生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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 春。

 始まりの季節。

 桜が乱れ、花吹雪が吹く中。

 この日から、僕らの出会いが始まった。


1年生編
彼女との出会い


 

 

 

 

【プロローグ】

 

 

 

 

 桜吹雪が舞う春の季節。

 

 ピンク色の花びらに祝福されながら、新しい学び舎への門を数多くの男女が通っていく。これからの新生活に心躍る者。不安と緊張を隠せない者。その反応は個々の人柄によって違うものだ。

 

 ここ、私立桜才学園もそういった風景で校門を賑わせている。お洒落なブレザー姿の女子が大半の光景は、一見すると女子高を思わせるだろう。

 

 この桜才学園は、確かに女子高であった。過去形に表記した理由は、前年度までの話だからである。

 

 今年度、少子化やその他もろもろの理由から、今年から共学化する決定を下した桜才学園。その数、女子524人。それに対し、男子は28人という圧倒的少数。

 

 その少数のうちに含まれる1人、津田タカトシも早朝の風に包まれる中、新入生の1人として桜才学園へ姿を現したのであった。

 

 男性にしては少し長めの髪型に、中性的な顔立ち。何かで鍛えているらしく、制服の上からでも体つきが良くわかった。

 

 そんな彼がまさに校門を通る刹那、1つの凛とした声が耳に入る。

 

「こら、そこ。シャツはズボンの中に入れる!」

 

 横に首を向けると、女子生徒が男子生徒に指をさし、大声で注意をしていた。女生徒の制服のブレザーには腕章があり、そこに生徒会という文字が見える。ややあって、タカトシは合点がいった。

 

 なるほど、生徒会長か。美人の会長とかいって、入学式の時から評判だったっけ。

 

 理知的そうな外見で、黒髪の美人。一目で頭が良さそうだなと思わせるタイプだった。生徒の服装チェックを真剣にやっている姿は、いかにも真面目な生徒の見本である。

 

 そこまで考えて、タカトシは我に返った。いつまでも人の顔をジロジロ見ていたら失礼になってしまう。挨拶だけをして、早いところ通り過ぎてしまおうか。

 

 幸い、自分の服装には特に乱れはないので、何か注意をされる事は無いだろう。彼はラフな格好よりも、日頃から清潔感のある格好を好んでいる。

 

「おはようございます」

 

 すれ違いざま、挨拶をかわす。美人の生徒会長は、やはり外見通りに真面目な挨拶を返してくれる。

 

 生徒会長と、一生徒。これからも、その程度の関係であるはずだった。

 

 

 

 

 週に一度の朝礼。

 

 全校生徒が体育館でスピーチを聞いている。校長をはじめとした教育者の話は総じて長いものと相場が決まっているが、この学園ではそれが当てはまらないらしい。どこかフランクな調子で話を手短に終わらせる姿は、教育者としてどうかと思うと同時に、どこか親しみやすさを覚えざるを得なかった。

 

 続いて、生徒会長が壇上へ上がってくる。マイク越しでも澄んだ声だな、と今更ながらに思うタカトシ。

 

『皆様。この春、我が桜才学園への入学から、今日にて1週間余り。新たなる門出での生活は――』

 

 スピーチというのは、大抵は退屈なものと相場が決まっている。精神論や、言葉にしてしまえば分りきってしまっているような事を延々と聞かされてしまうからだ。実用的でない話をジッと立ったまま聞かされるというのは、なかなかに体力がいるものである。

 

 だが、壇上に立つ彼女からは、不思議とそういった退屈や苦痛が感じられない。音楽でも聞いているかのような気分で、落ち着いて耳に入ってくる。

 

 それはタカトシの周囲に立つ生徒も同じらしく、どこか聞き惚れているかのような表情で壇上に立つ生徒を見ていた。

 

 さすが生徒会長だな。貫禄がある。

 

 タカトシは素直にそう感じた。自分とて“以前の経験”から、人の前に立つ行いには耐性があると思っていた。だが、あの生徒会長と比べてしまうと、いかに津田タカトシという男が未熟かを思い知らされてしまう。

 

 やがて、会長のスピーチが終わる。クラス順に教室へと戻っていく生徒。タカトシも周りの流れに従い、体育館を去った。

 

 隣で歩く友人と雑談をしつつ、廊下を歩く。そこで、ふと派手な音が耳に届く。タカトシは、反射的に見上げる格好になった。

 

 彼らが立っているのは、まさに階段を上がろうとしていた矢先のタイミング。階段の踊り場に向かう途中で、人影が浮いている光景が目に飛び込む。

 

「ええっ!?」

 

 間の抜けた声を出しつつも、身体は反射的に動く。マズい。誰かが階段から落ちている!

 

 両腕を前にかざし、その人の背中と膝の裏をしっかりと支えた。とっさの事だったが、どうにかお互いにうまく身体を傷つける事はなかったようだ。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 突然の事に凍り付いていた周囲だが、真っ先に友人が声をかけてくる。言われて、タカトシは腕に抱いた人物の容体を確認する。

 

 階段から落ちた人物は、女生徒だった。緊張の糸が切れたのか、目を大きく開いたまま、肩で息をしている。無理もない。

 

「大丈夫ですか?」

 

 気遣う声で、タカトシは話しかけた。怪我はしていないようだったが、念のために訊いてみる。

 

「え、あ……ありがとう。ちょっと、足を滑らせてしまって……」

 

 目を瞬かせつつ、彼女は言った。そこで、彼女はタカトシの顔を見る。

 

「本当に……っ!?」

 

 彼女は、タカトシの顔を見た瞬間、喉が引きつったような声を出す。そのまま、驚愕の表情で気絶してしまった。

 

「え、あの……?」

 

 突然の反応に、タカトシは首を傾げる。おかしい。今までのやり取りに、何か彼女を怖がらせるような事をしてしまっただろうか?

 

 何度か声をかけるが、彼女は動かない。どうしたものかと、途方に暮れる。

 

 そこで、今の状況に気づく。いつの間にかタカトシを中心としてギャラリーが周囲を囲っている。その視線は好奇心や驚きに満ちていた。

 

「あ、あの。すみません。保健室の場所、教えてもらえませんか?」

 

 まだ入学して日が浅く、タカトシは保健室の場所を把握していなかった。野次馬にむかって声を出すが、顔を見合わせているだけ。どうやら周囲はほとんどが一年生で、タカトシと同じように誰も把握していないらしい。

 

 無理もない。入学してからは自分の生活に慣れるために精いっぱいで、学校の中を把握するような余裕などないのだろう。

 

 ならば、どうにか自分で探すしかない。彼女を抱えたままの恰好になるだろうが、背に腹は代えられないのだ。

 

 そこで、彼らに声がかかる。

 

「そこ、どうした。生徒はみんな教室に戻ると伝えられたはずだろう!」

 

 不安そうな顔をしていたギャラリーが、左右へと避ける。そこから姿を見せたのは、先ほどスピーチをしていた生徒会長であった。傍らには同じ生徒会役員らしい、穏やかそうな女性もいる。

 

 生徒会長は、気を失っている女生徒と、その身体を抱えているタカトシを見て、状況を理解したらしい。すぐに、隣の役員に指示を出した。

 

「アリア、保健室のベッドの準備!」

 

「わかったよ!」

 

 アリアと呼ばれた先輩――学年カラーで分かった――は、すぐに廊下の奥へと競歩のような動きで姿を消す。こんな時でも廊下を走らないというのは、ある意味徹底しているなと、妙な関心を持った。

 

「すまないが、君」

 

「あ、はい」

 

 唐突に話しかけられた。彼女の言いたい事を理解するタカトシ。保健室まで、彼女を運んでやってくれという事だろう。

 

 お姫様抱っこの形で、彼女を持ち上げる。そのまま、アリアという先輩の後を追う。後ろから、生徒会長がついて来る気配がした。

 

 廊下の奥に、保健室と書かれたプレートが見えた。なんだ。割と近くにあったのか。

 

 保健室に入ると、特有の消毒液の匂いがする。視線の先には白いベッドの横に立つ、さっきの先輩の姿。

 

 タカトシは未だに気絶したままの女生徒を、ようやく横たえる事が出来た。ホッと安堵の息をつく。

 

「よかった……助かりました。ありがとうございます」

 

 彼女に掛布団をかけてやりながら、心からの礼を言うタカトシ。この2人が来なかったらどうなっていたか。

 

 だが、生徒会長とアリアは、そろって顔を見合わせる。目を瞬かせ、不思議そうな顔でタカトシを見た。

 

「?」

 

 おかしい。なぜそんな目でこの2人は自分を見るのだろうか。てっきり、大した事はしていないと謙遜するような反応を予想していたのに。

 

 そこで、生徒会長が恐る恐る尋ねる。

 

「……もしかして、さっきのは羞恥プレイではなかったのか?」

 

「あの状況でそれはどうかと思ったから、続きをするならせめてこっちでしてほしいと思っていたんだけど」

 

「いきなりなんだこの人たち!?」

 

 何かとんでもない誤解を受けている。一連の彼女たちの行動が自分の認識と食い違っていた事に気づくのは、これから3秒後の事だった。

 

 

 

 

【顔合わせ】

 

 

 

 

「なるほど。それはすまない事を言ったな」

 

 タカトシが一から説明すると、どうにか事情を理解してくれたらしい。先ほどとは打って変わり、神妙に謝罪の言葉を口にしてくれた。

 

「ごめんね、勘違いしちゃって。彼女が倒れるのはいつもの事だと思っていて」

 

「え、いつもの事って……?」

 

 ついタメ口で聞いてしまったが、タカトシは話の方が気になった。もしかして、彼女は貧血でも持っているのだろうか?

 

「彼女、2年生の五十嵐カエデさんっていうんだけどね。実は、昔から男性恐怖症なの」

 

「あ、そうだったんですか」

 

 納得するタカトシ。それにしても、目が合っただけで気絶するほどだったとは。

 

 つい、眠っている五十嵐先輩の顔をマジマジと見てしまう。三つ編みの似合う、いかにも真面目そうな少女だった。

 

 そこで、ふと生徒会長たちの視線が自分に向けられている事に気づいた。

 

 しまった。女の子が眠っている横で、いつまでも自分がいるのはよくないな……

 

「すみません。それじゃあ、俺はこれで」

 

 バツが悪そうに頭を下げ、ベッドの周囲を囲んでいるカーテンから出ようとする。

 

 そこで、背中に声がかけられた。

 

「なんだ。視姦の邪魔をしたつもりはないぞ」

 

「見るだけだったら、私たちも黙認するよ。おさわりはNGだけど」

 

「俺の目ってそんなに濁ってますか?」

 

 

 

 

【しかしまわりこまれてしまった】

 

 

 

 

 何となく、この場にいてはいけない予感を感じるタカトシ。今度こそ失礼しましたと言いながらベッドから――正確には生徒会役員の2人から去ろうとする。

 

「まあ待て」

 

 そこで、再び会長から声がかかる。ついでに、肩をポンとたたかれた。

 

「……なんですか?」

 

 何となく、網にかかった魚を思わせる表情になる。そんなタカトシを会長は特に咎めなかった。

 

「言い方は悪かったが、本当に大したものだと思っているのだよ、私たちは」

 

「そうそう。女の子を助けて、さっそうと去ろうとするなんて、見所があると思うよ」

 

 茶髪の役員の女性も同意する。そういわれても、タカトシとしては特に感慨が浮かばない。

 

「いえ、当然のことをしただけですから。それよりも、その先輩が男性恐怖症だというのでしたら、俺がいるのは不味いでしょうし」

 

 困ったように言うタカトシに、会長は感心した顔になる。

 

「ほう。これをきっかけに、男女の出会いが始まると思っていたのだが」

 

 ああ、やっぱりそう思われていたのか。タカトシは苦笑する。少なくとも、そう考えて異性に対して手を貸してしまう人間は世の中にいそうだ。

 

「勘違いですよ。ドラマじゃあるまいし、そんなつもりじゃありませんから」

 

 本心からそう言うタカトシ。少なくとも、あのまま何もしないという選択肢は彼の中には無かったのである。

 

 そこで、役員の女性がニッコリと笑う。

 

「そうなんだ。私はてっきり、後でお礼を身体で要求するのかと思ってたわ」

 

「勘違いした時点で失礼なのに、さらに失礼」

 

 

 

 

【この人たちからは逃げられない】

 

 

 

 

 今度こそ保健室から退出し、教室へと戻るタカトシ。なんだか、妙に疲れがたまった気がする。

 

「よう、津田」

 

「あ、柳本」

 

 タカトシに話しかけた男は、柳本ケンジ。男子が少ないせいか、自然と会話するようになった友人の1人である。

 

「朝の時はどうしたんだよ。お前が遅れるなんて珍しいよな」

 

 おそらくは、授業に遅れた事を言っているのだろう。ペナルティとして英語の翻訳をイの一番に指名されてしまった。

 

「いや、大した事じゃないよ。それより、部活でも一通り回ってみないか?」

 

 今現在、学園内では様々な部活の関係者が新入部員勧誘をしている。来月頃まで続くらしいので、そろそろ自分達も本格的に見て回る時期だ。

 

「お、いよいよだな。お前は、何か入りたい部活とかあるのか?」

 

「実を言うと、運動系は全部女子限定だからさ。自分で部活を作る事になりそうだし。どうしたもんかなと」

 

 こういう時、元女子高という肩書きがネックになる。タカトシは困ったように頭を掻いた。

 

「津田は、中学の時は何かやってたのか?」

 

「ああ、聖城中学でサッカーをやってた」

 

「え、マジ! あの聖城でか!?」

 

 柳本が、つい大声で驚く。授業が終わって友人の話をしているクラスメイトが、何事かとこちらを見る。

 

「柳本……あまり大声でいうなよ」

 

「わ、わりぃ」

 

 さすがに注目を集めたことには気づいたらしく、少し声を潜めて言う。

 

「お前、そこって……去年の関東大会で優勝したとこじゃねえかよ。ひょっとして、レギュラーでか?」

 

「まあ、一応な」

 

 タカトシは、内心で口を滑らせたかと思う。彼はあまり目立つのが好きではないのだ。

 

「それじゃあ、サッカー部をマジで作んのかよ?」

 

「いや、サッカーにはもう区切りをつけているんだ。高校からは、新しい事を始めようと思っていたからさ」

 

 そうでなければ、タカトシはスポーツの有名校にでも入学していただろう。実際に、スポーツ推薦のある高校からはいくつか声をもらっていた。

 

「うっわ、もったいねー」

 

 露骨に顔を顰める柳本に、タカトシは苦笑いする。彼のスタンスには、かなり呆れさせてしまったようだ。

 

「まあ、とにかくさ。一緒に回ってみないか? 面白そうな部活もあるかもしれないし」

 

「ああ、いいけどよ」

 

 そう言って、2人は席を立つ。荷物をまとめ、放課後の部活勧誘を見てみる事にする。

 

 と、そこで教室のスピーカーから女性の声がする。

 

『1-Aの津田タカトシくん。1-Aの津田タカトシくん。生徒会長がお呼びです。恐れ入りますが、ただちに生徒会室へと来てください』

 

「え?」

 

「はい?」

 

 突然の呼び出しに、硬直するタカトシ。クラスメイトが、呼ばれた男に視線を向ける。

 

 入学して間もなく、生徒会室へ呼ばれたタカトシであった。

 

 

 

 

【本人知らず】

 

 

 

 

「おかしいな……俺、何かやったか?」

 

 ドキドキする心臓を意識しつつ、生徒会室の前で独り言を呟く。とりあえず呼ばれたからここまで来たが、校内放送まで使って呼ばれる理由に全く心当たりがない。

 

 まあ、呼ばれたのは間違いないので、とりあえずは部屋に入るしかない。ノックをし、中に人がいるかを確かめる。

 

 内側から、どうぞーと返事がする。若干の緊張を覚えつつも、ドアを開けるタカトシ。

 

 広々とした生徒会室は、清潔さに満ちていた。定期的に掃除をしているのだろう。

 

 出入り口のすぐ横には、お湯が入っているであろうポットや冷蔵庫。それが妙に生活感を思わせる。

 

 黒板には色々な注意を促すポスターや、何かのプリントが貼られている。移動が効くホワイトボードに、長机を合わせた仕事用のデスク。ここで日頃の会議を始めているに違いない。

 

 そして、その机に向かうように1人の女子生徒がいた。椅子に腰かけ、こちらを見ている。さっきの返事は、彼女が出したのだろう。

 

「悪いわね、わざわざ放送で呼んじゃって。あの人も悪気はないから」

 

 苦笑いしながら言う少女。しかし、タカトシはつい素直な感想を口にしてしまう。

 

「……あれ。なんで生徒会室に子供が?」

 

「んなっ!?」

 

 一瞬にして、顔を怒りに引きつらせる少女。拳を握りしめ、ツカツカとタカトシに近づいてくる。

 

 別段、タカトシは悪意があってこんな事を言ったわけではない。実際、彼女の姿を見てそう思ってしまったのも無理のない事だった。

 

 少女は、明らかに津田の腹程度の背丈しかなかった。桜才学園の制服を着ているものの、身体も細身で同年代には見えない。

 

「こっちが丁寧に対応してれば、付け上がりやがってえぇ!」

 

「え、あっ。いや、ごめん」

 

 失言に気づいたものの、時すでに遅し。少女はタカトシのブレザーのネクタイを掴むと、そのまま宙ぶらりんになる。

 

「私を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるうぅ……!」

 

「ぐおおあああ……!」

 

 首をキューッと締め付けられ、顔を真っ青にするタカトシ。身体のバランスが崩れそうになったところで、少女は床に両足をつけた。

 

 首を押さえてうずくまるタカトシに、ようやく視線が方向になった少女がタカトシの眼前で怒鳴りつける。

 

「私は萩村スズ! これでも16歳だ!!」

 

「え、マジで! 俺と同じ!?」

 

「そうよ! しかもIQ180の帰国子女!!」

 

「うお、国際派!」

 

「英語を含めて5か国ペラペラ! 10ケタの暗算なんて朝飯前!!」

 

 キッと目に力を入れる少女。気圧されるタカトシ。

 

「その才能を買われ、1年生にして生徒会会計を務める! どう!? これでもこの私を子ども扱いするわけ!?」

 

「いえ……しない、です」

 

 腰が引けているタカトシに、ずいっと攻め寄る形になっているスズ。彼の返事を聞いた彼女は、ようやく満足そうな顔で頷いた。

 

「ふむ。よろしい」

 

「萩村」

 

 と、そこで声がかかる。タカトシが背後を振り向くと、ドアを開けたまま立っている会長がいた。

 

「あ、会長。こいつが、さっき呼んでた男子ですよね」

 

「あ、ああ。そうだが……おどかすな」

 

 スズの言葉に、会長はどこか歯切れ悪く言う。

 

「おどかすって……何がです?」

 

 2人には、知る由もなかっただろう。会長の視点からは、まるで腰が引けている男子を逃がすまいと、股間に顔をうずめようとしている構図にしか見えていなかった事を。

 

 

 

 

【部活以外の勧誘】

 

 

 

 

「すまなかったな。わざわざ放送など使ってしまって」

 

「いえ。それで、俺が呼ばれた用件というのは?」

 

 僅かにトラブルがあったものの、長机を挟んでタカトシと会長が座っている。会長の傍には、茶髪の女生徒とスズが待機していた。

 

 会長は、真っ直ぐにタカトシを見ている。心なしか、彼も背筋を伸ばしてしまう。

 

「要件というのは、他でもない。君を、生徒会に勧誘しようと思っているんだ」

 

「はい?」

 

 あまりにも突拍子のない言葉に、タカトシはずっこけそうになる。ついでに、スズも顔が引きつった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。なんで、俺が?」

 

「か、会長。本気ですか? 正直、不衛生な男子を生徒会に入れるのは……」

 

「うむ。まずは、その理由を説明しよう」

 

 タカトシとスズの動揺をよそに、会長は相変わらずの真面目な声で言う。

 

「君も知っての通り、我が学園は今年から共学となった。しかしそうなると、この学園生活もこれまでとは勝手が違ってくる。そこで、私は男の生徒会役員をスカウトしようと前々から思っていたのだ」

 

「……それって、別に俺である必要はないんじゃ?」

 

 タカトシは極めて真っ当な事を言う。会長の理屈で言えば、柳本でもいいという事になってしまう。なぜ、よりにもよって自分なのか。

 

「私なりに、君という人間性を評価したからだ。朝の事があるだろう?」

 

「朝?」

 

 首を傾げるタカトシ。何かあっただろうか?

 

「本当に、覚えていないか?」

 

 確認するように言う会長に、タカトシは申し訳なさそうな顔をする。

 

「はい、すみません」

 

「朝の朝礼の後だ。君は女子生徒を助けただろう」

 

 言われて、タカトシはようやく思い出した。ああ、と手を叩く。

 

「そういえばそうでした。あの人、今はもう大丈夫なんですか?」

 

「ああ。2限目には、もう授業に出ていたよ。確認した」

 

「それならよかったです」

 

 安堵の顔を見せるタカトシ。その様子に、満足そうな表情になる会長。

 

「え……どういう事ですか、七条先輩?」

 

「うふふ。あのね……」

 

 七条と呼ばれた役員は、朝の事をスズに話しはじめる。それを聞き流しつつ、会長は言った。

 

「だからこそ、君のそういうところを評価して生徒会役員へ招き入れたいと思っている」

 

「いや、だからどうしてですか? 俺はただ、当たり前のことをしただけで」

 

 実際、タカトシは自分がすごい事をしたなどとは思っていない。あの時、彼女を見て見ぬふりをするなどという選択肢は彼の中になかったし、倒れた女の子を助けるのは当たり前だと思っていた。現に、会長たちも率先して手を貸してくれていたではないか。

 

 まあ、その理由が食い違っていたのはアレだったが。

 

 その旨を伝えると、会長は頭を振る。

 

「いや。それを当たり前と認識したうえで行動を起こせる者こそ、我ら生徒会にふさわしいのだ」

 

「そうだよ、津田君。私たちは本気で言っているんだよ?」

 

 スズへの説明を終わらせた女性が、にこやかに言う。少なくとも、おだてているようには見えない。

 

「それにな。私は、君自身にも興味があるから」

 

「えっ……?」

 

 ガラにもなく、ドキリとしてしまう。この人は今、なんと言った?

 

「保健体育の授業じゃ、限界があるから」

 

「ちょ……どこを見ているんですか!」

 

 机越しに下半身に視線を向ける会長。タカトシは椅子に座ったまま、ひっくり返った。

 

 

 

 

 2年生徒会長、天草シノ。

 

 2年書記、七条アリア。

 

 1年会計、萩村スズ。

 

 そして副会長、津田タカトシ。

 

 

 

 

「1年なのに副会長!? っていうか、決まるの早っ!!」

 

 

 

 

【副会長の理由】

 

 

 

 

「共学化したことを強調するためだな。大人の事情だから察しろ」

 

「庶務だとあまりインパクト無いですからね」

 

「そもそも、うちの学園は代々庶務がないから」

 

「……さいですか」

 

 

 

 

つづく




始めまして。玖堂という者です。

このたびは僭越ながらも生徒会役員共のSSを連載させていただく事となりました。

実はこの作品は、一度Pixivで連載していたのですが、諸事情で削除せざるを得なくなってしまったという裏事情があります。今後はこちらに活動場所を変更し、執筆を再開いたしますのでよろしくお願いいたします。
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