生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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仕事に追われる日々の最中。

時には己の器を問われる事もあって。

それでもなお、僕らは止まらず。

望む結果を出すために、躊躇わずに答えに応じた。


仕事と決断

 

 

【調教師スズ】

 

 

 

 

 放課後、生徒会室で書類の作成をしている最中。スズが怖い顔をしてタカトシに顔を向けた。

 

「ちょっと津田。この報告書、3か所も誤字あったわよ」

 

「え、本当?」

 

 書類の整理をしている時に見つけたプリントを片手に、怒られてしまうタカトシ。確認させてもらうと、確かに漢字の使い間違いがあった。

 

「あんた、会長に庇われているからって弛んでいるんじゃないの!? ちょっとこっち向きなさい」

 

「あ、うん……」

 

 言われて、タカトシは座っている椅子ごと隣のスズに身体を向ける。スズも同じように対面する。

 

「……」

 

 腰に手を当て、タカトシを睨むスズ。だが、すぐに立ち上がった。そして、また座る。

 

「……萩村?」

 

 困ったように言うタカトシ。なぜかどんどん不機嫌な顔になるスズ。

 

 スズの視点は、座っても立ってもタカトシの上にはいかない。タカトシは普通に椅子に座っているだけだというのに。

 

「そ、そこにひざまずけーっ!」

 

 半べそになりつつ、スズは叫んだ。

 

「えー」

 

 ハッキリ言って、こういうプライドを捨てるような行為は嫌だった。だが、自分の方に非があるので、何も言えないタカトシである。

 

 そこで、会長のシノが生徒会室へと入ってきた。

 

「やあ、すまないな。遅くなってし……」

 

 笑顔で机へと近寄ってくるシノは、2人の姿を見て硬直する。

 

 彼女の視界には、手を腰に当てて偉そうな格好の会計と、その足元にひざまずいている副会長の姿。

 

「い、いつの間に調教した!?」

 

「もっと他に反応あるだろ!」

 

 異口同音に、2人は叫んだ。

 

 

 

 

【新聞部】

 

 

 

 

「実は今日、新聞部からのオファーがあってな。放課後に生徒会室で、取材を受ける事になった」

 

「取材ですか。具体的に、どういう事を質問されるんでしょう?」

 

 タカトシが訊ねる。

 

「今後の生徒会のスローガンや、今年から始める新しい政策。そういうあれこれだ」

 

「それでしたら、今のうちに練習してみるというのはどうでしょう」

 

 スズが片手をあげ、意見する。アリアもそれに賛同した。

 

「賛成。それじゃ、津田君がインタビューの役をしてくれない?」

 

「えっ。いいですけど……なんで俺が?」

 

「AVにインタビューのシーンがよくあるじゃない」

 

「俺はそれを見れる年じゃありませんよ」

 

 スズが横目で軽蔑の視線を向けてきたので、ハッキリと言い切っておくタカトシ。というか、先輩たちはなぜそんな事を知っているんだ。

 

「よろしく頼む」

 

 シノはどこか期待した眼差して頼んでくる。スズの視線がますます氷点下に近づいた。

 

「いや、だから、普通にインタビューすればいいんでしょうに」

 

 困ったように咳払いすると、タカトシは頭の中でいくつかの質問事項をまとめ上げる。

 

「それじゃ、いきますよ。まず、生徒会長としての目標をお聞かせ願えますでしょうか」

 

「今年からは共学化が実施され、今までとは勝手が違ってくるかと思いますが――」

 

 

 

 

【そして放課後】

 

 

 

 

「新聞部の畑です。よろしくお願いします」

 

 小柄な女子生徒が、生徒会室で挨拶をする。彼女が、新聞部部長の畑ランコであった。

 

 どこか暗そうな印象はあるものの、あえてそういう風に振舞っているようにも見える。淡々とした喋り方が特徴の2年生だ。背後には、同じ部員らしい女の子がカメラを持って立っている。

 

「う、うむ。こちらこそ」

 

 僅かに言葉が詰まるシノ。

 

「あまり緊張せず、楽にしていていいですよ」

 

「ん。そ、そうか」

 

 こういう相手には慣れているのか、お決まりの台詞を言うランコ。その言葉に甘え、シノは身体を楽にする。

 

 ただし、机の上に寝そべり、グラビアのようなポーズをとっていたが。

 

「いや、今日は多い日でな。立っていても座っていてもきつい」

 

「じゃあ、しょうがないですね」

 

 淡々とインタビューを始めるランコに、連れの女子もそのままのシノを写真に収めはじめる。

 

「みんな慣れてるねー」

 

「私はもう慣れた」

 

 タカトシとスズは、彼女らに聞こえないように言った。

 

 そして、ある程度質疑応答が終了したところで、ランコがタカトシにも質問をする。

 

「それでは、最後に男子代表として新副会長の津田君から、今後の抱負を一言」

 

「そうですね。男女とも隔たりのない関係を築いていきたいと思っています」

 

 思い出すのは、先日に校内で批判された時。ただ男子がいるという理由で、あんな事になってしまった。やはり生徒の意識は、未だに桜才学園は女子だけの園という認識が強いのだろう。

 

 それを、自分は副会長として少しずつ意識改革をしなければならない。自分の背負っている者を、改めて意識しなければ。

 

 そんな万感の想いで答えたものの、シノたちの反応は――

 

「つまり更衣室やトイレの壁を取っ払う気か」

 

「エロスね」

 

「見損なった」

 

 ――生徒会の面々が、人聞きの悪い解釈をしていた。

 

「うええ!? なんでそうなるんですか!」

 

「ほほう」

 

 一瞬、ランコの目が光ったように見えたのは気のせいか。

 

「今月号の見出しは決まりね」

 

「はい、部長」

 

 元気よく答える部員の女子。

 

「ズバリ『女子のプライベート公開計画を立てる副会長!?』に決定!」

 

「ちょっと!?」

 

 慌てるタカトシ。新聞部の2人は、すでにドアへとにじり寄っていた。

 

「待ってくださいよ! 会長たちからも何か言ってください!!」

 

 ネタをゲットした2人は、すでにその記事を書く気満々だ。助けを求めようにも、会長たちは……

 

「君が自分で言っていたではないか」

 

「隠さなくていいよ、男の子だもの」

 

「短い付き合いだったわね」

 

 助けるどころか、すでに見切りをつけられかけている。

 

「……そうですか。なら、俺1人でどうにかするしかありませんね」

 

 味方がいないと悟ったタカトシは、腹をくくった。声が低く、表情もどこか物騒だ。

 

 その様子を目の当たりにしたランコと部員がたじろいた。

 

「副会長……なんだか、表情が黒いですよ?」

 

「いえいえ。普通ですよ? さて、さっそくですみませんが、先ほど手に入れた今月号の見出しのネタについて、1度俺と話し合いましょうか」

 

「え、あ、あの……?」

 

 ツカツカと近寄ってくる副会長に本能的な怯えを感じたのか、部員の女子が後ずさる。部長のランコに縋ろうとして――

 

「って、あれ! いない!?」

 

 いつの間にか、ランコの姿はどこにもいなくなっていた。どうやら、一足先に逃げ出したらしい。

 

「ああ、畑の奴は神出鬼没でな」

 

「スクープがあれば、いつの間にか現れているもんね」

 

 シノとアリアが驚く様子も見せずに言った。そこで、ふとスズが首を傾げる。

 

「あれ。津田の奴は?」

 

 

 

 

【名誉をかけての鬼ごっこ】

 

 

 

 

「ふ、ふ、ふ。もう遅いわよ」

 

 無表情のまま、ランコは部員が持っていたカメラを片手に、生徒会室を離れていた。

 

 彼女の移動手段は、学園の誰をもってしても見抜けない。そのため、生徒の中では様々な仮説が浮上している。

 

 ――畑ランコは瞬間移動の使い手。超能力者ではないのか。

 

 ――彼女は忍者の末裔。どんな場所でも移動できるのではないか。

 

 ――学園内を改造し、自分だけが通れるかくし通路を作っているのではないか。

 

 どれも違う。畑ランコは、周囲の生徒の浅はかな考えに内心で嘆息する。

 

 学園のどこかを歩いているランコ。もう少しで、新聞部の部室だ。

 

 彼女としては、特ダネさえモノにできればそれでいい。それによって起きる個人の風評被害など二の次だ。

 

 弱みなど、握られた方が悪い。マスコミには、犠牲がつきものなのだから。

 

 しかし。

 

 そんなイエロージャーナリズムに、待ったをかける者がこの場にはいた。

 

 いや、現れた。彼女の背後から肩を掴む大きな手が。

 

「――――――っ」

 

 普段、めったな事で動揺しないはずの畑ランコ。その彼女が今、心底驚いた。これまた珍しくも、目を大きく開いて内心の驚愕を表現する。

 

 錆びついた機械のように、ゆっくりと背後を振り向くランコ。

 

 その視線の先には――

 

「は、た、さ、ん?」

 

 口元は笑っている。けれど、目だけは明らかに笑っていない、見覚えのある後輩が――

 

「今月に刊行する予定の新聞記事の内容について、特別に副会長である俺が徹底的に検閲をしてあげようかと思いまして。ええ、それはもうじっくりと……」

 

 ――鬼の形相になった津田タカトシが、そこにはいた。

 

 

 

 

【紹介したい人】

 

 

 

 

「すみません、お騒がせしました」

 

 一言言って、タカトシはシノたちが残っている生徒会室へと戻ってきた。彼女たちはタカトシの顔を見ると、やけに驚いた顔をする。

 

「なによ、津田。もう戻ってきたの?」

 

「畑さん、すぐに姿を消しちゃうからね。追いつけなかったのも無理ないわ」

 

 スズとアリアが口々に言う。彼女らは、ランコの移動速度を知っているのだろう。

 

「いえ。どうにか追いつきました。修正記事の草案を明日中に書きあげるように取り付けておきましたので、問題はありません」

 

「……え?」

 

 その返事に、呆然とする生徒会役員達。口を開いたまま、動かなくなったのだ。

 

「あ、あの畑を相手に?」

 

「はい。それが何か?」

 

 今度こそ絶句する役員たち。なんだろうとタカトシは思う。彼女たちの反応が、どうにも理解できない。

 

「あの、会長?」

 

「あ、な、なんだ津田?」

 

 彼の目には、シノが動揺しすぎていると感じた。珍しくも取り乱し、混乱が治まっていない様子だ。

 

「実は、会ってほしい人がいるんです」

 

 タカトシは出入り口のドアに、入っていいよと声をかける。

 

「失礼しまーす」

 

 元気のよさそうな少女の声。生徒会室へ入室してきたのは、ポニーテールの似合う女子生徒であった。

 

「……結婚するのか?」

 

「あんたは俺のなんなんですか?」

 

 あんまりなシノの第一声に、タカトシはこめかみを押さえる。

 

「違いますよ。ここに来る途中、彼女が会長に話があるらしくて、連れてきたんです」

 

「突然すみません。私、タカトシ君と同じクラスの三葉ムツミです」

 

「うむ。それで、用件というのは?」

 

「実は、新しい部活を作りたいと思いまして」

 

 なるほど。部活を設立する申し入れか。シノたちは納得する。

 

「それで、なんの部を?」

 

「柔道部です!」

 

 アリアの質問に元気よく答えるムツミ。

 

「ああ、知っているわ。寝技が48コあるやつね」

 

「え? 寝技はそこまでありませんけど」

 

 目を瞬かせて言うムツミ。どうにも、アリアの言っている事が理解できていないらしい。

 

 何となくこれ以上会話を続けてはいけないと判断し、タカトシは話を変える。

 

「三葉って、もしかして格闘技とか好きなの?」

 

「うん! 己の技を磨いた身体と身体のぶつかり合い。熱いじゃん!!」

 

 握り拳で力説するムツミ。それにつられ、シノも目を閉じて想像を膨らませる。

 

 頭の中に浮かぶのは、48種類もの体位。会長は大きく頷いた。

 

「なるほど。確かに――」

 

「違う事を考えないでください」

 

 呆れた様子のタカトシ。何となく、考えている内容を察したらしい。

 

 そんなやり取りを無視して、スズがムツミに言う。

 

「新しい部を発足させるには部員が5人以上必要よ。それに満たなきゃ、愛好会という事になるわね」

 

 至極真っ当な事を言う会計に、ムツミが不思議そうな顔をする。

 

「なんでこんなとこに子供がいるの?」

 

 あ、マズい。タカトシは思う。案の定、スズの目が一気に険しくなった。

 

「津田! 肩貸しなさい!!」

 

「ええ!?」

 

 仰天するタカトシ。しかし、なんとなく今のスズには逆らえないと思い、黙って彼女を肩車する。

 

 目を丸くするムツミを見下ろしつつ、腕を組む生徒会会計。

 

「よく聞きなさい、私は萩村スズ! あんたと同じ16歳!! しかもIQ180の帰国子女、英語を含めた5ヶ国ペラペラ! 10ケタの暗算なんて朝飯前!!」

 

 矢継ぎ早に言い放つスズ。そしてトドメに――

 

「どう? これでも私のこと子供扱いする!?」

 

「へー、それが将来の目標なんだー」

 

「現在完了形だああああ!!」

 

 にこやかに言うムツミに、怒鳴りつけるスズだった。

 

 そんなやり取りをしばらく眺めていたシノだったが、ムツミにいくつかの必要書類を渡す。

 

「では、こっちが部員の名簿。それと、必要なものがあるのなら、こっちの書類に記入すれば来月からは部費が――」

 

「あ、すみません会長。その事なんですけど」

 

 勢い込んで、シノの前に身を乗り出すムツミ。

 

「とりあえず部員の人数ですけど、どうにか4人にできませんか?」

 

「何を言っているんだ。そんなもの却下に決まっているだろう。こればかりは規則だしな」

 

 不快そうに眉をひそめるシノにもめげず、ムツミは理由があるんですと伝える。

 

「ほら、ストレッチとかをする時、2人1組になるじゃないですか。でもそれだと1人が仲間外れになってしまいますので、それを何とかしたいと思いまして」

 

「……まあ、一理あるな」

 

 その反応に手ごたえを感じ、思わず顔がほころぶムツミ。

 

「では、今後は必要定員を6人にするか。貴重な意見を感謝する」

 

「ええっ! ハードル上がっちゃった!?」

 

 助けを求めるように、ムツミがスズを下ろし終わったタカトシを見た。

 

「……そうですね。それじゃあ、今からでも新聞部に話を通しておくというのはどうでしょうか?」

 

「え、新聞部って?」

 

 新聞部に入るつもりはないんだけどと、ムツミは訝しむ。だが、シノはタカトシの言いたい事を察したらしい。

 

「津田よ。それは少し贔屓が過ぎるのではないか?」

 

 要するに、柔道部の部員を募集する記事を書かせようという事だった。流石にタダでそれをするには、シノも難色を示す。

 

 しかし、タカトシは真面目な顔のまま。

 

「問題ありません。そのかわりに、例の記事を書こうとした事を問題にしないという取引をさせます。実はさっき、畑さんとは脚色した記事を書くなら部費を大幅に減らすと言いくるめておきましたので」

 

「そ、そうか」

 

 しれっと大胆な事を言うタカトシに、シノは内心で戦慄する。上に立つ人間としては必要なスキルなのだろうが、津田タカトシという男の(もしくは、「津田タカトシの」)ポテンシャルが分からなくなってきた。

 

「そこで、どうにか新聞部の部費を減らさないかわりに柔道部の記事を書いてくれるのなら、部費はいつも通りに出すという取引を交わさせます。修正案の件については、別問題となってしまいますが」

 

「……しかし、それでは周りの人間に示しがつかん。他の部員たちは、自分達の力で新入部員を確保しているのだぞ?」

 

「いえ。もう学園で認められている新入部員の勧誘期間は、とうに過ぎています。その上で部活を一から作るというのなら、むしろ周りの部活よりもハンデがあるでしょう。でしたら、ほんの少し手伝いをするだけなら許されるべきです」

 

「むう……」

 

 腕を組み、深く考え込みはじめるシノ。タカトシの言い分に考えるところがあったのか、他の生徒会役員の2人も難しい顔になる。

 

「……」

 

 沈黙が、少しばかり痛い。タカトシは今更になってそう感じた。

 

 まさか、少しだけフォローするだけのつもりが、気が付いたら生徒会の者たちを深く悩ませてしまっている。主張している内容に問題はないと思っているが、さすがに少し熱を入れすぎたのかもしれない。

 

 ややあって、シノが顔を上げた。その視線は、タカトシを真っ直ぐに見つめていて。

 

「津田よ」

 

「はい」

 

 真剣な声だ。思わず、タカトシは背筋を伸ばしてしまう。なぜか、隣に立つムツミも。

 

「そこまで言うからには、責任を持ってもらうぞ。彼女の青春は、お前にかかっている」

 

 それは、つまり。

 

 シノが、タカトシに任せるという事だ。

 

「は、はい! 頑張ります!!」

 

「あ……ありがとうございますっ!!」

 

 思わず、そろって大声で頭を深々と下げるタカトシとムツミ。顔を見合わせ、お互いが照れくさそうに笑顔を向ける。

 

「失敗したら、何かしら処分を受けてもらうぞ」

 

「え?」

 

 シノの言葉は終わっていない。相変わらずの真面目な顔で話を続ける。

 

「もし交渉に失敗したら、修正前の記事を書かせるように新聞部へ伝えてやろう」

 

「……どうも。おかげで気合が入りました」

 

 絶対失敗してやるものか。タカトシは心にそう誓った。

 

 

 

 

 明日の昼休みに新聞部が草案を持ってくる。その時に新聞部へ一緒に話を通そうという事になった。

 

 生徒会室の出入り口の前で、今日のところは別れる2人。

 

「タカトシ君。本当に、ありがとう」

 

 心からの感謝をこめて、ムツミはタカトシに頭を下げた。

 

「いや、まだこれからだよ。もし交渉が失敗とかしちゃったら、むしろ俺の方が三葉に会わせる顔が無くなっちゃうし」

 

 手を振るタカトシに、三葉は頭を振る。

 

「ううん、タカトシ君に相談して本当に良かったと思ってる。ここまでしてもらったんだから、どんな結果でも嬉しいよ」

 

「うーん。そう言ってくれると、少しは気が楽になるけどさ」

 

 どうにか、安心させるように笑顔を作るタカトシ。

 

「まあ、とにかく頑張ってみるよ。三葉の方こそ、明日までに新聞部の人たちを説得できるような、格好いいセリフとか考えておいてくれよ」

 

「うん。任せて!」

 

 冗談めかしたタカトシに、ムツミは大真面目に頷いた。もう一度お礼を言うと、彼女は廊下の向こうへと去っていく。もう部活のない生徒は下校する時刻だ。

 

 柔道部か。もし作られるなら、もう彼女がこの時間に帰ることはめったに無くなるのだろう。夕暮れになるまで汗をかいて、心地よい疲れを残したまま、友達と楽しく家に帰る毎日になるのだ。

 

 そのためには、自分の任された仕事は重い。そしてそれは、シノが自分に任せた重さだ。

 

 やってやるさ。

 

 気持ちを新たに、生徒会室の机へと戻るタカトシ。そこで、ふとシノがどこか複雑な顔でこっちを見ている事に気づいた。

 

「なあ、津田……本当に結婚するために紹介したんじゃあるまいな?」

 

「だから、あんたは俺のなんなんですか?」

 

 呆れたタカトシに、今度はスズまでもが疑惑の眼差しで見つめてくる。

 

「津田。あんた、よく鈍いって言われない?」

 

「え?」

 

「いや、こっちの話」

 

「あらあら」

 

 そして、相変わらずの笑顔のアリア。

 

 

 

 

 そして、それから数日後。

 

 桜才学園に、1つの部活が誕生した。名前を、柔道部という。

 

 

 

 

つづく

 

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