生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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蝉の季節。

学び舎から開放されて、なお研鑽を怠る事はなく。

そんな中でも、出会いはある。いつもとは少し違う時間に見せる、誰かの姿。

ほんの少しだけ、別の角度から見たあの人の顔は。

僕の目には、どう映るのだろうか。




僕たちの時間

 

 

 

【夏休み中の彼ら】

 

 

 

 

 海水浴が終わった次の日。

 

 津田タカトシは、自宅で雑誌を読みふけっていた。

 

 雑誌といっても、青年誌や写真集の類ではない。れっきとした、アルバイトの雇用専門の本だ。

 

 今年度より高校生になったので、もはや自分は義務教育ではない。そのため、アルバイトという仕事を始める事ができる。

 

 夏休みをきっかけに、何か始めてみようと考えていたのだ。もちろん萩村スズという目標もあるので、勉強もおろそかにできない。しかし、ただ勉強だけで夏休みを終わらせるというのも味気ないのだ。

 

 メジャーなところではスーパーやコンビニ店員。他にも飲食店。古本屋に、ネットカフェ。

 

 やるとしたら飲食店関係かなと、タカトシは大体のあたりをつけていた。料理を覚える事は大事だろうし、生涯にわたって役に立つスキルだ。

 

 それ以外だと、古本屋で色々な本の知識を得るというのも捨てがたい。別に古本屋でなくとも、図書館で働くのもアリだろう。

 

 教科書だけでは手に入らない知識なんて、この世にたくさんある。スズに追いつくためには、これくらいはしなくては。それほどまでに、タカトシにとって彼女の存在は大きかったのである。

 

 と、そこで部屋のドアからノックの音がする。

 

「タカ兄、勉強教えてー」

 

 返事をする前に入ってきた津田コトミ。手には、英語の教科書。

 

「今日は英語か?」

 

「うん」

 

 特に嫌な顔もせず、タカトシは椅子から立ち上がると妹に座るよう勧めた。嬉しそうに腰を下ろすコトミ。

 

「おおう。タカ兄のぬくもりがお尻から伝わって――――」

 

「ほら、教科書開け」

 

 グイグイと、タカトシは教科書の角を妹の頬に押し付けた。

 

 

 

 

「ほら。ここは“あなたに深く同情します”だろ?」

 

「ああ、それじゃあここは……えーっと……」

 

 先ほど教えてもらった事を、もう忘れてしまったらしい。頃合いを見て、ヒントを出してやる。

 

「feel forだろ。同情の意」

 

「そうだった」

 

 嬉しそうにシャープペンシルを片手に問題を解く。

 

 このコトミは、英語が苦手である。単語はある程度理解しているのだが、文法が滅茶苦茶で述語の使い方も間違えて覚えている場合が窺えた。

 

 そのくせ、ファッ○動詞だけは理解できているため、何度か大真面目に回答欄に書こうとしてタカトシに横から消しゴムで消される。

 

「お前、英語苦手だな。桜才は進学校だから、このままじゃ拙いぞ?」

 

「他の教科でカバーするさ」

 

「苦手なものを作っている時点で危ないと思うぞ。ちゃんと教えてやるから、お前も頑張ってくれよな?」

 

「もちろん。タカ兄は中学でも成績は上の方だったから、期待してるよー」

 

「半年も前の話をされてもなぁ」

 

 困ったような顔をするタカトシの横顔に、コトミの股間が僅かに濡れる。この兄は大人びているくせして、たまに年下のような顔をするのだ。

 

 そんなやり取りを挟みつつも、タカトシはどうにか勉強の範囲を終わらせることができた。あとは、この妹がそれをちゃんと覚えていられるかどうかだが。

 

「今日の夜に、1度問題集を試験代わりに解いてみた方がいいぞ」

 

「えーっ。こんなに頑張ったんだから、もう今日はいいじゃん」

 

「駄目だ。せっかく教えたんだから、繰り返し問題を解くのが重要なんだから」

 

「いやあ、もう今日は頭がパンパンでさ。あ、パンパンといっても『パン』ツを『パン』のように咥えるの略じゃないよ?」

 

「俺がそんな勘違いすると思ったか」

 

 我が妹ながら、将来が心配になる。とにかく、勉強の事は夕方頃になったら、もう一度口を酸っぱくして言っておかなければならない。

 

 それまでは、さすがに休ませてやろう。気が抜けた頃を見計らって試験をやらせてやれば、その点数次第では今後の妹のわがままを封じ込める口実に……

 

「……何考えてんだ、俺は」

 

 頭を振るタカトシ。横でコトミが不思議そうな顔をしているが、何でもないと言って黙らせる。

 

 たぶん、疲れが抜けきっていないのだろう。これではS体質と言われても文句など言えない。

 

 勉強道具を片付けているコトミを背に、タカトシは財布と携帯電話が入ったショルダーバックを手に、部屋を出る。

 

「それじゃ、ちょっと出かけてくる。夕飯のおかず、買いに行ってくるから」

 

「あ、うん。それだったら、アイスもお願いー」

 

 この前買ったばかりだろと言おうとして、止めた。実際真夏なので、コトミでなくともアイスを欲しがるだろう。

 

「分かった。いつものやつでいいか?」

 

「いいよー。あ、でも」

 

「?」

 

「太くて大きいのがあったら、率先して買ってきてほしいな」

 

 タカトシは、無言でドアを後ろ手に閉めた。

 

 

 

 

 ニンジンに玉ねぎと食料品を選び、買い物かごに入れていく。周囲の客の中に紛れつつ、タカトシは今晩のメニューを考えていた。

 

 今日はカレーにしてみようか。そうなると、福神漬けも欲しい。ドレッシングサラダも作るつもりなので、レタスやトマト。あとはパンも買っておこう。

 

 それと、明日の朝食。鰯をおかずにして、みそ汁の具は大根と……

 

 そんな調子で食材の会計を済ませると、かなり荷物が重くなってしまった。まあ、いつもの事だが。

 

 店を出て、足早に家に向かおうとする。と、そこで声がかけられた。

 

 女性の声だ。タカトシは、後ろを振り向いた。

 

 

 

 

【スズの場合】

 

 

 

 

 萩村スズはこの日、白い大型犬を連れて公園を歩いていた。

 

 犬は白い毛並みで、愛嬌のある顔立ちをしている。小さい頃からの家族で、とてもいい子なのだ。名前を、ボアという。

 

 主人に合わせた歩行速度で、1人と1匹は真夏の木漏れ日の下を歩いていた。何度か近所の主婦や子連れとすれ違う。

 

 と、公園を出て雑木林が立ち並ぶ散歩道へ入ったところで、見知った人間と出会った。特徴的なエプロンドレスの姿なので、見間違えようがない。相手もこちらに気づき、片手を上げる。

 

「こんにちは。お嬢様のご友人の萩村様でしたね」

 

「あ、はい。こんにちは……出島さん」

 

 七条アリアの家のメイド、出島サヤカであった。手には、なぜかメモ帳を持っている。

 

「こんな所でどうしたんですか?」

 

 つい気になり、スズは尋ねた。少なくとも、何か仕事をしているという感じではなさそうだったが。

 

「いえ。実は現在、個人的に調査をしているのです」

 

「調査?」

 

「この時間帯は人が多いので、露出は可能……と」

 

「何の話……いえ、言わなくていいです」

 

 露出という単語が出た時点で、訊くのを止めたスズであった。

 

 

 

 

 サヤカと別れ、また歩き出すスズと1匹。

 

 と、今度は近くの雑木林からなにやらガサガサと音がした。なんだろうかと訝しんだスズは、そっと覗きこむ。

 

 その時、音を出していた元凶が飛び出てくる。突然の事に仰天し、悲鳴をあげるスズ。

 

「やあやあ、萩村さん」

 

 雑木林から出てきたのは、顔見知りの先輩である畑ランコであった。ただし、その恰好が異様である。

 

 手には愛用のカメラ。これはいい。彼女は新聞部の部長なので、こういう時でもスクープを求めて街中を歩いているのだろう。

 

 しかし、服装は迷彩服。首には紐をつけた双眼鏡がかかっており、額には上に押し上げたゴーグル。軍人と一緒に戦地を歩く戦場カメラマンのようだった。

 

「は、畑さん。こんな所で何やっているんですか?」

 

「大きな声では言えませんが……」

 

 口元に人差し指を当てるランコ。

 

「ついさっきまで、青○探索です」

 

「……」

 

 スズは口にコショウを一瓶突っ込まれたような顔をした。ランコが、ズイッとスズに詰め寄る。

 

「それで、すっごいの撮れたんだけど、見る?」

 

「撮れたのかよ」

 

 マジでそんなやつらがいたのか。スズは手を振り、ノーサンキューの意志を見せた。

 

 

 

 

 再び、スズは散歩を再開する。

 

 と、再び知り合いがこちらに歩いてくる。

 

「おーっす」

 

 スズに気づいた相手は、気さくに話しかけてくる。生徒会顧問の、横島ナルコだ。

 

「あれ、先生?」

 

 つくづく知り合いによく会う日だ。スズはそう思いながら話しかける。

 

「どうしたんですか。こんな所で」

 

「いやぁ、実は知り合いと朝まで飲んでてさー」

 

 あははと笑うナルコ。だが、続けて言った言葉は笑い事ではすませられなかった。

 

「今さっきまで、勢いで青○してましたぁ」

 

「…………ふーん」

 

「それを誰かにビデオ撮られてました。AV女優になったみたいで興奮したー」

 

「教員免許いらないんですか?」

 

 ナルコだったら教師以外でもやっていけるだろうが、一応畑さんに話をつけておこう。そう決意した優しいスズであった。

 

 

 

 

 ナルコから離れ、さっきまでのやり取りを忘れようと散歩に没頭しようとするスズ。

 

 と、やはりというか知り合いがこちらに近寄ってくる。その相手は、知り合いどころか自分の親であった。

 

 妙齢の夫人と、まだ若い外見をした男。自分の両親である。

 

「おお、スズか」

 

「奇遇ね、スズちゃん」

 

 夫婦そろって手を振る。妙なところで会って、目を瞬かせるスズ。

 

「あれ、お父さんとお母さん。こんな所でどうしたの?」

 

 その質問に、母親はニッコリと笑みを深める。反対に、どこか父親は気まずそうな顔になった。視線が泳ぎ、口を貝のように閉ざす。

 

「うふふ。実はさっきまで、お父さんと青○してましたー」

 

「言うなといっただろ!」

 

 目を吊り上げる父親だが、母親は照れたように腰をクネクネさせている。

 

 スズは、本格的に家出の算段を頭に描き始めた。

 

 

 

 

「……なんなのよ……本当になんなのよ……」

 

 暗い影を背中に背負い、どうにか重い足を動かそうとするスズ。一方で、そんな彼女に足並みをそろえようとしているボア。本当に偉い犬だ。

 

 もう帰ろう。散歩コースはまだ終わっていないし、ボアにも気の毒なのだが、正直なところ自分の精神が持ちそうにない。

 

 というか、もう彼女にとってこの周辺は立ち入り禁止区域になりつつあった。何かの間違いで、うっかり大人の動物園を目の当たりにしてしまいそうである。

 

「あれ、萩村?」

 

「……え?」

 

 声に反応する。今度は誰だと嫌気がさしてきたが、どうにか堪えつつ顔を上げた。

 

「あ、津田じゃない」

 

「こんにちは、萩村。偶然だね」

 

 買い物袋を両手に持った生徒会副会長のタカトシが、目の前に立っていた。

 

 だが、彼は1人ではない。タカトシの後ろにいたらしく、ひょいと首を覗かせる人物がいた。

 

「こんにちは、萩村さん」

 

「あれ、五十嵐先輩?」

 

 どういう事なのだろう。男性恐怖症の先輩が、タカトシと一緒にいるなんて。

 

「ま、まさか……」

 

 プルプルと震え、2人を指さすスズ。さっきまで会っていた者達のパターンからして、もしかしてこの2人まで……!

 

「実は、さっきそこのショッピングモールで偶然会ったので」

 

「青か――――って……えっ?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

【変わりはじめた彼女】

 

 

 

 

 風紀委員長の五十嵐カエデ。彼女も買い物の途中、彼に会ったらしい。ようやく自分の勘違いだと理解したスズは、頭を掻きながら嫌な汗をかいていた。

 

「な、なんだ。そうならそうと早く言いなさいよ」

 

「いや、会ってすぐに説明しようとしたんだけど……っていうか、何の事だと思ってたの?」

 

「い、いいじゃない。もう終わった事だし!」

 

 何か隠している事があるのは明らかであったが、タカトシとカエデもツッコまなかった。なんだか、2人の目にはスズが可哀想に思えたらしい。

 

「俺は今日の夕飯と明日の朝食のおかずを買いにだけどね。先輩がこの近くに住んでいるなんて、初めて知ったよ」

 

「津田君が使う駅とは逆方向だから」

 

 2人は、あえて話題をずらした。

 

「そうなんですか。じゃあ、あのあたりに行けば、また会えるかもしれませんね」

 

「わたしだって、いつでも買い物をしているわけじゃありませんよ?」

 

 冗談めかしているタカトシに、カエデも笑って答える。

 

 正直、彼女がタカトシと一緒にいるというのは不思議だった。

 

 もともと男性恐怖症の気があるうえに、副会長とは色々とトラブルが起きているという。特に海水浴の一件は、彼女にとってはトラウマものだったはずだ。

 

 後にカエデがタカトシと揃って事情を説明したために事なきを得たが、それでも自分の肌を嫌いな男であるタカトシに見られたことは事実なのに。いくら偶然の出会いとはいえ、プライベートでもこうして普通に接していられるというのは少しばかり意外である。

 

 何となく興味がわき、スズは訊いてみる事にした。

 

「あの、五十嵐先輩」

 

「はい?」

 

「五十嵐先輩って、男性恐怖症じゃなかったんですか?」

 

「まあ、若干……」

 

 少しだけ言いにくそうになるカエデ。何となく、スズの言いたい事を察したらしい。

 

「でも、津田君は怖い人じゃないって分かったから。それに、私だっていつまでも怖がってばかりじゃいられないし」

 

 カエデ自身、なぜタカトシには普通に接する事が出来るのか、ハッキリとした答えは出せないでいた。

 

 なぜだろう。最初に自分を助けてくれた時からか。それとも、頭ごなしに怖がってばかりだった自分にも自然に接してくれたからか。

 

 その返事をどう受け取ったかは分からないが、スズはそれ以上に深くは訊かなかった。

 

 代わりに、スズへ話しかけたのはタカトシだった。

 

「ところでさ、萩村。その犬って、萩村が飼っているの?」

 

「あ、そうよ。ボアっていうの」

 

 スズの横でお座りしている、白い大型犬がタカトシとカエデの目に入る。

 

「あら、可愛いわね。ちょっと撫でてもいいかしら?」

 

「ええ」

 

 カエデはボアの前にかがむと、頭を優しく撫でる。犬特有の毛並みが心地よい。

 

「よく躾けられてるのね。凄い大人しいわ」

 

「ええ。絶対に人は噛みませんし、小さい頃からずっと一緒の家族なんです」

 

「そうなの。うちはペットを飼ってないから、ちょっと羨ましいわ」

 

 そんなやり取りを、タカトシは微笑ましそうに一歩下がった場所から見ている。女の子同士の会話に割り込まないように、気を使っているのだ。

 

 しばらく、他愛のない会話がタカトシを交えて続く。気がついた頃には、夕暮れの時間になりかけていた。

 

「ああ、すっかり話し込んじゃいましたね。すみません、五十嵐先輩。それと、萩村も」

 

「いいんですよ。学校以外で話せたのって、けっこう新鮮でしたから」

 

「気にしないでいいわよ」

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

 買い物袋のドライアイスが溶けている事をようやく思い出したタカトシは、大急ぎで家に向かっていく。

 

「それじゃあ、私も失礼しますね。2学期も、よろしくお願いします」

 

「ええ。こちらこそ」

 

 カエデもボアの頭を最後に一撫でしてその場を去っていった。

 

 スズも、傍に座り込んでいるボアと共に家路へと向かっていく。疲れる事もあったけれど、それでも今の彼女の顔に浮かんでいるのは、嬉しそうな笑顔。

 

 そんな、夏休みの一時。

 

 蝉の声が響く中、彼らの夏はまだまだ始まったばかり――――

 

 

 

 

【夏休み中の会議】

 

 

 

 

 夏休みの半ば。

 

 晴れ間が続くある日。生徒会の登校日に、タカトシは学園へ姿を現していた。

 

 グラウンドには、陸上部を中心とした生徒がトラックの周りを走っている。校舎からは吹奏楽部らしき様々な音色が聞こえた。

 

 部活、か。タカトシは玄関に向かいながらも、ふと考えてしまう。

 

 小学校では野球をやっていた。しかし、今はもうやってはいない。

 

 私立の中学を受験するために、勉強に専念したかったのである。地元の大会では準優勝の成績を収めた事を最後に、区切りをつけたのだ。

 

 中学ではサッカーをはじめた。部活内でグループができて、一緒に汗を流す毎日が充実していたものだ。もちろん仲間内で喧嘩になる事もあったけれど、今となってはいい思い出である。

 

 そういえば、アイツらは元気にしているかな……

 

 何人か、親友と呼べた者達を思い出す。みんなそれぞれ、別々の高校へ行ってしまったのだ。彼らはこの青空の下、今でも元気にやっているだろうか。

 

 卒業式が近くなった頃、お互いの夢を語り合った。高校でもサッカーを続けるために、スポーツが強い高校に行った者。将来の夢のために、有利な高校を選んだ者。成績と相談して、レベルの高い学び舎を選んだ者。

 

 あれから、そろそろ半年近く。今でも連絡は取り合っているが、せっかくの夏休みなので、思い切って遊びに行くというのもいいかもしれない。

 

 そんな事を考えながら玄関で上履きに履き替えていると、生徒会会長の天草シノと目があった。彼女もちょうど登校してきたらしい。

 

「やあ、津田。おはよう」

 

「おはようございます、会長」

 

 挨拶を交わしつつ、生徒会室へと向かう2人。誰もいない校舎の廊下ではあったが、不思議と殺伐とした空気にならないまま、適度に会話を続ける。

 

「会長は、夏休み中は何を?」

 

「ああ。親戚のところへ行っていたよ。久しぶりに一緒に遊んだ」

 

「そうでしたか。俺はアルバイトを始めたんです」

 

「君がアルバイト?」

 

 シノとしては初耳だった。

 

「はい。そろそろ自分の金は自分で稼ぐ歳ですから。あと、一応卒業までに貯金もある程度貯めようかなって」

 

「君は進学希望なのか?」

 

「あ、はい。入学当時は就職も考えていたんですけれど、萩村の影響ですかね。今は留学して、海外の大学へ行きたいなと思っているんです」

 

「ほう。そのための進学資金という事か」

 

 感心するシノ。なるほど。そういえば、以前に彼はドイツ語の基礎を勉強していた事を思い出す。

 

「留学先というのは、やはりドイツなのか?」

 

「今のところは、それが第一志望ですね。留学する一番の理由としては、やっぱり日本から離れて、違う環境で勉強がしたいからというのが理由ですが」

 

「……海外ならではの危険というモノもあるかもしれんぞ。そんな気持ちで行ってもいいのか?」

 

「あはは。その辺りは充分に注意します。自分の命ですからね」

 

 

 シノの言いたい事は理解していた。日本は平和ボケしていると諸外国からは揶揄されている事は知っている。

 

 一度国境を越えれば日本の常識など通用せず、その国ならではの犯罪など容易く巻き込まれてしまう。何かあってからでは遅いのだ。

 

「いや。向こうの男達に、うっかり掘られてしまうのではないかと」

 

「もっと違う心配してよぅ」

 

 

 

 

 生徒会室に入ると、すでにスズと七条アリアは席についていた。2人は指定の椅子に座る。

 

「確か、今日の議題は来月の体育祭でしたね」

 

 と、切り出すスズ。シノは頷いた。

 

「ああ。共学化して、初めての体育祭だ。何か新しい事が出来ればいいのだがな」

 

「それでしたら競技を増やしたり、生徒の家族も気軽に参加できるものを増やすとか」

 

「ふむ、やはりそう考えるか。私もそう思っていたが」

 

「あの、それなんですが。去年は、どういう競技があったのでしょうか?」

 

 手をあげ、今度はタカトシが質問をする。そこで、アリアが席を立ち、ホワイトボードにいくつかの書き込みをしていく。

 

「えっと……」

 

 時折思い出そうとしながら、マーカーを動かしていく生徒会書記。やがて――――

 

 ――――くんずほぐれつ2人3脚。

 

 ――――うっふんあっはん大作戦。

 

 ――――ドキッ! 女子高生だらけの騎馬戦。

 

 他にもまだあったが、タカトシとスズはこれ以上ホワイトボードを見るのは止めておいた。というか、去年から学園規模でこういうノリだったのかよ。

 

「……あの、先輩方。本当にこんな競技を実行していたんですか?」

 

「よく親御さん方から苦情が来ませんでしたね」

 

 後輩2人の呆れた顔に、シノとアリアは当然のように頷いた。

 

「当然だ。我々が嘘をついているとでも?」

 

「嘘じゃないから性質が悪いんですが」

 

「去年の騎馬戦だと相手の女の子がバランスを崩して、私の体操着を引っ張っちゃったものね」

 

「ああ。まさか本当にドキッとさせられるとは思わなかったぞ。しかも、今ではあれからさらに大きくなってしまうとは……」

 

 恨めしそうにアリアの胸を睨むシノ。その視線を感じて、太ももを擦り合わせる書記。

 

 話が脱線しかけている。そう感じたスズは、話をタカトシに振る。

 

「津田。何かいい案ないの?」

 

「そうなると、ひと工夫凝らした競技に挑戦してみるというのはどうでしょう?」

 

「具体的には?」

 

「借り物競争や、リレー。2本の縄を使う十字綱引き」

 

「十字綱引きとはなんだ?」

 

 シノが首を傾げる。あまり聞いた事のない競技だったようだ。

 

「縄を2本使って、十字の形になって引き合う綱引きの事ですよ。一番後方で綱を引いている選手が、後ろの旗を取ったら勝ちというルールです」

 

「ほう。それは知らなかったな」

 

 スズが解説を入れる。会長は感心したような声を出す。

 

「借り物競争は、借りるものにユーモアのあるものを加えてみるか。オ○ホールとか」

 

「満場一致で却下です。大体、そんなものが学園にあるわけないでしょう」

 

 タカトシが即答するが、アリアは首を傾げる。

 

「それくらい、この教室にもあるよ?」

 

 そういって、アリアは隅の引き出しから言われた物を取り出した。

 

「なぜ教室にこんなものがあるのか」

 

 驚かなければいけないのに、平然としている自分が怖いタカトシとスズであった。

 

「まあ、具体的に何を借りるかは2学期に生徒からアンケートを取るという事で」

 

「そうね。それじゃあ、次はリレーだけど」

 

 副会長と会計が強引に話を終わらせ、話を変えた。

 

「リレーは、部活動対抗リレーとクラス対抗の2つがありましたね」

 

「ああ。去年はそうだったが、今年はどうするかな」

 

 タカトシの質問に、シノは頷く。先ほども口にしたが、今年からは何かしら新しい事に挑戦したいのである。

 

「リレーに工夫を加えるとなると……」

 

「うーん……」

 

 4人とも、腕を組んで黙り込んでしまう。単純な競技故に、ルールを弄りづらいというのは厄介だ。

 

 やがて、タカトシが提案する。

 

「では、こういうのはどうでしょう。リレー選手の走る順番を、本番前のくじ引きで決める」

 

「おい、津田。それはさすがに……」

 

「あ、それは面白そうかもね」

 

 流石にいい加減じゃあないのかと却下しようとするシノであったが、アリアはいい考えと言わんばかりに肯定した。

 

「それならギャンブル性が出て、必ずしも足の速いチームが勝てるとは限らなくなるし。リレーだと走る順番は大事だから、勝負が分からなくなるかも」

 

「む……」

 

 アリアにまでそう言われてしまうと、なんとなく否定できなくなる。意見を求めるように、スズに視線を送った。

 

「いいんじゃないですか。少なからず運の要素も取り入れるというのは賛成です」

 

 目が合ったスズは、特に難色を示さなかった。彼女も、案としては面白そうだと考えたらしい。

 

 その後、もう少し話し合いを続けてから、この競技案は採用された。

 

「ところで、男子がいるクラスといないクラスでは、戦力に差が出ませんかね」

 

 スズが問題を提示する。それは、確かにもっともな意見であった。

 

「ハンデをつけるか」

 

「例えば?」

 

 シノの言葉に、タカトシが訊く。

 

「男子は前日に、限界まで自家発電を……」

 

「出場回数に制限をつければいいじゃないですか」

 

 みなまで言わせず、タカトシは呆れたように言った。

 

「おお、その手があったか」

 

 手を打つシノ。

 

「やはり、君を生徒会にスカウトしたのは正解だった。私とはタイプが違うようだが、有望な人材を取り込めてよかったと思う」

 

「ど、どうも」

 

 困ったように笑うタカトシ。流石に褒めすぎではないかと思ったが、シノの機嫌に水を差すのも悪い気がして、黙って言われるままになる。

 

「今後も、新しい桜才のパイマニアとして期待しているぞ」

 

「……え?」

 

「まあ」

 

 シノのわけの分からない言葉に、アリアが頬を染めて自分の胸を腕で隠す。

 

「すまん。パイオニアを噛んでしまった」

 

「さいですか」

 

 今日も愉快な生徒会役員共だった。

 

 

 

 

 夏休みは、まだ始まったばかり――――

 

 

 

 

つづく

 

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