生徒会役員共 ~Ifの世界~【完結】   作:玖堂

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自由な時間が増える時期。

その前に迎える試練の中で、新たに感じる遠い背中。

それを悔しく思う間もなく。

ひとつの節目を迎えても。

あの人たちは、今も共に歩いてくれて。


その領域へは遠く

 

 

 

【密室】

 

 

 

 

 放課後。廊下を歩いていると、横島ナルコが津田タカトシを呼び止めた。

 

「津田、いいところに。悪いけど、資料室の整理手伝ってくれる?」

 

「わかりました」

 

 特に断る理由もないので、タカトシはナルコと一緒に資料室に入る。

 

 中には、確かにダンボールに入った数々の資料や冊子が詰まっていた。埃の具合から見て、おそらくは去年から放置されていたモノなのだろう。

 

 掃除用具を部屋の隅から取り出すと、背後から金属的な音がした。施錠の音だ。

 

「……?」

 

 振り向くと、ナルコが出入り口を後ろにして立っている。しかも、とてもいい笑顔で。

 

「先生。なぜ鍵を閉める必要が?」

 

「いやいや、ちょっと雰囲気を出そうとしただけ。何もしないわよ」

 

 どういうわけか息を荒げつつ、近寄ってくるナルコ。嫌な予感を感じたタカトシは、後ずさりする。

 

「まずは、その息をどうにかしてもらえませんか?」

 

「だって出ちゃうんだもん。しょうがないじゃない」

 

「近寄る必要もないでしょう」

 

「こんな狭い部屋なんだから、ちょっとくらいは触れ合ってもいいでしょう?」

 

 甘ったるい声のナルコ。だが、タカトシにとっては色気など全く感じない。むしろ、獲物を狙う雌豹を見ているかのようだ。

 

 背中が、壁に当たるタカトシ。チャンスとばかりに、素早く飛びかかるナルコ。

 

「もらったああああ!!」

 

 その姿は本当に肉食動物のようだった。タカトシのワイシャツを引き裂こうと手を伸ばし――――

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 と、ナルコが我にかえる。周囲を見回すと、いつの間にか埃っぽく狭苦しかった資料室が、小奇麗に整頓されてあった。

 

 手の込んだ掃除をしたわけではないものの、少なくとも意識を失う前よりは使いやすい空間となっている。辺りには、すでにタカトシの姿はない。

 

「あ、あれ。あれあれ?」

 

 混乱するナルコ。教室の時計を慌てて確認すると、津田を呼んでから30分ほど経っていた。いつの間に、こんなに時間が過ぎたのか?

 

「あれええええっ!?」

 

 

 

 

 そして、生徒会室。

 

「横島先生は何をやっているんだ。今日は生徒会室で会議だというのに」

 

「手加減したから、そのうち来ますよ」

 

「は?」

 

 

 

 

【学校の怪談編】

 

 

 

 

 結局、ナルコが来ないまま会議が始まる事になったが、会議そのものは順調に行われた。どうせ、いたところで何もしないだろうし。

 

「――――と、この案はこれで終了だな」

 

「みんな、お疲れ様」

 

 会議を締めくくるシノの言葉に、七条アリアは優しく声をかけた。

 

 スズが気を使い、人数分のアイスティーを用意する。タカトシとしては喉が渇いていたので、遠慮なく貰う事にした。

 

 しばらく紅茶を片手に、他愛のない雑談が続く。そこで、シノが話を切り出した。

 

「1年生の女子トイレには、昔自殺した生徒の霊が出るとかいう噂が、最近流行っている」

 

「夏の定番ね」

 

 アリアが楽しそうに相槌を打った。それに対して、スズは呆れ顔。

 

「非常にくだらないですね。幽霊なんて、ありもしない話で盛り上がるなんて」

 

「あはは。萩村はこういう話、興味ないんだ?」

 

 タカトシが笑い、スズは当然だという。

 

「俺は、ちょっと面白いと思うけどね。だって、死んだ後は誰がどうなるかなんて、誰にも証明できないから」

 

「あんたも子供っぽいところあるのね。ちょっとは見直したと思ってたのに」

 

「いや、俺も聞きかじりだけどさ。こういう話を聞いたことがあるよ」

 

「何だ?」

 

 シノが訊く。彼女としては、この手の話に彼が関心を向けているのは少し意外だったからだ。

 

「そもそも幽霊っていうのは、人間が勝手に見ているものだという説です。いわゆる、残留思念ってやつですよ」

 

「ほう」

 

「分かりやすく言ってしまうと、昔死んだ人間の無念や強い欲だけが、その場に何年も残り続けている現象のことです。その思念が生きている人間の脳波と波長が合って、それが視覚情報や聴覚情報として伝わってしまうとか」

 

「詳しいんだね、津田君」

 

 感心したようなアリアに、津田は手を振った。

 

「いや、本当に聞きかじりですよ。中学の時、友達同士でこういう話をして、割と盛り上がった事がありましたから」

 

「ふむ……そう言われると、あながち幽霊というものも馬鹿にできないかもしれないな」

 

 妙な事に詳しいタカトシに、呆れた視線を向ける生徒会長。だが、彼の話はシノ自身、割と思うところがあったらしい。

 

「確かに、幽霊スポットというのは、かつて人死にが大勢出ている場所にあるものだからな。実際に昔の書物などにも、妖怪やら何やらという単語はたまに見かけるものだ」

 

「妖怪といえば、口裂け女もそうだよね」

 

 アリアが口を挟む。

 

「口裂け女は、確か岐阜から生まれた話だっていうけど……確か昔、大きな事故があったのが元だって」

 

「へえ。それは知りませんでした。けれど、昔の人は自然現象をすぐに妖怪のような“人間以外の何か”のせいにしたがるものだし、そんなものかもしれませんね……って」

 

 ふと気づくと、タカトシの隣に座っているスズが耳に指を突っ込んでいる。何をしているのかを尋ねるが……

 

「耳が痒いのよ。気にせず続けて」

 

「あ、うん」

 

「あ、うん」

 

「あ、うん」

 

 3人は、理由を悟った。だが、あえて言わないのは生徒会役員としての優しさである。

 

 

 

 

 そして、下校時刻。

 

 玄関に向かうタカトシとスズ。シノとアリアは、生徒会室の鍵を職員室へ返しに行った。

 

 階段へ向かう途中、無言だったスズが口を開く。

 

「どうせ、私のこと子供っぽいって思ってるんでしょ?」

 

「まあ、正直」

 

 隠さずに言うタカトシ。嘘をついても仕方がない。みんなが気を使っていた事くらい、スズだって理解しているのだ。

 

「でもさ、それ以上に萩村の事を知れたのはよかったと思う」

 

「……」

 

 嬉しそうに笑うタカトシに、スズは何となく顔を背ける。

 

 スズはたまに、タカトシを卑怯だと思う。もし上辺だけの言葉で、子供っぽいなんて思ってないなどと言うような男なら、今のようにいたたまれない気持ちになんかならないのに。

 

「……」

 

 反対に、黙ってしまったスズに対して、タカトシは困惑する。なんだろう。何か変な事を言ってしまっただろうか?

 

 少なくとも、怒鳴るような反応はされていない。ここは、話を逸らした方がよさそうだ。

 

「そういえばさ。これは友達から聞いたんだけど……13階段って知ってる?」

 

「……それくらいは有名だから知ってるわよ。階段が一段だけ増えてるってやつでしょ?」

 

「この学園にも、その話があってさ。ちょっと試してみようか」

 

 少しでも気を紛らわせるつもりで、タカトシは笑って下への階段を降りていく。スズは、顔を引きつらせて廊下へと後ずさりした。

 

「ちょ、ちょっと津田ぁ……」

 

「大丈夫。幽霊なんているわけないんだから。萩村が言ってたことだろ?」

 

「で、でも……」

 

 幽霊なんていない。それを証明するために、タカトシはあえて彼女の目の前でこんな事をしているのだ。その理屈は分かるが、やはりスズにとっては怖いものは怖いのである。

 

「ほら、8、9……」

 

「……」

 

 固唾を飲んで見守るスズ。後ろに下がっている彼女の視界からは、すでに彼の後ろ頭しか見えない。逆に、タカトシは冷静にカウントを続けた。

 

「11、12……13……あれ?」

 

 目を瞬かせるタカトシ。おかしい。確か、この学園の階段は12段だったはず。

 

「つ、津田。い、いま、13って……」

 

 階段の上の廊下から、スズの震えた声が聞こえる。しかしタカトシにも、それに返事をしてやる余裕が無い。

 

 恐る恐る足元を見る。確かに踊り場の床ではない、何かを踏んだような感触が……

 

 タカトシの足元。なんと、そこには――――!!

 

 

 

 

 タカトシが放った悲鳴は、鍵を返し終わって玄関に向かおうとしているシノとアリアにも届いた。

 

「な、なんだ!?」

 

「今の……津田君の声!?」

 

 明らかに只事ではない、彼の悲鳴。2人は顔を見合わせると、声のした方へ駆け足で走っていった。廊下を走ってはいけないが、今は緊急事態だ。

 

 声がした方向は、上の階。急いで階段を駆け上がり、踊り場に出たところで、件のタカトシと会った。

 

「津田、何があった!?」

 

「か、会長……」

 

「大丈夫? いったい、何があったの!?」

 

 アリアが詰問する。彼の青ざめた顔のまま、床に尻餅をついている姿を見れば無理もない。

 

「あ、あの……」

 

 震える手で、目の前を指さすタカトシ。その先を目で追う2人。

 

「あ……」

 

「え……?」

 

 シノとアリアは、目を見開く。そこには、壁に背をつけたまま同じように尻餅をついているランコがいた。ただし、顔はいつもの無表情のまま。おまけに、手にはカメラを持っている。

 

「つ、津田。本当に、何があったんだ?」

 

「は、はい……実は、畑さんが、どういうわけか階段の下に身体を横たえていて、カメラを構えていたんです。俺、それでうっかり畑さんを踏んじゃって……マジでビックリしました」

 

「そうなのか、畑?」

 

「いやあん。私はそういう趣味はありませんよぉ?」

 

 そう言いながらも、少し恥ずかしそうに腰をクネクネさせる新聞部部長。制服の腹に、タカトシの上履きの跡がついているが、気にしてはいないらしい。

 

「畑さん。どうしてそんな事をしてたの?」

 

「いやいや。大した事ではありません。ただ、桜才の怪談話で怖がっている萩村さんを、ぜひローアングルでカメラに収めたいと思い、階段の下でスタンバイしていたところを……」

 

「なぜローアングル……」

 

 頭を抱えるタカトシ。誰もこんなところに人がいるなど思いもしない。完全に不意を突かれた彼は、情けなくも大声で悲鳴をあげてしまったのだ。

 

「下着が見えるようなアングルならば、これは売れると……おっと」

 

 口を押さえるランコだが、もう遅い。タカトシとアリアの手によって彼女は拘束され、シノがカメラを没収した。

 

 

 

 

 そして、悲鳴を聞いた時点で気を失ったスズは、階段の奥の廊下で倒れていた。

 

 彼女が救出されるのは、ランコを職員室に送り届けた後だったという……

 

 

 

 

【期末試験】

 

 

 

 

 試験期間が近づくと、生徒会の仕事も減る。役員とて生徒の1人なので、勉強を疎かにするわけにはいかないのだ。

 

 この日。試験勉強のためにタカトシは生徒会室へ入る。シノたちはほんの僅かに自分のノートを見返す程度で、すぐに勉強らしいことは終わってしまう。

 

 この時点で、自分と彼女らの頭の差はかけ離れている。そう思わざるを得ない。ハッキリとそれを実感したのは、中間考査の結果を知った時からだったが。

 

 だが、めげてもいられない。余裕の表情の面々の中、1人だけ参考書やノートを広げ、勉強に打ち込むタカトシ。

 

 カリカリと、ペンを走らせる音が響く。自然と、周囲は無言になった。

 

「津田」

 

 突然沈黙が破られ、ビクリとタカトシの肩が震える。横を見ると、萩村が手元を覗き込んでいた。

 

「な、なに?」

 

「ここ、計算間違い」

 

「あ、ホントだ」

 

 修正し、勉強を再開する。いつの間にか、またスズに勉強を教わる形になった。

 

「スズちゃんも、勉強教えるの好きだもんね」

 

「そうですね。こうやって何かを教えている方が、よほど有意義です」

 

 アリアがからかうように言った。対して、スズは平静のまま。

 

「ふむ。ならば津田よ。ここらで、少し試験を受けてみるというのはどうだ?」

 

 シノの言葉に、タカトシは顔を上げる。

 

「え。試験は来週ですけど?」

 

「いや、問題は我々が作る。それを受けてみるというのはどうか。今の時点でどれほどの点が取れるのか、挑戦してみようではないか」

 

「……あ」

 

 なるほど、それはいい考えかもしれない。それは自分専用の実力テストという事か。

 

「でも、いいんですか? わざわざそんな事までしてもらうなんて、ちょっと悪いような……」

 

「何を言うんだ津田。私たちは、すでに試験対策を終えている。遠慮をする事はない」

 

 つまり、それは暇だからという事だろうか。そう思ったが、口には出さなかった。

 

 どんな理由があれど、タカトシのために一肌脱いでくれるというのだ。受けない手などない。彼は、ありがとうございますと頭を下げた。

 

 そして、30分後。

 

 タカトシの机の前には、シノが作った試験問題用紙と即席の解答用紙。それを前に、タカトシは仇を見るような目でペンを握っていた。

 

 アリアの手には、ストップウオッチ。隣のスズが、片手を上げる。

 

「準備はいいわね。それじゃ、試験開始」

 

 会計の言葉と同時に、タカトシは問題に取り組み始めた。

 

 

 

 

 そして、期末試験が終了した。

 

 この日は、試験結果が張り出される。タカトシは友人の柳本ケンジと一緒に、職員室の前へと向かう。

 

「どうだった? 試験の調子は」

 

 タカトシが訊くと、ケンジは大げさに身震いする。

 

「マジで自信ねーよ。あんま勉強やってなかったからさ」

 

 そういう会話をすると、なぜか安心してしまう。実際はやっているのだろうが。

 

 生徒会の面々と話していると、当然のように上位に足を運べる者達ばかりなので、なんとなく居心地が悪い。だからといって、怖気づいてばかりもいられないのだが。

 

「900点満点だからな。今回はどれくらい取れてるか……」

 

 実を言うと、今回の試験は割と手ごたえがあったと内心で思っている。ケンジの方は、どう思っているのだろうか。

 

「まあ、俺は平均点さえいけばいいと思ってるけどな」

 

「それはどうかと思うが……」

 

 どうやら、ケンジはそれほど結果に期待をしていないらしい。中間考査でも、上位に彼の名前はなかった。

 

 久しぶりにこの手の話を楽しみつつ、タカトシは生徒が集まっている輪の中に入る。

 

 試験の結果は……

 

 萩村スズ――900点。1位。

 

 轟ネネ――872点。6位。

 

 津田タカトシ――871点。7位。

 

「うっわ、悔しいな……」

 

 タカトシは安堵感半分、悔しさ半分でガックリと肩を落とす。順位が上がった事は嬉しいのだが、まさか1点差とは。

 

 6位の轟という生徒とは1点が明暗を分けた。あと1つでも問題を正解していれば、同着か上の順位に上がっていたというのに。

 

「ま、マジかよ。お前、前回だって8位だったじゃん。どういう勉強したらこんなになるんだよ?」

 

 隣でケンジが仰天しているが、タカトシは返事をする気はない。次はもっと頑張らなきゃという気持ちで、心がいっぱいだったからだ。

 

 そこで、彼の肩をたたく者がいた。顔を向けると、ケンジの逆隣りにスズが立っていた。

 

「よくやったじゃない。あれだけ頑張った甲斐があったってもんでしょ?」

 

「でもさ、萩村は満点じゃないか……」

 

「当然よ。そうそう簡単に追い付かれてたまるもんですか」

 

 絶対的な自信。そして、誰も否定できないその事実。

 

 その姿に、自然と背筋が伸びるタカトシ。

 

「やっぱさ、負けたくないよ」

 

「賢明ね。ここで媚を売るような奴なら、私の背中を追いかける資格はないわよ」

 

「当たり前だろ。このままでいたくないし」

 

 言葉だけならば挑発と反論なのだが、2人の顔に浮かんでいるのは笑顔。追う者と追いつかれまいとする者。お互いがそんな関係であることを認め合った瞬間だった。

 

 そこで、タカトシとスズは2年生の結果を見る。ケンジは補習が決定したため、トボトボと教室に戻っていった。

 

 2年生の結果は……

 

 天草シノ――895点。1位。

 

 七条アリア――890点。2位。

 

「まあ、妥当な点数ね」

 

 と、スズ。

 

「……」

 

 やっぱり、とタカトシは思う。だが、めげる気持ちは彼の中にはもうない。

 

 もっと頑張ろう。今までよりも、もっと上に。

 

 負けたくない。その思いが、彼の中でより強く燃えあがり始めていた。

 

 

 

 

 その心を、傍に立つスズは何となく察していた。

 

 そっと、心の中でタカトシに声をかける。

 

 あんたなら、もっと上に来れるわよ。会長が作った試験の点数、期末よりも上だったじゃない……

 

 

 

 

【学期の終わり】

 

 

 

 

 終業式を終わらせた役員は、生徒会室へと集まっていた。

 

 試験が終わったといっても、気は抜けない。夏休みの宿題があるからだ。しかも参考書数冊分とくれば……

 

「これくらいなら、5日もあれば充分かな」

 

「私はお稽古があるから、1週間かな」

 

「え!?」

 

 シノとアリアの言葉に仰天するタカトシ。

 

 そこで、さらに爆弾発言をスズが。

 

「私はもう終わりました」

 

「うええ! 今日渡されたばかりなのに!?」

 

「うっさいわね。普段から予習でやってたのよ」

 

 迷惑そうに顔を顰めるスズ。その視線に、我に返るタカトシ。

 

「あ、そ、そうだよな。俺だって、それくらいの気持ちで普段から取り組んでないとダメなんだよな」

 

 思った以上に、萩村の背中は遠い。それを改めて実感した。

 

「あら、無理してついてこなくてもいいわよ。私の背中は」

 

「そうは言ってないだろ」

 

 スズの言葉は、タカトシの宣言を思い出させてくれた。ムッとした顔で言い返す。

 

 そんな2人を、どこか嬉しそうに見るシノとアリア。その視線にスズが気付き、不機嫌そうに言う。

 

「なんですか、会長と七条先輩」

 

「いや、大したことじゃないぞ?」

 

「うふふ。だって、スズちゃん嬉しそうだったから」

 

「なっ……!」

 

 そこで、ようやく彼女は自分がどんな表情をしているかに気づいたらしい。顔が真っ赤になり、すっかり取り乱した様子になるスズ。

 

「そ、それよりも。夏休み中は、生徒会は登校日があるんですよね?」

 

 露骨に話を逸らすスズ。これ以上からかうのも可哀想かと思ったシノは、それに付き合ってやる。

 

「そうだ。必要なものは特にないから、手ぶらで構わんぞ。ただし」

 

 そう言って、書類をそれぞれ配るシノ。B5程度の紙をホチキスでまとめた即席の本だ。

 

「この日は各自、予定を開けておいてくれ。海水浴があるから」

 

「海水浴?」

 

 タカトシが訊く。そんなイベントがあったとは。

 

「親睦を深める事を目的とした、生徒会の恒例イベントだ。事務的なものだし、日帰りなので気軽に参加してくれ」

 

「気軽に、ですか?」

 

「うむ」

 

 タカトシとスズは手元の手作りの本をマジマジと眺める。海のしおりという題名に、コミカルなイラスト。さらに水平線の入った海の写真という気合の入った表紙。

 

 まあ、何も言うまい。

 

 

 

 

 そして、終業式から海水浴の日までの間。

 

 タカトシは自室の机に向かい、根性を出して宿題を終わらせるのであった。生徒会のみんなに追いついてみせるという執念じみた気迫は、一緒に暮らしているコトミですら恐れおののかせたほどに。

 

 それ以外にも、タカトシは夏休み中に様々な体験をする事になるのだが……

 

 この場では、まだ語らないでおこう。

 

 

 

 

つづく

 

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