生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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太陽は眩しく照り続け。

若葉の下で、僕らの毎日は続いていく。

時に迷ったりももするけれど。

僕らの歩んできた足は、それくらいでは止まらない。


舞い戻って

 

 

 

 

【帰ってきた2年生】

 

 

 

 

「おはよう、みんな。3日間ご苦労だったな」

 

 朝の生徒会室。天草シノと七条アリアが姿を見せた。一足先に仕事をしていた津田タカトシと萩村スズは、その声に手を中断させる。

 

「あ、おはようございます」

 

「おはようございます。どうでしたか、修学旅行は?」

 

 スズの言葉に、シノはウムと一言。

 

「歴史ある建造物や、歴史に名を連ねる者達が深く関わっている空気を肌で感じ取る事が出来た。非常に有意義であったぞ」

 

「でも、シノちゃん残念だったよね。本能寺が改装工事中で」

 

「……」

 

 途端、がっくりと肩を落とす。何ともタイミングの悪い事だ。

 

 おそらく、意気揚々と行ってみたらありきたりな工事現場を目撃しただけに終わったのだろう。さぞ悔しい思いをしていたに違いない。

 

「ま、まあ……それはいいとして」

 

 シノは鞄とは別に手提げ袋を持っていた。中から取り出したのは、お土産用の四角い箱。京都のお饅頭だという。

 

「修学旅行のお土産だ。これは、萩村の分」

 

「どうも」

 

 受け取るスズ。続けてシノはタカトシに顔を向けた。

 

「それでだな、津田の分なんだが……異性に物を送るというのは今回が初めてで、君の好みに合うのかどうか」

 

 モジモジしながら言うシノ。何となく、恥ずかしがっているように見えた。安心させるためにタカトシは言う。

 

「そんな。気を使わなくても結構ですよ。心がこもってさえいれば、何でもいいです」

 

「そうか。では……」

 

 と、シノが取り出したのは1冊の文庫本。

 

「この『狙われた京都の女将』という小説を」

 

「俺に恨みでもあるんですか?」

 

 一方で、アリアがシノに訊く。

 

「ところでスズちゃん」

 

「はい?」

 

「私たちがいない間、何もなかった?」

 

 言われて、総合会議の次の日を思い出す。早朝、不眠のまま仕事をやり遂げたタカトシの姿。

 

 なぜなら、彼がそこまで急いでいたのかと尋ねれば、自分に仕事の負担をかけないようにするためだったのだという。

 

 結局、彼がやった仕事は急ぎではなかったことが判明したものの、それでもあの疲れ切った姿を見てしまうと、なんとなく言葉を挟めない。

 

「っ……」

 

 スズ本人には何の非も無い。しかし、やはり申し訳なさから少しだけスズの胃が痛む。それは本当に少しだけだったが、つい反射的にお腹を押さえてしまった。

 

「べ、別に問題ありませんでした」

 

「まずはその手をどけて、目をしっかりと合わせてもらえる?」

 

 タカトシが言った。そこで、案の定勘違いしたアリアが勢い込んで彼に詰め寄る。

 

「津田君っ! 私たちがいない間、スズちゃんと何があったの!?」

 

「い、いや。単に俺が寝ようとしなかっただけで」

 

「ちょ、どういう事だそれは!?」

 

「今度は会長ですか!?」

 

 アリアだけでなく、シノも血相を変えた。彼女らの口論は、しばらく止みそうにない。

 

 すっかり、いつも通りの生徒会に戻ったという。

 

 

 

 

【お嬢様】

 

 

 

 

 廊下を一緒に歩いているタカトシとシノ。授業を終わらせた2人は、修学旅行中に担当していた仕事の意見交換をしながら歩いていた。

 

「そこで、ソフトボール部の現状と、これまでの活動状況を考慮して……」

 

「なるほど。一理あるが、もう少し……」

 

 話の内容は、やがて部活総合会議の結果報告に移っていく。お互いの問題の認識を埋めるため、話にも熱が入っていた。

 

「その予算の割り当てで、部長は納得したのか? まあ、君の決断力は認めるが」

 

「だからこそ、新規に練習の内容を提示された時に、こちらも妥協したんです。今後はその件と来月以降の予算を調整して、交渉を進めるしかないと判断しました」

 

「私はもう少し、生徒会側が教員たちとお金のやりくりを交渉するまで待って欲しかったところなのだが。少し大胆が過ぎるのではないか?」

 

「無理は承知の上です。しかし、これ以上あの部活の予算問題を先延ばしにするのは、間違いなく部員全員の不評を買いかねないと思いましたから」

 

「やれやれ。君も、なかなかに押しが強いな。主義主張は理解できるが、もう少し慎重さが欲しいものだ」

 

 呆れ半分といった具合で、シノがため息をつく。

 

 互いの言い分がもっともな事なので、これ以上は平行線になると判断した2人。視線で、この話はここで中断するという旨を交わす。

 

「しかし、津田。前々から思っていたが、君は思っていたよりも随分と場慣れしているように見えるな」

 

「いや、会長程じゃあないですよ。総合会議の時だって、俺なんか終わった後はグッタリしちゃいましたし」

 

「それは高校で初めての会議なのだから、致し方あるまい。私の時は3年生の先輩が会長だったが、傍で手伝いをしていた私とてドキドキしっぱなしだったぞ」

 

「へえ。会長でもそういう時があったんですね」

 

「うむ。あの時の私はまるで……常に絶頂状態!」

 

「全然ピンときませんね」

 

 また下ネタでオチがついたかと思ったタカトシだが、会長の言葉には続きがあった。

 

「まあ、そんな訳でだ。津田は中学の時、何か……って」

 

 ふと、会長が気付く。階段を上ろうとしていた時、アリアが階段を見上げて突っ立っていたのだ。なぜか顔が呆けていて、なにか不思議がっている様子だ。

 

「アリア。そんなところでどうした?」

 

 声を掛けられ、我にかえるアリア。

 

「あ、そっか。学校はエスカレーター式じゃないんだよね」

 

「なんつー家だ」

 

「アリアは、たまにこういう勘違いをするんだ」

 

 平民と上流階級の差は、あまりにも遠い。改めて、資本主義社会の厳しさを思い知った2人だった。

 

 

 

 

【ある日の柔道部】

 

 

 

 

 放課後の見回りをしている時。タカトシは見知った顔に会った。

 

「やあ、三葉」

 

「あ、タカトシ君」

 

 柔道の練習場の前で顔を洗っていた三葉ムツミは、タカトシに気づくと嬉しそうに近寄ってきた。

 

「今、見回りの最中なんだ。そっちの方は、練習は捗ってる?」

 

「おかげさまで。部長ってポジション大変だけどね。予算のやりくりとか、大変だよ」

 

「え? 柔道部の予算って、柔道着や飲料水くらいじゃなかったの?」

 

 総合会議の時は、柔道部の出費はそれくらいだと記憶している。あと、怪我をした時のための救急セットやタオルだった。

 

「ううん、ひもパン。下着のライン隠すのに必要だって」

 

「……誰が?」

 

 何となく嫌な予感がしたタカトシは尋ねる。

 

「七条先輩」

 

「やっぱりか!」

 

 頭を抱えるタカトシ。ムツミはピュアなのだから、妙な事を覚えさせるのは困る。

 

 そこで、練習場の中から1人の女の子が出てくる。柔道着を着ている事から、彼女も部員なのだろう。

 

「ムツミ。そろそろ練習……って」

 

 女の子が、タカトシを見て目を瞬かせる。

 

「あ、ごめんチリ。すぐ行くから」

 

「あ、もしかしてお邪魔した?」

 

「な、なに言ってるの?」

 

 茶化すような女の子に、動揺するムツミ。

 

「あ、練習の邪魔をしちゃったかな。悪い」

 

 謝るタカトシ。ムツミが何か言う前に、チリと呼ばれた女の子が手を振る。

 

「いやいや。ちょうど休憩時間だし、別にいいよ」

 

「でも、さっき練習って……」

 

「ちょっと練習が長引いているから、そろそろ休憩しようっていう意味だよ。気にしないで」

 

 あははと笑う。かなり明るい女の子のようだ。

 

 中里チリ。同じ柔道部員で、ムツミの友達だという。護身術を覚えたいという理由で、入部する事になったらしい。

 

「う、うん。そうだよ。だから、タカトシ君は気にしないでね?」

 

「え、タカトシ君って……もしかして、君が副会長?」

 

 今気づいたように言うチリ。入学して2か月では、まだ生徒の全てに顔は覚えられないらしい。

 

「はい。副会長の津田タカトシです」

 

「あ、ああ。こりゃどうも」

 

 頭を下げると、つられてチリも同じようにする。そこで、彼女はムツミにニヤッとした視線を向けた。

 

「ムツミ。もしかして、この人がいつも言っている人?」

 

「えっ?」

 

 硬直するムツミに構わず、チリはタカトシに言った。

 

「話には聞いてるよ。ムツミがよく話すから」

 

「え。俺の事を、ですか?」

 

「ああ。凄い頼もしかったって。柔道部を設立するために、あの会長とも口論してくれたとかいって、嬉しそうに聞かせてくれてさ」

 

 そういうチリも、どこか嬉しそうだった。なんだか照れくさくなり、頭を掻くタカトシ。

 

「そう、ですか。なら、本当に良かった」

 

「や、やだな。タカトシ君は部を作る時、色々協力してくれたから感謝しているだけだよ。深い意味はないから、気にしないで」

 

 ニッコリと笑いながら、ムツミは背後からチリの首を腕で締め付けている。柔道技の、裸絞めであった。

 

「分かったから、早く解いてやんなよ」

 

 チリの顔が青紫色になっていく様子に、タカトシは言った。

 

 

 

 

【その頃のシノ】

 

 

 

 

 シノは会長であるが故に人望があり、よく一般の生徒から色々と相談を受ける事が多い。

 

 この日も、シノは生徒会室へ来訪してきた生徒の悩みを聞いていた。

 

「……そうか。だが、焦ってはいけないぞ。君はまだ1年だ。やりたい事に打ち込んで、将来の不安を発散してしまえばいい」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「うむ。それこそオ○ニーの如く……」

 

「相談のお時間終了いたしました」

 

「?」

 

 慣れたように、スズがシノの言葉を遮る。相談した1年生は、首を傾げながら部屋を出ていった。

 

「本当に、会長は人気がありますね」

 

「まあ、生徒会長としては当然の責務だ。私は口も堅いしな」

 

「そうですね。確かに、人の秘密を話すようなことはしませんし」

 

「そして、下の口も堅い!」

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、ツッコミわたしか!」

 

 現在、この場にタカトシはいない。最近ツッコミを丸投げしているスズだった。

 

「ところで、シノちゃん」

 

「む?」

 

 傍にいたアリアが、来週の行事をチェックするためのプリントを見直していた。彼女は目の前の書類から顔を上げて言う。

 

「来週から水泳があるよね。シノちゃん、大丈夫?」

 

「ああ、もうそんな季節か」

 

 今や初夏。海水浴が騒がれ始めている時期だ。

 

「あれ、会長。もしかして、水泳苦手なんですか?」

 

 スズが訊いた。それに頭を振るシノ。

 

「いや。ただ、水泳をするには水着を着るだろう。自分で言うのもなんだが、スタイルには今一つ自信がない」

 

「ああ、そうですか」

 

「だから、水着姿になるには少しばかり抵抗が……」

 

 と、そこでシノがスズをマジマジと見る。ハッと何かに気づいたような反応をして……

 

「い、いや。そうだな。水着になるくらいが何だ。そんな贅沢な悩みで、せっかくの水泳を楽しめないというのは損だ」

 

「何を考えたか正直に言え」

 

 今度はちゃんとツッコむ事ができた。しかも、かなり低い声で。

 

 

 

 

【水泳】

 

 

 

 

 そして、水泳の授業当日。

 

 水着に着替えたシノは、シャワーを浴びてプールサイドへ足を運ぶ。

 

 次々に他の生徒が姿を見せる中、1人だけカメラを片手にシノへ近づいてくる生徒がいた。言うまでもなく、新聞部のランコである。

 

「今日は水泳の授業で、写真撮影を行いますので。部活の一環で」

 

「む。まあ、それは……」

 

「すでに教員の方々から許可は取ってありますので。学園の広報活動と言い張っておけば……おっと」

 

「撮った写真を何に使う気だ」

 

 詰め寄るシノに、足を動かしもせずに後退するランコ。

 

 と、そこで体育教師が生徒に呼びかけをする。

 

「ほら、それじゃあ全員一列に並んで。まずは準備体操から――――」

 

「ほらほら。授業が始まりますよ。生徒会長とあろうものが、サボってもいいんですか?」

 

「ぐっ……」

 

 顔を顰め、トボトボと自分の列に戻る。背中には、哀愁が漂っていた。

 

 準備体操を終え、それぞれが水に慣れるために10分ほど自由時間を作る。シノは何人かの女子団体から一緒に泳ぎませんかと誘われつつ、身体を慣らしていった。

 

 そこで、生徒がプールへ上がるように指示が出た。全員がプールサイドに戻る。

 

「それじゃあ、1人ずつ出席番号順に飛び込み台の前に並んで。1つの飛び込み台の前に5人ずつだよ」

 

 1グループずつ飛び込み台からスタートして、25メートルのタイムを計るのだろう。教師の手にはストップウオッチがある。

 

「……」

 

 身体が強張るシノ。彼女は、高所恐怖症なのだ。

 

「シノちゃん、大丈夫?」

 

 彼女の顔色が変化したのを、アリアは心配そうに見る。ギクシャクしながらも、シノは頷いた。

 

「は、ははは。大丈夫さ。授業とあらばこれくらい……」

 

「でも、手が震えているよ?」

 

 そうこうしているうちに、シノの出番になった。

 

 やむを得ん。彼女は顔をパンと叩く。やるしかないのだ。

 

 飛び込み台に立つ。底で見下ろすプールの光景は、シノの勇気を失わせるのには充分だった。

 

「う……」

 

 後ずさりしそうになる、自分の足。視界の横で、他の生徒が続けて飛び込み台へ上ってくる。

 

 どうしよう。このまま飛び込むなんてことをしたら、頭を底にぶつけてしまうんじゃあないだろうか……

 

 本気で、そんな考えが彼女の次の動きを制御する。全身の震えが止まらない。もう暑い季節だというのに、彼女の身体は震えあがっていた。

 

「シノちゃん……」

 

 不安そうなアリアの声。駄目だ。それに反応する余裕もない。

 

「それじゃ、位置について――――」

 

 そんなシノの反応など知る由もない教師は、何度目かのスタート宣告を開始する。

 

 駄目だ。こうなったら、怪我をするのを覚悟で飛び込むしか――――!

 

 

 

 

 ――――俺に摑まっていれば大丈夫ですから。

 

 

 

 

「あっ……」

 

 あの時。自分の手を引いてくれた男は、この場にはいない。だけど……

 

 シノの目の前には、あの時の……

 

 大きな、手が……

 

 

 

 

「今日はお疲れ様でした」

 

 生徒会室。授業が終わり、放課後になった頃。ランコは会長達に労いの言葉をかけていた。

 

「本当に疲れたー」

 

 シノとアリアは、そろって机に上半身を突っ伏している。

 

「お疲れ様です。会長、七条先輩」

 

 タカトシとスズが、冷たい飲み物を持って2人の前に置いた。ランコにも渡すと、ありがとうと一言言って一気に飲み干す。

 

 その姿に、つい笑いたくなるタカトシ。表情が乏しいが、彼女なりに結構疲れていたらしい。

 

 ふうと一息つくと、ランコはタカトシに言う。

 

「男子の写真も広報活動で使うから、貴方の授業にもお邪魔するわね」

 

「あ、はい。分かりました」

 

「横島先生があなたをリクエストしてるの。いい絵が撮れるように期待しているから」

 

「どういう目的で撮るんだ?」

 

 売り物にでもする気じゃないだろうな。タカトシは危惧する。

 

「私のは?」

 

 スズが自分を指さして言う。それに対し、ランコは当然のように手を振った。

 

「最近世間の風当たり強いんで」

 

「だから、どういう意味か正直に言え」

 

 

 

 

 スズがランコに突っかかっているのを注意する気も起きず、シノは突っ伏した体勢のままチラリとタカトシに目をやった。

 

 視線の先には、スズを諌めようと声をかけている男の姿。困った表情の、年相応の横顔。

 

 キリッとしてはいないものの、勉強や仕事に打ち込んでいる時はこれ以上ない大人の目をする事をシノは知っている。

 

「……ありがとな。お前には、また助けられてしまった」

 

 口の中で、呟くシノ。それにアリアが反応する。

 

「え、シノちゃん。何か言った?」

 

「なんでもないぞ、アリア」

 

 それっきり、シノは腕枕のまま休むことにした。流石に眠ったりはしないが、少しくらいならいいだろう。

 

 季節は夏。暖かな日差しが、生徒会の部屋を照らしていた。

 

 

 

 

 そして、数日後。

 

 新聞部が広報の一環として、1枚のポスターを作ったという。

 

 そのポスターには、1つの授業風景の写真が乗せてあった。その写真に写っていたのは、天草シノ。

 

 そう。1つの困難を乗り越えた彼女が、飛び込み台の上から嬉しそうな笑顔でプールに飛び込む瞬間を写した、あの姿があった――――

 

 

 

 

つづく

 

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