほどに侮辱する幻覚を僕と妹の剣技が合わさった動くままに花火を咲き散らす剣閃で斬り祓う。
見事な剣閃二つ、ご丁寧に片手で咲かせた黒いヒトガタ。
「なるほどね、実にお見事。何度か練習する暇さえあればすぐに僕に馴染むだろう剣技だね」
僕と妹の修めている剣技は異なるが、技術の根底は同一である。そして、ずっと見続けたが故に互いに高い精度で再現し合う事もできる。だからこそ、今黒いヒトガタが見せた僕達の剣技を合わせた極上の剣閃は僕にも何度か練習する暇があれば容易く再現する事ができるだろう。
しかし、そんな暇は無い。
「これから果てる僕に励めば届く領域を見せびらかすなんていい性格してるなぁ」
高い親和性を持つ二つの剣技を同時に振るう、ずっと傍にいたのにそんな簡単な事を思い付かなかった自分の不覚を棚に上げて負け惜しみを吐き捨てる。
返事は無い。無いままに僕を苛む幻覚を祓って貰いながら歩き続ける。
「大橋……こんな所に天の神の巫女が?」
歩き続けてたどり着いたのはかつて妹達が苦戦の末に超大型を討伐した場所。視界の奥まで続いている広くて長い橋が四国を囲む植物組織の壁を跨いでるのが見える。
ふと、気付くと黒いヒトガタが姿を消していた。
「案内ありがとう、ここから先は僕の役目だ」
ここ最近はずっと見えていたのに消えた、それをもう僕に姿を見せる意味が無くなったのだと解釈し、共犯者の神官に大橋へ来るようにと一方的に告げるだけの連絡を済ませて大橋の先へと歩みを進める。
吹き抜ける潮風。一度風上を見て、また前に視線を戻した時に彼女が現れた。
「……千景……いや、幻か……」
足元の血に濡れた大鎌と両手、肘から先の無い華奢な腕、僕をみる瞳は底無しに昏く、涙に濡れるかんばせは嘆きに歪んでいる。
黒いヒトガタは現れない、僕自身でどうにかしろという事だろうか。
「たとえ幻でも、千景の涙を見るのは嫌だな……」
歩み寄る、涙を流す幻にゆっくりと歩み寄る。
僕は形無いナニかを斬る術など知らない、知ってても"大切"な存在と同じ姿をしてる対象を斬りたいとは思わない。
「もっと、千景の笑顔が見たかった」
これは幻覚だ、千景ではない。解ってはいるが手を伸ばして指でそっと涙を拭う。何かに触った感触も温度も無いが、嘆きのかんばせに流れる涙が滲んで乾いた。
「僕は君を祓えない、だから、腕の無い君の代わりに涙を拭うだけだ」
返事は無い。黒いヒトガタも現れない。
僕を苛む涙が無くなっただけ。偽物の千景もただ僕を見てるだけ。
何も言わず何もしない、そんな幻覚をそのままに橋の先へと向かおうと進もうとした時、幻覚が何かを訴えるかのように僕へと途中までしかない腕を伸ばした。
「……一緒に行く?」
返事は無い。黒いヒトガタも現れない。
しかし、首を縦にも横にも振らないまま幻覚が僕へと一歩寄り添った。
「夜が明ける頃には
返事は無い。でも、
まるで背後霊だと、そう思った。
「……見つけた…………」
「今日、人が滅ぶ。そんな強い予感があったのですが、人は生き永らえました」
まだ距離は離れているのに潮風に乗って届く静かな声。
「滅ばないよ、そのための方法がある」
静かな声色にまだ女性には正気が残っているのではと期待し、それならば協力を約束してくれた四人の巫女達と同じように話し合えるのではないかと、歩みを止めて言葉を返す。
「もしかしたら、天の神は私達人類に赦しを与えるか滅ぶかを決める猶予を与えてくれたのでしょうか」
「いや、今回も勇者達が勝った、それだけの話さ」
独白するかのような巫女の言葉に再度返す。
「ずっと……ずっと疑問に思ってました」
僕の言葉に対して返事は返らないまま、独自を続ける巫女。僕の言葉は届いていないのか、それとも意に介してないのか。
「野山で獣を撃つ私が、猟師として殺生にまみれた私がなぜ巫女なのかと」
巫女が肩に担いでいた細長い鞄を手際良く開き、よく慣れた動きで殺意を取り出す。
「勇者の乃木若葉様、貴女をここで殺して天の神に捧げ、人のために赦しを乞うためだと、今わかりました」
僕を妹だと間違えているのか。向けられた
間違いなく、正気ではない。
話し合いなんてできる状態ではなかった、それならば言葉は不要。
言葉を返さず、疾走と同時に腰の刀を抜き放つ。
弾が当たればそのまま燃えて死ねるように燃料を浴びておけばよかったか、荒事をしに来たのに最初から話し合いだけで事を済ませようだなんて考えは甘えだったのかもしれない。と、一瞬だけ後悔。
「ごめんなさい」
僕の頭を狙いながら呟く巫女。まだ距離は遠いのに、潮風に掻き消されるであろうその声を小さな耳で拾えるのは何故なのか。もしかしたら、僕の五感は生涯の最期にこれ以上無いほどに研ぎ澄まされているのかもしれない。
謝る必要は無い、僕だって加害者だ。そう思いながら僕を射殺しようとする巫女に敬意を抱く。
彼女は、狂気に冒されながらも
それでも、しかるべき時と場所で死んでくれ。
銃口から伸びるまっすぐな殺意が僕の額に合わさり続ける。左右に蛇行して走ろうとも体勢の高さを変えてもブレ無く合わさり続ける照準、この巫女の猟師としての腕の良さが伺える。どんなに翻弄する動きで駆けようとも巫女の照準から逃れる事はできないと悟り、銃口目掛けてまっすぐに突き進む。
僕の眉間に、向けられた銃口が定まった。
狙った所に確実に当ててくれるだろうその腕の良さ、実にやりやすい。
刹那の閃光、空気を裂く銃声。
同時に、金属が叩き合う甲高い音が響く。
「外し──違う! 銃弾を!?」
斬った。
巫女は当たると確信していたのだろう、両の目玉を落としかねないほどに眼を見開いて愕然を晒け出す。
友奈との三本勝負の二本目までで見付け、三本目で披露しようとしていた弾丸の速度で迫る相手への対処法、対峙する相手の視線で攻撃を受ける場所を予測して反射神経の追い付かない攻撃に対して先に攻撃する事で返り討ちにする。相手の攻撃より先に放つカウンターの一振り。
拳か脚か、それとも肘か膝か、正直な視線で攻撃をする場所を見抜かせてくれはするが、どんな攻撃を放つかは不確定な友奈の攻撃よりも愚直にただ直進してくるだけの鉛弾のほうがよっぽど捌きやすい。存外、銃弾を斬るというのは容易かったようだ。
しかし、容易くはあったが、完璧では無かった。額の前で二つに斬り分けた弾丸の破片が顔に当たり右頬を裂いて左目を塞ぐ。
灼熱の痛みなどどうでもいい、負傷の程度を確かめている暇など無い、頭部への衝撃で脚がもつれて体勢が崩れた事の方が問題だ。
「ありえない!」
半分になった視界でも動揺がありありと見てとれる表情を剥き出しにする巫女だが、銃口を僕に向けたまま猟銃のレバーを手際良く操作して再度照星越しに僕を見据える。
恐ろしく腕が良い。きっと、この巫女は世界がこんな事になってしまう前から野山で屈強な獣と命のやり取りをしていたのだろう。顔に現れている動揺と身体の精密な動作が完全に切り離されているように見える。
銃器には詳しくないが、今のレバー操作で次弾の装填は済んでいたのだろう。再度、僕に向けて殺意の視線が定められる。
半分が使い物にならなくなった視界、巫女の指が引き金を引く予兆を見抜いたが今までの視界との違いに何処を狙われているのかが見抜けないまま。
死の気配に思考が加速して世界が相対的に緩慢となる。すべてがのろまな世界、その中で唐突に僕の目の前に現れた黒いヒトガタ、世界ののろまさに縛られない堂々たる動作で構えた刀で僕の胸を貫こうと真っ直ぐ突き出した。
──これは、助太刀か!
体勢を立て直しながら、黒いヒトガタの突く刀を鋒から柄を握る手まで縦真っ二つに斬るつもりで渾身の一振り。
鉛が鉄を滑り、火花が咲いた。
刀が砕け、流れた鉛弾が僕の脇腹を喰い抜く。
だが、僕は生きている。痛みに生存を実感、世界が早さを取り戻す。
「また!? これが勇者! ……化物!!」
僕はただの人間だ!
巫女が放つ恐慌の叫びに心中で叫び返す。
畏れに顔を歪めながらも手早く猟銃のレバーを操作している巫女に役目を果たした愛刀を投擲する。脛を掠めた愛刀が巫女の背後に転がった。
そして、僕は脇腹から噴き出した血と共に力が抜けて前のめりに転倒、受け身を取るために転がって一回転。前転で一度視界から外れた巫女を次に視界へと収めた時、片膝を着いていた巫女に殺意の視線を定められていた。
万事休す、今度こそ死。されど、諦める気など毛頭ない。
苦し紛れだが、前転の勢いを殺さないようにしつつ全身を伸ばして横に跳び退く。
「は?」
「う?」
重なる僕と巫女の驚愕を塗り潰す唖然の疑問符。
僕が何か特別な事をした訳じゃないし、それを望んで祈ったりもしていないが、唐突に僕ではない僕が六人現れて殺意の視線を中心にそれぞれが僕の跳び退いた先とは別方向に飛び出した。
「なんで!? なにが起きてるの!?」
混乱する巫女が放った弾丸が僕ではない僕の一つを貫く。直後、貫かれた僕ではない僕も、貫かれていない僕ではない僕も風に煽られた煙のように薄れて消えた。
訳が解らないが、一瞬だけ、刹那とも言える短い時間の間、この世界に七人の僕が存在していた。そして、僕の代わりに撃たれて消えた。
ただ一つ解るのは、たった今までどれだけ激しく動いても僕に寄り添い続けていた
飛び退いた先で完全に体勢を立て直した僕と狼狽しながらも手際良く猟銃のレバーを操作した巫女が向かい合って視線が絡む。全てが全て最初の通りでは無いが仕切り直しだ。
これまでの疾走で縮んだ互いの距離、巫女の射撃の間隔からして次の弾丸を捌けば巫女を僕の間合いに捕まえる事ができるだろう。小刀を抜いて疾走、距離を踏み潰す。
「こんなの、ありえていいはずがない!」
既に慣れた半分の視界、殺意の視線が僕の額に定まったのを見抜いた。
一度目の不完全、二度目の介添え、三度目に見た別視点からの被弾。既に、コツは掴んだ。
刹那の閃光、空気を裂く銃声。
同時に振るった刃が、鉛の殺意を完全に斬り払う。
りん、と、涼やかに鉄が鳴いた。
「化物めぇぇ!!」
踏み潰しきった距離、間合いに捕まえた巫女が足掻くように振りかぶった猟銃を叩き落として組伏せる。
地に押し付けて拘束した巫女が淀みの蠢く瞳で僕を睨んで激しく抵抗するが、負傷だらけの僕と比べても非力に過ぎる腕力では逃れる事はできない。このまま共犯者の神官が迎えにくるまで待てば薪拾いは完遂されるだろう。
だが、それまでに済まさなければならない事が一つだけある。
──彼女を錯乱と凶行に至らせる負の感情を、穢れを僕に引き寄せてくれ。
黒いヒトガタに祈る。きっと黒いヒトガタも祈られる前からそのつもりだったのだろう、組伏せるために捕まえた時から感じていた嘔吐感を催すほどの気色の悪い感情、それが祈った瞬間を境に激しく増して僕を苛む。
人類のために、僕の幼馴染のために死んでくれと願うために彼女には正気に戻ってもらい、言葉を交わしたいのだ。
神に捧げる贄が気狂いだなんて大社も認めないだろうし、捧げられる神にも不敬だろう。
妹の戦いを終わらせたいし幼馴染を死なせたくない僕、滞りなく降伏の儀式を完遂して人類を存続させたい大社、穢れに冒されて正気ではなくても自分以外の誰かのために命懸けで武器を握り平和を願っていた巫女、妹のために行動する黒いヒトガタ。この穢れの引き寄せは、誰にとっても必要な事だった。
「っ!……う、うぁ……!」
激しく抵抗していた巫女の敵意に染まっていた顔が驚愕や混乱、悲しみの入り交じる表情に歪む。数度のまばたきの間に瞳で蠢いていた淀みは消え去り、透き通る瞳に透き通る涙が溢れ出てきた。
「ぁ、ぁあぁぁ……ごめ、んなさ……い……」
強く思いの籠められた謝罪の言葉。きっと、殺意を以て危害を加えた僕だけに向けた言葉では無いのだろう。どれ程の思いが籠められたのかなんて推し測る事などできない強くて深い声だった。
「はなしをきいてほしいんだ」
抵抗の気配はかけらも無い。暴れる事は無いだろうと判断して組伏せていた巫女の上から身をよけて、少しでも罪悪感がやわらぐ事を祈りながら、灼熱の痛みを忘れたふりをしながらゆっくりと優しく話し掛ける。
裂けた頬から空気が漏れだしてままならない発音に、巫女の表情が更に歪んだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
弱々しい声色で、強く深い謝罪を繰り返す巫女。
たかぶっているであろう感情が落ち着くまで少し待つべきだろうと判断し、なんとなく一瞬だけ空を仰いで大きく傾いた月を見た。
「ごめんなさい……私には……もう、こうするしか無いんです」
「う?」
追い詰められた声色の巫女に視線を戻して見えたのは、目を離した隙に懐へと手を入れていた巫女が見覚えのある電子部品の付けられた短い鉄パイプを取り出す瞬間だった。
爆弾。今までも天の巫女達が使っていた凶器。
「人類の為に、一緒に死んでください」
自爆する気か! そう直感したのと同時にスイッチが押されて無機質な電子音が鳴り始めた爆弾を巫女の手から叩き飛ばす。
宙に弾かれた爆弾、涙を流す巫女、その間に僕の身体を挟んで巫女に覆い被さる。ここでは死なせない。その思いだけが僕を突き動かした行動だった。
巫女を生かす事ができたとしても、僕は爆発の破片と衝撃で死ぬだろう。不幸中の幸いとして、爆炎の中で死ねるのならばきっと穢れを焚き上げて妹に返す事は無いだろう。と、瞬間的にだか暢気な事を考えていた。
至近距離で炸裂する爆発音。
同時に、一つだけ思った。
──約束、破ってしまったなぁ。
勇者の戦いが終わる前夜、大橋の一部が激しく破壊される轟音が海沿いに住む人々の耳に届いた。
ラスト修羅葉くん
ぐわーー!!
黒いヒトガタ
あんだけ助けたのに結果がこれとか草はえるわ
幻覚ちゃん
同時多発7人だなんて真似はアイツにしかできない
熊と睨み合った状態でよーいドンしても勝てる巫女
地元ではジジイとオッサンばかりの猟友会でアイドルだった、過去形、みんな死んだ。