生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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相変わらずな僕ら。

暑い空の狭間に吹き付ける、穏やかな潮風。

それでも、世界の全てがそうというわけでもなく。


青空の下、膨らむ疑惑

 

【追及】

 

 

 

 

「……え?」

 

 風紀委員長、五十嵐カエデ。会議へ向かう途中の廊下で相対しているのは、新聞部部長の畑ランコ。

 

 言われた言葉が、頭の中に入ってこない。いや、言われた事はしっかりと聞こえたのだ。ただ、それが意味として理解できないというだけで。

 

「聞こえませんでしたか。それでは、もう一度」

 

 コホンと咳払い。今度は、ゆっくりと分かりやすく告げる。

 

「五十嵐さん。貴女、先週の休みに津田副会長の家で寝泊まりをしていましたね?」

 

「……」

 

 カエデは答えない。それにも構わず、ランコは続ける。

 

「ひとつ屋根の下で一晩を過ごしていましたね?」

 

「な、なんでそれを……」

 

 喉を引きつらせるカエデ。ランコは当然といわんばかりに答える。

 

「先日、津田副会長と約束をしていたではありませんか。家に来て食事を作ってほしい、と」

 

「……学園内ではなく、プライベートな問題ですので。それが何か?」

 

 どうにか冷静に返す。いつまでも言い負かされるわけにはいかない。

 

「風紀」

 

「……」

 

「男女交際」

 

「…………」

 

「取り締まるべき立場」

 

「………………」

 

 ダメだ。勝てない。カエデはアッサリと白旗を上げた。もとより、こういう話術の類でランコに勝てるとは思えない。

 

「何が目的なんですか、畑さん……」

 

「おや。認めるのですね」

 

「嘘は言いたくありませんので。それで、わざわざそんな話を持ち出した理由はなんです?」

 

 抵抗をあきらめ、自白する事にしたカエデ。ランコは頬がくっつき合いそうなほどに近寄った。

 

「いえいえ、大したことではありませんよ。ただ、貴方が津田家に泊まった時――特に夜のお時間の話を詳しく聞かせていただこうかと思いまして。要は、取材です」

 

「……やっぱりそう来ますか」

 

 予想はしていた。そんな諦めの境地で、カエデは不本意なアポを取り付けられてしまったという。

 

「拒否権は?」

 

「あると思います?」

 

「ですよね……」

 

「では、会議の後にて」

 

 いつも通りの無表情だが、間違いはない。あれはランコなりのドヤ顔だ。

 

 上機嫌で会議室へと一足先に向かうランコを、カエデは陰鬱な気分と共に見送った。

 

 ――逃げ場はなさそうだし……ごめんね、津田君。それと、魚見さん。

 

 会議が終わった後は、休日のプライベートを根掘り葉掘り聞かれる事になるのだろう。心の中で、カエデは津田タカトシと魚見チヒロに謝罪した。

 

 

 

 

 その頃。当のタカトシは――

 

「……っ」

 

 ブルリと、身体を震わせる。

 

「どうしたのよ。沖縄で風邪をひいたなんて、冗談にもならないわよ?」

 

 萩村スズに呆れた目を向けられ、タカトシは首を傾げながらも言う。

 

「うん。おかしいな……こんなに暖かいのに、なんで寒気がしたんだろう?」

 

「気温は暑いのにね。変なの」

 

 轟ネネが気温を確認しつつ、笑った。大したことはないと思っているのだろう。

 

「おい、みんな。あっちの店で飯にしないか?」

 

 先頭を歩いていた柳本ケンジが、年期の入った食堂を指さして言った。彼らは自由行動の現在、腰を落ち着ける場所を探していたのだ。

 

「あ、そうしようか」

 

「結構おいしそうなメニューがありそうだね。沖縄の名物料理って、どんなのがあるのかな?」

 

「代表的なのは、やっぱり沖縄そばね。他には沖縄の炊き込みご飯のジューシーに、郷土料理の一つのラフテーなんかもあるわ」

 

「色々と捨てがたい気もするけれど……」

 

 タカトシ。

 

「自由時間は限られているし……」

 

 ネネ。

 

「手早く食べられて、かつ美味しそうな……」

 

 スズ。

 

「本場の……」

 

 ケンジ。

 

 そして、異口同音に――

 

「沖縄そば!」

 

 4人は、滅茶苦茶笑った。

 

 目まぐるしくも、一瞬一瞬が本当に楽しい沖縄の修学旅行。

 

 だからこそ、タカトシは先ほどあった寒気など綺麗さっぱり忘れていた。

 

 

 

 

【疲労困憊】

 

 

 

 

「ふいい……つっかれたあ……」

 

 書類の束を机の上で纏めつつ、津田コトミは机に突っ伏した。すでに疲労困憊といった様子に、天草シノは大して心配していない口調で訊ねる。

 

「生きているか?」

 

「もう、私はだめみたいです……あとは、頼み、まし、た……」

 

 死に際の戦友のような口調のコトミは無視し、シノは椅子から立ち上がった。会議室の椅子を片付けなければいけないのだ。

 

「あうう……」

 

 アリアと2人で片づけを行っている中、コトミは手伝う事も出来ずに上半身を机に預けたまま。自分の片付けなければいけない事は分かっているのだが、体力が残っていないのだろう。

 

「ほら、コトミ。お前の使っている椅子と机で最後だ」

 

「す、すみませぇん……」

 

 結局、コトミは自分の目の前の机と座っている椅子が片付くまで、その場を動く事すらできなかった。

 

 戸締りを確認した後、シノ達は生徒会室へと向かう。書記を務めるアリアはシノの後ろを歩きつつ、総合会議の集計結果や意見を纏めているのか、自前の手帳に何かを書き記している。

 

「本当に、生徒会って忙しい……」

 

「まあ、今回は年に一度の総合会議だ。初めての仕事があれでは、無理もあるまい」

 

 部活動総合会議。話だけなら聞いた事はあったが、その内容は予想以上にハードであった。なにしろ、桜才学園の会議の中では、最も過酷かつ重要な意味を持つものなのだから。

 

 ――待ってください。去年よりも予算が下がっていますよ。

 

 ――こっちだって買いそろえたい備品があるのに!

 

 ――私達だって、予算を切り詰めて活動しているんです。せめてこれくらいは!

 

 そんな怒号と悲鳴のような声が、会議室では響いていた。そして、それを諫めながらも自分達生徒会の意見を1人1人に納得させようとする会長と書記。

 

「でも、タカ兄とスズ先輩は、それを去年の今頃にやっていたんでしたよね?」

 

「まあ、そうだな。正直、去年は3年生がいなかったので、こちらとしても心苦しくはあったのだが」

 

 いつもながら、あの2人の有能さには助けられている。そう思う3人であった。

 

「でも、コトミちゃんもちゃんと仕事は出来ていたよ」

 

「えへへ。そう言ってくれると」

 

 アリアの賞賛を聞いて、照れくさそうに頭を掻くコトミ。ただコトミのやっていた仕事といえば、プリントに書かれてある内容を朗読するだけだったのだが、もちろんそれを口にはしない。

 

「でも……」

 

 ふと、コトミの表情がまた暗くなる。

 

「やっぱり、すみません。ミスばっかりで」

 

「いや、初めてなんだから仕方がない。ミスは誰にだってある」

 

「ですかねぇ……」

 

「そうだよ。誰だって失敗はするよ」

 

 にこやかにアリアは言った。

 

「私も今日、タンポ○の紐だけ外れてパニックを起こしちゃった」

 

「ああ、ありますね」

 

「私はナプキン派だから、あまりその辺りの苦労は分からんがな」

 

 相変わらずのツッコミ無し。それでも、3人は元の元気を取り戻した様子で生徒会室へと入っていった。

 

「そういえば」

 

「む?」

 

 机に書類を置いたアリアが、ふとこんな事を言った。

 

「さっき会議室を出る時、カエデちゃんと畑さんを見かけたんだけど」

 

「? 2人共会議に出席していたのだから、一緒に歩いていても不思議ではあるまい」

 

「そうじゃなくて。カエデちゃん、なんだか畑さんに連行されていたようにも見えて」

 

「……畑が五十嵐を連行? 見間違いか何かではないのか?」

 

「そうだといいんだけれど……」

 

 かくいうアリア自身も、あんまり自信はない。畑の強引な取材はいつもの事なのだから。連行されたというのは、さすがに言い過ぎなのかもしれない。

 

「まあいい。問題はあるまい」

 

 シノも同じ結論に達したらしい。特にそれ以上の追及は行わなかった。

 

「……」

 

 一方で、コトミは一人思案に耽っている。

 

 思い出すのは先日、自分が友人の時カオルの家に泊まりに行った日の事。

 

 自分は直接見たわけではないのだが、帰ってきた時に義理の姉である魚見チヒロが言っていた。

 

 ――実はカエデっち、この家に一晩泊まっていたんですよ。

 

 以前からこの事を、機会があれば直接カエデに訊いてみたいと考えていた。しかし、慌ただしい会議の疲れと緊張から、コトミはすっかりその事を忘れてしまっていたのである。

 

 今は畑先輩が何か用があるみたいだし。訊くのはもう少し後になりそうだなぁ……

 

 裏が取れさえすれば、すぐにでも会長達に教えてあげたいのに。そんな無念さを感じつつ、コトミは会議の結果をまとめる作業に取り掛かった。

 

 

 

 

【大人の世界】

 

 

 

 

 そして、その夜。

 

 桜才学園2年生が宿泊している旅館では、夕食後に余興が行われていた。

 

 大広間で行われている沖縄舞踊。その本場の空気を味わい、生徒達と教員は皆が心から楽しそうであった。

 

 中には、つられて小躍りしている者もおり、その友人たちは遠慮なくからかい、笑いあう。

 

 そんな時間も、時間が経てば終わりを告げる。就寝の時間となり、タカトシやケンジたちは余韻を残しながらも自分達の部屋へと戻った。

 

 部屋には、2年生の中でも数少ない男――先に戻っていたケンジと名前も知らない男子――が2人で携帯ゲームをしていた。対戦プレイをしているらしく、ゲーム機を突き合わせて盛り上がっている。本当は持ち込み禁止なのだが、タカトシもうるさくは言いたくないので黙認している。

 

「あれ、まだ他の奴らは戻っていないのか?」

 

 この部屋にはタカトシを含めて6人が寝ている。しかし、確認できたのは目の前の2人だけ。

 

「ああ。残りのやつらは、女子のところに行っているってさ」

 

「女子って……もうこの時間は他の部屋には出入り禁止なんじゃ?」

 

「わかってねえな、津田副会長さんよ」

 

 名前も知らない男子が、ゲームのディスプレイから目を離さないまま呆れたように言った。

 

「修学旅行の夜と言えば、夏休み前に迎える男女の大イベントの一つだろ。今頃あいつら、仲良くなった女子に夜のデートの交渉をしている頃だと思うぜ」

 

「羨ましいよな。あいつら、いつの間にいい感じの女なんか作ったんだよ」

 

「お前が気づいてなかっただけだろ。去年のバレンタインの時に告白したんだってよ」

 

 2人が盛り上がる中で、タカトシはなんと言っていいものか悩む。

 

 いくら修学旅行とはいえ、羽目を外し過ぎるのは良くないとは思う。副会長の立場としては注意するべきなのだろうが、さすがに無粋すぎる気もした。

 

 なにより、下手に止めてそのカップルの空気が気まずくなるというのも違う気がする。ここは関わらない方がよさそうだ。

 

 ふと、もしこの場にいるのがシノだったら、どうするのだろうかと思う。

 

 決まっている。即断で止めに入る事を選ぶだろう。彼女は、常に正しさに重きを置いて行動する女性だ。だからこそ、学園中の者達が生徒会長を頼りにしている。

 

 自分には、そんな姿勢は出来ない。空気を読むという口実を持っていることをいい事に、なあなあで物事を終わらせるというのは、いつか悪い癖に繋がってしまうかもしれなかった。

 

「そういうお前はどうなんだよ?」

 

 男子に訊ねられ、ケンジは僅かに眉を寄せる。心なしか、ボタンを押す指にも力が入っている気がした。

 

「俺は、まあ……好きな女優の方がいいから」

 

 少し強引すぎる言い訳、もとい強がりである。タカトシがツッコむのを可哀想と思うくらいに。

 

「確か、凛田リコだっけ。でもリコって、一昨日小笠原ユウトと交際疑惑で騒がれていたけど?」

 

 と思っていたら、男子は遠慮なくツッコミを入れていく。

 

「うぐ……いいんだよ。所詮は疑惑だろ? 証拠があるわけでもないし」

 

「いや、バッチリラブホ入っているところを写真に撮られていたぜ。週刊誌に掲載されていたけど」

 

「ぐはあっ!」

 

 手からゲーム機を落とし、布団の上に突っ伏すケンジ。ご愁傷様である。

 

「で、副会長の方はどうなんだよ」

 

 男子がゲームの電源を切り、タカトシに向き直った。元々ゲームはそれほど真剣にプレイしていたわけではなかったらしい。

 

「俺?」

 

「他に誰がいるんだよ。今狙っている女の事だろ」

 

「女の子、か。俺は特に意識した事はないかな」

 

「なんだよ。副会長って枯れているんだな。青春を損してるぜ」

 

 露骨にガッカリした様子の男子に、タカトシもつい言葉を続けてしまう。

 

「仕方がないだろ。会長達に少しでも追いつきたいから、自分の事で精いっぱいだし。これでも一応は副会長だから、少しでも来年は会長に見劣りしないようにならないと」

 

「……へえへえ。我らが副会長さんは大変だね」

 

 つまらない男だと思われてしまったのかもしれない。男子は再びゲームの電源をつけ、タカトシを無視するように目の前のプレイに没頭する。

 

 そこに、突っ伏したままのケンジが布団をモゴモゴさせながら言った。

 

「ツトム、諦めろよ。こいつ、あれだけ女に囲まれておいて、仕事しか頭にねえから」

 

「マジ? 実はホモとかいうんじゃあねえだろうな」

 

 ツトムと呼ばれた男は、心底嫌そうにタカトシから距離を取った。

 

「いや、信じるなよ」

 

 言いがかりでホモ呼ばわりされてはたまらない。しかし、2人の話しは止まらなかった。

 

「どうだかな。じゃあ、なんでお前って彼女作んないわけ?」

 

「生徒会の人達なんて、美人ぞろいじゃん」

 

「あの男嫌いで有名な五十嵐先輩とも、結構話してるじゃんか」

 

「この前なんか、英稜高校の生徒会長ともあだ名で呼ばれてたぜ」

 

「……だから、それは」

 

 本人を放って、本人の話が炸裂していく。口を挟む暇もない。

 

「――天草会長って、格好いいもんなあ。美人でキリッとしているし」

 

「七条先輩の方が胸もデカいしな。何食ったらああなるんだよ」

 

「あの五十嵐先輩も、笑うと可愛いんだよなあ。近づくと逃げられるけど」

 

「英稜高校の生徒会も、たまに学園に来るからなあ。あの髪を後ろにまとめたコ、結構好みなんだ」

 

「俺は生徒会長の方かな。いつも無表情だけど、話してみると結構気さくそうで」

 

 いつの間にか、お互いの好みの女性の話にすり替わっている。部屋の隅に立っていたタカトシは、なんとなく居場所を無くした気分になった。

 

 これ以上部屋に居ても、気まずいだけだ。時計を見ると、まだ就寝時間には1時間近くある。少し外の空気を吸ってきた方がいいのかもしれない。

 

 旅館の浴衣から私服に着替え、タカトシは部屋を出た。話が盛り上がっている2人はそれに気づいていないようだったが、どうでもいい。

 

 静かな廊下に出る。さっきまで部屋に戻る生徒であふれていたが、今は微かな声が聞こえるだけ。各々の部屋から、クラスメイトらしい子が漏れ聞こえるのだ。

 

 突き当りまで歩き、階段を降りる。和風のロビーに足を踏み入れると、夕食の後片付けをしているらしい従業員が、食器を積み上げて歩いていた。邪魔にならないように、タカトシは大回りをしてフロントへと向かう。

 

「……あれ?」

 

 ふと気づくと、ロビーの隅に設置されている自販機の影に隠れるように、私服の女子が何人かで固まっているのが見えた。いや、実際隠れているのだろう。

 

 あまり女子の話に割り込むのも失礼な話だが、どう見ても挙動不審なので声をかける事にする。あまり声を大きくしない事を意識しながら。

 

「どうしたの、そんなところで?」

 

「ひゃっ……た、タカトシ君?」

 

「あれ、三葉?」

 

 よく見ると、クラスメイトの三葉ムツミであった。一緒に驚いた顔をしているのは、轟ネネと萩村スズである。

 

「もう、脅かさないでよ津田君」

 

「あ、ごめん。でも、こんなところでどうしたの?」

 

 脅かしたつもりは無いのだが、一応抗議をするネネに謝っておく。

 

「しっ。いいから、あんたも隠れなさい」

 

 スズはタカトシの手を掴み、無理矢理ムツミとネネの間に身体を密着させる。きゃっ、と2人から女の子らしい悲鳴が出た。

 

「うわっ。ご、ごめん」

 

「う、ううん。全然怒ってないから」

 

 慌てて謝罪するも、ムツミはなぜか顔を赤くして首を左右に振る。ネネはそもそも気にもしていないらしく、笑ってロビーの奥を指さしていた。

 

「?」

 

 ネネに倣って奥を見てみる。ガラス張りの壁が特徴の、ロビーの隅。そこにいくつか備えられてあるイスとテーブルの一組に、見覚えのある姿が腰かけている事に気がついた。

 

 頭髪の少ない頭が印象的な、大門ハルヨシ教諭。それに向き合っているのは、道下アユミ教諭。2人とも、引率でこの旅行に同行しているのだ。

 

 ともかく、2人の様子は遠目に見てもいい雰囲気のようだ。照れくさそうに頭を掻くハルヨシと、嬉しそうに笑っているアユミの姿。

 

 いくら鈍感な自分でも、ああも分かりやすい様子を見れば、2人がどんな関係なのかが理解できる。横島ナルコがいたら、血涙を流して暴れそうだ。

 

 当のナルコ本人は生徒に示しをつけるという意味で、現在は自室待機してもらっている。隙を見せれば、従業員の若い男性を片っ端から手を出してしまうかもしれないから。

 

「前から仲がいいなって思ってたんだよ」

 

「私も噂は聞いていたけど、本当だったんだね」

 

 ムツミとネネが、嬉しそうに笑いあう。特に茶化する意図は微塵もなく、ただ純粋に2人の幸せを喜んでいる様子であった。

 

「うまくいっているみたいで、なによりね」

 

「あれ。もしかして、萩村も知っていたの?」

 

「当然でしょう」

 

 私だって噂くらいは聞くわよ、というスズ。なるほど、女の子はそういうものなのかと思うタカトシ。

 

「それならさ……もし婚約発表でもする時が来たら、俺たちでお祝いしてあげようか」

 

「あ、それ賛成。私、いつも大門先生には柔道部でお世話になっているから」

 

 ムツミが挙手する。確かに、彼女は柔道部顧問と部長という間柄なので、大賛成だろう。

 

「私も異論はないわね。あまり騒ぐのは向こうも迷惑だろうけれど、他ならぬ先生同士の幸せだし」

 

「そうだね。私も、贈り物とかあげたいな」

 

 スズも反対はしない。それに続いて、ネネも同意する。

 

「……ネネ。一応訊くけど、何を贈る予定なの?」

 

「それはもちろん、道下先生に大門先生のサイズを聞いた後で、それと同じくらいのを――ンゴ」

 

「?」

 

 左右から、タカトシとスズの手で口を塞がれる。ムツミだけは、やはり何もわかっていないのが幸いであったが。

 

 

 

 

【本当の心】

 

 

 

 

「まったく……」

 

 少し熱めの湯船に入って、カエデが呟いた言葉がそれだった。

 

 一糸まとわぬ白い肌。コーラス部でそれなりに鍛えているので、バランスの取れた健康的な肢体を湯の中に沈めている。

 

 心地よい湯加減。しかし、心の中までの疲れは取れそうには無かった。

 

 すべては、昼間の畑ランコの仕業。カエデは彼女の言葉通り、今日の会議後に熱烈な質問攻めを受けたのである。

 

 時には言葉の端々や揚げ足を取られつつ。時には挑発的に。その姿は、まさに政治家スキャンダルにおける記者会見の如く。

 

 どうにか開放された時には、すでに完全下校時刻に差し迫っていたほど。まったく、悪夢のようなひと時であった。

 

 おかげで、カエデは喋ってしまったのだ。自分が、タカトシの家で一晩を過ごしてしまったことを。

 

 こればかりは事実なので、認めないわけにはいかなかった。もちろん、不順異性交遊に繋がるような事は何もなかったと強調したのだが。

 

 ランコの事だ。どうせろくでもない内容の記事を書くに違いない。しかし、あの誘導尋問や取調べに近いプレッシャーには、さすがのカエデとて勝てなかったのだ。餌に食らいついたマスコミは強いのである。

 

 いや、今はそれよりも――

 

「ゴメンね、タカトシくん……」

 

 申し訳なさのあまり、湯船に鼻まで沈めてしまう。これで、彼にもとばっちりが行ってしまうに違いない。自分のせいで。

 

 旅行から帰って来た時、いつもの5割り増しで攻め立てられた挙句、身に覚えのない内容の記事に囲まれてしまう副会長の事を思い、カエデはそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 そして。

 

 タカトシが修学旅行から帰ってきた次の日。

 

 カエデの危惧が、現実となった。

 

 

 

 

つづく

 




お知らせです。

ここで、これまでPixiv時代に保存してあった話は終わりとなってしまいました。今後は投稿ペースに若干の間が空きます。

恐れ多くもお待ちしていただいている皆様、大変申し訳ありません。なるべく早めの投稿を心がけますので、どうぞよろしくお願いいたします。

それと、この場を借りて感謝の意を。

誤字報告をしてくださった湯呑さん、裏訃塔さん、((´・ω・`)さん。本当にありがとうございました。毎回助かっています。
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