オフェリアさん、君が口を割らないから悪いんだよ 作:レモンの人
その日…朝早くから俺とモードレッドと厨房係であるエミヤ・ブーディカは無心で蕎麦を打っていた。
「…」
「…」
「…」
「………ぁあああああああああああああああああああ!!!気ィ狂いそうだ!!!何時間やってんだよ!!!」
とうとう沈黙に耐えられなかったモードレッドは包丁を置いて床に突っ伏した。床に飛び散る小麦粉を吸ってしまい噎せる彼女に俺はコーラの入った瓶を渡した。
「お疲れさん。休憩していいぞ」
「すまねぇ………こういうの苦手なんだよなぁ」
木製の椅子に腰掛けてコーラを飲むモードレッドをほっこりとした顔で眺めてから、俺は再び無心で蕎麦を打った。
(回想)
カルデアの倉庫にあったブラウン管をエジソン&テスラの手で修復した物で俺はあるテレビ番組を見ていた。無論、旧世代の遺物であるテープで…だ。
「マスター、何見てるの?」
「お、ブーディカじゃないか……!『椀子蕎麦大食い大戦』ってテレビ番組を見てんだ。勿論、録画した奴だけどね」
「へぇ…」
俺の隣に座るブーディカを一瞥して、視線をテレビに集中した。多くのフードファイター達が立て続けに食べ続ける姿に俺はある願望を持っていた。
「俺も椀子蕎麦食いてぇ……」
「マスターはいっつも何か食べてるわよね」
「ギクッ!?……まぁ、食べる事って人間三大欲求の1つだし!仕方ない事なんだよ〜…って事にしてくださいお願いします」
「ふぅ〜ん…」
やがて、試合は終盤に差し掛かり、選手達の椀の量に差が出てきた。
「あ、そういえばこの年は暴食もぐーら選手が優勝したんだっけか」
「…確かに、この差は歴然よねぇ」
「話は聞かせてもらったぞ」
突然、言葉が別な方向から飛んできた。声の主を探さんと振り返ると、エミヤ(アーチャー)が視界に映った。
「椀子蕎麦…私も食べてみたい逸品だ。」
「───って事は?」
俺の問いかけに彼は腕組みして胸を張った。
「椀子蕎麦…作るぞ!マスター!」
「しゃあオラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「マスターも作るのだが…」
「なんでさ!?」
「それは私の専売特許だ!」
(回想 終了)
「…」
「…」
「…」
ひたすら無言で切り続ける。最初こそ和気藹々としていたが、3時間後には全員目が死んでいた。途中覗きに来たモードレッドを無理矢理参戦させてひたすらに続けた作業によって想定していたより多くの蕎麦が打てていた。参加者に名乗りを挙げるサーヴァントには食材集めをしてもらった事で調理は滞りなく進んでいた。
「一旦休憩だ!」
「ま、まだ行けるわよ!?」
「無理だ。蕎麦の長さが変わってる」
「えっ?しまった…やらかした」
「よし、一旦休憩といこう」
取り敢えず、調理班は一旦休憩に入る。気を利かせて2人には内緒で作っていた団子をプレゼントした。
「開催は今日の晩だ。それまでに少しでも多く作る…」
「えぇ、あの獅子王が参加するからには相当量用意しないとね」
「健啖家とされる聖女も来る…いくら作っても足りんだろう」
まるで休憩中の出面さんのようにベンチに腰掛けて菓子やジュースを飲む俺達はしばらく足や心を休め…10分後、再び作業を再開した。それ以上休むと足が根を張る可能性が高いからである。
「まぁ、気ィ楽にして行こうや!」
「そうそう!しりとりとかしてな!しりとり!」
「り、リボン。さ、バカな事やってないでやるわよ」
「ひでぇ…」
********************
18:00 カルデア 管制室
その日、ヘッドホンでヒップホップな音楽を聴きながらノっていたアストルフォは、音楽を消してヘッドホンを外すとCDを抜き出し、新たなCDを突っ込んだ。今回の実況を任された手前、最後までやり抜く覚悟で彼はその場にいた。
─BGM 『Samba de Island ~SUMMER BATTLE~』─
『カルデアの皆さんこんばんわ!カルデアわくわく放送局の時間がやって参りました!今回実況を務めさせていただきますアストルフォです!そして今回お招き致しましたゲストのご紹介です!』
アストルフォが合図すると今回のゲストが席に着いた。
『カルデアのローマ市民達よ!余はネロ・クラウディウスである!』
『うげぇ…事前に知らされてなかったとはいえこれは……さぁ気を取り直しまして!今回出場するメンバーの紹介です!』
“ブリテンより食いしん坊乳王 アルトリア・ペンドラゴン!”
“マスターは槍の方しか持っていないからな”
「今回、蕎麦粉と小麦粉を回収するだけでお蕎麦食べ放題と聞きまして、出場を決意致しました。出るからには優勝を目指します」
外野から円卓の騎士達が『我が王』とか『ブリテン王国に栄光あれ』とか書かれた横断幕を掲げ、ガウェインに至っては鎧の上に法被を纏い国旗まで振っている。
“フランスより救国の腹ペコ聖女 ジャンヌ・ダルク!”
“随分酷いネーミングセンスじゃな!”
「隠し事は致しません。お蕎麦食べ放題と聞いて蕎麦粉と小麦粉を抱えて参上致しました!」
ジル・ド・レェ元帥がジャンヌの持っている旗を手に力強く振っている。そういうイベントじゃないから!てか何時から『椀子蕎麦食いたい』から『椀子蕎麦大食い大会』に発展したんだよ!?結局エミヤは食い損ねたし!
“思わぬ伏兵となり得るか!?海賊代表 フランシス・ドレイク!”
“あの伝説の海賊じゃな!余も知ってるぞ!”
「随分と面白そうな祭りやってるみたいだから参戦したわけよ!おいお前達!声が小さいよ!もっとデカイ声出しな!」
ヤケクソでテンションを上げている海賊組が勝鬨を挙げる。ドレイク船長はホント祭り好きだよなぁ!
“カルデアより今回のイベントのスケジュール及び会場設営を指揮した我らがマスター ぐだ男の参戦です!”
“錚々たるメンバーではないか!これはいい勝負になりそうだな!”
「やれやれ、まぁ楽しんでくれるなら何よりって奴だ」
「先輩!頑張れ〜!」
マシュがご丁寧にチアガールの格好で応援してくれている。恐らくダ・ヴィンチちゃんの入れ知恵だろう。まぁ、勝負って事だから勝ちに行くつもりだ(震え声)
“ゲストからの参戦。オフェリア・ファムルソローネです”
「腰と手足を縛って拉致する事をゲストとは言わないわよ!?」
オフェリア、お前はネタ枠だ。諦めろ。
“では、椀子蕎麦のルールについてお伝え致します。ルールは簡単!1時間までにお椀に入った蕎麦を沢山食べるだけです。スタッフがひたすら麺の無いお椀に麺を、汁が無ければ汁を入れていきます。満腹になった際は蓋を閉じて下さい。永遠に続きます。リバースした場合、点数は無効になりますのであしからず”
“分かりやすいルールだな!”
“因みに、オルガマリーさんの資料によるとマスターの歴代最高記録は9r「うるせぇ!マナプリズムにすんぞ!」ひぃっ!?なんでもありません!!!”
危ない危ない……まぁ、俺もあれから腕を上げた。ナイチンゲールから大量の食事を摂取し続ける方法などをご教授いただいたのでなんとかサーヴァント達に食らいつける筈だ(代償として5時間も説教を貰ったが)。
“ではここで、中継を厨房へ繋いでみようと思います!ギルく〜ん!”
「はーい!今、カルデアの食堂に来ております!凄まじい湯気と労働者達の熱気がここまで伝わってきていますよ!現在、厨房ではサーヴァント達が全力で蕎麦を打ち、食べやすいよう成形しているそうです。労働者はエミヤ・ブーディカ・モードレッド・クーフーリン・メドゥーサという錚々たるメンバー!実はこれでも労働者不足!求人まで出しているそうです!是非力になりたい・自分の力を試したい・誰かの役に立ちたいという方はまっすぐ食堂までお越し下さい!……さて、ここで少しインタビューをしたいと思います。ではインタビューです。こちら、カルデアわくわく放送局の子ギルです!モードレッドさん、少々お付き合い下さい!」
「何故1番忙しいオレに絡んだ!?」
「だって1番弄りやすそうでしたので…」
「マジかぁ〜…まぁいっか!今オレがやってるのは『包丁で蕎麦を切る作業』だ。1ミリもズレないよう細心の注意を払って切ってる。ここで数ミリでもズレれば食べる奴が美味しく食えないだろ?」
「なるほど、素晴らしい心がけですね」
「出るんだろ…?父上」
「えぇ、ブリテン代表で」
「じゃあ、伝えといてくれ……“味わって食えよ”ってさ」
「分かりました。お伝えしましょう!では、ありがとうございました!因みに、このインタビューはカルデア内に放送されておりますのであしからず」
「────は?ちょっ!?」
“はい、中継ありがとうございました!”
“モードレッド…健気で良い子ではないか…余もうるっときたぞ”
モードレッド…ホントに良い子だ。良くここまで育ってくれたよ。
「───フッ」
彼女の言葉にアルトリアも少し緊張が解けたようだ。
“次に、本日蕎麦を供給してくれるスタッフのご紹介です。ブリテン組はアサシンエミヤ(以下キリツグ)&イリヤ!”
「よろしくね〜♪」
「よろしく頼む」
「ゲェッ!?キリツグゥ!?」
“フランス組はマリー・アントワネット&シュヴァリエ・デオン!”
「ヴィヴラフラーンス♪今回和服が着られると聞いてデオンと2人で参加を決意したの」
「あの…頑張ります」
「マリーの為にも頑張りますね。」
“海賊組はジャック・ザ・リッパー&ナーサリー・ライム!”
「がんばるよ」
「頑張って運ぶわ!」
「おぅ!頑張れよちびっ子共!」
“カルデア及びゲストはダ・ヴィンチちゃん&ロビンフッドが担当します”
「足を引っ張らないようにやるね」
「まっ、堂々とやらせてもらいますわ」
「よし、君らがついてるなら百人力だ」
「ねぇ、自力でお椀閉じられないんだけど!?」
“速報です!早速記念すべき1個目の椀子蕎麦が届きました!”
「待たせたな!1個目の椀子蕎麦だ!」
割烹着に袖を通したモードレッドが盆に載せた椀を配って回り、遅れて着物姿のブーディカがそれぞれのスタッフ1人ずつを連れて行った。食堂から管制室までの盆運びの話だろう。
「いいか!一本も残すなよ!オレ達厨房係とマスターが必死に打ち続けた蕎麦だ!ルールだとかそういうのはどうでもいい!“たんと食え!しかして命に感謝せよ!”」
どっかの受け売りを真似して話したモードレッドはニカッと笑い去っていった……。
“では、カウントダウン…開始します!”
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
“スタートである!!!”
「「いただきます!!!」」
生命への感謝を述べ全員揃って椀の蓋を開けた。
「おっ!美味そう…!」
蓋を開けた第一声がそれだった。エミヤの出身地が反映されているのか、お出汁の香りが強い汁に沈んだ麺は綺麗に結ってあり食べやすそう(外国人は啜る行為が苦手な為、そういった配慮だろう)。
「うまっ…!」
安物にありがちな蕎麦粉8割:小麦粉2割の味。都合上十割は出来なかったが、しっかりと蕎麦の風味が出た麺が出来上がっている。厳しい懐事情とはいえ、他のサーヴァントが美味そうに食っている姿を見れば作った甲斐があったというもの。
「キリツグ、おかわりです」
「任せろ」
「マリー、お願いします」
「はいどんどん!」
「…締まらねぇなぁ。酒があれば」
「はい、ビール」
「うひょー!生き返る〜」
「空だ」
「どんどん入れてくよ〜」
「そうやって無理やり流し込むのやめなさい!」
「じゃあどうやって口に入れたらいいんだよ!?」
食べやすい形に調整された蕎麦が次々と食べられていく。美味しいと言いながらモグモグ食べているサーヴァント達の手前に次々とお椀が並んでいく。サーヴァント達よ、本当の地獄はこれからだ………。
********************
30分後…
「そろそろお腹いっぱいですね…」
最速で食べ進めていたジャンヌのフォーク(箸が使えない人への配慮)が明らかに遅くなっていた。時折苦しげに呻く声も聞こえ、他のサーヴァント達も同様の反応が見られた。それもそうだろう。“味が変わらないのだから”。
「マリー、もう無理で「はいどんどん♪」!?」
「ごめんなさいジャンヌ、ルールはルールなの。蓋を閉じなきゃ…」
「え?あ、はい!蓋は……あれ?」
マリーにそう言われてジャンヌは蓋を目で探した。しかし…蓋が無い!
「あれ!?あれ!?どこにいったんですか!?」
「あらぁ…?おかしいわね…どこにも無いわ」
“おおっと!ここで健啖家のジャンヌにアクシデントだ!あるべき蓋がどこにも無い!!!”
“いや…一瞬見えたのだが、黒いジャンヌがすっごい悪い顔で蓋を盗んでいったような…”
異変はジャンヌに留まらない。
「キリツグ…うぷっ……おかわりです…」
「無理をするな。美味しく食べられる内に止めるのが賢明だ」
「だま…れ……!」
“ここでアルトリアもペースが落ちてきました!”
“やはり青はオワコンだな!はっきり分かるぞ”
アルトリアの奴、ムキになってるな……。盛る奴がアイツだってのも問題だな。てか何でキリツグが担当したんだよ…………。
「先輩頑張って〜!」
「(グッ)」
因みに現在は『アルトリアが250杯、ジャンヌが200杯、ドレイクが125杯、俺が109杯』という状況だ。意外にみんな食わないなぁ。
「ま、俺は俺のペースで…っと」
焦っていたら蕎麦の美味さが分かんないしな。折角みんなが作ってくれたんだ。気楽に「オロロロロロロロロロロロ!!!」ほら見ろ言わんこっちゃ無い。
「「我が王ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
円卓の騎士達から悲鳴が聞こえ…
「そらみたことか」
キリツグの呆れ声が聞こえ…
「父上のバカあああああああああああ!!!」
モードレッドの嘆きの叫びが聞こえた。哀れ…モードレッド。
「鐙が………切れ…て…しまった……か………」
モザイク確定のヘドロの中でアルトリアは意識を手放した。すぐに救護班と清掃班が今の出来事を無かったかのようにすべく慌ただしく作業を始める。
「衛生兵!衛生兵ぇええええええええええ!!!」
どこかで見たような光景を一瞥し、俺はゆっくりと箸を進めた。
“えー、ブリテンチーム。豪快にゲロをブチまけた為失格です。お疲れ様でした。”
“セイバー顔の恥晒しだな”
これはアルトリアの判断ミスだ。てか、皆正直にやり過ぎなんだよ。実はこんな事出来るってのをドレイク以外誰も知らないのか?
「刻みネギ追加で!」
「了解だ!」
ロビンフッドがさっと刻みネギを椀に追加する。ネギ特有の香りが心地良い……なんて感じでこうやって誤魔化す事も出来る。
「よし、ドレイクの手もビールに向いてきた。ペースは落ちるだろうな」
周囲の状況を一瞥した俺は少しペースを上げた。ジャンヌはトラブルの為に精神的に揺れているようでほぼ食べていない。
“ここでジャンヌ・オルタが登場しました!主に顔を中心にボコられた状態での登場です!痛々しい姿です!”
“悪さをするとロクな目に合わん。あやつは全く成長してないな”
「ワタシハフタヲヌスミマシタ、モウシワケアリマセン」
スカサハによって捕獲され、主に顔を中心にボコられたジャンヌ・オルタは痛々しい姿でジャンヌに蓋を返還した。フランス組もこれには苦笑い。
「では儂は帰るとしよう。おい竜の魔女(笑)、練習の続きだ。逃げるなよ?」
「ひっ!」
因果応報だ。そこまでして苦しむ姿が見たいとなると相当なビョーキだな。後でナイチンゲールと2人で治療してやるとするか。
「では、私はそろそろ────そろそろぉおおおおおおお!!!」
蓋を閉めようとするも、マリーが割り込むように蕎麦を入れた。いや、これはルールだからね。実際それをやられているシーンも見た事あるし。
「ごめんなさい、ジャンヌ」
「───うぷっ…大丈……夫………です」
今度はさっと蓋を閉じてフランス組は終了となった。210個…厳しいな。後104杯か……。食えるっちゃ食えるが残り10分。時間が足りない。
“ジャンヌさんが終了しました。お疲れ様です!”
“引き際を心得ておるな。世の中そういうものが役に立つのだぞ?”
「(──せめてドレイクは抜かす!)」
チラチラとドレイクの様子を伺いながら俺は蕎麦を胃に流し込んでいく。因みにオフェリアは53杯目で自ら呼吸を止めて自殺を企てた為、ナイチンゲールに拉致された。語呂がゴミとはこれいかに。
「(よし、間に合いそうだ)」
何とか自分のペースで箸を進めていく事10分……なんとかドレイクより多い134杯で試合は終了した。ぶっちぎりでジャンヌが勝ったものの、やや悲惨な結果に終わった……と思う。
“うむ、優勝者はジャンヌに決定だ。皆、拍手喝采の嵐を以って祝おうぞ!”
“優勝おめでと〜!”
“ジャンヌには優勝商品として『カップ麺1年分』をプレゼントするぞ”
「あはは……もうしばらく麺は食べたくないですね…」
まぁ、椀子そばを体験出来ただけ幸せとしよう!会場を片付けながらそう思った。
虞美人「うっぷ、お腹が…一旦爆発するか」
藤丸「爆発した場合、点数が無効になるがよろしいか?」
虞美人「はぁ!?」
虞美人、12杯