泥棒と運命と 作:そんなことよりひもQ食べたい
― P.M.14:00 冬木市警察署所長室 ―
「それでICPOの方がわざわざこんな地方までどのようなご用件で?」
『冬木市』、大きく取り上げられるような名産物や産業もなく、自然豊かな事と近年になって経済成長が進んでいる事ぐらいしか取柄のない日本の地方都市、その街の警察署にその男はやって来た。
「まずはこれをご覧ください署長殿」
男は少し草臥れた印象を与えるベージュのトレンチコートの内側から幾つかの資料を取り出し、机の上に広げた。
「これは?」
「これはここ10年の間にとある泥棒が行ったと考えられている窃盗事件の目録です」
「ふむ……」
警察署署長が広げられた書類に目を通す間に、トレンチコートの男は被っていた中折れ帽子の位置を直していた。少しずつ調整をし、納得いった位置に収まった所で署長が資料から顔を上げた。
「それでこれが今回の訪問とどのような関係があると?」
「注目していただきたいのは、事件が起こった年です。気が付かれたかもしれませんが、その目録では二年程前の事件を境にプッツリと事件が途絶えているのです。これは目録が更新されていないのではなく、間違いなくそこから事件が起こってないのです」
「成程、確かに。だが事件が無いのは平和な証拠、我々の仕事がなくなってしまうのは考え物ですが、世間的には全く問題ないのでは?」
「それがそう簡単な話ではないのです」
「と、いうと?」
「私はこれらの事件を起こした犯人の捜査を一任されております。警察側の人間としてこんなことを言うのは間違っているかもしれませんが、何年も犯人を追っているとなんというか腐れ縁というようなものが出来まして。その腐れ縁の私から言わせてもらえばヤツがそう簡単に犯行を止めるということは考えられないのです」
「それはまあなんというか、刑事の勘とでもいうやつですかな?」
「まあそんなところでしょう。それで本題に入りたいのですが、私はヤツがこの二年で潜伏して何か大きな事を企んでいるのではないかと考えております。そこで色々な方面に線を張りヤツの動向を探っておったのです。そこで久方ぶりにヤツの目撃情報があったのが……」
「ここ冬木市、というわけですか」
納得いったという表情で一息着いた署長は、用意していた緑茶に手を付けそれを啜った。
「事情は分かりました。ただ我々も今は立て込んでおりまして、あまり協力は出来そうもありません銭形警部」
「なぜです!? ヤツほどの大泥棒を日本警察は放置しておくつもりですか!?」
トレンチコートの男、銭形幸一は署長の返答に対して少し声を荒げて疑問を投げかけた。
「お、落ち着いて下さい銭形警部。何も全く協力しないとは言ってないでしょう。我々も出来る範囲では協力させていただきますが、はっきり言って今はたかが盗人に人を割いている暇はないのです」
「それはいったいどういう理由で?」
「窃盗よりも重要な案件……殺人ですよ。それも残虐な快楽目的だと思われる事件が今この街では問題となっているのです」
「殺人! それはまあなんというか穏やかではないですな」
銭形幸一は今でこそ一人の泥棒の専任捜査を行っているが、元来は正義の気質が強い彼は殺人と聞いて荒げていた声を抑えた。
「というわけでそちらの捜査に人員と時間を割いているのであまり余裕がないのです」
「成程、そういうことなら仕方がない」
「ただ先程も言いましたが出来る限りは協力させていただきますよ。ああ、ところでその大泥棒とやらはいったい何というヤツなのですか?」
「おっと、私としたことがうっかりしてましたな。これがヤツの写真です」
銭形はコートの内側から一枚の写真を取り出し、広げていた書類の一番上に置いた。その写真には、少し長いモミアゲでスポーツ刈りのような髪型をし、赤いジャケットを着た男が縦長の顔でニッコリ笑っている様子が移っていた。
「もっともヤツは変装の達人なので顔写真はあまり役に立たないかもしれませんな」
「そうですか、こちらの写真はコピーさせて頂いても?」
「勿論構いません。ただ何度も言うようにヤツは変装の達人、あまり写真を信用しないように」
「分かりました、それで肝心のこの男の名前は?」
「ヤツの名は…」
署長の問に対して、銭形は一呼吸を置いて応えた。
「…ルパン三世、神出鬼没の大泥棒です」
泥棒と刑事、その運命は交差する。