生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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桜舞う学園の中。

まだまだ知らない事は多すぎて。

新しい出会いがあったとしても。

まだまだ分かり合うには遠すぎて。

それでも僕らの心には。

歩み寄れる、予感があるから。


本当の意味で知り合う瞬間

 

 

 

 少子化の影響で今年から共学となった桜才学園。

 

 1年生の津田タカトシは、半ばごり押しのような形で生徒会副会長の座に居座ることになってしまった。

 

 この日も、彼は生徒会の個性的すぎる女性たちに囲まれつつ、仕事をこなしていく。

 

 

 

 

【仕事初日】

 

 

 

 

 早朝。生徒会役員は日常会議として生徒会室に集まっていた。

 

「最近、いじめが社会問題となっている」

 

 会議が始まって開口一番、シノ会長から出た言葉がそれである。

 

「いじめですか。去年は、この学園ではその辺りどうだったんですか?」

 

 手をあげ、タカトシが意見をする。それに答えたのは、彼の真向かいに座っている七条アリアであった。

 

「うーん。目立ったような問題は特になかったけど……上級生の先輩に言葉攻めされて悦んでる同級生は見たかな」

 

「その人、俺に紹介しないでくださいね?」

 

 単に妙な性癖を持っている同級生という事ではないか。しかもいじめと違うし。

 

「というか、七条先輩は止めなかったんですか? 学園内でそんな人がいたら、注意ぐらいはするのが妥当かと」

 

 タカトシの隣に座っている萩村スズが、至って真っ当な事を言う。それに対し、アリアは困ったような顔をする。

 

「うーん。私の父と母みたいで微笑ましかったから」

 

「仲睦まじいな。結構な事だ」

 

「動じない人たち凄いや」

 

 ウンウンと頷くシノに、タカトシは言った。

 

「津田。何かいい案無いの?」

 

 スズが投げやりのように言うと、タカトシは自分の意見を言った。

 

「そうですね。いじめといっても色々あるでしょう。それをどう見分けるかで、悪化を防ぐ事ができるかの分かれ道になるかと」

 

「ふむ。色々というのは?」

 

「単純に暴力をふるういじめ。それを武器にして金品を巻き上げる恐喝めいたいじめ。風評被害を出して個人の評判を落とすいじめ。クラスぐるみになって特定の人を無視するいじめ」

 

 思いついたことを1つずつ口にするタカトシの話は続く。

 

「ただ、いじめを止めるための対処を間違えてしまうと、かえって問題が悪化するかもしれません。たとえば、無視をするタイプのいじめですが、本当にいじめとして成立するほどの事態になっているのかを見分けられるかどうかが問題なんです」

 

「いや、個人が孤立しているというのなら、それはクラスメイトがその者を相手にしないことの証明になるのではないか?」

 

「そうです。会長が仰ったとおり、単にクラスになじめなくて友達が作れないだけの生徒なのか、本当にいじめられて孤立しているのか。前者だった場合、生徒会が介入すればその人の立場はかえって危うくなりかねません」

 

「他の人たちにとっては、覚えがないのにその子が生徒会に泣きついたと捉えるでしょうし、いい顔ができないだろうからね」

 

 タカトシの言葉を、スズが引き継ぐ。

 

「なるほど。なかなかに参考になる意見だ。やはり、君を抜擢した私の目に狂いはなかったな」

 

「いえ、そんな」

 

 満足そうにシノが頷く。タカトシは照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「でも、確かにどっちか見分けはしづらいよね。そういう人間関係って」

 

 アリアがもっともだと言わんばかりに相槌を打つ。

 

「無視されちゃっているのか、みんなからの放置プレイなのか」

 

「俺、せっかくいいこと言ったのに」

 

「ちゃんと参考にしてるわよ。あれでも」

 

 スズのツッコミが、せめてもの慰めだった。

 

 

 

 

【会議は午後へと続く】

 

 

 

 

 昼休みの時間。

 

 与えられた書類整理の仕事を、タカトシは不慣れながらもどうにかこなしていく。分からないところは、若干の申し訳なさを覚えつつも先輩2人に訊き、ペンを走らせることができた。

 

 ふと、隣を見るとスズが机に突っ伏したまま眠りこけている。頭のすぐ傍には片付け終わった書類の束が積まれてあるのがさすがだとタカトシは思う。

 

「萩村って、いつも昼寝しているんですか?」

 

「そうしないと、身体がもたないんだって」

 

 アリアが答える。やっぱり子供だと再認識するタカトシ。

 

 そこで、生徒会室にシノが入ってくる。若干大きめの箱を小脇に抱えていた。

 

「なんですか、それ。目安箱……?」

 

「そうだ。我が校の生徒たちの声が、この箱に詰まっている!」

 

 タカトシの疑問に気合の入った答えを返しつつ、水色の目安箱を机に置いた。

 

 早速、中を確認する面々。流石に入学したばかりのせいか、色々と意見を出そうという生徒がいるらしい。タカトシは入っている紙の1枚を開けた。

 

 ――会長に手を出したら、穴ブチ抜きます。

 

「……」

 

 硬直するタカトシ。これは明らかに自分宛に書かれたものだ。

 

「シノちゃんのファンクラブの子からだね。こっちにもあるよ」

 

 横から、アリアが自分の確認した紙を見せる。そこには、会長の半径5メートル以内に近づいたら切り落としますとある。

 

「怖いな」

 

 背筋が震える。会長とはもう少し、距離を取った接し方をした方がいいのだろうか。

 

 よく見ると、目安箱の中身はどれもこれも似たり寄ったりな内容ばかりであった。これにはタカトシもウンザリする。

 

「男を副会長にすると、こうも苦情が来るのか」

 

「シノちゃんを目的に副会長になったとか思われてるんじゃない?」

 

「俺の意見は無視されたままってのは知らないんですね、そのファンクラブの人たち」

 

 シノとアリアの会話で、投書をチェックしながらタカトシの意見が入る。

 

「あれ?」

 

 ふと、1枚の投書に目がいく。これは、どうやら警告文ではなさそうだ。

 

「えーっと……『僕は顔に自信がなく、恋人ができる自信がありません。どうしたらよいでしょうか』か……」

 

 朗読したタカトシに、周囲の目が集まる。

 

「なんだそれは。うちの学園は恋愛禁止という校則を知らないのか?」

 

 ムッとした顔になるシノ。真面目な彼女らしい反応であった。

 

「あれ。そうだったんですか?」

 

「あんたね。学園は生活の一部なんだから、それぐらい知ってなさいよ」

 

 タカトシの素朴な疑問に、スズが呆れたように口を挟む。

 

「問題外だな。校則違反を生徒会に相談するとは。けしからん」

 

「字を見る限りは男子みたいですけど、どうしますか?」

 

「相手にしなくていい」

 

 それは少し可哀想かなと思い、タカトシはもう少し突っ込んだ話をしてみる。

 

「高校生では恋人がいるのは珍しくないと思いますが……会長はその辺りどう思っているんですか?」

 

「興味ない。学生とは勉学に望むべき場所だ。恋愛なんぞにうつつを抜かしていては、自分を伸ばすべき時間が削られてしまうからな」

 

「す、すごいですね」

 

 高校生と言えば、多感期な時期だ。その大切な青春時代を勉学に打ち込むと公言する者は、なかなかにいないだろう。2年生にして生徒会長を務めている者の自負だ。

 

「そういう津田はどうなんだ。高校生は恋愛をするべきか否か」

 

 腕を組んで言い返すシノ。タカトシは少し考えると、正直な気持ちを言った。

 

「別にいいと思いますけど。むしろ禁止をしてしまえば、かえって抜け道を探そうとする生徒が出てくるかもしれませんし」

 

「まったく。禁じられている事をなぜしようとするのだ。理解できん」

 

「個人的には、そこまでして交際をしようとは思いませんけどね」

 

 シノの不満そうな言葉に便乗するように、スズも言った。

 

「でも、少しわかるな。そういう気持ち」

 

 アリアが手を上げて、口を挟む。

 

「オ○禁されると、余計したくなっちゃうのと同じだよ」

 

「この議論は検討の余地があるな」

 

「ねえよ」

 

 丸め込まれた会長共々、タカトシは言い切った。

 

 

 

 

【ご案内と再会】

 

 

 

 

 額に汗を浮かべつつ、タカトシは生徒会室のドアを開けた。

 

「すみません、遅れました!」

 

「遅いぞ、津田。今日は大事な会議だといっただろうが!」

 

 相変わらずほんわかしているアリアを除き、シノとスズが不機嫌そうに副会長を見ていた。非は自分にあるので、タカトシはありきたりな言い訳をするしかない。

 

「いや、実は道に迷っちゃいまして……」

 

 実際は最後の授業が初めて訪れる移動教室があったので、そこから直接来たために起こった遅刻であった。

 

「ふむ。津田は入学してまだ日が浅いか。ならば、今日は学園内を案内してやろう」

 

「あれ、大事な会議は?」

 

 その言葉が聞こえないかのように、シノはいそいそと椅子から立ち上がる。アリアもそれにならい、スズは諦めたような顔で。

 

 こうして、放課後の会議の代わりに津田の校内紹介が幕を開ける事となった。

 

 

 

 

「では、ここが保健室だ」

 

 1階の保健室の前で、シノが紹介した。ここは、タカトシも覚えがある場所だ。

 

「ああ、ここに会長たちが案内してくれたんですよね」

 

 思い出したように言うタカトシ。倒れた先輩を運んだのは、確かにここだった。

 

 保健室は、確かに怪我や病気に利用するだろう。紹介してもらうのは、至極当然といえる。

 

「うむ。では、次だ」

 

 満足そうに頷くと、今度は2階への階段を上る。今度は、なぜか女子更衣室。

 

「え?」

 

 目を瞬かせるタカトシ。なぜ、わざわざ女子更衣室?

 

「次は、普段は使われていない無人の教室だ」

 

「はあ……」

 

 そして、また移動。

 

「ここは――」

 

「――体育倉庫ですよね」

 

 見ればわかる。体育館内の扉を開いたまま、生徒会役員たちが揃っている姿は中々にシュールだ。

 

「あの。紹介してくれるのはうれしいんですけど、なぜ体育倉庫やら女子更衣室などをわざわざ?」

 

「男子なら、紹介されればドキッとすると思って。もしや、不満か?」

 

「いや、女子更衣室なんて男子はまず利用しませんし、用もなく無人の教室に入るほど酔狂じゃありませんよ」

 

「ふむ。ではもう少し我々が良く使う場所を紹介しようか」

 

 初めからそうして下さい。タカトシは心の中で思った。

 

 そして、来た所は2年生の先輩達が歩いている廊下。目の前には、2-Bと書かれたプレートがある教室。

 

「ここが、私とシノちゃんの教室よ」

 

 アリアが解説をする。なるほどとタカトシは納得した。

 

「何か困ったことがあれば、気軽に訪ねてほしい」

 

「はい」

 

 シノの言葉に、タカトシは頷いた。なるほど、先輩たちの教室なら知っておかなくては。

 

 それししても、とタカトシは周囲の視線を気にする。

 

 共学になったのは今年からのため、2年生は男子がいない。そのため、先ほどからすれ違う先輩の女子が明らかに異分子を見るような目で見てくる。それほど露骨ではないものの、やはり居心地が悪い。

 

 先ほどの目安箱の投書を思い出す。この中に、シノのファンはいないだろうか。もしいれば、明らかに恨みつらみの視線で貫かれそうだ。

 

 早いところ退散したい。そう思っていたところで、声が聞こえた。

 

「あっ、君は……」

 

「え?」

 

 隣の教室から姿を見せた女子が、タカトシを見て驚いた声を上げる。天然の茶髪に三つ編みの髪型。

 

 どこかで見たような顔に、タカトシは記憶の引っ掛かりを覚える。はて。知り合いに、こんな女性がいただろうか?

 

「おお、五十嵐か」

 

 シノが、どこか親しげに話しかける。その声に我が返ったのか、かしこまった態度で頭を下げる五十嵐と呼ばれた少女。

 

「あ、会長。先日は、またご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

「構わんぞ。それよりも、礼ならばこいつに言ってやってくれ」

 

 手でタカトシを指し示すシノ。言われたカエデは、ビクリと肩を震わせる。

 

「え、あ、あ、そうですよね……助けてもらったのですから、お礼くらいは……!」

 

 途端、先ほどまでの毅然とした態度とは打って変わって、ギクシャクした反応をする。そこまで言われ、タカトシはようやく彼女の事を思い出した。

 

「ああ。確か五十嵐先輩……でしたっけ?」

 

「あ、そ、そうよ。あ、あのときはわわ、どどうもおせわをおかけしてして……!」

 

「うん。とりあえず、深呼吸しませんか?」

 

 津田は、いくらなんでも動揺しすぎていると感じた。目の前のカエデはタカトシを前に顔を引き攣らせ、後ずさりさえしつつある。

 

「あの、だから私はその……」

 

 恥ずかしがっているのか、怖がっているのか。ハッキリ言って、タカトシには理解できない。

 

 そんな彼女の反応を誤解したのか、周囲の先輩が2人の間に割って入る。

 

「ちょっと、あんた。1年の男子でしょ。あんまりカエデに話しかけないでくれない?」

 

「えっ?」

 

「カエデは男性恐怖症なの。この反応見ればわかるじゃない。ちょっとは空気読みなさいよ」

 

「いえ、そんなつもりは……」

 

「そうよ。カエデが可哀想じゃない」

 

 呼応するように、周囲の女子が1人、また1人とタカトシを非難する。こういう時、女子の団結力というものは本当に強力だった。

 

 まずいな。タカトシは思う。自分はただ案内をされているだけなのだが。まさか、こんな事態になってしまうなんて。

 

「こら、お前達!」

 

 そこで、シノが喝を入れた。その声に、周囲の声が静まり返る。今更ながら、会長の傍で騒いでしまった事に気づいたのか。

 

「私が五十嵐に、声をかけるように言ってしまったのだ。文句なら、私が訊く」

 

 これほどまで、シノの存在を頼もしく思える事はなかった。タカトシはどこか感動に近い気分を味わってしまう。

 

「い、いえ。そんな……」

 

「会長に文句なんて……」

 

 途端、しどろもどろになる周囲の女子。そんな反応にシノは溜息をつく。代わりに、アリアがフォローするように呼びかけた。

 

「みんな、もうこの時間は放課後だよ。部活がある人以外は、速やかに帰ってね」

 

「は、はい。すみませんでした……」

 

「お騒がせしてしまって……」

 

 気まずそうな顔のまま、そそくさとその場を去っていく女子たち。廊下には、あっという間に生徒会の者たち以外誰もいなくなった。

 

「す、すみません会長……ご迷惑をおかけしてしまって」

 

 済まなそうに頭を下げるタカトシ。

 

「何を謝る必要がある。案内をするといったのはこの私だ。文句なら、私に言え」

 

「いえ、文句じゃなく……ありがとうございました」

 

 万感の想いをこめて言うタカトシ。心のどこかで、タカトシはシノの事を下ネタ好きな下品な人という印象があったからかもしれなかった。

 

 だが、それは大きな間違いだった。彼女は責任感があり、人望もあり、真面目ないい生徒会長だという事を思い知ったのだ。

 

 アリアも、そんな彼女を補佐するために働いているのだ。スズも、もしかしたら彼女たちのそういう一面に気づいて、生徒会をしているのかもしれない。

 

 この人達の傍だったら、働いてもいい。いや、働きたい。タカトシは、ようやくその気持ちを噛みしめる事が出来た。

 

「それにしても、やっぱり凄いですね。あれだけの騒ぎを一喝するなんて」

 

 照れ隠しに、ついタカトシはシノに対して言ってしまう。それを、彼女は当然のように受け止めた。

 

「まあ、慕われなければ人の上には立てないからな。さっきのように言われっぱなしになりたくなければ、君も常に尊敬されるよう努力すべきだ」

 

「いやぁ、ああいうのは我慢すれば、そのうちみんなも飽きるかなって」

 

「蔑まれた方がマシだったのか? キミがMだったとは」

 

 天草シノ会長は尊敬できる人だ。たぶん……

 

 

 

 

【高いところ】

 

 

 

 

「ここは屋上よ」

 

「へえ。いいところだね」

 

 スズの説明に、タカトシは素直に感嘆の声を上げた。見晴らしがよく、空気が心なしか澄んでいる。絶好のスポットであった。

 

 フェンスにより、スズ共々グラウンドの光景を眺める。現在はソフトボール部の練習があり、ちょうどバッターがヒットを打ったところだ。

 

「ここって、普段も解放されているの?」

 

「一般生徒は基本的に立ち入り禁止だけど。教師と生徒会役員と風紀委員は、校内を見まわる権限があるために出入り自由よ」

 

「ふーん。ちょっと得した気分になるよね。自分達の権限って」

 

「まあ、そうね。私も、高いところが好きだし。それを独占できるのは悪い気分じゃないわ」

 

「そうなんだ」

 

「人を見下ろせるから」

 

「……」

 

 何とも、微妙な沈黙。その空気を予想していたのか、スズが普段の口調のまま言う。

 

「笑えばいいじゃない」

 

「いや、別に」

 

 返答に困ったタカトシは、ふと背後を見る。屋上の出入り口で、ドアに摑まったまま屋上へ来ないシノが視界に入る。

 

「あれ。会長は来ないんですか?」

 

「いや、私はいい」

 

 よく見ると、足や声が震えている。

 

「ひょっとして、高いところが苦手なんですか?」

 

「なっ……そんなわけないだろう!」

 

 図星をさされたようだが、やはり屋上へは来ない。

 

「勿体ないですよ。こんなにいい景色なのに」

 

 タカトシはシノに近寄り、手を差し伸べる。ビクリと、掃除機のホースの先を突きつけられた猫のような反応をする会長。

 

「大丈夫です。せっかくですし、一緒に眺めてみませんか?」

 

 ニコリと笑うタカトシに触発されたかどうかは分からない。だが、おずおずと手を取った。

 

「俺に摑まっていれば大丈夫ですから」

 

「わっ……」

 

 危なっかしい足取りで、ヨロヨロと屋上へ足を踏み入れるシノ。タカトシのその歩調に合わせ、あえてゆっくりとフェンスへと近寄っていく。

 

 シノの目の前には、近づかなかった事で見えなかった光景が広がっていた。下の階からでは見えない建物の屋上。そびえ立つ建物の合間に見える緑の木々。

 

 そして、部活動にいそしんでいる生徒たち。校舎のどこかから聞こえる、学生同士の笑い声や音楽室からの歌。

 

「あ……」

 

 普段のクールな態度を置き忘れ、自然と声を上げるシノ。

 

 知らなかった。屋上の前に出る事で、こんな世界を知る事ができるなんて。

 

 いつしか、自然と浸ってしまう。生徒たちの声。初めて見た視点からの、見慣れていたはずの風景。その発見の喜びと高揚が、いつしかシノをこの景色の虜にさせていた。

 

「どうですか?」

 

 頃合いを見て、タカトシは言った。それに、シノは口元を僅かにほころばせる。

 

「……最高だな。ここまで来なければ、分からなかった発見ができた」

 

 よかった。タカトシだけではない。アリアも、スズもそう思った。

 

 この時、タカトシがなぜ会長の手を取ってまで屋上の先の世界へと誘ったのか。その理由は、自分を庇ってくれたことに対する恩義だったのだろうか。それとも……

 

 その理由は、タカトシ自身もハッキリとしない。そして、それはこれから先も答えなど見つからないだろう。

 

 だが、この時の彼の行為が、本当の意味で生徒会役員を団結させる決め手になった事だけは、この場にいるすべての者が疑いを持たなかった。

 

 

 

 

つづく

 

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