泥棒と運命と 作:そんなことよりひもQ食べたい
「なるほど、こいつはどうにも胸糞わりい話だこって」
その男は静かにタバコに火を付けた。ジッポライターの蓋を開く音、ライターの火が煙草に燃え移る音、そしてライターの蓋が再び閉められる音、その三つの音だけが薄暗い地下室に染み渡った。それから少しの間、ユラユラと揺れるタバコの煙を眺めていたその男が、タバコを口から放し肺に溜まっていた煙を吐き出した。
「何をしたんだ…?」
赤いジャケットに身を包み、ゆっくりと煙草の煙に酔う男に対して、地下室の暗がりから声を掛ける者が一人。薄暗い地下室に同化するかの如く、薄気味悪い雰囲気を持った男、間桐雁夜という男が問いかける。
「見れば分かんだろ?」
その問に対して、赤いジャケットの男はタバコを咥えたまま応える。
「撃ったんだよ、こいつでな」
そう言って男は手に持っていた鉄の塊を見せつけるように持ち上げる。『ワルサーP38』とそう呼ばれる拳銃だ。最新の物と比べれば些か古臭い印象を受けるその拳銃だが、生産数は多くそれなりにポピュラーな物であり信頼性も高いこともあって近年までは多く使用されていた。
「そんな、ただの拳銃で…そんな簡単に…?」
「なにをそんなに悩んでるのかは知らねえが、頭に風穴開ければよっぽどの化けもんでもない限りは死ぬだろう?」
男の言葉は当然だ、相手が人の形をしている者ならば銃で頭を撃てば死ぬ。銃が広まっている現代では子供でも理解出来るような当然の概念に対して、もう一人の男は畏怖を覚える。人は銃で撃てば死ぬ、だが相手は人では無かった。それなのに確かに死んだ。
「それより、そこでくたばってるジジイの事は置いといてだ。サーヴァント『バーサーカー』、召還に応じ参上した、アンタが俺のマスターか?」
英霊、そう呼ばれる存在がいる。英雄が死後、祀り上げられ精霊化した存在の事をそう呼び、またそれをとある特殊な条件のもとで使役する時、彼らの事をサーヴァントと呼ぶ。彼ら英霊は人を越えた存在であり、ちっぽけな人間では立ち向かうことすら困難な存在であった。
それを、雁夜は実感した。これが英霊か、と。
「あ、ああそうだ。俺がお前を召還した」
「そうかい、そんじゃあいっちょよろしく頼むぜ」
赤いジャケットの男はそう言って拳銃を持っていないほうの手を差し出した。シェイクハンズ、握手の催促の催促をしている事に気がついた雁夜は少し驚き躊躇うような仕草をとった後に、その手を取った。
「なあ、アンタはいったい誰なんだ? 俺は確かにバーサーカーを召還しようとした筈だしアンタもそう名乗った、なのにどうもアンタは狂っているようには見えない。それにその恰好と武器はどう見ても近代の物みたいが、現代で英霊として祀り上げられるような人物には心当たりがない。それに……」
「おいおい、質問は一つずつにしてくれよ」
手を取り、そのままの姿勢で質問を捲し立てる雁夜をジャケットの男は窘める。
「あ、ああすまない」
「まあそうだな、取り合えず俺が誰かだったか?」
ジャケットの男はそこで一度言葉を切り、咥えていた煙草を器用に口で弾き飛ばした。
「俺の名は……」
クルクルと回りながら落ちる煙草を目で追いながらゆっくりと手に持った拳銃を持ち上げる。
「ルパン三世、泣く子も黙る大泥棒さ」
その言葉と同時に、ジャケットの男、ルパン三世は引き金を引いた。火薬の爆発音を伴い銃口から飛び出る弾丸は正確に、吸い込まれるように、落ちて行く煙草に向かって進みそれを打ち抜いた。
ここから物語は始まる。これはゼロに至るための物語ではない。これは運命を盗み取る物語だ。
どっかで誰かが思いついているであろうネタの山の中の一つだと思う。
ジャケットの色が赤いのは作者の趣味です。グリーンやら他の色がいい方は自分で脳内補完してくださいな